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シナリオ詳細

<Common Raven>トカゲの願望

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●天舞う鴉への憧憬
 四人の男が薄暗い通路を進む。
 白い石でできたそこは長い年月をかけて緩やかに劣化したらしく、ところどころがひび割れたり砂をむき出しにしたりしていた。
 天井も崩れている部分が多く、上からぱらぱらと、あるいはさらさらと砂が雨漏りのように降っている。
「やっぱ帰ろうぜ……」
 四人のうちの一人、真ん中をおっかなびっくり歩いている男が涙声で意見した。
 先頭を行く特に大柄な男が一喝する。
「情けねぇこと言ってんじゃねぇ! 町のコソ泥に戻りてぇのか!」
「うぃゃぁ……」
 萎縮しきった男が肯定とも否定ともつかない半端な声を上げて俯いた。他二人も同じようにリーダー格の男から顔を逸らす。
 口に出さないだけで、帰りたいのはみな同じだった。通路に反響するほどの大声を出した男でさえも、内心では。
 それでも三人を率いてきた手前、そして町のコソ泥から脱却したいという強い願望の手前、大男は鉈を手に前を向く。
「ここにだって『色宝』が眠ってるはずなんだ。それを手土産に、俺たちは大鴉盗賊団に入る。ちっせぇ町でしょっぱい盗みを働くのは終わりだ。もっとでけぇ仕事をするぞ」
 どうせここまでくればもう引き返せない。顔を見あわせた男たちは、めいめい勇気を振り絞った。
 町の弱小盗人ではなく、大盗賊になりたいという思いもまた、恐怖と同じく全員の心に強くあったのだ。
 蜥蜴のように砂上を這い続けるのではなく。
 天舞う鴉の一羽になりたいという、願いが。
「……なぁ、なんか聞こえねぇか?」
「砂の音か風の音だろ」
「いや、もっと重い……」
 目の端に浮いていた涙を拭った男の言葉に、大男はさすがに立ちどまる。通路は終わりに近づいていた。その先は開けた空間になっているらしい。
 高値で買った情報によれば、色宝はこの遺跡の奥深くに安置されているそうだ。
「ぎゃぁぁぁあああ!?」
 最後尾にいた男が絶望の叫びを上げる。つられて訳も分からず大声を上げながら振り返った一同は、状況を把握してより悲痛に絶叫した。
「シャアア」
 牙から紫の糸を垂らす大蜥蜴が牙をむいている。
 男たちは一目散に通路を走った。開けた場所に出る。
「うあ」
 情けない声を上げたのは誰だったか。
 そこには十をこえる数の大蜥蜴が待ち構えていた。

●お仕事の話をしよう。
「はじめまして、イレギュラーズ。ああ、話が終わったら『僕のことは忘れておくれ』
 ラサ、ファルベライズ近くの小さな町で『空漠たる藍』ナイアス・ミュオソティス(p3n000099)は冷たい果実水を揺らす。
「今回の依頼は最近町で盗みを働いている小悪党たちの捕縛、だったんだけどね」
 事情が変わったんだ、と小さく息をついた。
「その小悪党四人組があろうことかファルベライズの、まだ『色宝』が残っている遺跡に行ってしまったんだよ。そちらの回収は別途、君たちに頼むつもりだったんだけどね……。
 大鴉盗賊団も君たちもまだ踏み入っていないということは、中に危険があるということだ」
 重々承知している、とその場に集まったイレギュラーズの顔にはあった。
「具体的には猛毒の蜥蜴がいるらしい。詳しい資料はこちら。
 君たちには小悪党たちをできるだけ生きた状態で捕縛し、かつ蜥蜴を退けて色宝を持ち帰ってほしい」
 微笑みながら、ああそれと、と情報屋はつけ足した。
「今のところ大丈夫みたいだけど、すぐに大鴉盗賊団もこの色宝の存在を嗅ぎつけると思う。可能な限り迅速にお願いするよ」

