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シナリオ詳細

ファッションショーがしたい!

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●フェアリーガールズコレクション
 ファッションセンスが人間の価値を決めると言われている異世界【ファッショニア】で行われるファッションの祭典【フェアリーガールズコレクション】通称FGC――。
 この世界ではいわばファッションブランドはスポーツチームであり、ファッションショーはスポーツの祭典の様な物とされている。
 そして前述したFGCはファッショニア中の国々から選りすぐりのブランドが各々の自信作をお披露目する大規模な祭典なのだ。また、このファッションショーにはオーディエンスによる投票制度があり、より素敵だと思った衣装に観客達が投票を行い、勝者を決める。勝ち上がったブランドはさらに多くの衣装を披露することが出来、優勝したとなればその地位は確約されたといっても過言ではない。
 故にファッショニアのデザイナー達と専属モデルたちは軒並みこのコレクションに闘志を燃やしていた。
「はぁ!? 相手チームが来れなくなった!?」
 そしてここはそんなモデルたちの控室。そこに大きな声が響き渡った。
 高級ブランド【freesia】の専属トップモデルのリオだ。艶々とした美しい金髪を揺らして、彼女はスタッフに詰め寄った。
「どういうことよ!」
「そ、それが彼女達を乗せた車が事故を起こしてしまった様で……」
「それは困ったね」
 すらりと長い脚を組み替えて優雅に紅茶を飲んでいたロゼがティーカップから口を話した。
 男性と見紛う長身を活かした男装の麗人ファッションの彼女には熱狂的なファンが多数いる。
「この美しい祭典で不戦勝だなんて。子猫ちゃんたちに合わせる顔がないよ」
「ええ。ましてや決勝戦で相手がおらぬなど、あらぬことを吹聴される可能性すらありまする」
 しゃんと背筋を伸ばしていたチトセがロゼに同調した。ファッショニアの中でも珍しい小柄で黒髪の彼女はミステリアスな雰囲気であらゆる者を魅了していた。【和】の要素を取り入れたファッションをさせたら彼女の右に出る者はいない。
「ねぇ、代わりはいないの!? そうよ、三位の【KAGUYA】は!?」
「き、規定で負けたチームの繰り上げはできません……」
「もう! 頭が固い運営ね!」
「まぁまぁ、リオ。少し落ち着き給えよ、彼に当たり散らしても仕方ないだろう?」
「でも……!」
「ロゼの言う通りだ」
 凛とした声が響き渡る。さっと姿勢を正した彼女達は一斉にそちらを向いた。
 身長は185センチメートル程の長身。真直ぐな姿勢に完璧なキャットウォーク。
 freesiaのオーナーにしてその名をファッショニアで知らぬ者は居ないと言われるファッションデザイナーのシュウだ。服職人としての腕も一流で、これまで数々の衣装を仕立て上げてきた。
「君、リオが済まなかったな」
「い、いえ」
「参加者してくれるブランドがないか、聞いてみる。すまないが決勝の開催を遅らせてもらえるかな」
「き、聞いてみます」
「ありがとう」
 柔らかく笑んだシュウにスタッフは頬を染めながらその場を去った。
「……で? 間に合うんですか? 三流ブランドなんかとやりあうの嫌ですよ私」
 ツンとそっぽを向いたリオにシュウは頬を掻く。
「まぁ、何とかしてみるさ」
 ――決戦の時間まであと四時間の猶予が与えられた。

