PandoraPartyProject

シナリオ詳細

再現性東京2010:煤払い

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 音呂木神社――

 それは希望ヶ浜地区に古くから存在する由緒正しき神を祀る場所である。旧く、希望ヶ浜を襲ったと言われる水害より救いを与えた海の神を祀り、全てのいのちの源であるとされる祭神は日々の安寧を齎してくれるそうだ。
 その神社の一人娘にして、悪性怪異:夜妖<ヨル>と呼ばれる事象の対策を主として行っているのが音呂木・ひよのである。
「音呂木というのは古くはこの周囲の地名であったそうですが或る一時よりそう呼ばれるようになったそうですよ。
 本来は『御路木(おろぎ)』『戸路来(とろぎ)』とされ、神々のお通り道である神木を指していたのだとか。それが転じて『御途路来』となり、『音呂木』になったのだとか。って、面白いですか?」
「んー、難しいね」
 今日は音呂木神社の『煤払い』の日である。だが、祭事だからといって夜妖は大人しくはしてくれないのが悲しいところで或る。
 予てより『神社の手伝いを』と申し出ていた『人為遂行』笹木 花丸 (p3p008689)を始めとしたイレギュラーズはひよのの手伝いをしながら夜妖の出現を待つことになった。

 曰く――『大掃除も出来て、夜妖を倒せたなら一石二鳥でしょう?』だそうだ。

 この為に、怪しまれぬようにと巫女服の貸し出しをひよのは行ってくれた。両親は急な祈祷のために留守しているそうだ。
「さ、ささっと掃除をしながら『今年の汚れ今年の内に』と夜妖もばちばちっと倒しましょう。
 残念ながら夜妖も怪異(ほんらいのそんざい)も待っては呉れませんし、そうしたことが起こるのは神社だけではないですから……」


 ――今年の夜妖も、今年の内に。

 音呂木神社に持ち込まれたのは西洋人形であった。曰く、それがずっと付いてくるのだそうだ。
 くりくりとした水色の瞳は愛らしく、金髪を揺らした愛らしい人形。
 其れを見た限りでは何の悪しき気配も存在しない。
 何らかの怪異――此処で指すのは夜妖とは違いオカルトの分野の方である――かと思われたそれの対処を神主であるひよのの父が行ったそうだが、効果は余り芳しくはない。
「で、此れが『夜妖』であると言うことが判明したのです」
 ひよの曰く、神社に人形が存在したのにどうしたことかまだ『付いてくる』と持ち込んだ青年が言ったそうである。
 それは可笑しい。ひよのは自分が人形を抱いて居るから一先ず帰って欲しいと告げた。
 青年が神社を後にしようとした時――丁度、逢魔ヶ刻である。
 青年のaPhoneが着信し、突如スピーカーから大音量で少女の声が響く。

 ――「あたしのこと、すてるの?」

 幼い少女の声音と共に『ぐるん』とひよのが抱いて居た西洋人形の首がひよのを見た。
 ぎゃあ、と叫んだ青年はaPhoneを投げ捨てて其の儘、石段から滑り落ちていく。
 石段の下で母が青年を受け止めたことに気付いてほっと胸を撫で下ろしたが抱えている人形がやけに冷たいことにひよのは気付いた。
 見下ろせば、西洋人形の瞳が此方をしっかりと見ている。自身を認識している、と。
 つまり――『この夜妖は自身の存在と認識した者』に転々と取り憑き呪うのか。
 此れまで、オカルティックな存在だと父に言われ、そう扱っていたひよのも例外ではなかった。

「と、言うわけでして」
「……ひよのさん?」
「はい」
「呪われてない?」
「あはは」
「呪われてない??」
「まあ、簡単に言えばそうですね」
 つまり、『捨てられた事を苦にして人々に転々と取り憑き恐怖を与える夜妖』としてその西洋人形は存在したらしい。
 今、その取り憑き先はひよのである。
 何処までも追いかけてくると言うならば最初から神社で待ち受けて(ついでに皆に掃除をさせて楽をして)、倒してしまおうというのが今回の作戦であるらしい。
「恐怖とは最も面倒な感情ですよ。私はそれが夜妖で有ることを知っている為に、こうして迎撃をしようと考えますが、そうでない人間ならばこの恐怖から命を絶ってしまう可能性だってある。
 もしも、この夜妖に追いかけられ、慌てて足を滑らせたら呪いだと噂されるでしょう。
 簡単なことです、この夜妖は人を驚かせてるだけに過ぎない――ですが、『人を死に至らしめる可能性もある』のです」
 自分が呪われ続けるだけなら良いがターゲットが『他の普通の存在』に移ってしまうのも困る。故に、ここで倒しきろうとひよのは叩きを手に微笑んだ。
「ついでに、お掃除も」
 ……若干、そのついでの方が大きそうだが。

GMコメント

音呂木神社で大掃除と夜妖退治!

