PandoraPartyProject

シナリオ詳細

共に歩む道

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●弱気な恋人
 人気のない道を選び進んでいたヴィリーは、白く色付いた息を吐くと同時に足を止めた。ヴィリーの視線の先にはゴロツキ達が酒場の外にまで飲めや食えやの大騒ぎを広げている。
 カバンから地図を取り出すと、月明りを頼りに今まで歩んできた道筋にバツ印を書き、ヴィリーは足早に道を戻っていく。
 この道は使えない。ゴロツキ達を相手にしてどうにか出来る程の力をヴィリーは持っていないし、何よりも誰にも目撃されたくない。
 がしがしと頭を掻くと、ヴィリーの口から漏れるのは重い息。
 恋人であるハンナとこの街を抜け出す、その約束の日はもうすぐそこまで迫っているというのに最も肝心な街を抜け出す道筋をヴィリーは決めかねていた。
 この街から逃げ出さなければ貴族であるハンナは、ハンナの両親が決めた婚約者と結婚をすることになる。
 時間がない。どうすれば良いのだろう。
 彼女を幸せに出来るであろうか。
「本当だって! でっかくてやばいヤツとちっこくてむかつくヤツが地下水路にいたんだ!」
 藁にも縋りたい上に重くなった頭を抱えたまま朝を迎え、近所の屋台にて朝食をつつくヴィリーの耳に少年の声が聞こえ思わず振り返る。
 幸運は突然に、そして意外な所から訪れるらしい。
 
●二人では進めない道
「こういうのはプルーさんの方に行くことも多いんですけど、今回はボクの所からなのです!」
 えっへん、と胸を張るユリーカ・ユリカ(p3n00002)はイレギュラー達が集まったのを確認すると、それじゃ始めますですよ! とにこりと笑った。
「今回の依頼はフィッツバルディ領に住むヴィリーさんからなのです」
 ヴィリーは恋人のハンナと共にこっそりと生まれ育った街を抜け出したいという。
「こっそり抜け出す?」
 街を出る、とは言わなかったユリーカにイレギュラーの一人が首を傾げた。
「はい。抜け出す、です。ちょっと訳ありなのですよ。まずはヴィリーさんの恋人のハンナさんは貴族なのです」
 ちなみにヴィリーはそういった地位を持っていない青年との事。
 それってもしかして……、
「駆落ち?」
「大当たりです! 街の中には憲兵さんとかもいる上に、ハンナさんのお家は結構な貴族さまなので、絶対に見つかっちゃダメなのです!」
 見つかれば二人の逃避行とその関係は終焉を迎えるであろう。
 でもでも! と、ユーリカは言葉を続けていく。
「ヴィリーさんはとっておきの道を見つけたのです! それが地下水路なのです。新しい地下水路しか使われなくて、ヴィリーさんはこっちの古い地下水路を使おうとしているのです」
 ユリーカは地下水路の地図を広げると、とある道を指で辿る。
 使われていない地下水路を通れば、憲兵達にも街の人にも目撃されることは無いであろう。
「地下水路は街の地下に張り巡らされているのですが、古い地下水路はいろんな所が崩れかけだったり、崩れてしまったりしているのです。もう使えない所はバツ印をつけておいたのです」
 とは言え、新たに別の場所が崩れている可能性も無きにしも非ず。更に地下水路にはいつの間にかオーガとゴブリン達が棲みつく様になったという。
「オーガは力が強くて足が遅いのです。ゴブリンは石を投げたり悪戯をしてくるみたいです。どちらも地下水路から出ようとはしないのですよ」
 モンスター達がどこから出てくるかは分からないものの、イレギュラー達が協力をすれば倒すことも難しくはないであろう。勿論逃げても問題はない。
 今回大事なのはヴィリーとハンナが地下水路を通り抜ける事なのだから。
 二人が地下水路まで来る道と、地下水路を出た後の事は既に準備が整っているらしくそこの手助けは不要なのだと、広げていた地図を畳みながらユリーカは言う。
「好きな人がいるのに一緒にいられないなんて悲しいのです。ちょっと大変ですけど皆さんの頑張ってくださいですよ!」
 満面の笑みと共に、ユリーカは地図を託すとイレギュラー達を送り出すのであった。

GMコメント

 こんにちは、末森シキです。

・成功条件
 ヴィリーとハンナを地下水路の出口まで連れていく。
(モンスター退治の必要はありません)

