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シナリオ詳細

再現性東京2010:『』――。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●朝礼
「みなさんに悲しいお知らせがあります――。当学園に通う、桜庭加代(さくらばかよ)さんが亡くなりました」
 学年全員が集められて告げられた、その知らせ――。
 とはいえ、クラスメイトらのほとんどはすでに知っていたため、新たな驚きはないだろう。「ほんとうだったんだ……」。事実を確認するにとどまり、沈痛な面持ちをしている。
 誰か、女子がすすり泣きを始めた。
「葬儀はご家族のみで、ということでした。
加代さんは美化委員として――」
 職員の列に並び、霧島 戒斗は黙って黙祷を捧げている。
 この学園の教師であり、そして、特待生たちの活躍を知る霧島 戒斗はその裏事情を知っている。
 それは、ヨルの仕業だった。
 人の姿をまねる――その精神や生き方すらも真似るヨル『モーファ』。
 彼女の本当の命日は、皆が知っているものよりも数日は早い。
 それでも彼女が亡くなった事実を知ったことができたのは、周囲には救いだっただろう。

●桜庭さんが私を恨んでる!
「いい加減にしてよ。加代はそんな子じゃない!」
 ばちん、とビンタが飛んだ。
「おい、馬鹿。止めろって!」
 泣いている女子生徒と、怒った女子生徒……怒鳴ったのは桜庭加代の親友だった子か。
「どうしたの? 暴力はだめだよ。でも、まずは事情を聞かせてもらおうかな」
『精霊教師』ロト(p3p008480)はやんわりと割って入った。
「だって、先生、死んだ人のことを悪く言うなんて最低……最低だよ」
「違うの、悪く言ったわけじゃないの!
桜庭さんが私を恨んでる……ごめんなさい、ごめんなさい」
「落ちついて。大丈夫だよ。別の場所で話を聞こうか」
 保健室にやってきて、手当てをしたロト。
「はい、あったかいお茶だよ」
「ありがとう、先生」
「すみません……」
「……さっきの話、どうしてそう思ったの?」
「ゆ、夢に出てきたから。私の方を見て、なにか言いたそうにして……たぶん、『呪い』って言ってて……。私、「桜庭さんって暗いよね」って言ったことあるから……それで……」
「そんなのただの夢じゃない。そんなことで加代があんたを呪うっていうの!」
「ほんとうなの! 桜庭さんの夢を見たって子、ほかにもいるんだから……」

●『』
「夢、ですか。いえ……私は……」
『痛みを背負って』ボディ・ダクレ(p3p008384)はしばらくの沈黙を返した。
「ですが、あの戦闘を忘れたことはありません」
 ヨルを倒した、あの感触を、ボディは忘れることはないだろう。その暴力も、その意味も。記憶して背負っていくつもりだった。
「……そうか」
『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)は答えた。
 カフェ・ローレットは今日は晴れている。
、夢を見ていた。花壇の前で何か言いたそうな彼女は……。
 そもそも、どちらの桜庭加代だ?
 討伐した自分たちを恨んでいるのだろうか。
 馬鹿げてる。
「なあ、ロト。……なんて言ってたように思う?」
「そうだね……」
 所詮はただの夢。かすかな言葉。自分に都合の良いように考えてないか。何度も何度も確かめて。
 それでも、そう言っていた気がしていた。
――「助けてあげて」と。

●眠れてるか?
「よお。カイト……アンタ、最近眠れてるか?」
 缶コーヒーを片手に、霧島 戒斗が何気なくカイトに話しかけた。
 アンタは眠れてないみたいだな。そんな言葉をカイトは飲み込んだ。
「夢見が悪ィな」
「そうか」
 話す気があるなら話せ、話す気がないなら話さなくて良い。しばらく互いに校舎の窓から夕焼けを眺める。
「……最近、俺の夢にも桜庭加代がやってきたよ。いや、あれは……ヨルの方かもな」
「……なんて言ってた?」
「聞き取れなかったさ」
「……嘘だな」
「……ああ、嘘だ。協力してくれるか。アンタの力が必要なんだ」

GMコメント

布川です。
墓参りということで、戦闘を入れるかちょっと迷ったのですが、夢枕に立ちたくてちょっと用件を持ち出しました。
事が済んだら思い思いに弔ってあげてください。

