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シナリオ詳細

ゼッケン「10」は王者の証。或いは、駆けろ草原…。

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ある部族
 ヴィーザル地方のとある平原。
 1年を通して雪に覆われたこの地域だが、冬場のある一時だけ雪の降らない時期がある。
 その時期になると、この平原に暮らす2つの部族では例年、互いの縄張りを決めるための球技試合を行っていた。
 用意するのは1つのゴム球。
 そして、5人の代表者。
 平原の中央から手を使わずにボールを運び、相手の村の正門に設置されたネットへ向けて蹴り込むという競技だ。
 一定の時間、競技を行いより多くの点を得た村が勝者となる。
 点数によって、村の縄張りとなる範囲を決定する……と、そういう決まりとなっていた。
 ヴィーザルは過酷な土地だ。
 村の縄張りが広くなればなるほどに、狩れる獲物や採取できる食物の量も増えてくる。
「縄張り争い、と言っていますが……主目的は、平原の隅にある小さな森の確保でしょうか」
「森に近い場所に集落を作ったから、2つの村の距離がこんなに近いんだね」
 ひそひそと言葉を交わす夜乃 幻(p3p000824)と二下廻・逃夜(p3p008431)。
 鉄柵の隙間から村の広場を眺めながらの会話であった。
 そう、彼女たちは現在、檻の中にいる。

 事の起こりは数時間前。
 任務の帰りに道に迷った幻たちが、偶然平原に辿り着いた頃まで戻る。
 一行が辿り着いたのは、平原の西側に住むアター氏族の村だった。
 アター氏族はカワウソに似た獣種であり、好奇心旺盛で手先が器用という特徴を持つ。
 帰り道を聞くために、村人に声をかけた幻たちは……そのまま、問答無用で捕らわれ檻に入れられた。
「怪しい余所者を捕らえたっす! きっと、こいつらが代表達に毒を盛ったに違いないっす!」
 一行を捕らえたアター氏族の若者……名を“コツメッティ”と言う……は怒りの形相でそう告げた。
 それから数時間……幻たちは今も檻の中に捕らわれている。

●村のしきたり
 檻の中から話を聞いて、判明した事実は以下の通り。
 村の代表に選ばれた5人のうち、4名が謎の病によって倒れた。
 アター氏族の者たちは、それがマルヌ氏族の仕業だと考えた。
 マヌル氏族とは、平原に暮らすもう1つの種族の者たちだ。
 ふさふさとした体毛を誇る、丸っこい猫に似た獣種だと言う。
「つまり、アウローラちゃんたちはマヌル氏族の手先だと思われてるってこと?」
 と、小首を傾げてアウローラ=エレットローネ(p3p007207)は問う。
「代表選手が動けないとなれば、球技試合はマヌル氏族の有利に進むでしょうからね……翌年の生活が関わってくるとなれば、彼らが怒るのも仕方はありませんが」
 濡れ衣です、とどこか呆れたような顔で幻はそう呟いた。
「ねぇ、これからどうするの? 逃げる? 逃げたいなぁ。っていうか、逃げようよ! こいつが余計な事をする前にぃぃぃ!!」
 暴れる手袋を押さえ込みながら、逃夜は言った。
 しかし、そんな逃夜の提案を日向 葵(p3p000366)は「待ってほしいッス」と制止。
 どうやら彼には、何か考えがあるらしい。

