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シナリオ詳細

<Common Raven>若さの泉

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「きれいだね」
「うん、きれいでしょ? いい? ちょっとだけだからね」
「わあ……」
 少女が手のひらで包み、太陽に透かすのは、きらきらとしたガラスの欠片だった。
 砂漠で拾った、単なるガラクタ。
 これは大人たちが騒いでいる『願いを叶える宝』などではない。他方の少女もそれをわかってくすくすと笑い、ごっこ遊びに付き合っているのだ。
「これがあるとね、みんなしあわせになれるんだよ。たべるものにこまらないし、としもとらないし、びょうきもけがもしないし、あと、おとうとは私の言うことを聞くの!」
「いいなあ。弟が生まれたんだっけ……」
「ね、耳かして。おしえてあげるね、これね」
 パアン、と、小さな銃声が響いた。
「……ちゃん?」
 そしてもう一つ。乾いた音が響いた。

「ちっ、ガキの跡をつけてみりゃあ。ガラクタかよ。ま、もらっとくかねぇ」
 少女たちの死体を見下ろし、ヒゲをなでつける男……。男は二つの死体を一顧だにせず、ガラスの欠片を無造作にポケットに入れた。
 大鴉盗賊団、<黒杖のヤース>。残忍な賊であり、殺した数は数知れず。数えようと思ったこともない。
「あーあー、宝が埋まってるって話してたからよぉ、ついてきたけどよぉ、所詮こんなものっすねぇ、ガキの浅知恵なんて」
「ま、ガキなんてもんにさいしょっから期待してなかったけどな?」
「まったく、ボスはよくそんなに簡単にガキが殺せるな。眉一つ動かさずに……」
「動きがのろいからな?」
 彼らお得意のジョークだ。
 下品な笑い声を上げる。
「にしても若いってのは腹立たしいねぇ、可能性に満ちあふれてて、ホントに大好きだよ、全く。……で、新入り。おまえ、いくつだっけ?」
「に、にじゅう……」
(いち!)
「にじゅういち! にじゅういちっす!」
 耳打ちされ、男はぶんぶんと首を振り、さばを読んだ。
「ふーん。よかったな。二十歳以下は俺のルールで死刑だ。酒も飲めないなんて生きてる価値がねぇからな」
「さすがボス!」
「お酒は二十歳になってから。おっと、以下だと含むか? まあそりゃ俺の気分次第よ。ルールは守らなきゃだめだぜぇ? っと、寄り道している場合じゃなかったな。<若さの泉>か……」
 男は思案する。色宝が一つ。この遺跡にある小さな泉からは若返りの水が湧くとは言うが……その効果は限定的で、そして、デメリットも大きいと聞く。
「そろそろ死体にも気がついた頃かねぇ。そうだ、”奴ら”で試してやろうじゃねぇか?」
 そして男は、なおも笑みを浮かべる。


「許せないっす……! 無関係の子供を殺すなんて……!  パサジール・ルメスの民として、黙ってはいられないっす!」
 リヴィエール・ルメス(p3n000038)は今にも飛び出さんばかりだったが、自分一人ではなんともならないことはわかっている。
 自分に出来るのは道案内……それも、相手がおそらくは待ち構えているだろう遺跡までの……道案内。
「町の人が帰ってこない子供たちを探しに行って、銃声と死体に気がついて、あたしと……パカダクラのクロエであとを、砂に紛れそうなあとを必死に追いかけて……追いかけて……追いかけたけど……」
 遺跡に入っていく彼らを止めることはできなかった。だから歯を食いしばって………道を戻った。絶対に忘れるまいと思いながら。
「でも役目は果たしたいっす。お願い! 色宝……ううん。色宝は大事だけど。あの宝物を、取り戻してほしいっす! 罠があるかもしれないし、きっと待ち構えてる。でも、それでも……逃がしてはおけないっす!」

GMコメント

 布川です。
 敵は一計を食らわせたことにより、かなり無防備に追いかけてくるので……。
 なんといいますか。はい。ご存分に!

