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シナリオ詳細

孤独なる騎士の置き土産

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 それはまだ、レガド・イルシオンが肥沃な土地を持つ真っ当な強国だった頃。
 ざっと数百年。アーベントロート領をやや北西に行った付近には、当時の王に騎士に叙任され、武功を以って出世を繰り返した珍しく叩き上げの軍人がいた。
 問題はこの頃の幻想がまだ真っ当に強国だったこと。
 脅威が迫ってもまだ自分達だけでどうとでもできた時代。性根の変わらぬ貴族達はかの武人を忌み嫌い、徹底的に嫌がらせして見殺しにした。
 忌み嫌われた彼らは、ほぼ単独で外敵と戦い続け、やがて自分の領地も維持できなくなり、いつの間にか地図上から消え失せた。
 だが、かの英傑の残り香はたしかにそこにある。そんな噂は未だ近隣には絶えぬ。数百年の時を経てなおだ。


 そんなおとぎ話をローレットに持ってきたのは、冒険者風の衣装を纏った少女だった。
「私が思うに、かの武人が残した何かは本当にある」
 ふぁさぁと銀色の長髪を払ってどやっと言い放つ。
「おう……根拠はあるのか?」
 『蒼剣』レオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002) は静かに問う。
「殆ど何もない。だが、数百年もの間に絶えることなくその噂は流れ続けてきた。ならば、何かは実際にあるのだろうと言いう話だ」
「殆ど、か」
「あぁ。というのも、かの武人が拠点にしていたという場所に赴いた騎士達が帰ってこなかったという話があってな。持ち逃げしたのではないかと近所では持ちきりなのだ」
「なら、嬢ちゃんが行けばいいんじゃないか?」
「いいや。私はこう見えて腕はからっきしでな。もし仮に何かがあった場合、正直、一瞬で死ぬ。命は惜しい。だから諸君だ。君たちは何でも屋。依頼があれば行くのだろう?」
 ずいっと身を乗り出す少女にやや引き気味にレオンは一つ息を吐く。
「報酬の宛はあるんだろうな?」
「それなら問題ない。もし何もなくとも報酬は出そう」
 絶対に何かある。そう確信しているかのような強い意志を感じて、レオンはうなずいた。


「というわけで、諸君らには私と共に拠点を探索してほしい。何もなければ何もないで、噂の真相に気づけるしな。なお、私はすぐ死ぬぞ。気を付けてくれ」
 何をどうすれば自信さえ感じられるほどこうも堂々と言い切れるのか、イレギュラーズ達も呆れながら、少女の話を聞いていく。
 話を進めていって、やがて一応の決着を以って踏み出そうとしたイレギュラーズ達を少女が引き留めた。
「あぁ、忘れていた。かの武人は困窮の末に魔獣を軍に加えることで兵力に充てたという。戦いになるかもしれないぞ」
 ――なぜ、それを最初に言わないのか。イレギュラーズ達が呆れと苛立ちに振り替えると、そこで少女は堂々と笑っていた。

GMコメント

お世話になっております。春野紅葉です。
というわけで、探索任務です。
聞き耳、冒険、その他もろもろ、非戦系スキルが役に立つかもしれません。
なお、皆さんが拠点に入ったところから始まります。
また、場合によっては魔獣との戦闘もあり得ます。

達成条件
・拠点内を踏破する。
失敗条件
・踏破できない。

拠点の情報は以下
地下1階を含む3階建て。
1階
入り口を入ってすぐ広場があり、通路が左右と正面の計3本。
広場の左右にある階段を上って2階にも同じように通路が左右とまっすぐ存在している。
2階
拠点の大きさから恐らく最低でも3部屋はあると思われる。
地下
不明

冒険者風の女性については本当にすぐ死にます。一般人より弱いです。
護衛を付けることをお勧めします。

  • 孤独なる騎士の置き土産完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年05月21日 21時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シグ・ローデッド(p3p000483)
艦斬り
世界樹(p3p000634)
 
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
ヴィンス=マウ=マークス(p3p001058)
冒険者
エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)
特異運命座標
陰陽 の 朱鷺(p3p001808)
ずれた感性
レスト・リゾート(p3p003959)
にゃんこツアーコンダクター
フルート(p3p005162)
壊れた楽器

