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シナリオ詳細

<神逐>からくれなゐに こいくくるとは

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●国破れるまで
 豊穣郷カムイグラで計画されていた大規模な呪詛『大呪』。それを阻止する為に起きた先の戦いでは、魔種の『巫女姫』達を戴く敵勢力側にも、イレギュラーズ側にも、大きな爪痕が残った。
 『大呪』を封じ込めるべく、カムイグラの四神に守護を求めたイレギュラーズ達だが、カムイグラの守護神たる『黄泉津瑞神』が呪詛の影響で在り方が歪み始めている事がわかった。
 『黄泉津瑞神』が、厄神として国を滅ぼしてしまう前に。この国から、忌まわしい『大呪』を急ぎ取り除かねばならない。
 時間は、ない――。

●その恋に幕を
 ――その、猶予の無い中で。
『役者としても、途中で舞台を降りるのはちょっとな』
「恋に恋した女の魔種。第二幕では、その最期を連ねなければ」
 Tricky・Stars。
 『二人』で一役を担う彼らは、以前の戦いで行方をくらました男装の女魔種を気に掛けていた。彼女は『巫女姫』に恋し、『巫女姫』に協力しながらも、その想いが報われる事を求めない。どのように受け取られようと関係ない節さえある。
 そのような女が、この大一番で黙っているはずがない。相手は強力な魔種でもあることから、ここで幕としておくのは正解だろう。
「ええ、ええ。貴方のそれもまた、魂<アイ>なのでしょう。であればこそ、我(わたし)もお伝えのし甲斐があるというもの」
 話を聞いた『千殺万愛』チャンドラ・カトリ(p3n000142)も、その顔を満足そうな笑みで満たした。

 その顔を満たしていたのは、笑みだけでなく。夥しい流血と火傷で粧し込まれていた。強敵へとイレギュラーズを誘う時、チャンドラはそこそこの確率で大怪我をしている。ギフトを使用する為に、相手を観察する必要があるからだ。回復の使い手でもあるため、その場で治癒も可能ではあるのだが。

 早速傷を癒すと、妖しく笑んでチャンドラはイレギュラーズに伝える。
「更級智泉(さらしな・ともみ)、という名の男装の魔種がいます。巫女姫へ一方的な恋情を寄せる、煙を操る女性魔種……ですが。
 彼女、以前より力を増していたようです。まさに彼女のアイとは呪! ああ愛おしい!」
 身悶えるように己を抱き締めながら、熱い溜息の後に彼は続ける。
「以前は多くの手勢を連れていたのですが、皆様の実力の前には無力と知ったのでしょうね。一緒にいたのは多くの『刃』でなく、一人の『風』でした。
 肉腫、と言っていましたが……あれはもう、魔種に限りなく近い何かでしょう。膠窈種(セバストス)、と言うのでしたっけ?」
 膠窈種とは、純正肉腫が魔種による原罪の呼び声を受けるか、複製肉腫が反転することで至る『肉腫版魔種』のようなもの。肉腫の特徴である『パンドラを持たない存在(普通の人間、動植物、妖、魔物等)に感染し増殖する』性質を備えており、その際に実力で劣る『複製肉腫』でなく『純正肉腫』を誕生させる可能性も秘めている。
 そのような存在が、都の街中へ出ていけば――最悪の悲劇は目に見えている。

「『煙』と『風』。どちらも果て無く広がり、遠く運ぶもの。いいお相手を選ばれたではないですか、彼女も。
 街へ出られては、流石に打つ手が無くなってしまいます。殺(アイ)せる内に、殺(アイ)して差し上げないと」
 寄る辺も当てもないもの達が、高天御苑より出でて広がる前に。
 月夜を駆けよ、特異運命座標達。

●煙と風は月夜を焦がす
 巫女姫様は望むものを手に入れられたのに、逃がしてしまわれたという。
 あれほど、喜んでおられたのに。
 私の失態も咎められなかったどころか――『話にすら出なかった』ほど。

 煙でしかない私になど、燃滓ほどの興味も抱かなくて良い。
 そのようなものは、元より求めていない。
 興味がないどころか迷惑? それこそ、有り得ないではないか。
 あの方は『愛する姉』以外、『興味が無い』のだから!
 その『姉』を逃してしまわれたなら、その心中は如何ばかりか!

