PandoraPartyProject

シナリオ詳細

折れた魔剣

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●狂気への駆り立て
 私は、ただ、ほんの少しだけ、ちょっとした好奇心でお父様が手に入れた剣に触れただけなの。
 お父様には「触っちゃダメだ」って言われてたけど……こんな折れてしまった剣に大層な呪いなんて掛かってるはずないって。
 ねぇ、お父様。そんなところで、寝てないで。早く、いつもみたいにわたしを叱ってよ。ねぇ。
「ハハハッ!! 良いぞ、漸くヒトを斬れて渇きが潤ってきた。だが足りぬ。モットだ。モット、私に人を斬らせろ!!!」
 私の喉からその様に気味の悪い音が漏れた。違う、私は。私はそんな。こんな。お父様を斬って、悦ぶだなんて。
 怯えて腰を抜かしていたお母様が、恐ろしい殺人鬼を見る様な目で私を見ているのが視界に入って、また喉から私の意志に反した声が漏れる。
「ああ、夫だけ逝かせてもお前がさみしかろうな。すぐに冥府へ送り届けてやろう!」
 ゲタゲタと下品な嗤い声をあげながら、私はお母様の心の臓目掛けて剣を振り下ろした。

 ――お母様まで殺してしまうなんて、そんなの嫌!

 咄嗟にそんな思いを振り絞ると、ほんの少しだけ切っ先が鈍ったのか。お母様の急所を外れ、肩元を掠めた。
 お母様は痛みに悲鳴をあげながらも、周囲へ助けを求めるべくその場をなんとか逃げ出してくれた。
「……体がまだ馴染んでないか。まぁ、良い。あのババァが連れてくるヤツの血を吸えば、きっと力が戻る……ふふ、あはははは!」
 私は、剣を手放す事も出来ずにその場で不気味な声をあげて歓喜に打ち震えてしまっていた……。

●新米情報屋
「少女が乱心して父を刺殺し、住居の屋敷に立て籠もってる……つーのは、この世じゃそこまで珍しくない御話ですが。今回ばかりはそうじゃないみたいです」
 事態に対処すべく招集されたイレギュラーズに向けて、新米の情報屋である龍之介は事の内容を説明し始めた。
「つい先日の話なんですが、この貴族のお父様はダンジョンから出土した魔剣の一種を買い取ったみたいで。……いえ、魔剣といっても刃が折れた代物で。武器としても美術品としても使い物にならない――はずだったんですよ」
 龍之介は、少し表現に迷ったのか言葉に詰まった。暫くしてこう述べる。
「いわば、精神がまだ未熟な少女は欠片ほどに残った魔剣の自我に乗っ取られた御様子で」
 子供の私がその様に言うのは少し変な表現だがと、情報屋少年は恥ずかしそうに口を曲げる。
「我々に任されたのは魔剣の無力化です。少女の生死については問いません。無論、彼女の母親からは少女を生かす事を強く要求されてますけれど。これ以上死人が出てしまっては、元も子もありませんから」
 彼は毅然とした表情で冷淡に述べたが、イレギュラーズの顔を数秒見つめた後、ニカリと大きな笑みを浮かべた。
「皆様ならきっと上手くやってくれると信じていますよ。その為にも、この龍之介が知る限りの情報を貴方達にご提供させていただきます!」

GMコメント

■情報の確実性:A
 依頼の障害と成り得る不測の事態は、まずありません。

■目的
本目標:「魔剣の無力化」
副次目標:「少女の救出」
 本目標を達成した時点で成功となります。

■エネミーデータ

少女:
 蒐集家貴族の娘。13歳。父親母親との仲は良好だった様子だが……。
 彼女自身は耐久力が少なく、魔剣自体を狙うよりは容易に倒せるでしょう。
 しかし、【不殺】の能力がついた攻撃以外で倒してしまうと彼女を殺害してしまう可能性があります。
 多少意識が残っておる様ですが、それもいつ潰えるか定かではありません。
 一つだけ確実な事は、我々が介入せねば近い内に彼女の意識は消失してしまう事でしょう。