●目標
 大鴉盗賊団、<黒杖のヤース>の討伐。

●状況
「ってわけで。貴様らイレギュラーズもなあ、ガキにしちまえばこっちのもんってわけだ。……そおら、10だけ待ってやるよ。この遺跡は俺たちが封鎖してるってわけだ。キヒヒヒ! 追いかけっこと行こうじゃないか。なあ?」

 イレギュラーズたちは<若さの泉>の水を浴びて10歳程度(任意)若返り、全体的に弱体化しています。
 具体的にはHP・AP半減~4分の1減程度。
 油断させるためにあえてかぶったか、うっかりか、それはともかく。
 小学生くらいになった人、一回り大きくなった人、誤差範囲のため全く変わらない人、様々だと思います(自己申告制)。弱体化程度は変わりません。

●場所
 遺跡内。入り組んだ迷路のような洞窟。罠などは遺跡に残っているものがあるかもしれませんし、すでに解除されたものもあります。
 暗がりで、何かを仕掛けるならうってつけ。なんたって相手はものすごく油断しているようですから。
 盗賊たちは遺跡をざっと探索しただけなので、ほとんど構造を知りません。
 このまま戦うなりいったん逃げて攪乱するなり、お好きにどうぞ。

●登場
黒杖のヤース
 大鴉盗賊団の一派。
 ”若さ”のために色宝を求めている、残忍な盗賊。
 一見すると30~40代前後の若い男に見えるが、本来の姿は腰の曲がった醜い老人。
 全盛期の自分を追い求め、様々な呪術に手を出したが、どれも成功しているとは言いがたい。手足はしわがれ、声は枯れ葉のよう。額には不釣り合いな深いしわが刻まれており、若さと不老の命に嫉妬を抱く。
 範囲の神秘攻撃を用いる。

下っ端×5程度
 ヤースが<助手>と呼ぶ下っ端たち。彼らは不老不死に魅せられていたり、あるいは単に金払いのよいヤースに付き従っていたりします。
 いずれにせよ許しがたく残忍であることには変わりません。

●色宝<若さの泉>
 わずかに人を若返らせる泉の底に沈んでいる青い石。
 ……なんて便利なものがあるわけもなく、効果は遺跡内でのみの幻覚と重い副作用です。
 半日もすれば元に戻りますし、遺跡から持ち出せば効果はほとんどありません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。
 幼児化というか低年齢化プラス弱体化のみされてますが、ほかにはないです。

  • <Common Raven>若さの泉完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年11月30日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
黒武護
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
シルヴェストル=ロラン(p3p008123)
デイウォーカー
バーデス・L・ロンディ(p3p008981)
忘却の神獣
黄野(p3p009183)
ダメキリン

リプレイ

●ゲームの始まり
(若さが欲しいなんてまるで嫌な貴族みたいじゃないの……)
『暁の剣姫』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)は、きつく手のひらを握りしめる。
(子供まで殺して……こいつら……っ)
 そんなもののために……。
「何の関係も無い子供を殺したんだね」
『気合いだよ気合い』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)は、依頼内容を聞いたときからずっと険しい顔をしている。
「未来に心を弾ませて夢を追いかける子供を」

「い~ち」
 盗賊が、数を数える。
「くそっ、頭が重い……若さの泉だと? ちっ、意味がわからねえんだよ。何がどうなってやがる!」
 三十六計逃げるに如かず。
 真っ先に状況を判断し、逃げることを選んだのは『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)だった。
「へっ、ぞっとしねぇな」
 思わず喉を押さえる。
 グドルフの声はいつもの酒で焼けた声ではなく、ハスキーボイスだ。
「ガキ殺しのチンケな三流盗賊のくせにいい気になりやがってよ……」
『ザ・ゴブリン』キドー(p3p000244)もまた、グドルフに続いて逃走を図る。
「来ねぇのか、ゴブリン!」
(まあいい! 油断しているなら都合がいい)
 笑い声がするが、構わない。今はなりふり構わず逃げるときだ。

