PandoraPartyProject

シナリオ詳細

Re:Re:Re:眼球病

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●様式集の中にある、極めて利己的な
 逃げている。
 逃げている。
 男がふたり、逃げている。
 脇目も振らず、一心不乱に、重しになるからと武器も鎧も食料さえもかなぐり捨てて、逃げている。
 すぐ後ろを追ってくる、それから懸命に逃げている。
 初めのうちは、狼のようなものだった。
 黒い泥でできた、顔を何やら呪文の書かれた何枚ものお札のようなもので覆われている、不格好な狼だ。
 だがそれは、追いかける内にみるみる姿を変えていく。
 狼のシルエットから、節くれ立った腕が何本も生えた。所々に眼球が開き、忙しなく動いている。狼の口が銅の半ば程まで割け、中から無数の黒い子鬼のようなものが飛び出してくる。
 子鬼の一体が、逃げる男のひとりに飛びかかった。
 肩にかかる重力。思わず振り払おうとして、男はそれと目が合った。合ってしまった。
 その顔は、眼球で埋もれていた。ひしめいていた。
 大小の、複眼混じりの、いやに人間的な、口も鼻もない眼球だらけの顔。
 なんとも気味が悪く、男は恐慌に陥りかけたところで、次が、次が、その次が、次が、また次が襲いかかった。
 埋もれていく「助けて」悲鳴が聞こえる「嫌だ」子鬼がおぶさって「痛い」積み重なって「そんな」やがて泥の塊のように「盗られた」なった頃。
 悲鳴が聞こえなくなり、いやに静かになった。
 飛びかかられなかった方の男も、思わず立ち止まる。
 狼が(最早そう言って良いのかも分からないが)襲ってくる様子もない。
 蠢いた子鬼の群れは、やがて溶けた泥が流れ落ちるように消えていく。
 そこには、傷一つない連れの姿があった。
 無事だったのだろうか。だが、ならば、何がしたかったのだろう。暴力的な行為に及ぶつもりがないのなら、どうして追ってきたのだ。どうして。どうして。
 疑問は消えないまま、動こうとしない相方の顔をのぞき込む。
 血の気がない。生きた心地がしなかったせいだろうか。
 何やらぶつぶつとつぶやいている。よく聞こうと耳を近づければ、彼は、
「盗られた、盗られた、盗られた、盗られた、」
 何を。そう返そうとした時、つぶやきをやめ、男が口を開いた。
 開いた。開いた。まだ、開こうとしている。
 めりめりと、音を立て、頬が割け、それが中から顔を出した。
「心臓を、盗られた」
 そう言って、顔を出した眼球だらけの子鬼が笑う。全ての目を笑みの形に歪めている。
 思わずあとずさる、つもりだった。
 いつの間にか、頭部を失った相方に腕を押さえられている。振りほどこうとするが、万力を錯覚するそれに、離れることができない。
 その内に、また子鬼が集まってくる。集ってくる、足から、段々と、上へ、上へ。
「呟いている」「心臓と黄金の鐘」「苛立たしい」「諸手を挙げよ」「哲学だ」「否定している」「何もかも」「ああ、それはいい」「好きな子は?」「僕のこと忘れないでください」
 子鬼達が、何かを言っている。言っている間にも這い上がってくる。追い詰められている。埋もれていく。
 視界がなくなる。子鬼達のつぶやきだけが聞こえている。意識がその内、正気を手放した。
「右からが弱い」「真下に注意」「全部嘘」「嘘の反対が正解ではない」「ならば考えるだけ」「面白い」「楽しい」「かたまり」「ぼくのこと」「私たちのこと」「忘れないで」「覚えていて」「名前」「名前は」「名前は」

「眼球病」

GMコメント

皆様如何お過ごしでしょう、yakigoteです。

人を襲う化物が出現しました。
これを討伐してください。

【用語集】
■眼球病
・節くれ立った腕を何本も早し、顔に護符を何枚も貼り付けた歪な狼。また、それより派生する子鬼の群れ。
・狼が本体であり、これを倒せば子鬼は全て消滅します。
・子鬼は狼の毎手番の開始時に3体ずつ補充され、最大で30体。それ以上は増えませんが、消滅させても最大数まではまた補充されます。
・子鬼に心臓を盗られると、身体の操作を乗っ取られます。体内に入った子鬼を消滅させることで心臓が戻り、身体の乗っ取りも解除されます。この状態による即死はありません。
・子鬼単体の戦闘力は大きくなありません。1vs1であれば駆け出しであっても問題なく対処できるでしょう。