●ファッションショーがしたい!
「あー! ファッションショーがしたいわぁ!」
 ところ変わってここは境界図書館の一角の休憩スペース。机の上に並べられたファッション雑誌や服飾の本を読んでいた『お裁縫マジック』夕凪 恭介 (p3p000803)が仰け反った。どうやらインプットの為に資料を読み漁っていたら創作意欲が溢れ出したらしい。今すぐ可愛いお洋服を仕立てて可愛い子に着せてファッションショーがしたい。あ、自分は似合わないので着なくてもいい。
「ふふ、恭介様は本当に裁縫がお好きなのですね」
 恭介に付き合って資料を運んでいた『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻 (p3p000824)が微笑んだ。
 裁縫のことについては 幻は恭介程は判らないが綺麗なものを愛でたいという気持ちはよくわかる。
「そうよぉ! だってこんなにかわいい子や美人さんがいるのよ? ねぇ、アイシャちゃんカリブルヌスちゃん」
 可愛い子、と呼ばれて「へ!?」と飛び上がり白兎の耳と頬を真っ赤に染め上げたのは『雀の守護者』アイシャ (p3p008698)である。
「わ、私は可愛くは……! でも、綺麗なお洋服にはちょっと憧れちゃいますね」
 はにかんだアイシャはまだ16歳、綺麗な服や可愛い服にはやはり憧れがあるのだ。
「ああ、どうせ着るなら気に入った物がいい」
 『愛娘』エクスマリア=カリブルヌス (p3p000787)は長い髪で器用に頁を捲っていた。
「なら、してみるかい。ファッションショー」
 そんなファッショントークに花を咲かせ、一種の女子会と化した所に境界案内人朧が近寄ってきた。その言葉にすぐさま恭介が食いついた。
「朧ちゃん! それ本当!?」
「ああ、偶々ファッションショーやる依頼があるんだよ」
 朧曰くそこはファッションがかなり重要視されている世界で、大規模なファッションショーが開催されているらしい。投票で勝ち負けを決めるトーナメント様な物などいう。
「んで、四時間後にその決勝があるそうなんだが……どうやら片方のチームが来れなくなったみたいなんだよ。このままじゃショーに傷が作ってんで今出てくれるモデルとブランドを探してるところらしいぜ。お前さん達程の別嬪さんなら一流モデルにも引けを取らんだろうさ」
 どうだい行ってみるかい?
 朧の問いかけにその場にいた全員は大きく頷いた。

 
 

  

NMコメント

 この度はご指名ありがとうございます。初めましての方は初めまして、白です。
 そうでない方は今回もよろしくお願いします。
 当初の予定より規模が大きくなってしまった感がありますが是非もないよね!
 以下依頼の詳細です。

●目標
 ファッションショーを楽しむ。
 投票制の勝ち負けは在れど、まずはファッションショーを楽しんでください。
 衣装のデザインをするところからでも構いません。
 なお、勝ちを狙いに行く場合相手のブランドはこの世界でかなりの地位と人気を誇りますので、いかに観客の心を掴むかそれなりの工夫がいります。非戦やギフト、アイデアを持ち寄ってみてください。

●舞台
 フェアリーガールズコレクション
 後述の国【ファッショニア】で行われるかなり大規模なファッションショーです。
 通称FGC。数々のブランドが参戦していますが、今回参加していただくのは決勝戦になります。
 衣装制作に必要な生地、道具はすべて揃っておりますのでご安心ください。
 また、モデルたちが着替える更衣室もありますし大きなドレッサーもありますからファッションに合わせて髪型やメイクも変えられます。

 ファッショニア
 名前の通り、ファッションがかなり重要な地位を占める国々です。
 住民はみんなおしゃれを欠かしませんし、服飾技術は義務教育に組み込まれるほどです。
 国中に生地屋さんや手芸屋さん、アパレルショップがあります。

●ルール
 いたってシンプルです、自信作のファッションに身を包んでランウェイを歩く。
 それだけです、アピールタイムがありますので各々の特技を披露してみたりポーズを決めてみたり舞台を演出してみたりしてとことん魅力的に魅せてください。ただし主役は服と自分という事を忘れずに。

●NPC
 相手ブランド【freesia】
 高級ブランドでファッショニアでその名を知らぬ者は居ないとされる超有名ブランドです。
 高級素材に様々なテイストを取り入れたファッションが売りでFGCでも連覇を重ねています。

 シュウ
 ファッショニアでその名は知らないファッションデザイナーです。
 褐色白髪、口元隠れのイケメンです。物腰は穏やかですがファッションに対しては並々ならぬ情熱を燃やしています。後述三人のモデルは彼は直々にスカウトをしてきました。基本は舞台袖で結末を見守っています。

 リオ
 金髪のウエーブのかかったロングヘア―でマイクロスカートやビスチェ。ボディラインがでるようなドレスなどセクシーなファッションを好むモデルです。ファッションに負けぬセクシーなポーズや表情で数々の観客の心を奪います
 気が強くプライドも高いですが、同じくらい努力家です。