リプレイ

●ロビー
 ぎぃ――。
 古いからか、あるいは元よりそう作ったのか。扉を開いて踏んだ木製の床が、鈍くきしむ。
 その音を立てた『冒険者』ヴィンス=マウ=マークス(p3p001058)は、内心歓喜に打ち震えていた。
 依頼が本格的にローレットに来るようになってきてからはや数ヶ月。古い砦や寺院、はてまた太古の年や忘れられた船。過去にあらゆる場所を踏破してきたトレジャーハンターは、ようやっと見つけた探索依頼に感動すら覚えていた。
「依頼人のお嬢さんはほんと良い話を持ってきてくれたよ。お宝か、歴史的資料か、はてまた新たな謎か……今からワクワクするじゃないか」
「そうね。ヴィンスはどんな遺跡に潜ったことがあるの?」
 ヴィンスにそう問いかけた『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)もまた、トレジャーハントに一家言ある。
 二人が話す様子を見ながら、 陰陽 の 朱鷺(p3p001808)もまた、思い返して初めてとなる探索依頼だと再確認する。
 その上で朱鷺は式神を呼び出すと囮として動いてもらえるように説得する。
「未知の場所の探索って、冒険小説みたいでドキドキするわよね~」
 いつものようにふわりとした表情を浮かべるのは 『夢色観光旅行』レスト・リゾート(p3p003959)だ。そんなレストの腰には、身体を剣に変えた『KnowlEdge』シグ・ローデッド(p3p000483)が過去、遺跡の探索や研究をしていた頃に思いをはせていた。
「ええ、過去に起こったであろう数多のドラマに想いを馳せれば、この機械仕掛けの心臓もときめくというものでございます。浪漫溢れる遺跡探索、気張って参りましょう」
 そう続けたのは 『特異運命座標』エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)だった。
「ロマンのある話だね! 火の無い所に煙は立たないってね…何かあるといいねぇ!」
  『壊れた楽器』フルート(p3p005162)はうんうんと頷きながら、依頼主を見る。
「所で依頼主さんはひ弱で可愛いね……ちゃんと守ってあげるから安心してね!」
 口元を隠しながら、ぐへへと、少々あんまりな笑みを浮かべて、それをまるで感じさせない明るいトーンで告げる。
「にしても、そんな危険を冒してまで冒険がしたいとは…蛮勇か無謀か…いや、私はそういうの大好きなんだけどね。だからハグさせてください!」
 テンション高めに言うと、女冒険者に近づいていく。
「あははっ、そうだね。たしかに蛮勇とも無謀ともいえるな。だが、うむ。貴公のおっしゃる通り、私はひ弱でな。すまないがハグされても死ぬかもしれん」
 からからと笑いながら、するりと体を動かし、フルートをかわす。
「ちぇ……」
 言いつつもテンションをそのままにフルートは館の方に視線を向けた。
 そんな比較的テンション高めの一同から一歩引くような気持ちで見ていたのは 『飛行する樹』世界樹(p3p000634)だ。
 これまでの情報を鑑み、分析しながら、ふと思ったのだ。ここに住んでいた武人が困窮の末に魔獣まで使って戦った――だとすれば、そもそもこの拠点に金目のものなどないのではないかと。
 そう、そして金目のものがないのに騎士達が持ち逃げなどありえないはずだと。
「これは歴史ロマンというか、ホラーっぽい気がするのう」
 ぽつりと呟いた分析の成否は今はまだ、分からない。そのどちらであろうとも充分に好奇心が刺激されるモノではあるが。
「それじゃあ、呼び出すわね~」
 レストがのんびりと言いながら、コウモリを呼び出す。古ぼけた木の床を歩いていく。

●1階
 一階左通路の部屋から探索を始めた一同は聞き耳をしながら進むヴィンスを先頭として一つ目の部屋に訪れていた。
「音はないな……」
「んー、長い机があるだけじゃの……」
 ヴィンスの聞き耳に続いて世界樹が告げると、一同はそっと扉を開く。
「ここは応接間……いえ、居間ですか……」
 下手に向けて半円を描くような不思議な形をした机と、いくつかの椅子。上手にあるのは精悍な顔立ちをしている壮年男性の肖像画。
 朱鷺は様子を眺めて推論を呟く。近づき見れば椅子も机も老朽化が進んでいる。
「この肖像画の人が伝説の武人でございましょうか?」
 周囲を調べながら、エリザベスが大きな肖像画に近づいて、見上げるように眺めながら言う。
「位置的にどちらかというと当時の王様とかじゃないかしらー」
 レストが返答をする。
「あなたはどっちだと思う?」
 イーリンはそこまでの情報をまとめながら、ふいに女冒険者に問いかける。
「……ん? あぁ、そうだな。きっと、当時の王だろう。こんな辺境のこんなところで戦ったのだ。たいそう王を慕っていたのだろうさ」
 ほんの一瞬、女冒険者の返答が遅れる。
「そう。あなたもよく知らないのね?」
「あぁ、なにせ数百年も前の話だからな。しがない冒険者にはわからんよ」
 ははっ、と楽しそうに笑いながらいう女冒険者に対して、イーリンはほんの少しの疑いの目を向ける。
 一瞬の間、そこにはたしかに肖像画を見つめる冒険者の顔があったのだ。
 その表情はまるで――そう、まるで探検に胸を躍らせる自分のそれにもどこかで通じうる、けれど少し違うような、そんな気がした。
 思考の海に沈みかけたイーリンだったがしかし、何もないというほかのメンバーの声を聞いて我に返る。
 次の部屋に行こう。そんな誰かの声にイーリンも従う。時間をかけている暇は、正直あまりないのだから。