・狼:子鬼を生み出す泥のようなもの。ある程度HPを消費するまで反撃を行いません。知能は人間並み。ひとの心臓を好む。攻撃力と命中に優れているほか、EXAが非常に高く、複数回の行動を取る可能性が高いです。また、腕を伸ばし、特殊なレンジで中距離までの複数対象を攻撃してくる場合があります。

・子鬼:狼の口から生み出される泥のようなもの。何かを呟いている。武器は、鉈・刀剣・槍など様々ですが、遠距離攻撃を行いません。人の口から体内に入ると、心臓を盗る。次のターンには体外に出て、群れに紛れます。


■シチュエーション
・夜間の草原。人里に近いが、化物の噂が広まり、誰かが近づく様子はありません。

  • Re:Re:Re:眼球病Lv:4以上完了
  • GM名yakigote
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2018年05月24日 23時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)
真実穿つ銀弾
ナーガ(p3p000225)
『アイ』する決別
郷田 貴道(p3p000401)
人類最古の兵器
オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)
果ての絶壁
宗高・みつき(p3p001078)
不屈の
プティ エ ミニョン(p3p001913)
chérie
ヴィクター・ランバート(p3p002402)
殲機
芦原 薫子(p3p002731)
雷迅之巫女
メル・ラーテ(p3p004228)
白黒の傭兵
アルム・シュタール(p3p004375)
堅牢なる楯-Servitor of steel-

リプレイ

●形式張って垣間見える、意図的に抽象的な
 初対面の相手に対する感情の大半が、第一印象で決まると言われている。身なりを整え、胸を張り、笑顔を浮かべる。好感を得たいのならばそれが必要だ。逆ならば、当然逆さまにすればいい。どちらにせよ、インパクトはある。

 日中は汗で張り付いた衣服が鬱陶しいほどだというのに、夜になれば肌寒さを感じる。今日はカンカン照りだが、それでも上着を持っていくべきなのか。朝の天気予報には独白を述べたものだが、どうやら専門家の推測は正しかったようだ。
 吹き抜けた風に内心で身震いをし、ため息を付いた。件の敵性生物は異形の群れだと聞いている。夜蝉の声もまだだろうに、怪談とは気の早いことだ。
「心臓を奪う子鬼に歪な狼、眼球病……か」
 出発前に渡された資料に記載されていた名前を、『断絶の死神』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)が口にした。
「やる事は変わらない、ただ斬るだけだが――あぁ。お前に対しては容赦はしないさ。
何故だかお前にだけは奪われるつもりはない。徹底的に斬り滅ぼしてやる」
「えへ、しんぞうをウバうだなんて……ナーちゃん、オトメゴコロがキュンってなっちゃう」
『アイのミカエラ』ナーガ(p3p000225)のもつ死生観や愛情表現は、およそ一般的とは言えない独自のものだ。
「でも、キミもアイさなくちゃいけないから、とられるわけにはいかないんだぁ。たっくさんアイしあえたらいいね!」
「やれやれ、また変わったモンスターだな。クレイジーで、それでいて強かだ」
 心臓を取る、という化物に、『ボクサー崩れ』郷田 貴道(p3p000401)が感想を漏らした。行動の意図が不明であるほど、その真意は読み取れない。食うのではなく、殺すのでもなく、奪う。だが理解できず、敵対的であるなら解答はシンプルなものだ。処分を、何も抜かりはなく。
「眼球の病に侵されたのは人間か怪物か。狼か赤頭巾か。何方でも好い。此度も我等『物語』は終幕を綴るのみ。此処に必要なのは筆で在り、心臓を爆音とは違うのだ。盗むならば啜るべき」
『Eraboonehotep』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)の言は難解だ。目玉の化物に、大事なものを盗られるよりもずっとずっと。
「ハートを奪われるなら可愛い女の子の方がいいよなぁ」
『不屈の』宗高・みつき(p3p001078)が軽口混じりにぼやいてみせる。確かに、化物が口から入ってくるだなんて冗談ではない。体内とは神聖なものだ。脆弱なものだ。同居など論外。だからこそ、侵入されると聞けば怖気が走る。
「これ以上被害を出さねぇよう、全力を尽くそうぜ」
「……情報だけだと厄介な敵って感じだけど、たぶん、そんな生易しいもんじゃないよね」
『cherie』プティ エ ミニョン(p3p001913)が、知り得るだけの情報を頭の中で反芻させた。混沌とした生物群には、時折思いもよらない生態や膂力を持つものが存在する。曰く、消して正面から相対するな。そう言われる化物があるのだ。
「気合い入れて行かなくっちゃね!」
「病、というには聊か趣味が悪く」
『殲機』ヴィクター・ランバート(p3p002402)に限らず、病と言われれば実体は菌類やウイルスの集合であり、またその症状を思い浮かべるだろう。神話伝承の世界ではないのだ、まさか目に見える驚異をそうとは言うまい。類似点を上げるなら、内側より侵すくらいか。
「病というならば病原体を消せばまた病も消える、か」
「鬼など概念のような物ですが、これはまたけったいな鬼もいたものですね、ふふ」
 暴力の化身。災害の象徴。呪いの権化。もしくは異人を指さして。そういったものと、件のこれを、『雷迅之巫女』芦原 薫子(p3p002731)は比べてみる。なるほど、えらく回りくどく、それでいて実体に干渉的な鬼が居たものだ。
「化け物退治、高ぶりますね」
「バケモノ退治たぁ腕がなるぜ……」
『黒白の傭兵』メル・ラーテ(p3p004228)が拳を握りしめる。ひとに害をなす化物を駆逐する。なるほど、確かに王道だ。こういうことを生業としているのだから、一種憧れや夢物語のようですらあるだろう。思い出と言うには少々血なまぐさいが、詩人が酒の肴に謳うくらいには丁度よい。
「そんじゃいっちょやるか!」
「今回も随分と厄介なモンスターが相手のようですガ、ワタクシ強敵とよくよく縁でもあるのでしょうカ?」
『鉄腕メイド』アルム・シュタール(p3p004375)が首を傾げてみせるが、すぐに佇まいを直して一礼する、
「何が相手だろうとワタクシのする事は変わりませン。護ると決めたからには指一本触れさせませんのでご安心ヲ」
 誰ともなしに、足を止めた。
 理由はと言えば口で説明のし辛いものだ。
 まだ化物が姿を見せたわけではない。だが、すぐにも暗がりの奥から顔を出すだろう。
 冷たいが、まだ穏やかな夜春の空気に一筋、異物が紛れ込んだような、そんな気配がしたのだ。

