PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Raven Battlecry>砂漠の鼠

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●砂漠の鼠
「……補給の確保、ですか」
「そうだ」
 深夜、他国からラサ首都のネフェルストに向かう道中にて。『パサジール・ルメス』の一隊とラサの若い傭兵が真剣な面持ちで取引を交わしていた。
 ――『大鴉盗賊団』。国家転覆を狙う頭領・コルボがそれらを束ね、盗賊達に「色宝の分け前を与える」と号を発した噂は、各地を悠々しているこのキャラバンの耳にも届いている。
 ラサは独自の情報網を駆使して大鴉盗賊団の『情報』を手に入れていた。曰く、「ネフェルストの倉庫に色宝が集められている。其処を襲えば一気に色宝を手に入れることが出来るだろう」と相手方が目論んでいる。
 つまりラサが連盟するこの連合は、それら盗賊団をネフェルストに『立ち入らせる』事無く周辺地域で“ことごとく迎撃せしめる”。

 ……無論、その防衛作戦において武器、弾薬、その他の必須物資を下支えする端役はいくらかの人が担わなければならない。
「我々は、放浪する者の中でもとかく自衛の手段を持ちませぬ」
「それを承知で頼んでいる。その為に我々が護衛に就くというのだ」
 正直な話、自分達が担える補給規模を考えるに狙われる可能性は薄いと思った。長も「盗賊団の狙いは全く別にある」と考えている。
 ラサやローレットで聡い者らもその思惑に勘付いているだろう。だから、お互いの戦力は『ネフェルストの周辺』か『本命』のどちらかに大きく回される。
「万が一、端役の補給隊に過ぎない我らが襲われた場合は助かる可能性はいくらありますかな」
「…………」
 護衛を申し出たラサの傭兵は「将来有望な新人の集まり」に過ぎなかった。キャラバンの規模の大きくなく、せいぜい有する家畜が多いのが取り柄。襲われる見込みも薄い隊に大きな戦力は回せない。
 ……道理だ。もっと戦力を回して欲しいと不必要に嘆願すれば、他の者達の負担になる。
「意地悪な質問でございましたな。我が民の命、どうか宜しくお願い致します」
「承りました」
 悪党相手に運否天賦というのは、自分達の気性からして凄まじく気分が悪かった。
 ……別に、命が惜しいわけではない。いつ終わるか分からぬから「死んだらハイそれまで」と割り切る事も出来よう。

「長ー。猫にねー、迷い込んだ仔が居るみたいなのー」
 キャラバンの子供――『動物好きの』リトル・ドゥー(p3n000176)が寝ぼけ眼でテントに入り込んできた。
「おぉ、ドゥーよ。ちょうどよかった。お前達若い奴らはこの方達に才を見込まれ、ネフェルストの傭兵団に一時預ける事にした」
「えぇー……」
 露骨に嫌そうな顔をされる。だが、彼女達子供を首都に預ければ、何も思い残す事なく本分に従事出来るというものだ。
 傭兵は人の良さそうな演技でそれに快く付き合い始め、ドゥーがテントに来た理由を詳しく尋ねる事にした。

「……キ、キキキ。泣かせるねぇ! お涙頂戴だねぇ!!!!」
 遠方からそのキャラバンを見ていた数人からなる盗賊の一隊、その隊長と思わしき人物がケタケタと笑い始めた。
 キャラバン達はその耳触りな笑い声に気付かぬ。特別声を押し殺しているわけではあらぬ。それほど遠いのだ。
「兄弟、いつ襲う? 私に良い案がある」「昼様子見た時、子供がいた記憶アル……」
 笑い続ける隊長格を無視して、それぞれが襲撃のタイミングを話し合う。見せしめに誘拐しよう。いや、子供は見逃してやるべきだ。そんな風にバラバラで。
 隊長はひとしきり笑い終えると、自分を無視する部下達に対して癇癪を起こすように棍棒をぶん回した。
「決まってんだろォ!? 禍根を残す道理はねぇ!! 街ェ辿り着く前に貰うもん貰って、ガキ共々殺すしかねェだろォー!!」
 その怒号を聞いて、彼らは溜息を吐いた。ブチ切れた彼に逆らって良い事が起きた試しがない。