●2階
 結局、他の1階のフロアにもほとんど何もなかった。しいていうなら食物庫らしき場所に入る前に罠があったことくらいだ。
 その罠も万全の準備を整えていたイレギュラーズの前にはどうということもなかった。
 特に何もない、あえて言うなら少々貧相だった寝室を踏破したイレギュラーズたちが次に望む部屋ーーそこにも綺麗に罠がかけられていた。
 罠を解除して中に朱鷺とレスト、それぞれの式神と蝙蝠が入っていく。すぐに戻ってきたそれらを受けて一同が中に入ると、そこは執務室のようだった。
「ここなら魔獣を従えるための道具や対処法がありそうね~」
「日記のような分かりやすい記録があれば申し分ないのですが……」
 そういいながら、棚にかけられている数々の資料に目を通していく。
「……普通に日誌おいてあるじゃん!」
 机の上にまで行ったフルートが信じられないといわんばかりのトーンで声を上げる。
「ふむ、軍人だったのならあって当然だな」
 レストが机の上の日誌に近づくと、その腰にさされているシグが答えた。
「……うへぇ、真面目だったんだね……」
 パラパラと読み進めていくと、そこに記されていたのはドのつくほどに真面目で形式的な文章だった。
 就任当初のことは書いてないことから考えれば、とっくの昔にその辺りのものは上奏したのだろうか。
 比較的余裕がある、けれどどこか皮肉さえ感じる堅苦しい文章が延々と続く。
「あら~? これって」
 レストが声を出す。そこに書かれているのは、ある一日の報告だ。
「――我が軍は人間の退去を決定する。理由は彼ら人間では食料が残り数日を持たぬためである。今後は自給自足で済ませる者たちに我が軍の主力を託す……だって!」
 フルートがその文章を読み上げる。
「要は兵站に参って魔獣に頑張ってもらったってことかな?」
「それならこの前後に魔獣の調教方法とか載ってないかしら~?」
「うーん……見当たらないね」
「それはこっちに書いてあるんじゃないか?」
 そういいながらヴィンスがひとつの本を机の上に持ってくる。
 分厚く、しかも鍵までかかっている明らかに重要そうな代物だ。
 ヴィンスの解錠により開かれた中身は、たしかに魔獣との意思疎通を図るものだった。
「特殊な道具が必要なようね」
「この道具はこの部屋にはなさそうね~」
 イーリンに続くようにレストが部屋の中を見渡して言う。
「その道具はもうないみたいだね……ほら、ここ」
 フルートが言う。フルートの指差す日誌のページには自分達の敗戦後、敵に利用されないためにこれら道具の一切は破棄したという文面があった。
「残念ね~あるのなら魔獣と出会った時にいいと思ったのだけど」
 レストが少しだけ残念そうに言う。
「そういえば、この中、何も調べてないじゃん」
 すっかり忘れてたとフルートが机の引き出しを開けていく。
 次々にあけていき、最後に一番大きな鍵付きの引き出しに手を伸ばしたときだった。
「そろそろ次の部屋に行かないとまずそうじゃないか」
 女冒険者がこほんと咳をして外を見やる。
 やや赤みを彩り始めた空を見て、それもそうかと一同が立ち上がる。
「あれ……鍵が開いてる……これって……日記……?」
 フルートが不思議そうにしながらそれをぺらぺらとめくり始める。苦悩に満ちたある人間が弱音と怒りを文面にぶちまけていた。
 それでもまだ、文面に硬さがある。
「いくわよ~」
「あっ、待って!」
 レストの声を聞いて、最後の一人になったフルートも立ち上がる。
 ふと、次のページになったそこを見てとめる。
『やっと、全員が退去した。これで私は最後の一人。これからはもうこんな堅苦しいことはやめだ。面倒な指揮官面なんてうんざりだ。あと何年、何ヶ月、やってやろうとも。この命が続く限り。たとえあの人が私を切り捨てたのだとしても。私は所詮』
 その文面は、初めてこの文章を書いた人間の、素のように見えた。