折れた魔剣:
 刃が折れた魔剣。攻撃能力はおそらくナイフ相当のものと魔術的な+α。
 持ち主を支配する能力を持っており、少女もその影響下に置かれたものと思われます。
 また、十二分に血を吸う(プレイヤーキャラクターに与えたダメージが一定以上を超える)と一時的にその影響を広げ、他の者に【狂気】のバッドステータスを付与してくる可能性があります。
 破壊されている事から完璧な状態より能力が遥かに劣っているのでしょうが、それでも魔剣。
 衛兵数人を相手出来る程度の実力は持っているでしょう。
 今回のシナリオの場合、少女ではなくこの魔剣自体の破壊を狙う事も可能です。
 命中率にペナルティなどはありませんが、魔剣自体の耐久力は高めです。

 なお、この魔刀は強力な武器である事には違いませんが、支配の対象はイレギュラーズも例外ではありません。
 戦闘後に武器として入手しようとする事はまず不可能でしょう。

  • 折れた魔剣完了
  • GM名稗田 ケロ子
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年05月15日 21時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
ルウ・ジャガーノート(p3p000937)
暴風
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
ヨルムンガンド(p3p002370)
暴食の守護竜
レウルィア・メディクス(p3p002910)
ルゥネマリィ
スケアクロウ=クロウ(p3p004876)
小さな巨人

リプレイ

●心中
 骨董品などを蒐集している貴族が、手に入れた魔剣で娘に刺殺される。
 その様な事件が起きて一時間足らずでイレギュラーズが招集され、娘が立て籠もっている貴族の館へと踏み込む事になった。

「人の心を乗っ取るだなんて、元はどういった設計思考で作られたのかしらね」
 目的地である屋敷を前にして、魔剣に対して多少関心がある様に呟く『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)。
「持ち主を支配するなんざ、失敗作だろそれ」
 レジーナの言葉に神妙な顔をして相槌を打つ『小さな巨人』スケアクロウ=クロウ(p3p004876)。彼は彼で、魔剣を必ず破壊しようと別の関心を抱いていた。
「人を乗っ取る魔剣か。しかも子供の手で父親を殺させるなんて、胸糞ワリィ変態野郎め……!」
『暴猛たる巨牛』ルウ・ジャガーノート(p3p000937)も、魔剣への敵愾心を漏らしながらメイスを素振りしていた。他の一同も微妙な差異はあれど、魔剣を破壊し少女を救う事には何ら迷いが無い様子である。
 ただこの中で自我を持った武器――『隠名の妖精鎌』サイズ(p3p000319) だけは過去に同じ様な境遇であった為か、些か複雑な気持ちを胸にしていた。出来る事なら”同族”を手に掛けたくはない。ある意味では、彼の願望も当然かもしれぬ。
「……これ以上、悲劇を起こさないためにも……女の子を、絶対に救いましょう……です」
 苦々しい表情を浮かべるサイズに対して、それを察したのか宥める様に口にする『ルゥネマリィ』レウルィア・メディクス(p3p002910)。
「分かってる。あいつはやり過ぎたんだ」
 サイズは心中にしこりの様なものを抱きつつも、『少女を救う為』という大義名分によってその迷いを一時的に払拭しようと首を振る。
「折れちまってるんだろう? なら、あいつは死体だ。怨霊に引導を渡してやろうじゃねえか!」
 ルウは仲間の戦意が整ったのを確認するや、そのまま意気揚々と屋敷の扉を開け放つ。一団はそのまま屋内へと武器を構えて踏み込んだ。

 レジーナは、踏み入る直前まで一人考察を重ねていた。
 持ち主を支配してむやみやたらに血を欲する武器は合理的ではない。しかし、刃物を持った子供相手にイレギュラーズが八人掛かりで当たる必要があると判断された理由は。
 ……少し、嫌な考えがレジーナの頭を掠めた。

