シナリオ詳細
星降る丘に眠る者
オープニング
●冤罪に死したる騎士達
黒いローブの男が、夜の森を進んでいく。灯りを何ら持っていないにもかかわらず、男はすいすいと立ちはだかる木々を避けて前に進んでいた。
やがて男は、森を抜けて開けた丘に出る。“星の庭”と呼ばれるその丘は、空を流れる流星に願い事をすれば叶うと言われていた。だが、この男が“星の庭”に来た目的は、流星に願い事をするためではない。
男が掌を地面に向けてぶつぶつと呪文を唱えると、そこから闇が迸って地面に突き刺さり、男を中心として丘全体を覆うような魔法陣を描く。やがて男が呪文を唱え終えると、魔法陣からは漆黒の鎧を着た骸骨である亡霊騎士や、叫んでいる顔のような姿をした亡霊が、次々と浮上してきた。
「ククク……ハハハハ! 天義の正義などと言っても、所詮はこんなものだよなあ!」
邪悪な笑みを湛えながら、男は狂ったように笑う。男は、自らの父親であり師であった男を『不正義』とされて喪った。もっとも、それ自体は――男は認めないであろうが――正当なものであったろう。死霊術で死者を使役し、駒とした死者の贄として人々を殺めたのだから『不正義』とされるのは間違っていない。
一方、骸骨や亡霊は何の咎も無いのに『不正義』として断罪された、騎士達やその一族だ。森に囲まれた“星の庭”は彼らの処刑場として選ばれ、その遺体は穴を掘ってただ埋められたと言う過去がある。
“星の庭”で無実の騎士とその一族が処刑され、遺体はただ埋められただけと言う話を聞いた男は、彼らを自らの手駒とするために“星の庭”を訪れたのだ。そして、その目論見が上手く行ったことで、男は騎士達の処刑が事実であると確信した。無念や怨念を抱えた魂ほど、死霊術で操りやすい。処刑されたと言う騎士とほぼ同数の亡霊騎士が現れたのが、まさに事実である証左だった。ましてや、その一族までが亡霊として現れたとあっては。
「面白い……精々、オレの騎士達が働くための糧となってもらおう」
亡霊が、亡霊騎士の周囲に三~五体ずつ集まって行くのをみて、男は今度はクックッと笑った。亡霊騎士の周辺に集まっている亡霊は、生前はその騎士の一族だったのだろう。ならばと、男は亡霊を取り込ませることで、亡霊騎士を強化した。
その後、“星の庭”では願い事をするために訪れた者が、亡霊騎士に襲われるという事件が頻発した。黒ローブの男の父親であり師であった男がやったように、亡霊騎士の贄として殺め、さらに亡霊騎士を強化するためである。
●『深碧の天秤』の来訪
その日、リゲル=アークライト (p3p000442)とポテト=アークライト (p3p000294)の夫婦は、自宅に訪れたルチアーノ・グレコ (p3p004260)とノースポール (p3p004381)のカップルを迎え入れていた。訪問の用件はすぐに終わったが、せっかくだからと四人は歓談に興じる。
「リゲル、いますか?」
そんな中、リゲル宅の戸を叩く者があった。リゲルの弟分的な友人である、エトワール・ド・ヴィルパンだ。
「どうした、エト?」
リゲルは、戸を開けてエトワールを出迎えた。ここまで急いできたらしく、その呼吸は荒い。
「“星の庭”にアンデッドの騎士が出没して、願い事をしにいく人々を襲っているそうです。
そのため、ナイ・トゥーの街は閑古鳥だと言います」
呼吸を整えながら、エトワールは用件の説明に入る。ナイ・トゥーの街は“星の庭”に訪れる人々に向けた宿場町として機能しており、街の経済もそれに依存している部分が大きい。“星の庭”に訪れる者がいなくなれば、街は大打撃を受けるだろう。
そして、ナイ・トゥー領自体も経済をナイ・トゥーの街に支えられていた。故に経済基盤が弱いため兵士を少数しか抱えられず、亡霊騎士討伐の軍を起こせないでいる。
「これ以上、亡霊騎士を放っておくわけにはいきません。僕は、奴らの討伐に行きます」
「わかった、俺も付き合うよ。エト」
エトワールは過去に、一人で魔物の殲滅に飛び出して窮地に陥ったことがある。その経験があったから、今回はこうして相談に来たのだろう。エトワールの成長を嬉しく思いつつ、一も二も無くリゲルはエトワールに同道することにした。
「私も行くよ、リゲル……せっかく来てもらったのに、すまないな」
「そう言うことなら、僕も付き合うよ。アンデッドが暴れているなら、放っておくわけにはいかないよね」
「それに、“星の庭”にも興味があります。安全を確保出来たら、流れ星にお願い事をしたいです」
ルチアーノとノースポールは、申し訳なさそうに謝るポテトにその必要は無いと伝え、同行を申し出る。
かくして一行は、追加の同行者を募ってから、ナイ・トゥーの街を経由して“星の庭”を目指すのであった。
- 星降る丘に眠る者完了
- GM名緑城雄山
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年10月31日 22時11分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費200RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●“星の庭”へ
イレギュラーズ達は、“星の庭”へと急行する。非業の運命を辿った騎士達の魂を利用し、己が僕とする死霊術士を討つために。
「……天義がたくさんの人を無念の内に殺してしまった事は、忘れてはいけない出来事だよ。
私達はそれを繰り返さないように、生きていかなきゃいけない。
だから、無念を利用して今を生きる人達を脅かすなんて看過出来ないよ!