●目標
ヨル:ブードゥの回収と討伐

●『お守り』×20程度?
「夢で桜庭を見た」というものたちには共通点があります。
ブードゥー人形がねじ曲がったような奇妙なお守りを所持しています。
「願いが叶う」という触れ込みです。見ようによっては愛嬌がありますが、非常に不気味です。
土産物屋で買ったもののようで、学園の一部で流行っています。かばんにつけていたり、こっそり隠し持っていたり様々です。
授業中にいじっていたというので数件職員室の方にも回収されていたりします。

持ち主の精神を吸いとり、弱らせ、最終段階にまで移行するとヨルとなって襲いかかります。
進行度のまだのものが沢山(上手く見つけ出して回収しましょう)、かなり危なく、ヨルとなって戦闘となりそうなものが2つ、3つ程度。
進行が進んでいなければかなり弱いです。燃やすなど、物理的に処分するだけで対処できます。

ブードゥ(実体化)
 実は持ち主を不幸にする呪いの人形です。
 呪い、不吉などのBS異常を付与し、神秘属性の金切り声をあげるヨルです。

●桜庭加代(さくらばかよ)
「春になったら、たくさん花が咲くといいね」
ヨルの手によって死んだ女子生徒と、
そして、その姿を完璧に真似したモーファというヨルがいました。

イレギュラーズたちは、度々彼女の夢、あるいは夢のような幻に出くわします。
夢に出てくる彼女は、(今は咲いていないはずの)ソメイヨシノの桜の下、花壇の世話をしている様子です。
イレギュラーズたちは夢の中で彼女、あるいは彼女を模したヨルか……に会うことができます。
(何らかの方法や直感的なもので、桜庭なのかヨルなのか分かってもいいです)。
彼女にしろ、それを模したヨルにしろ、言うことや態度は同じです。友好的で、「クラスメイトを助けてあげてほしい」ということです。

「はじめまして? あなたは花が好き?」
「ねぇ、先生、先生ならきっと届くから……みんなのことをよろしくね」

 この事件を解決すれば、おそらくは騒ぎも収まっていき、不思議な現象もなくなるでしょう。
 今の彼女は「悪霊になった」のではないかと言われているけれど、親友は必死に否定しています。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 再現性東京2010:『』――。完了
  • GM名布川
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年12月26日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
※参加確定済み※
シルキィ(p3p008115)
繋ぐ者
ボディ・ダクレ(p3p008384)
アイのカタチ
※参加確定済み※
ロト(p3p008480)
精霊教師
※参加確定済み※
微睡 雷華(p3p009303)
雷刃白狐

リプレイ

●『痛みを背負って』ボディ・ダクレ(p3p008384)はヨルの夢を見るか
――機械(鉄と肉の混ざり物)は夢を見ない。故に、ボディ・ダクレが夢を見ることはない。
 記憶媒体が、情報整理の為に過去を再生するだけだ。
(ならば何故、桜が咲いている。枯れているのに、何故、……何故、そこに貴女がいる)
 ……ヨルだ。
 排除せねばならない。
 体は反射的に動いていた。
 憎んでいるわけではない。
 攻撃はあのときのように、ヨルに突き刺さって――。
「何故……」
『』
(貴女は私が止めを刺したはずなのに、何故、そんな顔をするのですか)
 聞き取れない。記憶の再生は唐突に終わる。そして――。
 鋭い痛み。
 これは受けた痛みではなく、与えた痛みの反作用。
 言葉は、ノイズにまみれて聞こえなかった。波形を解析し、ノイズを均して、埋め合わせるように推測する。重み付けの変数――わずかなバイアス。
 遺志を引き継ぐなどとは違う。
 ただ、やることがあるのなら……ボディはやり遂げるだろう。

「君たちは……」
『精霊教師』ロト(p3p008480)の見る夢の中には。”二人”がいた。
「桜庭さん……モーファさん……」
 見分けは、つかない。
 けれど、ロトがそれぞれの名を呼んだとき。彼女たちはわずかに差を呈した。微笑む彼女と、それから、自分が呼ばれたことに少し驚愕したように――ほんのすこし。目を丸くした彼女。
 数瞬。その差は溶けてなくなる。
(僕が望んだから、理想通りに振る舞ってるのかな……)
 ……いや。
(きっと、優しい君達がクラスメイトの為に出来る事をしてるんだよね)
「うん、安心して、大丈夫……必ず助けるさ」

