シナリオ詳細
夢見るアナザー・アナザー・デイ
オープニング
●『妖精と約束の棺』
メイラックス。
ホリゾン。
コンスタン。
ランドセン。レスタス。セルシン。リボトリール。セバゾン。ソラナックス。デバス。――セディール。
虹色の花が咲いているのだ。
虹色の花が咲いているのだ。
虹色の花に囲まれて、ガラスの棺があったのだ。
胸の上に手を組んで、目を閉じる我が肉体があるのだ。
虹色の花が咲いているのだ。
咲いている。
咲いている。
目を開けた。
石とカビのにおいがした。
ざらつくシーツと硬い枕の感触と、ずっしりと重い肉体の感覚。
けだるさをおして起き上がれば、壁と天井が目に付いた。
灰色の壁。
灰色の天井。
灰色のベッドフレーム。
硬い鉱物の棒を曲げて組んだようなベッドフレーム。
めまいがする。
めまいがする。
虹色の花が、ちらついている。
自分の服装に気がついた。
真っ白な服を纏っていた。
腕や腰や、膝や足首や、あちこちにベルトが付属している。拘束具の一種だろうか。
長い袖は指先を覆って余りある。
これを折り曲げて手首を出してもいいし、そのままにしてもよい。
部屋の隅には半透明な曇りガラスがある。細くて縦長の、手が届かないほど高い位置にある。外の景色は見えない。
光がさしていた。
光がさしている。
めまいがまだ抜けない。
虹色の花が、消えてゆく。
自らの異変に気づいた。
例えば獣の耳が、例えば鱗のような肌が、例えば翼が、例えば神秘の力が。たとえばパンドラ収集器が。
ない。
まるで人間のようだ。
まるでただの人間のようだ。
虹色の花が、ない。
覚えの無い記憶がある。
パイプ椅子。
コンクリートの壁。
精神医療。
精神病棟。
『あなた』は覚えの無い記憶を思い出す。
白衣を着た、小松原という精神医との会話だ。
茶色い眼鏡をかけた、面長の男だ。白衣の胸ポケットに赤と青のボールペンがささっていた。記憶の中で彼はこう述べた。
「あなたは異世界の住人だと?」
こうも述べた。
「この世界は夢だと考えているのですね?」
こうも述べた。
「お薬を出します。安心してください。きっと快方に向かうでしょう」
『あなた』とは誰だ。
『わたし』は『わたし』だ。
ここは現実だ。
現実に違いないのだ。
特異運命座標(イレギュラーズ)? 無辜なる混沌(フーリッシュ・ケイオス)? なんのことだかわからない。
ここは是津乏島の精神病院。クワイエットルーム(隔離病棟)。
そうだ。
『わたし』は狂ったのだ。
●ピクセルマン
あたりはしんと静まりかえっている。
ドアノブを掴む。鍵が開いていた。
そっと開く。廊下の明かりが明滅していた。
ぱちぱち。ぱちぱち。
蛍光灯が明滅の音をたてる。
目をこらせばわかるだろう。
明滅の下に誰かがいる。
『わたし』と同じ服装をした誰かだ。
人型のシルエット。
ピンク色の表皮。
頭髪もなく爪もなく歯も眼球もなく、まるで大小様々な立方体を粗く融合させたような存在がそこにいた。
立方体の集合体。ピクセルマンとでも呼ぼうか。
身体のバランスがわるいのだろうか、ねじれるようにがくんと傾き、こちらへと振り返っている。
明滅は続く。
ピクセルマンの足下には、血まみれの人間が横たわっていた。
顔が派手に陥没している。筒状の何かで殴られたかのようだ。
いや、殴られたのだろう。
なぜなら、ピクセルマンの手元には血と肉片がべっとりとついた金属の筒が握られているのだ。
「××××××××××××××××××!!!!」
ピクセルマンが叫ぶ。
逃げなければならない。
逃げなければならない。
逃げなければならない。
逃げなければならない。
逃げなければならない!!!!
