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シナリオ詳細

奇跡の塔5F:大欠伸する怠惰猫

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 天義某所にある草原地帯。
 その中央に聳え立つ白い巨塔『奇跡の塔』の調査へと、初老の男性ハルトヴィン・ケントニスが入ってかなりの時が立つ。
 助手としてユーリエ・シュトラール (p3p001160)も依頼などの合間に訪れ、フロア中央の石碑や周囲の壁などに描かれた文字などの解読を進めている。
 2人は他のイレギュラーズの助けを借りつつ、上の階層を目指している。

「こんにちは、先生」
 そこにやってきたのはユーリエだ。
 彼女は自身の店の他、ローレットの依頼で豊穣などに向かっており、忙しい中時間を割いて奇跡の塔へと足を運ぶ。
 そんな彼女を労いつつ、ハルトヴィンは温かい飲み物を用意する。
 一息ついた一行は、現状調査を進める4階フロアへと移動していく。
 フロア構成はこれまでとほぼ変わらず、中央に石碑。そして、塔の外壁に沿って螺旋状に上へと続く階段が伸びている。
 5階にもすぐ向かうことはできたが、これまでの例に倣えば、5階を突破する為の鍵が4階にあるはず。
 そう思い、2人は石碑や壁に描かれた絵、文字などの解読を進めていた。
「この石碑、一体何を示しているのだろうね」
 ハルトヴィンが指さした部分に描かれていたのは、1匹の猫の前に倒れる人々の姿。
 次なるフロアで戦うべき敵の姿と思われるのだが……。
「先生、少し待っててくださいね」
 そこで、ユーリエが石碑に水晶玉を翳すと、それを通してこんな残滓の如き声が響く。
『どうして、俺たちがこんな目に……』
『あの砂の猫に皆殺されてしまう』
『星の巫女はまだか。早く俺達を……』
 それを聞いた2人はしばらく唸り、他の部分に描かれた文字の解読を進めていくのである。


 今回、イレギュラーズ達が挑むは5階フロア。
 すでにそこで何が起きるのか、ユーリエやハルトヴィンは4階フロアにてある程度情報を得ていたようだった。
 ハルトヴィンと挨拶を交わしたイレギュラーズ達は彼の説明を聞くこととなる。
 そのメンバーは、アークライト夫妻、リゲル=アークライト (p3p000442)、ポテト=アークライト (p3p000294)。
 ユーリエにとって大切な人、エリザベート・ヴラド・ウングレアーヌ (p3p000711)に、いつも酔ってるアーリア・スピリッツ (p3p004400)。4人はユーリエと共にほぼ常連の参加となっている。
 メルナ (p3p002292)やクラリーチェ・カヴァッツァ (p3p000236)は2回目、セリカ=O=ブランフォール (p3p001548)のみ今回初参加という状況だ。
「5階フロアで待ち受けているのは、【怠惰の猫】とある」
 ハルトヴィンが告げたその名は、【怠惰の猫】アケディアキャット。討伐対象と思われる存在だ。
「アケディア……まさに怠惰だね」
「怠惰……言葉だけ聞けば楽そうなのだがな」
 相槌を打つリゲルに、ポテトが応える。これまでフロアにいた七つの大罪を思わせる魔物達はいずれも強敵だった。
 この怠惰の猫もまた、厄介な相手に違いないだろうと、この場のメンバー達は考える。
「その猫の攻略法は書かれてあったのかしらぁ?」
「うん、近づくと気力が減退してやる気が出なくなることがあるそうだよ」
 アーリアの問いに頷くハルトヴィンが続ける。
 アケディアキャットの近くには怠惰なる空間が展開されているという。この中に居続けると、次第に気力が奪われて動けなくなってしまうというから恐ろしい。
「その状態を治す方法はないのですか?」
「オアシスの傍に生えている木になっている実を食べれば、治るみたいだよ」
 次に、エリザベートが質問すると、ユーリエがすぐ答える。
 この実を食べることで、それまで蓄積していた怠惰状態を全て消し去ることができる。
「でも、また怠惰状態は蓄積しちゃうんだよね……」
「なら、早く倒すに越したことは無いよね」
 セリカ、メルナの言葉に、この場の全員が頷く。
「ところで、星の巫女って前回聞こえた声の主なのでしょうか?」
 説明の最中、クラリーチェが気にかけたことを口に出す。
『私はクラリア……この塔を管理している者』
 4階の探索に向かう前、そんな声が聞こえた。
 今回の探索に当たって、その声は聞こえないが、果たして……。
「ともあれ、上に向かってみるとしよう」
 ハルトヴィンに促され、イレギュラーズ達は螺旋階段を登って5階フロアを目指すのである。