「更級様、急ぎましょう。火の回りは、早ければ早いほど宜しいですよ」
「ああ、わかっているとも。この月夜を、愛の焔で彩って差し上げよう」

 君よ。君が身を焦がす色欲の愛よ。
 その愛の焔に、薪をくべよう! 風を贈ろう!
 この京が、焼け落ちるほどの!

GMコメント

旭吉です。3度目のHARDです。
アフターアクションも採用させて頂きました。
智泉さんの本気なので私も攻めの姿勢でいきます。ごーごー。

●目標
 更級 智泉、結城 隼の撃破

●状況
 秋の綺麗な満月の夜。
 カムイグラの都、高天京(たかあまのみやこ)の中央。
 広大な高天御苑から街へ出る御門のひとつが舞台。
 近くには立派な松並木や楓の大樹、石垣、篝火などが多くあります。
 遠くに天守閣を望むこともできるでしょう。

●敵情報
 更級 知泉(さらしな・ともみ)
  烏帽子に太刀と、男性貴族の格好で振る舞う女性魔種。
  広域に呪縛効果をもたらす不可視の煙と、
  近接距離では封印・恍惚効果をもたらす靄のような煙を使います。
  太刀での攻撃には強力な物理ダメージ+AP吸収効果が付く他、連撃確率が高いです。
  APを積極的に減らしてくる他、火力も大分底上げされました。
  HPすごく高い。

  君の愛に、世界を贈ろう。

 結城 隼(ゆうき・はやと)
  智泉の配下であった複製魔種が、反転し膠窈種となった存在。
  扇範囲の毒の鎌鼬の他、味方の攻撃を『風』で広げて広範囲化するサポートもこなします。
  武器としては仕込み鉄扇を使用。
  実力は智泉に負けるとも劣りません。

  広く遠く、どこまでも。

●NPC
 チャンドラ
  回復役として同行します。御用があればプレイングにてお声掛けください(言及が無ければ特に描写しません)

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

  • <神逐>からくれなゐに こいくくるとは完了
  • GM名旭吉
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年11月18日 22時21分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アルペストゥス(p3p000029)
煌雷竜
日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
Tricky・Stars(p3p004734)
二人一役
ソア(p3p007025)
無尽虎爪
ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
懐中時計は動き出す
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように
柊 沙夜(p3p009052)
特異運命座標

サポートNPC一覧(1人)

チャンドラ・カトリ(p3n000142)
万愛器

リプレイ

●昇る煙は、貴女の許へ
 高天御苑の御門のひとつに、楓御門(かえでごもん)と名付けられた門がある。
 石垣の壁沿いに松並木が並ぶ道を歩けば、御門で見事な楓の大樹が迎えてくれる風情ある門だ。特に今の季節は、燃えるように紅葉した楓が篝火に照らされ見事に映っているだろう。
 そして、そこでの出会いは必然だった。
 『巫女姫』の愛の焔――『大呪』を成さんがため、高天御苑の外を目指す魔種達と。
 『大呪』を押し留めんがため、高天御所を目指すイレギュラーズ達であれば。

「……グルルル……!!」
「あの魔種達は必ず退治しなくちゃ。チャンドラさんが命がけで集めてきてくれた情報、無駄にはしないからね」
 その姿を見るのは初めてでも、魔種の気配を感じただけで『煌雷竜』アルペストゥス(p3p000029)は敵意の唸り声をあげ牙を剥き出しにする。『雷虎』ソア(p3p007025)も早々に戦いの構えを取った。
「また出やがったな更級……あー、なんだっけ。何でもいいわ、今度は逃がす気はねぇからな」
「しかも『煙』と『風』なんて本当に、遠くまで運べる組み合わせ。嫌になるわあ」
 『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)と『特異運命座標』柊 沙夜(p3p009052)にとっては、望まぬ再会であった。

