PandoraPartyProject

シナリオ詳細

星降る夜は、ワルツを踊ろう

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●祭りの日
 クリスマスローズの花が咲くころに、私達の村では冬まつりを行います。
 村の広場で、大きなかがり火をたいて。一年、無事に生活できたことを、神に感謝するのです。
 その日は、朝からお祭りの準備で皆大忙しです。私も朝からたくさんのパイを焼いて、ありがとうって言いながら羊を捌いて。夜のお祭りに向けて、いろんなご馳走を作るのです。
 それから……今年はちょっとだけ、特別なお祭。もちろん、これは個人的な事なのだけれど。
 隣に住んでいる男の子。レックス。今日は、彼がちょうど、成人を迎える日で。
 村の成人のお祝いと儀式で、彼が、狩りの獲物をとって来る日。
 成人を迎えた男性とは、結婚できるようになるんです。
 ずっとずっと、小さいころから約束してきた、結婚の約束。
 それが今日、果せるねって。
 二人で昨日、笑い合いました。
 今日は、狩りに出かけるレックスを、行ってらっしゃい、って見送って。
 彼は、行ってくるよ、って笑いかけてくれて。
 その姿を思い出すだけで、なんだか顔が、にやけてしまいます。
 ……いけません。お祭りの準備をしないといけないのです。
 でも、それでも。私の心はレックスの事でいっぱいで。
 早く帰ってきてくれないかな、って、そのことだけでいっぱいで。
 お祭りの夜には、一緒に。ワルツを踊って。
 彼の腕に抱きしめられて……。
 きゃーっ! なんて!
 思ってしまうのです。
 もうすぐ日が落ちる時刻です。
 レックスの帰りと、京のお祭りの事を考えながら。
 もう少しだけ、お祭の準備をしましょう。

 レックス=ダージが村に帰還した時、周囲はすでに暗くなっていて、でも村には煌々と明かりが焚かれていた。
 いや、それは明かりではなく『建物が燃えているのだ』と気づいた瞬間、レックスは走り出している。
 轟音が、辺りに響き渡った。
 ずん、ずん、と言う音があたりに響いて、空から何か、紅いものが次々と降り注いでいった。
 落着してくる。
 星が。
 星が降って落ちてくる。
 星が落ちてくるたびに、建物が空を舞った。人々の身体が飛びあがって、ぐるぐると宙を舞った。
 ああ、まるで。ワルツを踊るかのように。
 くるくると、くるくると、人々が回って。踊って。
 落ちてくる。
 ぐちゃり、と落ちて爆ぜた。
 それ以外の死体は、落ちてきた星に押しつぶされて、ぐちゃぐちゃに潰されていた。
 災禍の中心にいたのは、一匹の、亀のような、巨大な怪物だった。
 レックスは知らなかったが、それはアークモンスターと呼ばれる、非常に強力な怪物であった。
 亀が身体を震わせるたびに、その身体から何かが噴出して、しばらく後に、巨大な岩のようなそれが落下してくる。
 星は。
 あの亀が降らせていたのだ。
「ジェイニー?」
 想い人の名前を呼んだ。
 隣に住んでいる、幼馴染の女の子。
 ささやかな、幸せの約束をした、あの女の子。
 ジェイニーの姿を探し求めて、レックスは村中をかけた! 振ってくる星に行く手を阻まれ、時には身体を吹き飛ばされて――ようやく、ジェイニーを見つけた時。
 彼女の身体は、半分から下がなかった。
 すぐ近くに、星が落ちている。
 ああ、星が。
 彼女を押しつぶしたのだろう。
 その顔は、きょとんとしていて。
 自分に何が起こったのかを理解していない顔で。
 それは唯一、幸いだっただろうか。
 ああ、と、レックスは呻いた。
 ああ、ああ、と。レックスは呻いた。
 どうして。どうして。レックスは、半分に千切れたジェイニーを抱き上げて、そのさわやかな茶色の髪をなでおろした。
 どうして君が、死ななければならなかったのか。

