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シナリオ詳細

<マジ卍台風>緊急指令!台風を撃退せよ!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●エマージェンシーコール
「やばだよ!」
 綾敷・なじみ(p3n000168)はそう叫んだ。
「此の儘では台風が、台風が来てしまう!」
 手に汗握り、なじみは叫ぶ。

 ――少し時刻を遡ろう。
 希望ヶ浜学園では10月24日に体育祭が行われる予定であった。
 だが、その日に『何処から発生したかも分からない』が台風が襲来するという。
 この違和感だらけの状況を希望ヶ浜学園では調査するに至った……結果! この台風は「体育祭なんてリア充のイベントだろ。あーだるい」と言う気持ちで欠席をも企てる者達の思いが作り出した夜妖なのだと言う。
 此の儘では順延しても同じ事……永遠に体育祭が行われない。エンドレスタイフーンになってしまう。挙げ句の果てに低気圧だ。音呂木・ひよの(p3n000167)は不機嫌全開で「今、そっとしててくれます?」と冷たい声音でそう言った。
 此の儘、毎日ひよのの機嫌が悪ければ夜妖退治どころではないし、怖いし(本音)、体育祭だって楽しみたい!
 念には念を入れて校長は11月の第一土曜日に順延し、その間に夜妖の討伐を頼むとなじみ(と、不機嫌なひよの)に依頼(おねがい)したらしい。
 因みに、体育祭に対してNGを出していた普久原 ・ほむら(p3n000159)は自身の思いが夜妖『台風』に影響を与えた可能性を察して、ひよのの前から早々と逃げ果せたそうなのだ。

「……と、言うことで皆で夜妖を撃退して、素晴らしい体育祭を迎えようでは無いかー!」


 台風――それは熱帯低気圧で、かつ低気圧域内の最大風速が約17.2 m/s(34ノット、風力8)以上にまで発達したものである……。
 希望ヶ浜は練達の中に存在する再現性東京だ。それ故に台風が発生するような海が在るかはさておいて、決して『日本地図』の通りの『日本』なわけはない。
 だが、ソレを信じている。
 皆、普通に再現性東京は日本列島にあると信じている。
 そもそも世界地図が何故か希望ヶ浜では『東京』が存在するという世界のものになっている。
 カムイグラはアフリカ辺りに屹度あるし、ユーラシア大陸にラサも深緑も幻想もきっとある。そんな風に考えて生きているのが希望ヶ浜だ。
 それで罷り通っているのだから適応能力が凄い。国の名前も適当に当てはめて、何となく順応しているのだろう。

 だからこそ、体育祭に出たくない生徒達は、「あーあ、台風でも来て体育祭なくなんねーかなー。太平洋辺りからぐわーっと来て土日含めて月曜にもついでに掛かって学校が休みになって……」と考えたことだろう。
 ……それが『夜妖』とし顕現し、体育祭を延期させてしまったことに綾敷・なじみはご立腹である。
「皆に沢山のお仕事をお願いすることになったのだ! なじみさんは、体育祭のお弁当を楽しみに楽しみにしていたからねっ。あ、体育祭の当日は唐揚げと卵焼きはお願いするんだぜ?」
 ふんす、と鼻を鳴らしたなじみ。彼女曰く、台風は思念の欠片の如く各地で悪性怪異:夜妖として顕現しているらしい。
 それは多岐に渡る。希望ヶ浜の学生達は体育祭の代わりに台風と戦う事になったのだろう。本当の体育祭に備えてのリハーサルだ。
 夜妖憑きになったもの、夜妖として暴れ回って暴風で周辺を荒らし回っているもの……。
 その中でもなじみが今回相手にするのは希望ヶ浜学園のグラウンドに現われた、そう、『台風一家』だ!
 家族である。
 父と母、それから子二人。
 立派な家族である。
 それが、グラウンドを荒らし回ろうとしているという。

「此の儘じゃ、グラウンドに準備された体育祭の設備も暴風でぐちゃぐちゃのめっためたになっちゃう! エ、エマージェンシーー! 助けて!
 延期しても体育祭の準備が無ければ今年は中止になっちゃうよー!」
 叫ぶ。
「正直なことを言いますね」
 その様子を眺めていたひよのは苛立った様に「なじみ、叫ばないで」と低く呟いた。
「低気圧が腹立つ」
 ひよののその声は――酷く悍ましく、夜妖より恐ろしかった……。

 さて、イレギュラーズの諸君。
 グラウンドの設備を護りながらこの台風を退け、11月に延期となった体育祭を無事に迎え(美味しい皆のお弁当を食べ)るため――希望ヶ浜学園、そしてローレットよ、力を貸して欲しい!