絶対に、止めてみせる!」
自身が天義の騎士である『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)は、死霊術士への憤りを隠せない。
己が想いと決意を、はっきりと述べてみせた。
(冤罪で処刑された騎士達やその一族の無念を利用し、自身の為に彼等を使役する死霊術士……ね。
これ以上の犠牲者が出ない様に、彼等に眠りを与える為に力を尽くしましょう)
サクラのように表だって口には出さないものの、『一刀繚乱』九重 竜胆(p3p002735)も、死霊術士の所業を止める意志は固い。
「沢山の人達が無実のままに処刑されてしまったことは悲しい。
……けれど、その無念を利用して無関係の人達を襲わせるなんて、許せない!」
普段は元気な『差し伸べる翼』ノースポール(p3p004381)の口調も、今ばかりは死霊術士への憤怒が宿っており、険しくなっている。
(……星の綺麗な夜に、亡霊の群れなんて似合わないよ。ポー達との時間を奪った、この罪は重いよ)
ノースポールの横にいる『Calm Bringer』ルチアーノ・グレコ(p3p004260)は、憤りのこもった声を耳にすると、フィアンセの横顔をチラリと見つめた。死霊術士が亡霊騎士を生み出さなければ、フィアンセやアークライト夫妻との楽しい時間は妨げられることなく、ノースポールは笑っていられたはずなのだ。その報いを必ず死霊術士に与えると、ルチアーノは誓った。
(星にはそれこそ、縁のある私が“星の庭”へ……ですか)
奇縁もあるものだと、『物語No.0973《星の姫》』コルク・テイルス・メモリクス(p3p004324)は思う。
(……ええ、ええ。彼の死霊術士には、ひとつ良いことを教えて差し上げましょう。
いかなる理由や同情……それから、信念があろうとも。
死者を冒涜すれば、それ相応の罰を受けるのですわ)
なればこそ、コルクは許しがたい罪を犯した死霊術士に身を以てして罰を知らしめるつもりでいる。
(“星の庭”……きっととっても素敵な星空が見られるのね。
そんな庭の下には、不正義とされ断罪された人が眠っている……)
星々が瞬く夜空の眺めと、冷たい地に眠る騎士達の悲哀。その対比に、『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は何とも言えないような複雑な表情を見せる。
(この場所を、これからもずっとこの国の人が笑顔で集まれる場所にするために……死霊術士を、止めましょ!)
だがアーリアは、すぐにいつものゆるくふわふわとした様子に戻りながら、内心で固く意を決した。
「……この国には、まだ冤罪で苦しんでいる人が沢山いるんだな。
死霊術士の父親に関しては、冤罪ではなくむしろ罪を償わなければいけないようだが。
彼に使役されている騎士たちは、冤罪で処刑されたとしても、このまま死霊術士に良いように使われ続けば同罪になってしまう」
事実を確認するように、淡々とつぶやいたのは『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)だ。だが、それは内心の動揺を抑え、冷静に状況を把握するためのものであった。
「そうなる前に、これ以上犠牲者が出る前に、再び眠って貰おう――行こう、リゲル」
ポテトは、夫たる『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)の目を真っ直ぐに見据える。リゲルは妻たるポテトに視線を合わせ返すと、こくりと深く頷いた。
●対峙、そして開戦
“星の庭”に着いたイレギュラーズ達が目にしたのは、二十ばかりの亡霊騎士と死霊術士だ。
「騒がしいと思えば、特異運命座標どもか……誰かが、亡霊騎士の討伐でも依頼したか?」
「依頼など受けていません! リゲル達は僕の同行者です!」
死霊術士の問いに、エトワールが叫び返す。特異運命座標ではないエトワールにとって、死霊術士の言い様は癇に障るものだった。
「ほォ……騎士様のボランティア、ってわけか。ご苦労なことだ」
死霊術士はエトワールの怒気を受け流しつつ、じっと探るような視線を向ける。
「落ち着け。敵に乗せられるなよ、エト。
孤立に気を付けて弱った敵から攻撃を集中させ、数を減らすんだ」
「わかってますよ、そんなこと!」
おそらく、今のやりとりで死霊術士はエトワールに狙いを定めた。侮るような口調は、挑発が狙いだろう。そう判断したリゲルはエトワールに注意を促し、エトワールは反発気味ながらもそれに応える。
バサリ、と雪のように白い翼を羽ばたかせ、指輪から光を放ちながら、ノースポールは亡霊騎士達の真ん中へと低空飛行で突入する。
「皆さんの苦しみ、悲しみ、無念……全部、ぶつけてください!