『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)が見たのは、彼女の後ろ姿。
「……桜庭さ、」
 呼ばれてぴたりと、足を止める。
「まぁお前が『本物』か、『夜妖』の方かは俺にとっちゃ些細な問題だが」
 桜の花びらが水たまりに溜まっている。一歩踏み出せば、水面が揺れて自分の姿が映った。否、水溜りに映った像は戒斗(蒼色の目)。カイトの一歩には追従しない。
「お前はきっと、友達を恨まねぇだろ。そうじゃなきゃ『助けて欲しい』って言わないから」
 どちらにせよそう言ったのだ。――助けてほしいと。
 狂おしく自らを規定する、良心というもの。
「本当に、お前は『いい子』すぎて。俺には目の毒だが。……戒斗の奴にはちょうどいい生徒なのかもな」
 一陣の風が吹き、カイトはもとのように目覚める。
 窓に映ったのはまごうことなき自分の姿。

●追憶
 彼女がいなくても、日常は過ぎていく。
「微睡さーん」
「ん……」
『折れた忠剣』微睡 雷華(p3p009303)頭をもたげる。けれど、その日はいつものうたたねとは少し違う。
 夢に出てきた彼女が何か。
(そう……この夢に出てくる子はクラスメイトの人を心配しているんだ)
「次移動教室だよ? 大丈夫?」
 花壇を前に、ふとクラスメイトが言う。
「あの子、花が好きだったんだ」
(死んじゃってからも友達の事を想っている……。そんな子が誤解されてるのは……嫌だな)
「うん、出来るだけ……頑張ってみる」
「?」

ねぇ、『あなたたちも、桜が好き?』
――私が助けを求めたのは、同じ匂いがしたから?
『桜花絢爛』藤野 蛍(p3p003861)は、”彼女”に声をかけようとして、それから黙り込んだ。
(やりきれない話ね。
世の中ってなんでこう、辛い事で満ちてるのかな……)
 彼女は、もういない。
(でも、だからこそ。その中で苦しまされてる人達を、少しでも救いたいって思うのよ。
せめてこの手が届く限り、穏やかで幸せな日常を――)
 手を伸ばしたところで、目が覚めた。
 寄り添うように『桜花爛漫』桜咲 珠緒(p3p004426)が顔をのぞき込んでいた。珠緒は、そっと、蛍の頬に落ちる髪を直す。
 珠緒も、また同じ光景を見たのだろう。
「珠緒さん」
 目を伏せる珠緒。
「世界は、やさしさばかりではない。そんな痛みを突き付けて来るお話ですが……なればこそ、小さな幸せと、それを守らんとする方を支えたい。
珠緒は、そう思います」
 身体は動く。前に進むための力も、混沌がくれた。
 蛍はきつく手を握り返した。どこかへ行ってしまわないように。

「こんにちは。今日から一緒にお勉強します。シフォリィ・シリア・アルテロンドです。よろしくお願いしますね」
『夜明けの秘劔』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)が微笑む。銀の髪がさあとなびいた。
 美しい所作。生徒たちは思わず言葉を失う。
「困ったことがあったら、何でも相談してくださいね」
 特待生たちの手によって、少しずつ、少しずつ――事態は変わろうとしている。
「そっか。あの子と会ったんだねえ」
『la mano di Dio』シルキィ(p3p008115)はのんびりと教科書を開いた。
「うん。……頑張ってみることにした」
 と、雷華が言った。
 失うのはつらいことだ。……もう取り戻せないものは確かにあるだろう。
 けれど、こぼれ落ちぬように保つことは出来るはずだ。
「何を言ってたかは、分からなかった……けど」
「うん。きっと、――恨むとか、そういうことじゃないんだろうねぇ」
 さいごまで笑っていたあの子の姿が浮かぶ。

