シナリオ詳細
再現性東京2010:拝啓、まだ見ぬお姉様へ
オープニング
●私立プロメテウス百合女学院
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
爽やかな秋風がスカートを揺らしています。何気なくかわされる挨拶。
スカートの端を少し摘まんでご挨拶をします。慣れないうちは上級生のお嬢様の顔を見るのも恥ずかしかったですけれど、中等部からずっとここですもの。高等部1年ともなればだんだんと上級お嬢様方のお顔を見る余裕も出てきました。
ここは、私立プロメテウス百合女学院。希望ヶ浜の中でも有数のお嬢様学校です。
「ふふ。タイが曲がっていてよ」
「! サヤお姉さま」
私たちは上級生と一人だけ、姉妹の契りを結び、卒業までずっと心をかわしていくのです。私のお姉さまはサヤお姉さま。とってもお優しいのです。
ひときわ目立つ黒い車から、すっと背の高いお嬢様が降りてきました。途端に、あたりは沸き立ちます。
「あら、みなさま、ごきげんよう。今日も素敵な朝ですわね」
「きゃあ、宇津呂義宮のばら(うつろぎみやのばら)お嬢様ですわ!」
宇津呂義宮のばらお嬢様。
理事長の娘であり、習い事は10よりも多いと聞きます。どこからどう見ても、立派なお嬢様そのもの、お手本ですわ。”姉妹”を目指している女子生徒は数多く、数多の文が寄せられるときいております。
ですけれど……。どうしてかしら、私はどうしてものばらお嬢様が好きになれないのです。どことなく威張ったところがあるといいますか。たしかに社交的でお優しいお嬢様に見えますけれど、庶民にはにこりともしないのです。
ええ、私ですとか。サヤお姉さまですとか。
「挨拶をしてくださったわ!」
「いいえ、こっちにしてくださったのよ」
「まだ姉妹候補はきまっていらっしゃらないのよね!? ああ、どうしましょう」
「ごきげんよう、のばら様! 聖母役、頑張ってください」
「あら、ありがとう」
「……?」
生誕祭の顔である聖母役は、生徒たちからの推薦とリハーサルでのふるまいで決まります。ですけれど、まだ、選定中であるはずです。たしかに宇津呂義宮のばらお嬢様が有力候補ですけれど、決まっていなかったのではないかしら?
「私、全力を尽くす所存ですの。ぜひ見にいらっしゃってね」
まるで周囲も当たり前のようにはやし立てるのです。
口を出そうとした私をサヤお姉さまが止めました。
「大丈夫、心配しないで。演劇部として、頑張るから。私、やっぱり負けたくないなあ」
●
「……!」
借りたハンカチを返しにお姉さまの教室に出向いたときでした。
サヤお姉さまが、教室から飛び出していきました。
泣いていたように思われます。
教室には、まるで何事もなかったかのようにお茶をたしなむ宇津呂義宮のばらお嬢様と、その取り巻きの上級お嬢様がおりました。
「どういうことですの?」
「サヤ様は『聖母』候補を降りてくださるそうです。その方が恥をかかなくていいとおすすめしましたの」
取り巻きはクスクスと笑っています。
サヤお姉さまのご実家は、宇津呂義宮グループの子会社。
圧力をかけることはたやすいことでしょう。
「……たくさんいた聖母役は次々と不幸になっているそうですわね。それもあなたの仕業ですか」
「人聞きの悪いこと。口のきき方がなってないわね? どうかしら?」
ああ、私、こんな人をお嬢様とは認めたくはありません。
せめて、どなたか……。どなたか、もっとふさわしいお姉さまがいたら……。
- 再現性東京2010:拝啓、まだ見ぬお姉様へ完了
- GM名布川
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年11月08日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●嗚呼、お姉様
この”姉妹制度”というのはお姉様と私のためにあるものではないでせうか。
『荊棘』花榮・しきみ(p3p008719)は案内状(パンフレット)を、目につくところに置いておいた。お姉様はそれを見つけ、困ったように微笑んだ……。
「しきみちゃん、お仕事はしっかりね!」
と、仰る。
(ああ、お姉様! お姉様は恥ずかしがり屋故、此度の潜入捜査には参加されない……ええ、けれど、しきみは無事にやり遂げます、お姉様。見ていて下さいませ!)
