PandoraPartyProject

シナリオ詳細

眠れる森に魔性の美女

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「ああ、愛しいフィオーレ……君は今日も美しいね」
 その出で立ちからして高貴な身分を思わせる青年。青年は森の中で1人、ある存在に語りかけていた。
 青年が見つめる先にはそびえ立つ大木があり、根本付近が大きく割れてできたうろの中に、それはすっぽりと収まっていた。
 まるで木のうろのショーケースの中に収まる人形のようであったが――人形のような美女は確かに生気を宿し、花のような微笑みを絶やさず、黙ってただ青年を見つめていた。
 花に覆われた上半身をうろから覗かせる彼女だが、そこから出てくることは決してなかった。その類まれなる美貌も、明らかに人間とは異なる存在であることを意味している。しかし――。
「愛しいフィオーレ……君になら、僕のすべてを捧げても構わない」
 青年はその異様さに気づかず、木のうろに隔たれた状態でなお、一方的に愛をささやき続けた。また、その青年を恨めしそうな表情で、木の影から見つめる男の姿があった。


「何だろうね……どこかで聞いたおとぎ話――俺は旅人から聞いた『かぐや姫』という話を思い出したな」
 しかし、この話の姫は森から出ることはなく、その美貌で男たちを食い物にしている――。
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)はギルドに招集されたイレギュラーズたちに向けて、とある貴族からの依頼の概要について語り出す。
「木のうろの中の生き人形に魅入られてしまったのは、依頼主の息子なんだ――」
 木の中の美女は無論モンスターである。青年は彼女を『フィオーレ』と呼び、幻想の外れの森に頻繁に訪れ、物言わぬ彼女の美しさを愛でていた。
 貴族である青年は財力に物を言わせ、愛しいフィオーレを森から自邸の庭へと植え替えることを試みた。しかし、大木を掘り起こそうとしたところでフィオーレは凶暴化した。庭師や青年を攻撃し、森から出ることを拒否したのだ。
「息子はまあまあ重傷を負ったが、懲りていないらしい。フィオーレに対する思いを断ち切らせるための討伐依頼だね」
 フィオーレに夢中になっているのは青年だけではないとショウは語る。近隣の村の妻帯者、キコリ、浮浪者などもフィオーレの虜となっている。男たちを魅了し操ることで、殺さない程度に精気を吸い続けているのだ。男たちがフィオーレの討伐を邪魔する恐れもあるとショウは言い添えた。
「――男たちは催眠状態のようなものだからな、フィオーレを倒せば正気に戻るはずだ。邪魔をされたくなければ、気絶させるなり縛り上げるなりするといい」
 フィオーレ自身は疑似餌のようなもので、モンスターの本体は樹である。その場に根付いている樹自体は動くことはないが、敵を認識した場合は激しい抵抗に出る。地面から自在にイバラを生やす能力を持ち、それらを攻撃や壁として用いる。また、近隣住民のように疑似餌の色香に惑わされる者がいても不思議ではない。
 ショウは「モンスターとはいえ、植物と似たような部分も大きい」と、敵の弱点を推察した。
「炎系の攻撃を喰らえばひとたまりもないだろう。ひょっとすると、近隣の畑で不作が続いているのも、こいつが原因かもしれないな……くれぐれも頼んだよ」

GMコメント

 今回の相手は【魅了】のBS付き攻撃を扱います。「BSにかかったうちの子も見たい!」という方は、その状況下を想定した反応をプレイングで寄せてもらえれば、不利にならない程度に処理致します。

●成功条件
 『フィオーレ』の撃破。

●地形
 幻想の外れにある日中の森の中。
 フィオーレがその中央に根付いている、比較的開けた場所。フィオーレの樹の大きさは10メートルくらいです。

●敵の情報まとめ
 モンスターの『フィオーレ』とフィオーレに魅了された男たち(妻帯者、キコリ、浮浪者)です。
 フィオーレの攻撃手段は、茨のムチ(物中範)、甘い香り(神中ラ【魅了】)です。植物系のモンスターらしく、炎攻撃に弱いです。
 男たち3人は、【物近単】の攻撃のみです。一般人なので、かなり弱いです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。想定外の事態は絶対に起こりません。