●B1階
「無理じゃ。何も見えん」
 世界樹がそういって首を振る。
「失敗しても何度でも君を呼びます。辛いだろうけど、手伝って下さい。全て終わったらまた一緒に帰りましょうね」
 世界樹の返答を受けた朱鷺が小さな自分の姿をした式神にそう告げ、解錠した扉の向こうへと導いた。
「お願いね~危なかったらこっちに向かってくるのよ~?」
 それに続くようにレストの蝙蝠も探索に消えていく。
「………魔獣おるんじゃろうか?」
「帰ってこなかった騎士達かぁ……持ち逃げしたっていうのも確かにそうだけど……もしかしたらみーんな死んだとか?」
 世界樹の言葉に続いて、フルートが言う。
「動く死体とかになってなければいいけど!それとも魔獣に食われて骨すら残ってないかな?」
 そんなことを話し合いながら少し。探索に行ったはずのコウモリが帰ってくる。
「どうやら階段の下に空間があったみたい。見って見ましょ~」
 レストに頷いて、一同は扉を開けて中に入っていく。光源さえ飲み込まんばかりの暗黒の中、エリザベスが棒で階段を叩きながら降りていく。

 幾つ降りただろうか。
 やがて、エリザベスの棒がコツコツと同じ場所を叩く。
「一番下まで着いたみたいでございますよ」
 その声は、周囲に反響し返ってくる。
 光源を掲げ、その光に壁際の蝋燭が映る、松明の光が蝋燭に移る。その直後、轟と音を立て、火の柱が部屋全体へと駆け抜けていく。
 その光に照らされて部屋の全景がぼんやりと見えていく。
 ほぼほぼ円形の部屋。とんでもなく広大な円は、おおよそ拠点の敷地全てに相当するのではなかろうか。
 その壁沿いに加え、天井にも最初の蝋燭から続いた光源がともっている。
「こいつらが魔獣?」
 映し出された光景には、イレギュラーズ達を含めて三つの影があった。イーリンはぽつりとつぶやく。
「獅子? 山羊? 翼も生えてるな」
 すやすやと眠るソレは、ヴィンスの言う通り、それらの特徴を持っていた。
「あちらのは、首が二本はえた狼ですね」
「実験体番号001、キマイラ。実験体番号006、オルトロス、たしか上の階で見た本にあった子達ね~」
 レストが少しだけ考えてから呟いた。
「寝てるっぽい?」
「いえどうでしょう。見る限り、どちらかというと封じられているようにも思えますが」
 フルートに対して朱鷺が言ったその時だった。
 一同が警戒しながら一歩、前に出る。
 その次の一歩、カランと音が鳴る。下を見ると、そこには赤い肉のついた細長い骨があった。よく見れば、それらはそこらへんに落ちてある。
 閉じられていたキマイラの目が、ゆっくりと起き上がる。それに続くように、キマイラはゆっくりと体を起こした。
『ゴァァァァアアア!!!!』
 遠吠えが、室内にとどろいた。当然というべきか、それはもう一匹を叩き起こす。
『ウォォオォン』
 起き上がったケルベロスの雄たけびがそれに続き、それだけで割れるような衝撃が部屋を包む。
「レスト、その子お願い!」
 女冒険者の方に近づいたレストとすれ違うようにイーリンは叫び、前衛へと躍り出る。
「分かったわ~」
「うむ。頑張りたまえ。あれは無理だぞ。かすっただけで死ぬんじゃないか私」
 カラカラと女が楽しげに笑う。
「出来れば戦わずに済ませたかったが、無理そうだな」
 ヴィンスはそういうとリボルバーに弾を込める。 起き上がったケルベロスが、すさまじい速度で接近し、前衛を無視して女冒険者へと走り抜ける。
 大きな口を開け、女冒険者を喰らわんとするその寸前、突如としてケルベロスの動きが止まる。
「……『モノ』が動き出し襲撃するのは、遺跡における常道だろう?」
 レストの腰に差されたシグが静かに告げる。ケルベロスがぐるると唸る。
「私の射撃の腕を見せてあげよう!」
 フルートのバリスタから放った矢が、キマイラの脚部へと炸裂する。獅子の悲鳴。それに続くようにエンピリアルアーマーが付与されたイーリンが名乗り向上を上げる。
 キマイラが怒り心頭と言わんばかりの咆哮を上げ、イーリンに襲い掛かり、その反撃を受けて後退していく。
 エリザベスの逆再生、ヴィンスとフルートの射撃、朱鷺の式符がキマイラを打ちのめした。