●鞄の中身は
「はい。荷物検査な」
 ええー! と不満の声があがる。
「先生、ひどくない!?」
「最新型aPhoneねぇ。ま、授業中は切っとけ」
 携帯ゲーム機だとか、漫画本だとか。――大半は他愛ないものだ。
 表向きには持ち物検査。裏向きには――『隠して逃れようとする奴の間接的な炙り出し』だ。
「おい、もう一個鞄持ってるだろ」
「やばっ」
「カイト先生さあ、後ろに目が付いてるみたい」
「ま、大人を舐めるなってこったな」
 最初にチェックした友達の方にそっとポーチを回していたのを、霊たちがが教えてくれた。
 まだ、”それほどの段階ではない”。
 ならば上手いこと仲間に言いくるめてもらうか。
「はい、終了。カッターは筆箱にしまっとけよ」
(しっかし、祝いと呪いは紙一重っつーのは俺が一番よく分かっちゃいるが――そういう手合を地で行くような夜妖が存在するってのも困りもんだな)
 巧妙に隠された悪意。人形に仕込まれた髪の毛は、まがまがしい怨念を放っていた。
(……そりゃあいつも気にかける訳だわ)

「何を話しているのですか?」
「あ、シフォリィ先生だ! ねぇ、おまじない、知ってる?」
 人形を見たシフォリィは、表情を曇らせ、ちょっとこちらに、と手招きをした。
「実は」と、そっと声を潜めて。
「私も、以前、持っていたのですけれど、嫌なことが立て続けにあって――」
 それは最初はささやかに切り傷が出来るとか、そういう程度のもの。けれどだんだんエスカレートして……。
「え……?」
「詳しくは珠緒さんに聞いてみてください。巫女さんなんだとか。あ、何なら私が預かっておきましょうか」
「えっ、怖い。先生、お願い」
 一人の生徒が、ぎゅっと手のひらに隠す。
「……、聞いてみる」
 無理に……少なくともカイトの話では、今はまだ無理に取り上げるほど進行してはいなさそうだ。秘めた願いを暴くほど野暮ではない。
「それで先生、やっぱり好きな人とかいたの? それで人形に――」
「え、と。いいえ」
 少し頬を赤らめた様子に、きゃあ、と悲鳴が上がる。
「どんな人!? ねぇ、クリスマスはその人と過ごすの?」

「あ、あの、委員長?」
 てきぱきとした頼れる印象がそういう印象になるらしく、蛍はここでも委員長と呼ばれていた。
「ああ。ボクではなくて、珠緒さんに相談があるのかな?」
「う、そう。そうなんだけどね。内容は知られたくないっていうか」
「……好きな人の話?」
 顔を赤らめる。
 蛍には、頼ってしまいたくなるような魅力がある。
(珠緒は、それをすごいことだと思います)
「大丈夫。内容は話さなくてもいいよ。お守りについて、だよね?」
「はい、珠緒も伺った事がございます。願いを叶える人形とその代償について」
 一緒にいたいと願えば閉じ込められたり。金銭を望めば、事故に遭い保険金が……。
 それは、ほんものであるが故に、そういったものであるのだと珠緒は説明する。
 さあと青ざめる生徒。
「大丈夫だよ。こうやって相談してくれたからね」
「はい。お祓いしておきましょうか」
 それらしい手順を行って、土に返す。
(神性など。……でも、それが役に立つのなら)
 教室に置き忘れた人形のいくつかは、ファミリアがそっと回収している。
(すみません)
 けれど、けがをされるのは。誰かが必要以上に傷つくのはいやだった。

●家庭訪問
(次、お休みしてるのは……この子か)
 学校を休んでいる生徒もいる。
 場所は、万が一を考えて皆に伝えておいた。……本当はイケない事だけど。
「気分はどう?」
「あー、すんません。なんか具合悪くて、学校行きたくなくなっちゃったんすよ」
 へらりと笑う男子生徒。おまじないを信じているのか。精霊たちはお見通しらしいが、人形をこっそり持ってるのを知られたくないんだろう。
「あの噂、聞いてるかい?」
「えっと、あの、桜庭さんの――」
「ううん。流行ってる人形のこと」
 生徒は、わずかに視線を引き出しにやった。
(そっか)
 目を離した隙にそっと手のひらに隠す。気にしてもいない……というか、それどころではなさそうだ。
(……ごめんね)
 罪悪感と裏腹、生徒の顔は明るい。
「なんか、先生と話したらすっきりしたっすわ」
「うん。また、来れるようになったら学校に来ると良いよ」
 ふと立ち止まってみる。参考書が広げられている。真面目に勉強してるみたいだ。
「あー、進学、したいなあって。思ったこともあったっすけど、俺には無理だし」
 ロトは立ち止まる。少しだけ、寄り道をしていこう。
「奨学金とか、使える制度はたくさんあるよ。例えばなんだけど――」