●成功条件
 夜妖『西洋人形の怪』の撃破

●音呂木神社
 ひよのの生家、実家。希望ヶ浜では由緒正しい神社さん。初詣スポットです。
 皆さんはひよのの口車に乗せられつつ大掃除や神社のお手伝いをしながら夜妖を待つこととなります。
 巫女服はひよのが貸し出してくれますのでお気軽に。一日巫女体験の気分でお気軽に楽しんで下さいね。

●大掃除
 蔵の中や祭殿をお掃除しましょう。蔵の中には『曰く付き』も存在するので注意して下さいね。
 やばい巻物なんかが出てくる可能性もあります。蔵の中が鳥渡したホラー状態。
 また、掃除が終わったらお茶とおまんじゅうなら頂けるそうです。ひよのは「優しいでしょう?」と微笑んでいました。

●悪性怪異:夜妖<ヨル>『西洋人形の怪』
 可愛らしい西洋人形です。宙をふわふわと浮かび、自身が存在をしっかりと認識した対象の背後をひたひたと付いてきます。
 所謂メリーさん等の類似品。逢魔ヶ刻に対象者の電話を掛けて、姿を顕現させます。徐々に対象者を精神的に追い詰め不幸に合わせるそうです。

 夜妖としての攻撃方法は非常に物理的な攻撃が多めです。
「またすてるの?」「どうしてすてたの?」「わたしのことがきらいなの?」と話しかけてきます。
 掛ってきた電話は切るまで繋がっています。ひよのの電話はまだ鳴っていませんが大掃除の途中に鳴り響くでしょう。
 掛ってきたらひよのに出て貰い、西洋妖怪を殴り倒しましょう。

●音呂木・ひよの
 音呂木神社の巫女。人形に呪われたそうですが飄々としております。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

 それでは、行ってらっしゃいませ。

  • 再現性東京2010:煤払い完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年12月10日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
コゼット(p3p002755)
ひだまりうさぎ
レスト・リゾート(p3p003959)
にゃんこツアーコンダクター
リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)
叡智の娘
しにゃこ(p3p008456)
可愛いもの好き
三國・誠司(p3p008563)
一般人
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華