●格式張って漏れ溢れる、露骨にいい加減な
 河童の言う尻子玉のようなものだ。それを持っているはずの自分ですら認識できず、科学ですら証明できない。しかし確かに存在している。それを便宜的に、心臓と呼称しているのだ。

「こんにちは」「こんにちは」「こんばんは」「礼儀正しいなあ」「育ちが違いますので」「なんちゃって」「いい夜だ」「引っ掻き回したくなる」「掻き消してしまいたくなる」「ぐちゃぐちゃに」「ぐちゃぐちゃに」
 口々に。口々に。泥から生まれながら、這いずり出ながら、夜の向こうから鬼がやってくる。
 子鬼が一匹、子鬼が二匹。増えていく。飢えていく。
 奥からその母たる狼のようなものが現れて。
 互いに言葉を交わすことはなく。
 ただ純粋に理解を放棄し、排除すべき敵として動き出した。

●肩肘張って掴み取れぬ、貴方に含み有気な
 言葉を話すからには、何かしらの意図があるのだろう。提灯鮟鱇のようなものかもしれないが。

 子鬼の群れを無視して、クロバは歪な狼へと相対する。
 親を守るためか、目玉だらけの小さな異形共がまとわりついてくるが、体格の違いのせいだろう、自分を押し止めるには足りていない。
「お前を討つのはこのオレだ。奪えると思うなよ、眼球病?」
 黒の刃の影に白を隠し、隠し刀にしての二連を刻んだ。
 狼は動かない。節くれだった怪腕も振るわず、札越しの視線を向けるばかりだ。自分が今切られたばかりだというのに。
 手応えがなかったわけではない。クロバの刃は間違いなく化物の一部を削いだのだと断言できる。それでも攻撃に転じる素振りのなさは、やはりこれが異形なのだと確信させた。
「お前みたいなのが狼を名乗ってもな。オレの知る狼とは違うのでどこか気に入らねぇ」
 黒を上段に、白を正眼に。
「どちらが奪う者か……その身に刻め!」