●血塗れの刃
 屋敷に入ってすぐ、エントランスの中央に少女は佇んでいた。まるで誰かの来訪を待ち詫びていたかの様に。
『聡慧のラピスラズリ』ヨルムンガンド(p3p002370)は、少女の姿を確認するやまだ正気かどうか確かめる為に、彼女へ向けて一声を発する。
「私達は君の母親にお願いされて君を助けに来た!」
 ――少女はピクリと眉を動かす。しかし、ヨルムンガンド達には目を向けず、手元の血に濡れて妖しい輝きを放つナイフ――あれが刃が折れた魔剣か――を恍惚とした表情で眺めたまま、言葉にした。
「おや、皆様。そんな大勢で……囚われの少女をどうするおつもりで?」
 この状況において不気味とも思える飄々とした受け答えから、なんとなしに正気でない事を感じ取ったイレギュラーズは少女と魔剣に対して戦闘の構えを取る。
『ボクサー崩れ』郷田 貴道(p3p000401) は、魔剣を携える彼女の言葉に両拳を打ち鳴らしてこう答えた。
「囚われの少女……どうするかって? へっ、決まってる。俺は気に入らないことは絶対にしない主義なのさ!」
 郷田の鼓舞に呼応して各々、戦闘力を増強する構えや術式を取る。
「……あら、恐ろしい。暴力を振るわれるのは好みじゃありませんの」
 少女はナイフに視線を向けたまま、淑やかな声色で受け答えていたかと思うと――刹那、その容姿からはとても考えられない俊敏さでイレギュラーズに袈裟懸けに斬り掛かってきた。
「好きなのは暴力を振るう側なんでなァ!」
「!!」
 咄嗟、誰よりも早く反応した『青き戦士』アルテミア・フィルティス(p3p001981)は仲間達の前に立ち塞がる様にして長剣でナイフの一撃を受け止め、そのまま肉薄戦を仕掛ける。
「刃の反射で位置を把握してから騙し討ちなんて、如何にも見え透いた手ね……!」
「女の癖にずいぶん“手が早い”じゃあないか」
 アルテミアは相手の防御を崩そうと短剣と長剣の鍔迫り合いに持ち込み、そのまま腕力で打ち勝とう長剣を押し込む。しかしどうした事か。少女の構えはびくともせず、それどころか余裕を見せつける様に下品に口角を釣り上げていた。
「だが強引さに欠けるってもんだナァ!」
「きゃあ!」
 武器の短さにも関わらず、少女は鍔迫り合いを力任せに弾き飛ばし、アルテミアに一撃を入れようと刃を返す。
「させるかッ!」
 瞬間、ルウは捨て身で飛び掛かる。返しの刃をその身に受けながらも、相手が刃を振り切った隙に魔剣の腹へと重厚なメイスを叩き込んだ。
「っつ……この吸血趣味のナマクラが!」
「こっちの女は強引過ぎる。血の味も粗野な獣ソノモノだ」
 ルウの隆々とした黒い肌を赤く染める様に鮮血が噴き出た。対して魔剣も彼女の一撃が堪えたのか、宿主である少女の表情が苦々しく歪んだ。