●カーテンの奥
「これ」
 カイトに、雷華が数個の人形を差し出した。
「早いな」
「校門で見張ってた……ほんとは、説得できたら良かったけど、帰るみたいだったから」
 雷華は、器用にも人形をスリとったのだった。
「緊急事態だしな」
「それとね」
 ちらりと、雷華は一人の生徒を見る。
(……やっかいだな)
 カイトは、とげとげした感情を察知する。扉のところで珠緒をにらんでいる。声をかけると、女子生徒は嫌そうな顔をした。
「は? 頼んでないんだけど」
「無理にとは言いません。けれど、具合が悪いのなら――」

 シルキィの前で、カーテンが揺れる。
 心配そうにこちらをのぞき込んでいる少女の幻。
「わかってるよお」
 シルキィの声はふわふわと優しい。
 人によっては、恐ろしい、なんて思うのかもしれない。
(「助けてあげてほしい」という思いを、わたしは信じる)
「……だから。安心して」
 風が吹き、カーテンの向こうには誰もいない。
 女子生徒が、保健室を訪れていた。
「そっか、来てくれてありがとうねぇ」
 シルキィの応急手当の腕前は確か。それに何よりも安心する。だから、生徒は養護教諭が好きだ。
「どこが悪いかな?」
「……さいきんねむれなくて。イライラする」
「……うんうん」
「……夢に出てくるんだ。アイツが、全然仲良しってわけでもないのに」
「桜庭さんだね?」
「一回だけあったな。花瓶を倒して、アイツがなおして、謝ろうとしたけどいいからってへらへら笑ってさ……笑って」
 とりとめのない言葉をシルキィはそのままに、受け止めて。
「ほんとうは謝りたかったんだねぇ」
「……」
 彼女は、泣き出して、落ち着いたようだ。
「大丈夫だよ。ベッドで横になって」
 燃え上がる人形を、シルキィは見つめる。
  aPhoneに着信があった。

●進行
 ジャマヲスルモノガイル――。
 カイトのエネミースキャンは、正確に敵を捕らえていた。
 一人の生徒が、消火器を持って引きずっている。
 おそらく、正気ではない。
「……助けてほしい、と。声が聞こえました」
 ボディが一人の生徒に声をかける。
「頼んでない」
「はい、口に出されてはいません」
 ボディはまっすぐに告げる。
「そうだな」
(……桜庭様に呪われていると思うのなら、恐らく内心では怯えている)
「持っている人形は願いを叶えるが同時に不幸を招く。だから祓うために預からせてほしい、のです」
「!」
「……桜庭様は貴女を恨んでいません。それだけは確かです」
 不意に、人形が飛び出した。
 けれども、それよりもボディが素早い。彗星のごとくに体をぶつける。ヨルはけたたましく笑う。――嗤う。
 恍惚の檻に、閉じ込めた。
 匣に刻まれた電子術式が変形し、術式を組み上げる。
(止まらない。彼女が助けてあげてと言ったのなら、私は全霊で遂行をする。彼女を悪霊になど、させない)
 スーパーノヴァ。際限のない加速がそのまま威力となってたたきつけられる。
 蛍が気絶した生徒に肩を貸した。
 ヨルはそれを狙う。
 珠緒のバーストストリームが、ヨルの攻撃を遮った。
 それは呪術。神秘を帯びた血は、雨だれが集うように一つの確かな形を描いていく。苦しみ、うごめき、逃れるように蛍に手を伸ばす。
(……そうだね。こっちでいいよ)
 蛍が誘導するのは、人気のない場所。
 誰もけがをさせたくはない。その思いが。強い心は、前を向いていた。
「遅くなったよ。ごめんね」
 やってきたロト――目の前にはもう一体の実体化した人形。
 華麗に舞うシフォリィが、人形の前に降り立った。
 C・フィエルテ。その剣筋は、愚直なほどにまっすぐに。剣先は幾筋もの中から最適を選び出す。サーブル・ドゥ・プレーヌリュヌは、光に当たってようやくその輪郭を気がつかせるほどに、透き通っている。
 そして。
 P・オートクレール。白銀の刃が一凪にする。
「二体。見つけるのに大分苦労したぜ。これで危ないのはラスト、だな」
 カイトが言った。
 ロトは、仲間の援護を受けて攻勢に打って出る。ソリッド・シナジー。計算され、最適化された動きは式や、呪術を短縮する。
「……まだ、早くなります」
「珠緒も、です」
 それは、理論だ。
 魔方陣が難解な速記を見せた。
 デスペルタル・マルクト。ふわふわと漂っていた精霊たちを身にまとう。
 無限剣:アインソフ=ネツァク。
 眼前を薙ぎ払う一撃。
 ヨルは蛍を狙い、そこを一点突破して逃れる心算だった。
 だが。
 蛍はどかない。
 狂咲。
 最愛の存在の象徴たる桜花が散る。
 攻撃を受け続ける蛍を庇うために、珠緒が選んだのは、”攻撃”。
 信頼しているからこそ、背中を託すことが出来る。
 魔哭剣。
 虚無の剣が生まれた。逃れることは出来ない。
 一体が燃え尽きる。
「……これ以上、うちの生徒を苦しめるなら容赦しないよぉ!」
 シルキィの、双刃陽炎がヨルを切り裂いた。見えない。攻撃。それはシルクの糸。幾重にも折り重なる斬。炎が燃え移って広がる。
「まかせて……」
 雷華は、狙いを定めた。
 困っているのならば。
 助けたいと、そう。
 D・ペネトレイションがヨルを撃ち抜く。
「待たせたな」
 そして、カイトが見下ろしていた。
「なぁ、見ているか。お前が付け込もうとした心の隙間の『源流』を」
 死出を彩る呪われた舞台演出。魔術が生み出す桜の幻想。狂おしく咲き誇る花びら。
 微笑む少女は、確かに言った。
『助けてあげて』と。
「知らないとは言わせねぇ。だからこそ――
覚えて『死ね』よ。お前と桜庭じゃ、天と地程の差があるってもんだ」