GMコメント

 初めまして、あるいはお久しぶりです。あいきとうかと申します。
 蒼穹を征く黒に憧れて。

●目標
・小悪党二人以上の生存
・大蜥蜴の殲滅
・遺跡奥部にある色宝『空色の短剣』の回収

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。
 
 ただし時間をかけすぎるとそれなりに手練れの大鴉盗賊団が十五人やってきて追加の戦闘になります。

●シチュエーション
 ラサ、遺跡群ファルベライズ内の石造りの遺跡内部。
 戦闘に十分な広さを有する円形の広間です。内部を構成する白い石が自ら光を放っているのか、地下にもかかわらず端から端まで見通せる程度に明るいです。
 天井も床もところどころ石が割れたり柱が折れたりしており、上からさらさらと砂が降っているところもあります。

●敵
・『大蜥蜴』×15
 2メートルほどの体長の蜥蜴。この遺跡に住み着いている。
 にくしょく。
 HPと命中に優れる。

・毒蜥蜴(P):【毒無効】【麻痺無効】攻撃がライトヒット以上で的中した時、対象が毒状態なら追加ダメージ
・鋭い尾(物・近・列):【猛毒】【乱れ】
・噛みつく(物・至・単):【猛毒】【HP回復50】
・突進(物・中・単):【飛】
・尾を飛ばす(物・遠・貫):【致死毒】ダメージは大きいがこの技を使用した後、該当の個体は『尾』を使った全ての攻撃が不可になる

●NPC
『小悪党』×4
 町でせこせこと盗みを働いていた四人組。
 皆様が到着したとき、四人は恐慌状態です。かつ全員が猛毒状態です。
 全員を助けなくても依頼は成功になります。

●アイテム
『空色の短剣』
 この遺跡に眠る『色宝』(ファルグメント)。刃も柄も鞘も秋空のように青い短剣。
 大蜥蜴以外に脅威はありません。必ず持って帰ってきてください。

 皆様のご参加お待ちしています!

  • <Common Raven>トカゲの願望完了
  • GM名あいきとうか
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年12月08日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
ヨハナ・ゲールマン・ハラタ(p3p000638)
自称未来人
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
鹿ノ子(p3p007279)
琥珀のとなり
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)

リプレイ


 痛いと苦しいが頭の中を占領していた。
 いっそ早く終わらせてほしいいや終わりたくな痛い苦しい。
 水の膜を通したように不明瞭に化け物の声がする。仲間の悲鳴も聞こえた気がしたがそれに対してなにかをする力なんて残っていなかった。
 指一本も動かない。手足があるのかも分からない。痛くて苦しくて死ねば楽になれるのにまだ死にたくないなんて思って、
「――男性の体に卵を産みつけるタイプのトカゲっ!」
 え?
 いやいやいやなんて? なんて言った? 誰だか知らんがなんて言った?
 前言撤回だった。死んだほうがましだと心から思った。この無駄にデカくてトカゲ、毒があるだけじゃなくて男に卵を産むのかと、人生で一番の絶望に苛まれた。だからいつまでもとどめを刺されていないのか。
 なるほどこれから卵を。俺に。なるほど。じゃあさっきの悲鳴は。
 すぅっと意識が遠くなる。完全にこの世とさよならする直前、嗅いだことのない匂いが――決して不快ではない匂いが、鼻先をくすぐった。
 きっとあの世の匂いだ。