・ヴィリーとハンナ。
 二人とも戦闘には参加いたしません。
戦闘になった場合、特に指定がない場合は戦闘の邪魔にならない様に、隠れたり移動したりとしています。

・オーガとゴブリン
 どこから、どんな組み合わせで出てくるかは不明。数も不明。

オーガ
 力は強いが動きは遅い。あまり賢くはありません。
棍棒に似た打撃系武器や殴ったり突進してきたりとしてきます。

ゴブリン
 悪戯好きですばしっこい。
一匹で行動する事は無い為、戦況が不利と分かれば逃げていきます。
スリングショットにも似た武器で石を投げたり、人の物を盗んだり等の悪戯をしてきます。

・地下水路
 新しい地下水路とは繋がっていません。
地下水路内の道順については、ユリーカが皆様にお渡しした地図に書かれていますので何事もなければその道順通りにいけば目的の出口に辿り着きます。

それでは、皆様のご参加を心よりお待ちしています。

  • 共に歩む道完了
  • GM名未森シキ(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年01月29日 21時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
レオン・カルラ(p3p000250)
名無しの人形師と
セアラ・シズ・ラファティ(p3p000390)
flawless Diva
星玲奈(p3p000706)
幻想の歌姫
フォルテシア=カティリス=レスティーユ(p3p000785)
天嬢武弓
叢雲・一縷(p3p001827)
流転の閃華
長月・秋葉(p3p002112)
無明一閃
アルム・シュタール(p3p004375)
鋼鉄冥土

リプレイ

●地下水路にて
 元がそういう場所であったせいか湿気と土埃、そしてどこかから差し込む僅かな光の他にただ漠然と底の見えぬ闇が、扉を開いたばかりの地下水路には広がっていた。ぱちり、と爆ぜる松明の炎が揺らめかせながら、イレギュラー達は地下水路の奥へと向かっていく。
「ほーら!」
 『流転の閃華』叢雲・一縷(p3p001827) が目の前のゴブリンを得物で打てば、小さな体はボールの様に弾み飛び闇の向こうへ。残る一体へと視線を向ければ、多勢に無勢と理解した様にゴブリン達は背を向けて逃げていく。
 今回の目的はモンスターの退治ではなく、この地下水路を抜ける事。目の前にいる恋人達の駆け落ちの手助けが最優先であるからと、攻撃の手を止めた『超面倒臭いネガティブ系お嬢様』フォルテシア=カティリス=レスティーユ(p3p000785)は視界の片隅に、逃げるゴブリン達の姿を捉えつつ、依頼主であるヴィリーとハンナへ瞳を向けた。
「行ってしまいましたね。お二人とも大丈夫でしたか?」
「あぁ……」
「ええ。大丈夫よ」
 イレギュラー達に囲まれる様に、隊列の中央にいる恋人達はフォルテシアにややぎこちない笑みを揃って返すも、松明の炎に照らし出される二人の横顔は強張り、地下水路に入ってからはその口数も減ってきている。
「おにーさん、おねーさん。緊張してる?」
 そんな恋人達に話しかけるのは、『人形使われ』レオン・カルラ(p3p000250) の持つ少年の人形――レオンであった。
「……少しね。ゴブリンなんて初めて見たよ」
 何とも言えぬとでも言わんばかりの表情を浮かべるヴィリーに、『鉄腕野良メイド』アルム・シュタール(p3p004375) が、朗らかな笑みを見せた。
「大丈夫ですヨ。ワタクシ達がヴィリー様とハンナ様をお守りいたしますのデ、ご安心くださイ」
「そうですよ。アルムさんの言う通り、絶対に私たちがお二人を守ります!」
 殿から、ぐっとこぶしを握る『没落お嬢様』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174) は青い瞳を輝かせながら、恋人達へ力強く宣言する。
 本で見たような愛の逃避行。目の前にいる恋人達の未来の為にも成功させるしかないであろう。
 ふと、隊列の前方に位置する、『flawless Diva』セアラ・シズ・ラファティ(p3p000390) は足を止めた。地下水路に入ってから聞こえてくる音を拾い記憶し続けたセアラの耳に届く、低く響くような音の連なりはこの地下水路では初めて聞くもの。
「気になる音がします。周辺警戒を密にお願い致します」
 姿は見えず、音も微かなものであったけれど。この地下水路に着いて、イレギュラー達が出会ったのはゴブリン達だけ。
 全員の頭に過る存在は、未だ出会わぬオーガであった。
 