 レストはシグの攻撃によって後退させられ続けるケルベロスから少しだけ目を離し、女冒険者を見た。
 ケルベロスを見据える女冒険者の双眸は、どこか優しげにもみえ、悲しげにも見える。
「冒険者ちゃん、もう少し下がった方がいいわ~」
「あぁ……それもそうだな」
 女冒険者は特に何もなく、数歩後ろに下がっていく。レストはそれを見て、ケルベロスに向き直し、神秘攻撃を浴びせかけた。

 戦いはすぐに終わった。猛り狂うような魔獣達はやがて疲れ果てたように声を上げて、静かに倒れ、塵となって消えていった。


 魔獣達を討伐し終え、部屋の中を見渡したイレギュラーズ達はやがてコインを見つけた。はっきり言って価値は見当たらない、ただのコイン。
「まぁ、宝があったのは事実だろう。だが、うむ。私も正直、拍子抜けだった」
 拠点の外まで出てきたイレギュラーズ達に向けて、申し訳なさそうに女が言う。
「えぇ。そうね……でも、最後に一ついい?」
 むっつりと少し不機嫌そうにイーリンは女に向き直った。
「うむ、何かな?」
 じっと女を見つめ、ここまでの推察と他の同行者達との意見合わせの末に、辿り着いたもしかしてを、彼女は確かめるべく声に出す。
「あなた、この拠点の全て、本当は知ってたんじゃない?」
「なぜそう思うのかな?」
「実はね、執務室で日記を見つけたんだ。最初は、全然つまらないものだったけど……前半と後半でまるで別人みたいな文章だったんだ」
「その文章がね、今のあなたみたいだったのよね~」
「それにあなた、王様の肖像画を見てた時、ただの冒険者がする表情じゃなかったわ」
「魔獣の子たちを見てる時も、優しい顔をしてたわ~」
「一般人より弱いのに危険な冒険者稼業など命がいくつあっても足らんだろうな」
 イーリン、フルート、レスト、ヴァイスの追及に、女性は大笑する。
「バレたか。うん。まぁ……隠す意味もないしな。あぁ――私はね、この時代で言うところのウォーカーだったのだよ」
 ひとしきり笑ったと、女性はポツリ。
「王太子殿下に拾われて、あの人が王に立っても恩を返したくて只管に戦った」
 その恩義の一部でも返せれたら、そう思っていたと。女性は語る。
「だから最後に、ここまで攻めてきた奴らに一矢報いようと思って自分達に封印を施して眠っていた。まぁ、馬鹿な騎士共が引っ掛かったのだから、恐らくあいつらは我らを無視したのだろうな」
 少し悲しげに笑って、女性は憑き物でも落ちたかのように笑う。
「私はあの人が好きだった。だから、あの人に報いたかった。あの人と一緒に生きたこの国を護りたかった。結局、私など不要だったみたいだが――それでも、あそこで眠って、今に起きてよかったと思う」
 イレギュラーズ達を見渡して、女性はうなずく。
「君たちがいれば、大丈夫だろう。たとえこの国が滅ぼうが、少なくともこの世界は続くだろう。きっと。だから、満足した。これで未練なく消えられる。でもそうだな……恩は返そうか」
 子供や孫を見るように優しく笑いながら、女性はやがて薄れて消えた。


 それから数日後、アーベントロート派の騎士家系の下へ、家祖の霊が出たと小さな騒動があったのは、別のお話。
 暗殺隊が暗殺を実行に移しやすいように組織された、真っ向から戦をする頑固で真面目一辺倒の尚武家、そんな家の騒動はアーベントロートの御令嬢の退屈を本の少し和らげたとかそうじゃなかったとか。
 そしてその家は、ほんの少しばかり、ローレットの側に立つようになったとか。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

イレギュラーズの皆様。お疲れ様でございました。

ほんの少しでも楽しんで読んでいただければ幸いに思います。

また、今回の依頼で得たコインは換金され皆様の報酬に加えられました。

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