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シナリオ詳細

再現性東京1993:答必膃加錬金術(風前の灯火)

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●現代知識チート? もう3回目は終わりましたよ
 1993年。日本では世間は不景気と凶作に喘ぎ、不安要素ばかりが隙間風のように吹き抜ける時代だ。
 そんな時期を再現した1993街は週末の様相を呈し……てはいなかった。米騒動はつい先日撲滅された。小麦に変な反応が起きたがそれも早々に片付いた。蕎麦に異常があると聞くが、どうせ大したこともないだろう。人々は非現実を恐れつつも、非現実になれつつあった。
 それもこれもイレギュラーズのやりたい放題の賜物である。
 さて。
 バブル崩壊とダンスホール時代の終焉の足音が近づくこの時代、実はタピオカがブームだったことは意外と知られていない。概ね1980年終盤に始まり、1993年からナタデココ、カヌレ、パンナコッタと毎年入れ替わりに流行するスイーツに押し流されていったそれは、十数年単位で三度蘇るのだがそれはさておき。
「ヘヘヘ……世間じゃやれタピオカだやれナタデココだアロエだめんどくせえ連中が増えてるけどよぉ、もちもちして歯ごたえがあってそれなり腹持ちが良ければいいんだろ? なら決まってんだよ、ウチはこんにゃくで行く」
 そんな第一次タピオカブームの終焉を知ってか知らずか、暗室の男たちは妙に張り切っていた。ねじ巻きタイプの使い捨てカメラを現像に出して一週間ほどで帰ってきた写真束(L版)をまじまじと見た首領格は、これはイケるとにたりと笑みを浮かべた。
「まさか……こんにゃくを……タピオカに偽装して?!」
「ヘヘ……それだけじゃねえ。ナタデココは寒天に、アロエはゼリーにすり替えちまえば原価率で大儲けって寸法よ」
「流石アニキ! 賢いぜ!」
 この際流行には何でも乗っていく『アニキ』の思い切りの良さに、部下たちは喝采をあげた。
 この部下たち本当にちょろいなあ。だが、問題はこんにゃくの加工である。色や形など、多彩な芸が要求され――『第一次ブームのタピオカはココナツミルクに入った透明な小粒』であるという事実が彼等を大いに悩ませた。
 だが、作ってしまった。彼等は金儲けがしたい一心で、それらの偽装技術を成功させてしまったのである。
 さしもの保守本流のタピオカ屋、ナタデココとアロエを健康飲料として混ぜて売り出そうとした人々などはこの一味の席巻にほとほと困り果てていた。
 こんなとき……不正を暴いてくれるような、あわよくば店の売上に貢献してくれるような人達がいたら……!
 1993街の人達はやけに具体的にその辺に強い人達を求めているのだった。

●時代を考えた必然
「……タピオカはたいやきの材料ゆ」
「やめろパパス、その話題はまずい。ドーナツ専門店に喧嘩を売る気か」
 『ポテサラハーモニア』パパス・デ・エンサルーダ (p3n000172)の口を必死で抑えたイレギュラーズは、依頼人――タピオカココナツミルクを振る舞う寂れた喫茶店の店主から事情を聞いていた。多分この店が寂れたの、タピオカにのっかってコケたとかじゃなくて別の理由あると思うんだけどなあ。
「ウチでは粉からタピオカパールを作ってだしています。それがあいつら、タピオカ以外にもナタデココとアロエにまで手を出して余裕で販路を拡大して……それでも俺は聞いちまったんだ、あいつらが悪事の算段を立てていることに!」
 そういうことらしい。
「あいつらをギャフンと言わせたい……というか、あいつらの不正を掴みたいんだ。何れウチの店は再興を目指すとして」
「何れとかちょっと覚悟が足りなくねえかゆ? 大丈夫かゆ」
「コーヒーと生搾りジュースを飲みに来てくれる固定客はいるんだ。ウチは飲み物に絞っているからまだ被害は少ない」
 パパスの疑問に、店主はにやりと笑みを浮かべた。なら窮地に陥っているのは彼が下手にタピオカに手を出したからでは? とは言わないでおく一同だった。
 どうやら店主の言いがかりではなく、マジ気味に「そう」らしい。
 今回問題になっているタピオカマフィア(仮称)たちの店舗はいい感じに繁盛しており、この店からでも売り込みの声が聞こえるくらいだ。とてもアレな男たちが売り出してもヒトが群がるのは、彼等が味やこだわりではなく情報を口にしているからだと分かるだろう。人は流行ったものに乗っかることで(中略)満足するのである。
「取り敢えず夜の間に警備をくぐり抜けて悪事の証拠を記録に残してくれ。使い捨てカメラは渡しておく」
「うっっわ懐かしいゆ。これ絶対不便なやつゆ」
 使い捨てカメラをなぜパパスが知っているかは兎も角。下手人達も恐らく夜の店内にいるだろうから、証拠を突きつけるなり蹴散らすなりして営業停止に追い込みたいらしい。
「相手が邪魔してきたら遠慮はいらない。ブッ潰してくれたまえ」
「欲望と怒りが入り混じった顔しとるゆ。こえーゆ」