 星が降る。
 ああ、星が降る。
 ジェイニー、ジェイニー。星降る夜は、ワルツを踊ろう。
 そうやって、約束したじゃないか。

●メテオストライカー迎撃作戦
「ローレットのイレギュラーズ殿たちですね!? すみませんが、さっそく作戦について説明させていただきます!」
 幻想王都よりはるか東。ベルゼウの街に到着したイレギュラーズ達は、駐留騎士たちからの歓待と、今回のミッションについての説明を受けていた。
 先ごろ、ベルゼウの街より北東、フェルムの村が壊滅した。原因は、突如現出した謎のモンスター……その強力さからアークモンスターの一種だと思われる仮称『メテオストライカー』によるものだ。
 メテオストライカーは、その名のごとく、体内から岩石のようなものを射出し、まるで流星のように降らせて来るという攻撃手段をとる、巨大な亀のようなアークモンスターであり、その『隕石』を用い、フェルムの村を破壊。住民のほぼすべてを皆殺しにし、ゆっくりとベルゼウの街へと迫ってきているそうだ。
 それを確認した駐留騎士たちは防衛線をしき、同時にベルゼウの住民に避難を促した――という事だ。
「皆さんには、メテオストライカーの討伐、最悪の場合、ベルゼウの住民が全員離脱するまでの時間稼ぎをお願いしたいのです」
 時間稼ぎとはいっても、住民全員が避難するまでの時間は膨大であり、とても現実的な策とは言えまい。
 となれば、やはり唯一の策は――ここで、メテオストライカーを討伐するしかないのだ。
「敵は強力なアークモンスターです。くれぐれも、お気を付けください……!」
 騎士はそう言って、イレギュラーズ達に敬礼をしてくれた。それから、騎士の案内に従って、イレギュラーズ達は街の外に出る。長く敷かれた騎士隊の防衛線を抜けて、フェルムの村のあった方角へ。街道の真中に、巨大な亀のような怪物の姿が見えてくるまで、さほど時間はかからなかった。


 ジェイニー。ごめんよ。たすけられなくて。
 僕はこれから、成人の儀式を果たす。
 最初で最後の狩りの獲物を、あの怪物を、討ち取ってみせる。
 そうしたらきっと、キミの所へ行くよ。
 二人で幸せになろう。
 約束だ。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 アークモンスター、メテオストライカーが出現しました。
 これ以上の進軍を阻止するため、これを撃退してください。

●成功条件
 メテオストライカーの撃破。
  オプション
   全員生存して帰還する。

●状況
 幻想東部にあるフェルムの村が、アークモンスター『メテオストライカー』による襲撃を受けました。生存者はいないと思われます。
 メテオストライカーはゆっくりとその西部、ベルゼウの街に向っており、このままではベルゼウの街に多大な被害が出る可能性が充分にあります。
 皆さんは、このメテオストライカーを迎撃し、討伐してください。
 作戦決行時刻は夜。周囲には何もない街道沿いで、月明かりと星明りが美しく、特別に光源を用意する必要はなさそうです。
 なお、戦場にはメテオストライカー、イレギュラーズの他に、第三者であるレックスと言う青年の姿が見えます。どうも、メテオストライカーと戦おうとしているようですが……。
 なお、オープニング『●祭りの日』の部分はプレイヤー情報であり、プレイヤーキャラの皆さんは知らないことです。が、超感覚とか推理とか事前調査とかで事情を知っていても構いません。

●エネミーデータ
 メテオストライカー ×1
  巨大な亀のような姿をした強力なモンスター。アークモンスターの一種。
  その名の通り、隕石を思わせる攻撃が特徴。主に体当りのような物理攻撃を行う。
  ――使用スキルの一部
   メテオストライク
    物・特レ・域 戦場の一点を指定する。
    次のターンの終了時に、
    その点を中心に『域』範囲の強力な無識別物理攻撃を行う。
   アダマントの鉄槌
    物・至・単 単体物理ダメージ。
    対象がメテオストライカーをブロックしている場合、威力を1.5倍する。
   ロックキャノン
    物・遠・貫 貫通物理ダメージ
    AP・HP・BS回復スキルを多く持っているほど、優先的に攻撃対象にされる。

