シナリオ詳細
恐怖と痛みとアクティアム妖精
オープニング
●痛みを喰う妖精
「アクティアム妖精は恐怖と痛みをつなげるすべを知っておる」
イレギュラーズたちの聞き込みに対して、マジックショップギルドの老人が答えた最大の発言である。
始まりはこんな内容だった。
「貴族たちの自殺事件が連続して起こっているの。最初の数件は小さな領主だったし影響力も小さかったから、経済不安や流行りの狂気事件と思われていたんだけれど……自殺なんてする筈の無かった主流派に連なる貴族たちも相次いで自殺しはじめたの。
けど、そうよね。
自殺事件は連続なんてしない。無関係の個人であれば尚のこと。
けれどこの事件には『連続性』が確かにあったのよ」
はじめは些細な共通点だった。
身内が自殺を否定したり、用意の杜撰な突発的行為であったり。
だがそれが、万年筆で自らの喉や目を連続して突いたり馬車で何度も自分を轢いたり、耳を切った馬に四肢を引きちぎらせたり、その狂気的なまでの手段の中に、自殺ではなく『痛み』を目的としたことが、見えてきたのだ。
「痛みを欲する病。この原因を調査して、可能なら止めることがこの依頼よ。
受けるか受けないかは、今決めて頂戴」
それからイレギュラーズたちは調査に乗り出した。
自殺した貴族の遺族たちに聞き込みをして回ったり、屋敷を見て回ったり、担当の医者や薬剤師に話を聞いたり、時には少し強引な調査もした。
そして全ての自殺者――否『被害者』が、同じ薬剤師の薬を服用していることを発見したのだ。
薬剤師の名はボーゴ。
彼の調合する薬には『アクティアム妖精』羽根からとれる鱗粉が含まれていた。
「アクティアム妖精は北の谷に住むという、蚊のような生き物じゃ。
人の痛みと恐怖を食らい、蓄える。その際に流れ込む成分は恐怖を強制的に呼び起こし、自らを傷付けるのじゃ。
ただし解決法はある。妖精の蓄える痛みと恐怖には限度がある。
より深く強い恐怖であれば、妖精は蓄えることが出来ずにパンクしてしまうじゃろう。
恐れるのじゃ。深く。強く。
恐れ、痛み、それこそが死を克服する」
●ボーゴの館
かくしてボーゴの館へたどり着いたイレギュラーズたち。
彼らは館に突入し、ボーゴと対峙した。
なぜこんなことを。そう語るイレギュラーズに、彼はこう応えた。
「楽しいからさ。みんなも知ってるだろう? 他人の恐れる様、痛みに苦しむ様。楽しくて楽しくて、仕方ないだろう!?」
ペストマスクを着用した白衣の男ボーゴは、くふくふと笑って近くの瓶を床にたたき付ける。
「さあ、お前たちも僕を楽しませろ!」
瓶からは大量のアクティアム妖精があふれ出した。
恐怖が、痛みが、あなたを支配しようとしている。
- 恐怖と痛みとアクティアム妖精完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年05月09日 21時30分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●未来は過去でできている
本は偉大だと誰かが言った。
『叡智の捕食者』ドラマ・ゲツク(p3p000172)に聞いても、同じことを言うかも知れない。
「アクティアム妖精……ですか」
王都の図書館に三日通い詰め、ドラマは本という本を読みあさった。
司書は漠然とした内容から本を探り当てるというが、ドラマにも似たような技能があった。それでもここまでかかったのは、症例が漠然としすぎていたからである。
連続して起きた不可解な自殺事件と、現場から発見されたアクティアム妖精の粉。これらの調査と阻止を依頼された彼女たちは、まずは関連する症例や事件、その他諸々を知の鉱脈から発掘することにしたのだ。
手伝って一緒に本を運んでいた『flawless Diva』セアラ・シズ・ラファティ(p3p000390)が、ドラマの開いた本を覗き込む。
「興味深いですね」
「おとぎ話ですけれど」