 煙の魔種、更級智泉。
 更にこの度は、風の膠窈種である結城隼を引き連れていた。

「お前達に構う暇はない、と言いたいが……そうもいかないか」
「アンタの存在そのものがレッドカードっス」
「お互いが通り道に過ぎないのに、先に進めるのは片方だけ。そして勿論、お互いに道を譲るつもりもないなら。戦わない理由はない」
 智泉の言葉に、葵とマルク・シリング(p3p001309)が反論すれば、それも道理かと彼女は扇を開く。
「どうも、久方ぶりの再会でございますね? 更級様」
 そこへ、一見丁寧な、親しげにも聞こえる挨拶を送る『黒鉄波濤』ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)。しかし微笑みは、明らかに何かを含んでいた。
「煙が如く逃げるのがお上手なようでしたが、此度は是非『前の話』の続きをしたく思いまして」
「そのような時間は互いに無いはずだが」
「はい。僕も、特定の人を愛する人間ではないのですが。せっかく時間を頂いたので、じっくりと考えたんですよ。愛って、煙みたいに軽くないのですよね」
「それは――」
 どういう意味か、と問い質そうとした智泉を隼が留める。これ以上は相手の思惑に嵌まってしまうと。
「愛の焔に、風を与えて。昇る煙は、貴女の許へ―—。……こんな状況でなければ、素敵なお話なのですけれど」
 一篇の詩のように、『夜咲紡ぎ』リンディス=クァドラータ(p3p007979)は智泉の心境思って口に乗せてみるが。それは叶わぬ願いだ。
 その願いの為に数多の物語が犠牲になるのなら、散らさねばならない。
「更級、お前の行く末は既に決まっている。後はただ、世の為人の為に討たれるだけだ。
 その献身に意味はなく、秘めた想いが天に届くこともない。何一つ果たせないままここで終われ」
 『二人一役』Tricky・Stars(p3p004734)の片割れ、劇作家である稔もまた、その結末を既に定めていた。『定めた終わり』に向けて現実を綴り、演出する。その点において、リンディスとStars達は似通った者達だったかもしれない。
『お前さぁ、愛の焔とか本気で言ってる? 俺そういうのマジ無理だわ』
「理解する必要はない、どうせ惨めな結末は変わらないのだからな。本人が自分で選んだ結果だ」
 相方の虚が辟易とするのを感じ取って、稔は魔導書を手に取った。
「甘んじて受け入れろ、更級」
「断る。それこそ、巫女姫様の枷でしかない。それより、終わりを受け入れねばならないのはお前達だということ……未だ理解していないと見た」
 開いていた扇を閉じると、それまで隠していた智泉の口元が露わになる。
 その口元は、余裕の弧を描いていた。