●ゴブリン達の洗礼
 どこからモンスターが出てくるかわからぬ状況となれば、隊列の前を進む者達が道の安全を確認するのも必然であろう。
 角を曲がった『無明一閃』長月・秋葉(p3p002112)の視界には、少し先にいるゴブリンが四体。
 戦闘は避けたい所ではあるが存在に気が付いたのは向こうも同じ。
「ゴブリン! 行くわよ!」
 秋葉がゴブリン達へと駆け出せば一体へと狙いを定め、刀を抜く。鋭い一閃、そしてゴブリンの身体がまた不自然に跳ね。
「こっち来たらダメです」
 それは星玲奈(p3p000706)の放つ術であった。不殺の術ではあるが、傷ついたゴブリンの足を止めるには充分なもの。
 仲間達を鼓舞するセアラの歌声が響く中、フォルテシアの放つ魔弾は白い軌跡を描きゴブリンを穿つ。
 ロマンスに満ちる二人の逃避行。それを手助けするために己はここにいるのだから。
「でも、まだ退く気にはならないんですね」
「残念だけど、仕方ないね」
 一縷も思うところはフォルテシアと似て。二人の今までを全て引き換えに実行された逃避行。もう二人は全てを捨てたのだ。先にあるのは華やかな幸せであるべき筈。踏み込んだ一歩、勢いをつけ全力で鞘をスイングさせればゴブリンへと叩きつける。
 数の上ではイレギュラー達の方が勝っていた。しかし、残る三体のゴブリン達はまだ逃げるつもりもない様で。その証拠にゴブリン達から放たれるいくつもの鋭い礫は、無差別にイレギュラー達の身を掠め裂く。
「これでおしまいですよ!」
 至近距離に近づきゴブリンの動きを封じていたシフォリィが肉薄する攻撃を繰り出せば、眼前のゴブリンは硬いレンガ造りの床に伏し動かなくなった。
「さぁ、君も寝てなきゃね。――そうよそうよ。お友達と一緒によ!」
 小さな体とすばしっこさを生かしたゴブリンは、戦闘中に生じる隙をついて隊列の中まで入り込む。けれどもその前に立ちはだかるのは二体の人形。レオンの口は閉ざされていても、彼の人形――レオンとカルラは子供の言葉を代弁し。放つのは至近距離での連撃の術。息もつかせぬ格闘術にも似たそれを、けれどもゴブリンは最後の一撃を紙一重で避けていく。
「……逃げて行くわね」
 よたよたとレオンの元から離れるゴブリンには戦闘の意思はもう無いのであろう。その証拠に秋葉の横を通り過ぎる時も、無防備にその背中を見せている。逃げるゴブリン達は足早に消えていき、ぺたぺたという足音が響く中、秋葉はそっと耳を澄ませる。近くに他の存在がいるような音は聞こえない。
「皆様、予備の松明が必要でしたらここニ」
「それじゃ貰おうかな。さっきの戦闘で駄目になってね
 まるで完璧なメイドの様に準備万端なアルムに一縷が手を伸ばす。一縷の松明は先程の戦闘で駄目になったばかりで。新たな松明に炎が分けられると、それは隊列の前方を照らしだし、同時に敵に対する最初の標的となるための目印になるであろう。そうなれば一縷の思い通りで。
「うーん。それじゃ準備が整うまですこし歌を歌っちゃいましょうか。まだまだ真ん中を過ぎたくらいですし、気を張りすぎちゃうのもダメですから」
 緩い笑みを浮かべた星玲奈は、声量を調節しながらも歌いだす。普段は身に着けるアンクレットや揺れると澄んだ音を立てるアクセサリーも今回は無く、楽器の音もないけれど声だけの紡がれた明るく楽しげな調べであった。
 