●通商破壊・破壊作戦
「うーぼーとって知ってます?」
 書類を並べ立てた『若き情報屋』柳田 龍之介(p3n000020)は、何やら異世界のミリタリーの話をし始めた。彼の話を掻い摘まんでいうとこう、こうだ。
 通商破壊を目的として組まれた部隊。比較的安価で、隠密性を有する。主に戦闘力の無い交易隊を全力で破壊し回って大きな戦いに貢献した。
「今回の相手は、まさしくそれです。ネフェルストの周辺部隊を支援する補給部隊の破壊を専門とする一団が目撃されました」
 龍之介はだだっ広い砂漠の地図を広げ、守るべきキャラバン隊を指し示す。そこからどう地点が絞られるのかと思えば、彼は話をそのまま進め始めた。
「良い話があります。相手は盗賊団の中でも戦闘力は強大ではありません。たった六人の部隊です。……悪い話があります。相手は隠密行動に長けた手合いだと名高いです。しかも、いつ襲ってくるか分かりません。そのやり方からついたあだ名は『砂漠の鼠』」
 依頼を受け負うイレギュラーズは良い顔はしなかった。五人限りのラサ傭兵と共に、二十人以上に及ぶ非戦闘員を護りながら、首都まで物資を守る……?
「……あ、放火され回ってもアウトっす。物資破壊が目的だから、相手からしちゃ最悪それ達成したら早々逃げていいんスから」
 普段イレギュラーズ達がやる事のある破壊作戦を、そっくりそのままやられている気分だ。
「彼らの逸話は多いです。気付いたら後ろにいたとか。何故か襲われる交易隊の警備と内情を熟知していたとか。エネミーサーチを体得していた人物が盗賊の何人に近づかれたのを察知出来なかったとかいう話もあります。当然、それ以外の隠密に関する技術を持っている事は考えられうるでしょう」
 正直、この依頼は迎撃だけに徹すると圧倒的に相手が有利だ。最悪、盗賊一人接近されて適当に火を点け回り、それだけで勝ち逃げされるというケースさえ有り得る。
 自分達がどうにかこの広大な砂漠から、彼らを見つけ出す必要があるだろう。
 その様子を眺めていた龍之介は『こっからは情報屋としてでなく、ボク個人の意見だと聞いて欲しい』と前置きして口を開いた。
「……傭兵さんとかに広まってる隠密や戦闘の技術っつーのに全然詳しくねーっすけど。一人で隠密のなんでもかんでも出来るはずありません、こいつらもそれは同じはずッス。六人なんて少人数、隠密技能を全力で使いこなす手合いでも『絶対的な穴』がどっかにあるはずです」
 人数や実力で上回る皆さんなら、きっと看破してみせるだろう。龍之介はそう懇願する目でイレギュラーズを見つめた。

GMコメント

●目標
・物資の五割以上を守り切る
・『砂漠の鼠』を全滅させる
 両方を満たして下さい。相手も物資の五割以上を破壊するまで逃走しない、もしくは逃走したとしてもイレギュラーズ側の勝ちと扱われます。

●ロケーション
 遊牧民のキャラバン部隊とラサの共に広大な砂漠を横断します。飲食物や寝泊まりする場所は提供されます。
 時間帯は特定出来ませんが、首都に辿り着くまでに必ず仕掛けてくるでしょう。
 交易物資は家畜達が引く形で運ばれています。鈍足。(処理上は物資自体がHPを有します)
 キャラバン隊が行く経路において、砂漠と特徴のない丘陵以外に目立った構築物はありません。

●エネミー
『砂漠の鼠』
種族:獣種
人数;六人
戦闘手段;弓矢、刀剣など。プレイヤー側と同様の戦闘スキルや非戦スキル
補足;戦闘の実力はそこまで高くないと思われる