「お前達の目の前にいるのは、煙と風だということ。その身を以て意味を知るがいい!」

●風との戦い・始
 初めに動いたのは、隼だった。風を扱う膠窈種の動きはまさに突風の如く、目にも留まらぬ速さで行われた。
「何、してるの……?」
 ソアには、その行動の意味が分からなかった。彼はイレギュラーズに攻撃を加えることなく、傍らの松並木数本を傷付けていったのだ。
 続いて智泉の扇が開かれてあおがれると、見えない風が吹き抜ける。すると、リンディスと沙夜が突如鼻と口を塞いで蹲った。
「不可視の煙って奴か。回復は任せた、まずは予定通り結城から落とす!」
 煙の影響を受けなかった葵は素早く距離を取ると、銀のボールを鋭く蹴り飛ばす。白銀の軌道を描いたボールは、流星の如く翔んで隼へ命中した。
「寝ている場合ではないぞ、舞台はまだここからだ」
 その様子を見送りつつ、稔が白紙の魔導書に万年筆を走らせる。綴られた台詞は言霊となって沙夜とリンディスを癒していった。
「ガウ……グルルルッ」
 仲間を癒した後に魔種達と距離を取るStarsに合わせ、アルペストゥスもその巨体を大きく後方へ退く。最も後方まで離れると、静かに何かを呟き始めた。
 竜語魔術【等化】(ドラゴンロア【アエクアリス】)――古代竜達が扱ってきた、結晶化のドラゴンブレスだ!
「皆、急いで射線から離れるんだ!」
 アルペストゥスは射線上に仲間がいない場所から狙っていたが、念の為マルクが声をかける。イレギュラーズ達が退避した直後、ブレスが蹂躙した跡にはあらゆる概念が等しく結晶化していた。
「流石は竜はん……けど、敵さんもしぶといみたいやねぇ」
 味方の攻撃ながら思わず驚嘆していた沙夜が結晶の先を見ると、その一部が音をたてて破壊されるのが見えた。
「その嫌な風、遠くまでは運ばせんよ」
 稔の前まで退くと式符を翳し、冥闇の黒鴉を呼び出すと、結晶から現れた隼を狙わせる。そして、その頃にはソアの全身を雷電の奔流が抑えきれないとばかりに駆け巡っていた。
「アバターカレイドアクセラレーション(AKA)……ボクの可能性、ボクの全てで……!」
 滾る雷電を、黒鴉の襲撃を受けている隼へと放つ。幾条にも分かれた雷が次々に降り注ぎ、防御の暇を与えない。
「Trickyさん、先程は助かりました」
「一度やった相手だ、手の内はある程度読める」
 駆け付けたリンディスが、過去巡りの書巻に『鏡』の章を次々に綴る。まずは自身に。そしてマルク、稔へ。
「…………」
 ヴィクトールは、その視線に壊れ始めている結晶を捉えていた。
「チャンドラさん、彼に同行をお願いできますか」
「ええ。そのアイ、及ばずながら見届けましょう」
 リンディスの求めに応じて、『千殺万愛』チャンドラ・カトリ(p3n000142)がヴィクトールに同行すると、二人は結晶の元――智泉の元へ向かった。
(どこかが崩れれば、勝ち筋も消える。頼んだぞ)
 祈るようにその背を見送って、マルクは素早く隼へと視線を戻す。
「魔光……閃熱波!」
 神秘の杖から、破壊の魔力を叩きつける。出し惜しみは一切しなかった。

 イレギュラーズ達の攻撃は、それぞれは決して生半可なものではなかった。
 浅くはない傷を負ってなお、隼は嗤っていた。
「俺は、膠窈種なんですよ?」
 その背で、彼が初手で傷付けた松並木達が不自然にざわつき始めた――。

●黒鉄の愛
「どうあっても話をするつもりか。その体で?」
 蹲るヴィクトールを見下ろす更級智泉の太刀は、その切っ先を彼の肩へ深く突き刺していた。

 智泉を隼から分断しようとしたヴィクトールは、その長身で彼女を押し留めていた。対して智泉は、目に見える紫煙を燻らせると彼の肺を満たし、その意識を朦朧とさせたばかりか、太刀で立て続けに斬り付けたのだ。
 とどめのように、最後の一太刀を突き立てて。