GMコメント

 マジ卍……。お願い、体育祭を護って!

●成功条件
 『台風一家』の撃破

●夜妖『台風』
 台風でも来て体育祭をなくして欲しいと願った者達の思いを反映した存在。
 それらの欠片があちらこちらに散らばっています。悪性怪異なので普通に台風と思わしき強風と雨と低気圧を齎します。因みに、人にも取り憑きます。
 全ての『欠片』を撃破することで台風を撃退することが出来るようです。

●台風一家
 夜妖。台風でも来て体育祭をなくして欲しいと願った者達の思いを反映した存在の分離体。
 低気圧を齎し、びゅうびゅうと風を吹かせます。

 ・台風お父さん
 お父さんです。風による鋭い攻撃を繰り出します.速度が凄いです。ビュウ。
 家族の大黒柱なだけあって、早々倒れません。高ダメージアタッカーでありながら防御も高いのです。

 ・台風お母さん
 優しいお母さん。だけど怒ると怖い。ヒーラーですが同時に神秘攻撃にも優れます。
 耐久能力はあまりないようです。

 ・台風娘
 ママを護る優しい娘。図太い。タンクタイプです。パパとママを護ってあげます。
 時々反抗期でパパにそっぽを向きますが……まあ、そういうことあるでしょう。

 ・台風末っ子
 赤ちゃん。ばぶばぶしてます。凄まじい速度で動き回ります。
 何をするか分かりません。変速アタッカーです。マジで何をするか分かりません。

●味方NPC:綾敷・なじみ
 夜妖憑きの女の子。ジャージでご同行。
 賑やかしってやつです。生存能力にはそれなりに優れます。
 よく叫ぶのでひよのにめちゃくちゃ怒られてます。ぴえん。

●味方NPC:音呂木・ひよの
 キレてます。本当にキレてます。
 音呂木神社の巫女。お馴染み夜妖の専門家。低気圧で偏頭痛がピンチで怒ってます。夜妖より怖いですよ。

●マジ卍って?
 希望ヶ浜学園の学園祭の総称です。体育祭と文化祭の二つのお祭りを纏めて『マジ卍祭り』と称します。
 そのネーミングはユーザー投票と言う名前の『皆で決めた素敵な名前でしょ!』という勢いのものです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません……が、ひよのの圧が凄いです。でんじゃー!

 それでは、皆さん張り切って! よろしくおねがいします!

  • <マジ卍台風>緊急指令!台風を撃退せよ!完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年11月07日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

セララ(p3p000273)
魔法騎士
主人=公(p3p000578)
ハム子
善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
ボディ・ダクレ(p3p008384)
アイのカタチ
秋野 雪見(p3p008507)
エンターテイナー
相川 操(p3p008880)
助っ人部員

サポートNPC一覧(1人)

音呂木・ひよの(p3n000167)