 振りかぶったシャベルのさじで、ナーガが狼の表面を削り取った。平ではなく、側面で斬りつけるように振り下ろしたのだ。
 泥のような外皮が刮げて捲れ、中身が顕になる。見えたのは、詰め込まれた大小の眼球だった。
 それらが一斉にナーガを見ると、表面に近いものだけが潰れて溶ける。
 溶けたものがまた泥となり、狼の傷口にまとわりついた。
 数秒、あっただろうか。確かに小削ぎ落としたそれはしかし、何もなかったかのように黒い泥濘で覆い隠されている。
 口を覆うスカーフに手をかけようとしていた小鬼を掴み、適当に投げ棄てながら、ナーガはもう一度得物を構えやった。
 効いていない、わけではないだろう。ダメージを与えた実感はこの手に残っている。確かにアイを積んだのだと理解している。
 タフだというならそれでもいい。それだけ長く、アイし合えるのだから。

「さあ、ボックスだ! あの世に送ってやるぜ、ファッキンウルフ!」
 貴道は手近な子鬼に向けて拳を振り下ろした。
 ぐちゃりと、眼球を潰す感触が伝わってきて、内心で舌を出したい欲求にかられる。
 眼球への攻撃を忌避しているわけではない。寧ろ、どのような生物でも急所となりえ、それでいて目立つところにある部位だ。殺し合いがスポーツではあるまいし、弱点は狙うべきだろう。
 それでも、慣れる慣れないは別の話だ。
 飛びかかってきた一体をいなして返す拳を抉りこむ。
 スカーフが功を奏したようだ。知能がそこまで高くはないのか、どいつもこいつも口を狙ってくるためわかりやすい。それが口を隠すスカーフのおかげで行動が一手遅れるのだ。
 そうまでくれば、小柄な鬼と言えど、貴道に捉えられない道理はなかった。
 鬼の持つ刃の腹を抑え、五指を鷲爪のように広げたまま突き出した。
 さあ、次。

 眼球病討伐にと集められた彼らは、精鋭揃いだ。
 故に、小鬼の矮小な膂力程度であれば、気を抜いてさえ居なければさしてどうということはない。
 だが、それは少数の場合の話だ。新兵も数を揃えればベテラン兵を凌ぐこともあるだろう。それは群れて刃物を持った子鬼にしても同じことだ。
 みつきの術式が、積み重なった傷を癒やしてく。
 口に巻いたそれが、子鬼の習性をうまく阻害してくれている。
 刃物の扱いが美味いわけでもない、よって警戒さえしていれば、易易と口内に潜り込まれることもないだろう。
「俺の心臓はアイツの心臓。化け物なんかに盗られるワケにはいかねぇ!」
 そうやって、みつきは万全を整わせ続ける。
 この戦闘には、次のフェイズが存在すると知っているからだ。
 異音。見やれば、狼の節くれだった腕が動き始めている。
 蜘蛛を思わせるそれが、ここからが本番だと象徴しているかのようだった。

 薫子の斬撃が、小鬼を横ふたつに裂いた。
 数は多いが、個々体のそれは脆い。一撃でとは言わないが、数合も切りあえば圧倒できる程度ではある。
「あぁ全く、ぞくぞく致しますね。これは」
 肉を切る感触が、刀身越しに伝わってくる。本当に、脆い。個体であるならば。
 足に重みを、視線をやれば今度は顔に、腕に、腰に、たまらず倒され、頭巾を剥がされ、もがく、もがく。
 一体は潰した、だがその上から、嗚呼、藁藁と、嗚呼、入り込んでくる。覆いかぶさってくる。
 腹部に痛み。経験から、刃物による刺し傷だと分かる。視線は向けられない。視界が埋め尽くされている。
 どろりと、何かが口から出ていった。手を伸ばす。口が勝手に開く。何かを喋っている。意志とは反対に、何かを呟いている。
「盗られた、盗られた、盗られた、盗られた、心臓を盗られた」

 仲間の心臓を奪い、群れへと隠れようとする個体。
 夜闇もあり、見分けのつかなくなる寸でのところで、上空からの明かりが眼球だらけの見にくいそれを照らし出した。
 プティの連れた三本足の大鴉が、逃げようとするそれに狙いを定めたのだ。
 どくんどくんと、血管で繋がれていないというのに、心臓はまだ動いている。
 突如浴びせられた光源に驚いたのだろう。足を止めて空を見上げたそれを、プティは見逃さなかった。
 電磁加速され、音の壁を突き抜けた轟音が響く。視認上、着弾は同時といっていい。
 穴が空くのではなく、映画のように膝から下が消し飛ばされる子鬼。
 たまらず落とし、地面を転がる心臓を、駆け寄った仲間が手早く回収していく。
 他の子鬼がその仲間に集ろうとするのを、プティの次弾、また次弾が薙ぎ払っていった。