- 夢見るアナザー・アナザー・デイ完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年05月16日 21時05分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(10人)
リプレイ
●ノイズA
「俺は……狂ってない。二人を探していたんだ、早く夢からさめないといけない……」
●声。声。声。聞こえぬ、声。
ドアが叩かれている。
遊戯室に集まったのは10人きりだ。
椅子にこしかけ、厳しい顔をしている『ナンセンス』オーカー・C・ウォーカー(p3p000125)。
虚空を見つめ奇妙な動作をしている『白亜の抑圧』シフト・シフター・シフティング(p3p000418)。
子供らしく笑って見せる『楽花光雲』清水 洸汰(p3p000845)。
「なんか、ホラーゲームみてーだな。はは……」
「「…………」」
オーカーとシフトに同時に目を向けられ、洸汰の笑顔が固まった。
「分かってるよ。笑い事じゃねーって……」
ついさっき人の死体を見たばかりだ。
あんな死に方をした人間など、見たことも無い。
「何!? 何よあれ、怖い怖い怖い!」
『みつばちガール』レンゲ・アベイユ(p3p002240)が頭を抱えてうずくまっている。なだめようと伸ばした手を払って、耳を塞いで叫んだ。
「もうこんな場所嫌よ! 帰る! あたし帰るから!」
「帰るにしたって……」
手を伸ばしそこねて、『魔剣使い』琴葉・結(p3p001166)は自分の手首を掴んだ。
助けを求めるように『サフィールの瞳』リア・クォーツ(p3p004937)の方を見る。
リアは長い髪を耳にかけた。
「あたしも帰りたいわ。子供が待ってるもの。けど……」
「…………」
『りさいくりんぐ・すいーぱー』グラ・プテ(p3p005031)が椅子に座ったままじっと地面を見ていたが、結たちのやりとりに気づいて顔を上げた。
「生き残りたいんですか」
「なんとしてでも」
「では……まずはここから出なくてはなりませんね」
『シティー・メイド』アーデルトラウト・ローゼンクランツ(p3p004331)がテーブルの上に鍵束を投げた。
一つのリングに三つの鍵がついている。
それぞれ持ち手の色が異なるが、何の鍵かは書いていない。
鍵をひとつ手にとって、『無影拳』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)がドアを見やった。
「ダッシュツするには、ドアを抜けないとね」
遊戯室の扉はいわゆる引き戸になっていて、テーブルを挟み込むことでギリギリ開かないようにしていた。
それを無理矢理に開こうと、外から強い力で叩く者がいる。
つい先程見かけたピクセルマンであることは、隙間から覗くまでもなく分かっていた。
「私も死ねないわ! まだ人生を謳歌出来てない気がするの。生きてここから出ましょうね!」
●ノイズB
「実験は失敗した。実験は失敗した。実験は失敗した。実験は失敗した。実験は失敗した。実験は失敗した。実験は失敗した。実験は失敗した。実験は失敗した。実験は――」
●きみはだれ。わたしはだれ。きみはだれ。
『イテのドアノックにタイミングを合わせてドアを開けて、バランスを崩そう』
イグナートのそんな提案に乗る形で、彼らは準備をした。
リアがドアの取っ手のそばへ寄り、オーカーやシフトやイグナートたちがテーブルを握る。
ドアを殴る衝撃が伝わってくるが、タイミングは一定だった。
殴る瞬間にドアを開き、空振りさせるのが狙いだ。
「いくぞ」
「せーの……!」
ドアが開く、椅子を振りかざしたピクセルマンが見えた。
殴りつけるはずだったドアが無くなり、ピクセルマンはよろめくように前のめりになる。その左右を、洸汰はレンゲの手を引いて走り抜けた。