●NPC
『動物好きの』リトル・ドゥー(p3n000176)
 混沌の少数勢力パサジール・ルメスの子供。ギフトは『動物と簡単な会話出来る』。
 動物が大好き。人と関わるのも大好き。
 ――イレギュラーズさんとまた会えるかなぁ。

  • <Raven Battlecry>砂漠の鼠完了
  • GM名稗田 ケロ子
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年12月19日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
メルナ(p3p002292)
太陽は墜ちた
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
シルヴェストル=ロラン(p3p008123)
デイウォーカー
エステット=ロン=リリエンナ(p3p008270)
高邁のツバサ
メルーナ(p3p008534)
焔獣
オニキス・ハート(p3p008639)
八十八式重火砲型機動魔法少女
玄緯・玄丁(p3p008717)
蔵人

リプレイ

●鼠が塩をひく
「……最近やってきた動物ー?」
「そう! お話と……何があっても大丈夫って、安心させるついでにって事で!」
 イレギュラーズはキャラバン隊と合流し、ここに至るまでの経過や作戦を交わす前にまず真っ先にリトル・ドゥーへそう尋ねた。
 キャラバンの住民達は皆が不可思議そうにするが、ラサの傭兵隊はイレギュラーズの様子に「よもや」と、動揺しながら周囲の動物達に目を走らせる。『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)は、それがなんでもない様子でドゥーに続けた。
「あぁ、人も物資も、動物も無事に着かねばドゥーが悲しむだろう?」
「そっか!! 鼠追い払ってもらう猫の中にね。知らない仔が一匹増えてたの」
 それを聞いて、イレギュラーズや傭兵達は一斉に猫へ注目した。イレギュラーズに甘えてくる猫、警戒する猫、様々だが。その中でドゥーの指さしを受けた途端、栗が弾け飛ぶが如くキャラバンから逃げ出し始めた猫がいた。
「『ファミリアー』!」
 『デイウォーカー』シルヴェストル=ロラン(p3p008123)が皆に報せた。混沌世界には動物を使役し、視・聴・嗅・味・触の五感を共有する術がある。それがファミリアーという技だ。
『彼らの逸話は多いです。気付いたら後ろにいたとか。何故か襲われる交易隊の警備と内情を熟知していたとか――』
 情報屋が言っていた事を思い出す。
「種明かしされれば、なんと他愛もない」
 逃げ去ろうとした猫はシルヴェストルの衝術に怯まされ、なおも逃走しようと姿勢を傾けた。ラダは致し方なしに銃口を向けた。

「――~~!!!!!」
 少し離れた場所にて、丘陵の陰に隠れ潜んでいる砂漠の鼠。
 その真ん中に座っていた隊長格が突然立ち上がって、喉が張り裂けんばかりの金切り声をあげた。
 周囲の部下達はビクリとするも、すぐに彼の安否を確かめ始める。
「兄者、大丈夫か」
「どうしたもこうしたもねェ!! あの野郎、俺の可愛い子猫ちゃんをぶっ殺しやがったァ!!!」
 五感を共有している悪影響が出た。激痛や死の余韻に十数秒藻掻いて、あらん限り声を張り上げている。
「兄者、ファミリアーに拘らずとも勝ちの目は」
 激痛に悶える声が途端に止んで、そう発言した部下の顔面が棍棒で殴り付けられた。
 殴られた部下は無言のまま。折れた奥歯を吐き出す。
「オイ、何しけたツラしてやがんだァ……? お前らは俺の部下だからおとなしく従ってりゃいいんだよォ!」