 5階フロアはラサを思わせる砂漠地帯となっていた。
 中央に小さなオアシスがあり、周囲にヤシを思わせる実がなった木が何本が生えている。その周囲は砂漠が広がっているが、ある程度のところまで行けば見えない壁に遮られてしまう。おそらく、元々の場所では塔の外壁があるのだろう。
「なーーーーお」
 そして、オアシスの畔に鎮座している大きな猫。こいつこそが【怠惰な猫】アケディアキャットだろう。
 そいつへと近づいていくイレギュラーズ達。しかし……。
「あれ、なんか体に力が……」
 ユーリエは途端に脱力してしまい、蹲りかけてしまう。
「いけない。それが怠惰なる空間だよ」
 階段の段差へと隠れていたハルトヴィンがメンバー達へと注意を促す。
 近づいて攻撃するなら、怠惰の影響から逃れられない。
 だが、離れていればいいというものでもないらしく。
「なーーーーーーー……」
 ふてぶてしく欠伸をするアケディアキャット。
 その欠伸をまともに浴びれば、怠惰に体を侵食されてしまう。
 見上げれば、木には実がなっている。これを食べながら怠惰な猫の討伐に当たりたいところ。
「それでは、皆さん、行きましょう……!」
 アケディアキャットの及ぼす怠惰の影響に耐えながら、一行はその討伐へと当たるのである。

GMコメント

 イレギュラーズの皆様こんにちは。なちゅいです。
 今回はリクエストシナリオのご依頼、ありがとうございます。

●目標
 【怠惰の猫】アケディアキャットの討伐

●敵
○【怠惰の猫】アケディアキャット
 全長3mほどもある砂を纏った猫です
 こちらを怠惰状態とし、ゆっくりと爪やかみつきなどの通常攻撃でなぶり殺しにして来るようです。

☆(特殊ルール)怠惰なる空間
 怠惰の猫の周囲近距離範囲内にいる者が対象となり、
 1ターンに付き1つ怠惰カウントが増加します。

☆怠惰カウント(最大5カウント)
 BS効果判定ターンで発動
 1つに付き10%の確率で行動不可となり、
 行動不可中受けるダメージが一つにつき1割増加します。
 なお、【罰】が【怠惰】の者に対しては効果ありません。
 BS回復では改善しませんが、
 フロア内にあるヤシのような木になっている実を食べること解除され、カウントは0に戻ります。

・凝視……神遠単・【痺れ】・【麻痺】
 じっと両目で見つめた相手の動きを止めてきます。

・鳴き声……神遠単・【封印】・【怒り】
 鳴き声を上げることで近場に誘い、怠惰状態として相手を無力化しようとしてきます。

・あくび……物超域・【万能】
 威力はほとんどありませんが、非常に命中率が高い技です。
 クリーンヒット以上で怠惰カウントが増加します

・砂の掌握……物超特・【万能】・【溜1】・【恍惚】
 1人を対象に砂嵐を起こし、強力な砂の一撃を浴びせかけてきます。
(対象者に近づく事で威力を分散することができます)