セアラが着目したのは、古代を舞台にしたおとぎ話だ。
世界一美しい姫と、それを嫉んだ母の話。母は夜な夜な恐怖の歌をうたい、妖精を姫の寝室に送り込んだというものだ。
「その話。最後はどうなるんだ」
同じく手伝いをしていた『ShadowRecon』エイヴ・ベル・エレミア(p3p003451)が逆側から覗き込む。
「姫が助けた良い妖精からもらった花が、恐怖の妖精を遠ざけて、歌をうたい過ぎた母は逆に妖精のえじきになったそうです」
「なるほど、寓話だな」
良い行ないと悪しき行ないを語り、その末路を示す。
だがそういうものの中にこそ、不思議な真実が隠れていることがある。
複数の症例による絞り込み検索でアクティアム妖精に関する知識を深めていた一方で、他のメンバーは被害者たちの共通点を探っていた。
「流通……なの」
『しまっちゃう猫ちゃん』ミア・レイフィールド(p3p001321)は得意分野で探ることにした。
被害者たちに共通する流通経路をたどることで、共通した人間を絞るというやり方だ。
「パン屋のシルル、薬剤師のボーゴ、医者のケーレケ……他にも共通する人物は多いな」
リストを読み上げる『銀閃の騎士』リゲル=アークライト(p3p000442)。
「やっぱり薬か医者じゃねーかな。不特定多数に配るものに仕込んでたにしちゃまちまち過ぎる」
リストを横からのぞく『活菓子』シュクル・シュガー(p3p000627)。
彼らは足を使って絞り込みをかけ、犯人の目星をつけていく。
最後にヒットしたのは、薬剤師のボーゴだった。
目をつけた理由は価格帯だった。ボーゴは他の薬剤師とはほんの僅かながら安い価格で薬を販売していた。
お金をけちりたがる人間は自ずと彼の薬を選び、使用するという流れである。それは医者や他の薬剤師も例外ではない。
「お金か……やっぱり安いものには気をつけないとな」
シュクルは複雑な顔でそう言った。
ボーゴが犯人だと分かった所で、すぐには突入を仕掛けなかった。
ミアは周辺を漁ったり聞き込みをしたりして調査をしたがったが、ボーゴに感づかれて逃がしてしまうことから調査内容は『特異運命座標』久遠・U・レイ(p3p001071)にパスされた。
レイの調査対象はボーゴの研究内容だ。
それもアクティアム妖精を操る方法である。
レイはやがてマジックショップに行き着き、ギルドの老人から『アクティアム妖精は恐怖と痛みをつなげるすべを知っておる』という話を聞くに至るのだが……ここは既知のこと。省略しよう。
一方で『Nyarlathotep』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)や『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)たちは別の方向からアクティアム妖精について調べていた。
『見習い』ニゲラ・グリンメイデ(p3p004700)の案内でカフェに集まった身分の異なる何人かの人々。
彼らは連続した自殺事件『被害者』の遺族たちである。
親兄弟友人その他。とりあえずレイの情報網やドラマの資料検索をたよりに集めたのだ。
二人は絶大なカリスマを示し、被害者遺族たちの聞き手となった。
いわゆる『被害者の会』なのだが、狙いは彼らのもとにあるであろう『ボーゴの薬』であった。
遺族たちから一定の信頼を得た二人は『薬が在るならば成分を調べねば』と主張して、すぐに薬を得ることが出来た。
「恐怖と激痛。解放への数秒。確かに刹那的な悦びだ。死こそが最も慈悲深い。されど奴等は既知なのだ。我等『物語』の如く娯楽的な恐怖だったのだ。故に此度の物語。根底から消滅させねば」
オラボナの語りに、デイジーも頷く。
「妾たちが獲得したのはボーゴ最大の武器であるアクティアム妖精の情報じゃ」
本を手にやってくるドラマとセアラ。
「長らく失われていた技術ですが、おとぎ話にヒントがありました」