 数分後。
 檻の中には、見事なリフティングを披露する葵の姿があった。
 彼の蹴っているボールは、幻がギフトで生みだしたものだ。
「なっ! 大人しくしてるっすよ! っていうか、そのボールは一体どこから……え、あ、いや、おぉ! 見事っす!」
 慌てて止めに来たコツメッティ。
 元来、好奇心旺盛な種族ということもありすぐに葵の妙技に見惚れ、瞳をきらきらさせている。
 コツメッティとて、球技試合の代表選手の1人。
 葵の技巧がいかに優れたものなのか、ひと目見ればすぐに理解できるのだ。
「力強く、そしてしなやか! おぉ、正確で、そして静かな……まさに超次元!!」
 きゃっきゃっとはしゃいで拍手まで送る始末。
 先ほどまでの怒りはどこへ行ったのか。
「話を聞いてりゃ、どうやらサッカーの頭数が足りなくて困ってるそうじゃないっスか。オレたちを檻から出してくれれば、力を貸してやるッスよ」
「ぬぬ!? あ、いや……それは、そう。そうなんっすけど。たしかに、選手としては申し分ないっすけど。でも、仲間に毒を盛った犯人に頼るわけには……」
 困惑するコツメッティ。
 視線はひたすら、弾むボールに向けられているが……。
「アウローラちゃんたちは犯人じゃないんだってば」
 信じて、と。
 上目使いに涙を溜めて、アウローラは告げた。
 胸を押さえ、うぐぐと唸るコツメッティ。
 やがて……。
「わ、わかったっす。そこまで言うなら、代表選抜試験を受けてもらうっす。それに合格できたら、解放してあげるっす」
「話が早くて助かるッス。それで、試験って言うのは当然……」
「当然、武力を競うっす!!」
「……はぁ?」
 サッカーの腕じゃないのか、と疑問に思う葵であった。

 球技試合は過酷を極める。
 何しろお互い、翌年の食い扶持のために必死なのだ。
 さらには審判も存在しない。
 言ってしまえば「手を使わずにボールを運ぶ」以外にルールらしいルールがないのだ。
 当然、ラフプレーも横行している。
 そんな球技試合に参加するためには、そも高い戦闘力が求められるというわけだ。
 ここはヴィーザル。
 過酷な土地。
「蛮族……」
 青い顔をして逃夜はそう囁いた。
「ボクの弟たちと勝負してもらうっす。もしも勝てれば、試合への参加資格を……そしてボクより凄い人には、ついでにこれをあげるっすよ」
 なんて、言って。
 コツメッティが取り出したのは「10」と書かれたゼッケンだった。
 コツメッティ曰く、そのゼッケンは「王」の称号なのだという。

GMコメント

●ミッション
アター氏族との戦いに勝利する。

●ターゲット
・アター氏族戦士(獣種)×4
カワウソの特徴を持つ獣種。
対戦相手4名は、コツメッティの弟らしい。
小柄ながら、獣らしい力強さと器用さを備えている。
非常に好奇心が旺盛。
名前はそれぞれコサメッティ、コシメッティ、コゴメッティ、コムメッティ。

エラシコ:物近単に中ダメージ、連、魅了
 ボールを使用した技。蹴ったボールはまるで生きているかのように、選手の足下に戻ってくる。

レッドカード:物中単に大ダメージ、ショック
 審判はいない。タックル、足かけ、何でもござれ。ヴィーザルは過酷な土地だ。強くなければ生き残れない。審判はいない。



・コツメッティ
アター氏族、代表選手。
好奇心旺盛かつお人好しな獣種の青年。
ポジションはMF。
自分よりも優れた選手がいれば「10」と書かれたゼッケンを贈ってくれるそうだ。
ゼッケン「10」は王者(ペレ)の証。


リバースルー:物中範に0ダメージ
 川の流れを止めることなど、誰にも出来はしないのだ。
 選手たちの間をするりと駆け抜けるドリブル技。

コツメッティスピン
 踊るように相手に一度背を向け、フェイントを仕掛けて抜き去るドリブル技。
 別名、ヴィーザルルーレット。


・マヌル氏族
平原に暮らすもう1つの氏族。
猫に似た顔と、ふさふさした体毛が特徴。
筋力に優れているほか、猫らしい素早さも備えている。
彼らのタックルには【飛】【ブレイク】が、シュートには【ショック】【業炎】が付与されている。


●フィールド
代表選手選抜戦はアター村の隅にある練習場で行われる。
縦40m、横20mほど。
地面はなだらか。土が露出している。
雪溶け直後ということもあり湿っている。
また、練習ようのボール(ゴムや石、金属で出来ている)が多数転がっている。
片付け当番の者が仕事をサボったせいである。