「ええ、その為に……こうして、逢いに来たのです、から」
 鉄の味が満たして零れる口を開いて、ヴィクトールは笑う。
「どうでもいい人に、愛される……傍迷惑な愛の体験会でも、しませんか」
「……は?」
「ボク、貴方様の何が気に入らないのかが……わかったのですよ。貴方様、は」
 智泉が問い返したその隙に立ち上がると、クローズドサンクチュアリを展開しながら拳を握る。そして、バックハンドブロウ――『殴った』のだ。彼女の顔を。
「!!」
「貴方様は、決して悲劇のヒロインじゃあないんです。すごい、勝手なんですよね」
 勝手に惚れて、勝手に失恋しても、想い続ける『健気な女』。
 そんな自分に満足しているだけ。
「見た目をどれだけ男に装おうが、女々しいにも程があるんですよ」
「……ならば。この想い、巫女姫様に打ち明けよと?」
「当たって砕けろ、と。人は言うのでしょうね。でも、今は――」
 智泉の行く手を阻んでいた身体を、更に寄せて。
 口付けでもしそうなほど近付いた唇は、重なることはなく耳元へ滑らせ。
「……今は、貴方に恋してる設定なんです。だからこっちを見てほしいんです。
 特別ですよ。僕を見てください。見なくてもいいです。全身全霊の愛をあげます。
 好きだって思い込んで。恋い焦がれてるほどに、身を焼く想いをぶつけてあげます」

 ――死んでくれたら、愛してあげますから。ね?
 (私が愛したものは、皆壊れるのですから。つまりです)

●風との戦い・結
 ヴィクトールが智泉を留めていた間、他のイレギュラーズ達は思わぬ増援への対応を余儀なくされていた。
「何だよあいつら! 松だけじゃなくて篝火の変なのもいるし!」
 隼は風の膠窈種。『パンドラを持たない存在を感染させ、純正肉腫を誕生させる』能力を持つ。彼は初手で松の純正肉腫を増やし、更に伏兵として篝火から変じさせた炎の純正肉腫も加勢したのだ。
 思えば、イレギュラーズ達に今回の案内をしてきたチャンドラは酷い火傷をしてはいなかったか――などと、振り返っている場合ではない。
「アルペストゥス! オレと同じ相手を狙ってくれ!」
「ギャウ!」
 葵が声をかければ、アルペストゥスはすぐに応じた。隼が生きている限り、更に肉腫が増える可能性もある。彼を早々に落とさねばならない理由が増えたのだ。
「ぶっ飛べ、パーフェクト……バウンス!」
 高く跳躍し、赤い彗星と化したボールを蹴り落とす。隼と周囲の肉腫達を巻き込んで跳ねた後のボールを受け止めると、畳み掛けるように隼へハードランチャーを見舞った。
(かっこ、げきは……より。なるべく、まとめて……)
 アルペストゥスが詠唱に集中する間も、肉腫達はイレギュラーズ達に迫り歪に伸びた枝や炎で攻め立てる。稔が即座に回復するが、侮れない攻撃力だ。 
(……なかま、と、戦う。……おもしろいことだね)
 そんな仲間達を、一人だって喪わせるわけにはいかない。
 だから、若き古代竜は疲労を顧みず結晶のブレスを吐くのだ。
「ガァアアウッ!」
 帯状に蹂躙し、浴びたものを結晶化させてゆく。しかし、その竜語魔術をも抜けてくる肉腫がいた。
「おっと!」
 沙夜に迫っていた松の枝を、AKAを纏ったソアが躍り出て庇った。
「ソアはん!」
「元から、想定内だったから、ね……! 肉腫がいっぱい、なのは……予想外だけど……」
 それに、ソアはただやられて終わるつもりはなかった。
「そっちから、来てくれたなら……自慢の爪を、お見舞いしちゃうよ!」
 篝火の灯りを受けて煌めく鋭い爪を、樹の胴体へ次々と刻んだ。彼女の攻撃に続くように、沙夜も再び冥闇の黒鴉を呼び援護させる。
「さっさと、とはいかんやろうけど……早う倒れてもらうんよ!」