「試してみなければ分かりませんが、うまくすれば状況を有利にできるかも」
そこへミアとシュクル、ニゲラも加わる。
「きっと館には、妖精そのものが、沢山いるはず……なの」
「現物は俺たちも見たこと無いから、どういう風に出てくるのか検討がつかない」
「ボーゴは臆病で慎重な性格のようだし、注意して行かなくちゃね」
列に加わるレイ。そしてエイヴ。
彼らは一団となり、その先頭にリゲルが立った。
「これ以上犠牲を出すわけにはいかない! ボーゴ、必ず捕まえてやる!」
扉を蹴破り、館へと突入する。
そうして、あの場面へと移るのだ。
●ボーゴの館
「楽しいからさ。みんなも知ってるだろう? 他人の恐れる様、痛みに苦しむ様。楽しくて楽しくて、仕方ないだろう!?」
ペストマスクを着用した白衣の男ボーゴは、くふくふと笑って近くの瓶を床にたたき付ける。
「さあ、お前たちも僕を楽しませろ!」
瓶からは大量のアクティアム妖精があふれ出した。
粉を服用しただけでも死に至るのだ。これだけの数の実物に取り囲まれては防ぎようがない。
リゲルたちはたちまち、恐怖の幻覚に襲われた。
夢と呼ぶにはリアルな、しかし現実とするには荒唐無稽な体験だった。
五感の全てが曖昧になり、記憶や認識が崩れていく。
ドラマは気づけば炎の前にいた。
夢物語に聞いた稀覯本の数々が、山と積まれて燃えている。人々は松明や本を山へ投げ込んでいた。
ある政治家が知識や思想を統一すべく一部の書籍を燃やす政策をとったという話を聞いたことがある。これはまさにそんな光景だった。
ドラマは居ても立ってもいられず本の山に手を突っ込むが、引っ張り出した本は灰となって崩れていった。
振り返れば、松明をもった人々がフードを上げる。
それは皆、自分自身だった。
ありえない体験。見えないはずのもの。
デイジーは傷だらけで夜の泥沼を走っている。
振り返れば松明の群れ。
兄や姉が兵を率い、自分を追いかける光景だ。
頼った相手は毒を塗ったナイフを抜き、かくまってくれた人は密告者で、どこへ言ってもひとりぼっちだった。
助けを求める『誰か』という声が、光のない泥沼に沈んでいく。
声が沈んでいく。なにも聞こえなくなっていく。
セアラはずっと昔から聞こえていたものが消えていくことに震えた。
神の声だ。少なくともセアラ自身がそう信じている以上、神の声だ。
生きることも死ぬことも、その先にあったはずなのに。
それが鈍く沈むように消えていく。
もう二度と聞こえないような気がして、激しく取り乱した。
手元には短剣。
セアラは逆手に振り上げて、白い喉を晒した。
喉を刃が貫く感覚。冷たさと重さ。
不自由な呼吸と体内から発する異音。
エイヴはそれを理解していたつもりだった。
似たようなめにあったことも、あるかもしれない。
人間が死ぬことは知っている。
殺し方も知っていた。
だが死の先にあるものは、知らなかった。
自分はどうなってしまうのか。
どうなってしまうのか。
考えることすら、許されないというのか。
思考は恐怖を生むという。
オラボナ=ヒールド=テゴスにとっての恐怖とは『己の存在する現』だ。
道ばたに少女の影だけが踊っていたら、恐ろしい怪異として語られるだろう。
しかし少女の実態を伴った時、ただの踊る少女でしかない。
幽霊の正体は、いつまでも見られてはならない。
恐怖の理由は、いつまでも理解されてはならない。
ああ――。
「眼前の最も驚異的な『既知の所業』――猿真似を止めねば。止めなければ己は無意味と成る。恐ろしいほどに!」
ひとまず戻って現実の光景。
ニゲラたちは恐怖にとらわれ、なにかを語りながら、叫びながら立ち尽くしていた。
アクティアム妖精の群れは彼らにむらがり、感情を養分として吸い上げていく。
ボーゴはその様子をうっとりと眺めている。
過去は恐怖の種となる。
シュクルは己のそばを抜けていく砂糖弾に躓いた。
土の上を転がり、甘い香りがただよう。
虫たちが喜んで這い寄ってきた。