「皆様、ご機嫌やう」
しきみの其の振る舞いは、転校初日にして女子生徒の目を釘付けにする。
「花榮しきみ様……既に心に決まったお姉様がいるそうですわ」
「あの、頭の角は、カチューシャ……でしょうか」
「舞台用のお衣裳で御座います。愛らしいでせう?」
「……!」
学園では、ちらほらと同じ位置にリボンを結ぶことが流行しはじめる。
そして、それをよく思わない者が、一名。
「ふむ、女学院、ですか……。
拙も元居た所では学生ではありましたが、戦力育成機関の面が強かったですし、普通の学校というのも新鮮ですね」
『ジョーンシトロンの一閃』橋場・ステラ(p3p008617)はこの学園に来る前に、ある程度の情報を調べあげていた。
(あれが、のばらさんですね)
ステラは果たしてお姉様となるのか、妹となるのか……周囲では熱い読み合いが続いていたが、本人は姉妹制度には興味がない。
誰にもはっきりとした返事はせずに、そのカリスマで、情報を集めている。
「夜妖を倒す為に女学院に潜入! そして何だか百合百合しい雰囲気だゾ!
これが女の園……成程、魔窟と呼ばれるだけあるゾ!」
『ラド・バウD級闘士』溝隠 瑠璃(p3p009137)はごくりと息をのむ。『Continued』オデット(p3p008824)と姉妹を契ることにした。
「学校! 通ったことない気がするんだよね、覚えてはないんだけど。きっと絶対楽しいね!」
ふわりと微笑むオデット。
お誘いが止むかと思えば、二人一緒におそろいのリボンをつけられたりする。
●お嬢様ですわ!
「? Urrr……」
まだ状況がのみこめてない『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)。
「とりあえずですわ? とか付けたらお嬢様っぽいんだよね……ですわ」
「うん、いい感じだね。聖母役に選ばれるように、一緒に頑張ろうね!」
「……一人だけでよくない?」
「ちょっと心細いし」
そう言われると弱いような気もする。
「どっちもファイトだぞっ!」
のばらが誰かを罵っている。
オデットとリュコスが姿を現したことで、それは止んだようだが。代わりに、矛先はオデットに向いた。
「あら、身の程知らずの転入生ではありませんの。聖母になるのはもう諦めまして?」
(……のばらさんがそんなにやりたいなら、聖母役は彼女の方がいい気はしなくもないけど)
でも、危ない目に遭うのもちょっと可愛そうかな、とも思うのだ。
そしてのばらは、リュコスの身なりを見て一言。
「あなたはどうせ聖母にはならないでしょう? よろしくね」
「……もう、こうなったら勢いだよ! ですわ!」
我慢は慣れているが、他のおじょーさまたちが巻き込まれるのはいやだ。
「そんなことしないとじぶんに自信がないの? ……ですわ! せーせーどーどーと勝負しろですわ!」
「な、なんですって!」
宣戦布告であった。
「まあ、のばらさんは……かまってちゃんだよね」
爽やかに地雷を踏み抜くオデット。
「ぼくは演劇のプリマになる! ……ですわ」
●麗しき姉妹愛
「こほん……ひとのこころを手に入れるのに、なにも生涯を掛ける必要などありませんの。
一時、一夜、一逢瀬……たった一度の『あやまち』でも、こころを連れ出すのには十分。
さ、あなたのこころをすこし、私(わたくし)に差し出しなさいな?」
『破竜一番槍』観音打 至東(p3p008495)は舞台で麗しい演技を見せた。あたりはしんとし、それから割れんばかりの歓声に包まれていた。
(よーしお嬢様口調への強制特訓が間に合ったでございますわ)
お嬢様通り越して、妖艶な未亡人さながら。