球技試合は村と村の間にある平原で行われる。
縦120m、横70mほどの広さ。
各村の正門にネットが張られている。
手を使わずに相手村までボールを運び、ネットに叩き込めば1点。
制限時間内により多く得点を入れた村の勝利。
得点に応じて、翌年の縄張りが広くなったり狭くなったりする。
審判はいない。

  • ゼッケン「10」は王者の証。或いは、駆けろ草原…。完了
  • GM名病み月
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年12月20日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
※参加確定済み※
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
※参加確定済み※
アウローラ=エレットローネ(p3p007207)
電子の海の精霊
※参加確定済み※
二下廻・逃夜(p3p008431)
ビビり魂
※参加確定済み※

リプレイ

●アタ―氏族の試練
 ヴィーザル地方のとある平原。
 餌場たる森を取り合い2つの種族がにらみ合い、年に一度、縄張り争い……球技による氏族対抗戦を行う過酷な地。
 『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)を始めとするイレギュラーズ4名は、種族の片方……アタ―氏族に捕らわれていた。
 力ずくでの脱出を思案していた一行だが、『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)の起点によって無事釈放された。条件として、アタ―氏族の行う試験を受けることになったのだが……。
「ラフプレー乱発の球技試合とは穏やかじゃないですね。いえ、ヴィーザルにしてはマシな方と思うべきですか」
 奇術師然とした幻は衣服に着いた泥を払って腕を伸ばした。パキパキと小気味の良い音が鳴る。骨の鳴らし過ぎは体に悪いと言う話もあるので、ぜひとも気を付けてほしい。
「こっちっす。練習場に案内するっすよ。そこで、本当にあんたらうちの代表として試合に出るのにふさわしいか、試させてもらうっす」
 と、そう言ったのは小柄な獣種の少年……青年? だった。彼の名はアタ―氏族代表選手、コツメッティ。王者の証であるゼッケン10を背負う球闘士であった。
 そんなコツメッティに続くのは、どことなく顔色の悪い4人の球闘士。コツメッティの弟であり、つい先日何者かに毒を盛られるまでは氏族対抗戦の選手であった。
「さぁ、付いたっすよ。それじゃあ早速」 
 勝負を開始するっすよ、とコツメッティが告げる言葉を遮って、葵は「待った」の一声をかけた。
 きょとん、と目を丸くすコツメッティ、及びその弟たち。
 その様子をみて『電子の海の精霊』アウローラ=エレットローネ(p3p007207)は目をきらきらさせていた。全く同じタイミングで小首をこてんと傾げるコツメッティたちの様子が、非常に愛らしかったのだ。
「おい、ボールが散らばってるぞ。片づけをしろ! 試合やるならそれからだ。練習場のいらんボールは全部場外へ撤去だ! 練習は後片付けもしっかり終えるまでだろうが!」
 烈火のごとく怒る葵にコツメッティたちは身を寄せてビクリと肩を跳ねさせた。
 けれど、葵の言わんとしていることは、彼らにもしっかり理解できたようだ。
「そうっすね。皆、まずはボールを倉庫に運ぶっす!」
 長兄たるコツメッティの号令のもと、きびきびとした動作で弟たちは動き始める。
 その様子は、先輩に怒鳴られ大慌てする後輩部員のようだった。