●第三軍NPC
 レックス=ダージ ×1
  フェルムの村の生き残りの青年。
  メテオストライカーと戦い、殺されるもよし。
  倒して自死するもよし、と考えています。
  使用スキル
   強弓
    物・遠・単 単体物理ダメージ
   応急手当
    物・至・自 自身のHPを少量回復

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

  • 星降る夜は、ワルツを踊ろう完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年12月21日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
咲々宮 幻介(p3p001387)
刀身不屈
ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
黒武護
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
只野・黒子(p3p008597)
群鱗

リプレイ

●星降る夜
 星が降る。星が降る。星が降る。
 打ちあがられた岩が、流星のように落ちてくる。
 その災禍の中心にいたのは、巨大な亀のような怪物であった。
 それは、アークモンスターと呼ばれる、この世に産み落とされし邪悪。
 イレギュラーズ達一行は、アークモンスター、仮称『メテオストライカー』を迎撃すべく、今道を急いでいた。
「見つけた……!」
 先頭を走る、『また会えたね』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)が思わず声をあげた。巨大な小山のような姿が、皆の視界に映った。
「なんて……巨大な……!」
 それは、完全に接敵する前の段階で、既にイレギュラーズ達の目に映っている。それほどまでに巨大な相手が、今回の敵だった。
「うへ……随分と、弾の通りが悪そうな亀公だ」
 『鎮魂銃歌』ジェック・アーロン(p3p004755)は思わず眉をひそめた。背中に背負った甲羅は、岩石のごとくそびえたつ。見た目通りに、相当硬いのだろう。狙い撃つとなれば――。
「腕が鳴るね」
 ジェックが呟く。相応の腕が必要だろう。だが、ジェックは確かに、熟達のガンスリンガーだ。捉えて貫けぬ目標などない。
「いやはやまったく。骨が折れそうな相手に御座るなぁ」
 『咲々宮一刀流』咲々宮 幻介(p3p001387)も嘆息する。巨大な岩山を斬れと命じられたに等しい相手だ。言葉通り、なかなか難しい仕事となった所である。
「まぁ、仕事は仕事……やれるだけの事はしてみるで御座るかね」
 『命響志陲』――その刃を抜き放つ。このまま接敵し、即座に戦闘に入る――後ろには守るべき人たちもいる。猶予はない。
 駆けるイレギュラーズを、『亀』は認めた。
 しかし『亀』は、イレギュラーズを目にして、ふん、と鼻を鳴らすのみであった。
 ――威嚇、とは。本来は、己が身を守るために行う示威行為である。
 『亀』は、その威嚇を不要と断じた。
 つまる所それは、『イレギュラーズ達を脅威とみなしていない』という事の証左でもある。
「馬鹿にしてくれますね……クソ亀」
 ひき、と、『群鱗』只野・黒子(p3p008597)の頬がひきつった。
「その傲慢、これまでの行為……まとめて後悔させて差し上げますよ」
 黒子は呟き――しかし、驚愕に目を見開いた。
 討伐に向ったのは、八人のイレギュラーズ達。だが、この場にありえない九人目の姿があったのだ。それは、成人を迎えたばかりのように見える、年若い男だった。大きな弓を構え、『亀』をにらむその目には虚無と憎悪が渦巻いている――!
「そんな……ベルゼウの街から此方に向かうためのルートは封鎖されているはず――!」