「なんだよ。なんだよ。俺は何のために……!」
食物連鎖の外側。
ただ食べられるために生まれた存在。
シュクルは言語化不能ななにかをわめいて、自らの親指に歯を立てた。
自らの手首が喰われていく。
ミアはかつて戦った大いなるいもむしの前にいた。
「ミアのせい、なの……」
「ミアのせいで、食べられた……」
「ミアのせい」
「ミアのせい」
「ミアのせい」
あちこちでこちらを指さす少女がいる。全部ミアだ。全部ミアで、全部いもむしに食べられていく。
芋虫は全てを食い尽くし、そしてぶっくりとふくれあがる。
草原が一瞬にして炎に包まれた。
炎に包まれている。
柱にぶら下げられたレイを、ちりちりと炎が焼いていく。
槍をもった民衆が取り囲み、今から一刺しずつ刺すという。
化物め。あいつのせいだ。化物め。
呪いの言葉が、薪の割れる音よりも耳についた。
目の前が真っ赤に染まっていく。
なにも分からなくなっていく。
気づいたら、まだ真っ赤だった。
けれど。
声は聞こえない。
炎の音だけがしていた。
日がさし、朝がやってくる。
あたりには死体しかなかった。
自らの手が、まだ赤い。
リゲルの手が真っ赤に染まっている。
目の前には死体。
愛しいひとの死体だ。
胸にはリゲルの剣が突き刺さり、目に光は無かった。
『リゲルが魔種化したら、泣くだけで済むといいな?』
そんな言葉がよみがえってくる。
『一人で苦しまなくてもいいんだぞ』
そんな言葉もよみがえってきた。
大事なもの。
守るべきもの。
自分で守ると決めたもの。
それを、自分の手で壊したのだと、リゲルは自覚した。
「う、ううう……」
真っ赤な手で口元を押さえる。
吐くな。
泣くな。
崩れ落ちるな。
リゲルは自分にそう言い聞かせて、突き立った剣へと歩み寄った。
剣を引き抜く。
真っ赤な剣だ。罪の色をした剣だ。
それを、自らの腕に添えた。
「恐怖と痛みが、望みか。なら……くれてやる!」
●克服
「ぐ、ああああああああああああああ!」
リゲルは自らの腕を切り裂いた。
吹き上がる血に染まったアクティアム妖精が、悲鳴をあげて破裂していく。
許容値を超えた恐怖と痛みに耐えられなかったのだ。
周りを見れば、まだ仲間たちは恐怖にとらわれていた。このままでは仲間が危ない。
守るべきもの。守ると決めたものは、ここにもあるのだ。
ボーゴが驚きに目を見開いている。
「馬鹿な、こんなに早く正気に戻るなんて……」
「ぬるいぞ、蚊トンボ。貴様の幻覚は、こんなものか!」
リゲルはだらりと下がった腕のまま、妖精たちをにらみ付けた。
効果覿面。一斉に群がる妖精たち。
おそらくひとたまりも無いだろうが……仲間のためだ。
そう覚悟を決めた途端――。
「このやろう!」
キャンディでできたナイフが、妖精たちを派手に切り裂いていった。
シュクルだ。片手の親指をなくしていたく息をきらせているが、正気には戻ったようだ。
「とんでもないもの見せやがって」
一方で、いつのまにか正気に戻っていたオラボナが大量の『なにか』を生み出してニゲラを庇っていた。
妖精やボーゴはオラボナをおしのけようと襲いかかるが切り裂いたそばから体が再生していく。
オラボナは不気味に笑うばかりだ。
「あっちは任せよう。他に正気に戻ったのは――!?」
「こちらに」
手を翳すドラマ。手元の本をいたく大事そうに抱いている。
「随分と、良いご趣味をお持ちのようで。今まで楽しんだ分、その身に返して差し上げましょう」
本からさがった鎖がじゃらじゃらと音をたて、ドラマの魔力を高めていく。
襲いかかろうと近づいた妖精が、彼女の魔力によって一斉に吹き飛ばされてしまった。
息を吐く音。血を吐く音がする。セアラが自らの喉を切り裂いていたのだ。
槍を杖のようにつき、地面に血を吐いている。
「大丈夫ですか!?」
「ええ、ええ……大丈夫……ちゃんと聞こえています」
自らの喉を魔法で治癒すると、勇壮のマーチを歌い始める。