●状況
 このシナリオは、影絵 企鵝GM『奇跡の塔1F:永遠の命』に始まり、拙作SS『奇跡の塔1.5F』、シナリオ『奇跡の塔2~4F』の続編に当たります。

 塔の5層フロア内で戦闘を行います。
 ラサの一画を思わせる砂漠にあるオアシスのような場所で交戦することになります。
 中央に直径10mある円形のオアシス、周囲にいくつかヤシのような木が生えており、その周囲は全て砂漠となっています。

 上記のヤシのような木の実をとる為には地面に落とす必要があります。うまく手段を考えれば効率的にメンバーの怠惰状態を管理しつつ交戦できるでしょう。

(PL情報)
 この層を攻略すると内装が他フロアと同様に石碑へと変化し、
 次の層に続く階段が出現します。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 それでは、よろしくお願いいたします。

  • 奇跡の塔5F:大欠伸する怠惰猫完了
  • GM名なちゅい
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年12月13日 22時50分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
エリザベート・ヴラド・ウングレアーヌ(p3p000711)
永劫の愛
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
優愛の吸血種
セリカ=O=ブランフォール(p3p001548)
一番の宝物は「日常」
メルナ(p3p002292)
太陽は墜ちた
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯

リプレイ


 天高く聳え立つ塔の入り口。
「ここが奇跡の塔……」
 その前に立ったオレンジの髪の錬金術師、『一番の宝物は「日常」』セリカ=O=ブランフォール(p3p001548)は頭上を見上げる。
「ギルドの仲間であるセリカと、戦場を共にする機会を得られて嬉しいものだ」
 そんなセリカに、長身の銀髪騎士、『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)が頷く。
「足手まといにならないよう、精いっぱい頑張るよ……!」
「何かあっても私とクラリーチェ、エリザベートもいるから大丈夫だ」
 遅れての初参加となる状況もあって奮起するセリカに、リゲルは仲間達の存在を示して大船に乗った気持ちで依頼に臨むよう促す。
 セリカの傍には、塔の探索にメインで参加する『優愛の吸血種』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)、そして、妻である樹精の『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)がいる。馴染みの仲間達の存在はリゲルとしても心強い。
「この塔に挑むのは確か2回目。今回は一体どんな場所なのか……」
 色黒な肌の修道女、『罪のアントニウム』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)もまた塔を見上げ、次なるフロアに何が待ち受けるのかと期待と不安を入り混じらせるのである。

 少しして、塔の1階の休憩所で待機していたハルトヴィンを加えたイレギュラーズ一行は塔の螺旋階段を登っていく。
 なんでも、次なる5階で待ち構えているのは、怠惰の猫とのことだが……。
「前回は傲慢が相手、で……今回が怠惰。七つの大罪を冠する敵ばかりなのも、何か意味があるのかな……」
(――私達の中にも存る『七罪』がこの塔に潜むなんて、内面を曝け出されてるみたいだわ)
 青い瞳の銀髪女性、『揺らぐ青の月』メルナ(p3p002292)は各階に現れる敵について疑問を口にすると、ほろ酔いで眠たげな『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)が強引に素の自分を晒されているようだと感じていたようだ。
 そして、先日、4階攻略の際に立ち会ったメンバー達が聞いたという声。
「星の巫女。たしかにそう聞こえました!」
 合わせて、ユーリエがこの探索に先んじて聞いたその名についても気になる所だ。
「何か掴めてきそうだし、正念場ってやつかも。頑張らなくちゃだね……!」
「……とにかく、今回もやってやりましょ!」
 5階を前にメルナが気合いを入れ、仲間達に合わせてアーリアも自身を奮い立たせるのである。