真っ正面から「お姉様!」と慕う者。「生き別れた姉妹の面影を見て妹のようにかわいがられるも一番は(以下略)」といったようなこじらせた夢を見始める少女たち。
彼女たちは「至東お姉様協定」を密かに結び、突出しないように互いを牽制し合っていた……。
「至東お姉様も聖母を目指しておりますの?」
「いいえ、私は告知天使の役を授かったのです」
「まあ……!」
聖母となるべき女体もとい少女に、資格と適正のあることを告げる「告知天使」。
少女から母へ、純潔の奇跡をもって羽化を遂げる、その恍惚と不安とに寄り添う天の使い――。
「――決してその気持ちにつけこんでイタズラしたりは致しませんので、ご安心なさいな」
聖母になったら、至東お姉様と一夜の夢が見られる……。
のばらも懲りずにオデットに花瓶の水をかけようとしていたが。
「あら、如何かなさいました?」
『死神教官』天之空・ミーナ(p3p005003)が、あっさりとのばらの腕をつかんでいた。
「礼儀知らず」の罵り言葉が出そうになったが、ミーナは元々田舎貴族とはいえ令嬢である。スカートの裾をさばき、微笑むミーナに隙はない。
「万が一理事長が交代するようなことがあれば一大事だからね、理事長の弱みになるようなことは控えた方がいいんじゃないかな」
真っ正面から正論を言う『血吸い蜥蜴』クリム・T・マスクヴェール(p3p001831)に反論することができるわけもなく……。
「覚えてらっしゃい!」
と、去って行くしかない。
「あらあら……オデットお姉様にこんな事しようなんて……片腹痛いですわ」
瑠璃はガラスの反射越しにそれを見ており、きらりと黒い笑みを浮かべた。
「それにしてもお嬢様だっていうなら家格を下げるような真似は慎むべきだと思うんだけど」
「聖母役とはまた、何の役に立つのかもわからない肩書の為にご苦労さんな事だぜ。
ヨルを呼び出したのも、それに対する執着心じゃないのかねぇ?」
「たしかに」
「お嬢」
ルナ・トレインの咳払いで、生徒たちの来訪を知る。
「……ああ、失礼。ここでは、きちんと振る舞いますわよ」
「ご機嫌よう、お姉様方……!」
失せ物探しから、勉強のお手伝い。
「困ったことならば、クリム・ミーナお姉様方に」……それが学園の合い言葉になりつつある。
「それくらいならば、私達でどうにかできるでしょう。ねぇ、クリム? 良いわよね?」
「待って、ミーナ姉様、失せもの探しや勉強教えるのはまだいいけれど恋愛相談に乗るのは僕には無理だからね!?」
ほら、クリムって可愛いでしょ?
そう言外に含ませて笑うミーナ。
ギャラリーは思わず頬を赤らめた。男装を完璧にきめたクリムとルナ。そして令嬢のお手本のようなミーナが加われば、まるで花園。
「クリム様……ああ、私この空間にいるだけでくらくらしてしまいますわ」
「とらないでくださいませね?」
「ま、まさか! とんでもございませんわ」
「お嬢様方、お茶のおかわりをどうぞ」
執事然としたルナがそっとティーカップに紅茶をつぐ。
「はう……」
(……ルナはとても女性にモテるのが懸念事項と申しますか)
「ところで聖母には誰を推薦するのか決めてるのかな? まだなら力を貸してくれると嬉しいな」
「も、もちろんですわ! ミーナ様、それとも……?」
「いやいや、俺たちは聖母になる気はないよ」
彼らが擁立するのは、オデットとリュコス。
名前を挙げれば、ああ、と納得した様子を見せる。
「リュコスお嬢様はすごいんですわよ! この前も私を助けてくださいましたの」
「オデット様の舞いを見まして? 私、もう……」
●正攻法
(人助けして人気者になったら票が集まるかな?)