 黒子の驚愕の言葉に、故にイレギュラーズ達は悟った。
 ここにやってくるための道は二つ。
 ベルゼウの街から向かうルート。
 そして、『亀』の後背――滅ぼされたはずのフェルムの村からやってくるルート。
 前者が潰されているのなら、可能性は後者だ。
「君は――!」
 『ヴァイスドラッヘ』レイリ―=シュタイン(p3p007270)が、思わず声をあげた。
「生き残りなのね!? フェルムの村の!」
「イレギュラーズの人か!? 帰ってくれ!」
 青年――それは、レックスと言う名だった――が声をあげる。
「あいつは俺が仕留める! あいつは村の皆を、ジェイニーを殺したんだぞ!」
 憎悪に燃える声音が、イレギュラーズ達の耳朶を叩いた。心底にゾッとする音だった。
「――あの人は」
 しかしその憎悪の中に、冷たい絶望の色を感じ取った者もいた。『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル(p3p003529)がそうだ。
 燃え盛る憎悪の色の中に、一筋の冷気が、絶望の感情が残されている。それが何を意味するのかを、クーアは敏感に感じ取っていた。
「ここを生の終の場所とするつもりなのですね」
「君も感じ取ったんだね。僕も……かつての僕を、家族を失った時のあの時の僕を、彼から感じるよ」
 ムスティスラーフが頷く。となれば、レックスは最初から、死ぬつもりなのだろう。
「死ぬ気という事で御座るか――復讐を果たして……いや、それすらも果たせぬかもしれぬのに」
 幻介はわずかに、その表情を曇らせた。自身の過去と、何かリンクする思いがあったのかもしれない――だが、すぐにそれを悟られぬようにいつもの表情に戻ると。
「なら……少しばかり、お節介をしてやるで御座るかね……!」
 そう告げる。レイリ―はその言葉に頷いて、声をあげた。
「そちらの事情は大体察したわ! でも、此方も退くわけにはいかないのよ!」
 『亀』は動かない。此方を舐めてかかっているのか……先手を打とうとはしてこない。それはこの場にいる誰にとっても幸運だった。
「逃げなさい、とは言いません。ただ、此方の指示には従ってください。……最低でも一点だけ。決して足を止めてはいけません。奴がどのような攻撃を行うのか、分かっているはずです」
 黒子のその言葉に、レックスは息をのんだ。敵の攻撃は、天から降らせる流星の一撃――確かに足を止めていてはつぶされて終わりだ。
「お前の生き死には、お前の意思、だ。だが、奴を仕留めたいなら、マリア達に協力しろ」
 『愛娘』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)の言葉。命が惜しいという訳ではない。だが、復讐を果たせず死ぬことは、些かの躊躇があったのだろう。レックスはわずかに頷いて返した。
「レイリ―。つまりマリア達は、あの亀を倒して、彼も守る、という事だな」
 エクスマリアの言葉に、レイリ―は頷く。マリアもまた、こくりと頷いた。
「ハードな仕事だ。でも嫌ではない」
 エクスマリアの毛先が軽く振れた。
「相談は終わりました?」
 『永遠のキス』雨宮 利香(p3p001254)が声をかけた。
「うむ。予定通りだ。人を、救う」
 エクスマリアの言葉に、利香は頷いた。
「そうなるんですねぇ……まぁ、その方が気持ちは良いですものね。じゃ、予定通りいきましょ!」
 いひひ、と利香は笑う。そのまま『亀』へと向かって駆けだした。
「そこまでですよのろま亀!」
 利香の魔眼が怪しく輝いた。途端、体中からにじみ出る勝機が、『亀』を包む。それは、魅了の瞳。囚われたものは逃れられぬ、夢魔の業。
 ごお、と『亀』は鳴いた。その眼に利香の姿を確かに映し、それを敵と――あるいは獲物と――認識した。
「さぁ、行きますよ、皆さん!」
 利香の言葉を合図に、討伐作戦は幕を開けた。