 ヴィクターが地に転がった仲間の心臓を手早く拾い上げ、空いたもう片方で後ろ手に手榴弾を投擲する。
 群れに飛び込む前からピンを抜いてあったそれは、着弾と同時に爆発。追手の気勢を防ぐことに成功する。
 急ぎ、仲間の元へと。土と砂にまみれたそれは、衛生面において懸念されたが、口に含ませただけで問題なく回収されていった。
 無論、飲んだだけで心臓が取り戻せるわけがない。だが、奪われるのも同じこと。外科的な認識とはまるで別カテゴリにある呪術的なものだと推測する。
 意識を失った仲間を横にさせるべく、主戦場を少し離れたことで、状況を俯瞰的に確認できた。
 敵の数は着実に減っている。だが、狼が動き出したことで戦況はまた、より緊張を強いられているようだった。
 回転式の拳銃を手に立ち上がる。駆け出しながら、狙いを定めていた。

 節くれだった腕による攻撃を、アルムが自身の盾で受け止めた。
 金属と金属が激しくぶつかりあったそれと、同じ音。空気中に霧散する同じ余韻。泥のようにも、肉のようにも、枯れ木のようにも見える狼のそれだが、一体何で出来ているのだろう。
 振り下ろされたそれに生えている眼球が、得も言われぬ不快感を残していく。忙しなく動き、規則性のなかったそれらが、一斉にアルムの方を向いた。
 眼球の群れが、細められる。狼の感情表現など知りはしないが、笑ったことだけは理解できた。
 それに危機感を覚え、より深く意識を集中させる。研ぎ澄ませていく。鋭角化させていく。
 視点が切り替わったような錯覚。前傾の姿勢。
 大口を開け、仲間に噛み付こうとする狼のそれに向かい駆け出し、間へと身体を割り込ませる。
 盾と牙の間で、また金打ち合う音が響いた。

 眼前に現れたそれをメルが避けられたのは、培われてきた経験によるものだろうか。
 黒く歪な、槍のようなものが眼前を通り過ぎていく。狼の持つ異形の腕だ。
 底に浮かぶ目玉が気味悪くて、通り過ぎ様に何発か鉛を見舞う。
 次を避ける。その次を、その次を、その次は、避けられなかった。
 左胸部から右腰へと、斜め下に自身を穿いたそれを、どこか他人事のように見つめている。
 触れればべチャリと、泥のような表面が非情に不快で、その奥には金属の感触が待っていた。
 痛みはまだ脳に到達していない。時間がいやに遅い。世界はこんなにも灰色で出来ていただろうか。
 眼球のひとつが自分を捉えた。瞬きをひとつ。途端に、色あせて停滞していた世界が急速に現実を取り戻していく。
 肺に溜まった血液にむせたのと、傷口の悲鳴が脳を掻き鳴らしたのはほぼ同時。
 悲鳴だけは意地でもあげなかった。

 仲間へと集る小鬼共に、オラボナわざとその身を晒し、手にした大盾でその強襲を受け止めていく。
 一撃一撃はさして問題がない。あるとすれば、数の方だ。
 切っても、撃っても、潰しても、薙割いても、キリがない。
 拉げて、悲鳴をあげて、しかし転がった目玉を踏みつけて、また次が来る。
 これは消耗戦だ。こちらのリソースは有限だが、向こうのマザーベースはひとつだけ。数を減らされるのが早いか、相手の拠点が陥落するのが早いか。これはそういう戦いだとオラボナは正しく認識していた。
 視界の外で、どさりと音がする。倒れたのだろう、仲間の名前を誰かが叫んでいた。
 自嘲気味に、二日月のような唇を吊り上げる。
 意思決定は迅速だった。
「眼球どもを屠るには無謀が必要だが、我等『人間』には不相応な力だ。即行動」

●伝統振って追いつけぬ、過去に囚われるな

 走る。
 ひとを抱えて走る。
 装備を抱えて走る。
 後悔は今でなくていい。仮定を思い浮かべるのは後に回していい。
 生きて変えれば、次があるのだから。
 走る。走る。
 喉が焼け付いて、太ももが鉛のように重くなっても。
 前に、前にだけ。
 振り返る余裕もなく、立ち止まっている時間もなく。
 息を続けられず誰かが立ち止まった時、喘鳴の中、後には何も、追いかけては来なかった。

 了。

成否

失敗

MVP

なし

状態異常

芦原 薫子(p3p002731) [重傷]
雷迅之巫女
メル・ラーテ(p3p004228) [重傷]
白黒の傭兵

あとがき

目玉の話。

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