リュコスが考えたのは、のばらとは真逆。ほんとの意味での”正攻法”である。
とう、と跳躍し、嫌がらせの現場に割って入る。覚えていらっしゃい、と去って行くのばら。
どや! と笑顔を浮かべるリュコス。
「……っ」
生徒たちの肩がふるふると震えている。
可愛い。
あまりに可愛い生き物だった。
リボンを結ばれたり、「リュコスちゃん、上の方にボールが引っかかってしまったの」なんてお呼ばれしたり……そうして過ごしていると、不意に中庭でティーセットを広げるステラのすがたをみつけた。
「ずるいずるい! ぼくもお菓子食べたいですわ!」
「情報収集ですよ。折角aphoneがあるのですし?」
「えっと、オネエサマになったらお菓子くれるですわ?」
「姉妹制度ですか……面倒は避けられるかもしれませんが……それもまた」
リュコスにお茶とお菓子を振る舞うステラ。一生懸命なリュコスは本当にかわいらしい。聖母候補でないとみなしたのは節穴にもほどがある。
「リュコスさんの評判も聞こえていますよ」
「!」
「とても頑張っていらっしゃると聞きました。あと、”笑顔がかわいい”と」
「……聖母、なれるかな?」
ステラが不意に机の上のバスケットを素早く包み、リュコスへと渡した。別に正面から迎え撃っても良かったけれど、なんとなくテーブルクロスの下に引っ込む。
「きっと聖母になれますよ」
「あら! 見る目がありますのね!」
テーブルの下のリュコスには、ステラがリュコスに言ったのだとわかる。
「ゆっくりしていきませんか?」
「あなた、転校生の中ではよい心がけですわね。ええ。よろしくってよ。私たちは選ばれたものなのですから」
と、ステラが気を引いている間に……。
水面下で、事態は進行していたのである。
「ねぇ、のばらさんに無茶ぶりされているのでしょう?」
瑠璃が被害者を集めて情報を引き出し、裏工作をしていた。
「そうなのです。のばら様ったらいつも威張り散らして!」
「オデットお姉様が助けてくれるわ。だから私達の「お友達」になりません事?」
「瑠璃様……!」
「のばらさん、あんな悪い事してるなんて……お嬢様の風上にも置けませんわ。それに理事長もそろそろ失脚されるとか」
「んまあ!」
捏造ではあるが、半分くらいは本当のことを混ぜることでそれっぽくする。目には目を、汚い手を使う人間にはそれなりの手段を、だ。
●ダンスレッスン
「あなた、口では聖母なんて目指してないといいながら、ほんとうはなる気なのでしょう?」
「は?」
しきみは冷たく切って捨てる。
「ごめん遊ばせ、私は心に決めたお姉様が居ますので、そうも目を付けられたら……未来のお姉様のためにちょっぴり悪戯してしまうかも知れません」
格が違いすぎて、相手にすらされていないのばら。
「ダンスシューズでございますわ!」
「ありがとうございます、瑠璃」
のばらが仕込んだいやがらせは、不発に終わる。なぜか、オデットへのささやかな嫌がらせが通用していないのだ。
所詮はぽっと出の庶民。そう思っていたのだが……。
オデットが中央に進み出ると空気が変わった。
美しく優雅に舞うオデットを、誰もが見ている。
そして、瑠璃は完璧にオデットの影となっていた。
「ほら、皆様、見とれていないでレッスンですよ」
「踊りは少しだけ得意、なんです」
「流石オデットお姉様! 今日も一段と素敵ですわ!」
「まるで白鳥のようでしたわ……!」
「どの先生にお習いになったの?」
「瑠璃は妹なのに、わたしの方が助けられてばかりな気がします」
困ったように微笑むオデット。
「ふふ、困ったことがあったら何でも言ってくださいね。出来る限り、助けになりますから」
●選ばれたのは
「おめでとう……ですわ!」
1度目の投票で聖母に選ばれたのはオデットだった。リュコスも僅差。「学園の妹に」、ということで熱い後押しがあり、小さな妹天使が急遽増えた。
のばらは案の定納得いかないとごねて、……オーディションの日がやってきた。
ステラは裏方に回り、機材をチェックする。ここならばいつでも対応できる。
スポットライトに照らされる告知天使。
「みなさま、今宵はごゆるりと……たった一度きり、一人きりの栄誉。皆様のおこころのままに……」
「私は守護悪魔でございますれば。聖母を拐かす悪しき存在より愛しのお姉様をお護りいたします」
至東としきみの登場に、既に数人があてられて気絶し、抱えられて出て行った。刺激が強すぎたのだろう。
瑠璃に手を引かれてやってくる、麗しきオデット。
次に、やや緊張した面持ちではあるけれど、きり、と一度前を見てしっかりと歩き出すけなげなリュコスが続く。
そのときだった、不意に照明が落ち……。
「きゃあっ」
「な、なんですの!?」
そして、ステラの用意したライトが再び舞台をともしだした。
至東の観音打が一撃。鋭い刃がヨルを襲った。
「みねうち。峰打ちではござらんよ」
それは小手調べ。そして、まずはこちらへ意識を向けるための一撃。絶妙な加減にて命を断ち切らぬ妙技。
「しかし百合は尊いでございますわな!」
「さあ、ここからは私達にお任せなさい! 皆さんは一刻も早く安全なところへ!」
ミーナの呼びかけに、ルナが答える。
「お嬢、あとはよろしく」と言わんばかりにわずかにウィンクをして。
「ミーナ姉様!」
「よーく見るでございますわよヨルさま、あの姉妹たちの睦み合いを!」
クリムの魔砲が、ヨルを貫く。
「視線はけして画面手前に向かうことはなく常に互いの! 瞳を! 見つめ合って!
