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シナリオ詳細

勇者を鍛えるだけの簡単なお仕事。

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 高く険しい岩肌の山、その頂に立つ禍々しい城。
 その最奥、玉座の間の王だけが座ることを許されたその椅子に、深く腰を沈めている巨体。
 紫色の身体を覆う黒く刺々しい鎧と、その背から生える大きな翼――この世界で『魔王』と呼ばれる彼は、眉間に深い皺を寄せ険しい顔をしていた。
(魔王様、そろそろ人間共を滅ぼす気になったのですね……!)
 傍らに控える山羊の従者は、魔王の眉間の皺に「時は来た」と心を躍らせる。前回の魔王侵攻は数百年前であり、そこで勇者に討たれた魔王は永い永い眠りの中、滅びの力を蓄えていた。
 代々魔王に仕える生家の父も、その祖父も魔王の目覚めを待ち続け「お前こそは、魔王様と共に人間共を滅ぼしてくれ」と子に希望を託したと聞いている。そうしてついに、魔王は目覚めた――のだが。
「いや待て、まだだ」
 魔王は手元の『ソレ』から目を離さない。
 嗚呼、彼が真剣に見つめるそれが人間界の地図で、侵攻地点を見繕っているのであればどれだけよかったことか!
 世界を滅ぼさんとするこの魔王が執心しているのは、そう。
「もう少し――もう少しで最高の米が出来るのだ! 侵攻どころではない!」
 人間達の流行だという『げぇむ』なのだから――


「平和だなー」
 魔王城から遥か遠い、小さな村。
 少年がベッドに寝転がり、漫画を読んでいた。漫画の中では勇者が魔物を剣で打ち倒していて――そういえばと部屋の隅に目をやれば、そこには埃を被った剣が立て掛けられていた。
 少年は、この世界の『勇者』。世界が決めたものであり、自分自身も受け入れてはいる。けれど、残念ながら生まれてこの方十数年、自分の出番が来ることはなかった。
(このままのんびり、かわいい子と結婚して宿屋でもやるのも悪くないな……)
 ぱらぱらと頁を捲る内――ふぁ、と欠伸を一つ。
『勇者』は漫画を閉じると、睡魔に身を委ね午睡へと落ちていく。


「勇者とか、魔王とか。よくこの図書館の本でも見かけるけれど……こういうもの、なのかしら」
 境界案内人のシーニィ・ズィーニィは、一冊の本を前にううん、と唸っている。境界図書館の中は常に一定の温度に保たれているとはいえ――冷え込んだ幻想の空気を思えば、彼女の装いを見ているだけで身震いがしそうなのはさておき。
「随分とやる気のない魔王様と勇者様みたいだけど、それを心配している人もいるみたいね」
 ほら、と開いた頁では人間の大人達が勇者をどう鍛えるか会議をしている様子。稽古をつけるのが手っ取り早いものの、遊びたい盛りの少年は稽古をサボってしまうようで。ならば荒療治だと――トラブルを起こそうとしているのだ。
「悪者役として暴れてもいいし、勇者をその気にさせてサポートしてもいいみたいね……ちょっと面白そうじゃない」
 私なら悪役かしら――そうシーニィは笑みを零すと、本を閉じる。
「それじゃ、あと一杯紅茶を飲んだら出発よ」
 さて、悪役か味方か。どちらを演じるとしようか――?

NMコメント

 平和が一番、けれど備えも大事。飯酒盃おさけです。
 気を張り詰めていた期間も終わり、ゆるく遊んでみるのはいかがでしょうか。

●目標
 小さな勇者を成長させること

●舞台
 いわゆる剣と魔法のファンタジー世界。
 ですが最近は魔王が稲作のゲームをやり込んでいるようで、侵略の気配がありません。
 とはいえ飽きたら大変、今の内に勇者を鍛えましょう。

●勇者
 10代中盤の少年。
 遊びたい盛りで修行をサボりがちです。
 剣と盾を持った前衛タイプ、腕前はまだまだですが根は素直であり、戦闘時は突っ走り気味。
 綺麗なお姉さんには弱い。
 
●できること
・悪役側
 ここぞとばかりにヒャッハーと悪者ムーヴをするもよし、悲しき事情をでっちあげるもよし。
 自身のスキルを格好良く使いながら、最後はイイ感じに負けてください。
 演出用の血糊と爆薬(安全)は用意されています。派手に散りましょう。