●大山鳴動して鼠一匹
「ファミリアーの対象になりそうな小動物は隔離しておいた」
 『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート(p3p008639)は、キャラバンで引き連れられた小動物を籠や紐を使って幌馬車に詰め込んだ。それを受けて、こくりと頷く『揺らぐ青の月』メルナ(p3p002292)。
「キャラバンの護衛は、馬車を取り囲む状態を保ちつつそれぞれ他方向を警戒。陽動を警戒して、近くにいる人と二、三人で動く様に」
「あい、分かった。我々は貴女がたに従おう」
「お会い出来て光栄だ。青の十六夜」
 ラサの傭兵達は共同相手のイレギュラーズに反発する事なく、むしろ全面的に支持してくれているようだ。
 守り通さなくちゃ、兄ならきっとやってみせるはず、と考え込んでいたメルナにとってこうも頼られるのは少々面映ゆい気分だったが、とりあえず彼らの士気を削ぐまいと頼り甲斐のある指揮官を演じる事にした。
 そんなメルナを横目にしながらも、そこはお任せしてファミリアーの方を気に掛けるオニキス。
「リトル。数日内にやってきた動物はさっきの猫だけなんだよね?」
「う? う、うん……」
 リトルは目の前で動物が撃たれた事に、少し混乱している様子だった。キャラバンにいる他の子供同様、この様子からして賊に補給隊が狙われている事も知らぬのだろう。
 オニキスは長や傭兵達と顔を見合わせ、そののちに事の次第を子供達にも話した。
「ぼくたち殺されるの……?」
 子供達はそれを聞いて、やたら不安そうにする。大声で泣き出し始める子までいた。
「だいじょうぶだよ! イレギュラーズさん、皆強いってラダさん達が言ってた!!」
 リトルが大声でそういって、子供達を鼓舞する。その言葉に同調するように頷くオニキス。
「ん、問題ない。慌てず、騒がず、私から離れないで。大丈夫。私は強い」
 砂漠の鼠達が人質作戦を取ろうとしていたら面倒だ。オニキスは、自分から離れないようにと彼らに教え込んだ。
「輸送隊を護るようにして円陣を組むのデス。出来る限りハンドサインを。わらわは――」
 自分の名と一緒にキャラバンの住民へ作戦を教え込む『幻想の冒険者』エステット=ロン=リリエンナ(p3p008270)。
 自分は一番未熟だから、脚を引っ張らないようにしないといけない。そう心掛けている様子である。
 その様子を少し微笑ましく思う『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)は、補足するようにキャラバンの者達に作戦を説いた。
「敵に気づいたことを悟られないよう、敵を発見した際のハンドサインや口笛の出し方などの符丁を事前に決めておきます」
「わかった。ところで、あのあんちゃん達が見当たらないようだが?」
「あぁ、彼らは……」

 砂漠の鼠の隊長格は、また死の苦痛に悶絶して叫び声をあげていた。
「リスキルは御法度じゃねぇかよ……オイィ……?!」
「こういう時は先行隊には大体何もないんだろう、とは思っていたけど」
 鳥を斬り落としたのち、頭を抱えて始めた名も知らぬ獣種をみやる『蔵人』玄緯・玄丁(p3p008717)。
 ラダのハイセンスを頼りにキャラバンの外へ討って出てみれば、討伐対象を見つけたからには、もはや先手を打たぬわけにはいくまい。
「キミが砂漠の鼠だね?」
「……だったらなんだっつーんだよォ」
 獣種は玄丁相手に棍棒を振り回した。
 玄丁は咄嗟に自分の構えていた此夜煌の背で殴打を遮り、力比べの状態に持っていく。
「弱いって聞いてたけど、案外やるもんだね」
 おそらく彼を基点に倍の数で上回ればイレギュラーズ側は圧倒されただろう。だがしかし。
「ちぃい!! あいつら何処行きやがったんだよォ!?」
 砂漠の鼠と思われる獣種は周囲を見渡してもこやつしかおらぬ。玄丁が力比べで打ち勝ち、裏拳の形でバスタースマイトVを顔面に打ち込む。
「まずは一人殺す、逃がさない、五体満足で帰しはしない」
「てん、めェ……」
 鋭い眼つきがギロリと玄丁を睨んだ。憤怒に囚われた獣種は彼に全力で攻撃を加えるべく、組み掛かるようにして飛びかかった。
 体勢を崩された玄丁の顔面に猛烈な勢いで鉄槌打ちが一打、二打と入る。三打目を入れようとしたところで、銃声が鳴り響いて獣種の体がよろめいた。
「……オイィ? まだ補給隊の誰も殺してねぇんだぜェ。砂漠の鼠と恐れられた俺がこんな呆気ねェ終わり方――」
 言い終わらぬ内に再び鳴り響く銃声。それが頭蓋を横から撃ち抜き、それが彼の致命傷となって玄丁を組み敷いた状態から崩れ落ちた。
「助かったよ、ラダさん」
 裂傷を負った額を押さえながら立ち上がる玄丁。ラダは仲間が無事である事を確認した後に、改めて周囲に自分達以外何者も居ない事を確認する。直後に二人とも、ハッとしたようにキャラバンの方へ向き直った。
「まさか……」