●拒絶反応
 その何合かのやり取りの内に、残りのイレギュラーズが少女を取り囲む様に布陣を敷いた。
 お互い攻撃の隙を伺いながらも、少女の目がチラリとサイズの方へ向けられた。そして少女は少しばかり驚いた様に眉を動かしたかと思うと、その後すぐに卑しい笑みの表情が作られた。
「なんだ、”同族”も居るジャナイカ。しかも、血の匂いが少し染み付いた……」
 嘲る様な言葉にサイズは動揺せず、言葉を返す。
「悪いが、俺は死なない程度に留めておく主義なんだ。……同族として欠けた部分の修復をしてあげられそうだが、代わりにその子の事を離してくれないか?」
 同族からの停戦の要求。穏便な提案に、少女は魔剣に付着した血液を舐めずりながら答えた。
「面白い提案だが、あいにくこの衝動は抑えきれないんでなァ。トテモ甘美な血の潤い。何よりも互いに想う者同士殺し合わせた時の達成感……分かるだろ? お前にもこの渇――」
 魔剣が言葉を言い終える前に、郷田が至近に踏み込んだ。その表情は、ハラワタが煮えくり返った様に怒気を孕んでいた。
「外道の魔剣が……気に入らねえテメェは今すぐ粉々にしてやるよ!」
 魔剣へ目掛け、拳を捻る様に回転させながら打ち放つ。
 挑発に乗ってくる事を予期していたのであろう少女は、武器を逆手に持ち替えて欠けた切っ先で郷田の拳を受け止めようとした。しかし堅く鍛え上げられた拳の硬度は剣の欠けた部分など物ともしなかった。
「……皮膚に刺さらないだと?」
「俺の拳は特別製なんだよ、腐った刃なんか通ると思うなってんだ!」
 少女は柄に力を込めて郷田の拳を刺突しようとするが、息を付く間もなくスケアクロウが身軽な身のこなしで飛びかかり、魔剣目掛けて双剣を打ち下ろす。
「剣ってのはな、使い手が覚悟と技を持って使うもんなんだよ。勝手に動く剣なんざ、なまくら以下だぜ!」
「チビ如きがァ!」
 少女は叩きつけられた反動を利用して、弧を描く様にして刃を振るう。郷田とスケアクロウは咄嗟に身を屈めてそれを避けるも、体を顧みない無茶な剣の振り方に、彼女の華奢な肩が嫌な音を立てて軋むのを聞いた。
「長丁場はあの子の体が持ちそうにないな」
 スケアクロウが一瞬心配そうに呟く、直後、二人と入れ替わる様にしてルウが接近し、メイスを頭上に構えた。
「そうなる前に俺がその性根の腐った芯を叩き折ってやるッ!」
「ぐっ……!」
 魔剣はこの攻撃を受け止め切れぬと見たのであろう。その場から弾き飛ぶ様にして身を躱し、ルウの攻撃から逃れた。
 しかしレウルィアは相手が大きく体制を崩したのを見逃さず、己の大剣で少女の腕から魔剣を跳ね除ける様に打撃を加える。
「大丈夫……ですか? 負けないで……、気をしっかり、です。今、助けます……です」
「母親は無事だ……必ず助け出すから少しの間頑張ってくれ!」
 レウルィアとヨルムンガンドは、少女の正気を取り戻そうと二人一緒になって呼びかけを行う。
 その呼びかけゆえか、先程の攻撃ゆえか、それとも両方か。何にせよ、少女の肩は痺れた様に小刻みに震えた。
「クソ、動きが鈍い。もう少し、血があれば……!」
 魔剣が苦悶していると、ヨルムンガンドが魔剣を打ち砕こうと間合いに踏み入った。
「人を斬る為に生まれ、壊れた後もずっと役目を果たす機を狙っていたとは……勤勉な奴だなぁ! 今度は徹底的に壊すけどっ!」
 鈍重で大振りな構えを取るヨルムンガンド。それに隙を見い出した魔剣は、これぞ好機と逆手に構えた剣で彼女の心の臓を刺突せんと彼女より俊敏に刃を振るった。
「壊れるのはお前だ、女ァ!」
 その刺突は、真正面からヨルムンガンドの胸を捉える。
 相手の絶命を確信した魔剣は、悦びを抑えきれない様に少女の口角をニイと歪めた。 

 ところが、胸を刺されたはずのヨルムンガンドが笑い返す。
「魔剣よ……竜の血は美味いか?」
 力を込めて刺突されたはずの切っ先はヨルムンガンドの心の臓には届かず、それどころか刺突した魔剣の刃がミシリと鈍く崩れる音を立てた。
 ――装甲強化、イヤ反射の類か!?
 魔剣は咄嗟の判断で距離を取ろうとするが、それに少女の体は追いつかない。認識していても、来ると分かっていても次の一撃が避けられない。
「最後の晩餐だ……覚悟しろ」
 ヨルムンガンドは、その異型の腕を魔剣の刃目掛けて打ち下ろしたのである。
 魔剣は異型の腕と挟まれる形で硬い石床に叩きつけられ、ついには甲高い音を立てて致命的なヒビが刻まれた。
 少女の喉は、苦痛に悶える音を鳴らす。おそらくは、致死的なダメージを負った魔剣のものか。
「……これなら包丁の方がまだ役に立ちそうだな」
 ルウが哀れむ様に、今にも砕け散ってしまいそうな魔剣を見下ろした。そのヒビは刃全体に渡っていて、人を斬ろうとすれば刀身の方が砕け散るのが先かもしれぬ。もはや刃物としての体裁はなしていなかった。
 一同は、事実上魔剣の無力化を成功したと悟った。
 