・仲間側
 勇者の村へと立ち寄った旅人でも、お主に力を授けに来たのじゃ……な意味深キャラでも。
 未熟な勇者をサポートしつつ、戦ってみてください。
 こちらにも演出用の血糊が用意されています。力を託して事切れる(フリ)のもありです。

 各1名以上配置を推奨しますが、希望が偏っても構いません。
 参加者が少数の場合、隣村の人が暴れたり手助けに入ったりします。

●フィールド
  勇者の住む隣村の広場。戦闘には支障ありません。
 周囲にはいくつかの家屋や小さな教会がありますが、皆基本的には屋内に避難しています。
 ここの村人は勇者育成にノリノリで、人質でもなんでも協力してくれるようです。
 傷を負っても教会ですぐ治るので安心。

●サンプルプレイング
 ヒャッハー!全力で悪役しますぞ!
「我こそ魔王軍第二百五十八部隊が隊長、トテモ=ツヨーイですぞ!」
 手当たり次第にその辺の花を踏みつけて悪者アピール。お花さんごめんですぞ。
 勇者なぞこのマジックフラワーで燃やし尽くし……ぐわー!(爆薬で吹き飛ぶ)

●備考
 敵側、仲間側と別れる為多少のPVP要素が入りますが、あくまでも演出です。
 相談内で「このスキル使うよ」「じゃあこう躱してこれで反撃する!」なんてことを話してみても楽しいかもしれませんね。
 勿論相談がなくとも、こちらで掛け合わせるのでご安心ください。

 また、ライブノベルは成功が確約されております。
 こんなことしてみたい、このスキルでこんなことできないかな、と自由にプレイングをかけてみてくださいね。
 それでは、ご参加お待ちしております。

  • 勇者を鍛えるだけの簡単なお仕事。完了
  • NM名飯酒盃おさけ
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年12月08日 22時10分
  • 参加人数4/4人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

回言 世界(p3p007315)
狂言回し
カロン=エスキベル(p3p007972)
対価の魔女
ハンス・キングスレー(p3p008418)
運命射手
アイザック(p3p009200)
空に輝くは星

リプレイ


「さて、どうしましょ? おさぼりちゃんが農薬のない稲作の大変さを思い知ってる間に、もう一人のおさぼりちゃんを鍛えるってわけね」
 今頃はお米作りの厳しさを痛感しているはず、と、『対価の魔女』カロン=エスキベル(p3p007972)は明後日の方を見つめる。
「俺は敵役か……うまくできるといいんだがな」
 恐らく得意運命座標の中で最もこの境界図書館で過ごすことの多い『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)が顎に手を当て思案する。ちなみに時折噂になる「白い亡霊」の正体はこの男。
「ふふ、怠惰。あまり『良い子』とは言えないね」
 虹色のキューブを煌かせ『都市伝説“プリズム男”』アイザック(p3p009200)が笑う。勇者が『悪い子』であれば与えるのは制裁。けれど、彼が改善し、反省するなら。寛容な都市伝説は手を貸そう――判断するのは、その後でも遅くない。
(……)
『虚刃流直弟』ハンス・キングスレー(p3p008418)は、ゆっくりと口を開く。
「少し、僕に時間をください」
 数日でいい、準備をしたいと告げる彼に、仲間も了承を返す。
(嗚呼、僕は屹度――あの人たちの真似事を、してみたくなっちゃったんだ)
 だから――ね。
「今日という日の花を摘め」
 ハンスの小さな声は、彼ごと本の中へ溶けて消えた。


「あ、危ない――!」
「へ? うわああああ!」
 その日、『彼』は空から降ってきた。
「……ごめん! きみ、大丈夫?」
 空の色を映した淡いブルーの瞳から、目を離せない。ふわり、青き翼がくすぐった腕が少しむず痒い。
「だ、大丈夫……えっと、なんで空から?」
「えっと……言えない、ごめん」
 本当はずっとその屋根の上にいたけれどね、なんてハンスは心中で舌を出す。
「そっか。じ、じゃあな!」
「待って!」
 ハンスは身体の下から抜け出そうとする勇者の手を取ると、じっとその瞳を見つめる。
「僕は君と、友達になりたいんだ」