罪なくして裁かれる悲劇が起きないよう、皆さんのような思いをする人達が生まれないよう、私達が全部、持って行きますから!」
そして、より多くの亡霊騎士に自分の想いが叫べとばかりに叫んだ。その叫びを聞いた亡霊騎士の大半が、ガシャリと音を立て、ノースポールの方を向く。ノースポールは、亡霊騎士達を受け容れるかのように両手を大きく広げてみせた。
「……俺の父上も不正義の烙印を押されたが、今やその名誉は回復した。
国が間違えたならば、人の手で時間をかけて糺すことが出来るんだ!
だが……貴様の行いは明らかに間違っている!」
相変わらずのエトワールの反応に苦笑いしたリゲルは、愛用の二振りの剣を眩く光り輝かせながら、亡霊騎士の一体へと一気にかけ出した。
「貴様の闇など、退けてみせる!」
ノースポールの叫びに反応しなかった亡霊騎士達に向けて、リゲルは嵐の如く火の玉を降らせる。炎に包まれた亡霊騎士達は、はっきりとリゲルに敵意を向けた。
(国が間違えたならば、人の手で時間をかけて糺すことが出来る……)
「エト……どうした? お前も戦力として期待している。
無茶はせず、最後まで一緒に戦うことを念頭に置いて一緒に頑張ろう」
「……ええ、もちろんです」
リゲルの発した言葉は、天義の正義を固く信じていたにもかかわらず、国が誤っていたことによる衝撃が未だ残るエトワールに響いた。グッと、槍の柄を握る手に力がこもる。
呆けたように見えたエトワールに、ポテトは声をかけた。ハッとしたエトワールは、己への信頼が感じられるポテトの言葉に、素直に頷く。
(死霊術士が何をしてこようとも、皆は前だけを見てくれ。その背中は私が守って見せる!)
さらにポテトは、既に前に出たノースポールやリゲル達に支援が届く位置まで前に出ながら、自らに気力の消耗を最大限に抑える支援を施す。
「ハハハ、オレの闇を退けてみせる、か。では、オレは貴様らを闇で覆い尽くしてやろう!」
死霊術士は哄笑しながら、リゲルの火球を受けた亡霊騎士を闇で包み祝福する。祝福を受けた亡霊騎士は強化され、その身体を包む炎は消されていた。
次いで、亡霊騎士達が動く。七体がノースポールへ、三体がリゲルへと押し寄せた。だが、亡霊騎士達の攻撃はそれぞれ一体がノースポールとリゲルに軽い傷を負わせるに留まった。
残りの亡霊騎士は、一部がリゲにに向かい、残りは左右からイレギュラーズ達を押し包もうとする。だが、こちらも何人かに多少の傷を負わせた程度に終わる。
「エトくん。以前共に戦った時は『敵の弱点を探して』なんて言って戦場から下がってもらったけれど……今日は共に戦いましょ! お姉さん、頼りにしてるわよぉ」
アーリアはパチリとエトにウィンクすると、ノースポールの周囲に集まっている亡霊騎士を攻撃するべく前に出て、片腕を大きく天に向ける。
「すぐに解放してあげるから、しばらく痺れていてねぇ」
高く掲げた腕をノースポールに向けて振りおろすと、琥珀色の雷撃が闇を裂いて雨のように降り注ぐ。雷撃の雨は、亡霊騎士達を強かに打ちのめしていった。
(彼らも、天義の行きすぎた断罪の犠牲者なのよね……)
竜胆の目からすれば、天義の不正義と見なしたものへの対処は目に余る。亡霊騎士達も、そうした天義の体質の犠牲者なのだろう、と竜胆は押し包みにかかってきた亡霊騎士の姿に、物思いに囚われた。だが、天義のためとか正義のためとかではなく、この事態は見過ごすわけには行かない。
両手に握った業物を振るい、竜胆は亡霊騎士達を斬り、あるいは突いて、縦横無尽に攻撃していった。
「リゲルさん、援護するよ!」
「ありがとう、サクラ!」