まるで勇気をたたえたように、仲間たちが目を覚ました。
「随分なものを見せてくれたね」
レイが周囲の妖精をサイズで切り裂き、オッドアイをらんらんと輝かせた。
彼女の一部でもある炎のようなエネルギー体がぶわぶわと燃え広がっていく。
「こっち、なの」
正気に戻ったミアが走り、窓へ向かって射撃。フレームをいくらか破壊すると、そのまま腕を組んで野外へと転がり出た。
同じく正気に戻ったエイヴも野外へ飛び出し、追ってきたアクティアム妖精たちへと銃を向けた。
発砲。高速でリロードしてまた発砲。追ってきた妖精が派手な花火のように散っていく。
一足遅れ、なにかの衝撃で吹き飛ばされたボーゴが野外へと飛び出してきた。
ごろごろと転がる。
「くっ……それでも、こいつらがいれば――!」
ぬらり、と眼前に現われるオラボナ。戦うニゲラを庇うようにトゲのような『なにか』を大量に出現させ、襲いかかる妖精たちを次々に串刺しにしていく。
「待たせたのぅ」
綺麗な壺を抱え、扉から優雅に外へ出てくるデイジー。
はい、と壺を掲げ、くねくねとかわった舞いを披露するデイジー。普通の人がやっても日曜日が終わりそうな気配しかしないダンスでも、デイジーがやると神様をおろす神聖な儀式みたいに見えるので不思議だ。
「あいつは厄介だ」
ヒューイ、とボーゴのマスク内から笛の音のようなものが聞こえた。
妖精たちがデイジーへ集まっていく――が、デイジーはだからどうしたという顔で目をカッと見開いた。
「もうその手はくわぬのじゃ!」
水でも撒くように壺を振れば、波のようなエネルギーが妖精たちを飲み込んでいく。
「存分に味わっていただきましょう。恐怖の味を」
窓から飛び出してきたドラマが、本を開いて魔術を行使した。
炎が塊となり妖精を焼いていく。
一緒になって飛び出してきたリゲルは剣を炎に包むと、周囲の妖精を燃やし尽くす。
「くそっ……」
ボーゴが再びマスクの下から笛の音をさせた――途端、セアラが殆ど同じ音を口笛によって再現した。
ドラマたちへ集まろうとしていた妖精が途中でとまり、行くべき場所がわからなくなったかのようにざわざわと迷いだした。
「貴様、なぜその音を……!」
振り返るボーゴ。彼のマスクを、エイヴの銃撃が掠めていく。
直撃こそ免れたが、マスクが外れて飛んでいった。
何かの花をすりつぶした薬草のようなものが詰め込まれたマスクだ。
「し、しまった……!」
あわててマスクを取りに走るボーゴ。
だが、すぐに妖精たちに取り囲まれてしまった。
「や、やめろ、俺は味方だ!」
声もむなしく、妖精に恐怖をむさぼり食われるボーゴ。
わめき散らし、暴れ回るボーゴをよそに、シュクルとミアは周囲の妖精たちを射撃とナイフで破壊していった。
「ああっ、うわあー!」
目を覆って転げ回るボーゴ。
「殺さないでくれ! 殺さないでくれ!」
見えない何かにおびえ、わめき散らしている。
シュクルは近寄り、しかしナイフを懐に収めた。
「こいつのした事は許せねーけど、俺自身が裁くのもな……」
「折角のリクエストだ。殺さずにとらえておこうか」
レイはひゅんひゅんとサイズを振ってボーゴにからんだ妖精を切り払うと、ボーゴの頭を蹴りつけて気絶させた。
「あとは任せるよ」
「ああ……」
リゲルは気絶したボーゴをひっつかむと、手足を縛ってから肩に担いだ。
「死ぬのも殺すのも簡単だ。だけど、罪を償わせるのは難しい。だから……」
リゲルはかたく目を瞑った。
「だからって、諦めたらだめだ」
後日談を語ろう。
とらえられたボーゴは罪を認め、牢獄へ入れられることになった。
この事件のなかで作られた『被害者の会』はあの後も自主的に行なわれ、恐怖や死の意識的伝染を防いだという。
また暫くしてからアクティアム妖精の恐怖病を遠ざける薬が開発され、再発は防止された。
その裏にイレギュラーズたちの活躍があったことを、人々は忘れていない。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