「マルクさん、あと……どれくらい、もちますか」
「こちらは問題ない。体力、気力共にね」
 炎の肉腫を1体、魔光閃熱波で消滅させたマルクが振り向くと、『援』の章を綴っていたリンディスは僅かに表情を緩めた。その体には――隼が肉腫達を強化し、攻撃が広範囲に及ぶようになった際の傷跡が残っている。
 肉腫達相手の戦いは、想像以上に長引いていた。
 長引いてもイレギュラーズ達が戦いを続けられるのは、ひとえにリンディスやマルク、Stars達のもたらす癒しがあればこそだ。
 そして、隼が智泉の援護に入れないよう、それぞれのイレギュラーズ達が懸命に引き留めているからだ。
「そろそろ、か……ロギ!」
 アルペストゥスと共に隼への攻撃を集中させていた葵が、待機させていた虚木 空太郎を呼ぶ。
「待ちくたびれマシたよ葵チャン!」
 応えた空太郎が自慢の脚で駆けだすと、真っ直ぐ隼を目指した。
「何ですか、お前は……!」
「さァて何デショ、っと」
 隼の問いに、目の前で高く跳んで背後に回る。空太郎が視界から消えた、と隼が思った時には。
「随分手こずらせてくれたな。アンタはこれで……終わりっス!」
 スーパーノヴァ。超絶加速の超新星と化した葵自身の蹴りが、隼を完全に粉砕した。
「よっしゃロギ、ナイスサポート!」
「ナイッシュー葵チャン! あ、こっから後は手は貸せませんノデ悪しからずーヒヒヒ」
 いつものニヤケ笑いを残して退いていく彼に礼を言って、葵は辺りを見回す。

 肉腫との戦いは、無傷ではないがイレギュラーズの勝ちと見ていいだろう。
 となれば、後は。

●煙散らす
 ヴィクトールの告白に対して、智泉は答えの代わりに更に太刀を突き立てた。
「お前を愛することは、私にとって何の意味も持たない。体験、とはよく言ったものだが」
「……ッ!」
「愛しても、恋してもいない、お前の児戯と同等に扱われることは酷く不快だ。それでも、その戯れを愛だというのなら――私は憎悪で応えるしかあるまい」
 突き立てた刃が、そのまま肉を裂く。既に彼の服や髪は夥しい血で汚れていて、息をしているのが不思議なほどだ。
 チャンドラの回復があるとは言え、耐久と防御に長ける彼でなければパンドラによる復活すら使い果たしていただろう。
「ヴィクトール!」
 そこへ、肉腫への対応を終えたマルクが大天使の祝福を施す。
「大丈夫っスか!? ちょっとその刀、抜いてほしいんスけど!」
 更に彼への攻撃を阻もうと葵がハードランチャーのシュートを放てば、智泉は太刀と共にヴィクトールから距離を取った。
「結城の肉腫達を破ったのか!」
「グラァウ!」
 驚きを隠しきれない智泉に、アルペを傷ストゥスが雄叫びと共にナイトメアバレットを叩き付ける。彼女はヴィクトールに大きな与え続けたが、ヴィクトールから聖躰の棘や反射攻撃で受けたダメージも少なくない。そこへハードランチャーから続く攻撃を浴びるのは、大きな痛手となっていた。
「年貢の納め時だ。終わりを受け入れるべきは、やはりお前の方だったな」
 肉腫との戦いから満足に癒えていない仲間達を癒やしつつ、とどめに向けてパーフェクトフォームを整えるStars。
「今夜燃えるのは、お前達の命だけだ」
「巫女姫に届く前にその危ない炎、鎮火させるんよ!」
 気力も体力も、出し惜しみはしない。ソアの爪は刃の様に鋭く切り裂き、沙夜は召喚した黒鴉に加えて己の魔力も放った。
「癒して、援けて、補う……皆さんの足場を、守ります」
「理不尽な死が、人々を襲う前に。煙は払い、搔い潜る。その為に!」
 肉腫との戦いでイレギュラーズを支え続けたリンディスは、この場でも決して崩れぬ回復の牙城として。マルクは癒し手達の、あるいは攻め手達の助けとして、その杖を振るう。
 智泉も太刀と煙で応戦するが、次第に多勢に無勢となっていく。
「く……、このまま滅びる、訳には」
『往生際が悪いのも嫌われんじゃね? それ以前に無関心なんだろうけど』
 パーフェクトフォームから繰り出される、Starsの虚によるFemme Fatale。炎を纏い気力を溜めた拳の一撃は、見た目を遥かに超える威力を持っていた。
(歪みをかさねるばかりなら、たおすだけ……)
 『Omnia aeque Quid sit(あらゆるものを 等しく 在るべき形へ)』――アルペストゥスが竜語魔術の呪文を小さく詠唱すると、口を開いて結晶化の息吹を放った。
(――いなくなってしまえ!!)

