PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ダニ市の怪

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ダニ寺の1月は寺の外まで市が並び立つ。
 通称“ダニ市”。
 毎年そこで輸入雑貨や菓子を売る露店商ヘーミテッジの前に最初に彼が現れたのは、一昨年の事である。
 “彼”はウェストリンと名乗った。
 当時の彼は青年と呼ぶには小柄で――おそらく5、6歳の体格だったろう――しかし少年と呼ぶにはあまりに聡明で、ぞっとする嫌悪感を抱かせた。ひと言で表すなら、只々不気味であった。
 彼の目は露店の最奥に客引きとして飾ってある稀覯本に常に注がれており、彼の興味と目的があの異国の書物である事は容易に窺い知れたのだが、ヘーミテッジは非売品だ、と素気無く宣言した。実際、客引きの為に何となく意味有り気で高価そうだから飾ったという程度の意味しかヘーミテッジにはなかった。いつもなら売ってくれと金を積まれれば売ったかもしれない。
 だがこの時のヘーミテッジには、この少年にこの本を売ってはならない、という使命感じみた感情が芽生えており、それなら中身を見せてくれるだけでいい、という執拗な要求さえも無下に断った。

 次の年、つまり去年もヘーミテッジはダニ市で露店を開いていた。
 そこへ再びウェストリンは現れた。
 彼は既にヘーミテッジと遜色ない大人の身体つきになっていたが、奇妙な事にそれでも目の前の青年がウェストリンだと疑わなかった。彼は自分の研究には、あの稀覯本がどうしても必要だと語り、金なら幾らでも払うとヘーミテッジに迫った。
「こんな所に飾っておいていい本ではない。為になりませんよ」
 険しい目つきで彼が迫ると、境内の烏達が一斉に哭きながら飛び上がった。
 だが、それでもヘーミテッジは売らなかった。
 帰りの夜道。宿までもう少しというひと気のない場所で、連れていた犬が狂ったように吠え、駆け出して、闇の中で断末魔の声を上げた。ヘーミテッジは夢中で駆け出し、その年は二度とダニ市に戻らなかった。

 そして今年。
 ヘーミテッジは大学へ鑑定を依頼し、この書物が何らかの外なる世界の存在と接触する為の魔術的手段が記されている事を突き止めた上で、このダニ市に赴いていた。
 ウェストリンは必ずまた現れる。今度は自分だけでは守りきれないだろう。
「決着を着ける時だ。手を貸してほしい。特異運命座標」

NMコメント

 どうも、かそ犬と申します。
 今回はSAN値が減るとか減らないとかいうアレ的なお話でございます。
 
●舞台・1920年代初頭のアメリカとインドが混じったような異世界。大都市部には高等教育機関がありますが、地方ではまだまだ不条理な風習、独自の信仰や呪術が息づいています。

●目標・ウェストリンの打倒と魔術書の防衛。
 ウェストリンは実力で奪える力を身に付けた今は、こちらから探さずとも襲ってきます。彼は既に法律で定義できるような存在ではありません。ヘーミテッジと協力して倒しましょう。
 尚、魔術書は全てを解明された訳ではなく、次にまたこのような機会があった時の為に大学が鑑定と研究を続ける事になっています。今回の作戦に使われる知識も記されているので奪われる前に燃やしてやる! というのは止めて下さい。

●敵・ウェストリン。人と外なる存在のハーフです。父なる神をこの世界に召喚すべく暗躍しており、魔術書を奪おうと襲ってきます。行政の記録上は寺から離れた山間の農場に住んでいる事になっています。
 異次元的存在なので、ヘーミテッジが魔術書で覚えた呪文でこの世界に物質化させないとこちらの攻撃が通じません(向こうからは大量の触手で物理攻撃してきます!)。神秘攻撃には一瞬ひるみますが、無限かつ瞬時に再生します。彼の触手はイレギュラーズのキャパシティを直接減少させる効果があります。