●今際の「一貫」
 今にも息絶えかねんばかりに焦燥している少女――もとい魔剣を目の前に、サイズは最期の慈悲として再度説得を持ちかけた。
「少女を解放してくれないか? 今ならまだ……」
 サイズの言葉につられ、イレギュラーズ一同は魔剣の状態を見やった。
 どんな名工であっても、こんな致命的な損壊は治しようがない。最早どう足掻いても末路は決まっている。他の者は元より、それは武器の種族であるサイズが一番よく分かっていた。
 しかし同族に対して何かしら憐憫の様な感情があるのは確かである。形だけの交渉締結を互いの慰め代わりにしたかった。
 他人の体を支配して動かす力なぞ、当に無かろう。そう一種確信めいたものも一同は感じていた。
「……解放したら助けてくれるっていうのか」
 魔剣は少女の顔を俯かせたまま、ブツブツと呟く様にサイズの提案に言葉を返した。
「…… 完全に改心して反省してくれるなら、全力は尽くそう」
 互いに諦観混じりの受け答え。魔剣は、少女の喉をくっくっと鳴らす。
「奇跡を信じる、ってヤツか……ふふ、はは……」
 何か含める様に、力なく笑う。その後、最期の力を振り絞る様に口にこう言い放つ。
「…………オレたち武器にとって人を斬れないっつーのは”死んだ方がマシ”ってもんだろうがッ……!!」
 次の瞬間、少女の体はまるで心身の喪失から立ち返ったかの様に、確かな動作でひび割れた剣の切っ先を己が喉に突き刺そうとした。
「野郎、往生際がッ!!」
 魔剣が少女に自決させる事を予測していたルウが、それを防ごうと少女の腕を掴もうとする。他の者も咄嗟に自決を阻もうと急いだ。
 しかしその場の誰かが少女に組み掛かるよりも先に乾いた銃声がエントランスに鳴り響き、少女の手にあった魔剣は刀身をバラバラに撒き散らしながら宙へと弾き飛ばされる。
「なら、死になさいな」
 弾丸の衝撃によって中空を舞う魔剣を、レジーナはそのリボルバーでもう一度で精密に射抜く。唯一無傷だった柄も、こうして粉々に砕け散った。

●各々の見解
 イレギュラーズは魔剣を完全に破壊し終え、その場に倒れ伏していた少女を急ぎギルドローレットへ連れ戻ってきた。
 色よい結果を待ち侘びていた母親にその歓迎を受ける共に、スケアクロウが用意を頼んでいた医者に治療を頼む事にした。
 幸い、迅速な鎮圧のお陰か少女の命に別状は無い。せいぜい身の丈に合わない無茶な動きをした事からの筋肉痛と、軽い脱臼くらいだ。
 ほぼ無傷で魔剣の支配から取り戻してくれた事に、少女の母親は泣いて喜びながらもイレギュラーズに何度も礼を述べていた。
 
「全く、胸糞悪い話だぜ。死の間際に道連れにしようとするなんて」
 医者に少女を治してもらうついでに、負傷したイレギュラーズも各々治療を受けていた。その最中に憤懣やる方ない表情で口にする郷田。
「子供乗っ取って父親殺した上に、追い詰められたら自害なんてやる事がつくづく外道だぜ」
 ルウは魔剣の最期を思い返しながら、憎々しげに刀傷を撫でる。粉々になった魔剣を目の前に、沈鬱な表情を取るサイズ。
「人を斬れないなら死んだ方がマシなんて言ってたけど、アンタはそうじゃないだろ」
 思い悩んだ様子の仲間を前に、そう言葉にするスケアクロウ。内心、彼にとっても郷田やルウと同様の感想ではあった。あぁも卑劣な相手はもう懲り懲りだ。
 ただレジーナだけは、魔剣に対して未だ考える事があったのか。報酬の処理をしていた龍之介に魔剣の事を尋ねた。
「魔剣の出処、ですか?」
 依頼が終わった後も討伐対象の事を知ろうとするレジーナに、目を丸くする龍之介。
「えぇ、少し気になってね。どういう意図で作られたか、どういう経緯で手に入れたかも」
 彼はきょとんとした表情を、悩ましげに曲げてみせた。
「出処については不確かな情報しかなく、確実な事は言えません。彼の『果ての迷宮』から持ち帰られたモノ、とも言われてますが。そう“泊”を付けて高く売りつけられた可能性もある。眉唾モノです」
 結局のところ、出土した場所については確かな事は分からないとの事だ。
 どういう意図で作られたかという問いに対して、龍之介は負傷したイレギュラーズ達へ視線をやりながら苦笑する。
「それは実際に戦ったレジーナさん達がよくご存知でしょうとも」
「……」
 何の力も無い非力な少女を、比較的強靭な力を持った存在であるイレギュラーズとある程度渡り合える様に仕立て上げたのだ。宿主の被害を度外視すれば、戦いの道具としてはかなり好都合だったのであろう。
「でも、持ち主を自滅させちゃ本末転倒ね。間際まで彼女を道連れにしようとしてたみたいだし」
「支配の力は、損壊が大きければ大きいほど弱まるはずだったんですけどねぇ」
 レジーナの報告を受けて、これからの処分の方法に思い悩む龍之介であった。
 その話を聞いていたアルテミアとレウルィア、そしてヨルムンガンドの三人は別の心配を胸に、少女が治療を行っている部屋へと足早に向かっていった。