 個性豊かなイレギュラーズの皆さんの参加をお待ちしています。

  • 眠れる森に魔性の美女完了
  • GM名夏雨
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年12月22日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アリシア・アンジェ・ネイリヴォーム(p3p000669)
双世ヲ駆ケル紅蓮ノ戦乙女
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
シャルロット・D・アヴァローナ(p3p002897)
Legend of Asgar
シラス(p3p004421)
超える者
彼者誰(p3p004449)
決別せし過去
毒島 仁郎(p3p004872)
ドクター・チェイス・ゲーム
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
ラクロス・サン・アントワーヌ(p3p009067)
ワルツと共に

リプレイ

 ショウから示された情報を頼りに、イレギュラーズは森の奥へと進んだ。
 樹木が茂る森の中を進んでいくと、その場所だけ木々が生えそろっていない開けた場所に着いた。中央には、他の樹に紛れ群れることもなく、ぽつんとそびえ立つ樹が一本見える。遠目から見たその樹は、すぐに異質なものだと気づいた。
 樹の根本付近の大きなうろの中には、上半身だけを覗かせる美女の存在があった。うろの中にすっぽりと収まった美女、フィオーレは人形のように動かない。離れた場所から様子を窺う8人に気づいていないのか、目を閉じて穏やかな表情を浮かべている。
「私たちは悪い魔女を倒しに来ただけなんだ――」
 他の者がフィオーレを遠巻きに眺めるそばで、『貴方の為の王子様』ラクロス・サン・アントワーヌ(p3p009067)は森の精霊たちに語りかけた。
「森で火事が起きないように、君たちも注意してもらえないかな?」
 アントワーヌの言葉に対し、精霊たちは周囲の枝葉を揺らして答えた。すると、不意にアントワーヌの肩に1匹の小鳥が止まった。つぶらな瞳でアントワーヌを見つめる小鳥は、くちばしに小さな花をくわえていた。小鳥は、その花をアントワーヌが差し出した手の平の上においた。
「ふふふ……幸運のお守りかな」
 森の精霊からの祝福を受け取ったアントワーヌは、表情を綻ばせた。
 森を保護するための結界を張り巡らせた『肉壁バトラー』彼者誰(p3p004449)は、小鳥に向かって語りかけた。
「中途半端で申し訳ありません。無いよりマシな精神ですので、ご勘弁を」
 小鳥は彼者誰に向かってお辞儀をするように体を傾けると、その場から飛び去った。
「準備は済んだかしら?」
 共に飛び去った小鳥を見送り、『オトモダチ』シャルロット・D・アヴァローナ(p3p002897)は改めてフィオーレを観察する。
「美女の体があるのなら、他の姿形は関係ないのかしらね?」
「俺はどうせ魅了されるなら本物の美女がいいねえ」
 ――こんな怪物の相手はゴメンだぜ。とシラス(p3p004421)は心中で付け加えた。
「この手の能力ってホントウに怖いよね。恋愛感情はやっぱり操りやすいのかな?」
 『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)は、別の人間の気配がないか見回しながらつぶやいた。
 見れば見るほど、フィオーレと呼ぼれる彼女はまさに花のように美しい。しかし、『「Concordia」船長』ルチア・アフラニア(p3p006865)は率直な意見を述べた。
 ――魅了される気持ちも分からないではないけれど……。
「ショウの情報によれば、浮気までそそのかしてるそうじゃない? 許せないわね!」
 険しい表情を見せるルチアの傍らで、『紅蓮纏う黒薔薇』アリシア・アンジェ・ネイリヴォーム(p3p000669)は近辺の不作との因果関係についても考えを巡らせていた。
「森に悪影響があっても不思議ではないし、依頼主のためにも排除しなくてはね」
 そう言ってアリシアは先頭を切り、フィオーレに接近しようと踏み出した。