 イレギュラーズ一行が新たに足を踏み入れたそのフロアは一面砂に覆われていた。
「え。塔の中に砂漠? どういうことなのでしょう……?」
 クラリーチェが目を瞬かせるのも無理もない。
 どこまでも続く砂漠の光景。その中心にヤシらしき木が傍らに生えたオアシスがある。さながら、そこはラサを思わせる場所だ。
「もしかすると……いや、まだそう考えるのは早いかな……」
 混沌と似たような風景に、ユーリエは仮説を立てながらもこの場は打ち消す。
「なーーーーぉ」
 なぜなら、このフロアで倒すべき相手が鳴き声を上げていたのだ。
「大きな砂まみれの猫……?」
「ねこー!!!!!」
 ポテトが首を傾げた直後、クラリーチェが叫ぶ。
 オアシスの畔に、砂を纏った大型の猫が鎮座していたのだ。
「はっ。待って私は敬虔な修道女。猫は好きですが動揺してはいけません」
 すぐにクラリーチェは我に返ったものの。大きな猫の姿にもふもふしたいと思わず両手を伸ばしかける。
「この目の前の砂の猫をなんとかしなければ!」
 目の前の猫こそ、下の階で得た情報にあった怠惰の猫アケディアキャットだとユーリエは確信する。
 しかし、すぐ猫の鳴き声に気怠さを覚えてしまって。
「……どうもこの空間にいるとやり辛いです」
 砂地であることもあり、ユーリエは砂が気になるのか目をこすりながらも吸血姫化して臨戦態勢を取ろうと身構える。
 一方で、ゴスロリ風の衣装を纏う女吸血姫、『貴女と共に』エリザベート・ヴラド・ウングレアーヌ(p3p000711)は全く眠気を感じていない様子。
「私の怠惰の理念をお答えしましょう」
「……ねこ、ねこさん……うう、戦いづらい」
「この階は随分私の性に合うみたいねぇ」
 他にも、愛嬌すら感じる相手に気後れしてしまうクラリーチェ、元々眠そうなアーリアは罰が怠惰だからか明らかに他メンバーとは異なり、体調は良好なようである。
「あの気の抜けてしまう容貌は油断させる罠かもしれないな。気を引き締めていくぞ!」
「ああ、うっかり眠らされると困りし、気合いを入れていこう」
 アークライト夫妻の檄もあり、イレギュラーズ達は怠惰の猫へと立ち向かっていくのである。