 そうしていよいよ始まった、アタ―氏族代表選抜戦。
 その中でも予想外に良い動きをしていたのは、涙を流しフィールドを駆ける『ビビり魂』二下廻・逃夜(p3p008431)である。
『はーい。ここでこの逃夜が1発芸しまーす』
「え、き、急に何勝手な事言うのさバカ手袋!?」
 相棒……或いは、運命共同体であるギフト“黒手袋”が、我はここだと言わんばかりに声を張り上げ、逃夜の周囲を飛び回る。
 すかさず不満を口にした逃夜だが、時すでに遅し。コサメッティを始めとするアタ―氏族の注目は、すでに逃夜へ向いていた。
「おちょくってるです!」
「こらしめてやらー」
「まていまてい。あ、しばしまたれぇい!」
「いたいめみせたらーわれぇ、エンコ詰めんかわれぇ」
 口々に罵倒を叫び、逃夜へ向かうアタ―の戦士たち。
「名乗り口上、発動してる!? でも、これってチャンスかも」
 アタ―氏族の注意は逃夜に向いている。
 彼らが得意とするボールを使った攻撃も、肝心のボールが無いなら使用はできない。
 となると、至近距離でのラフプレーにだけ気を配っていれば問題なく……。
「あぁぁぁぁ!!  もし至近距離で足を止めたら……ぜっだいや゛ら゛れ゛る゛!」
 コサメッティのスライディングを跳んで回避し、コシメッティ、コゴメッティによる挟撃さえも急転回ですり抜ける。
 ならばとばかりにコムメッティが全身全霊のタックルを放つが……。
「ぐっ……ぜっだいつ“か”ま“ら”な“い”がらね“っ!!!」
 涙声で絶叫しつつ、逃夜は加速。
 すれ違いざまにコムメッティの鳩尾へ向け、鋭い手刀を打ち込んだ。
 しかし、コムメッティも流石はアタ―氏族の戦士といったところか。
 逃夜はふらりと、頭を押さえてその場に膝を突いたのだった。

 逃夜へ迫る3名のアタ―氏族たち。
 地を這い、飛び跳ね、或いは大きく旋回。
 膝を突いた逃夜へ同時攻撃をしかけるが……。
「おっと、ここでお止まりください。それとも、僕の相手は怖いですか? そんなことありませんよね。ただの力勝負で、僕のような、か弱い女に負けないですよね」
 アタ―氏族たちの前に、蝶の群れを引き攣れた幻が割り込んだ。
 ひらりはらりと舞う蝶が、コサメッティの身体を覆う。時折零れる苦悶の声に、コシメッティ、コゴメッティは驚愕の表情を浮かべて後退。
 奇術『真・蜜吸』。
 幻が得意とする奇術の一つだ。
 さらに、そこまで煽っておいて幻は1歩、2歩と後ろに下がった。仲間を守るべく、コゴメッティ、コシメッティが幻を追うが、それぞれの眼前にも青い蝶が群れを成す。
 そうして2人が、直線状に並んだ瞬間……。
「熱くなってるとこ悪いけど、どうぞアウローラちゃんの歌を聴いてね!」
 遠方より放たれるは、膨大な魔力を束ねた砲だった。
 地面に染みた雪解け水を蒸発させて、魔砲はコゴメッティ、コシメッティを飲み込んだ。
 衝撃に跳ね上げられた小柄な2人が宙を舞う。
「きょ、兄弟ぃぃぃ!! よくも弟たちをっ!!」
 蝶を払って危機を脱したコサメッティが、幻の背後から強烈なタックルを放つ。
「う……あぁっ!」
 ミシ、と背骨の軋む音。
 小柄とはいえ獣は獣。その筋力を少々侮っていたのかもしれない。
 地面を転がる幻へ向け、迫るは戦線に復帰したコムメッティによるスライディングキックであった。
 土砂をまき散らし、迫る速度はなかなかのもの。
 直撃すれば、大怪我を覚悟する必要もあるだろう。
 だが、しかし……。
「まっすぐ突っ込んでくる相手には、こいつをお見舞いしてやるっスよ!」
 幻の頭上を疾駆したのは、銀に輝く彗星だった。
 否、それは葵の得物にして相棒であるサッカーボール。“グローリーミーティアSY”と名付けられたそのボールは、無回転のままコムメッティの顔面に衝突した。
「ぶぁっ!!」
 悲鳴と鼻血を撒きながら、コムメッティがあおむけに地面にひっくり返る。
 