 眠っているように見えるフィオーレの下まで更に近づこうとした瞬間、フィオーレはぱっと目蓋を開いた。すると同時に、フィオーレの背後の茂みから、3人の男たちが飛び出してきた。
「それ以上、彼女に近づくな!」
「お前らも、彼女を森から連れ出すつもりか?!」
「俺たちの女神に手出しはさせない!」
 口々にまくし立てる男たちは、イレギュラーズに対し敵意を向ける。その風体からして、農民、キコリ、浮浪者の男――ショウが話していた、フィオーレに魅了された男たちで間違いない。
 ――何とも傍迷惑な魔樹もあったもんです。
 『かみぶくろせんせー』毒島 仁郎(p3p004872)は、紙袋を被った頭をかきながら心中でつぶやいた。
 ――恋の病はKUSATUの湯でも治らないと聞きますが、今回の件は治療可能なようですねぇ。
 仁郎は男たちを注視しながら、静かに白衣の下の試験管や薬瓶に手をかけた。
「近づくんじゃねえ、ぶっ殺すぞ!!」
 キコリの男は、斧を振り回して8人をけん制する。話し合いは通じないと即判断したシラスは、キコリの背後に回り込んだ。シラスの動きは男たちを圧倒するほどの速さで、シラスの手刀で首筋を打ち据えられたキコリはその場に倒れ込む。
 棍棒を携えておろおろしている農民と浮浪者に対しても、アリシアとイグナートは容赦なく攻撃の手を向ける。その間にも、彼者誰はフィオーレの動きを警戒して構えていたが、疑似餌部分のフィオーレはただ微笑みを浮かべている。しかし、彼者誰がわずかに距離を詰めると、フィオーレの周囲の地面はぼこぼこと盛り上がり、何かがうごめくのがわかった。
 フィオーレは地面からいくつもの茨のツルを生やし、太いツルが樹の周りを覆い始める。ツルの太さや異様に大きく鋭いトゲは、見るからに高い殺傷能力を誇示している。
 生き物のようにうねる無数のツルを操るフィオーレは、その場から動かずに近づくのを止めた彼者誰に視線を注ぐばかりだった。
 ――獲物が近づくのを待っているのでしょうか……まるで食中植物のようですね。
 彼者誰はフィオーレの植物らしい習性を見出した。そのことに同様に気づいたアントワーヌは、フィオーレとの接近戦に身構える。
 アントワーヌの周囲には、前触れもなく黄色の薔薇の花びらが舞い踊り始めた。
 ――悪い魔女を倒すのも王子様の役目だ。しっかり務めを果たすとしよう。
 舞い踊る花びらは、中性的でどこか儚げなアントワーヌの印象を際立たせ、幻想的な光景を演出する。
 仁郎とアリシアは、協力して男たちをフィオーレのいる場所から遠ざけた。引きずるように運ばれたキコリは意識を取り戻しかけたが、仁郎は透かさず試験管の中の怪しげな薬のニオイを嗅がせた。キコリはすぐに気を失い、農民や浮浪者と同様にロープで拘束される。
「さて! ここからはタンゴといきましょうか!」
 その一方で――軽量型のライフルを構えた彼者誰は、フィオーレの注意を引きつけようと銃撃を開始した。フィオーレの幹を狙う彼者誰の攻撃は、本体を守ろうとする茨ごと撃ち抜いていく。
 銃撃によって千切れた茨は、凄まじい速さで再生、成長を繰り返す。フィオーレの樹本体に近づこうとする者を打ち据えようと、いくつもの茨のツルが振り回される。
 完全にイレギュラーズを敵と見なしたフィオーレは、次々と茨のムチを振り向ける。
 彼者誰の援護射撃を受けて、接近戦を展開しようとする者らが続々と突貫した。シラスは振り向けられる一撃をかわしては、体術を駆使してツルを弾き飛ばす。同様に接近するイグナートも茨のムチをものともせず、己の体を武器に果敢に挑む。
 同時に、ルチアとシラスは治癒能力を高める術式を展開し、前線に臨む面々に向けて支援を行き渡らせる。
 ルチアは攻撃に徹する者らの動きを見定めながら、
「フィオーレだかドリュアスだか知らないけれど、分別もなく他者を魅了するのは止めて頂けるかしら?」
 フィオーレとの攻防を制するために、自身の力を存分に発揮した。
 一同はフィオーレのガードを崩そうと奮戦を続けるが、茨は際限なく再生を繰り返す。アリシアは茨のツルを越えて本体を狙おうとするが、その進路は幾重にも阻まれる。