GMコメント

 第3次は終わった。もういないんだ。

●達成条件
 裏タピ屋から証拠物件と証拠写真とかを押収する
 (オプション)そいつらをシメる

●裏タピ屋
 タピオカをこんにゃくで偽造し悪びれぬ人々。
 だがしかし、アレルギー記載がないので健康被害が少なからず出ているらしい。
 店がしまった後、夜間に忍び込めばキッチンを物色できます。
 あわよくば悪巧みの現場にいあわせることができます。
・ボスはめっちゃ統率力があり全体バフかけてきます。頑丈。
・部下(増援込みで20名)は一糸乱れぬ拳銃遣いとタン吐きをかましてきます。色々とBSを持ちます。
・初期7増援最大(ボス込)21名、全部なんとかするにはかなりの戦力が居るので手際よくスニークするか見つかっても超短期決戦をおすすめします。

●重要な備考
『再現性東京:1993街』は『2010街・希望ヶ浜』とは異なり「aPhoneの機能一切を使用できません」。
 撮影する場合は店主から渡された使い捨てカメラに頼ることになります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 再現性東京1993:答必膃加錬金術(風前の灯火)完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年12月27日 22時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エマ(p3p000257)
こそどろ
志屍 志(p3p000416)
天下無双のくノ一
セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
ボディ・ダクレ(p3p008384)
アイのカタチ
エシャメル・コッコ(p3p008572)
魔法少女
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌
白夜 希(p3p009099)
死生の魔女