●プレイング
 以下の2パートを記入して下さい。
【会議】決戦の際、ウェストリンを物質化させる呪文を唱えるヘーミテッジを守る役を最低1人決めて下さい。呪文の効果があるという夜明け前を待つ為、人里離れた小屋に滞在していますが、襲われる危険がないとは言えません。不寝番は必要でしょうか?
【対決】ウェストリンの農場へ向かいます。いよいよ対決です。ヘーミテッジの呪文完成までウェストリンはほぼ無敵です。彼は無数のうねる黒い触手の巨大な塊のように見えます。幸運にも彼はこの姿に慣れておらず、攻撃精度は高くありません。
 ヘーミテッジの呪文が完成すれば、物理攻撃も効くようになります。倒した後は遺骸も全て焼くなりして消滅させましょう。

 プレイング例
【会議】神秘攻撃が使えるので護衛役に立候補する。外は一応警戒しておくよ。
【対決】神秘攻撃でとにかくひるませてヘーミテッジさんを触手から守る。敵が物質化したら後は仲間と連携して倒す。

【会議】物理が効かないならとにかく避けるしかない。動きが鈍いなら走って射程ぎりぎりをうろうろする。
【対決】呪文で物質化したらスキルで攻撃。油を大量に持って行って倒した後は燃やす。

 
 筆者の傾向としてアドリブ多めとなります。
 ご縁がありましたら宜しくお願いいたします。

  • ダニ市の怪完了
  • NM名かそ犬
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年11月23日 22時10分
  • 参加人数4/4人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
不遜の魔王
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
鬼裂崎 佐木鷺 希咲(p3p007472)
銀鍵の人獣
メルーナ(p3p008534)
焔獣

リプレイ


 境界案内人から告げられていた場所、時間。纏わりつくような白い靄の中から現れた特異運命座標の姿は、この1年で魔術に造詣を深めていたヘーミテッジさえ、たじろがせた。
 4人の内2人が3mはある痩身巨躯。
 1人は黒一色の服と境さえ分からぬ黒い影。嗤う口元だけが赤い。
 1人は4本腕で半人半獣の異形。太古の恐竜のような尾が生えていた。
「ウェストリンが差し向けたのかと思って肝が冷えました」
 ヘーミテッジは冗談めかして言ったが、顔は全く笑っていなかった。
「Nyahahaha!!!」
『博物館の恐怖』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)が突然、声を上げて嗤う。
 恐怖から漏れた言葉が、存外核心を突いているのが可笑しかったのだ。
「おで、やっばり、ごわいが?」
 恐る恐るといった感じで『銀鍵の人獣』鬼裂崎 佐木鷺 希咲(p3p007472)が聞くと、ヘーミテッジは残り2人の特異運命座標にちらりと目をやってから、ゆっくりと首を振った。
「いいえ。皆さんを信じますよ。力を貸して下さい」


 一行は目立たぬようにダニ寺を囲む林へと分け入った。月の無い夜は暗く、林の中はさらに暗い。遠くに境内の灯りが見えたが、市が立っているというのに人影は疎らである。
「シケた市だなァ、辛気臭エ」
「何かあったのかな」
 『遺言代行』赤羽・大地(p3p004151)が答えたのは内なる魔術師にだったのだが、自分へと思ったヘーミテッジはやや強張った顔で青年へ振り返った。
「牛飼いの一家が消えました。捜索に行った警官も帰ってきません。一家の生き残りの子どもが寺まで逃げて来たんですが、おかしくなってしまって話すら出来ない」
「で、どうするのよ? これで夜襲でもかける気?」
 林を抜けたところに古びた小さなトラックが止めてあった。『焔獣』メルーナ(p3p008534)が腰に手を当てて眉を顰めると、老人はウェストリンの農場への中間地点辺りまで移動する旨を告げた。
「彼を倒す魔術は夜が開ける直前に使わなくてはなりません。それまでは小屋で休みましょう」