 MFでキャプテンでエースストライカー。それが葵の肩書きだ。。
 雨の日も、雪の日も、風の日も。
 日々繰り返されるトレーニング。体力作りから始まり、柔軟、パス練習、シュート練習といった基礎練習。さらにはリフティング、模擬試合……そうして鍛えた身体と技術は混沌へ誘われた今も失われていない。
「あの男……ボクに匹敵する選手みたいっすね」
 兄弟たちとの試合を睥睨しているコツメッティは、腕組をしたままううんと唸る。
「シュート一つでもバリエーションは色々あるっスよ」
 赤い軌跡を描きながら、葵のボールが右へ左へと戦場を跳ねまわる。
 コサメッティ、コシメッティ、コゴメッティがそれを追うが、彼らと葵の実力差は歴然。ボールを止めきれず、ついにコゴメッティが力尽きフィールドに倒れた。
「これは……逸材かもしれないっすね」
 次いで、コサメッティの背後に迫る幻がそっとその目を両手で覆う。
 次の瞬間、ポンと軽い音と共に花弁が散った。
 寝ぼけたような眼をしたコサメッティは、ふらりふらりと右へ左へ踏鞴を踏んで、近くにいたコシメッティに力いっぱいの蹴りを放った。
「あ、あにき……?」
「んぁー……なんだかとってもいい気分ですよー」
 どうやらコサメッティは混乱状態にあるらしい。
 そして、混乱しているコサメッティもアウローラの放った魔弾に撃たれて倒れた。
 4人の戦士が地に伏して、立っているのはイレギュラーズの戦士だけ。
「弟たちは、基礎練習からやり直しっすね。そして、約束通り皆さんには試合に出ていただくっす!」
 そう告げるコツメッティは、とても楽しそうに笑っていた。 

●VSマヌル氏族
 草原に並ぶ10人の闘志。
 片や、コツメッティと4人のイレギュラーズによって構成されたアタ―氏族チーム。
 もう片方は、ふさふさの体毛を生やした猫獣人によって構成されたマヌル氏族チーム。
「球技で決着か。良い案だよね。特に安全なのが……!」
 両陣営の間にはボールが1つ。
 弱肉強食を至上とする者の多いヴィーザルの地において、勝負の行方を球技に託すアタ―およびマヌル氏族は異質といえば異質であろう。もっとも、ラフプレーが横行しているあたり、やはりヴィーザルの民といった印象ではあるが。
 安全、と逃夜は言ったけれど、戦意を滾らせゴロロと唸るマヌル氏族の様子を見るに、本当に安全かどうかは甚だ怪しい。
 とはいえ、こと此処に及んでは試合に参加する以外に道はなく……。
「行くっすよ。ボクたちはーーーー!!」
「強い!!」
 肩を組んで志気を高めるコツメッティと葵の両名もまた、試合を前に戦意を昂らせているようだった。

 マヌル氏族のオフェンスは、酷く攻撃的かつ直線的なものだった。
 ボールを運ぶ選手にしても、その体躯と突進力を活かした全力疾走でもってゴール目掛けて疾駆するというおよそ作戦とは呼べないような動きである。
 けれど、彼らの脚力と筋力を持ってすれば下手な小細工を弄するよりも、その方が効果的なのだ。
 事実、ディフェンスに回ったアウローラは、縦一列になって突進してくる3選手の迫力に圧倒され、足がすくんでいるようだった。
 いつもの笑顔も、些か強張り気味である。
 けれど、しかし……。
「ここはボクに任せるっすよ! アタ―氏族のエースの実力、お見せするっす!」
 するり、とマヌル氏族たちの間を縫うようにしてコツメッティが駆け抜ける。
 まるで流水のごとき疾走。
 いつの間にか、コツメッティはボールを奪い取っていた。そのことに気づいたマヌル氏族の選手たちが、次々とコツメッティへタックルを慣行する。
 コツメッティは、くるりとターン。
 爪先で蹴り上げたボールが、マヌル氏族選手の頭上を越えていく。
「あっ!?」
「これぞ、コツメッティスピンっす!」
 ボールを奪ったコツメッティが、マヌル氏族の陣地へと駆けていくけれど……。
「いかせねぇ」
 コツメッティの足首目掛け、マヌル選手の蹴りが放たれた。ミシ、と骨の軋む音。技術面に優れる一方、コツメッティの筋力は低い。
 マヌル選手の強攻撃を受けたコツメッティは、苦悶の表情を浮かべて地に伏した。
「ま、まずい……っす」
 よろりと起き上がるコツメッティ。けれど、ダメージが大きいのか上手く走れないでいる。
「ここはオレらに任せるッスよ」
 そんなコツメッティの肩に手を置き、微笑みかけたのは葵であった。
 葵が指示した先には、腕に魔力を凝縮させたアウローラの姿があった。

