シナリオ詳細
<マジ卍台風>Bad Temper
オープニング
●
頭の中がぐらぐらずきずきする。
しんどい。しんどい。あたまがいたい。
ベッドで身じろぎした普久原 ・ほむら(p3n000159)は、薄目を開けてaPhoneをたぐり寄せる。
指紋認証と共に照らし出されたモニタの光に、二度ほどえずきを覚えた。
心臓が鼓動するたびに、側頭部の中身を金槌で殴られたような痛みに襲われる。
脈。いっそ止まれとすら思う。
遮光カーテンの隙間から漏れ出た朝日を目にする度に、こみ上げる吐き気が止まない。
「……うわ、キツ」
aPhoneの頭痛予報アプリには、気圧の急激な低下を示す爆弾が並んでいた。台風14号である。
いちいち確認しなくとも、今日という日に台風が来ることは知れており、気圧は下がり、強風が吹いて豪雨が降り、体調が株価と共に急落し、なぜか円高になる(ならない)ことは知れている。知れているのだが見てしまう。それが頭痛予報アプリというやつだ。
何はともあれ解熱鎮痛薬を飲まねばならぬ。頭痛が始まってからは効き目が薄いから、もう少し早く飲んでおけば良かったが、後悔しても遅い。もう遅いのだ。
良くても小一時間は耐えなければならないし、悪ければ少なくとも半日はこのままだ。
ベッドから出るなど夢のまた夢、百年河清。
けれど唯一の幸いは、今日は土曜であることだろう。すなわち学校が休みであること。
今日は――
今日の学校は――
「っやっば! 今日だめじゃん、やば――痛っ……ぁー……」
ベッドから転げるように起きたほむらは、痛む頭を押えてうずくまる。
今日は、体育祭の日じゃないか。って、あれ台風だから休みだっけ。どうだっけ。
なんというか。身体がだるすぎて良く覚えていない。
こんな時は文明の利器に頼ろう。
というか、この体調では何もかも無理だ。さっさと休みの連絡を入れよう。そうしよう。
ほむらはもう一度aPhoneの画面を開くと、大量の未読メッセージが溜まっている事に気付いた。
誰だろう。気を利かせたひよのか、それともクラスメイトか、あるいは担任か。
いや、でも。ひよのは低気圧にめっちゃキレてた。そんな余裕はなさそうにも思える。
片目を閉じたまま、頭を押えながらメッセージを読んだほむらは、放心した表情でベッドに倒れ込んだ。
「……校長じゃん」
曰く「午後んなったら、ちょっと台風殺してこい」だそうで。
「……意味わからんし。まあいいや、後で考えよう」
とりあえずほむらは、詳細の解読を諦めて、午後まで寝込むことに決めた。
●
ほむらはカフェ・ローレットに到着すると、ホットココアを注文した。
「熱っ、あっつっ……」
袖口を少しのばしてカップを両手で掴んで唇にあてる。
ちょっとまだ、飲める温度ではない。
「あ、その。どうも、お疲れ様です」
イレギュラーズの姿を確認したほむらは、ココアのカップをそっと置くと手をふった。
「ほむらちゃん、大丈夫?」
駆け寄ったのはココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)である。
「あー、あはは、まあ、ちょっと舌やけどしたかもしれないですけど、猫舌なので」
「それだけじゃなくて、体調悪そうだけど」
「あー、まあ、それは、その大丈夫です。あと仕事なので」
あまりにひどければ休む他ないが、仕事であれば多少は仕方が無い面はある。