リプレイ


 囂々と激しい雨風の音がする。人々は買い物をし、今日は一日室内で過ごそう――と考えていることだろう。無茶をして田んぼや川を見に行ってはいけないし、今日の去夢鉄道は運転を中止し、百貨店やショッピングモールも定休日を選択するほどの大型台風である。そんな希望ヶ浜では台風が来ているからと休日を選択できない特異運命座標(と、書いて希望ヶ浜学園特待生と読む)がグラウンドに集結していた。
「これが……台風……?」
 そう呟いたのは『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)。テレビニュースやワイドショーで伝えられる台風とは似ても似つかぬ夜妖が風を吹き荒れさせて奇妙なポーズを取っていた。風で頭髪をイメージした茶色の毛糸が揺れている。黒いテープぐるぐる巻きで風を受けるそれを眺めながらゼフィラはまじまじと見た。
「……まあ、体育祭を楽しめない生徒もいるだろうね」
 台風一家(間違いではない)の事はスルーした。日本での学生時代はゼフィラも病弱で見学している事しかできなかった。ぼんやりと見ているのは苦痛そのものであったと目を伏せる。
「だがまあ、今はこの学園の教師だ。
 楽しみにしている生徒もいるのだから、そのために全力を尽くすとしよう」
 ゼフィラの言う通り、楽しみにしている生徒もいるのだ。主に、綾敷・なじみという夜妖憑きの少女と――『特異運命座標』相川 操(p3p008880)が『楽しみ枠』に該当するだろうか。
「体育祭を中止になんてさせないよ! あたしも楽しみにしてたし、助っ人になる約束だってあったんだから! こんなネガティブな思いから生み出された夜妖になんて、絶対に負けられない!」
 真っ直ぐに台風一家を見つめて指さした。操の強き決意は揺らぐ事はない。部活動対抗リレーでも何処かの選手になってほしいと引っ張りだこ。お弁当を楽しみにしているなじみと競技出場を楽しみにする操。二人を見た後、『魔法騎士』セララ(p3p000273)は決意したように口を開いた。
「台風さんは体育祭を望まない人達がいたからやってきたんだよね。
 元世界の体育祭が楽しくなかったのかな……でも大丈夫! 体育祭はボク達が盛り上げて楽しいお祭りにしてみせるから!」
 瞳を輝かせる。体育祭を望まない人――簡単に言えば、山田・雪風や普久原・ほむらといった人種だ――が居る様に、体育祭を楽しみにしている人だっていっぱいいる。その思いを伝えなければならないと拳をぎゅ、と握り込む。
「だから、ボクの話を聞いて! マジ卍でやばたにえんな話を聞かせてあげるから!」
 そう――体育祭の名前は、マジ卍体育祭なのである!
「それに、台風は未曽有の危機なんだ! せかく建てたのにッ、領地の施設が崩壊する可能性があるんだ!」
 見逃せないだろうと頭を振った。近所には自身のアパートが存在するという『ハム男』主人=公(p3p000578)。このまま台風(強)に居座られたら倒壊して可哀想な事になってしまう。
「台風一過なんだから早く通り過ぎろよー」
「台風『一家』ね……オヤジギャグよね? ……まぁ、そう間違えて捉えている人も実は多いそうだけれども」
『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)が肩を竦めた。そう、希望ヶ浜の午後のワイドショーで「台風一過が~」と口にされたら幼い子供たちは『台風の家族なんだ!」と間違えるらしい。
「それにしても台風一過、子供が間違えてしまう言葉大賞優勝な言葉なのに今回は『一家』なのですね」
『騎士の忠節』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)は頷く。そして、背後を診れない儘に「ああ……これはすっごい怒ってるですね」と呟いた。
「怖いから俺は寝るって言いたいところですけど、台風よりもひよのさんにぶっ飛ばされるのは勘弁なのでさっさと片付けてしまいましょうか」
 そう――アルヴァの背後では『痛みを背負って』ボディ・ダクレ(p3p008384)に気遣われ乍らも静かな怒りを湛えて頭痛を抑えている音呂木・ひよのが立っていた。こんな日はさっさと頭痛薬を飲んで布団で寝てしまいたい――だが、夜妖が襲来しているというならば黙って寝ても居られない。
「人の思いがここまで大きな夜妖を作り出すとは。ただ、感嘆に値します。
ですが、マジ卍祭りを楽しみにしていた方々がいるのも事実。音呂木様もかなり激昂しておりますので、ここはご退散願いましょう」
「怒ってませんよ」
 はて、とボディはひよのを見遣る。苛立ちを半端なく感じさせる笑顔。なじみに取り合えず汚れるからと着せられた体操服姿のひよのは唇を噛んで何かを耐える様に目を伏せた。
「全ッ然、怒ってなんて、ええ、これっぽっちも、ありませんよ?」
 絶対怒ってる。アルヴァはそう思った。なじみが「怖いよお」と公を盾にしている。夜妖よりも恐ろしい激昂っぷり、音呂木・ひよのから目を逸らし、ボディは言った。
「では、全霊で依頼を遂行します」
 ――でなければ、この場がひよのの怒りで全滅しそうだ!