「に~い」
「はっはっは、お坊ちゃん。高く売れそうだな?」
「……「実年齢から10歳引かれたところで、僕なら誤差だから大丈夫だ」と言った事は、どうか忘れてほしい」
 年端もいかぬ少年となってしまっていた『デイウォーカー』シルヴェストル=ロラン(p3p008123)。
(やれやれ)
 ため息を吐くシルヴェストル。
 魔術の知識が、この現象を説明している。これは……まやかしに過ぎないと。
 若返りの効果などはない。
 そんなこともわかっていない連中は、実に。実に暢気なものだ。
 とはいえ、弱体化してしまったのも事実。
(年を重ねてからやっと若さがどうのとか言い出して、まともな成果も上げられないような怠惰極まりない……失礼。悠長すぎる輩に殺されるなんて御免だよ)

「ぎゃー!!
もともと小さいというになんてことしてくれるんじゃ
これでは足ぷるっぷるの仔馬ではないか!!」
どっと盗賊たちは笑う。
『正直な旅人』黄野(p3p009183)は叫び声を上げた。
「いやじゃ……ドナドナはいやじゃ! 競売などかけられとうない!
とゆーか馬でもないが!」
 黄野は行け、と視線を送る。
『忘却の神獣』バーデス・L・ロンディ(p3p008981)は頷いた。
(ふ、同じ獣のよしみじゃな)
 争いごと……血のにおいは似つかわしくない。

 大切な赤子はそっと、遺跡の小さな部屋に。
 静かに眠っていられるように、とバーデスは鼻先を押しつける。
 赤子だけであれば、おそらくは発見されまい。
 ミルヴィから託された、ねずみのカットを背に乗せて。
「皆、小さい、コレ? 分かった」
 喋り方を確かめる様にしていたバーデス。
「イマ、行く」
 黄野は敵を突っ切り、走り出していた頃。同時に、バーデスは地を蹴った。

 火薬の匂イ。
……この遺跡にはまだ、罠がある。

●逃げの一手
「……しかし山賊、お前、随分雰囲気変わるなあ」
「けっ、言ってくれるな」
 キドーは素早く小さな横穴を見つけた。
……両手両足突っ張って登れるような狭い横穴。ここに隠れられるのはキドーくらいだろう。
「あばよ」
「くたばるなよ」
『三賊同盟』の2人が分かれたとたん……バタバタと盗賊たちがキドーの下を横切っていく。
 首筋は無防備。
 一体、いや、二体なら首を掻き切れるだろう。
 だが、まだ人数が多い。今ではない。
「おっ」
「どうした?」
「タダのトカゲだ」
 キドーにはわかる。
 黄野の使役する式神だ。
(落ち着け俺……むしろこれまで持っていた力が分不相応だと思え。元より俺らゴブリンはか弱い生き物よ)
 臆病になれ。
 逃げて隠れて、一番最悪なタイミングで最悪なことをする。
 逃げている最中にいくつか罠を見つけた。それを仲間も見逃すはずはない。
(筋金入りの悪辣さを見せつけてやるぜ)