そのあたりを上手くコントロールするのも、また仕事のうちなのであろう。
ココロとて、たとえアレやソレな依頼でも、世界を救うためには頑張ると決めていた。
今日も呼び出されたのは、そんな表明をしたのが理由だ。
アレやソレな依頼が何かという点は、ここでは置いておこう。
重要なのは、ココロ達イレギュラーズはあくまで世界のため真摯に取り組んでいるという所であろう。
悪性怪異を放置すれば人々の生活は脅かされ、時に傷つき、ひどければ命さえ失う結果となる。
誰かがやらねばならぬのだ。解決出来る力を持つ者の、これは義務とも誇りとも呼べるかもしれない。
一行は飲み物を注文すると、早速ミーティングを開始する。
何をどうするにせよ、作戦は欠かせないのだ。
ここ練達の再現性東京は、旅人(ウォーカー)達が故郷を文字通り『再現』した地域である。
人々は魔物や怪奇現象、その中でも人に害なすものを『悪性怪異夜妖』と名付け、見ないことにした。
けれど神秘や怪異からいくら目を背けても、無辜なる混沌――つまりこの世界に、魔物や何かといった脅威が存在するという事実は消えやしない。
そこで練達は、怪奇現象を解決して人々を守る機関を作り上げた。その名は希望ヶ浜学園。
ローレットと提携した学園は、イレギュラーズを特待生、あるいは教職員として招いた。
イレギュラーズは学園と協力して、神秘を許さぬ街で人知れず事件を解決するのである。
そしてカフェ・ローレットはこの街で依頼を受ける為の、ローレット支部に相当する場所なのだ。
そんな訳で一行は希望ヶ浜市内でのみ使用できるスマートフォン状の携帯端末aPhoneを覗き込んだ。
その中には依頼内容が記載されているのだ。
「あ、はは……私もまだ、ちゃんと見ていないんですけど」
――台風を殺してこい。
要約すれば、そういった内容である。
「ちょっと意味わかんないですよね、あの校長いつも意味わかんないですが……あっつ!」
いつにもましてポンコツなほむらは、ホットココアをすすると、べーっと舌を出した。
「じゃあ、飲んだら行きましょうか。ちょっとすいません」
ほむらがぺりぺりと頭痛薬を取り出して、水で飲み下す。
「あ、大丈夫です。ちょっと朝から頭痛で。
子供の頃から低気圧に弱いんです……。
あー、いや、薬飲んどけば大丈夫なので。てかもうだいぶ良くなってて」
ほむらの弁明はどちらでもよいが、引っかかるのは依頼内容であった。
理解に苦しみ、三度ほど読んだイレギュラーズは、結局眉をひそめた。
つまるところ、敵は『台風』という概念に対して、人々の想いが悪い方向に結実した夜妖であるらしい。
この日は希望ヶ浜学園の学園祭『マジ卍祭り』の体育祭が予定されており、中止となったのはだいたいこいつらが悪さをしている。
体育祭がつらすぎて、台風でも来いとか思っていたほむらは、ちょっと罪悪感を感じていた。
「あれって、ほむらちゃん?」
ココロが首を傾げる。
「え、えええ……なんでまたあの映像が」
カフェのテレビに映し出されたのは台風中継で、クローズアップされているのは、ほむらの脚であった。
台風に伴う風が出てきており、心許ない長さのスカートが危うい感じだ。
なんとなくばつが悪くなった一行は、再び依頼内容に視線を落とす。
――台風の日に限って女生徒の脚ばかり撮影する夜妖を、おびき出してやっつけろ。
またクソ依頼じゃねーか!