 ロゼ
 長身かつ白髪、片目隠れのショートヘアの女性です。長身を活かした男装ファッションを見事に着こなします。
 レディーファーストで気障な性格。ファンの子を子猫ちゃんと呼び、またファンからはロゼ様と呼ばれ熱狂的な支持を受けています。彼女のウインクや投げキッスで毎回心臓発作を起こすファンがいるとかいないとか。

 チトセ
 モデルたちの中で一番の小柄かつ珍しい黒髪のボブカットです。いわゆる和ゴスと呼ばれるジャンルやキモノと呼ばれるファッションをさせたら彼女の右に出る者はいません。
 彼女がランウェイを歩くだけでどこからともなく美しい桜が散り、その瞳に吸い込まれそうになると証言する者が多数おります。
 
●境界案内人
 朧
 一応黒衣なので舞台袖にいますし、指示があれば従ってくれます。
 衣装制作のお手伝い、舞台の演出などもしてくれるかもしれません。

●サンプルプレイング
 プレイングにはどんなファッションを切るのか、誰と対決するのか、どんなアピールをするのかをご記載ください。
 心情マシマシでもこんなんどうよとかでも大丈夫です。

 ファッション:黒を基調とした和を取り入れたファッション
 対戦相手:シュウ
 アピール:ポーズ決めのところで柔らかく笑む
 
 いやぁ……俺は黒衣であって役者なんて柄じゃあないんだがね……。
 まぁ、いいさ。ちょいとやってみるさね。
 

 貴方にとって良き旅路になります様に。それではいってらっしゃい!

  • ファッションショーがしたい!完了
  • NM名
  • 種別リクエスト(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年12月18日 22時10分
  • 参加人数4/4人
  • 相談8日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
※参加確定済み※
夕凪 恭介(p3p000803)
お裁縫マジック
※参加確定済み※
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
※参加確定済み※
アイシャ(p3p008698)
スノウ・ホワイト
※参加確定済み※

リプレイ

「カリブルヌスちゃんのは、冬の夕焼けの妖精ね、アイシャちゃんは雪の妖精テーマで夜乃ちゃんは早着替えで何着か着るのよね?」
 デザイン画を片手に『お裁縫マジック』夕凪 恭介(p3p000803)は生地を見繕う。あちらが高級感なら、こちらはモデルや布の個性や素材の良さを生かした衣装、そしてテーマを統一することで全体での相乗効果を加えようという作戦だった。
「舞のパフォーマンスをするみたいだから……うん、この素材がいいわね。カリブルヌスちゃんこの色はどうかしら」
「……とてもいい」
 オレンジ掛かった赤と白銀は冬の夕暮れのイメージにぴったりだった。その色を見て『愛娘』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は満足げに頷く。衣装を見せつける催しというのは初めてで心が踊る。序に意識していないが髪も踊る。
「アイシャちゃんは歌いながら歩く……なら裾は長すぎなくて、翻る裾が、ライトの光で煌めくような、そんな布……。オーガンジーにラインストーンを散りばめてみましょうか」
「わぁ……すごいっ。まるで魔法みたいです!」
 手際よく生地を縫い合わせ輝く石を散りばめていくその姿はまるで魔法の様。『雀の守護者』アイシャ(p3p008698)はうっとりと眺めていた。
「夜乃ちゃんはどうする? 早着換えなら少し特徴的な縫製になるんだけど」
「そうですね。三着作っていただきたく。一着目はいつも着ている燕尾服を、二着目は椿の花弁を下にしてスカートにした妖精フィッシュテールドレス、三着目は背中の大きく開いた月の銀のような色のマーメードドレス……可能でしょうか」
「任せて頂戴な」
 『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)はランウェイで早着換えをする予定であった。そのオーダーはどれも複雑な物ばかりだが、だからこそ腕が鳴るのだと恭介は袖を捲る。
 ミシンに糸をかけてペダルを踏みこむ。
 かたかたと軽快な音を立てて、時には針に糸を通して直接縫い付ける。
 時計の針はどんどん進んで気づけば本番三十分前。ぎりぎりまで調整を繰り返す。
「ふぅ、これならきっと大丈夫だわ! さ、皆行きましょ!」
 衣装は間に合った。後はランウェイで出来ることを果たすだけ。
 四人は颯爽とランウェイへ向かった。