リプレイ

●悪事千里を行く
「なるほど、人気の食材と似た安いものでごまかして売る、と。よく聞く手ですね、えひっひ」
「偽造に偽装。何処の世界も小悪党は同じことをやる……」
 『こそどろ』エマ(p3p000257)と『銀河の旅人』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)は人間の汚い部分というものをそれなり熟知しているせいか、食品偽装と聞いても大して感情が動かなかった。貧すれば鈍するというが、これはまさにその典型だ。ヤツェクが思い出したケースは流石にアレだが、第三次ブームとスペースオペラの合体事故ならカエルの卵もタピオカになるんだろう。
「コッコッコー♪ またまたコッコの人助けセンサーがビビビッときたな! 今度はいわゆるショクヒンギソーな! ハンザイのなかでもちょー重いやつな!」
 『魔法少女』エシャメル・コッコ(p3p008572)はどうやら1993街にきてからこっち、センサーの感度が尋常でなく上がっているようだった。食品偽装の罪の重さは諸説あるが、再現性東京的には関係法令だけで7つほど引っかかる。総ナメしたらたしかに重罪だ。
「タピオカ!ㅤもちもちしてるよね!ㅤ会長あれ好きだよ! えっ今回の相手のはこんにゃく???」
 『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)は恐らく、タピオカに関する依頼ということで二つ返事で乗ったのだろう。多分第三次ブームに超詳しそう。なのに下手したらこんにゃく食わされそうになって……芸人か? 芸人っぽい旅人(自称)だったなそういや。
「こんにゃくをタピオカのように偽装するとは、一体どれほどの執念を込めれば為せる業なのでしょうか」
「いや、そこまで努力したならもうそういう商品として売れよ。タピオカもナタデココも置いて一人勝ちできるじゃないか」
「……ですよねえ。合法技術として売り込めば儲けられると思うんですが」
 人間、追い詰められると視野が狭くなる。『痛みを背負って』ボディ・ダクレ(p3p008384)と『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)は今回の件に行き当たってまず最初に儲け話を想像した。こんにゃくを粉から加工するのか型取りするのかマジで切ってるのかは兎も角、加工道具の調達だけでコストめっちゃ言ってると思う。
「戦闘せずに証拠を集めて、集団訴訟で全部奪って素寒貧にする。で、よかったっけ?」
「大体そんな感じだ。いいぞ」
「確かに食品偽装はよろしくないですが、そこまでやるんですか……?」
 『白い死神』白夜 希(p3p009099)がヤツェクに確認を取ると、彼は大仰に頷いてみせた。『遺言代筆業』志屍 瑠璃(p3p000416)はそんなやり取りに今ひとつ乗り切れていない。具体的に言うと、この仕事に仕事以上のモチベが足りていなかった。まあ、しゃーない。こんな頭わるい依頼を持ち込まれてりゃ、どこまでやっていいのか、依頼人の言葉は過ぎたものでは、とか思うだろう。
「集団訴訟は脇に置いても、いっぺん痛い目見たほうがいいゆ。わたちは再現性東京の区別がつかねえけど、1993街ではアレルギーを根性や性根で覆せると思ってるフシがあゆ。冗談じゃねえゆ。アレルギーは共に生きる個性ゆ。根性1つでなんとかなるなら死人は出ねえゆ」
「そのとおりな! コッコのセンサーに引っかかる人達も現在進行系で増えてるのな!」
 瑠璃の疑問に応じたのはパパスとコッコだ。『日本』でアレルギーの知見が本格的に広まったのは西暦2000年を過ぎて漸くといったところがある。10年遡れば『食べて治す』根性論で再起不能もしくは死亡に追い込まれた重症患者がごまんと出ている。知らずに『そう』なれば取り返しがつかない。ことは、冗談めかしていても重いのだ。
「仕事の是非は後で考えるとして……お仕事しますか。忍び込むのは得意分野ですからね」
 エマは軽く指を動かし、『それらしい』仕事に臨む自身を覗かせた。本質的にビビりの彼女にとって、戦いを回避できるというのはどれだけ心が楽なことか。
「タピオカに限らず、流行りものを好むのは大抵女性だ。監修として女性が相手をマフィアと知らず携わっていてもおかしくない。そんな相手を落としにいくよ、ボクは」
「おれは裏の人脈でボスに交渉しにいこう。セレマと合わせて侵入すれば、夜に潜入するとき便利だろう」
「見取り図の確保はセレマとやつぇ、やて……ヤチェクのおっちゃんに任せて、コッコたちはショーコガゾーを撮るのな!」
「ナリはアレだけど2人ともデキるヤツゆ。……デキるゆ?」
 セレマとヤツェクは一計ありといった雰囲気で初期潜入を買って出る。コッコとパパスは彼等に信頼を置き、残った仲間達と潜入する手はずである。
「会長は外で潜入する人達の陽動役だね! えっ会長矢面に立つの? 危なくない? 目をつけられない?」
「大丈夫ですよ会長。私達も可能な限り手早くカタをつけますから」
 茄子子がいつもの調子で提案から混乱までを自己完結気味にすすめると、ボディがすかさずフォローに入る。有能。
「ともかく、バカバカしいと思うかもしれんけどこれも再現性東京の平和の為ゆ。これが希望ヶ浜に波及して変なタピオカミルクティー飲まされたらおまえたち嫌ゆ?」
 パパスの言葉が最後の追い打ちになった。イレギュラーズ一同は「そりゃあまあ」、という顔で互いを見た。