- <マジ卍台風>Bad Temper完了
- GM名pipi
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年11月12日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
台風は既に石垣島を通過して、現地では台風一過の晴れ間が――
石垣島isどこ。
「なあんて問うのは、野暮ってもんなんでしょうね。それで、この辺りでいいのかしら?」
「あ、あー……そうですね。ウロウロしてれば良いんだと思います」
颯爽と肩で風を切る『never miss you』ゼファー(p3p007625)に普久原 ・ほむら(p3n000159)が答えた。
ほむらの事が気がかりだった『紅擁』ワルツ・アストリア(p3p000042)は、ほむらが歩く度に左右へ揺れる髪を、なんとなく視線の先で追っていた。
(テレビに映ってた、長い髪の綺麗な子――)
「あ……どうしました?」
「ああ、いえ。なんでもないわ」
この街で、一行は魔物を退治するという依頼を受けていた。
要するに「低気圧ころそ♪」を実現出来る仕事である。
依頼内容はワルツやほむらに言わせれば「意味不明」だが、敵が夜妖であることは確かなのだ。
だがプロならどんな状況(!)でも完遂させるべきだと、ワルツは決心している。
「内容はよく分かりました。大丈夫ですよ」
分かってしまったのか――『星詠みの巫女』小金井・正純(p3p008000)が頷く。
敵はなぜだか学生服の短いスカートや脚に呼び寄せられると聞くが、正純の瞳は決意に凛と輝いている。
こうした時の作法はローレット仲間に聞いて(←ここ重要)重々承知している。
見えない所(!)まで準備は万端だ。
ところで――
「無理はなさらないようにしてくださいね?」
「あ、あー、まあ仕事ですし、薬飲んで来ましたので」
「暖かくして見てるだけでもいいですから」
「ありがとうございます。あはは」
(……ほむらちゃん、辛そう。大丈夫かな)
海洋出身、特に海の中で過ごす『静謐の勇医』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)慣れたものだが、なるほど低気圧は体調を崩す者も多い。苦しんでいる人が沢山居るのだ。
義務感も誇りも――知識の中でしか知らない。
けれど、だから。皆のために『台風』を駆逐すると決意する。
ココロは着慣れた希望ヶ浜学園の女子ブレザーのスカートを、膝上二十センチほどに折っていた。
曇天下ではあるが、すらりと伸びた脚が眩しい。
普段は動きやすいホットパンツを纏う事の多いワルツも、同様に希望ヶ浜の制服を着ている。
やけに短いスカートが心許なく、ワルツの脚は黒のストッキングに覆われているが、脚線の美しさはやはり目を惹かざるをえない。それに制服姿に狙撃銃というのは意外と似合っている。
「……え? 囮ってスカートもっと短くするんですか?」
いやてっきり。正純は希望ヶ浜の女子学生服を着ておけば良いぐらいに考えていたが。
「折れば大丈夫ですよ」
意外にもきょとんとほむらが答えた。何が大丈夫なものか。
とはいえ言われたようにひと折り。
「裾が膝上になると良いんじゃないでしょうか」
「膝より上? え???」
もうひと折り。まだ足りない?
「もうちょっとですかね、二十センチぐらいで良いかと」
けろりと何を言うのだ。噂だと恥ずかしがり屋さんらしいが、さては低気圧に頭痛薬でぽんこつか!
――徐々に正純の瑞々しい肌が顕になってゆく。
「み、見えちゃうじゃないですかこれ!!」
かなりきわどくなってしまったが、情報によれば太ももが重要らしい。
「練達の技術を悪用する夜妖なんて、実に迷惑な話ですね」
愛らしく頬を膨らませる『木漏れ日の魔法少女』リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)は、ついこの間ココロやほむらと共に、スカートの中を盗撮する夜妖等というアレな敵を倒したばかりだ。
本件もまた類似する仕事であり、台風の日に女子高生の脚部ばかり撮影してテレビ中継するとかいうアレな敵を倒すという内容なのだ。
「女生徒の脚を狙うとは、いい趣味をしているではないか」
だがしかし――
「希望ヶ浜学園の臨時音楽講師たる『たまき先生』として、その存在を許す訳にはいかぬ!」
嘯く『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が胸を張る。
「今は女子高生ルックだがな!」
くるりとまわって、目の辺りで横ピース。
星を散らせる汰磨羈は、ノリにノっている。ヨシ!
敵との接触ポイントを探す一行であったが、和やかな雰囲気にワルツの緊張も良い感じにほぐれてきた。
「敵に変な動きをされる前に解決しちゃいましょ!」
●
一行は足を速め、それらしいポイントへと向かう。
風は強く吹いていた。
繰り返すが、風が強く吹いていた。
雲もみるみる暗く厚くなり、天を蠢くように流れている。
駅前ではあるが、人通りは一層少なくなってきていた。
「このまま歩くのよねー……」
悩ましげな溜息を一つ。『戦場の調理師』嶺渡・蘇芳(p3p000520)が頬に手を添え首を傾げた。
眉尻を下げた面持ちは心なしか薄紅に染まっていた。
身に纏うのはもちろん希望ヶ浜の制服で、なんとお手製だ。
オトナな魅力を存分に纏う蘇芳であり、はっきりと述べてしまえば美貌とスタイルに良く似合う衣装ではあるのだが、その、なんというか、その。否、あえて語るまい。分かれ!