●恐怖の『亀』
 少なくともこの時、『亀』はイレギュラーズ達を脅威とは見なしていなかった。今までいたずらに殺してきた、小さい生き物――それは、人間の子供がアリを潰すようなものだ――無造作に、踏めば潰れる、有象無象の物体。その程度の認識でしかなかった。
 そしてそれは、決して慢心という訳ではないことを、イレギュラーズ達は理解している。相対するだけで分かる、強大な気配。それを、この『メテオストライカー』は持ち合わせているのだ。
「むっち砲を撃つよ! 射線には入らないで!」
 ムスティスラーフが叫び、大きく息を吸い込む――同時に、イレギュラーズ達は動き出していた。
「硬そうな相手なら……体勢を崩して、そこに斬り込むべきなのです」
 クーアが焔を解き放つ。誘惑の力を秘めた、クーアの焔。それが『亀』の右前足に直撃した。じゅう、と音を立てて、亀の前足から肉が焼けるような異臭が立ち上る。『亀』は右前足の痛みに、僅かなスキを晒していた。
「斬鉄ならぬ、斬山、で御座るか――語呂はよろしくないで御座るな!」
 一気に接敵した幻介が、刃を振るった。わずかに残るのは、鬼の哭く声。真空の刃が、大きく体勢を崩した『亀』の甲羅を斬り飛ばす――だが、まだ浅い! 甲羅の一部を斬り飛ばしたが、まだ内部に到達するには程遠かった。
 一方『亀』は踏ん張ると、お返しとばかりに右前脚を振り払って幻介を殴りつけようとした。鋭い爪はその一つ一つが名刀の切れ味に匹敵する。直撃すれば、なますと切り刻まれるのは目に見ている。
「むう……っ!」
 幻介は寸での所で後方に跳躍。擦過した頬に、赤い線が走る。
「ううん、案の定、硬い……!」
 ズガン、とさく裂音をあげながら、ジェックの放つ銃弾が、『亀』の甲羅を削り取る。一発。二発。だが、その銃弾は体内に届くには未だ遠い。一発一発の銃弾が、甲羅を削り取る。時折、関節や甲羅の隙間から内部へと銃弾が侵入するが、しかし重要な臓器にダメージを与えるには、まだまだ遠かった。
「一点に、攻撃を集中……!」
「了解だ」
 エクスマリアは自身の髪を球形に編み上げ、内部に雷の弾を作り上げる。間髪入れずに発射。
 雷弾が、ばちばちと音を立てて爆ぜた。甲羅を通して『亀』の内部を駆け回る。決して少なくないほどの電圧と電流がその身にかかったはずだが、しかしそれだけの攻撃を受けて、しかし『亀』は斃れるそぶりを見せない。
「想像以上に、タフだ」
 むぅ、とエクスマリアが唸る。その髪が、ぐっ、と張りつめた。
「ほら、あなたの相手は、こっちですよ!」