●予期せぬ道
 事前に渡された地図は正確であったものの、情報屋の言った通りであった。
「崩れてしまっていますね」
 大きな紫の瞳を伏せるセアラの前にあるのは、崩れた瓦礫の積み重なる道で。地図上ではこの道を通り暫く歩けば目的とする出口に到着する事になっているが、誰も知らぬ間に崩れてしまったのだろう。
「この道が通れないのなら、先程の分かれ道に戻りませんか? 少し迂回する事になりますがこの先の道にも続くようですし」
 殿からの声はシフォリィのもの。仲間の持つ地図を借りながら、華奢な指先はとある道筋を指し示した。
「他の道を行くのは遠回り過ぎるし……。その道に行ってみても良いかな? ハンナ、もう少しだ」
 新たに提案された道を最初に受け入れたのは依頼人であるヴィリーである。屋敷からの脱出、地下水路への侵入にゴブリン襲撃と、気の休まる暇もないのであろうヴィリーの顔には疲労が見え、それは恋人のハンナも同じであった。
「少し休憩の時間といたしましょうカ」
 繋がれた恋人達の手を視界の片隅に捉えたアルムは思わず小さく笑みを零した。何となくではあるが、ヴィリーが何を思ったのか分かった気がしするが、それを口にするのは今ではないであろう。
 足元が微かに揺れた気がした。地下水路に響く低い音はゆっくりとこちらに近づいてきているのか、音は少しずつ大きくなっていて。
(ちょっとそれは厳しそうだよ)
 全員の心の中に直接語り掛けるのはハイテレパスを使うレオンであった。
「おにーさんとおねーさんを安全に送らなきゃ! ――ここは行き止まりだから、お姉さんの言っていた道まで早く行かないと!」
 逃げ道の無い行き止まりでの戦闘は、誰もが望まぬ所であろう。隊列を整えたイレギュラー達は急ぎ足に、新たな道筋を進んでいく。
「先行くよ!」
 隊の前衛を担う一縷が最後の角を曲がれば、そこにいるのはゴブリンが三体。今まで数度戦ってきたから何となくそんな気はしていたが、イレギュラー達を見ても元気そうなゴブリン達は退こうとはせず、もどかしさに秋葉は奥歯を噛んだ。
「退いてくれないなら、行くしかないですよねぇ」
 先に角を曲がった者たちの異変に気が付いた星玲奈は仲間達の士気を向上させるマーチを歌う。聞こえてくる歌声に背を押されるように、秋葉と一縷が駆け出せばそれぞれが一体ずつゴブリンを狙い。
「ボクタチで二人を守らなきゃね。フォルテシアのお姉さん!」
「合わせますね!」
 レオンの遠術を追いかけるのは、フォルテシアのロングボウから放たれる弓矢で。貫かれたゴブリンは倒れこみ、少し遅れてセアラの遠術によりもう一体のゴブリンが力尽きる様に闇の奥へと消えていく。
 時間にすれば数十秒の事であった。
 けれども、ソレにとってその時間は充分なもので。
「オーガ……」
「お二人とも私の側から離れないでくださイ」
 ハンナがか細い声でその名を口にするのを聞きながら、アルムは防御の姿勢を強固にしていく。ゴブリンと相対するイレギュラー達の隊列の後ろから現れたのは大きな頭と腹を持つ小型の巨人の姿。
 
●困難の先に
「オーガは私が押さえます!」
 一番初めにオーガに対して反応をしたのは、殿を務め警戒をしていたシフォリィであった。
 煌めく銀髪を靡かせて至近距離までオーガと距離を詰めると、手にする剣をオーガへと振るう。
「回復はまかせて」
「心強いです。ここで私たちが退くわけにはいきませんからね!」
 未来のある二人を危険な目に合わせる訳にはいかない。防御をするようにシフォリィの目前にいるオーガの身体は強固なもので。それでもシフォリィの背後から放たれた、星玲奈が術も合わされば、固い防御であっても相応の衝撃となるであろう。
「セアラ、一気に肩をつけるわよ」
「分かりました。援護します」
 秋葉達のいる前衛の前に残るのはゴブリンが一体だけで。本来であればゴブリンは逃げるであろう状況だが、オーガの出現でゴブリンは勝機を見出しているらしい。逃げない矮躯のモンスターに秋葉が叩きつけたのは剣と刀の斬撃で。距離の近さ故に、倒れたゴブリンにセアラがその杖を振り下ろすと、秋葉の剣撃から起き上がろうとしたゴブリンもそれ以上動くことは無くなった。
「抜かせるな……一度抜けば、斬らねばならぬ…なんて」
 ふ、と一縷の口元に浮かんだのは笑みであった。孤独な旅でも常に己と共にいる刃を片手にオーガの元まで駆けていけば、オーガの間合いへと踏み込んだ。跳躍と共にオーガにもたらされるのは切り伏せるような刃筋で。
 ゴブリンとは違いイレギュラー達の攻撃を受けてなお、オーガに撤退の意思は無いらしい。周囲にいるイレギュラー達を威嚇するように地を震わす声を上げると最も弱い存在へと駆け出した。
 オーガの降り下ろす棍棒の下にいるのはハンナを庇うヴィリー。
「……くッ!! ……依頼人様方には、指一本っ、触れ、させ、ませン!」
 ただその一撃を全て受け止めていたのは、二人を庇うアルムであった。アルムとオーガの力が拮抗していたのは一瞬。移動のために防御姿勢が取れなかったアルムの姿勢が崩されれば、巨人の衝撃が重くのしかかる。
 先程よりも距離を詰めていたことで、恋人達とオーガの間に割り入ったシフォリィで。構えた剣とその距離から、オーガはシフォリイよりも前に進むことは出来ないであろう。
「お二人の物語、こんな所で終わらせません!」
 フォルテシアが魔弾を撃つ隙にレオンが恋人達の手を引きオーガから遠ざけた。
「大丈夫ですよ」
 星玲奈の声は柔く、その唇から生み出される短い詠唱に込められたのは治癒の術。
 駆落ちをするヴィリーとハンナが羨ましく思った。恋の詩に出来てしまいそうな二人が。そんな二人の為にも、ここが最後のがんばり時な気がして。星玲奈は赤瞳を一度閉ざせば、残り数節の詠唱に思いを込めていく。
「随分あきらめが悪いね。――でも、あと少しかしら?」
 逃げるのであれば極力見逃すつもりであれど、オーガにはその気は微塵もないらしい。レオンの格闘術式がオーガに命中すれば、漸くその巨体はぐらりと傾いた。一体とは言え力の強いオーガの攻撃はじわじわとイレギュラー達を消耗させていく。
 この依頼も、この出会いも全ては神によるものだと思えて。神はどうすべきと己に告げているのか。耳を澄ませて、声を聴く。音を聞く。閉ざした瞼を開き見る。
「分かりました」
 ――神さま。
 セアラに聞こえた音は神の囁きか、それとも別の音であったかか分からない。ただ、どう動くべきか理解できて。
「全ては神さまの導きなのでしょう」
 体勢を崩したオーガに振り下ろした杖。非力であっても、狙うべき点はただ一つ。腕に伝わる鈍い衝撃、そうして足元には気絶し支えも力も失った様なオーガの頭が落ちてきたのだった。