「もう少し、ある程度高い場所がいいですよね」
「そうでしょうね、行きましょうか」
ココロが指さした階段を登り、一行はビルとビルとを繋ぐ広い通路を歩いていた。
ここであれば吹き上げる風が強そうだ。
時折吹き付ける突風がスカートをはためかせ、けれどココロは向かい風を切り裂く視線で前を向く。
(気にしない。気にしない。いや、時々抑えた方がいいかな)
普段は水着を晒しているのだから平気だと思っていたが、なぜスカートだとこうも恥ずかしいのか。
念じるように唇を引き結ぶ。こんな所で、くじける訳にはいかない。
不安そうな面々の中で、キマってる者達も居る。
「見たいなら、見せてあげるわ」
微笑むゼファーの裾は軽やかに、そして危うく――
サイハイソックスをガーターベルトで留めれば、あら不思議。絶対領域に魔性の色香が宿る。
(ふふふ。怖い。見られて恥ずかしくない私の肉体と精神性が怖い)
しなやかで健康的な肢体を誇るゼファーの腰から脚へと流れるラインは、あまりに美しい。
自他共に認めるモデル体型である。
「見られて減る様な、ヤワで貧相な女ではないってこと、見せつけてやりましょう!」
穴が空くぐらい見られたって、構いやしない。
年齢相応に年齢相応の服を着ている筈なのだが、おかしい(おかしくはない)。とてつもない色気だ。
――で、だ。
ど う し て こ う な っ た!
あの、すげえのが居る。
学園の特注セーラー服。
はち切れんばかりの胸。
たわわに実った太もも。
ミニスカートが風に舞い――『朱の願い』晋 飛(p3p008588)である。
それは放蕩無頼を地で往く、精悼な男の肉体であった。
「ハァイ♪ フェイ子って呼んでね」
なんでチェンジボイスとか使って声だけは美少女なのか。
わあ。
(わあ)
ゼファーが呟き、リディアがすいと目をそらした。あえてコメントはすまい。
一行も、こんな天気の日にも少しだけ居る街行く人も、誰もが味わい深い表情を浮かべ――
●
――敵は、どこだ。
一行は強い風の中を歩いている。
目の前ではビルの巨大なスクリーンが、紛い物の天気図を映していた。
ココロがレーダーを展開する。何らかの能力を感知出来れば、或いは先手も考えられる。
深く集中する中でも、ココロの胸に不安が過ぎった。
しなやかな肢体のゼファーや正純と比して、己の脚を『ただ細いだけ』と考えている。
そんな自分に、どうすれば敵を釣りやすく出来るのか。
思いついてしまった答えに、愛らしい唇が羞恥に震えた。
奥歯を食いしばり、スカートに指先をあてる。
けれど、これが最適解であるならば。
速やかに人々を救うことへ、明確に繋がるならば。
(こうするしか……ない)
スカートを、その下着ごと、ゆっくりとゆっくりと。羞恥の限界まできゅっと引き上げ――
風が吹き、裾がはためく。
スクリーンに僅か一瞬だけ映し出されたのは、しましま!
それが神がかりであったのか、不幸であったのかはさておき。
いつしか邪悪な気配が一行を取り囲んでいた。
冗談のような渦巻き模様の中心に、ぎょろりとした目が一行を睨み付けている。数は十二。
「――さぁ来い、夜妖」
汰磨羈が大太刀を抜き放ち、遂に激闘が始まった。
「あ、脚……? 脚を狙ってくるのねー?」
なるほど蘇芳の言葉通り、敵は地を這うように迫ってくる。
「不謹慎ねー、『めっ』てしてあげなきゃねー」
フライパンを振り抜き、甲高い音と共に爆炎が炸裂した。
「うう……、凄い足元が心もとない……」
正純は天星弓・星火燎原を引き絞る。済んだ弦音と共に、流星の様な矢雨が敵陣を貫いた。
素早く後方へ移動したワルツが大口径スナイパーライフルを構えた。名は焼灼する者――カータライズ。
「台風だから当たり前だけど、凄い風ね。
なんで私達こんな中こんな格好で戦って……うぅっ、低気圧で頭が」
完全な精密を要求されるスナイパーの矜恃で集中する。
それにここなら敵にも狙われにくい筈だ。
いつものようにしゃがんで銃を構えて、目標をセンターに入れてスイッチ――
銃口から見えぬ悪意を解き放ち、素早く排莢する。大気を切り裂く偏差射撃が夜妖の一体を貫き通した。
(へ? なんかこっち向いてない? 気のせいよね……)
説明しよう。ワルツはミニスカートでしゃがんだのである。
この時スクリーンに映し出されたのは、つまり――そういうことだ!