捕まえようと伸ばされた手が空をきる。
「この……!」
反対側から突き飛ばすようにして手で押すと、結はジェーリーやグラをつれて走り出した。
一足遅れて駆け出すアーデルトラウト。
彼女が脇を抜けた所で、ピクセルマンは体勢を立て直した。
追って駆け抜けようとしたオーカーの腕を掴む。
「ぐっ……!」
凄まじい力だ。振り払えない。
オーカーは『今のうちに行け』と目で合図を送った。
リアがきゅっと口を結んで走り、イグナートが後を追う。
最後に走り抜けたシフトがちらりと振り返り、そして立ち止まった。
「何をしてる、早く――」
「それはできない。である」
そばに落ちていた椅子を掴み、シフトはピクセルマンへと殴りかかった。
●ノイズC
「オレはファンタジーな異世界に召喚されたんだ。そこで悪者を倒したりしてさ。すげーリアルな夢だったなー……いや、ちがうよな、夢なんかじゃない。今この瞬間が夢なんだ。そうに決まってる! そうだよな!?」
●いつもあなたの後ろにある
ピクセルマンを振り切り、バラバラに逃げた結。
彼女はジェーリーとグラをつれて屋内を走っていた。
通路の途中、顔の陥没した男の死体がある。ジェーリーは目を背けている。『助けられなくてごめん』と呟いてから、ハッと嫌な考えがよぎった。
扉を叩いていたピクセルマンは、椅子を持っていた。
先程の男を撲殺したピクセルマンは、血のべっとりと付いた金属筒を持っていたはずだ。
「××××××××××××××××××!!!!」
奇声がした。近くの部屋からだ。
飛び出してきたのは、金属筒を持ったピクセルマンである。
「一人じゃなかったんだ!」
結は先に行ってとジェーリーたちを押すと、きびすを返した。
「合流地点で待ってて、必ず行くから」
結は腰に手をやって、空振りをした。何かを反射的に掴もうと、抜こうとしたのだ。
「何やってるんだろ、私」
変なの。
笑いながら、結はピクセルマンの腰から下へとタックルをしかけた。
●ノイズD
「ズィーガー!? どこにいったの!? ズィーガーをかえして! ズィーガー! ズィーガー!」
●世界は認識だけでできている
頭の上を椅子が飛んでいく。椅子は回転しながら壁にぶつかり、通路の床をはねた。
後ろからはビチャビチャというおかしな足音が聞こえ、振り返ればピクセルマンが猛烈な勢いで走ってきていた。
「もう嫌! 嫌ぁ!」
「止まるな、走れ!」
洸汰はレンゲの手を引いたまま通路を曲がり、すぐそばの扉に鍵を差し込んだ。
通常行ける限りの場所に『鍵が必要な場所』はなかったと記憶していたからだ。
素早く鍵を開け、ドアの向こう側にレンゲと共に滑り込む。ドアを閉じてロックをかけ、壁によりかかるようにして座り込んだ。
「鍵、閉めちゃうの……? みんなは……?」
「ここで待とう。きっと、すぐに来る」
周りを見る。いくつかのスチールデスクと棚。
事務室のようだ。今入ってきた扉とは別。反対側に、もう一つ扉があった。
●ノイズE
「あたしは名家アベイユ家の末娘なんだから。幻想の大きなお家に住んでるのよ。もう、いつまでも夢なんて見てちゃだめね、早く起きてお仕事をしなくちゃ」
●真実に気づいてはいけない
息を切らせて走るイグナート。
「コータがカギをもって移動してたはずだよね……」
「動けなくなっていなければ、ね」
一緒に移動していたリアが、壁に背をつける。
女性用のトイレルームだった。塀で仕切った個室がいくつかに別れ、手洗い場が一つだけあるというタイプである。
「なにか武器になるものは……ヤクに立つものはないかな……」
イグナートが部屋を物色しはじめる。
一方で、深く息をつくリア。
それにしても、あのピクセルマンはなんだったのだろうか。
