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シナリオ詳細

<神逐>肉腫に取り憑かれるなんて俺ぁ死んでも御免だね

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 赤子の泣き声がひっきりなしに響き渡っていた。
 乳はもう出ない。痩せ衰えた体にそのような力はもう残っていなかった。これほどまでに呪があちこちにはびこってしまえば地獄に差はなかった。
 あれほどまでにさげすんでいた獄人に頭を下げて、ヤギの乳を恵んでもらった。
「お飲み……」
 女は精霊種であった。かつては京で、あてなる者たちに仕えていた。それなりの自尊心もあった。ぱっとしないが、優しい夫もいた。
 全て、失った。残ったのは赤子のみであった。
 いざ浮浪者の身に落ちぶれてみれば、さんざんと獄人をなじってきた女にいる場所はなかった。持ち物は着の身着のままと赤子だけ。
 唯一親切だった浮浪者は、いつも深く手ぬぐいを頭にかぶっていて、「精霊種のよしみとして」と、残飯の漁り方を教えてくれた。その男もつい先日道ばたで死んでいた。手ぬぐいの上にはポッキリと折れた、あるいは折られたのか、小さな角が生えていた。
 自身を精霊種だと偽ることで有名な獄人であった。

 この路地裏ではすぐに人がいなくなる。のたれ死ぬものもいれば、声をかけられてふらりといなくなるものもいた。そして、ほとんどがどこか体を悪くしている。先日も老婆が顔を布で隠した者に声をかけられていなくなった。死体で戻ってくれば良い方で、そうでなければ二度と戻ってこない。
 弱い者から死んでいく。弱さとは、ここにおいては……死に値するべき罪なのだった。

 赤子が泣いていることにはっとして気がついた。

 それならばなぜ、この子は生きているのだろうか。ここの人間は、女にはひどく冷たかったが、子供に対しては多少は同情的であった。夜回りに弄ばれ、しこたま殴られた時も、赤子だけは無事であった。
 それも時間の問題ではあろう。泣き声は小さくなっていたのだから。

「救い、救い、救いはいらんかえ。牛も豚も、鳥も、なんでもあるよ」
 物売りの声が聞こえた。喉を鳴らして這い出すように表へでた。桶を背負った男が歩いていた。若いのに不思議と枯れたような声だった。
「そこいく奥さんとお坊ちゃん、救いはいらんかえ。何、お代はいらねぇよ。一つで命いっこ、これさえあれば、つらいもんなし、大呪がはびこってなお、生きていられるよ」
 男の背負った桶にあったのは、うごめく肉塊であった。
 右を見ても左を見ても、皆が肉を宿していた。
 ああ、とうに狂っているのだ、と女は理解する。
「まいどあり」
 指を匙にして赤子に運べば、赤子は大声で泣きじゃくる。
 もうつらくはないのよ、言い聞かせながら、無理に喉の奥に押し込んだ。


 黄泉津瑞神――が目覚めてからと言うもの、京にはすさまじい呪いがはびこっている。「そこで、絶望した民が自ら複製肉腫を受け入れている、というのが今回の事件さ」
『黒猫の』ショウ(p3n000005)は皮肉げに嗤う。
「貧民街の通りがひとつ壊滅状態。どうも肉腫を売り払って歩いている男がいるらしい。複製肉腫をつくる力はないようだ。めざとく拾い集めて、売り払っているというところかな……いずれにせよ、放置してはおけない」

GMコメント

●目標
・肉腫売りの討伐

●状況
京の辺境、貧民の集まる区域に「肉腫を受け入れることは救いである」と説いて肉腫を売り歩いている人間がいるようです。
そのせいか、一帯は人が人を食い合うような大惨事となっています。
夕暮れ時です。薄暗いですが、ペナルティはありません。

●登場
・肉腫売り(複製肉腫)
「そこのオニーサン、オネーサン、肉腫はいらんかえ。さあ、寄った寄った」
「肉腫に取り憑かれるなんて俺ぁ死んでも御免だね」
 桶をかついで肉腫を売り歩いている青年。大呪の影響で増えた肉腫をみつけて、売り払っている。
 彼は自身を人であると信じているが、自身の背中に肉腫が取り憑いている。深く複製肉腫にむしばまれて、狂気を得ている。
 肉腫を得た赤子を人質のようにとっている。
 母親の姿はない。すやすやと眠る赤子がいる。まだ浸食は深くはない。