燃え滾る紅焔――極限の集中は燃え尽き、ワルツは二度ほど声にならぬ叫びをあげた。
「……ほむらちゃん。お願い出来る?」
震えながらうずくまり、かろうじて声を絞り出す。
「任されました。さすがに許せないですね、あれ」
握りしめた拳から流れる赤い雫を剣にして、ほむらがワルツを背に、敵の前へ立ち塞がった。
斬撃と共に、ほむらもまた犠牲となる。この前ココロに選んで貰ったやつだ。
「これは! 恥ずかしさの、お返し!」
怒りに燃え上がるココロの闘気が、美しい海底を思わせる深い蒼の斧鎚を描き出し――断砕。
強烈な一撃に夜妖の一体が吹き飛んだ。
「ちょっと待ってください!? なんですかあのモニター!? 何写してるんですか!?」
あ。あかん、正純が気付いた。
弓引きも無論、一意専心せねばならない。
余計なことなど考えていられようはずがない。なれば逃れようのない定めもあろう。
それは、そう。セキガハラ。ここ一番の勝負を仕掛ける時に着用するものだ。
「えっ、脚を中心に映すって事は、風で捲れたr―――」
蘇芳も気付いた。ちぇっ。
だがスクリーンは見逃していない。
美しい肌を透かすレースを。サイドは結んだ紐であったことを。
「――――――ッ!!??? も、もう許さないんだからー!」
あの夜妖、思い切り料理してやるべし。
最前線では、数体の夜妖が汰磨羈を囲んでいる。
背が低いというのは、こんな時に役立つものだ。
実年齢がどうであれ、制服姿になんの違和感もない。
鍛えている上に手入れも欠かさぬ脚にだって自信がある。
踏み込むたび、刃を振るうたび。
汰磨羈はさながら可憐に舞うように咲き乱れ――魅惑の絶対領域がスクリーンを彩った。
一刀。また一刀。集まる夜妖へ放たれる攻性結界が赤い花のように吹き上がり、敵陣を切り刻んで往く。
リディアが術陣を紡ぎ上げる。
脚は良い。自信だってある。だが中は駄目だ。
「――お願い」
不特定多数に見られるのは――頬が薄紅に染まる。さすがに恥ずかしい。
(んぅ、こんな……時に)
清冽な光で敵を焼き払うリディアの吐息は、なぜだか微熱を含んでいた。
いつしか鼓動は高鳴り、身体の中心を甘い痺れが駆け巡る。
スカートの中身――可愛らしい控えめなドット柄は風精に死守してもらっているが、その携行品はまずいですよ!
「やっ、もうえっちな風ね~。撮影なんて許さないわ!
撮影されたらわたしの信仰蒐集と美貌で大変な事になっちゃう……」
――飛子(ふぇいこ)である。
携行品『何故かえっちな目にあいやすくなります』。
あのさあ!
「ココロちゃん! みんなの貞操は私が守るわよ!」
その結果どんな凄惨な事があっても運命でしょう……。
吹き荒れる暴力が夜妖を次々に叩きのめし、刻まれる風の刃が飛子の肢体を顕にですね。ええと。
「ポーズしちゃおっかなー♪」
まずいですよ!
スクリーンに映し出されたのは、一面のモザイク模様であった。
ジャミングが利いてきたのか。てかモザイクになるってなんやねん。
ちゃうねん、『この物体には常にモザイクをかけて下さい!』て書いてあってん。
てか厳密にはジャミングとかって、そもそもそういうもんじゃないと思うが、この際いいや。ヨシ!
――それから、色々ありました。
風の刃に、服だって無事とは限らない。特に希望ヶ浜の学生服はね!