目がないように見えたが、よく見れば耳もない。口もないのに、奇声を発していた。更に言えば手もないように見えたのに、しっかりと物を掴んでいた。
まるで全身にモザイクでもかかったかのようだ。肉眼にモザイクなどかかるわけがないのだけれど。ない、はずだ。
途端、トイレの扉ががらりと開いた。
びくりと振り返る二人。
仲間が合流した……のではない。
ピクセルマンが、男の死体を引きずって立っていた。
●ノイズF
「かわったユメだな……。オレがこんなヒリキだなんて。リンゴの一つもツブせないんだ。おかしいな……。はやく、目覚めないかな……」
●世界はひとつだけでなければならない
アーデルトラウトはトイレの個室に籠もっていた。
階下へ進むはずが、階下から現われた別のピクセルマンの足音を聞いて急いでトイレへと逃げ込んだのだ。
洸太を護衛するはずが、計算が狂ってしまった。
彼を先に行かせるために引きつけたと言う意味では、護衛の役割を果たせたのかもしれない。
水を指につけ、壁に画を描く。ここまで進んできた場所の……というより、自分が普段出歩いている場所の大まかな間取りだ。
できれば紙やペンが欲しかったが、看護師は先端のとがったものや飲み込む危険のあるものを自由な場所に置いてはくれなかった。
(ここが遊戯室……トイレ……個室群のエリア……喫煙所……鍵のかかった事務室……そしてこの一帯が)
「クワイエットルーム」
ピチャ、ピチャ、と足音がした。
足音は近づき、トイレの前で止まる。
引き戸が開く音。
足音が近づく。
足音が止まる。
隣の個室が開かれる。
開かれないように扉を掴んでおく。
反応が無い。
ぽたり、と手元に何かの滴が落ちた。
上を見上げる。
●ノイズG
「わたくしは社会のゴミを掃除する、街の掃除屋……人呼んでシティー・メイドでございます。わたくしは……わたくしは……すみ、ません、薬をください。また、発作が起きて……」
●世界がひとつだけでないことを、知っているとしたら
「皆で生き残りましょ! 生き延びれたら飛びっきりの紅茶を用意するわ!」
どこか沈んだ様子のグラを、ジェーリーはしきりに励ましていた。
ここは二階の事務室。鍵は既に開いており、洸汰たちが更に階下へ進んだのだろう。ホワイトボードに『下で待つ』という書き置きがあった。
「私、お茶が好きだったの。そんな気がするのよ、本当は……ええと……本当は……幻想の、王都で……紅茶を……クラゲの……ディープシー……」
胸を押さえ、息を荒げるジェーリー。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫……これは夢よ……夢だから……早く目覚めなきゃ……」
ジェーリーの呼吸は酷く乱れ、大粒の汗を流してその場に座り込んでしまった。
「…………」
遠くから、何かを引きずる音が聞こえる。硬い石のようなものを、フロアの床でがりがりと削るような音だ。
グラはジェーリーをその場において、立ち上がった。
「未来、ですか」
言葉にしてみたが、どうにもしっくりとこなかった。
グラにとって、どういう意味を持った言葉だったのか、今では少し曖昧だ。
通路へ出て、扉を閉める。
「こっちですよ!」
グラは大声を出しながら、来た道とは逆向きに走り出した。
それを見かけたピクセルマンが、猛烈な速度で追いかけ始める。
距離が縮まるのはすぐだった。
ああ、なんと細き子供の足。
グラは今、自分に翼があったような錯覚にとらわれた。
これが全て夢であるような感覚にも。
「わたしも、これからを頑張らないと」
振り返る。
石のハンマーが、自らへ迫る。
●ノイズH
「この世界にもクラゲはいるのね。どんな形をしてるの? へえ、小さいのね! 私は本当はクラゲなの。百年も生きていたのよ! その間……ん、んん……ご、ごめんなさい、訳の分からないことを言って。また発作が出てたのね」