●二鼠藤を噛む
 日が沈みきり、いよいよ光源がなければマトモに周囲が見えて来なくなる頃合い。
「今日はここで野営と致しましょう。馬車も四六時中歩かせるわけにはいきません」
 キャラバンの皆は野営の準備を整えた。襲撃が分かっている以上は「どうぞ襲って下さい」と言っているようなものだが、イレギュラーズも傭兵も睡眠が必要な以上は二十四時間全員で防備を固めているわけにもいかぬ。
 メリルナートは、簡易飛行で偵察を始めながらそれ以外の人員には休息を勧めた。
「わたくし達が周囲を見張っておきましょう」
「リトルね!! メリルナートさんのお歌聞きたい! 歌姫なんだよね!?」
 何やら、オニキスの傍にいたドゥーがそのようにせがんだ。何処で聞き及んだやら。流浪の民は耳聡い。「飛ぶ姿も妖精さんみたい!」だとかなんとか。
「……こほん。では、ひとまずわたくしの十八番からご披露しましょうかー」
「悪いが」
 『焔獣』メルーナ(p3p008534)がそれを手で制した。その後すぐにハンドサインを作る。
『敵を探知した』
 その合図を受けたイレギュラーズと傭兵達に緊張が走る。

《兄弟、敵は我らを感知しただろう》
 何かしらの術で仲間と意思疎通を続けている砂漠の鼠の一人。名はロバーツ。過去は何処ぞに仕える隠密であったが、技術をひけらかす機会欲しさに盗賊へ身をやつした。
 彼は前日にキャラバンの子供を人質に取ると論じていた盗賊である。手段としては合理的だ。しかし、子供の傍にイレギュラーズが護衛に就いているのを視界に入れてすぐ断念した。
《……ヤッパリカワイソウ。見逃す?》
 隊の中で純朴な者がロバーツにそう提案を持ちかける。この者は自分が何をしているのか自覚はあるのだろうか。だが、この場でそれを説いている暇もない。
《全て『予定通り』だ。兄者を捨て石にした以上、覚悟を決めろ》

 探知、前方に二人。
 いや、五人だ。獣に変化した五人が取り囲むように潜んでいる。
 メルナとオニキス達は防備を固めながら、ハンドサインで周囲へ警戒を促している。
「どこの世界でも補給は重要で、それを狙う輩がいるのも同じ……か」
 闇の中に潜む盗賊達を警戒するシルヴェストル。イレギュラーズの中にいくらか暗闇の中の相手を探る手段を持った者がいるようだが、ラサの傭兵達はそうであらぬ。彼らはメルナを筆頭とするイレギュラーズの作戦に追従し、出来る限りの最善手に努めた。
 ロバーツはイレギュラーズの作戦の穴を探っていたが、隙が見えない。ついに機会を窺うだけでは埒があかぬといわんばかりに、開戦する直前にイレギュラーズに対して賞賛を発した。
「ははは、やるなイレギュラーズの。兄者の策含めて見切られよったわ!」
 それに対して武器を構えながら言葉を返すオニキス。
「姿や気配がないのは厄介……でも完全に消失するわけではない。温度や反響なら、見つけられる」
「然り。直接“視”られることこそ我ら隠密が『絶対的な穴』よ。……だが、すまん。戦ゆえ、我ら兄弟は卑怯卑劣な手段をとらせていただく」
 その直後、矢弾が降り注いできた。攻撃を予期していたイレギュラーズ、傭兵はそのことごとくを剣や槍で打ち払って防ごうとした。
「あ――」
 反射神経の良い傭兵や子供達から絶望の声が漏れた。
 矢にくくりつけられていた榴弾、あるいは焼夷弾が弾ける。矢弾の効力は周囲に居合わせた非戦闘員――キャラバンの住民、輸送馬車、そして子供達をことごとく巻き込む。
「リトル!!」
 リトルは真横で炸裂した榴弾で鼓膜が破け、その破片が体のいくらかに突き刺さる。
 彼女の小躯は地面に叩きつけられ、意識を失った。