ひょっとしたら、おへそなんかが見えたりしたかもしれません。
「ころす、ころすころす」
殺意と共に放たれたワルツの術弾が再び夜妖を吹き飛ばし。
ゼファーの目の前では最後の一体が、この期に及んで脚の下へ下へ回り込もうとしていた。
「見るなら見なさい、けれど御用心!」
綺麗な華には棘があるならば、無論綺麗な脚にも技があるもの。
寄ってきたならば、そこは最早ゼファーの間合いだ。
軌跡はまるで一閃。衝撃は三度。中段から上段へ。
華麗な蹴撃は、僅かな間に見切った急所へと全て突き刺さる。
天へすらりと伸びた脚の向こうを守る蒼く美しい布地を拝み、夜妖が溶け消えた。
「なあに。これも冥土の土産ってもんよ」
遂に夜妖の全てが祓われた。
それはそれとして結構眼福だった光景は、ゼファーもしかと脳裏に焼き付けておく事にする。
――欲望に忠実であることは人生を楽しむコツですもの!
「……二度とやるかボケェ!!!!!!!」
飛子の叫びが天を貫き、雲の合間から微かな夕陽が覗き始めた。
嵐は去ったのだ。
――ところで。
ふと、汰磨羈が問う。
「なあ、フェイ子。その姿、記念に写メって良いか?」
ど う し て こ う な っ た!
●
そんな訳で、幸いにもあたりの店は開いている。一休みと行こう。
服が破れてたって?
こういうお話では、場面が変わると戻るのです。
「もー……。考えればわかった事よねー……」
蘇芳が溜息一つ。
「で、でもまぁ、顔は写ってなかったし、大丈夫、よねー?」
「たぶん、正純さんがさっき何かしておられましたので」
隠蔽工作あたりで、なんやかんやどうにかしたに違いないのでヨシ!
「な、なんか未だかつて無いほど疲れました。皆さんは大丈夫でしょうか?」
そそくさとスカート丈を戻した正純が胸をなで下ろす。
「よし、全て片付いたな! この後はフリーなのだろう? ならば早速、買い食いにいこうではないか」
汰磨羈の提案に一同が諸手を挙げる。
せっかくだから美味しそうなスイーツの店を回りたい。
「女子のたしなみ、買い食いタイム!」
「そら、行くぞほむら。何なら私が奢ってやるぞ」
「買い食い良いわねー、何か心が躍るわー♪ ここのお料理の味、気になっていたのよねー♪」
蘇芳も気を取り直す。
サイトを検索していた汰磨羈とココロの案内に従って、一行は駅前の店へと入った。
打ち上げのスイーツ巡りだ。
「マスター、チョコホイップにチョコチップ、チョコソースにチョコクリームのクアドロプルチョコレートスペシャルオンザストロベリーで宜しく頼むわ」
おっとゼファーさん、プロじゃん。すっかり東京っ子だ。
「もう大丈夫そうですね」
「あ、えっと。戦ってたら吹き飛んじゃいました」
心配そうに覗き込んだリディアから、ほむらが後ずさる。恥ずかしがり屋さんだ。
「良かったです。あ、私は生クリーム×イチゴのクレープをお願いします」
「クレープ、パフェ、ケーキ、シュークリーム……ふふふ、溜まらんな」
「クレープいいかも。楽しい想い出に塗り替えましょ」
汰磨羈は早速テーブルの上によりどりみどり。
ワルツも選んだクレープを頬張る。甘くて蕩けそうなスイーツで、悪いものは吹き飛ばしてしまえ。
「わたしチョコバナナクレープがいいなー」
飛子をちらりと見たココロは思う。
フェイ子ちゃん、改めて見たらヤバすぎかな……。
「ほらっ、貴方もほっぺにクリームついてるわよっ。ふふっ たのしーなー♪」
(肉腫に比べれば全然平気!)
肉腫て。
「えへへー、お願い♪」
「え、何かしら飛くん? 膝枕? でも、このスカートだとちょっとー……」
色んな膝枕。かこつけて何という事!