●あの子はきっと
「よかった。桜庭さんが教えてくれたんですよ」
 不思議そうな生徒にシフォリィが微笑む。
「夢で、会いましたからね」
「恨んでいたなんてことはありません。ええ珠緒も、そう思いますよ」
 彼女のきもちは、物語に回収されて。そして、正しく。――恨んでたなんて、そういうことにはならなくて。
「なんとかなった」
 花壇の前で、雷華がつぶやく。それが何を意味するのか、彼女は分からなかったけれど。
 そっと手を合わせて祈る雷華の様子は真剣そのもの。
「ありがとう」
 自然と、そんな言葉が出た。
「やぁ」
 簡素な花壇に、すっと花が増えた。
「あ、委員長と、シルキィ先生」
「僅かな縁かもしれないけれど……わたしたちにも弔わせて」
(夢に出てきてまでクラスメイトを助けたいと願うなんて、「桜庭さん」はとても優しい子だったのね)
(キミは、確かに生きていたんだよぉ。だから……せめて、安らかに)
(学園の呪いは祓ったから――これからはどうぞ心安らかに、皆を見守り続けてちょうだい……)
 風が吹き、何故か小さな花びらが吹いた。
「え? これ、桜?」
(最後の挨拶、かな)
 ロトは、苦笑する。
 窓まで舞い上がった桜を、カイトが手にした。
「あばよ」
(……語りあいなんて出来なくて良いから…彼女達の夢を見たい。
桜庭さん、モーファさん。どちらかなんて分からないけど……
目の前の彼女はどんな顔をしているかな)
 忘れるわけがないのだ。

 彼女たちが去って行くのを見てから。ボディが現れた。
『供花』の内、2つを墓前に置く。
(桜庭様とモーファ、それぞれに)
 死んでしまった少女と、生まれた理由を問うた同族へ。
 データは乏しい。
 花の良し悪しは学習していない。けれど、二人が好きであったのなら、捧ぐ価値ぐらいはあるはずだから。
(……こんな時はこう言えば良かったのでしょうか)
「どうか、ゆっくりお眠り下さい」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

それから、彼女のことを夢に見るでしょうか。桜の季節にたまに思い出してあげたら、ちょっと嬉しいと思います。
またご縁がありましたらよろしくお願いします!

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