「やってきましたタイフーン4人? 4体? 4個? の家族! 今回は台風一過じゃなくて『台風一家』!
 それを粉砕するは同じく台風のようななんかそんな感じのイレギュラーズ8人! どちらが強い台風一家か決着つけようにゃあ……」
 ニヤァと笑った『ニャー!』秋野 雪見(p3p008507)。邪悪の刃はミラージュマントの下で密やかに。グラウンドの泥濘む土を蹴り飛ばし雪見はにんまり笑う。
「はい! そんなわけで私はなんか凄い速い末っ子の赤ちゃん台風をですね!
 追いかけですね! 攻撃したいんですけどね! 速いね!!!!!
 ヘイ、ベイビー! こっち来るにゃ! ちょっと待って! お姉さんと遊ぼ!」
 ――突然の徒競争の開始である。オギャってバブっている末っ子赤ちゃんを追いかけまわす雪見。ひよのは「ああ、響く」と呟き、レジーナは「………音呂木と言ったかしら?」とそっとひよのを気遣う。
「辛そうね。薬とか、いる?」
「……頂いても良いですか?」
「ええ。後ろに下がってゆっくりしていらっしゃい。台風は私達に任せて」
 微笑んだレジーナに感謝して後方へと下がっていくひよの。ずるずると共に引きずられていくなじみは「みんな頑張ってぇ」と手を振った。
「頑張ろう……コイツを使いこなすために大きく戦い方も変えたんだ。今日が初のお披露目だ、行くぞグングニルレプリカ!」
 手を、宙へと公は伸ばした。その掌へと落ちて来るのはゲイボルグ・レプリカ。地を蹴り、宙を奔る。掌でその存在感を主張する槍が放つ空中殺法は迷う事はない。
 台風お母さん、そして娘の抑え役として、前線へと飛び込んだセララはぱくりとドーナツを齧る。台風発生と逆の想いを伝え、夜妖を抑えるが為、聖剣技放つ。剣から放たれた斬撃は庇い手たる娘の意識を惹きつける。
「台風さんだってここに来るまでに聞いたでしょ? 体育祭を楽しみにしている人達の声を」
 だからこそ、体育祭を壊さず、此処に居座らず、全てが幸福になる道の為に――セララは数多の人々の希望を胸に走る。魔力が彼女の体にぴたりと張り付き、使用カードに合わせて変貌していく。
「運動できる人も、できない人も。皆が楽しめる素敵な体育祭にしてみせるよ! だからボク達を、マジ卍を信じて!」
 マジ卍。その強き意志を胸にしたセララの言葉を聞きながらレジーナは「マジ卍……」と何度もつぶやいた。
「ふむ。この東京と言うところは始めてきたけれども、こういう現象がしょっちゅうあるのかしら?
 しかし、こうしてみるとマジ卍体育祭の卍て台風に見えてきたわ。マジタイフーン……」
「マジタイフーン……確かに、そう言われると興味深いね」
 頷いたゼフィラは希望ヶ浜の教師として、生徒たちの楽しみを護るが為に機械式の義手を簡易盾とし使用しながらずんずんと進む。娘の意識を奪うセララのおかげで優位に母を斃すことが出来ると時間さえ置き去りにする光撃を重ね続ける。
 庇う娘に置き去りにされた台風お父さん。その様子にやれやれと肩を竦めたアルヴァは我流の怪盗の心得を胸に、仕込み杖でとん、と地面を叩いた。
「いやぁ、気持ちは分かりますよ……。
 めちゃくちゃ尽くしてあげてるつもりなのにその娘にそっぽ向かれて悲しい気持ちになっちゃうの。じゃあその気持ち晴らして、ちょっと天気も晴れてくれませんかね?」
 父の悲しみが濁流の様にアルヴァへと襲い掛かる。何かと苦労が多い頃なのだ。特に、娘は反抗期。その父に寄り添う気持ちと共に『攻撃』にあたらぬ様にとちゃぶ台をそっと設置し飛んでいく様を眺めている。
「でも、お父さんに一つ教えて差し上げますね。当たらなければどうってことないのです」
 攻撃もなんでも。ちら、と視線を向ければすさまじい勢いでオギャっている赤ん坊とそれを追いかける雪見の姿があった。