「少しは期待していたのですが」
 黒を基調としたゴシックに振袖を思わせる豪奢な模様。見事な和ゴシックを着こなしたチトセは袖で口を隠しながらマリアを見た。
「まさかブランド名すら持たぬ方たちとは」
「すまないな、それよりもチトセ、マリアと舞をしてくれないか」
 苦言を呈するチトセを余裕で受け流しマリアは舞の勝負を申し込む。思いもせぬ申し出に目を丸くするチトセにマリアは続けた。
「このファッションを何より尊ぶ世界で頂点に立つということは、この世界で誰よりそれが好きで、美しく魅せたい。そういう人間なのだろう?」
 故に。共に魅せよう。飾られる人形より、舞い踊る姫として。
「……良いでしょう」
 そこまで言われればチトセは断るわけにはいかなかった。
 チトセとマリアは連れ合い伴ってランウェイへ繰り出した。
 異国情緒溢れる少女達の対比が美しく観客達の心を掴む。マリアはスカートに縫い付けたフリルを揺らし観客達に上目遣いでアピールを、儚き花を思わせるその眼差しにぐっと引き込まれる物多数、そしてチトセもまた愛らしくもあり妖艶な魅力で周囲を堕としていた。
「では」
「よろしく頼む」
 互いに扇子を広げる。三味線と琴の旋律に合わせてくるりと舞えば、冬の夕暮れを思わせる袖が艶やかに廻り、紅葉の葉と桜の花弁が舞う。
 互いの最高の服と、自身と、相手を。蹴り落とし合うコロシアムでなく、高め合うステージで。
 しゃらり、と舞が終われば互いに向かい合う様にして一礼を。惜しみない拍手が二人に送られる。
 存分に衣装の魅力を引き立てて、二人は裾へと捌けた。

「まさか私と同じく男装のお嬢さんが相手とはね。心の準備は大丈夫かい?」
「確かに決勝戦の相手とは、荷が重いですね。ですが、僕達ならきっとやりきれますから。僕は皆様を信じております」
 薔薇の花を思わせる深紅の乗馬服をイメージした衣装のロゼはシルクハットを脱いで幻に挨拶をしてきた。幻もまたシルクハットのつばを上げて挨拶を。二人は照明の中へ足を踏み出した。
「きゃあああ! ロゼ様ーーっ!!」
 途端に会場に響く黄色い声、ロゼが子猫ちゃんと呼ぶ彼女の熱狂的ファン達だ。
 そんな彼女達にロゼは慣れた様子でウインク、からの投げキッス。背後に咲き誇る薔薇の花が見える。
 まともにファンサービス受けたファンの一人が心臓の辺りを抑えて蹲った。
 なるほど、ロゼの人気は本物らしいと幻は冷静に分析し口元に微笑みを乗せて指先を振るう。
 ぽんっ、と軽快な音と共にランウェイの周囲にいた女性たちの手には見事な花束が。
 突然のマジックにざわつく観客達を横目にへぇ、とロゼは興味深く幻を見た。
「モデルではなく奇術師だったのかい」
「おや、言ってませんでしたか」
 黒真珠の瞳が閉じられる。長い睫毛の黒と対比するように突然白雪が舞った。
 視界を覆う雪が晴れると赤い椿のフィッシュテールドレスを纏った椿姫。ファッションショーにも早着換えという概念はある。だがそれは一度モデルが捌けて裏で着替えてから再度出てくることをいう。故に、幻のそれは前代未聞の事であった。口笛を吹いてロゼは手を差し出す。
「エスコートは必要かい、プリンセス」
「ありがとうごさいます。けれどごめんなさい。私が手を取るのは一人と決めているのです」
 また雪が舞いスモークが焚かれる。最後に現れ出るは冷たき微笑を乗せた氷の女王。
 大きく開いた背中から蝶の翅を鷹揚にゆっくり動かせば御伽噺に出てくる妖精女王の様だった。