●首鼠両端を持す
「あーーーー! あーーー!!!」
 火炎に捲かれた住民が地面を転げ回る。キャラバンの民はほとんど恐慌状態に陥ってイレギュラーズの作戦を手伝える状態にない、
「砂漠の鼠……如何にも盗賊って感じのやり口だけど、厄介だね」
 メルナは周囲の状況を認識して青ざめそうになった。――『誰もバッドステータスを治癒する魔術を使える者がおらぬ』。火炎に捲かれた住民に対しては、戦闘を半ば放棄して消化器で火を消す事に注力するか、さもなくば見殺しにするしかない。
「さぁ、どうだ! 民を見殺しにするか、さもなくば手数を割いてもらうぞ!」
 相手にとって非戦闘員への攻撃は完全に陽動目的で、狙いは馬車だ。その馬車にも火矢が射かけられる。
 直後、何者かがその火矢を斬り払った。住民へ飛んで来る焼夷弾も火炎ごとその身で受け止める。
「こちらの被害は我らが防ぎます!」
「頼んだよ!」
 傭兵達の士気は高く、恐慌状態に陥らずイレギュラーズ達の作戦を支援した。
「僕も手伝おう」
 シルヴェストルは地面に魔力撃を打ち放ち、高波のように巻き上げた砂を幌馬車に被せ、着いた火を消してみせる。
 火元を断たねば以上、状況は継続する。消火は彼らに任せ、イレギュラーズ達は鼠を討つ事に集中した。
「これ以上好きにさせんぞ」
 そしてロバーツの後方に現れるラダと玄丁。事実上、ロバーツはこれで逃げられない布陣となった。砂漠の鼠達は、ひとまずロバーツにどうするか相談を試みる。
《ロバーツ兄、どれから狙う?》
《――――》
《ロバーツ兄?》
「ジャミング能力者がいる!!」
 仲間達に事態を伝えるべく、そう大声で叫ぶロバーツ。彼の指揮《ハイテレパス》に依存していた砂漠の鼠は、行動開始が遅れた。
「よくも子供達を……!」
 暗闇に隠れ潜もうとするロバーツを追い、エーテルガトリングを乱射しながら距離を詰めるオニキス。
 この状況、彼らにとって全くの偶然だろう。あるいは、オニキスがそこまで見越してジャミングを習得していたか。
「がぁっ!!」
 逃げる途中、ラダの放った弾丸が脚を貫いた。ロバーツの体は砂漠の斜面に転がり墜ちる。
 死に体となったロバーツは残った盗賊に指示を残すべく声を張り上げようとするが、その前にオニキスが動いた。
 彼女の放った銃撃が、干天の砂漠に弾丸の雨をもたらす。
「イレギュラーズ相手に我が技術を試す機会がもっとあれば……!!」
 ここで終わる事を惜しみながら、降り注ぐ弾丸によってロバーツは絶命した。