「……しかし、末っ子は一体何をするのでしょうか。
 変速という言葉も相まって非常に気になりますが、迅速に対処いたしましょう」
 そう――つまり、末っ子は『変』なのだ。速度を生かして攻撃していたかと思えば、突然ぴたっと止まり母の許へと向かう。油断も隙も無ければ行動に理念も何もかもない。ボディはどんな生き物なのだと言うように赤ん坊をまじまじと見遣る。
 セララが一手に引き受ける娘と母。母はと言えば、耐久力がないが故にそろそろ息も切れ切れだろう。
「あーっ! またそっちに行く!
 待って待って! ほらマントがヒラヒラにゃ! あんよが上手にゃー!」
 こっちにおいでと雪見が手招いた。うろうろとしていた末っ子はぴたっと止まる。攻撃順で言えば待機である。速力を生かしてアタックすればいいものの、気まぐれに雪見のマントに誘われて寄っていく。
「にゃっ!?」
 尻尾フリフリお耳もぴこぴこ。赤ちゃんの興味がありそうなことはなんだって、とアピールとを続けた雪見が末っ子をあやしている間に他の家族の撃破を願う。
 母へとアスリートとしてグラウンドを奔り、渾身のスープレックスを決めた操は「次!」と雪見&赤ん坊を見て、ぱちりと瞬いた。
「私もきっと大丈夫! 適度な回避に適度なクリティカルで運が良いはず! けど、赤ん坊って分からないにゃー! 死にたくにゃあい!」
 SOSだった。何が何だか分からない動きをしている赤ちゃんが突如として操の許へと飛び込んでくる。
「負けるもんか! 体育祭は、なんとしても無事に開催するんだから!」
 唇を噛んだ。勢いよく泣いて、直ぐに笑っている。そんな気紛れを起こす赤ん坊の鋭い一撃を受けても小枝を手にした操は挫ける事はない。
「速くても予想外からの奇襲には対応できるかにゃ? あ、ちなみに私は奇襲とか効かないのでお姉さんを見習うにゃ」
 ふふん、と胸を張った雪見にボディは成程、と頷いてから蒼き彗星の如く速力を破壊力に変換した。
「今回は家族が対象でありますが、夜妖ですので力を抑える必要はありませんね。
 ただ只管に殴打による攻撃を行います。風が強く吹きすさぼうが構いません。それよりも早く殴ればいいと判断します」
 風の如く。嵐の如く。台風にさえも負けず放った一撃は鋭く飛び込んでいく。
 アルヴァは台風であっても夜妖かあ、と肩を竦めた。そう、台風というのは魅惑な響きなのだ。
「それにしても、台風の次の日ってちょっと期待したりしますよね。
 お仕事おやすみになったりしないかなぁ……とか。この場合だと仕事の元凶が台風なので容赦はしませんが」
 走ってくる赤ん坊に轢き殺されないようにと父の相手をしながらアルヴァは「そろそろ根負けして欲しいんですが、末っ子さんには」と小さく息をついた。
「この攻撃――見切れるかしら。臓物より出でる鮮血の魔剣(Cardinal Sin Regina)!!」
 指先に、そう、と力を乗せる。レジーナの手にした赤き血潮の本に巡った魔力は密やかに伸びあがる毒手(あんき)で幼子を捉えた。
 視線を向ければ、母が倒された事で父を庇うべきか分からずに曖昧な動きをする娘の姿がある。それでも、セララに向けて飛び込んでいくのはその攻撃の方向性がしっかりと定まっているからだろうか。
 回転させた槍を持ち変え、石突で狙うは台風の目。公は末っ子をまじまじと見遣る。ぎゃんぎゃんと泣き続ける赤ちゃんはイヤイヤと首を振り、駄々こねる様に辺りに適当な攻撃を重ね始めた。
「中々骨が折れる相手だね……?」
 主に、声という点で。公は小さく息を吐く。初のお披露目たる槍も赤ん坊と戦う事になるとは思っていなかっただろう。だが、此処で情け容赦をしてはアパートが死屍累々である。
「汝渾沌の覇者。昏き欲望の果てより――偉大なる其の名を此処に。
 ――喰らい尽くせ、黒顎魔王!」
 がばり、と闇よりあふれ出したは大口開けた『虚』。レジーナの詠唱と共にそれは幼子を飲み込み連れ去っていく。場に遺された父と娘、その曖昧な関係性。ふと、レジーナは思い浮かんだように台風の父と向き合った。
「台風の化身……いえ夜妖。これの発生原因は人々の想いや願いが具現化したものだと聞いてるけれども……。
 そんな事誰が願ったのでしょうねぇ。まぁ、事前のレポートを読んだ限り、少なくとも二人くらい予想はつくのだけれども」
 誰かと誰かが大きなくしゃみをした――気がする。
「夜妖的には自分達の出自について思うところとかないのかしら?」
 僅かに風が止まった気がする。だが、それが台風一家が悩んだからではない。所謂台風の目に存在するからなのかもしれない。人間サイズの小さな台風一家たち。
 セララは「マジ卍で楽しいお祭りの為に、ボクの声を聞いて!」と叫び、父を切り伏せる。
 自身を癒し倒れないようにと支えていたゼフィラは「此の儘押し込めば倒せるだろう」と大きく頷いた。
 速力を生かしたボディと父の切なさを分かち合うアルヴァ。漸く末っ子から解放された雪見がげっそりとした様子で「暫く赤ちゃんはいいにゃ……」と呟く様子が見える。
「夜妖は意志がある者もいるらしいけれど……『台風一家』は問いかけにも答えない辺り、有象無象のひとかけら、とでも言った様子なのかしら?」
 首を傾いだレジーナにゼフィラは「そうかもしれないね」と頷いた。夜妖は実に奇妙だ。悪性怪異と称されるがその実態はあまり詳しくは分かっていない。それ故に、誰かの心を起因としてこうした大掛かりな存在が適当に現れることもあるのだろう。
「さあ、台風! 覚悟をするんだね!」
 びしりと槍で指示した公。アパート倒壊の危機が去るまで、あと一人である。
 父が斃れ、娘が残る。タンカーである彼女は母を庇った分もあり、疲労の色が見えている。ならば、とボディは速力をすべてぶつけた。
 その足元が、ぐらり、と揺らぐ。台風だけど、そんな気がしたのだ。
「全力全壊! ギガセララ・マジ卍・ブレイク!」
 ――それはマジ卍でやばたにえんな聖剣技であった。つまり、マジ卍に相手を切り伏せる攻撃だ。
 娘の体がどさり、と地に倒れたかのように見えた後――霧散し、空は雲一つ忘れた様な青空を取り戻した。