リプレイ


「そうかそうか、もう年末か……」
 カレンダーを眺めれば最後の一枚になったことにふと、気付く。
 そんな年の瀬迫る12月。音呂木神社の『煤払い』に駆り出されることとなった『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)はふと、そう呟いた。
「……ぇ、大掃除ってなに、どゆこと。夜妖だけじゃないの。ア、ハイ」
 夜妖退治もイレギュラーズとしては大事な仕事。『一般人』三國・誠司(p3p008563)はそう聞いて来た訳だが、にんまり微笑んだ音呂木ひよのに「此れも大事なお仕事です」と叩きを手渡されて愕然としていた。
「レディが多く居るのですから、唯一の男性、高身長たる誠司さんには頑張って頂かないと。ね?」
「そーですね! うんうん、とりあえずしにゃは巫女服着てきますね!
 いやー、しにゃこに巫女服!! これって『鬼に金棒』って感じですね!」
 今日は馬子にも衣装と言い出す人間はいない。神社での活動になるからと巫女服等貸し出しを行うというひよのから無事に借り受けた清楚可憐な超絶美少女、『可愛いもの好き』しにゃこ(p3p008456)はいそいそと裏へと歩いて行く。
「なるほど、これが神社。カムイグラとはまた違うものなんだね」
 周囲を不思議そうに見回したのは『銀なる者』リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)。カムイグラと言えば古風な雰囲気であるだとか、奥ゆかしさを感じるが音呂木神社は都会のど真ん中に位置し、それなりに栄えた雰囲気を感じさせる。
「海向こうの国と比べれば再現性東京の中だけありますからね」
「うん。夜妖退治も大事だけどそれまでにお手伝いだね。皆で着替えようか」
 性別不明から女性として性を明かしたリウィルディアに怖い物はない。巫女服をしっかりと着用しようとひよのに着付けをお願いすることとなる。
「ひよのさん、お人形さんに呪われるとか全くもうっ!」
 ぷう、と頬を膨らませたのは『人為遂行』笹木 花丸(p3p008689)。流れるように夜妖について取り敢えず承っておいて後はイレギュラーズにでも任せてしまおうというひよのの魂胆が透け透けである。
「……でも、こうして花丸ちゃん達を声を掛けてくれたのは嬉しかったかな。
 大事な友達が困ってるのに何も出来ないって、やっぱり辛いから」
「まあ……」
 頬に手を当てて感激した素振りを見せたひよの――ではあるが、その手にちゃっかりと箒を握って居る様子を『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)は見逃さなかった。
「ひよのおねーさんのおうちは神社なの?」
「ええ。そうですよ。ですので、ひよのおねーさんは由緒正しき巫女なんですよ」
 へえ、と首を傾いだフルールは「巫女服が沢山だけれど、これはコスプレってわけではないのよね?」と瞬いた。
「折角だから皆で着ましょう? ねえ、ダメ?」
 くい、と裾を引かれた誠司はひよのの着用している巫女服を見て「え」と惑うような声を出した。
「……男性用もありますよ。女性用が良いならそちらでも」
「いやいや……」
 特異運命座標(ローレット)ってそういう所でしょうというひよのの偏見の視線が誠司へと突き刺さる。周囲をきょろりと見回していた『ひだまりうさぎ』コゼット(p3p002755)は「これを着ても良いの?」とひよのが手にしていた女性用の巫女服をまじまじと眺めた。
「巫女の服、着られるのを楽しみにしてたよ。とっても可愛いし。ほら、着用すると『おごそか』な気持ちになるね……!」
 おごそかって何だっけ、と瞬くコゼットである。彼女の傍らで不思議そうな顔をして神社境内を見回していた『貯蔵食品の紅茶たいむ』レスト・リゾート(p3p003959)は「お人形さんって今は居ないのね~?」とこてりと首を傾げる。
「ええ。どうやら今は顕現(み)てないようですね」
「ええ。ええ。おばさん、お人形さん遊びって大好きなのよ。
 お人形さんのお洋服を着せ替えるのって、楽しいものね~。だから、大好きなお人形さんが寂しそうなのは見ていられないなぁって……」
 寂しげにそう呟いたレストに「寂し気持ちを拭えるとよいですね」とひよのは微笑んだ。さて、其れは兎も角、着付けと掃除の始まりなのだ。