「なーーーーーーーぉ」
 欠伸をするような鳴き声を上げる砂猫アケディアキャット。
「うぅっ、怠惰の力がここまで……」
 階段へと身を隠すハルトヴィンすら脱力感を覚えている状況の中、エリザベートがじっと相手を見つめて告げる。
「最も効率よく、自身にとって最良の選択を選び最小限に事をなす事ですよ。だって、その方が時間に余裕がもてて楽でしょう?」
 最終的に、それこそが怠惰だと自らの考えを語るエリザベート。
 その彼女をじっと見つめてくる敵。
 砂猫の視線は見つめた相手の動きを止めてしまう力がある為、できるだけ注視されたくないところだが……。
「さぁ、かわいい猫ちゃん、貴方と私のどっちが怠惰か勝負よぉ」
 今回は自らの罰が怠惰ということもあり、前に出たアーリアが近距離から敵の引き付けに当たる。
「アーリア、背中は私たちが守るから、猫の抑えは頼んだ」
 いつもの違うパターンだが、そう告げるポテトを含め、傷ついても背中を預けられる仲間がいるからこそだ。
「リゲルも、普段と違う立ち位置だけど、攻撃は任せたぞ!」
「先生の研究の為にも必ず攻略し、成果を勝ち取ろう!」
 階段で脱力しつつ視線だけを向けるハルトヴィンの姿を認め、ポテトやリゲルは重い体に喝を入れる。
 回復役となるポテトは自らの戦法を最適化させてから、盾役のアーリアや他の役割を担うメンバーの体力を気にかける。
 リゲルはと言うと、アタッカーとなるべく中距離から黒の大顎で砂猫を攻め始めていた。
「見た目は可愛いけど、油断せずに……」
 同じく、メルナはカバーに当たる仲間の分まで精一杯打って出る。
 砂猫の動きが緩慢であることを見抜き、攻撃が効きそうな部分を見定めたメルナは真横へと回り込み、大剣へと気を集めて。
「距離があったって、狙うのは得意だからね……!」
 正確に狙った敵の胸部目がけ、メルナは焦らずに光の柱を立ち上らせる。
「なーーーーー」
 メルナの一撃は確かに効果があったはずだが、砂猫はあまり大きな反応を見せず、ただ鳴き声を上げるのみだ。
 また、他の役割とは、オアシス傍に生えるヤシらしき木の実を回収すること。
「光の力をここに……!」
 自身に光の加護を纏わせたユーリエは臨機応変に立ち回るべく、仲間の状況を注視する。
「……後、怠惰というのは元来、オーバーワーク等で自分を見失う事ですからね。適度に休まないことは罪なんですよ」
 砂猫へと説き続けるエリザベートもヒーラーを担いながらも、序盤は木の上に生った実の回収に当たる。
「……立ち塞がるならば、退けるしかありません」
 高い場所の実を落下させるのは、迷いを振り切ったクラリーチェだ。
「まずは早急にヤシの実を皆の手に渡さねばですね。ふむ」
 自らの魔力を高めたクラリーチェは、手近な木の実を狙って土壁を発動させて1つずつ地面へと落としていく。
 セリカも攻撃の前に錬金した模造品の魔剣で木の実を落とし、敵から距離を取る。
 その際、セリカは敵の狙いを分散させるべく、仲間が狙っていない木に向かって刃を振るっていた。
「なーーーーぉ」
 と言うのは、アケディアキャットの欠伸がこちらに強い怠惰の力を及ぼし、脱力させて強烈な眠気を誘ってくるからなのだ。
 落ちた木の実は、エリザベートが自動防御ドローンを展開しながら拾い上げる。
「えぇ、私は普段通りなのです。ただ、だらけてたところで何も進まないし、終わらない」
 後で清算しなければならなくなるからこそ、勤勉になる。
 エリザベートはそう語りながら、ドローンと共に木の実の回収を進めていた。
 木の実の回収は十分と判断したユーリエは手早く手近な場所にいたエリザベートやメルナに光の加護を与えるなど、支援に動いていた。
「私へと釘付けにしちゃうわねぇ」
「なーーーーぉ」
 砂猫はすぐにアーリアへと視線を向け、手を振り上げて猫ぱんちを叩き込もうとしてくる。
 その間は、仲間達へと危害が及ぶことは無くなる。
 アーリアも安心して葡萄酒色の蔦を操って敵を呪いに侵し、相手の注意を引き付け続けようとするのである。