(この姿…独りだった頃を思い出しちゃう、ね。……ちょうどこの頃貴族共の玩具にされてたんだっ、け……)
「……」
 身震いがした。
 ミルヴィを勇気づけたのは、離れたところにいるカットが見ていたバーデスの赤子だ。
 あどけない表情。
 守らなくちゃならない。
 連中にもう二度と、あんなことはさせない。
 軽やかに罠を察知して跳ねるバーデス。
(こっちにいけばいいんだね?)
 立ち止まってくるりと振り返るネズミを追いかけ、ムスティラーフはすいすいと浮き、罠の上を飛んでいった。
(若返りの泉、老いたこの身にとって歓喜するべきものだね。鈍くなった僕の体を少しでも取り戻してくれるなら良かったけど、ちょっとの若返りじゃ副作用の方が大きく出ちゃうか)
 この身体は軽い。けれど……反動がある。
 まだうまく制御できない。
 とりあえず、まずは下ごしらえ、だ。
 ムスティラーフは、まきびしをぽいぽいまいていった。
 と、そこへグドルフがやってくる。
「いいじゃねぇか。奴らにはお似合いだな」
「いいでしょ? これで時間を稼いで、もっとすごいのを用意してくるよ」
「いたぞっ!」
「へっ」
 ライトヒールが一瞬だけ辺りを照らす。グドルフは避けない。
 盗賊がナイフを振り上げたそのときだった。
 暗闇に潜んだバーデスが、唸り声をあげて首筋に飛びついた。
「よしっ!」
 グドルフは思い切り蹴りを食らわせる。
 敵は大いにぶっ飛び、罠の上へと落ちていく。
 バーデスはくるりと身をひるがえし、安全に着地する。
 盗賊の悲鳴が響き渡っていた。
「こいつっ!」
「調子に乗るなよ、クソ野郎がっ!」
 クロスボウを構えて、山賊撃ちを解き放つグドルフ。
「あばよっ!」
 ネズミのカットが、縄をかじった。
 落石罠が道を分断する。
「ナイス、ネズミくん」
「……っへ」
 クロスボウの反動が肩に来ている。やはりこの変化はやっかいだ。
「……」
 バーデスは一瞬、グドルフに声をかけようか迷ったが、何も言わずに暗闇に消えた。

●追いかけるもの
「一人、倒シタ。後ろ、道、ダ」
「畜生! 一人やられた!」
「落ち着け!」
 イレギュラーズたちと盗賊たちの立場は、今や逆転しつつあった。暗闇の中。どこまでもどこまでも……バーデスの唸り声が追ってくる。
 そしてその音は巧妙に響き渡っており、位置を特定できるものではない。
「目が! あの目が追ってくるんだ! おい、見たか……見たのかよ!」
(ふむ)
 シルヴェストルは一部が掻き消えた魔法陣を見つけた。簡単な魔術だ。知識で補えば、再利用は容易い。それにあの盗賊たちにこの罠を活用できる知恵はないだろう。
(おそらくは……テレポートか)

 エクスプロードの爆発音が響き渡る。
 暗がりに潜んだキドーが、盗賊に一撃を当てたのだ。爆発し損なっていた火薬に引火し、ガラガラと道が崩れる。
 バーデスはうなずき、また暗闇に消えた。
 一人、引き離した。
(持久力もなくなってるのはキツイなクソッタレ……)
 一発一発、確実に当てるしかない。
 そして、その音を聞いて慌て出す盗賊たちは声を潜めていたが……。
「……手前20mってとこか、二人」
 わめき散らす声を聞き漏らす義弘ではない。
「大丈夫かい?」
「ああ」
 シルヴェストルに、義弘は答える。
「俺はそこそこ歳だからよ、20代に戻ったくらいだが、それでも体に違和感がある。こちらに来てからの方がまあ、強くなってただろうしよ……」
 己の拳を見つめる。
 頼れるものはこれだ。
 この腕力で渡り合い、何度も修羅場をくぐってきた。
 託したぞ、と一言残して、義弘が姿を通路に現す。
「おい、こっちだ」
「くそが! 殺してやる!」
 次の瞬間、隙間に潜んだシルヴェストルが罠を発動させる。
「!? そんな場所に」
 身体が小さい、というのは場合によっては便利なものだ。
 テレポートが発動し、一人を分断した。
 振り返れば景色は変わっている。
「テメェ!」
「「おい、チビだ! いたぞ」」
 同時に叫んだ盗賊たちは凍り付く。
(いままで追っかけとった相手が真後ろに姿を表したら、何が起こったかわからなくなるであろ? ふふ)
「鬼さんこちら。手のなる方じゃ」
「ひっ」
 同時に二か所から聞こえる音は、相当に恐怖だったに違いない。
(……ま、式神も手を鳴らしとるんじゃがの)
 黄野はにやりと笑う。
 堂々とその姿を現した黄野は、情けなくわめきちらす子供などではない。
 堂々とした佇まい。
 びしりと扇を突きつけた。
「瑞獣たるおれに縄をかけるとは不敬千万罪なき子らに手をかけてもおる。仁なる者判定、アウトじゃ。やってよし」
「そうだね。この世界の敵だ」
 シルヴェストルの魔力撃が敵の姿勢をのけぞらせ。
 そこへ、義弘が拳を振り上げる。
(容赦する必要はねぇ)
 スーサイド・ブラック。
 怒りを込めた重い一撃が敵を打ちのめす。
「倒した、か」
 身体は……技のキレは鈍っていない。しかし、反動が大きい。
「僕は問題ないよ」
 それは、手近な者から魔素を奪う術式だ。倒れた盗賊で杯を満たしたシルヴェストル。盗賊には二つの傷跡が残っている。
 シルヴェストルはやや大きくなった眼鏡の位置をなおした。