 頭上へ蹴り上げたボールを追って、マヌルの選手が宙へ舞う。
 くるくると回転しながら高度を上げるその身体に火炎を纏うマヌルの選手。鋭い眼光は、アタ―氏族の村入り口に張られたゴールネットに向いていた。
「とくと見よ! マヌルの熱き魂を!」 
 力強い蹴りが、火炎を纏ったボールを打った。
 火炎の軌跡を描きながら、空から地上へ向けて疾駆するボール。向かう先にはゴールポスト。キーパーはいない。
 猛スピードで解き放たれた爆熱シュートは、そのままゴールネットを穿つ……そのはずだった。
 けれど、しかし……。
「ルールらしいルールがないっていうことは、これも反則にはならないってことだよね!」
 アウローラの放った魔弾が、真横からボールを飲み込んだ。
 魔弾によって業火が消えた。
 威力の削がれたボールはそのまま、明後日の方向に跳んでいく。落ちたボールを拾うべく、マヌル氏族が駆けていく。
「あ、やば……」
 落とす方向を間違えた、と冷や汗を垂らすアウローラ。ボールを追いかけようにも、アウローラではマヌル氏族に追いつけない。
 瞬間的な反応速度ならなかなかのものなのだが……。
 とはいえ、しかし……。
「ここはボクに任せるっす!」
 脚の痛みを堪えながら、コツメッティがフィールドを駆けた。
 痛みに顔を歪め、冷や汗を垂らしながら疾駆する。
 マヌル氏族のタックルを受けよろけるコツメッティ。けれど、意にも介さずただ前へ。
 仲間が作ってくれたチャンスを無駄にするわけにはいかない。
 そんな想いが、彼をボールへと走らせる。
 そして……。
「これを……頼むっす」
 オーバーヘッドの要領で、コツメッティ―はボールをアウローラへと渡す。
 マヌルの選手がぽかんと口を開く中、アウローラは笑みを浮かべて走り出す。
「任せて! アウローラちゃんはアイドルだからね! 期待にはバッチリ応えてみせるよ!」
 なんて、言って。
 魔力を纏った蹴撃で、ボールを幻へとパスしてみせた。

 ボールを保持して駆ける幻へ、2人のマヌル氏族が駆け寄る。
 低い背丈に短い手足と、運動には不向きのようにも見える体躯であるがそこはさすがの獣種といったところだろうか。
 野生味溢れる荒々しい走りでもって、2人の選手が幻へ向けてタックルを慣行。
 敵意に満ちた鋭い視線。
 並みの者ならばその視線を浴びただけでも冷静さを失うだろう。現に逃夜は「止まったらや゛ら゛れ゛る゛!」と、涙目で悲鳴をあげていた。
「ラフプレーの乱発はいただけませんね。ですが、これでも機動力には自信があります」
 そう簡単には捕まりませんよ。
 なんて、言って幻は走る速度を上げた。
 急加速によりターゲットを失ったマヌルの選手2人は、互いに激突。姿勢を崩して、草原に転倒した。
 その頭上を跳び越えて、葵は敵陣……ゴールたる村の正門へ向けて疾駆した。
 復帰した選手2人は、ほんの一瞬の迷いを見せた後、幻へと向けて駆けていくが……。
「お任せしますよ」
 トン、と蹴ったボールはまっすぐ逃夜の足元へと転がった。
 幻以上の速度を誇る逃夜である。
「止めない……足は止めない……!」
 幻と逃夜の速度があれば、あっという間に敵陣営の奥深くにまで辿り着く。