・住民たち(複製肉腫)×15程度
 甘言にそそのかされたり、動けなかったりしたところで肉腫におかされたものたち。
 一帯はほとんど壊滅状態であり、生きているのが15程度である。自らの生を諦めつつあり、「殺してくれ」と訴える。敵・味方を識別せずに攻撃する。数名は助けられる可能性がある。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <神逐>肉腫に取り憑かれるなんて俺ぁ死んでも御免だね完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年11月16日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)
炎の守護者
メルナ(p3p002292)
太陽は墜ちた
メイメイ・ルー(p3p004460)
ひつじぱわー
ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
毀金
グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)
孤独の雨
ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)
あいの為に
ルーキス・ファウン(p3p008870)
散華閃刀
メルランヌ・ヴィーライ(p3p009063)
翼より殺意を込めて

リプレイ

●目を背けたりなどするものか
 ぎらぎらと輝く月の下。
 桶を背負った男は千鳥足で歩いていく。
 お上は何が起こっているかなど把握してはいまい。群がる住民たち。「殺してくれ」と口々に言いながら……。
『さまようこひつじ』メイメイ・ルー(p3p004460)は、ファミリアの小鳥を飛ばす。集中していたメイメイは、光景を目の当たりにし、きゅっと手の平を握った。
「東に、亡くなった方がいます。……きっと、近いです……」
「わかったわ」
 遥か空からそれを見下ろす、『多翼操者』メルランヌ・ヴィーライ(p3p009063)の目は三羽。
 白鳩のチョーク、鴉のタール、そして、梟のアッシュ。
 闇を切り裂くようにチョークがまっすぐに白い翼を広げ、影に潜むようにタールは闇を滑りゆく。
 3羽の中でも聴覚に優れたアッシュが、正確に音の発信源をとらえた。奇妙な売り口上と……赤子の泣き声。
「……いた」
 メルランヌの瞳はきらりと輝いた。宿った光は、諦めではなく、獲物を捕らえた獰猛な獣のもの。

「……何と、酷い」
『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)は惨状を目の当たりにし、思わず漏らす。
「そんな……こんなのひどすぎるよ!」
『魔動機仕掛けの好奇心』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)の表情は曇る。
「こんなにも……こんなにも。ヒトを、ヒトでなくしてしまうものなのです、ね。
 メイメイの手はかすかにふるえる。
「……やるせない、だけでは言い表せない感情が、わたしの中にあります」
 ただ、武器を。その拳を握りこむ力がいっそう強くなる。
「オイラのエゴかもしれないけど助かる人は助けたい。このままむごたらしく死ぬのなんて見てらんないからね」
 チャロロの言葉に、仲間たちは頷いた。
(この光景も、紛う事なき神威神楽の現実)
 ルーキスは目をそらさない。
――自分勝手、かもしれない。
 けれど、心は救いたいと叫んでいる。
 惑うことなく、いや、惑ったとしても。
 一人でも多くの命を救うために、彼らは進む。
(どのような派手な戦でも、その裏では生きて苦しむ人はいるもの。狂ってしまった世界を現実だ、と切って捨てるにはわたくしは情が深すぎる)
 他者に救われた命。その境遇には覚えがあった。
(救われなければ、孤独に死んでいったわたくしに)
 だからこれは、その子というよりも自分のためだとメルランヌは思う。
 赤子は一回限り、派手に泣き声をあげた。
……生きたいと言うように?
 メルランヌはゆるやかに首を横に振る。
「とんでもないエゴね――ですが、救える人は救うべきだわ」
「……肉腫に憑かれることが救いとは自分は思いたくないが……そう思うしかない人もいるんだろうな」
『誰かの為の墓守』グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)は、墓守として多くの悲劇を看取ってきた。死の安らぎを、安易なものにはできない。
 懇願されたとしても、助かる可能性がある限りは……。
「「殺してくれ」ですか……ええ、ええ、僥倖です……大変話が早く………」
『あいの為に』ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)は頷いて、その手にロザリオを握りこむが、はたと気がついたように、構え直して微笑みを浮かべる。
「…………ああ……成程……助かる人は助けたい……一人でも多く助けたい……ええ、ええ、勿論協力しますとも……当然です。人々の命が救われる事を、神もきっと喜ばれる事でしょう」
「死を望んでいる人達……」
『揺らぐ青の月』メルナ(p3p002292)は兄の姿を思い描く。
(お兄ちゃんなら、どうするんだろう……?)
 メルナが道しるべにするのは、常に兄だ。
(お兄ちゃんは、罪の無い人の死なんてきっと見たがらない。……けど、彼らは……、……うぅん。彼らはきっと、まだ違う。生きる希望があっても見えていないだけ。
……助けなきゃ。エゴだとしても、お兄ちゃんなら……)