 細剣を捌くアリシアは難なく茨を切り裂いていく。アリシアを絡め取ろうとするフィオーレの茨はどこまでも迫り、一瞬でも隙を見せることは危うい。より集中力を研ぎ澄ますアリシアは、その刃に鮮血の如く赤いオーラを現す。そんな中、アリシアの視界には黄色の花びらが舞い始める。
 フィオーレの注意を引きつけようとするアントワーヌは、薔薇の花をダーツの矢のように放った。複数の薔薇の茎が幹に突き刺さり、電流を帯びて盛大に火花を散らす。
「目障りかい? 悪いけれど君には甘い蜜じゃなく。薔薇の毒がお似合いさ!」
 アントワーヌの一言と共に、フィオーレの茨の動きは鈍くなる。その隙に乗じて、アリシアは茨の間をすり抜ける。アリシアは勢いよく細剣を突き出し、フィオーレの幹に刃を突き立てた。アリシアの刃はフィオーレを内側から食らわんとする魔力を注ぎ込む。フィオーレはその侵食に怯んだように、増々動きを鈍らせた。
「うひひ、植物ならばいくらか効果はあるでしょう――」
 毒入りの薬瓶を手にした仁郎は、被った紙袋の下で妖しく笑う。
 複数の薬瓶が仁郎によって、フィオーレの根本付近に投げつけられる。割れた瓶の中身は、いかにも悪影響を及ぼしそうな毒々しい色合いで、毒が浸透していく地面全体にその影響を広げていった。
 攻撃の機会を逃すまいと、二振りの妖刀を構えるシャルロットは、漆黒のオーラを揺らめかせる。フィオーレへ振り向けたシャルロットの刃は魔性の波動を放ち、食らいつく大顎の形を現す。周囲の茨ごと吹き飛ばすシャルロットの攻撃は、太い幹にバキバキと亀裂を刻んだ。
 激しい攻撃に晒されたフィオーレだったが、再生する茨のスピードを見せつける。シャルロットは大きく身をそらし、わずかな差で身体をかすめる茨からすばやく飛び退いた。
「生温いかしら? まだまだこれからよ――」
 双刀を構え直したシャルロットは、徹底的に魔樹を叩き潰そうとする意気込みを行動で示していく。
 アリシアが放った一撃により、フィオーレに注ぎ込まれた魔力は炎の力を発揮し、フィオーレを内側から蝕んでいく。内側から焼け焦げる幹は、煙を上げながらブスブスと黒ずむ様子を見せた。
 うごめく無数の茨も、次第に今までの勢いが衰えていく。しおれた穂先に、地面を這うばかりの茨が目立つ。しかし、8人は周囲に漂う甘ったるい香りを確かに感じ取っていた。その香りは徐々に濃くなっているようで、皆の意識を曇らせる毒となり、じわじわと戦意に影響を与えていた。
 意識の霧を振り払うように、ルチアは首を振った。
 ――この樹は絶対に、私たちの手で伐採しないと。
 フィオーレの影響力をひしひしと感じながら、改めて妖樹を伐採するために全力を注ぐ意志を固めた。
 焼け焦げてところどころ黒ずみ始めるフィオーレの幹を見据えたイグナートは、攻撃の構えを見せる。瞬時に茨を乗り越えて正面から回り込み、掌底打ちの如く手の平を突き出した。同時に指先、手首を回転させ、幹にえぐり込むような形で攻撃を加える。指先が少しでも埋まれば――。
「吹き飛ばすのにはジュウブン!」
 イグナートは指先から練り上げた気を一気に爆発させ、
「金の気によって弾けろッ!」
 もれ出た衝撃は周囲の茨諸共吹き飛ばすほどだった。手の平の大きさほどの穴が幹を貫通し、木片がばらばらと辺りに散らばった。
 フィオーレに至近距離まで迫っていたイグナートは、むせ返るほどの強烈な甘い匂いを感じる。その匂いによってイグナートの反応は鈍り、茨のムチがイグナートを激しく打ち払った。
 イグナートは受け身を取った状態で立ち上がるが、どこか漫然とした様子でフィオーレを眺めている。そのことに気づいたシャルロットは、イグナートに視線を向けた。目が据
わった状態のイグナートと視線が交わり、シャルロットは不穏な気配を覚える。すると、案の定――。
「彼女はオレのエモノだよ!」
 イグナートはその拳をシャルロットに向けて振り抜いた。機敏に飛び退いたシャルロットに対し、強い相手との対戦に喜びを見出すイグナートは言った。
「でも、キミも強そうだね! オレとハデに殴り合おうよ!」
 明らかに正気ではないイグナートを前にして、シャルロットは素気ない態度で言った。
「残念だけど、お誘いはまた今度にしてくれる?」