 再び結晶に覆われた智泉。今度こそ息の根を止めたかと、回復したヴィクトールが結晶の中の彼女を見る。
 まるで、眠っているよう――
「!?」
 結晶の一部が突如破られ、中の彼女が伸ばした腕がヴィクトールの腕を掴んだ。まるで目に焼き付けるようにしばらくの間彼を睨み続けて――やがて、煤のように消えていったのだった。

●煙魔之呪
 愛の焔の煙となることを願った魔種は、こうして滅んだ。
 ひとつの物語を無事結末まで導けたことを、Starsとリンディスは安堵した。ソアも無害な夜風を安心して深く吸い込んで、大きく吐き出す。
「終わったっスね……愛ってあそこまで人を狂わせるもんなのか、怖……」
 結局、葵には愛がよくわからなかったし、わかりたいとも思えなかった。これほど狂ってしまうものならいらない、とすら思えてしまう。
「他人に迷惑かけんかったら、ええんとちがう? 更級ちゃんのは例外で、世の中の女の子のほとんどはそうなんやない?」
(あい。感情が繋がっていることは、わかる。それが何かは、わからないけど)
 沙夜とアルペストゥスも、愛が何かははっきりとはわからないものの。人々の中には、そういうものが確かに存在することはわかっていて。
「煙と風……煙が風に流されれば、後は空に散るだけだ……。彼女はそれを判って、この夜を迎えたのだろうか」
「……それはどうでしょうか。ヴィクトール、その腕は」
 夜風に僅かばかりの感傷を覚えたマルク。しかし、その言葉を否定するようなチャンドラの語り口に思わず彼と同じ方向を見る。

 ヴィクトールの腕には、黒煙の煤がこびりついたような痕が残っていた。
 最期に智泉が掴んだ指の形の通りに、くっきりと。いくら拭っても消えない不気味な痕だ。
「ふふふ。恐ろしい<いとおしい>ではないですか。彼女のアイですよ」
「私は……愛に纏わる精神干渉を受けないはずですが」
「『どう思われようが関係ない』彼女のアイなら? これが呪<アイ>でなくて何なのです」
 アイを語る少年は、うっとりと笑んでいた。

 たとえその身が滅ぼされようと、消えない呪<アイ>を遺して。
 煙の魔種は、月夜の夜風に溶けていった。

成否

成功

MVP

ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
懐中時計は動き出す

状態異常

日向 葵(p3p000366)[重傷]
紅眼のエースストライカー
Tricky・Stars(p3p004734)[重傷]
二人一役
ソア(p3p007025)[重傷]
無尽虎爪
ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)[重傷]
懐中時計は動き出す
リンディス=クァドラータ(p3p007979)[重傷]
ただの人のように

あとがき

更級智泉、これにて撃破です。お疲れ様でした。
回復手のフォローが厚く、攻め手の皆さんもうまく攻められたのではと思います。どちらが欠けても危うかったです。
今回は自分史上一、二を競うくらい遠慮しませんでしたが、死亡判定を出さずに済んで安堵しました。

それが貴方の愛の形なら、これこそはまさしく彼女の呪<アイ>の形なのでしょう。

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