●窮鼠猫を噛む
「ロバーツ兄ィィ!!」
 比較的近い場所に居た盗賊が、オニキスに向かって遠距離武器を向ける。
 ロバーツなら馬車を狙い続ける事を指示しただろう。武威の薄い盗賊達にとってそれが勝ちの目なのだ。
「殺しても怒られないんだよ? 絶対殺すべきじゃん」
 盗賊の傍まで寄っていた玄丁が、その脇差しを複数回に渡って横薙ぎに払う。切り刻まれた盗賊は踊り独楽のように回され、その剣筋が創り出す膨張した黒の大顎に喰われた。
「が、ひゅ……」
 残り三人。彼らは物資に向けて焼夷弾や直接の切り込みといった集中攻撃を続けたが、防備に回っている者がそれを防ぐ。
「狙った獲物は逃がさない、デス。……アチッ、し、深呼吸深呼吸……!」
 火矢を防ぎながら銃撃を撃ち返すエステット。その弾丸は威力以上に、制圧射撃として十二分な体を成した。
「く、くそ。動けん……!」
 砂漠の小さな斜面を盾にする火矢の盗賊。その場所に縛り付けられているその時、メルーナは煉獄砲装を構える。
「はぁ、単純に力押しできる手合いじゃないのは分かってたけど……これで終わりよ!」
「――ッッ!!」
 反射的に彼女を射殺そうとする盗賊。彼女の身体が矢に貫かれるも放たれる魔砲はそれで止まらず、薄い遮蔽を貫いて消し飛ばす。残り二人。焼夷弾を撃ち込む盗賊が居なくなった。
「兄弟。せめて我らの証しとして傷痕を残すか?」
 銃撃戦が繰り広げられている瞬間、果敢にも近接戦に切り込んだ盗賊二人は気絶した子供らを視界に入れて短く会話を交わす。
「かわいそう。やめとく」
 その上で、一矢報いようと目の前の傭兵やイレギュラーズに向けて戦いを挑んだ。
「む、ぅっ」
 火炎を防ぐ事に注力していた傭兵に対して、片方の盗賊が斬りかかる。体力ギリギリまで住民や馬車を庇っていた傭兵はそれで首を掻っ切られた。
「よくもッ!!」
 メルナは慕ってくれていた傭兵がやられた事に半ば激昂し、ギガクラッシュを繰り出して盗賊達に応戦する。
 それを喰らった盗賊は瀕死の体になりながらも、未だ倒れずに周囲の者達を見回した。
「窮鼠の力を思い知らせてやる」
 彼らは傭兵やイレギュラーズ達の中から、負傷している者を狙った。その標的がメルーナに移る。
「危ない!」
 メルーナに攻撃が集中される際、シルヴェストルは衝術で負傷していた盗賊を弾き飛ばす。
 その盗賊をメリルナートが重詠恋華――氷の槍を投擲してトドメを刺した。
「商船、負傷者。少しでも心得があれば、それらを狙ってくるのは道理ですわ」
 ロバーツや他の盗賊との交戦が繰り広げられる中、ついに一人の盗賊が防衛線をすり抜けた。だが狙いはもはや馬車ではない。
「盗った」
 メルーナの腹部目掛けて、その盗賊は短剣を複数回に突き刺す。
 それで彼女を仕留めきった感触はあった。盗賊は思い残す事はないといった顔を浮かべるが、すぐに驚きの表情に変わる。
「厄介って言うべきかしらね……まったく、竜種より厄介だわ」
「……そんな、まさか……」
 仕留めたはずの女が不敵に笑い続け、盗賊は急いで間合いを取ろうとする。
 しかし立て直す機会なく、彼女の撃ち放ったマジックミサイルで射殺される事になった。

 夜明け。処理を終えたキャラバンは、負傷者を馬車に匿い首都へ再び歩み始めた。
「物資はほぼ無事。依頼は十全に達成。しかし、なんだこの空気は」
 重苦しい顔をするシルヴェストル。周囲が憔悴しきっている。
 子供達と住民の半分が負傷を負い、面倒見の良いラサの傭兵が一人死んだ。イレギュラーズ側とてメルーナが重傷だ。
 家に鼠、国に盗人。その言葉の意味を思い知らされたイレギュラーズ達は、重苦しい空気のまま首都までの道を歩む事になった……。

成否

成功

MVP

メルーナ(p3p008534)
焔獣

状態異常

メルーナ(p3p008534)[重傷]
焔獣

あとがき

 依頼お疲れ様でした。

●称号付与
『揺らぐ青の月』メルナ(p3p002292)⇒『傭兵の指揮官』メルナ
『焔獣』メルーナ(p3p008534)⇒『砂漠の狐』メルーナ

PAGETOPPAGEBOTTOM