「なーーーーぉ」
 砂漠の中、猫の鳴き声が妙に響く。
 怠惰の猫、アケディアキャットはほとんど動かず、鳴き声を上げるのみ。
 アーリアが強く気を引くが、相手はマイペースに欠伸することもしばしばあり、長く気を引き続けるのは難しかったようだ。
 それでも、攻防が続く中、木の実をうまくいき渡らせたことで、回収役となるメンバーも銘々の立ち回りを始めていたのだが……。
「なーーーー……」
「皆、集まるんだ!」
 敵はアーリアに狙いを定めて砂嵐を巻き起こすと、リゲルが仲間達へと声掛けして彼女の元へと向かう。
 ――『砂の掌握』。
 一定の高威力を持つ敵のこの技は溜め動作が必要な上、範囲にいるメンバーで威力が等分される。
「最優先は、戦線の維持!」
 アーリアが狙われたことで、メンバー達が近づいてくる。
 唯一、クラリーチェのみが外れて注視する状況の中、メンバー達を巻き込むように砂嵐が膨れ上がって。
 刹那荒れ狂う砂嵐。それが収まれば、ポテトがすぐさま天使の声を響かせて。
「最後まで油断せずに頑張ろう!」
 さらに仲間へと号令もかけ、ポテトは仲間の体力回復と態勢の立て直しに尽力する。
 同じく、セリカも仲間が十全に戦えるよう皆の心のうちに生まれた恐怖を振り払っていた。
(怠惰なはずの私が前線で頑張るなんて、不思議ねぇ)
 そんなポテトやセリカのサポートを受け、アーリアはこの状況に少し戸惑いながらも前線で踏みとどまる。
「なーーーーぉ」
 しかしながら、メンバーが集まったタイミングを砂猫も見逃さず、大きな欠伸で牽制する。
 それを耳にすれば、急激な脱力感と眠気がメンバーを襲う。
「この悪影響さえなければ、効率よく猫さんの討伐ができるのでしょうが、これが怠惰……」
 クラリーチェは自らには効果のないその倦怠感に悩まされる仲間達を見回し、難儀さを感じてしまう。
 ただ、予めエリザベートがドローンを使って2ヵ所に分けて木の実を集め、効率よく仲間達へと配布していたこともあり、皆に木の実は行き渡っている。
 それもあり、罰が怠惰ではないメンバー5人は各自のタイミングで木の実を口にして気力を取り戻していく。
「まだあるから、頑張っていこうね」
 隙を見て木の実を食べていたセリカは仲間を励まし、さらなる回復に当たる。とりわけ、砂猫の鳴き声の影響を受けていた仲間を確認すれば、セリカはすぐさま正常な状態とすべく異常を払っていたようだ。
「こうしたまたみんなと一緒にいる以上、みんなで無事に乗り越えていきたいから……!」
 それがセリカが抱く心からの願いだ。
 メルナもその後、鳴き声の影響を受けてか倦怠感を覚え、すぐに木の実を口にする。
「……怠惰になんて堕とされる訳にはいかないの。お兄ちゃんなら、そんな事……!」
 ギフト「月は陽の影となりて」の効力もあり、メルナは強い自己暗示によって勇猛果敢、不撓不屈の精神を宿す
 こんなところで動きを止めるわけにはいかないとメルナは気を張り、再びオーラの光柱を放って砂猫の身体を灼いていく。
「なーーーーー」
 怠惰な猫はただただ鳴くばかり。
 それでも、その身を纏っていた砂が剥がれかけてきており、確実にダメージを受けていることを窺わせた。
 リゲルも途中で意識が飛びそうになり、思いっきり自身の頬を叩いて。
「皆、立ち上がれ! 怠惰を、振り払え!」
 手にする2本の剣が輝いたのは、リゲル自身のギフト「光輝」によるもの。さらに、統率の力で仲間達が効率よく立ち回れるようにと力を発揮し、彼は怠惰に抵抗してみせる。
 その後ろでは、妻のポテトが気品ある仕草で木の実を食べていた。
 前線で砂猫の攻撃に耐えるアーリア、そして、再び木の実を集め始めるクラリーチェの体力を見て、ポテトは調和を賦活の力へと変えて振りまく。
「もう少しだ。強く意識を保つんだ。最後まで油断せずに頑張ろう!」
 浮世離れしたポテトの振る舞いは、彼女が人であらざる存在ゆえだろうか。ただ、ポテトの力は皆に活力を与えてくれた。
「なーーー」
 大きな動きこそ見せないが、アケディアキャットは声を上げ、時に手を振り下ろすなどしてイレギュラーズ達へと攻撃を続けている。
「私達を倒そうと必死になって、随分とまぁ」
 そんな中、横ではエリザベートがなおもアケディアキャットへと呼びかけを続けていて。
「――あなた、怠惰とか名乗ってる割に勤勉なのですね?」
「なーーーーーぉ」
 怠惰を罰とするエリザベートに、アケディアキャットの力が十分に発揮されることは無い。
 ただ、ユーリエが眠気を感じていたこともあって、エリザベートはヤシの実を口に含み、そっと顔を寄せる。
「さぁ、私の可愛いお姫様、お姫様のキスの味は」
 エリザベートが敢えてそうする理由は、彼女が本心からそう望んだからだ。
「んっ……」
 小さく口を動かしていたユーリエは、エリザベートの囁きに頬を染めながらも、しっかりと木の実を噛みしめて頷く。
 1人では眠気に耐えられるか分からないと考えていたユーリエだったが、周りの人と……特にエリザベートとなら、怠惰にも耐えられると確信する。
「そう、私たちは1人じゃない。皆と限界を越える力が備わっているのだから!」
 この先、上層で待ち構えると思われる絶望的な強さの難敵であっても……どんな絶望的な状況に陥っても希望に変えることができるように。
 言葉を紡ぐユーリエは霊刀を弓に見立て、刀身から溢れ出る魔力を矢として具現化していく。
「絶対に諦めない!」
 矢を引く彼女はさらに刃を振るい、衝撃波を飛ばす。
 直後、アケディアキャットに突き刺さった矢が桜の花を咲かせ、衝撃波がその花を舞い散らしていく。
 砂漠に舞う桜の花びらは実に華やかで、砂猫ですらも思わず見とれてしまいそうになってしまう。
 ただ、身体に傷を刻み込まれたその敵を、アーリアがなおもバッカス神の力を借りて強く呪いに侵す。
「なーー、なーーーーーぉ!」
 刺激された感情を抑えられず、全身の毛を逆なでたアケディアキャット。
 そいつへとリゲルが審判の一撃を叩き込み、セリカが紛い物の魔剣を錬金して敵の身体に破壊の兆しを刻み込む。
 続けざまにメルナが撃ち込むオーラキャノンに、さすがの怠惰の猫も苦しそうに表情を歪める。
 仲間達が攻撃を繰り返す中、アーリアはさらにそっと敵へと囁く。
「甘く深い夢、怠惰に溺れちゃいましょ?」
「な、なー……」
 刹那、異能の力を奪われ、砂猫は鳴き声すら上げられなくなってしまう。
 そこで、イレギュラーズ達が更なる攻撃を繰り出し、畳みかける。
 ユーリエの放つ矢が桜の花びらを咲かせた直後に舞い散り、ある程度木の実を確保したクラリーチェが敵の周囲へと土壁を起こして潰しにかかる。
 全力でリゲルが黒い顎をけしかけて鋭い牙を食いこませれば、さすがの怠惰の猫も身体を動かして。
「なー、なーーぉ……!」
 力を出そうにも、鳴き声も砂嵐も怒らず、アケディアキャットは苛立ちを見せていた。
 メルナがその隙に木の実を食べ、敵の至近距離にまで迫る。
 霊樹の大剣へと自身の意思抵抗力を込め、彼女は一気にそれを振り被った。
 生命力溢れる刀身の一撃を叩き込まれ、怠惰の猫は小さく呻く。
「な、あぁぁ……」
 直後、アケディアキャットの全身が砂と化す。
 見上げるほどの巨体であったはずが、すぐに崩れ落ちてしまい、吹いて来た一陣の風によって完全に吹き飛んでしまったのだった。