●これはエゴかもしれないけれど
「肉腫、肉腫はいらんかね」
 桶を担ぐ男の真正面から、ボロをまとった女が近づいていく。泣き叫ぶ赤子を意にも介さず、男はくるりと振り返った。
 貧民だろう。可哀想に――。
 商売のやりとりをしようとしたところで、男の背後から、一人の聖職者が現れる。
「ごきげんよう」
『黒鉄波濤』ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)。
 彼を形容するのは難しい。朽金の聖法衣は漆黒で、夜の闇のよう。けれど、見ているだけで安心してしまうような……。安心して眠りにつくときの夜の暗さのような……。そんな印象もある。
「救いかい? 一つ、命一つだよ」
「いいえ、私も貴方に救いを差し上げましょうとおもいまして。なあに、お代はただでよろしいですよ」
「……俺に?」
 虚を突いた。
 すさまじい早さで、メルランヌの拳が炸裂した。泥で汚した髪の毛と、深くまとったボロ布。その奥に優雅な獣が見える。
「……っ」
 目当ては赤子かと気が付き、慌てて後退しようとする、その時。
 ヴィクトールのバックハンドブロウが炸裂した。繰り出された一撃の衝撃に、思わず赤子を取り落とす。その隙を、メルランヌは見逃さなかった。
 転がるように、素早く赤子を受けとめる。
「来ます……!」
 メイメイの忠告と同時、タールが叫ぶ。
 増援が来る、と。
 押し寄せるは、複製肉腫に身をむしばまれた住人たち。
 縋る様に、メルナの腕をぼろぼろの服を着た男が掴んだ。
「……」
 まだ、意識ははっきりとしているように思われる。
 助けられる、かもしれない。
 なら、どうするか?
 メルナの慈悲を帯びた一撃が、肉腫と男を分かつ。
「大丈夫かい?」
 メルナはひるまない。
 なぜならば兄ならばこのようなときにきっと正しく動くだろうから。
 月は陽の影となり。
 描き出した”兄”は勇ましく仲間と負傷者をかばい、後退を助ける。
 何が彼女を支えているのか。
 迷っていたように見えた彼女が、戦場においてどういう精神を保っているのか。
 それはわからないことだが、結果を見れば、それは住民を救ったのだ。
 それは愛だとヴィクトールは思う。
 それは愛だとライもまた思う。
 縋り、それでまっすぐ立てるならば、それは。
「自分から肉腫になるなんて、あなたたちは間違ってる!」
「俺が……俺たちが助けます!」
 ルーキスとチャロロが勇ましく名乗りを上げ、敵の攻撃を引きつける。
 武器を持っている人間を見る目は、希望に満ちあふれている。殺してくれ、と。苦しそうに押し寄せているのだ。
 メイメイのブラックドッグが群がる住民をなぎ倒した。
「わたしは、助けたい、です。……生きたかった人達を。苦しんだままには、しておけません」
 それはエゴかもしれないが、きっとこの先に道がある。
「ええ、ええ、私は慎ましく優しいシスターですとも……。お救いいたしましょう」
 ライは微笑む。
 この混沌とした状況において。わかっていることは少ない。
 ならば、できる限りの選別(トリアージ)を。
「そのお方はまだ助かる可能性があります。チャロロさん。お任せいたします」
「わかった!」
 まだこの苦しみが続くのかと、住民は絶望を浮かべる。絶望と殺意にまみれた住民の攻撃。けれど、チャロロは拳闘を選ぶ。
(殺意なんて、向けてたまるか!)
「あなたは……」
 ライはロザリオをくるりと向けた。
 浸食は深く、助からないと確信できる。
「ああ、あなたは……ええ、残念な事です。さあ……神の御許へお帰りなさい」
 ロザリオを構えた。
 その軽やかな音は慈悲。平和への祈りだった。
「どうか、安らかに」
(おそらくは絶望よりは……。怒りに身を焼かれている方が……苦しくはないだろう)
 グリムの紡いだ呪術は、開戦のタンジー。
 死霊の叫びに生者が同調する。目の前の相手こそが倒さねばならぬ敵だと。
(安らかに……)