●人心散り散りに
「イラッシャイマセェーッ! タピオカもナタデココも全部ここで揃う! 流行に乗り遅れたくないならこの店でキマリだよォー!」
 裏タピ屋(仮称)は今日も早朝から開店し、順調なスタートを切っていた。飲食店は開店後暫くしたら人入りが落ちる。初期にどれだけ人を集められるかでその後の減少曲線を緩められるかが決まってくる……要するに、開店3ヶ月ほど経つというその店はかなり初期客を引っ張り込み、そしてリピーターとすることに成功している。
「ここのタピオカ飲んでしばらくしたら、じんましんが出てアレルギーじゃないかって診断されたんだけど……何かしてない?」
 然るに、情報を買っているタイプのリピーターは『己が自信を持って選んだ店の信頼が揺らいだときに一番多く離れる』。存在感をギフトで消し、唐突に申し出た希の登場は最高にサイアクだった。
「ハハッ、やだなあお客さん。ウチのタピオカだって証拠はあるんですかい? アレルギー? よく知りませんがココナッツや、ウチはアロエもやってんだ。そっちのアレルギーじゃあねえですかい?」
「……へえ? 客の言葉を疑うんだ?」
「あ? なんだコイツ――」
「どちらも少し落ち着き給え」
 上手いこと言いくるめて追い返そう、という雰囲気だった店員は、希が放った唐突な存在感に警戒を強めた。敵意を顕にした、とも言うが……そこに割って入ったのはヤツェク。怪しい商人めかした服装と雰囲気で、店員を雰囲気で丸め込んだ。
「先程君たちの……オーナーか。そちらに話を通している。案内してくれ」
「えっ、あ……」
 流れるような話の進め方にすっかり呑まれた店員は、彼を伴って勝手口への歩いていく。希はその様子を見届けると、ひとまずその場から離れるのだった。視界の端に、今まさに動き出したセレマを捉えながら。
「あなたはこちらのお店の方ですね? よかった、お会いできて」
「えっ……あの、どこかでお会いしましたか?」
 セレマの唐突なアプローチに、女性スタッフは驚きつつもたじろぎ、その目を覗き込む。魔力的な強制力や催眠能力を持つわけではないが、ユニセクシャルな見た目のセレマはそれだけで相手を問わず引き込む魅力がある。
「あなたのことをずっと見ていました。このお店で隠し事をしていませんか?」
「えっ、一体なにを、何の根拠が」
「あなたと秘密や時間を共有することで、どうにかこの気持ちを抑え込みたかったんです……ごめんなさい」
 畳み掛けるように本題に入ったセレマに語るに落ちたスタッフは、魅惑的な話し方と雰囲気を撒き散らしつつそのまま立ち去ろうと試みたセレマを思わず呼び止めてしまっていた。「仕事に興味があるなら、少しは……」とセレマを誘った店員はすっかりメロメロ(死語)であり、2人で店内に消えていくのだった。

「『この写真はアマゾン奥地のタピオカエル。卵を始終生み続けるうえ食感がまさにタピオカ。現地人曰く神の贈り物、原価も非常に安い。ぜひあなた方と商売の手を結びたい。フランスでは蛙肉が高級料理に使われる、これからはタピオカも高級志向です』……だってゆ。あのオッサン中々やるゆ」
 少ししてから、ヤツェクが相手方のボスと交渉、アポを採って帰ってきた経緯を依頼人の喫茶店で聞かされたパパスは、複雑な表情でそう言った。彼の西洋風の見た目と語り口は成程、山師としての才は間違いないらしい。
「セレマが戻ってないけど多分あいつスタッフにロマンス提供してるゆ。次官になったらわたち達も動くゆ」
「見取り図があれば御の字でしたが、ここまで詳しいものを持ち帰るとは思ってませんでしたね」
「せんにゅーはもんだいなさそーな! えっと……、これなんな? カメラな? おもちゃじゃないな?」
 パパスの言葉に、驚きを隠せない様子で瑠璃が返す。その頃、コッコは使い捨てカメラと格闘していた。四苦八苦しつつ、なぜか使い方を熟知している賢い召喚獣「ひよこくん&ひよこちゃん」に任せることを決める。
「時間稼ぎなら会長に任せて!」
「任せましたよ会長。私も尽力しますので」
「……割と本気でお前には期待してゆ。せいぜい上手くやれゆ」
 茄子子の決心を持ち上げるように同意を返したボディを見て、パパスは貶すでもなく褒めそやすでもなく淡々とそう言った。……その成果がどう出るかは、彼女のみぞ知るところだが。


 そしてその夜――セレマが戻らぬままに作戦は決行の時を迎えた。ヤツェクはすでに商談と称してボスのもとへ向かった。ボスとヤツェクを見送り、閉店時間を迎えて暫し、呼び込みから清掃に移った店員はゆらりと現れた影に顔をしかめた。
「夜分遅くに失礼致します……私、この辺りで活動している、タピオカ教の田日(たぴ)と申します。もし宜しかったら、少しお話を聞いて頂きたいのですが……」
「は? タピオカ教? 怪しい勧誘なら間に合ってるよ、帰った帰った」
「いえ、そういわず……短時間で終わりますので……ええ、そこをなんとか」
 店員にしつこく追いすがる田日こと茄子子は、顔を伏せて表情を見せぬようにしつつ、相手の足元を見て逃げようとする先に先回りして追い詰めていく。狂信者じみた態度と得体のしれない先読み(ただの足さばきの観察だが)で追いすがる相手を、店員は振り払えればいいのだろう。だが、仮にも『真っ当な店』の軒先だ。無理強いも出来ない状況が続いていく。