 この機会に巫女服を。神社で掃除を行うならば着用していた方が『怪しくない』とひよのが告げたこともあり全員が巫女服を着用することとなった。金の髪を持ったゼフィラは「似合わないだろうか?」と問い掛けたが、そんなことないとフルールは楽しげだ。
 義手は再現性東京の特に希望ヶ浜では『目立つ』事から通常の手足に見える物を選んでいるゼフィラ。しっかりと着こなして蔵の掃除の準備を整える。
「ふふ。どうかしら?」
 くるりとターンして見せたフルール。巫女服を着用する姿は愛らしいがお掃除に関しては『ちょっぴり難あり』なのである。家ではジャバウォックに乗って高いところのお掃除を、とするが此処では燃やすのもそういったこともNGだ。
「私は床を掃いたり雑巾掛けにしようかしら?」
「うん。その方が良いかも? 蔵の拭き掃除も必要そうだよね」
 耳をぴこりと揺らしたコゼットは巫女服の裾が汚れないようにとひよのにたすきがけをして貰っていた。巫女服を汚してしまうのも忍びないからだ。
「えへへー、ひよのさんの巫女さん姿を見た時から一度着てみたかったんだよね。ねっ、どうかな。花丸ちゃん似合ってる?」
「ええ、似合っていますよ」
「しにゃ程ではないですけど!」
 頷くひよのの隣からひょこっと顔を出したしにゃこは花丸以上に「ふんす」として居た。
「あら~おばさんも似合っていると思うんだけど~どうかしら~?」
 横ピースでアピールしたレストに「とっても似合ってますよ」とひよのは微笑んだ。
「うふふ。嬉しいわ~。それじゃあ、お掃除もよっこらしょ~とがんばりましょう。腰を痛めない程度に、ね?」
 よっこらしょっと立ち上がったレストが蔵へ向かって歩いて行く。その様子を眺めながら高い場所や重たい場所は『男手』が必要だとたすき掛けをして貰いながら誠司は「はあ」と溜息を吐いた。
「だれだよ身長高いほうがいいっていうやつ。大抵それで得するのはイケメンにかぎるんだよ。
 僕みたいな凡人野郎はこういう時に使い倒されるだけなんだよ」
「格好良いですよ。きゃー、いけめん。凄いです。掃除の天才」
「……ひよの」
「ふふ、頑張って下さい」
 適当なことを言っていると誠司はひよのをまじまじと見た。黙っていれば美少女として数えられそうな音呂木ひよの、今日も絶好調である。
「じゃあ、僕は境内の掃除をしてくるけど、音呂木……ひよのって呼んでも良いかな。ひよのに分からないことは聞いても良い?」
「ええ。リウィルディアさんも参拝客に会うかも知れませんし、ご不安は聞いて下さいね。私は社務所の整理をしてますので」
 にこりと微笑んだひよのに「宜しく」とリウィルディアは頷いた。巫女服を着用し箒を持てば愛らしい巫女さんが完成だ。
 さて、此れから『人形』が出るまで時間もある。掃除を頑張る時間が遣ってきた。
「って事で、ひよのさんっ! 今日は花丸ちゃん達にマルっとお任せっ!
 大掃除も夜妖退治もバッチリ解決してみせるから、ブイッ!」
 ダブルピースに「えいえいおー」と手を上げたイレギュラーズ。だが、その中でも本日の清楚可憐な超絶美少女は「ええ?」と首を傾いだ。
「せっかくの清楚が汚れちゃいません?汚さないようにしにゃは掃除を遠くから応援しようかと思うんですけど!?」
「だーめ」
「駄目? あー! わかりました! わかりましたから耳引っ張らないでください!!」
 花丸にずるずると引き摺られていくしにゃこを見てひよのは「今度私もやりたい」とよからぬ事を考えたのだった。


「よっこいしょ」
 蔵の中の荷物の埃を払うレストの傍らでコゼットは表情を曇らせる。コゼット自身は『ノイズ』をその長耳をぴんと立って感じることが出来る。悪意が強ければ強い歩、大きく耳障りな音が聞こえてくるのだ。
 音呂木神社の蔵には『有象無象』が多くある。不用意に触ることは避けていたいとコゼットが「ひよのさんに聞こうかな」と振り向けばフルールが「ひよのおねーさんを呼んでくるわね」とふわりふわりと歩き出す。
「ん……なんか、いやなノイズが出てるのが、あるみたいだけど、これって、どうしたらいいのかな?」
「ああ……一先ずは分けておいて貰ってもよいでしょうか」
 こくりと頷いたコゼットの『指示』を受けて飛行し高い所の叩きを担うしにゃこが「この巻物ですかー?」と伺い見る。
「うん。それ、分けておいて貰っても良い?」
「はーい! じゃあ、しにゃもパスしますね!」
 パス先は勿論せいじであった。やばいゴミと分けられた其れを誠司は闇市にでも流せば良いんじゃないか、と提案したが――ひよのは「後で校長に聞いときますね」とにんまり笑顔だ。
「わっせ、わっせ」と花丸はしにゃこと同じように高いところの掃除を行っていた。飛行してごしごしと擦る事で通常では総じて着ない場所も美しくなる。蔵という人目の付かない場所であったことが功をなしていたのだろう。
「巫女さんも大変な仕事だよねえ」
「そうですね、しにゃもっ、こんなに大変はっくちん!」
 埃でくしゃみの止らないしにゃこは「あ、これはなんでしょう?」と巻物に手を伸ばす。
「これ、開いてもいいですかね? 好奇心が止まらない年頃なんです!!」
「凄いノイズだよ?」
 コゼットに「ダメですかねー?」と振り向いた。ゼフィラは資料検索の応用で蔵の中を取り纏めながら蔵書を眺めて居たが――ふと、不思議そうな顔をして「君」としにゃこを呼んだ。
「その『黒いの』なんだい?」
「オギャー! どひぇー! ぎゃー!? 助けてー!?」
 ――一足早い妖怪払いが発生した気がしたが、ひよのが「とりゃ」と何かを投げればそれは霧散した。一件落着なのである。
「ひよの、これは何だい?」
「ああ、音呂木神社の歴史ですね。ほら、家系図。ここにひよのとあるでしょう?」
 指さすひよのは夜妖が訪れるまでの休憩として茶を振る舞っていた。コゼットは「ケーキも良いけどおまんじゅうもいいね」とのんびりとした空気に包まれる。
「ねえひよの。これって僕たちがいつも飲んでるのと。えっと、紅茶と何が違うのかな」
「紅茶とは加工方法が違うんですよ。此れは緑茶ですね。ご興味在ればレクチャーしましょうか?」
 ――そう、問い掛けたひよののaPhoneより非通知電話が鳴り響く。
 誠司とゼフィラが顔を見合わせ、花丸は保護結界を張り巡らせた。さり気なく花丸のまんじゅうを奪おうとするしにゃこをガードしていた彼女は「あとでおまんじゅう食べても良いかな?」と問い掛ける。
「ええ。後で改めてお茶を入れましょう。リウィルディアさんの為に複数種類」
「じゃあ、今はしにゃが笹木さんのおまんじゅうもら、ギャアアア!? か、カウンターとは、う、腕をあげましたね……!?」
 夜妖が出る前に満身創痍になっているしにゃこはまんじゅうを咥えながら鳥居の下にふわりと浮いている人形を見据えていた。