 遺跡内を全力で書けていたイレギュラーズの視界が不意に開ける。
「見つけた!」
 叫んだ『「Concordia」船長』ルチア・アフラニア(p3p006865)は思わず顔をしかめる。
 ところどころ崩れた白い石は血痕で汚されていた。巨大な円形の、かつては広間かなにかだったのだろうその場所には、四人の男が散り散りに倒れている。十五体の大トカゲが獲物を取り合うように牽制しあっていた。
 まだ正気を保っていたらしい男が腕を踏まれて情けない悲鳴を上げる。
「皆さん待ってくださいっ! ヨハナの記憶が正しければあれは男性の体に卵を産みつけるタイプのトカゲっ!」
 石畳を踵で削って急停止した『自称未来人』ヨハナ・ゲールマン・ハラタ(p3p000638)の両脇を『桜花絢爛』藤野 蛍(p3p003861)と『桜花爛漫』桜咲 珠緒(p3p004426)が駆け抜ける。
 杖を掲げた『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)はちょうど近くで脱力した男と仲間たちに海神の加護を授けた。
 石と砂の遺跡ではまず嗅ぐことのない、潮の匂いが刹那、広間に満ち掻き消される。
「なんと!? ってその人、ヨハナさんの衝撃発言で気絶したように見えたッスけど」
 黒蝶の銘を持つ得物を抜き、保護結界を張り巡らした『琥珀の約束』鹿ノ子(p3p007279)は首を傾けた。
 大声を上げることで人語を理解しているのか怪しいトカゲたちの注目を集めたヨハナは怯むことなく、両手で顔を覆って世も末とばかりに天井を仰ぐ。
「R-18な器官からR-18な部位にR-18を経由してR-18をR-18するR-18ですっ! 本に描いてあったからヨハナは詳しいんですっ! なのであと一時間待つかすぐに助けるか選びましょう!」
「すぐに助けるの! ヨハナさんあとでちょっと話があるから!」
 血まみれの男に群がっていたトカゲを吹き飛ばし、蛍が肩越しに振り返ってヨハナの発言に委員長的注意を飛ばした。
 こほん、と珠緒は咳払いをして、救助した男を少女型ロボットのすずきさんに任せた。すずきさんは男を肩に担ぎ、壁際で救助者の治療にあたっているノリアと『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)の元に向かう。
「年齢的にはクリアですよたぶん! 保証はないですけどっ! しかしそうですねすぐですね助けましょうっ! うおおおおおヨハナに卵を産んでみなさいこのやろーっ!」
「え? このトカゲたち、本当に男性の体に卵を産むのかしら? 女性の体にも?」
「産まない、と思いますの……」
 ちょっと心配になってきた華蓮にノリアが応じる。
「たまご……は……」
「真に受けないで」
 片手を振って指輪を大型の鎌に変え、『砂食む想い』エルス・ティーネ(p3p007325)が気絶寸前の大柄な男を一蹴する。
 半分以上泣いている声だった男がちょっと安心した。すぐに蛍がその男を立ち上がらせ、肩を貸して後衛の元へと引っ張っていく。
「いれ、ぎゅ、らーず?」
「そうよ」
 ほとんど自分で歩けていない大柄な男体重に奥歯を噛みながら、蛍が応じる。飛びかかってこようとするトカゲたちは珠緒が牽制してくれていた。
 蛍の腕から逃れようとするように男が身をよじる。
「おれ、たちは、とう、ぞく、に」
「その話はあとで。今は大人しく助けられなさい」
「う、ぐ……」
 なおも抵抗しようとする男を蛍が一喝する。
「死にたくないなら、大人しく言うこと聞きなさいよ!」
 少女の気迫にびくりと男が肩を揺らした。そのはずみで蛍は倒れそうになるが、反対側から珠緒が男を支えてくれて事なきを得る。
 血の気をすっかり失い、毒も受けている男の横顔をちらと見て、珠緒は細く息を吸い、吐いた。
『夢があるならば……、名もなき小悪党で終わらぬために、生き延びる行動をなさいませ』
 頭の中に直接流れる声に、大柄な男だけでなく治療を先に受けている男たちも反応する。
 ある者は恥じるようにうつむき、またある者は痛みを堪えるように唇を噛んで。
 最後の要救助者である大柄な男はうなだれ、足元の渇いた石に一滴の雫をこぼした。
 テレパスを終えた珠緒は蛍と顔を見あわせ、浅く頷いて歩き出す。