ひしと繋いだ手はしかしそれ以上近づくことはなく! 腕の長さがそのまま二人の距離となるような!」
そ、れ。
過剰な姉妹愛の摂取により、ヨルは激しく取り乱している。
「――お気持ち、わかるでございますわ!」
花が咲いた。真っ赤なルージュ・エ・ノワール。
瑠璃の一撃だ。
リュコスの攻撃は、闇に隠れて見えない。血蛭が相手の動きを絡め取る。
「ぼくがんばるからねー。後でおかしちょうだい! ですわ」
「ご機嫌よう、麗しの死神様。申し訳ございませんが聖母様――いいえ、私のお姉様のご友人はお渡し致しませんわ。この愛は離別を拒絶しているのです!」
しきみの暗く、麗しい一途の月が昇る。
「!」
「困ったヨルも居たものだね! 見せ物じゃないんだけどな!」
オデットのファントムチェイサーがヨルを襲った。
「オデットお姉様!」
「――――!!!」
歓喜に打ち震えるヨル。その隙に……生徒たちは既に外だ。
ステラの黒顎魔王がヨルを襲う。
「よそ見をしている暇は無し、でございますわ!」
ヨルは一度、至東を同士だと把握した。しかし……。違う。
戦い方を見ればわかる。姉妹たちの邪魔をしないように動き、サポートする。
その力はヨルを遙かにしのぎ、カンストしていたのだ。
泥転陽炎の素早い斬が2度繰り出された。速い。
瑠璃のスニーク&ヘルでの、死角からの急所攻撃。
「無粋なお方は嫌われますわよ? おととい来やがれ! ですわ」
ヨルの暗い情念が、瑠璃に襲いかかる。
「っと……」
「大丈夫? 瑠璃」
オデットは瑠璃をかばっていた。
「きみはわたしより強いけど、だからこそわたしが守りたいんだ、瑠璃」
「お姉様! ……私の為にそんな……私だってお姉様を守りたいですもの!」
その心温まる光景に、ヨルは一瞬気をとられる。
「えいえい! ぼっこ、ですわ」
リュコスのキルストリークが炸裂する。
「今だ!」
クリムは接近し、レジストクラッシュを食らわせていた。
ミーナの死神の魔道・改……。
鋭く磨き上げられた鎌。それはこのような下等な怪異などが死神を名乗るもおこがましくなるような本物だ。
この状況をひとかけらも逃してなるものかと、ヨルの攻撃は鋭くなる。
ならば、奥の手だ。
「ああ、クリム。ちょっとこちらへ来なさいな」
「君の相手をしているのも悪くはないけれどミーナ姉様に呼ばれたから失礼するよ」
ミーナはクリムを呼び寄せ、顎をくいっと持ち上げた。
それは、乙女の口づけ。
「……っ」
「あらあら。これくらいで真っ赤になるなんて」
真っ赤になって固まるクリム。
「……あの、ミーナ? 必要だったのはわかるんだけどここ、人前……」
恍惚のうちにヨルは激しく燃え上がっていた。
「瑠璃、大丈夫かい?」
「オデットお姉様、大丈夫ですわ! お姉様のお顔を見ていたら元気が出てきましたもの!」
スーパーアンコールを受けて、瑠璃の攻撃は鋭さを増していく。
「このようなところで終わりではありませんわよね、さあ、気高く、強く、立ち上がれ!」
ミーナの天使の歌が響き渡っている。
リュコスは、イモータリティで己を奮い立たせて立ち上がった。
「思ったんだけどさ……こうやってつれさろうとする君が一番姉妹の中をジャマしてないかしらだわ!」
ヨルは図星をつかれたように黙り込んだ。
「生憎、私の本当の姉妹制度の姉君は恥ずかしがり屋故に出てきませんの」
今ここに、しきみの姉妹はいない。だが、どうしてだろうか、誰よりも強い愛。たった一人に捧げる愛。
「けれど、聖母様をお守りすることでお姉様が微笑んで下さるならば!」
スケフィントンが、ヨルを閉じ込めていく。