とても有名な映画監督の著書によれば、恐怖には三種類あると言われています。
過去の恐怖、自分の恐怖、外の恐怖。
そして同時に、『何を最も恐れているか』はその個人を表わすとてもユニークなプロファイルになるでしょう。
今回は皆様の一側面を描くことが出来て、とても光栄でした。
またのお越しを、心よりお待ち申し上げております。
GMコメント
【オーダー】
成功条件:連続自殺事件の真相解明と原因阻止
このシナリオは調査パートと戦闘パートの二つで構成されています。
ただしOP時点で調査と戦闘が『半分まで』行なわれています。
細かい内容を以下に解説します。
【調査パート】
PCたちはOP時点で『関係者全員に聞き込みを行なう』と『めぼしい場所を見て回る』の調査行動を既に行なっています。
ですので、これを超える調査行動を『行なう/行なわない』を選択できます。
・追加の調査行動を行なう場合
PCが調査を行なう描写がリプレイに加えられます。
内容とその結果に応じて、後半の戦闘に特別なボーナスやアドバンテージが加わるでしょう。
逆に調査に失敗、ないしは既に行なった調査の重複・空振りなどがおきた場合、影響はゼロとなります(よほどおかしなことをしない限りはマイナスにはなりません)。
調査が得意なキャラクター。プレイングでの工夫にピンときた方。どうぞお試しください。
・追加の調査行動を行なわない場合
PCは調査パートでの描写があまりない代わりに、戦闘パートでの描写にボーナスがつきます。
また『調査では活躍しないが戦闘では任せて貰おう』といった具合に戦闘時のダイス判定に大小様々なボーナスがつきます。
仮に全参加PCがこちらを選択した場合、いきなり戦闘シーンから始まります。
【戦闘パート】
ついに事件の原因である薬剤師ボーゴを追い詰めた所からスタートします。
ボーゴは手持ちの『アクティアム妖精』を解き放ち、PCたちにけしかけます。
彼はアクティアム妖精を任意の相手にとりつかせるすべを持っていたようです。
薬剤師ボーゴとアクティアム妖精群を戦闘で倒すことで、このパートはクリアとなります。
戦闘開始時、PC全員はアクティアム妖精にとりつかれている状態から始まります。
通常であれば5ターン行動不能に陥りますが、『プレイングにPCが最も深く恐怖していること。自らを強く攻撃してでも脱したくなるようなことを書く』ことで行動不能時間を最短1ターンにまで縮めることができます。
行動不能から解かれた状態を便宜上『正気に戻る』と表現します。
(※戦闘中ずっとこの判定を行なうのは無理があるため、開始時に一括で判定しています。メタですが)
●エネミーデータ
・薬剤師ボーゴ
ファーマシスト/実戦派
近接神秘戦闘および回復に長けています。
・アクティアム妖精群×8
一個体は親指程度の大きさですが、それらの『群れ一個』を今回は1ユニットとして扱います。群れ8つで8ユニットです。
妖精には『幻覚を見せて混乱させる【魅了】』『軽い自害衝動を起こさせる【狂気】』『脳を僅かに壊す【封印】』の攻撃方法を持ちます。
●フィールドデータ
薬剤師の館で戦闘が始まっています。
それなりに広い館ですが10mあるかないかのスペースなので、存分に戦うには
『屋内で全員正気に戻るまで耐える→野外に一旦飛び出す(または放り出す)などして外で戦闘を継続する』といった手順をとることになるでしょう。
全員の攻撃手段を至近~近接に絞って戦うのもアリです。
【アドリブ度】
ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。
また、恐怖判定時には少々強めのアドリブが入ることがあります。どうしてもダメな場合はその旨を書いていただければ描写ごとカットできます。
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