「これで全員救助ッスね」
「ええ。報告にあった四人だわ」
 盗人たちはルチア、ノリア、華蓮の後ろに集められ、治療が施された。三人の表情を見る限り全員が一命をとりとめたらしい。
 手遅れにならなくてよかったと、エルスは密かに安堵する。
「真っ当に働いていればこんなことにならずにすんだでしょうに」
「全くッスよ」
 背中合わせに立つ鹿ノ子が肩を竦めた。
「まぁ、それが嫌だったのかもしれないけど……。この世に楽できることなんて存在しないんだから……」
「こんな目に遭うなら汗水流して働く方がマシだって、気づいてくれたッスかね」
「気づいてないなら気づかせてあげるわ」
 口の端だけで笑ったエルスが地を蹴る。短く笑声をこぼした鹿ノ子も跳ねるように駆け出した。
 広間の中央に立ったヨハナは発光する。
「容姿端麗自画自賛っ!」
 ぴんと立てた右手の人差し指を天井に向け、左手は腰に当てて薄い胸をこれでもかと張り、
「素敵で無敵な未来人っ! ヨハナ・ゲールマン・ハラタさ」
 んじょう、まで言い切る前に壁を蹴って急接近してきたトカゲに右腕を噛まれた。勢いのまま引き倒される。
「あいででででで」
「ジャァァア!」
 左目を縦に斬られたトカゲがたまらずヨハナの腕を離し血の尾をひきながら後退する。
 くるりと鎌を振って血糊を落とし、エルスがそれを追った。トカゲは大口を開けてエルスを威嚇する。
「尻尾を切って逃げてもいいのよ」
「シャアアア!」
「そう。覚悟はできてるってことね」
 突如真横から熱湯を撃ちこまれたトカゲが絶叫した。高温高圧の熱水流の源には、筒状の杖を構えたノリアがいる。
「体力自慢だと、聞いていますの……。長く続くこの痛みは、お辛いことでしょう」
 業火に分類される異常を負い、トカゲはノリアに突進しようとする。
 その間に鹿ノ子が立ち塞がった。
「おーっとここから先は立ち入り禁止、どうしてもというならこの鹿ノ子さんを倒してから行くッス!」
 毒を防ぐ魔法がかかった大粒のエメラルドをメイド服のポケットに潜ませ、鹿ノ子は挑発するように切っ先を揺らめかせた。
「さぁさぁ、どこからでもかかってくるッスよ!」
「皆さん! ヨハナをお忘れでは!?」
 ヨハナの発光が強まった、気がする。

 雑草すら見つけられない地下空間に、炎熱の桜吹雪が舞う。
「これだけの数だもの。ひとりでこなすには負担が大きすぎるわ」
 かつて数学の教科書だった司桜を手甲型の防衛武装に、同じく国語の教科書だった御桜を剣に変形させ、蛍も引付役を務める。
「シャアアア!」
 桜吹雪に触れたトカゲたちが一斉に向かってくる。
 突進をかわし、振り抜かれる尾を防衛武装で弾いた。眼前に迫っていた大口は頭を後方に大きく振って回避、眼前で短剣のように鋭い歯が噛みあわされ、がぎんと音が立つ。遅れた前髪の先が少し散った。
 殺気を感じてとっさに振りむいた先に、また鋭歯の群れ。
「く……っ」
 これは、と思った直後に視界が白く染められた。
「ジャアアア!」
 トカゲたちが悲鳴を上げて仰け反り、示しあわせたように神聖な光の中から退避する。目を閉じていた蛍は光が収束しきる前に目蓋を開き、周囲の状況を確認した。
「遅くなりました」
「ううん。すごくいいタイミングだったわ、珠緒さん」
 蛍を中心に神気閃光を全力で発動させた珠緒に蛍は小さく笑む。蛍に致命的な傷がないことをざっと確認して、珠緒はわずかに肩の緊張をほぐした。
「今、色宝のありかを探っています」
「さっき飛んでいった蝙蝠だね」
「はい。直に見つかりましょう」
 攻撃のチャンスを窺うようにトカゲたちがゆっくりと動いている。
「小悪党等と呼ばれても、夢に向かい手を伸ばす方々。見捨ててよいものではないでしょう。……夢の方向は、正したく思いますが」
「うん。それに死ぬような目に遭えば、『小悪党』でもきっと心から反省して真人間に戻るわよ」
 背筋を伸ばした蛍の横顔には、気高さがあった。
「だって信じたいじゃない。人の心を」
「……はい」
 嗚呼、嗚呼。
 この先何度も思うのだと、珠緒は確信する。
 故に藤花とともに歩みたいと。
 彼女が、桜花とともに往くことを願うのと同じように。