●絶望のさなか
 赤子の浸食は浅い。
 だが、赤子自身の体力が尽きかけていた。肉腫を除けば命が危ないかもしれない。除かないならば……。
 メルランヌは顔をあげ、仲間たちを見やる。
「ええ、こちらは大丈夫です」
 ヴィクトールはクローズドサンクチュアリを展開し、肉腫の攻撃を耐えている。そして油断なく、赤子の推移を見守っていた。
 肉腫であることには違いないのだ。
「……いざというときは声をかけてください」
「必要なら、大丈夫。わかっているわ」
 生命の定めというのは時に残酷なものである。
 ただ、最大まで抗うと決めた。
 メルランヌに迷う暇はなかった。ヒールオーダーが、僅かに赤子の鼓動を呼び戻す。
「……大丈夫、きっと、助けられます」
 メイメイが言えば、張り詰めた心はわずかに安らぐ。奏でるミリアドハーモニクスが、傷口を塞いだ。
「全ては定められしもの。助かるというのならば、ええ。それが神の御心だったのでしょう」
 ライは、追いすがる住民に銃口を向ける。
 どうか、平和への祈りを。偽りだとしても、救いを。偽薬を。連続で放たれる銃弾が、安らかに住民を眠らせてゆく。
「殺し合いなど……させはしない」
 グリムのノーギルティが、肉腫を引きはがし、住民をただ打ち倒す。
「そうだよ! まだ助かる可能性のある人まで喰われてなるもんか!」
 チャロロは引き倒された住民の前に自身の身を乗り出し、かばった。金属音が攻撃を受け止める。
「逃げて!」
 必死に食いしばり、助かった住民を後ろへと逃がしていく。
(助かるなら、すべてを……)
 ひとり、ひとり。メイメイが距離を詰め、威嚇術で昏倒させていく。
(でも、選択しなくてはならないなら……)
「お引き受けいたします」
 ライが微笑み、銃口を向けた。
 あなたの心へ届きますように、と。
 祈りを込めて、しっかりと心臓を狙って。
「いいえ……」
 せめて苦しまぬようにと、メイメイは覚悟していた。
 ブラックドッグを、思い切りぶつける。
「おや、まいったなあ。お客さんたちがいなくなっちまうぜ。これじゃ、商売あがったりだぜ」
「貧しい人たちを狙ってこんなことして……お前がやってるのは救済なんかじゃない!」
 チャロロの叫びに、男はヘラリと笑った。
「でも無理強いしているわけでもねぇですしねぇ。皆さん喜んで」
「私は……助けられるのなら全てを……救いたい、です」
 できれば全員助けたい。目の前で肉腫をばらまく男も含めて、だ。
「俺? 俺は全然苦しくないですし、俺はこいつらとはちがう」
「お前は背中のデキモノに気づいていないのか!」
「へえ?」
 チャロロの言葉に、男は手を背中に回し、そして、凍り付いた。
「嘘だ………嘘だ嘘だ嘘だ」
 男の浸食は深いものだ。おそらくはもう助からない。
(非道な行いだと言うのは簡単ですが……彼もまた、この騒動の被害者)
 ルーキスが、二刀を構えた。
「せめて苦しまぬよう、一太刀で送って差し上げましょう」
「いやだ! そ、そうだ。そうだ。こんな世界で生かしておこうって方がおかしいんだ。俺は正常ですぜ。俺だけがこの狂った世界で唯一! 正気なんだ!」