さて夜まで時間はあるが。
「この後って行きたい所とかあります?」
ほむらの言葉に正純が頷いた。
「あ、じゃあ余り来たことがないので、洋服とかも色々見てみたいですね」
「あー、服買った所があるので後で行きましょうか」
「是非とも御教授願いたいです!」
「え、ええと、はい」
一行は店を後にし、鮮やかな夕陽を背負っている。
――かくして悪は去った。
「と言いたいトコですけれど」
ゼファーが振り返る。
「まだ同じ、第二第三の夜妖が現れることでしょう」
そう。其処に魅惑の太ももがある限り!
~完~
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
依頼お疲れ様でした。
いいのかなこれ……。
MVPは、さすがにヤバすぎだった方へ。でも名声はこっち側だと思うんだ……。
それではまた、皆さんとのご縁を願って。pipiでした。
GMコメント
pipiです。
あの、ごめんなさい。
こういうの連続で出すの、本当に良くないと思う。
●目的
『その1』
台風の日に限って女生徒の脚ばかり撮影する夜妖を、おびき出してやっつけろ。
敵は短いスカートや、女子学生服におびき出されます。
そういったものを装着すると、スムーズでしょう。
誰もやりたくない場合は、ほむらにやらせましょう。
『その2』
あと、あの。あんまりやることないと思うので。
倒した後は買い物したりお茶したり、いろいろ遊びましょう。
辺りは安全になっているはずなので。
●ロケーション
強風が吹いている街中です。
今のところ雨はふっていませんが、人はほとんど居ません。
近くにはオシャレなカフェやブティックなどがあり、一応お店はあいています。
都会にありそうなものは、だいたいあります。
そうですね。ビルに張り付いた、おっきなモニターとかもあるんでしょう……。
何が映るんでしょうね!
●敵
『悪性怪異夜妖:Bad Temper』×12
風っぽい能力を持っています。適当にちゃちゃっとやっつけましょう。
風が強いので、対応出来るアイテムや非戦闘スキルなんかがあると、かっこいいかもしれませんね!
おそるべきことに、撮影した映像をテレビ中継する能力を持っています。
大切な事なので二度説明しますが、おそるべきことに、撮影した映像をテレビ中継する能力を持っています。
●味方
普久原 ・ほむら(p3n000159)
希望ヶ浜学園の生徒で、皆さんの仲間になりました。
両面中衛バランス型アタッカーです。
至近~遠距離の攻撃をバランス良く扱います。
特に命令しなくても、勝手に連携してくれます。
今日はいつにも増して、ポンコツです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●再現性東京2010街『希望ヶ浜』
練達には、再現性東京(アデプト・トーキョー)と呼ばれる地区がある。
主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げた、練達内に存在する、日本の都市、『東京』を模した特殊地区。
ここは『希望ヶ浜』。東京西部の小さな都市を模した地域だ。
希望ヶ浜の人々は世界の在り方を受け入れていない。目を瞑り耳を塞ぎ、かつての世界を再現したつもりで生きている。
練達はここに国内を脅かすモンスター(悪性怪異と呼ばれています)を討伐するための人材を育成する機関『希望ヶ浜学園』を設立した。
そこでローレットのイレギュラーズが、モンスター退治の専門家として招かれたのである。
それも『学園の生徒や職員』という形で……。
●希望ヶ浜学園
再現性東京2010街『希望ヶ浜』に設立された学校。
夜妖<ヨル>と呼ばれる存在と戦う学生を育成するマンモス校。
幼稚舎から大学まで一貫した教育を行っており、希望ヶ浜地区では『由緒正しき学園』という認識をされいる裏側では怪異と戦う者達の育成を行っている。
ローレットのイレギュラーズの皆さんは入学、編入、講師として参入することができます。
入学/編入学年や講師としての受け持ち科目はご自分で決定していただくことが出来ます。
ライトな学園伝奇をお楽しみいただけます。
●夜妖<ヨル>
都市伝説やモンスターの総称。
科学文明の中に生きる再現性東京の住民達にとって存在してはいけないファンタジー生物。
関わりたくないものです。
完全な人型で無い旅人や種族は再現性東京『希望ヶ浜地区』では恐れられる程度に、この地区では『非日常』は許容されません。(ただし、非日常を認めないため変わったファッションだなと思われる程度に済みます)
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