●ノイズI
「あんまり話したくないわ。馬鹿にされるでしょう? この世界が夢だなんて、誰も信じたりしないわ……もう、あなたの感情だって分からない」
●ノイズJ
「この背中には翼があったんです。今はないですけど……なんででしょうねぇ。自由に空を飛べたはずなのに……」
●反転
ピクセルマンが殴りかかってくる。
後頭部に打撃をくらって、シフトは軽くよろめいた。腰には別のピクセルマンが組み付いたままだ。シフトは手にした椅子を腰にしがみついたピクセルマンに何度も叩き付けていく。
そうして力尽きた相手を蹴り飛ばし、後方からさらなる打撃を加えようとするピクセルマンに組み付いた。
凄まじい力で振り回し、壁に頭を叩き付ける。
頭が粉砕し、内容物が散った。
トイレの塀を乗り越え、着地するアーデルトラウト。
壁に背をつけたピクセルマンの首を掴むと、顔面めがけて拳を叩き込む。
一発では済まさない。二発、三発、四発五発六発七発――数えきれぬ程打ち付け、壁が軽く崩れた頃、ようやくになって手を離した。
ピクセルマンがずるずると崩れ落ちていく。
レスキンはトイレのドアを開いた。中にはピクセルマンが二人。
好都合だ。レスキンは引きずっていたピクセルマンの死体を投げつけ、内一体を転倒させた。
素早く詰め寄り、拳を振り上げる。
抵抗するように手を出すピクセルマンの腕を、パンチでいともたやすくへし折った。馬乗りになり、胸を押さえる。
脇を駆け抜け、逃げていく別のピクセルマン。
一度振り返ったが、追いかけるよりこちらが先だ。
反撃をしようと拳を繰り出す相手にそれを許すこと無く追撃をしかけた。
事務室から飛び出してきたピクセルマンをグラは猛烈な勢いで追いかけた
「××××××!」
相手の足は遅い。金属棒とコンクリート塊がくっついた石のハンマーを振りかざし、壁をえぐるかのような速度で叩き付ける。
一瞬だけ振り向いたピクセルマンの頭が、派手に散っていった。
●反転――反転――
事務室に転がっていたジェーリーを助け出し、リアは一階のカフェスペースらしきフロアへと転がり込んでいた。
ポケットに忍ばせていた錠剤を取り出し、ジェーリーに飲ませる。
「しっかりしなさい」
「私……私……」
「……」
リアは『こんなのガラじゃないのに』と想いながら、ジェーリーの頭を優しく撫でてやった。
意識こそ朦朧としているが、落ち着きは取り戻したようだ。
ピクセルマンが階段を下りてくる気配がする。
「こんなの、本当にガラじゃないのに……」
上階と違って、多少は役に立ちそうなものがあった。掃除用具入れからモップを取り出し、柄だけをとって通路へと飛び出す。
「今、化け物はあたしを追ってる! 今のうちに鍵見つけて逃げなさい!」
リアは叫びながら、ピクセルマンを引きつけて走り出した。
膝を抱え、レンゲは小さくなっていた。
八子山精神病院一階の来客用女子トイレ。その一番奥の個室に入り、洋式便器の蓋の上で膝を抱く。
遠くでリアの叫び声が聞こえた。すぐに悲鳴のようなものが聞こえ、レンゲは耳を塞いだ。
「いや! やだ! 怖い! 怖い! 怖い! 誰かいないの!? 誰か!」
「××××××……」
「誰……」
「×××……×××……」
「ああ……いたんだ……そんなところに……」
レンゲは個室の扉を開いた。
血まみれのバットを握ったピクセルマンが立っていた。
目を覚ましたとき、カフェカウンターの内側にいた。
ジェーリーは首を振って、あたりを見回す。
そっと通路へ出ると、おびただしい血が筋を作って通路の奥へと続いていた。
声を出しそうになるのをこらえて、静かに進む。
「私はまだ生きるわ。ここで死なないわよ。絶対……生き延びるの……」
日が沈む頃合いだ。茜色の風景が、病院の正面自動ドアの外に広がっている。