 全て終わると、砂漠の光景は下層と同様に無機質な石の床と壁、中央に石碑へと変わり、内側の壁に沿って螺旋状に上層へと階段が現れる。
「登った先の層では、一体何が待ち構えているのでしょうね?」
「次のフロアは6階か、随分高くまで登ったものだ」
 クラリーチェがそんな疑問を口にすれば、リゲルが窓の外を見下ろす。
 さすがに5階ともなればなかなかの高さ。
 この塔の行く末を目にしてみたいとリゲルは希望を口にする。
「決して負けはしないぞ!」
 意気揚々と叫ぶ仲間に、アーリアはにっこりと笑って。
「最上階に居るらしいクラリアさん、良いお酒でも用意していて頂戴ねぇ!」
 まだ何階層あるのかは分からないが、それなりのもてなしを要求する。
 ユーリエもエリザベートと至近で互いを労いあってから、師の元へと向かう。
「皆、お疲れ様。ありがとう」
 またしばらくは調査の日々になりそうだと感じながらも、ユーリエは協力してくれた仲間達へと感謝の言葉を口にしていたのだった。

成否

成功

MVP

アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯

状態異常

なし

あとがき

 リプレイ、公開です。
 MVPは罰が怠惰と言うことを活かし、勝手の違いを感じながらも前線で引き付け役となっていた貴方へ。
 今回はリクエスト並びにご参加、ありがとうございました!

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