「こーら! 動かないの!」
 こっそり逃げようとしていた大柄な男に華蓮の叱責が飛ぶ。
「大人しくしていなさい、この大鎌に巻きこまれないようにね……!」
 飛んできた尾にタイミングをあわせて大鎌を振るい、拮抗の末に両断して見せたエルスの発言まで重なって、
「受胎したくなかったら絶対にヨハナ達から離れないでくださいっ!」
 さらに男性の体に卵を産みつける(とヨハナが一喝した)トカゲへの恐怖で、ついに男は首を縮めて元の位置に尻を下ろした。
「まったくもう。危ないでしょう?」
「ごめん」
 うっかり謝ってしまい、リーダー格の男はばつが悪そうにする。他三名の男たちも、まるで自分が叱られているように悄然としていた。
「戦いが、終わるまで、大人しくしていてほしいですの」
「っていうか名前をお聞きしないと呼びにくいのだわ。私は華蓮なのだわよ。よろしくね」
 肩越しににっこりと微笑まれ、男たちが次々口を開く。
「ラット」
「ブルームっす」
「アゼゼです。そっちの美味しそうなお嬢ちゃんは?」
「ノリア、ですの。食べないで欲しいですの」
 杖先をトカゲに向けながら、困った顔でノリアが応じる。
 周囲からの視線を受け、最後にリーダー格の男が名乗った。
「……ディグ」
「な、質問」
 最初に救助されたラットが片手を上げる。華蓮が頷いて先を促した。
「なんか嗅いだことのない匂いがするんだけど、なんだ?」
「たぶん、海の匂い、ですの」
 仲間たちと要救助者たちがトカゲの毒を浴びないよう、ノリアが定期的に使用しているわだつみの寵愛の副次的な効果だ。
「海……」
「あら、海を見たことがないのかしら?」
「俺たち、砂漠の集落育ちで……。そことここらしか知らないんだ」
「この戦いが、終わったら。行ってみると、いいですの」
 躊躇うように男たちが視線を交わらせる。
 さて、と華蓮が手を打ち鳴らした。
「おしゃべりはここまで。今はとにかくじっとしているのだわよ。返事は?」
 はい、とディグすら声を揃えて華蓮に答える。
 男たちはなんとなく彼女に逆らい難いものを感じていたのだ。
 現時点では、自分たちでその感情に名前をつけられなかったが――のちにふと振り返ったとき、あれは魂に刻まれた『根本的なところで母ちゃんに逆らえない』という在り方だったと、認識することになる。

 ルチアと華蓮の治癒の光が方々で明滅する。
 前衛たちの間を縫って後衛目がけて猛進したトカゲに鹿ノ子が迫った。
 大きく跳躍し真上から口腔へと貫通するように得物を突き刺す。暴れるトカゲの背に一瞬だけ着地して刃を抜き、後方に回転しながら離脱。身を翻して突進してきたトカゲの上顎を片手で掴み、逆の手で先ほどの傷口を寸分違わずまた刺した。
 たまらず仰け反ったトカゲから刃を引くついでに片目を裂く。
「いやぁ、さすがに痛いッスね」
 上顎を掴んだ際に手のひらに思い切り歯が食いこんでいた。他の傷もあわせて痛むが、気にしていられない。
「目が潰れれば攻撃の精度が落ちるッス。特に尻尾が厄介ッスからね……」
 豪速で放たれる尾は、掠っただけでも無事ではすまない。保護結界がなければ壁に穴が開いて、下手をすればこの地下遺跡が崩壊していた可能性があるほどの攻撃だ。
 生身で直撃を食らうことなど考えたくない。エルスは一刀両断して見せたが。
「なかなかしぶといかしら? けれど私たちも引き下がらないわよ!」
 着実に数を減らしていくトカゲを見据え、エルスが戦場を駆ける。華蓮の治癒を受けた鹿ノ子も、手傷を負っているトカゲを狙い確実に仕留めていく。
「蛍さん……!」
 敵の中央に飛びこみ桜吹雪を舞わせる蛍の肩に、トカゲが食らいついていた。すぐさま珠緒が神気閃光の光で引き剥がす。
「大丈夫。誰かを死なせる痛みに比べたら、こんな痛みなんともないわ……!」
 膝を突きそうになる身体を叱咤して、蛍は気丈に顔を上げる。
「無茶は禁物ですとも! いざとなったらトカゲの百や二百、ヨハナがぐわーっ!」
 片手に鍵のような鈍器を持ったヨハナが神々しく光りつつかっこいいポーズで言いかけたところにトカゲが突進、自称未来人が飛んでいく。
「みんなもう少しよ!」
「最後まで、油断なく、ですの……!」
 華蓮の柔らかな激励が背を押す。ノリアは祈るような声で仲間たちを励ました。