「人形……?」
『あたし、のこと、よんだ?』
 首が良からぬ方向にぐるん、と向いた。誠司は「ああ」と頷いた。夜妖という存在に対して『話す』ことがどれだけ意味をなすのかは分からない。だが、話しておきたいと皆がそう考えたのだ。
「今が逢魔ヶ刻……?」
 どうしてそう呼ぶのだろうと首を傾げるコゼットに「あとで教えましょうね」とひよのは笑みを湛えた。二人の前に立っている存在は『ノイズ』を発しているのは確かだ。だが、微動だにしない。突如として話しかけられたことに驚いているようにも感じられた。
「この人形、かわいい人形だけど、わるいやつなのかな?
 聞いた話だと、この人形、ついてきて話してくるだけで、特に何もしてないんだけど、男の人は怖がって階段から落ちただけだし……かわいい人形が、後ろからついてくるのって、かわいくないかな……??」
「うーん、まあ……怖いと言えば怖いんだろう。『この地域の人間はそうした現象は無いものと認識している』からね」
 ゼフィラにコゼットは首を傾げる。再現性東京は見たくは無いものに蓋をしているのだ。
『あたし、すてられるの』
 呟かれた言葉にレストは「そうね」と肯首した。寂しがった様子の彼女を見ていると何処か居たたまれなくてレストは説得をしたいと歩み寄る。
「そうね、子供は色んなものから卒業していってしまうわ。
 あなたが寂しいと思ってしまうもの、無理はないのかも……」
 人形は何も言わない。その様子をリウィルディアはまじまじと見詰めていた。妖精の敵意を感じ、警戒するコゼットの傍らでいざとなれば回復行動を行うとひよのの傍らに立っている。
「不思議ですね」
「え?」
「……夜妖にお優しいのですから」
 ひよのにリウィルディアは「これがイレギュラーズだよ」と微笑んだ。不意打ちには強いというしにゃこは人形の行く手を阻むようにその導線を塞いでいる。
(出来れば皆さんに元気にお返事して下さいね。しにゃ的にはあなたを最後までお世話する自信は無いので! ヒトに害を為すなら撃破するのみ! 我儘と言われても譲れません!)
 其れもある意味で『やさしさ』だった。ひよのをちらりと振り返った花丸は人形の硝子玉の眸が此方を見ていることに気付く。
「……ずっと一緒に居たかっただけなのに、捨てられるのは辛かったよね。
 御免ね、身勝手な私達で。それでも、君が誰かを傷つけるのだけは見過ごせないんだ」
『けど、わたしは、捨てられるわ』
「それにしても、お人形(あなた)のこと、ずぅっと考えたわ。
 大人になってもお人形で遊んだりするわけではないでしょうし、古くなったら人によっては捨てるわよね。『ずっと一緒に』はとても難しいこと。それはお人形に限らず、人と人でも同じこと」
 人に仇をなすならば退治しなくてはならない。壊せば二度とは戻らない。フルールはその様子をまじまじと眺め続ける。
「違うよ。捨てるんじゃない。君は死ぬんだ。終わるんだ。
 それは同時にこの世界で生きていたという証で、今から『君の最期』が訪れる。
 君がまだこの世界に居たいというのは分かるけれど……きっと誰かの幸せな時間を作ってくれたのだろうけれど」
 ――それが、理不尽であるかもしれなくとも。
 誠司はまっすぐに人形を見詰めていた。理不尽と言われようともコゼットの感じる『敵意』が、しにゃこの決意が。フルールは「ねえ」と柔らかな声で囁いた。
「そうね……もしうちに来てくれるなら、もう捨てられないわ。夜妖だとしても精霊とそう変わらないでしょうから、私のところならお友達もきっと多いわ?