「ええ、微笑んで下さるならばしきみは天にも昇る気持ちになるのです!」
きらきらと輝く本物の姉妹愛。
「この愛をとくと受け止め、そしてさっさと去るのです!私とお姉様の間に貴方は不要なのですから」
「燃やし尽くして差し上げますわ」
ミーナの悪夢の炎が、二度。ヨルの情念を燃やし尽くした。
●勝利、そして……。
「終わりましたね」
ステラは散らかった舞台をテキパキと片付けていく。
「ああ、疾くお姉様にご報告しなければ」
「無事で良かった」
微笑むオデットに、のばらは唇を噛んで下を向いた。
悪意を向けられてなお、微笑むような”聖母”に勝てるわけがない。
「のばら嬢にはもう少し心の余裕というか、度量を身に付ければ一層魅力が増すような気もしますが」
ステラの言葉に、のばらは驚いたような表情を浮かべる。
「え……!?」
「ステラ、私、がんばりましたの」
「お菓子ですね、どうぞ」
「オデットお姉様」
「瑠璃、もう大丈夫だよ?」
「もう少し……ううん、お姉様になって貰うのはだめ……ですか?」
上目遣いにそっと手を取り、手の甲に口づける瑠璃。やりとげた顔で、至東は頷いた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
姉妹愛って最高ですね!?!?!?
学園を建てた甲斐がありましたわ!!!!!
のばら様も、なんというか、ええ、思いのほかおとなしくなったようですわ。
ご参加ありがとうございました。
ご縁がありましたらまたお姉様になってくださいまし!
GMコメント
●目標
私立プロメテウス百合女学院です。
立派なお嬢様としてふるまい、聖母役の選考に参加し、「ヨル」をおびき出し、討伐してください。
●『男子禁制』
伝統ある私立プロメテウス百合女学院は全寮制の女学校。
すなわち、『男子禁制』ですわ。
一時的に転入して潜入していただくことになりますわ。
教員か、生徒、あるいは清掃員様や事務員様でも構いませんけれど、
とにかく、お嬢様・淑女としてふるまってください。
なお、この学園での男装は一定の需要があり、きゃあきゃあ言われますので、男の格好をしてもそれほど怪しまれることはないのですわ。
けれど、ええ。不可抗力として女装する羽目になるかもしれませんわ。仕方ありませんわ。それがオーダーですもの。
お嬢様に定義はございませんわ。
気品あふれるような、生徒たちが憧れるようなお立ち振る舞いをしていればよろしくてよ。
●お嬢様方へのお願い
もし今回だけおプレイングの文体が特別にお嬢様口調になったり、奇妙な……じゃなかった、気品あふれるお話し方にしたい場合は、皆様のキャラクターの口調のセリフサンプルをお恵み下さると迷うことなくお嬢様にできますわ。
基本的には指定がない場合はいつもの(プレイングシート上の)口調になりますわよ。
●状況
此処は私立プロメテウス百合女学院、通称プロユリ女学院です。
一番お嬢様にふさわしいお嬢様が、生誕劇で「聖母役」を務めます(高等部くらいを想定していますが、生徒であれば皆聖母役候補、細かいところは気にしなくてよろしくてよ)。
下級生による他薦です。
授業で活躍したり、お嬢様としてふさわしい立ち振る舞いをして、推薦を受けましょう。
主役である「聖母役」には不吉なうわさが付きまとっております、
今までに選ばれた生徒は大けがをしたり、なんだかんだ恐ろしい不幸が起こっているのですわ。
ヨルは聖母となるお嬢様を決める「リハーサル」にて現れることとなりそうですわ。
返り討ちにして、本番をお楽しみくださいませ。