(えひひ、古い錠前ひとつだけだなんて不用心ですねぇ。あちこち入りやすい場所はありますが、ヤツェクさんが応接室にいるならキッチンとミーティング室が一番遠いでしょうか)
 エマは、仲間達を招き入れる形であちこちの鍵を開けてまわり、最後に金庫室へと向かう扉に手をかけた。
 イレギュラーズは、バラバラな動きをしている。だが、それは互いの得意分野あってのことだ。
 コッコは使い魔と召喚獣を駆使した広域調査とカメラ担当。
 ボディは資料検索能力を駆使し、帳簿や納品関係書類、契約書などを探しに事務所へ。
 瑠璃は物質透過を駆使してどこからでも出入りでき、移動できる。余程『ヤバい』場所なら透過できない可能性はあるが、この安普請では可能性は低い。
 そして希は手持ちの能力を駆使して霊障の再現を繰り返している――どれをとっても、その人物にしかできない『オリジナル』。
 エマは? 彼女は――そこに在るだけで全てに優先する。鍵を開け、気配を消し、音を断つ。金庫に向かうなら、その全てが必要になる。
「あーあァ、ボスは商談、あのアマは新入りとしっぽり、ってか。ヌスミなんてこねえっつうのになぁー」
 そして、彼女の視線の先には、金庫室の見張りが2名……1人ならまだいい。2人ときた。
 さて、どう動こうか。エマの思考があら事向けにチリチリと切り替わろうとした瞬間、それは起きた。
 ガタン、と大きな音を立てて棚が動く。掃除機がひとりでに鳴動する。
 見張りの2人が驚きに声を上げようとした瞬間、彼女はそこにいた。……希だ。
「な、」
「『ぽんぽんぺいん』。朝までトイレから出てこなくていいよ」
 希の魔眼に魅入られた相手は即座に股間に手をやりトイレへと駆けていく。彼女に目もくれず仲間を追おうとしたもうひとりは、角の向こうでエマの不意打ちで頭を打たれ、意識を失った。
「なかなか派手にやりましたねぇ、えひひっ」
「……大丈夫。皆うまくやってるって」
 それじゃ、と手を振ってするりと横を抜けていった希を見てから、エマは金庫室へと潜り込んだ。

「……? 今、なにか物音が」
「いいじゃないか。もうお店は終わったんだ、ここでもいいから少しでも一緒に居たい」
 女性スタッフが何事か気づいたのを抑えるように、セレマは彼女の手をとった。今この瞬間にもカメラなどに偽映像を投影し、仲間の潜入を気取られぬよう尽力している。魔力は消費しないが神経は使う。絶え間ない行使はなかなかしんどいだろうに、しかし美少年の矜持はそれらをお首にも出さずスタッフを魅了し続けた。

「今日のコッコはくーるだからな! スネーキング成功な!」
「スニーキングゆ」
 一足早く脱出に成功したコッコに、パパスは最後になって思わず突っ込んだ。彼女はどこにいたかって? 秘密だ。
「会長はずっと外の店員にすがりついていたそうですよ。見事なものです」
「こちらが『例の粉』ですね。色々あったのでついでに奪ってきました」
「ボスは適当に煙に巻いてきたよ。偽のサンプルに目を輝かせていたがね」
 ボディはかばんいっぱいの資料、瑠璃は粉類、ヤツェクはボスとの交渉を終えて正面から出てきた。足元に茄子子が転がっていた(が怪我はしてない)ので回収してきたらしい。
「色々盗んできたついでに、決定的な瞬間を撮ってきましたよ、えひひっ……」
 エマは仲間達に使い捨てカメラと手にした通帳とを持ち上げて現れた。どうやら、色々収穫はあったらしい。

 ……で、この後の顛末だが。
 茄子子とボディが羽衣教会のネットワークを通して健康被害の噂(真実だが)を撒き散らす傍ら、ヤツェクが独自のコネクションで健康被害にあった人々や周辺の関連店舗、マフィア共の名簿をリストアップして裁判をちらつかせ、示談を仲介することをちらつかせマフィア連中を解体に追い込んだ……という。
 で、彼等が路頭に迷ったらどうするのかというと。
「ところで君たち、ボクの領地でそれを売る気はないかい?」
 示談の段になって唐突に現れたセレマが全部もっていったという。マジ今回裏でいろいろやってんなお前。

成否

成功

MVP

エマ(p3p000257)
こそどろ

状態異常

なし

あとがき

 マジで戦闘回避に全ふりするなんて思ってませんでした(こなみ)

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