「次はあんたが相手ってわけ」
 薔薇の棘の様に鋭い目でリオはアイシャを見た。
「リオさん、よろしくお願いします」
「……ふん」
 アイシャは雪の華を思わせるデザインのアクセサリーを纏っていた。
 髪型は緩く巻いたサイドアップに、唇には淡いピンクのリップを乗せて瞼にはラメを含んだアイシャドウ。雪の妖精に扮したアイシャはみんなのステージに思いを馳せていていた。
 はじめこそ自分がこんな綺麗な服を着て人前に出るなんてと緊張して震えていたが、素敵な衣装、アピールにやがてその震えは止まっていた。

 対するリオの衣装はマイクロスカートにガーター、編み上げブーツとビスチェを合わせている。彼女のプロポーションの良さをより魅せるコーディネートだ。
 自分を最大に魅せる衣装を熟知し、また衣装に振り回されない為の努力が感じられる。リオがランウェイを歩くたびに甘く蠱惑的な香りがふわりと漂う。その隣で彼女の邪魔をしない様にとアイシャは丁寧に切なく歌い上げる。その唄の名はカレンデュラの子守唄。幻影と慈しみの微笑みと優しき母の子守唄。その唄を聴いた観客達はと癒されていくようだった。
 悲しいことも、忘れたい想いもその痛みが和らぐようで。その代償にアイシャは受け取った痛みに身を貫かれる。それでも慈愛に満ちた微笑みと優しい歌声は変わらない。
 Aラインのドレスと雪の様に煌めくラインストーン、冷たくも優しいその姿は氷の大地に住まう者達の母にも思える。
(……リオさんの痛みが一番強い)
 この国でトップモデルになるにはどれだけの努力と痛みがあったのだろう。
 陰口を叩かれるなんて日常茶飯事、ありもしないことを吹聴されるのも慣れた。
 嫉妬から衣装を傷つけられたことだって一度や二度じゃない。
 それでも、其処に立っているのは。それはきっと。
(ファッションを愛してるんだよね)
「リオさん、たくさんの人を幸せに出来る貴女を心から尊敬します」
「……なに? 急に」
 子守唄に癒されたからか先ほどよりは随分柔らかくなった表情と声にアイシャはまた微笑む。
 きっと気が強くて、曲がったことが嫌いなだけで彼女は悪人ではないのだ。
「すっかりあなたのファンです」
「はぁ……あんた変わってるわね、ってちょっと!」
 アイシャが思わずリオを抱きしめると顔を真っ赤にしてわたわたと抜け出そうとするリオがなんだか妹の様に可愛らしく思えてアイシャはさらに抱きしめる力を込めた。
 観客から微笑ましい目線が飛んできてリオはアイシャの腕を引っ掴むようにステージの裾へ捌けた。

「あなたがデザイナーか、素晴らしい腕だ」
「あら、トップデザイナーの方に褒められるなんて光栄だわ」
 衣装のお披露目が終わればデザイナーが最後に出てきて挨拶を行うのがFGCの伝統だ。シュウは口元を覆い隠した黒のロングコート、裏地の赤がよく映えている。対して恭介は紺色の落ち着いたスーツに白や銀の雪の結晶を模したアクセサリーを合わせている。
 衣装がよく見えるようにランウェイを歩く。基本に忠実なウォーキングをシュウと合わせるようにこなし、端まで行ってゆっくりターン、恭しくお辞儀をしてウインク。シュウは軽く首を傾げて微笑む。『あくまで自身は衣装を目立たせる為のマネキン』そのスタンスはシュウも恭介も変わらなかった。

 結論から言えば決勝戦は引き分けに終わった。
 だが、絶対王者【freesia】に引き分けに終わらせた謎の四人にメディアはこぞって推測を書き殴った。
 中には陰謀だとか、賄賂だとか根も葉もないことを書いた低俗な記事も出たが。
 シュウと恭介が裁縫やデザインの話で大いに盛り上がり過ぎて、帰る予定が大幅にずれ込んだ話だとか。マリアがチトセにあなたの髪は不思議でございますると髪を櫛で梳かれた話だとか、幻とロゼが一緒に紅茶を飲んでいた話だとか、アイシャがあんたは素材いいんだから化粧覚えなさい! とリオにメイクを教え込まれていた話だとか。
 意外と仲良くなっていたことはどの記者も知らない話である。

成否

成功

状態異常

なし

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