聖母候補は、できれば先生ではなく生徒のお嬢様がよろしいかと思いましてよ。
聖母を目指さないお嬢様は、他に役を生やしてくださいませ。
もちろん大道具お嬢様や、スポットライトお嬢様、サウンドお嬢様、後方彼氏面お嬢様になっていただいても構いませんのよ。
この生誕劇は、あくまで再現性東京2010のものですから、それっぽい雰囲気があればよろしいのです。
劇のあらすじも適当に付け足して構いませんのよ。
(例)
・気品あふれるメイド
・さすらいの剣士
・背景の薔薇
・etc……。
●ヨル「死神」
黒いローブに巨大な鎌。
まるで、死神のような姿をしたヨルですわ。不気味な声で、『我が愛しのクリスティーヌよ、迎えに来た』というセリフを吐いて、姿をあらわします。
無茶苦茶ですわね。
この死神が現れた時、舞台の装置は暗くなり、観客のお嬢様方は不思議なことにばったりと気絶、ないしは眠り込んでしまうのです。
・攻撃手段は鎌による攻撃ですわ。
・噂によると、弱点は「姉妹愛」らしいですわ。浄化されるそうですわ。
・お嬢様方に挟まる男に対しては、「即死級」の強烈な神秘攻撃を行いますわ。
なんてことでしょう。男だとバレたら大変なことになってしまいますわね。お気をつけになってね。
●ライバル
聖母役は全お嬢様の憧れの存在ですわ。
この役を虎視眈々と狙うお嬢様がおりますの。
次の聖母は理事長の娘、『宇津呂義宮のばら(うつろぎみやのばら)』様ではないかと言われていますわ。
このお方、困ったことに何でも一番でないと気がすみませんの。そう、何でもです。大食いでも徒競走でもテストの点数でも、ですわ。
無論、一番になれなかったときは一番のお嬢様につらくあたりますわ。
目立ちたがり屋の彼女が聖母役を狙って、卑怯な手で絡んでくるのは必然。
何かとにらまれるに違いありませんわね……。
「あらあ~、ごめんあそばせ。庶民がそこにいることに気が付かなかったわ」
「『聖母』に選ばれるのはこの私よ!」
・親の圧力をちらつかせる(※イレギュラーズには無関係と思いますが)
・保管してある衣装を毀損する
・すれ違いざまに足を引っかける
・悪口を言う
・取り巻きのお嬢様に絡まれる
……聖母役候補のお嬢様が不幸になっているのは、ヨルのせいではなく、このお嬢様のせいではないかとも言われていますわ。
このままほったらかしたら間違いなくヨルの襲撃を受けるのはこのお嬢様ですから、ちょっと痛い目に遭うのを見たいとも思わなくもなくてよ。
でも、まあ、依頼ですし、しょせん三流お嬢様ですから、お亡くなりになるほどではないかとも思いますわ。助けて差し上げてね。
●私立プロメテウス百合女学院
再現性東京2010に存在する全寮制の女子中・女子高・女子大(併設エスカレーター式)。
男子禁制の、いわゆるお嬢様学校ですわ。
多くの有力者を輩出する名門校であり、運営資金の多くは寄付金で賄われています。
・姉妹制度
このプロ百合女学院には「姉妹制度」がありますわ。誰かただ一人のお姉さまと妹を定めてお手紙を交換したりするやつですわ。
二人三人、姉や妹を作る不実なお嬢様もおりますけれどもね。
お嬢様らしいご活躍をされると、下駄箱がパンパンになりますわ。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
ご依頼人のお言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もありますわ。
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