 彼の運転で一行が牧夫小屋へ着いたのは日付けが変わってすぐの深夜であった。荷台にみっちりと詰まったオラボナと希咲が巨躯を折り曲げて難儀そうに降りるのを見たヘーミテッジは「借りたのがトラックでよかった」と溢し、小さく首を振った。
 大地が苦戦する老人に代わって暖炉に火を灯すと、テーブルと椅子が数脚だけの殺風景な室内が浮かび上がった。
「随分と妙な事に陥ったものだ。私が『此方側』登場人物。人間の貌とは愉快な所業と説くべきよ」炎がテーブルに置かれた魔術書を赤く照らし、同色の三日月が楽しげに歪む。「呪文を唱える間、貴様を守る役がいるだろう。立候補だ」
 それなら、と大地、希咲、メルーナの3人は牽制役を買って出た。というより呪文の完成まで現状、他に有効そうな手段がない。3時間後に出発しましょう、今のうちに休んで下さいとヘーミテッジが言い出したものの、果たして此処は安全に眠れる場所なのだろうか。
「不審番を置いたほうがいいんじゃないか?」
「寝ずの番なんて私はまっぴら御免だわ」
 大地の提案をメルーナは潔く且つ速やかに拒絶した。
「お、おで、ねなぐでもへいぎ。ぞど、みばる」
 窮屈そうに背を曲げていた希咲が扉を壊さないように出てゆくと、オラボナも睡眠不要と不審番を引き受けた。もっとも寝ようと努力したのはヘーミテッジだけで、目を閉じていたメルーナや本を開いた大地もギフトで警戒はしていたのだ。
 変化は1時間も経たずに訪れた。
「……来たわよ」敵意の接近を感知したメルーナが静かに起き上がると、ウェストリンの犠牲者の霊魂から警告を受けたばかりの大地と目が合った。うとうとしていたヘーミテッジも飛び起き、オラボナは老人の驚きようを嗤っている。否、彼女が嗤っているのはいつもだった。
「どまれ。ぎずづげだぐねえ」
 小屋の裏手で希咲が虚空に向けて叫んでいた。這いずってきた不可視の巨大な何かは先手をとって希咲を攻撃し、衝撃で吹っ飛んだ彼の巨体は小屋の壁をぶち抜いて派手にそれを倒壊させた。
 メルーナら3人は既に小屋の外へ飛び出していたが、巨体故にオラボナは遅れて丸太や木片の下敷きになった。だが、何事もなかったかのように瓦礫の中から立ち上がり、確りし給えよ、と希咲の腕を掴んで仲間の元まで引っ張ってゆく。
「車へ! 今戦っても無駄でしょう」
 ヘーミテッジがトラックの運転席へ飛び込み、慌ててエンジンをかける。助手席に大地とメルーナ、荷台にはオラボナが這い上がり、魔弾で視えない敵を牽制していた希咲が最後に飛び乗った。明らかに重量オーバーとはいえ、さすがに車に追い付けはしないようで、怪物の気配は次第に遠ざかる。
 安堵の息が誰からともなく洩れると、やがて大地が口を開いた。
「しかし、魔術の効く夜明け前に都合よく相手が来てくれるのか?」
「このままウェストリンの農場へ向かい、家に火をつけてしまいましょう。おそらく慌てた彼が戻ってくる頃が丁度夜明け前です」


 老人のトラックは1時間程走った辺りでエンストし、農場へは小雨の中歩いて向かう事になった。道端には奇妙に干からびた牛の死体が幾つか転がっていて、横倒しになった警察の車もそこにあった。中は蛻の空だったが、座席は赤黒く汚れており、千切れた何人ぶんかの四肢が散乱する中を、肌の爛れた牛がよろよろと歩き回っていた。
「大丈夫かヨ、大地」
 内なる声に呼ばれて、大地は自分が無意識に首の傷跡に手をやっているのに気付いた。狂気の直中にあって幻痛が疼くのだ。
「あ、ああ」
「歯痒いガ、ジジイの呪文完成まで耐え忍ぶしかなイ。それまでせいぜい狂うんじゃねぇゾ?」
 「顔色悪いわよ。大丈夫なの?」と隣の大地に声を掛けたメルーナも、実は異次元的存在の気配を耳や尻尾にびりびりと感じており、そわそわとして落ち着かなかった。