●生存者たち
「今は私達の言う事を聞いて! 死ぬにしたって苦しんで死にたくはないでしょう!」
 メルナの声は澄んで響き渡り、ひとまずは無事な住民たちを引き寄せることに成功する。
 きっと、彼らは……何かに縋りたかったのだ。
 助けは来ないと絶望しながら、誰かが助けてくれるのを待っていた。
(そうだよね、お兄ちゃん……)
「来るよ!」
 仲間の脱出を見た亡者の群れが押し寄せる。
 チャロロがそれを察知し、壁となる。
「あれは……」
 最前列。肉腫に侵された女は、……精霊種。ルーキスは目を見開いた。赤ん坊の母親だろうか。
 ライは冷静にそれを見極め……宣告した。
「残念ながら、あれは助かりません。メルランヌさん、渡してはいけません」
「ええ……わかったわ」
 メルランヌは赤子を強く、強く抱いた。
「あああああ」
 強くチャロロの腕を引っ張る女。
「っ!」
 助けられたなら、助けたかった。
 目の前の子供の母親かと思えば。咄嗟にチャロロが選んだのはやはり拳で。
「せめて、安らかに……」
 メイメイの慈悲深い一撃で、事切れる前に。
「……っ」
 女は、メルランヌの腕の中ですやすやと眠る赤子を見て、手を放した気がした。
 追いすがる亡者の群れに溶けていく。

●溶けていく身体
「俺が……俺が……俺が?」
 自分が手遅れだと気がつき始めてから、男の体はボロボロに溶けかけている。その生にしがみつくように、男は暴れ出していた。
「まだ、まだ倒れられないよ!」
 チャロロの機煌宝剣・二式。相棒として、同じようによく動いてくれる。リーガルブレイドを放てば、体はまだ動いてくれた。
「いやだ、いやだ、一人は……いやだっ!」
 せめて、と。ルーキスは一撃に力を込める。一刀両断。片方の刀を男が受け止めれば、もう片方が首筋を狙う。
 だが、異形の怪物はまだ沈まない。
「……絶望は、破滅をばら撒く理由にはならないよ。大人しく眠って」
 メルナのギガクラッシュが、男を打ち据えた。
「神の御心のままに」
 ライのロザリオの銃弾が男を撃ち抜いた。
 この腕に伝わる反動は、愛。やぶれかぶれの装甲など神の前には塵に等しい。
「負けない、負けないよ! だからみんな、大丈夫!」
 チャロロは、決死の盾をかざす。仲間をかばって、一歩も引きはしない。
「うああああああ!」
「オイラの頑丈さをなめてもらっちゃ困るよ?」
 グリムは息をつき、決着のために、武器を構える。
「……本当に正気だったのなら好きな墓ぐらいは聞くんだが、その様子じゃ無理そうだから自分の方で選ばせてもらうぞ」
「ひ、ひひ」
 グリムのディスピリオドが、起き上がる相手にとどめを刺した。何度もうごめき、再生を試みたけれども……グリムの一撃は、心臓を貫き、とどめを刺していた。
「安心しろ、化けて出てこれないくらいには綺麗な墓を見繕う。
だからもう眠れ、そしてどうか次の目覚めは安らかなるものであることを」
 グリムは初めて男の名を知った。