●追い詰められる盗賊たち
「今何人残ってる?」
「兄弟はやられた」
「はあ!? さっき会ったぞ」
「俺があんなガキ共にやられるかよ」
 一撃でかき消える幻影は、黄野の放ったもの。
「!」
「じゃあさっき確認したってのは……」
「あてにならないってか。おまえも式神とやらかもな、フン」
 正確な人数を……把握できない。
 散った仲間はどうしているのか……。
 まただ、また、あの遠吠えが聞こえる。
 盗賊の一人は震え出す。
「まさか、これは遺跡の呪いなんじゃ……」
「馬鹿言え、奴らに惑わされるな。探せ! 全員殺せば問題ねェだろ!」
(誰がほんものか、疑心暗鬼になるがよい)
「畜生!」
「へっ」
 キドーが、散り散りになった盗賊の一体に一撃を食らわせる。
『時に燻されし祈』。あるエルフから盗んだ逸品だ。その切っ先は空を描いた。
「ははは、効いてねぇみたいだなあ!?」
(あいにくだが、狙いはそれじゃねえ)
 そのストーンナイフの真価は、優れた神秘媒体であるということだ。
 遅れて、衝撃の青が発動する。
「あ……?」
「よっし、とらえたよ!」
 ムスティラーフの仕掛けたトラバサミががっちりと盗賊の足をとらえる。
「しまっ」
「あばよ」
 廊下からそっと消えていくキドー。
 ムスティラーフが息を吸い込む音が聞こえてくる。
 容赦のない大むっち砲が、敵を覆いつくしていった。
「ぎゃああああああ!」
 復讐の炎で燃え上がる、グロリアス・アヴェンジャー。