動きもしない自動ドアを苦労して引き開ける。
ジェーリーは。
「生き延びる……」
立ち尽くしていた。
折れ曲がったビル。
黒い煙があちこちから上がり、炎を出す町。
息絶えた人間があちこちに転がっている。
「生き延びて……どうするんだったかしら……」
ジェーリーはふらふらと歩き、広い道へと出た。
走ってきた車が止まり、運転席が開く。
振り返るジェーリー。
運転席から下りたピクセルマンが、拳銃をジェーリーに向けた。
●インタビュー・ウィズ・エンカウンター
「それはイデアという魔物のしわざに違いないでしょう」
インタビューを終え、共通の夢を見たことを認識したイレギュラーズたちに、依頼主である医者はそう語った。
「とても現実的な夢を見せ、精神を蝕もうとする魔物です。時には複数の夢を混ぜてしまうとも言われています。幻想に現われるという話は聞いたことがありませんが……大召喚の影響なのでしょうかね。まあ、何か他に分かったことがありましたら是非こちらまで」
医者は名刺を差し出してきた。
名刺には、『コマツバラ エンメイ』とあった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
このリプレイの大半はイレギュラーズたちがみた夢のインタビュー記録を複合、編集したものである。
GMコメント
【変わったオーダー】
PCはある日、とてもかわった夢を見ました。
自分がただの人間になって、魔法もギフトもパンドラもない世界にいる夢でした。
ある医者はそんな夢を見た人間を探し、夢の内容を話すように依頼してきました。
偶然にもその夢を見た10名のイレギュラーズ(PC)は、夢の内容を語ります。
【夢での出来事】
夢の中でとった行動をプレイングに書いてください。
なぜでしょう。夢の中のPCたちは自分がイレギュラーズであることも、剣と魔法の世界も。パンドラも。混沌の世界も。なにもかもを忘れ、そこに居ます。
PCたちは通路でみかけた不気味な怪物『ピクセルマン』から逃げ、病棟の上階へと逃げ込みました。
遊戯室と呼ばれる部屋です。役に立つものは何も無く、ただ広いだけの部屋です。
そこで10人のPCは出会いました。
10人は初対面だと感じました。
扉が外から硬いもので叩かれています。
顔の陥没した誰かの記憶がよぎり、決して怪我では済まないことが分かります。
今から扉を開け、ピクセルマンをかいくぐり、病院から脱出しなければなりません。
使えるものはありません。
ここにあるのは非力な『あなた』の身体が10人分だけです。
【相談での特殊ロールプレイの勧め】
当シナリオの構造上、きわめてメタな視点から相談を行なうことになります。
ただし『夢の中での』PCたちが遊戯室で相談をしているロールプレイを行なうことで、よりこの状況を深く味わうことができるでしょう。
もしロールプレイができているなら、それぞれが以下の情報を持っているものとします。
・この病棟に地図がないこと
・他人を傷付けるための道具は一切置いていないこと。自作することは困難なこと。
・各所の鍵だけは発見し、提示されていること
・PCに本来備わっている全てのスキルとギフト、クラス能力が使用不能であること。
・PCが本来装備している武器や防具、アイテム類を持っていないこと。
・自分の身体が決して健康的ではなく、力も強くは無いということ。
・これが夢であることを、完全に忘れているということ。
【アドリブ度(高)】
このシナリオは構造上きわめて強いアドリブが用いられます。
アドリブに抵抗のある方、PCの感情が大きく乱れることに抵抗のある方はご注意ください。
どうしても描写をされたくない場合はプレイングに『アドリブOFF』と書いてください。関連描写が大幅にカットいたします。
Tweet