 やがて丘の向こうに、不自然に増築を繰り返したような歪な一軒の家が見えた。あれがウェストリンの家だという。2階建てのようだがやけに屋根が高く、例えば“希咲やオラボナ”であっても腰を曲げずに中で立つ事が出来るだろう。
 4人がリソースを温存した為、家ごと燃やすのは些か骨が折れたが、老人の用意した火炎瓶が役に立った。延焼が広がり、炎が怪物の棲み家を飲み込むと、風向きが変わった一瞬酷い悪臭が鼻を衝く。
「やっとおでましのようよ」
 最も索敵範囲の広いメルーナが振り返りながら魔砲を構える。彼女の視線の先では丘の立木が透明な何かによってへし折られたところであった。
「時間はどうだ?」
「頃合いでしょう。10分稼いで下さい」
 ヘーミテッジが一旦空を見上げてから大地へ答える。
 応――――4人の特異運命座標が展開し、遂に異次元の怪物との戦端は開かれた。
 まず先手をとったのは大地とメルーナ。相手は視えぬが巨体であるし、後ろに巨大な松明があるから丘の下草を見れば大凡の位置は見当がつく。大地が言ノ刃と散椿を交互に浴びせ、メルーナはマジックミサイルを撃ちまくるが、不可視の腕は一瞬痺れたようにそれを引っ込めているだけのようだ。
「チッ。効いてねエ。所詮局外者カ」
「あーもう! 効いてる感じがしないわ! イライラするわね……!」

 一方、怒りに燃えて戻って来たウェストリンはただの露天商のはずの老人が自分の正体に気付き、魔術書を解読して“あの呪文”を唱え始めている事にある意味戦慄していた。
――アレを唱えさせてはならない。
――アレは正しく使われるべきなのだ。

「どうじであのぼんがびづようなの? びどのものをがっでにどろうどずるのはいげないごど」
 優しい怪物が躊躇いがちに魔弾を撃つ上を、ウェストリンが投げつけた倒木が飛び越えてゆく。狙いはヘーミテッジだが、その前に立ちはだかるオラボナは直撃を受けて尚揺るがない。
 最大の障害を排除すべくウェストリンは無数の触腕で彼女を絡め取った。だが人1人が白骨化する程生命力を啜ったにも関わらず、彼女は平然としている。オラボナを救わんと向かってきた希咲も触腕で抑え付け、ウェストリンは奇怪な金切り声を上げた――御前達は此方側ではないのか! と。
 だがオラボナは、成程滑稽なパロディの混合物だと嘲笑する。
「そろそろ終いにし給え。私は闃ク陦灘ョカに戻らなくてはならない」
 オラボナの言葉に応えるように老人が呪文の最後の音節を力強く発声すると、しゅうしゅうと蒸気のようなものが沸き立ち、不可視だった怪物の姿が露わになった。
 それは目や牙を持つ無数の触腕の集合体のような巨大で冒涜的な怪物であった。そしてその天辺にある半分は人間のような顔が苦痛に歪んでいた。
「今ダ! 大地!」「ああ!」
「さぁ、万倍返しにしてやるわよ!」
 大地が宙に綴る光の言の葉に触れた触腕が弾かれたように吹き飛ぶ。
 メルーナの魔砲から放たれた極大の閃光が異形の中央を貫通し、大穴を開ける。
 身体の半分を失って尚、再生しようと、命を繋ごうと、怪物はした。
「おでには わがらない」
 最後に希咲の巨腕『アトゥ』が振るわれ、胴から千切れ飛んだ怪物の頭が地に落ちて転がる。ウェストリンは近付く死を悟り、震える声を上げていた――――「た、助けて……ちちうえええ」
 

「恨みなら、あの世で聞いてあげる……同じところへ行ったらね」
 委縮して残った遺骸にメルーナが火を放つ間、欠片を拾い上げた希咲は泣きながらそれを齧っていた。奪った命は食ってやるのが弔い、という事らしい。
 大地はこの魂はどうのと独り言を言い乍ら歩き回り、オラボナはといえば父に祈ると好い、と只嗤っている。


 今回彼らは此方側だった。
 だが次遭う時は?
 老人は目を逸らすように夜明けの空を見上げた。
 夜鷹が狂ったように哭き続けていた。

成否

成功

状態異常

なし

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