●鼓動
「おおい、大丈夫か」
 明かりがぼちぼちついている。ようやく安全圏に来たといえるだろう。メルナはようやく息をついた。
「……」
 メルランヌの腕の中、赤子はすやすやと眠っている。もつかどうかはこれからの体力次第だろう。けれど、この波乱を乗り越えられたからには大丈夫だろうという気持ちもあった。……そうであってほしい。
 小さく子守歌を歌う。
 これから、どうするかは決めていない。ローレットに預けるのか、それとも……。
「みんな、大丈夫? 生きててよかった」
 チャロロが応急セットを手に、負傷者の間を回る。呆然としているもの、あるいは礼を言う者がいて、そして。
「死にたかった」
 応急手当の間。腕を失った男が傷口を押さえて叫ぶ。
「死にたかったのに! どうして殺してくれなかったんだ!」
 グリムの一撃が、男を地面に倒した。
「……その言葉を救いたい人の前で放つのはどんな刃物より鋭いものだろうと思う。だからせめて心の中に留めておいてくれ」
「どうして、か……オイラが助けたいと思ったから、だよ」
「大丈夫ですか」
 ルーキスは喧噪を介さず、粛々と治療を行う。
「俺は……」
 相手が思っているか、ではなく。自分が。生きて欲しいと思っている。
 例えそれがエゴだとしても。
「…………」
 男は黙っていた。チャロロの方を見る。ルーキスを見る。傷ついている。……死にたいと叫んだ連中をかばって。
「きっと、生きているというのなら、それが神の思し召しなのでしょう」
 ライのつく嘘は優しい偽薬。傷口を塞ぎ、痛みを忘れるには十分なものだ。
「あなた方の中には未だ生きることができる方もいる。できる限りは、救います。
だから、生きることを諦めないでください。救わせてください、と」
 ヴィクトールの柔らかな言葉に、別の誰かがせきを切ったように話し始める。
「……ったくなかった」
「……」
「死にたくなかった! あたしは死にたくなんてなかった! 助けて欲しかった! 助けてほしかったの」

「これは、責任をもって報告しなくちゃね……」
 メルナは決意する。
 大きな戦から外れた場所で、このような戦いと悲劇があったことを、忘れさせてはならない。
「……助けた私達が行動するのが、死にたがってたこの人達を助けた責任で、希望を見せる方法で……お兄ちゃんがする事だと思うから」
「そうね」
 メルランヌはそっと小さく呼吸する存在を抱えて、頷いた。
(……今の問題が解決すれば、きっと彼らにも生きる道がある。今は失ったものが多くて絶望していても…まだ希望がある筈だから)
「おい、あんたは」
 メルナの腕をつかみ、まだ何か言おうとして男は言葉を失う。目の前にいるのが誰なのか、一瞬見失うほどに。
(きっと……私とは、違う筈だから)
 あの惨状から帰ってきたにしては、ありえないほどに、完璧な笑みだった。
「……」
 うなだれる男に、ヴィクトールは囁く。
「――皆はきっと救いたがるでしょう。
それでも、あなた方の中には“このまま死んだほうが良かった”と。
そう思う方がいるはずです。その時は、全てが終わったときでいいです。僕のところに来てください。 殺して、差しあげますから。それが、お望みならば。
どのような殺し方でもいいです。
一思いに楽にして差し上げますから。
だから、苦しければおいでなさい。僕のところへ」
 それは、きっと優しい人にはできないことだから。
 ヴィクトールは胸に手を当て、一礼をする。
「其れが、私の差し出せる、私の愛のひとつです」
「…………あ」
 冷や汗が流れる。
 それを恐れる、というのなら。
「まだ、神の思し召しはないということですね」
 ライが微笑んだ。

 やれる限りのことはやったという確信がある。あれ以上はもう無理だったろう。いや、数えるほどの生存者がいることこそ、奇跡だ。
 グリムとルーキスが穴を掘る。死者を、安らかに眠らせるために。
「手慣れてますね」
「ああ……。何度もこうしてきた」
 グリムは最後の一体を埋めると、祈りの言葉を唱える。
「報われなかった者よ、看取られなかった者よ、苦痛なる生を送った者よ。此処に我らが見送った。どうか安らかな眠りあれ、そして次なる生に祝福あれと願わんことを」
 ルーキスは、花を手向ける。

成否

成功

MVP

グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)
孤独の雨

状態異常

メルランヌ・ヴィーライ(p3p009063)[重傷]
翼より殺意を込めて

あとがき

うまくいけば赤子だけ救えるかな、と思っていましたが、努力によってほかの住民数名もあの地獄から連れ出せたようです。
救うは救う、無理ならば諦めると割り切った行動が功を奏した形になったと思います。
助かった以上は明日は続いていきますし、良かれ悪かれ、後は人生……といったところでしょう。
お疲れ様でした!
助かった赤子に関しては、お好きに扱っていただければと思います。
生き汚く何度も起き上がってやろうと思いましたら、墓守様の一発でとどめを刺されてしまいました。

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