●鬼ごっこはもうおしまい
「さん、にい、いち」
 黄野は敵を数えていた。
「愚か者が5人。もういいかのう?」
 盗賊の部下たちは、すでに無力化した。
「はっ、どいつもこいつも役立たずが!」
「ひっ」
 盗賊の頭、ヤースの前に姿を現したのはミルヴィだ。
 青ざめた顔で、後ずさる。
「こないで……あたいもう逃げない、から。痛いことしないで……っ」
 これは、演技だ。そのはずなのに……奴隷だったころを否応なく思い起こさせる。
(覚えてる。いたぶる貴族も、アンタみたいな顔をしてた)
 リリスの眼がヤースをとらえて離さない。
「へっ、いいだろう。お前を人質にしてやろうじゃねぇか。せいぜい良い思いさせてもらおうか、なあ?」
「いやっ……!」
 舞台は整ったのだ。
 カットが軽やかにスイッチを押す。仕掛け矢が飛び出し、ヤースをかすめる。
 注意を引ければ十分だ。それが合図だった。
「時は満ちた。地の利はこちらにあり。さあ、おれに続くがいい!」
 黄野が叫ぶ。
 我ら特異運命座標と、ミルヴィが歌う。
 腕まくりをする義弘。
 容赦のない戦鬼暴風陣が、旋風を巻き起こした。
 バーデスの衝術が、ヤースを吹き飛ばし、距離を稼ぐ。
 シルヴェストルの魔力がほとばしり、ヤースに襲いかかる。
(逃げないんだから)
【黄金の暁】ファル・カマルを。
明星の黎明イシュラークを握って、ミルヴィは踏み込む。
 熱情のアトフで敵の中に切り込んで撹乱させるミルヴィ。
 美しい肢体を惜しみなく魅せるように晒して、誘い。
 ロザ・ムーナの一撃がヤースへと襲いかかる。
「てめぇっ」 
 安い手だ。
 その距離からじゃとどかない。
 キドーは最小限に身を屈め、ぬらりくらりと攻撃をかわす。
 小さいなら、それなりのやりかたがある。
「親玉が遅いお出ましじゃねかよ、なあ!? 待ちくたびれたぜ」
 グドルフは山賊斧を大きく振りかぶった。
 腕に力を籠めた黒顎魔王が、壁にヤースをたたきつける。
「てめぇらア、その力、一体どうやって……。どうやったってんだ!? なんの宝を使った!? おい、教えろ! 俺に教えるんだ!」
 ヤースの目はぎらぎらと輝いている。
(あのときも、たった一人の少女だった)
 ミルヴィの殺人鬼ミリーが、可能性をなぞった。
「なあ、どんな手品を使った!? 俺は、俺はもっと強くなりたい!」
「自分が優位だからって勝ち誇ってるアンタ達には死にもの狂いで手に入れた力ってのはわかんないだろ!」
「君は外道だ」
「……っ」
 青い炎を帯びたムスティラーフが歩み寄っていく。
 炎に照らされて、きらきらと宝石の角が輝いていた。
「この復讐の炎に君達は全く関係ないけれど、それを想起させる外道だ」
「な、なんのことだ………」
「八つ当たりだろうが知ったものか、君達がクズなのは変わらないし」
 穿孔言霊。
「君達を殺すのに理由がいるかい?
君達も誰かを殺すのに理由なんていらない、そうなんだろう?」
 語気を強めていく。
「死んでよ、あの子達のように死んでよ!」
 脳裏をよぎったのは、あのときの光景。
 ロスティスラーフとヤロスラーフ。
 何度も。何度も名前を呼んだ。
「だめっ!」
「……」
 叫んだのはミルヴィだった。
(この盗賊は本当に碌でもないけれど殺さない
姿は同じでも剣に飲まれて殺戮した時のアタシとは違うんだ!)
「お願い、だめ…………」
 あの頃の自分。少女だった頃の自分。
 無力だった自分は剣の力に飲まれて大勢を殺した。
「っ……」
 その声が、重なる。
「どうして」
 息子の最期が見える、立ち塞がる形で。
(どうして僕の前に立ち塞がるんだろう)
 一歩踏みしめる。それでも両手を広げて彼はそこにいる。
(……あいつらと変わらない、か)
 ムスティラーフの炎が、不意に消えた。
 創り出した蒼の剣を消す。
 前を、未来を向く。
(いつまでもこの心に囚われてちゃ、未来が勿体無いからね。若い子達と違って僕の未来は少ない、大切にしないとね)
「は、は、ハ」
 狂ったように笑う男の顔がしわがれてゆく。
 所詮、若さの泉など夢に過ぎない。
 全てが元に戻るのだ。
 何か意味のないことをわめき散らそうとしたが、義弘の拳がヤースを昏倒させた。
「行くか」
「先に殺した二人の子供。ありゃあ楽だったろ。道義的なタチじゃあねえが、こうなった今なら心の底から思えるぜ。お前らは最底辺のゴミクズだ」
 キドーはそう吐き捨てた。