「あら、もうすぐ夜明けですね」
 地下水路から地上に戻ったイレギュラー達を待っていたのは、全てを水色に染める空であった。
 安堵したように一息をつく恋人達にシフォリィは笑みを向ける。
「これからは陽の光の当たる場所で、貴方達が幸せになれますように」
 振り向けば、街は想像していたよりも後方に。街外れよりも尚外側に通じる出口であるらしい。
「これから大変になると思いますけど、お二人ならきっと乗り越えていけると思いますよ」
 だから、どうかお幸せに。フォルテシアもシフォリィに続けば赤い瞳を緩く細めた。願わくば、こんな恋人達の様に自分にもそんな相手がいれば。なんて思うところはあるけれど、きっとフォルテシアの物語の先にそんな展開は待っているかもしれず。
「ふふ。彼ったら、とっても嬉しそう。――ああ。彼女もお祝いしたいみたいだよ」
 口々に言うのはレオンの人形達。
 人形の主であるらしき子供は、口は開かずともその表情は嬉し気で。
「お祝いをするのなら、わたしからも一曲良いですか?」
「奇遇ですね。わたしも同じことを」
 そう口を揃えたのは恋歌を得意とする吟遊詩人の星玲奈と、神に愛された歌声を持つセアラであった。何やら話を始めた二人を見つめる一縷の側にはアルムがいて。
「お食事をするにも少し早いでしょウ」
「おや、ばれちゃったか」
「ええ。お顔にそう書いていらっしゃいますワ」
 仕事が終われば食事でも、そう思ってはいてもアルムの言う通り今開いている店何てほんの一握りであろう。
「ずっと大変でしたのデ、ヴィリー様、ハンナ様、宜しければお茶にしませんカ?」
 紅茶も焼き菓子も準備は出来ている。お茶をしてから街に戻れば、朝食にぴったりな時間であろう、なんて鉄腕のメイドは女剣士にウィンクを送った。
「今回はあそこを抜け出すという選択だったけど、あなた達の選択が正しいかどうか、私にはわからないわ」
 そろりとヴィリーとハンナに近づいた秋葉がそっと口にする。
「これから先、逃げられない時だってあるかもしれない。……そんな時でもちゃんと二人で乗り越えていくのよ?」
 必要なら人に頼っても良い。けれども、二人で必ず。
 甘くはない言葉だと秋葉自身も感じている。けれども、これから先二人を待つのは甘いだけの世界ではないのだから。
 恋人達は互いに見つめあうと、静かな返事を秋葉へと返す。紡がれた言葉には希望と決意が込められていた。
 

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした。
皆様が少しでも楽しんでいただけましたら幸いでございます。

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