 それからの三日間は、勇者にとって初めて尽くしの日々だった。
 ハンスと名乗った空からの使者は、勇者の身体を抱えると空へと飛び立って。
 聞いたことのない歌を歌い、生まれ育った村を二人で見渡し。そうして遠い魔王城を指さしては「あれを」とだけ呟き表情を曇らせた。
 自宅に招かれ、勇者の部屋で眠りに落ちるまで他愛もない話をした。翌日は夜通し星を眺め、明け方には昇る太陽を眺めた結果、両親に酷く叱られて。
 そうして三日目、ハンスは勇者へと一つの提案をする。
「ねぇ勇者くん。賭けをしよう」
「なんだよハンス、いきなり」
「僕が負けたら何でもするし、君が勝ったら修行を受けて」
 渋々受けたその小さな賭けである手合わせ。一見ひ弱そうなハンスに気を抜いた勇者の顛末は――推して知るべし。
 そうしてその日、二人は倒れ込むまで肉体を苛め抜き――
「はぁ、はぁ……なぁハンス、なんでいきなり修行だなんて言ったんだ?」
「何でって、それは――……ごめん」
 自分にとっての彼のように、彼にとっての“鬼”のように――小さな勇者の『師匠』は多くを語らない。


「んもう、うふんあはんな展開は私の役目でしょ!」
 翌朝、カロンは勇者の家の扉を豪快に開け放つ。
「大変よ! 隣村にモンスターが出たわ!」
「……カロンさん! まさか、あれが!?」
「えっ待って君誰!? あとモンスターって!?」
 困惑する勇者の手を二人が引きぐいぐいと引っ張る。急な展開に付いていけないのも仕方ない。しかしもう隣村には『奴ら』がいるのだ。
「カロンよ、話は向かいながら! ほら早く行くわよ!」
 ぎゅ、と腕にしがみつけば――たわわなそれの感触。みるみる鼻の下を伸ばした勇者は、鼻息荒く剣を手に取って駆け出した。
 嗚呼、昨日までの師弟のしっとりとした空気はどこへ。けれど年頃の少年があの圧に勝てるはずもない!

「しっかり掴まって!」
 箒の後ろに勇者を乗せ、隣を飛ぶハンスと共にカロンは空を往く。アイザックから託された情報を勇者に伝え、気分を乗せるのがカロンの仕事。
「隣村に出たのは『プリズム男』ってモンスターね。顔がきらきらしてるやつよ!
 倒したと思っても何度か復活するし、死んだふりからの奇襲には注意よ。弱点はコア、胴体辺りにあるはず。ビームみたいなものも使ってきたから遠距離が得意そう……その分接近戦は苦手かもしれないわ」
 真剣なカロンの声音に、流石の勇者もきゅ、と唇を結ぶ。
「アイツを打ち破れるのは勇者くんしかいないの……頼んだわよ!」
「……わかった!」
 カロンの言葉に強い返事を返した勇者は、傍らを飛ぶハンスと目を合わせ頷き合う。
 いよいよ見えてきた隣村には――『プリズム男』達が待ち構えている。