●「もしかしたら」
 バーデスは赤子と再会する。
 あやすように上下に揺れる。
 ネズミのカットは誇らしげに主人の下へと戻っていき、ミルヴィの腕を上っていた。
「頑張ったね」
「ねぇ、この哀れな老人を止めてくれて、ありがとう」
「ううん。自分の為だった……」
「それでも、ありがとう」
 ムスティラーフは柔らかく笑う。
「あの手合いは、……とっ捕まったらすぐに仲間を売ると思うねぇ。そうなりゃあ……」
「見物だねぇ、しくじって、仲間を売った盗賊の末路ってのは」
 若さを夢見て、部下を失い。それが叶わないと知り……。やったことの重さを思えば盗賊の未来はないだろう。
「若返ったせいかね、何となく気持ちが落ち着かねぇな。
最近じゃ押さえつけられていた怒りや、沸々とした感情が、よ。
ヤクザの前線にいた、トゲトゲした気持ちになるぜ」
 義弘はふっと息をついた。
 あのとき。拳を振るったとき、オトシマエをつけてもいいはずだとわずかに思ったのだ。
「とんだ災難だったな。……あーあー、時におめえらよ。この事件のこたあ誰にも話さねえって事でひとつよろしくな」
 グドルフは肩をすくめる。
「幻覚見てたとはいえ、人前で大のオトナがガキみてえに振る舞ってたなんて吹聴されたくねえだろ。
だから、この話はここでしまいさ。な、そうだろ?」
「そうね……」
 ミルヴィが賛同した。
「いいぜ」
 義弘が頷いたのは、どちらかといえば秘密を守るためと言うよりは、義理を通すためだろう。
「うん、わかっているよ」
 シルヴェストルは頷いた。見届けた。それで十分だ。
「それじゃ、このことは墓まで持ってくってこったな」
「へっ」
 キドーが皮肉げに笑う。

 忘れたい過去。
 もう捨てた過去の事。
 若かりし頃。まだ、幸福であった頃。
 今のように戦う力があったのなら。
 そうしたら、奪われる事も無かったのかもしれない。
 今更見た目だけ若返ったところで、何の役にも立ちはしないのだ。
 嗚呼。
 無性に、腹が立つ。
「けっ」
 グドルフは遺跡を一睨みした。
 もしかして、なんて安い感傷だ。

「……このぐらいしか出来なくてごめんね」
 ムスティラーフはそっと子どもたちを埋葬するのを手伝っていた。

 葬儀の会場から遠く離れて。
 二人の子供が、何かを探している。
「たからもの、これか?」
 黄野が優しく問いかけると、子供たちはぱっと笑顔を浮かべた。
「それ!」
「そうかそうか。持って行くがよい」
 うれしそうにうなずき合う少女たち。
(こどもの霊はなあ。死んだことに気づかぬときがある、という。永遠にあそこでこのたからものを抱いておるやもと思うと、なんだかやりきれんではないか)
 その姿を顕現する。
 金に輝く毛並み、額には一本角。
「名誉であるぞ?」
「きれい!」
 お天道様と同じ色の背に揺られ。
 良い子よ帰れ、母のみもとへ。
 バーデスの背の赤子が、ぼんやりと空を見つめ、そして挨拶でもするようににこりと笑った。

成否

成功

MVP

黄野(p3p009183)
ダメキリン

状態異常

ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)[重傷]
黒武護

あとがき

無事にたからものを奪還することができました。
子どもたちの命を蹂躙した男はたっぷりと報いを受けることでしょう。
ご縁がありましたら、また一緒にお宝さがしでもいたしましょうね!

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