 グラウンドの整備をしなくっちゃね、と操は泥で汚れた顔をごしごしと拭う。グラウンドの片付けと口にしたボディはふと何かを思いついたように振り向く。
「皆様や綾敷様や音呂木様と一緒に行えば時間も早くすむかと思考しました」
 皆でやればさっさと終わる。けれど、怒っていたひよのを頼っても良い物なのだろうかとアルヴァはそわそわとひよのを見遣る。
 整備道具を持ってきたと告げるゼフィラにボディは礼を言った。どうやら、レジーナの手渡した頭痛薬の効き目があったのかひよのは落ち着いた表情をしている。
「台風たちにも、体育祭を楽しみにする気持ち……伝わったかな……?」
 セララの問いに答える者はいない。それでも、この一帯は青空を取り戻したのは確かである。
 さっさと、体育祭の準備を整え、楽しい体育祭を迎えなければならない。
「台風倒して体育祭も開催! 夜妖も撃破で一石二鳥にゃ! 報酬はコロッケで頼むにゃ!」
 にんまり微笑んだ雪見に「商店街のコロッケがおいしい肉屋さんにいこうー?」となじみが穏やかな笑みを浮かべ手招いていた。
 体育祭のお弁当のからあげのお肉もついでに其処で買うとワクワクした調子で彼女は微笑んだ。
 ――マジ卍な台風が去った後の空はすっきりとしていたのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 マジ卍すぎてマジ卍でしたが、良き体育祭になればいいですね。
 やばたにえんです。

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