「ハハ! コノムラ、キョテンニスル、ジャマモノ、サレ」
「プリズム男。あまりやり過ぎるなよ、建物は残して俺達が使うんだ」
 アイザックの放つ七色の光が、家屋を壊していく。ちなみにこの家、老朽化により立替予定につき家人はむしろ手間が省けたと大助かり。
 悪しき振る舞いを隣の屋根の上で眺める世界は、ふん、と駆けてくる勇者一行を見降ろしている。
 高さ効果で威厳は倍増、村人により風が下から起こされ白衣も靡いている。
「遅かったな。もうこの村は俺達のものだ」
「ユウシャ、テキ」
「――貴様ら」
「行くわよ勇者くん!」
 プリズム男がこちらを指差し敵だと認識するのに合わせ、意味深に二人を睨むハンス。
(ふふん、邪悪な魔女じゃなく勇者の尻を叩いて発破をかけるお姉さんだなんて!)
 カロンは発破をかけようと尻を叩きかけ、その絵面の危なさにそっと手を引く。流石に勇者の尻を物理的に叩くのは、ほら、ね?
 腹を括ったらしい勇者は、腰の剣を抜き二人の姿をきっと睨みつける。
「勇者よ、貴様の相手はこの俺だと言いたいところだが、今の貴様ではその資格すらない。まずは我が最強の部下にお相手をさせてやろう――行け、プリズム男」
「ギョイ。ユウシャ、ハイジョ」
 世界の合図と共に、アイザックが七色の光を揺らめかせ、その姿をより捉え難く惑わせる。
(さ、これで準備はOK。気軽に打ち込んでね)
 手筈通りに光を発そうとした刹那――勇者の横を青い風が吹き抜けた。
「遅いよ」
 ハンスが後方より空を駆け距離を詰める。小さく「落ちろ」とだけ呟けば、アイザックの身に閃光が降り注いだ。
「容赦ないね」
「彼の為でしょう」
「……だね」
 距離を詰め、言葉を交わす。ふ、と笑ったアイザックは、一歩後ろへ飛び退いた。
「ほらほら、私に続いて!」
 カロンが開いた魔術書から、黒い鎖が蠢く。そこから放たれた刃は、目にも見えないままアイザックの肩口を掠る。
「……っ、おりゃあ!」
 アイザックが体勢を崩した所に、勇者が切りかかるも――今一つ腰の引けた剣は、アイザックの揺らいだ姿を捉えきれない。しかし、事前に伝えていた通り『プリズム男』は接近戦を不得手とする設定。
「クッ、コシャクナ!」
 アイザックは追い詰められた演技で、世界が立つ家屋の壁へと後ずさる。そこへカロンが更に泥の弾丸を撃ち込み、ハンスと勇者が続いて。
(そろそろかな)
 迎撃を続けていたアイザックが「キサマ、ジャマダ」とカロンの力を封じる術式を放ち――
「う、あ」
 カロンが口元に当てた手から、血(糊)が零れる。
(結構ホントに痛いし汚いんだけど! あとでお風呂よ!)
「カ、カロン!」
 勇者が駆け寄り、カロンを抱き抱える。血に濡れた手を勇者の頬に当てると、カロンは小さな声で呟く。
「短い間だったけど……楽しかったわ。貴方が魔王を倒す姿が見たかったけど、私もうダメみたい」
「そんな!」
「必ず……プリズム男と魔王を倒すのよ」
 最期にそう、耳元で呟き、頬に口づけをひとつサービスに。
「この、このおおおお!」
「グア、ユウシャ、キサマ、グアア……!」
 勇者が胴に打ち込んだ一撃で――アイザックは爆発し、彼方へと飛ばされていった。

「ふん、部下を退けた程度で調子に乗るなよ青二才。この俺が直々に力量の差というものを分からせてやろう」
 白衣を靡かせ、世界が下へと飛び降りる。正直足がじんと痺れるが顔に出すわけにはいかない、なぜなら悪役だから!
「……ああ、折角だ。一対一というのはどうかな? 断るのは自由だがその場合」
 世界がおもむろに指を弾くと、遠巻きに見ていた村人が「ぐわー!」と爆発により飛んでいく。
「……わかるな?」
「お、お前……卑怯だぞ!」
 カロンの死(そっと這って退場中)と村人の華麗なアシストでやる気になった勇者に、笑みを返す世界。
「勇者くん、その」
「大丈夫、ハンスはそこで見てて」
 勇者は剣を持つ手に更なる力を籠め世界に斬りかかるが――衝撃波に阻まれ、ろくに近づく事すら叶わない。威嚇にしか過ぎない術も、勇者の身体を徐々に蝕んでいく。
「もう終わりか、勇者。期待外れだな」
 世界が腕を掲げた瞬間――そこへ割って入ったのはハンスだった。
「大……丈夫……っ?」
 夥しい程の血に塗れた翼で、頬を擽る。さあ、後はもう一押し。
「僕、前の魔王が無理やり産ませた子で――ごめん、言えなくて」
 だから、復讐がしたかった。運命だって作りもの。けれど、君を守れてよかったと最後に零して――ハンスは目を閉じる。
「カロン、ハンス……俺、勇者になる。魔王を倒す!」
立て続けに二人の仲間を喪った勇者は、潤んだ目で世界を見据え剣を叩き付ける。
(……上出来だろうか)
「くっ、この俺に傷を……雑魚風情が生意気な!」
 荘厳な黙示録を奏でた世界から、禍々しきオーラの幻影が放たれる。
 大技を受ける構えを取った勇者に、世界は――
「興が冷めた。次に会った時が貴様の最後だ。それまで精々足掻くがいい」
 ばさり、白衣を翻し煙が立ち込めると――そこにはもう、誰の姿もなかった。

 その後、勇者は見違えたように稽古に励んだという。
 彼が魔王を倒すのは――もうすこし、先の話。

成否

成功

状態異常

なし

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