 最後のトカゲが石と砂の空間で倒れる。
 動かないことを確認してから、珠緒が身を翻した。
「色宝を回収してきます。さっととってきますので、退路の確保と警戒を願います」
 戦闘中に放っておいた蝙蝠が珠緒の頭上にいる。無事に色宝を見つけ出し、安全域で待機していたのだ。
「私も行くわ。待ち伏せがあったら危ないもの」
 警戒を解かないエルスが名乗り出る。珠緒は微かに頷いて、奥部へと続く穴をくぐった。エルスも続く。
「まだ物音はしないッスね」
 戦闘にかかった時間を、地上に繋がる唯一の出入り口に立った鹿ノ子はざっと計算する。大鴉盗賊団の到着まであとどれくらいだろうか。
 消耗した状態で出くわしたくないが、もしそうなったなら戦う覚悟はできていた。
「これに懲りたら、これからは真面目に生きなさいよね。命さえあれば、きっと今からでも幸せになれるはずなんだから……」
 色宝を回収次第、すぐ走り出せるように盗人たちを立たせて蛍は言い聞かせる。男たちは小さくなっていた。
「生きるため、だったのでしょうけれど……。きっと、毒と一緒に、罪も、洗い流されましたの……」
「きちんと謝って償えば、町の人たちも許してくれるッスよ」
 励ますノリアと鹿ノ子に男たちが唸る。
「貴方達」
 両手を腰にあてた華蓮に男たちが大げさなほど飛び上がった。
「悪いことをして稼ごうとするから、もっと大きな事件に巻き込まれることになるのだわ! 清く正しく……、できる限りでもそうあろうと心がけることは、貴方達の心をきっと充実させるのだわよ!」
 う、と男たちが詰まったところで、エルスと珠緒が戻ってきた。
「あったわよ、色宝。ネフェルストへ引き渡しに行きましょう」
「任務完了ッス!」
「急ぎましょう」
 鹿ノ子を先頭に、ルチアも続いて地上へ続く細い道に出る。空色の短剣を丁寧に持ったエルスも足早に進んだ。
「何事もございませんでした」
「よかったわ」
 心配そうな視線を感じ、珠緒が蛍に報告する。蛍は胸を撫でおろした。
「この遺跡に挑む度胸があれば、他の生き方も探せましょう」
 すれ違いざま、珠緒は男たちにそう声をかける。
「ほら、貴方達も行って! 最後尾は嫌でしょう?」
 背後から襲われる危険もあるのだからと、華蓮は男たちを先に行かせる。
「急ぐ!」
 蛍にも急かされ、男たちは小走りでイレギュラーズを追った。
「これから、どうしますの?」
 並んで歩くには狭すぎる道を進みながら、ノリアが問う。
「いいですかっ! 盗賊団に入ったところでいい暮らしが待っているとは限りませんっ!」
 まだ発光しているヨハナは、薄暗い道で光源になっていた。
「そこにあるのは圧倒的序列制度っ! 欲求不満な男所帯っ! そう、なにも起きないはずがなくっ! たちまちにお尻をがっ」
 出っ張っていた石にヨハナが爪先をぶつけ衝撃で言葉を切る。
「なるのか?」
「よく分からないけれど、可能性としてはあると思うのだわ」
「圧倒的序列制度はあるわよ、たぶん」
 華蓮とエルスが頷く。蛍と珠緒、ノリア、鹿ノ子、ルチアも首を縦に振ることにした。
「俺、町で償ったら、地元に帰って母ちゃんを手伝おうかな」
「俺も地元帰ろっかな……」
 ブルームとアゼゼが控えめに手を挙げる。
「俺は海に行く」
 ラットが気恥ずかしそうに宣言した。
「俺は」
 迷いながらもディグは言う。
「あの町に、残りたい」
「応援してるわ」
 にこりと華蓮が笑む。エルスは色宝を、まだ秘密の多いこの至宝を握り締めた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)[重傷]
鏡花の癒し

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。

迅速な対応の結果、大鴉盗賊団と鉢合わせることなく撤収できました。
その後、四人は町で奉仕活動を行うことになったようです。
「なぜか親孝行したくなって、ウン年ぶりに母ちゃんに手紙書いた」
という話もあるとかないとか。

ご参加ありがとうございました!

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