 迫るフィオーレの茨を回避しつつ、シャルロットはイグナートを振り切ろうとするが、茨を蹴散らすほどのイグナートの勢いは止まらない。
 シャルロットに加勢しようとする彼者誰は、イグナートの背後へ忍び寄る。フィオーレの香りに魅せられて暴走するイグナートを、彼者誰は羽交い締めにして抑えつける。
「私たちが犠牲者になる前、に――!?」
 ため息をつく間もなく、彼者誰は背負投げの態勢に入ったイグナートによって、体を浮かせる。しかし、彼者誰も懸命にイグナートの精悍な体に組み付き、プロレスのようにイグナートをその場に引き倒してみせた。
「――手早く、片付けるとしましょう……っ」
 体術を得意とするイグナートに翻弄されるも、彼者誰に押さえつけられたイグナートは正気を取り戻す。
「おっと、ごめんね! やっちゃった!」
 一瞬で状況を理解したイグナートは、軽快な動きで起き上がる。その一部始終を見守っていたシラスは、咄嗟にあることを思いつく。
「嗚呼、フィオーレ……なんて綺麗なんだ……」
 何やら恍惚とした表情を浮かべ、フィオーレの方へふらふらと近づくシラス。無防備な状態のシラスを見兼ねたアリシアは、周囲の茨の動きを警戒する。炎を自在に放つ能力で、アントワーヌも極力フィオーレの抵抗を阻害しようと試みた。だが、止める間もなく茨はシラスの体を絡め取り、フィオーレの目の前へとシラスを叩き落とした。その衝撃に皆が息を呑む中、フィオーレは殊更隙だらけに見えるシラスに向けて、無数の茨を突き立てるように集中させた。
 ほんの刹那の間に、シラスは極限の集中状態に至る。シラスにはすべての茨の動きがスローモーションの状態に見え、
「バーカ、効くわけねえだろ」
 即座に反撃に出る構えは整っていた。
 全身全霊をかけて放つシラスの回し蹴りは、魔力の爆発と共に凄絶な破壊力を見せる。目の前の茨と共に地面を吹き飛ばし、激しく幹が砕かれる音が響き渡る。フィオーレの幹はぼろぼろに崩れ、片側は形を保っていないほどだった。
 一瞬の間に放たれたシラスの攻撃。シラスが自身を囮にした状況を見極めつつ、皆はあることに気づく。根本のうろに確かにいたはずのフィオーレの姿は、いつの間にか消えている。そこには人型に浮き上がった木の表面があるのみだった。
「――夏の風神、南よりの熱風をもたらすアウステルよ。汝の吐息をここに」
 後は灰にするのみとばかりに、ルチアは熱風を巻き起こす術を唱える。火事になることを懸念し、ルチアは樹が燃え尽きる最後まで、術の発動に殊更注意を払った。
「このまま灰にするのが最善ね」
 キャンプファイヤーのように燃え盛る樹を眺めながら、シャルロットはつぶやいた。
 まだ気絶したままの男たちに視線を向け、仁郎は「実に迷惑な魔樹でしたね」と一言。
「美しいと思う物は人それぞれ有るとは思うけど――」
 仁郎の反応に対し、アリシアも男たちを眺めながら言った。
「それが周囲に悪影響を出しているなら止めるわよ」
 彼者誰はアリシアの言葉に頷きながら、
「既婚者と恋人持ちはさすがに駄目ですよ、ねえ?」
 皆が燃え盛るフィオーレの最後を見届ける中、「ところで……」と切り出したイグナートは、シャルロットに尋ねる。
「バトルの続きはいつにする? オレはいつでもカンゲイするよ!」
 戦いのことばかり考えているイグナート。戦闘狂のイグナートの言葉を受けて、シャルロットはフィオーレの影響が残っているのかと疑いの目を向けた。
 イグナートとシャルロットが顔を見合わせる一方で、アントワーヌは周囲の木々がざわめく様子にいち早く気づいた。するとその直後、クチバシに花をくわえた多種多様な森の鳥たちが、一斉にイレギュラーズの下へ現れた。鳥たちはイレギュラーズに向けて花吹雪を散らし、森からの祝福を示した。
 シラスは頭上に振った花びらを摘むと、
「森の精霊も、けっこう粋なことするんだな」
「魔女がいなくなって、森もうれしいみたいだね」
 そう言って表情を綻ばせるアントワーヌ。森からの厚意に対し、他の者も暖かな気持ちで満たされた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。まやかしの恋心は、フィオーレ諸共消滅しました。

PAGETOPPAGEBOTTOM