 利香が再度誘惑の魔眼で『亀』を引き付ける。『亀』は一つ吠えると、甲羅の一部をさながら砲撃のように発射した。ズドン! それはすさまじい風音をあげながら、利香へと迫る! 利香はその攻撃を、直撃を避けるべく跳躍した――だが、直撃せずとも、巻き起こるすさまじいまでの風圧が、利香の身体を強くなぶり、叩きつける!
「く……うっ……!?」
 その衝撃にもみくちゃにされて、たまらず悲鳴をあげる利香。
「利香!」
 クーアが思わず駆け寄ろうとするが、
「大丈夫です……っ! クーア、貴女は貴女の役目を果たしなさい!」
 利香がそれを制する。元より、自ら引き受けた役目。パンドラの箱を開け、その中に眠る可能性を浪費しようとも、ここで仲間のために、この敵を引き付ける。其れこそが、今なすべき、利香の役目だった。
「いひひ、我慢比べよ、のろまな亀さん! ここには不思議と、わたしの力になってくれる魂があるんですよ……なんででしょうねぇ……ッ!」
 周囲に漂う魂、それを吸収し、己の糧とする利香のスキル。不思議と周囲には、自ら利香の力となるべくやってきた、様々な魂が感じられた。
「随分と好き放題暴れてきたみたいですけれど……ここまでですよ!」
 ――その時、『亀』の視界に、何か巨大なものがうつった。
 それは、多くの魂をその内に宿していた利香の影である。
 多くの魂。それは、『亀』がいたずらに殺してきた、多くの生命の魂である。
 それが、利香という器に集まり、巨大に、巨大になっていく。それが、その魂の輝きが、『亀』を覆いつくさんばかりに巨大になった時に。
 轟。と。
 『亀』は初めて、威嚇の声をあげた。
 つんざくような咆哮が、イレギュラーズ達を震わせる、身体の芯から響き渡る様な、思わず身をすくめるような威嚇の咆哮。
 『亀』は狂乱したかのように、利香へと――巨大な影へと向けて、岩の砲撃を繰り出した。それが、利香へと、影へと直撃する。岩の直撃により、それは雲散霧消して消えた。だが、『亀』の脳裏に、その巨大な影は写り込んで消えなかった。それは、『亀』が生まれて初めて遭遇した、何か恐ろしいものだったのだ。
 そして、足元には、まだ、その恐ろしいもののと同じ魂を持つものが、歩き回っている。
 『亀』は吠えた。それは威嚇であったか、恐怖の悲鳴であったか。
「叫びなら、僕も負けてないよ」
 ムスティスラーフが言葉を紡いだ! 放たれる、緑の閃光! それが『亀』の甲羅へと直撃した!
 激しいスパークが飛び散る。その一撃で、『亀』の甲羅のあちこちに、ひびが入っていく!
 『亀』はこの時、確かに激痛と恐怖の叫び声をあげた。その痛みのままに、恐怖のままに、『亀』は自身の甲羅から、無数の『石』を上空へと射出した。
「――降ってきます!」
 黒子が、叫んだ。
 その落下の予兆は、確かにイレギュラーズ達にも見えていた――。
 星が降る。地に。破滅の星が降る。