●死んだ方がマシ
 治療は既に終えていた様で、少女はベッドに上半身を起こした状態で座っていた。その表情は、何処か虚ろなものであった。
 三人が部屋に入ってきた事に気づき、慌てた様にぺこりと頭を下げる少女。
「よく頑張った……!」
 その下げられた頭を、ヨルムンガンドは彼女を労る様にぐりぐりと撫でる。
 竜種特有の手腕はごつごつと硬いものだったが、頭を撫でる力そのものは優しいものである。
 少女は何処かとても悲しそうな、或いは申し訳なさそうにしながら頭を撫でられていた。
 アルテミアは、その心中を察しているかの様に口にする。
「……お嬢さん、今貴女の心は父親を殺めてしまった罪の意識に囚われているでしょうね。消えてしまいたい、そう思っているかもしれない」
 少女はその言葉を掛けられて、胸に刃が刺さったかの様にぐっと歯噛みする。
「でも消えてしまえばもっとたくさんの悲劇を巻き起こすわ。貴女は一度、魔剣の自我に抗い、母親を逃がす事が出来たのだから。もっと心を奮い立たせて、その感情に抗いなさい。……その身体は元々貴女自身の物よ」
 アルテミアは悲しげな表情を取って少女に言葉を掛け終えると、踵を返して部屋を去った。ヨルムンガンドも「後は君次第だ」と一層優しく撫でながら声を掛けた後、アルテミアに続いて部屋を去って行く。
 レウルィアは、言葉を選ぶ様に少し間を置いてから、ゆっくりと口を開いた。
「壊れてしまったものは、取り返せないかもしれない……誰かに操られてなくとも、その傷を治そうとしたり、咎を償いたくなるかもしれません……」
 レウルィアはその赤い目を、少女の胡乱だ眼へ視線を合わせ言いつける。
「……それでも貴方だけは、”死んだ方がマシ“なんて思わない様に……」
 そう言い残して、レウルィアもその場を去った。

 一人部屋に残された少女は、数分後に母親が様子を見に来るまでポロポロと涙を流していたらしい。
 ……けれど、少女からはこの件に関して「死んだ方がマシ」などと自棄的な言葉は出なかったという。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 GMの稗田ケロ子です。魔剣の討伐依頼、お疲れ様でした。
 全員魔剣攻撃で無事に武器破壊。少女を傷つけないという心意気を成し遂げた皆様は見事。
 魔剣側は複数対象の【狂気】解禁状態でしたが、発動直前に戦闘不能になり事なきを得ました。
 あと一回だけ魔剣に手番が回って来ていたら、結果は違っていたのかもしれませぬ。
 魔剣の処分方法については、きっとあぁだこうだと処理担当のNPCが言い合ったのでしょう。その辺りは御想像にお任せします。

 なお、魔剣を破壊する決定打となったヨルムンガンドさん対して一部の蒐集家貴族の間では何やらこう呼称されている様です。(称号として付与されます)
『聡慧のラピスラズリ』ヨルムンガンド(p3p002370) ⇒称号『魔剣殺しの』

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