 マヌル氏族のディフェンダーは1人だけ。
 1人は村の入り口正面で、いわゆるゴールキーパーとしての役割を務めている。
「こい! 余所者などにマヌルの門は潜らせん!」
 巧みにパスを回す幻と逃夜を迎え撃つは、ディフェンダーのマヌル選手。傷だらけの顔からは、いかにもな風格が滲んでいた。
 体を張って多くの選手を、そしてシュートを止めて来たのだろう。
 地面を蹴って、弾丸のごとく跳んだマヌルは逃夜に渾身のタックルを決めた。ボールと共に地面を転がる逃夜。
 強くぶつけたのか、その鼻からは鼻血が零れて顔を赤に濡らしていた。
『ボールが奪われてしまうぞ』 
「分かってるよ!」
 地面を転がりながらも、逃夜は目を見開いたボールの行方を追っている。逃げることは、つまり“見る”ということだ。
 相手の動きを観測し、予想し、身体を動かし回避する。
 回避ができるのならば、逆もしかり……。
「えいっ!!」
 DFの足がボールに届く、その寸前……。
 黒い手袋が逃夜の背を強く押す。
 ヘディングの要領で、逃夜はボールを前へと転がす。空ぶったDFの蹴りが逃夜の胸部に突き刺さる。
「か、身体を張ってまでボールを!?」
 逃夜の覚悟に戦慄するDF。
 当の逃夜に身体を張ってまでパスを回す覚悟などはなかったが、図らずもボールは幻の手に渡った。

●託されたゼッケン「10」
 パスは幻から葵へと回る。
 その背には「10」の背番号。
 マヌル氏族との応酬により負傷したコツメッティより渡されたものだ。

『これを……ボクはもう、走れないっす。せめて、想いだけでも、一緒に』
 悔しそうな声と表情。
 震える手で渡されたゼッケン「10」。その重さは計り知れない。
「これでもエースストライカーっスからね。仲間の想いに応えなきゃ、嘘ってもんッスよ!」
 ゴールまでの距離は遠い。
 シュートの体勢に移った葵に、マヌル氏族のGKは訝し気な視線を向けた。
「そんな距離から、届くものか」
 などと言いつつも、GKは腰を落として腕を広げた。野生の勘とも言うべきものか。葵の纏う気迫を浴びて、思わず構えを取ったのだ。
 GKの判断は正しい。
 にやり、と葵の口元には笑みが浮かび……。
「いけぇ!! 決めるっすよ!!」
「守備はアウローラちゃんに任せて、思いっきりやっちゃって!」
 アウローラに支えられながら、コツメッティが叫ぶ。
 村の中から試合の様子を見守っていたアタ―氏族たちも口々に応援の言葉を叫んだ。
 その場にいる全員が見つめる中、葵のシュートが放たれる。
 一弾一殺の威力を秘めた必殺シュート。
 空気を切り裂き、疾駆するそれをGKが受け止める。
 停滞はほんの一瞬……。
「ぐ、ぉぉおおおっ!!」
 GKの身体ごと、ボールはゴールネットに刺さる。

 試合時間一杯、フィールドを駆け回った逃夜は息も絶え絶えといった有様で、地面に横たわっていた。
 マヌル氏族の選手たちも同様だ。疲れた顔をして、けれどどこか晴れ晴れとした表情を浮かべる彼らに向けて幻は問う。
「フェアプレイなサッカーは如何でしたか? 楽しかったんじゃないですか?」

成否

成功

MVP

日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。
この度はシナリオリクエスト、ありがとうございます。
無事にアタ―氏族を勝利に導くことに成功しました。
依頼は成功となります。

また機会があれば別の依頼でお会いしましょう。

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