●ワルツを踊ろう
 渾身の一撃は、しかしイレギュラーズ達の誰も捉えることは無かった。恐怖のままに打ち放たれた一撃など、彼らを捉えられるはずはない。どこに振って来るのかの予測も、イレギュラーズ達には容易く行えたのだ。
 だから、『亀』はこの中で、最も弱い個体に目をつけた。レックスと言う名の青年がそれだった。
 巨大な岩を、悲鳴のごとく発射する! レックスはそれを、よけることはできない――。
 だが。
 その前に、彼女はいた。
 堅牢なる白の盾は、この時悪しき弾丸をはじいた。
 ヴァイスドラッヘ。
 その名のままに。
「何で――」
 助けたのか、と。レックスは問う。
 レイリ―は笑った。
「名乗りがまだだったわね。私はヴァイスドラッヘ。君を助けにきた」
 その弾丸を受け止めた腕は痛みに萎え。足はその身を支えるのがやっと。
 でも、レイリ―は倒れる寸前まで、微笑み続けた。
 何故ならレイリ―はこの時、確かに英雄だったから。
 ぐらり、とその身体が揺れる――瞬間。
「足を止めないで! 一気に!」
 これ以上の耐久は難しい。黒子が叫び、『亀』に殺意を叩き込む! 奪われた正常が変転し、異常となって『亀』の肉体に残る。べぎべぎと音を立てて、『亀』の甲羅が破砕していく!
「とどめを刺すのです!」
 クーアは再び、夢魔の焔を解き放った! むっち砲によって作られた甲羅の隙間から、内部に浸透するように焔が走る。ぎぃ、と『亀』は鳴いた。
「裏咲々宮一刀流、弐之型――」
 跳躍した幻介が、上空よりその刃を、甲羅へと叩き込んだ! 墜! 振るわれた刃が、その甲羅を今度こそ粉砕する。
「柔らかい身が見えれば――」
「終わりだ」
 ジェック、そしてエクスマリアが、銃弾と、そして雷弾を放つ! ジェックの銀の弾丸が、火から枯れた甲羅の中から内部へと潜りこみ、内側から毒の華を咲かせる。があ、と『亀』が身体を揺らした。次の刹那、迫りくる雷の弾丸が、内部で爆ぜた。毒の華と、雷の華。二つの華が咲き乱れ、『亀』を焼き、侵し、殺した。
 やがて肉が腐る悪臭と、肉が焼ける臭いがあたりを支配する。亀は体中の穴と言う穴から黒煙をぶすぶすとあげながら、ゆっくりとその身体を地に放った。
 それが、戦いの終わりの合図であった。
 ――同時に。ムスティスラーフは、レックスへと駆けだした。その手を掴むと、手にしたナイフが零れ落ちる。
「やっぱり、なんだね」
 ムスティスラーフが残念そうに、呟いた。
「放してくれ」
 レックスが言った。
「死なせてくれ」
 レックスは、勝っても負けても、死ぬつもりだったのだ。クーアの覚えた予感は、間違ってはいなかったのだ。
「ダメだよ」
 ムスティスラーフが頭を振る。
「老人のお節介だと思って聞いてくれないかな」
 静かに、そう言った。
「もし、自分の命で大切な人を守れるなら、君は守るだろう? せっかく助かったのにその人が自殺したら悲しいよね? ……だから大切な人には死んでほしくないと思うよ。その、ジェイニーって言う子も」
「でも俺は」
 レックスは涙を流していた。
「助けられなかったんだ」
「大切な者を亡くしたんだね」
 その傷に、身体を引きずるようにしながらも、レイリ―は微笑んだ。
「私も家族を何もかも喪った……辛さは分かる、心すら喪ったから」
 多分彼が望んでいるのは、とレイリ―は思った。
 自身への罰なのだろう。大切なものを救えなかった、失った自分への。
 でもそれは、間違っているのだと思った。だから。
「君は幸せになっていいんだよ」
 そう言った。其れこそが、自身をさいなむ者への、赦しの言葉なのだと信じた。
 レイリ―もまた、大切なもの失って、何もかもを失って。
 それでも、新しい日々が、友が、恋人が、心を癒してくれた。
「皆の分まで幸せになって……いつしか、君が素敵なおじいさんになって死んだあと。彼らにその幸せを分け与えるのはどうかな?」
「俺は……いいのかな……生きて……」
「いいので御座るよ」
 幻介が言った。
「お主の大事な者達が、いまわの際に何を思ったか……今のお主なら、分かるで御座ろう?」
 多分、死の淵に逢っても、
 大切な人の幸せを願ったであろうから。
 レックスは脱力した。地にうずくまって、泣いていた。
「……私の出番は、なさそうなのですね」
 クーアが、傷ついた利香を抱くようにして、呟いた。
「いいんじゃないですか。そう言う時も、有りますよ」
 いひひ、と、傷だらけの利香が笑う――同時に、身体に痛みが走った。
「痛たた、無茶しちゃいましたねぇ」
「もう……しばらくベットで安静なのですよ」
 クーアは怒る様な、心配するような、安心するような、そんな表情で、利香に微笑んだ。
「……流れ星か。本物の流れ星は、もっと綺麗なのかな」
 ジェックがポツリと、呟いた。
 空には、今のも落ちてきそうな満点の星々が輝いていたけれど、そのどれもが、落ちてくるような気配は見受けられなかった。
「うん。きっと、綺麗だ」
 エクスマリアが頷く。その髪がやさしく波打っていた。
 すべてはここに終わって。
 今は、青年の嗚咽だけが静かに、響いていた。

成否

成功

MVP

リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王

状態異常

リカ・サキュバス(p3p001254)[重傷]
瘴気の王

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様の活躍により、アークモンスターの脅威は除かれ。
 一人の青年の心も、救われたようです。

PAGETOPPAGEBOTTOM