 ふふ、夢を見ましょう。もう一度、誰かに愛される夢を。私が愛して、あなたの悲しみを拭いさってあげる」
 それが優しい優しい儚い夢であることを。フルールもレストも知っていた。知っていて、尚、『人形の心を救おう』と声を掛ける。
「ねぇ? 良かったらなのだけれど…うちの経営するホテルに住んでみない?
 子供連れのお客様も多いから、あなたが子供たちのお相手をしてくれると助かっちゃうのだけれど……あなたが寂しいと思う暇なんて無いくらい、たくさんの子供達が待っているのよ?」
『わたしを?』
「ええ。もうすてないし、子供と遊んでくれたあなたの事はきらいじゃないわ。
 お人形さんこの手を取って、またたくさんの子供達と遊んでくださらないかしら?」
 手を差し伸べる。刹那、コゼットがレストの前へと立った。人形が宙を浮き上がり一直線に飛び込んでくる。反射神経を活かしたしにゃこが「うわー!?」と叫んで受け止める。
「……お名前、教えてくれる?」
『わすれたの。こどもたちと、いたいけれど、でも、わたしは、夜妖(だめなこ)だから、』
 まるで泣いているようだとコゼットは感じていた。瞬時に癒し、支えるゼフィラは「せめて、最期の遊び相手にならなってあげられるよ」と静かに声を掛ける。
『わたしは、しぬの?』
「誰だって同じだよ。始まりがあって、終わりがある。君にも、そして僕にも。
 今はもうヨルになってしまったけれど……新しい君が今度はもっといい始まりを迎えるために、捨てるんじゃない、僕は見送りに来たんだ」
 誠司はひよのを振り返る。「この人形の『こころ』を救うことは?」と静かに問い掛ける。
「屹度、出来ますよ。ご都合主義もたまにもよいでしょう?」
「あはは、ひよのさんらしい言い方だ。じゃあ、誰が連れて帰ろうと恨みっこなしだね」
 花丸は頷いた。敵意をむき出しにした夜妖を祓うように攻撃を重ね続ける。
 誠司は一閃し、祓った。
 落ちたのは人形と、その背に貼られていた札だけだ。折角なら衣服も裁縫し、人形も修理しようとリウィルディアは長持ちさせるための保修を行うと彼女をそっと抱き上げた。
「ノイズが消えた」と呟いたコゼットにゼフィラは「夜妖『だった』部分だけが死んだんだね。彼女の、心が」と目を伏せる。
「心をわたしたちは送ってあげたのね。ええ、きっとそうだわ」
 うっとりと微笑むフルールはさようならと手を振って。
「夜妖(こころ)が生まれ変わっても西洋人形みたいな美人だといいね……あと巨乳だとさらにいいね」
 ぽそりと呟いた誠司にしにゃこは「え?」と言う顔をした。
「んーまあ、せめて生まれ変わったらお友達に恵まれるようにお祈りしましょう。
 丁度巫女ですし! 望み叶え給え~となんかそれっぽい感じに祈祷!」
 謎の美少女祈りパワーを発揮するしにゃこに人形の保修を行っていたリウィルディアは「今日一番の美少女はこの子だね」と微笑んだ。彼女には名前は未だ無くて、『新しい一歩』を歩み出したばかり。屹度、子供達の元へ行きたいだろうと、先程までの言を参考にレストと共に帰る事となるだろう。
「さ、お饅頭タイムを再開しましょうか! 人形さんも一緒ですよー?」
 にんまりと微笑んだしにゃこにレストは抱き抱えた人形に「往きましょうね」と笑み零して――

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 この度は有難う御座いました。
 皆さんがとっても優しくて、てっきり人形さんをドツいてさようなら!だと思ってました。
 心やさしさがジーンときました。お人形さん、大事にしてあげて下さいね!

PAGETOPPAGEBOTTOM