サクラは前に出て聖刀【禍斬・華】に神の祝福を宿し、横薙ぎに一閃する。聖刀の刀身に宿っていた神聖なる気が、進みゆく光の刃となって亡霊騎士を斬り裂かんとする。
その時だった。光の刃が亡霊騎士に触れる直前、パシッと何かに当たる音がして勢いが弱まる。
「障壁!? さっきは――そう言うことか!」
リゲルが火球を浴びせた時との違いに、サクラは一瞬戸惑い、すぐにハッとなる。聖性を持つ攻撃への防御が施されているのだと気が付いた。おそらく、聖性を持つ攻撃が弱点である故なのだろう。そのことを、すぐさま仲間に伝える。
エトワールは側方から回り込んできた亡霊騎士一体を相手に奮戦し、槍の柄で何度も亡霊騎士を殴りつける。
(聖なる力、ね。僕にないのは残念だけど、そもそも僕も本来は、闇側の人間だから仕方ないね。
更なる深い闇で眠らせてあげるよ)
ルチアーノはさりげない風で、必要があればエトワールを守りに入れる位置にいた。今はエトワールも危なげない様子なので、手中の短刀を拳銃に変化させ、エトワールが攻撃した亡霊騎士を狙い零距離で銃弾を叩き込む。銃弾は亡霊騎士の鎧を貫通し、亡霊騎士をぐらりと大きくよろけさせた。
(……もう、誰も殺させはしません。次こそは、どうか。貴方達が安らかに眠れることを、祈ります)
本来、亡霊騎士達に罪はない。しかし、これ以上死霊術士の意のままに操らせて、また誰かを手にかけさせるわけには行かない。今はとにかく攻撃に出て亡霊騎士を倒していく時と思い定めたコルクは、ルチアーノ達とは逆の方から迫ってきた亡霊騎士の頭に、その容姿からは想像出来ないような強烈な左ストレートを叩き込んでいく。ぐしゃっ、と音を立て、亡霊騎士の頭である頭蓋骨は大部分が砕け散った。それでも亡霊騎士が動けるのは、アンデッドである故だろう。
●決着の刻
数で優っていた亡霊騎士達だったが、次第にその数を磨り減らされていく。元々、個の技量で言えば死霊術士による強化を受けてもイレギュラーズ達には届かない。そしてその半ばがノースポールとリゲルに釘付けにされている以上、効果的にダメージを与えられるはずはなかった。
さらに、ノースポールやリゲルの周辺に固まったことにより、アーリアの琥珀色の雷撃、リゲルの横一文字の剣閃、サクラの刀身から放たれる神聖なる気と言った範囲攻撃の餌食となっていく。
側方から押し包みにかかった亡霊騎士達も、ルチアーノの銃撃、コルクの左腕、竜胆の乱撃、エトワールの槍に阻まれ、少しずつ数を減らしていった。
一方、死霊術士は最初は闇魔法による複合状態異常をイレギュラーズ達に強いてきたが、それはポテトの号令によってことごとく除去された。搦め手では通じないとみた死霊術士は純粋な攻撃魔法へと戦術を切り替え、エトワールを中心に狙っていく。ルチアーノがエトワールの盾となるものの、その火力は強烈であるためにルチアーノは深く傷ついていき、ポテトの懸命の回復も追いつかなくなっていた。
亡霊騎士の半ばほどを倒したところで、イレギュラーズ達は死霊術士への攻勢に出た。
「皆の邪魔はさせないよ。それに、そんな奴を護る意味なんてないじゃないか」
まず、ルチアーノが死霊術士を護衛をしている亡霊騎士に、受けた者を凶暴化させる弾丸を命中させる。銃撃を受けた死霊騎士は、銃撃してきたルチアーノに敵意を向け、反撃すべく動き出す。
「リゲル達が死霊術士を倒すまで、守り抜くよ」
ポテトは、ルチアーノとエトワールの側へと寄ると、二人を護るべくその身を盾とした。エトワールを庇っていたルチアーノがもう限界である一方で、リゲル達が死霊術士を倒すまでなら耐えられるという判断からだ。
「邪魔はさせません……! 死霊術師を、お願いします!」
「リゲル達の邪魔はさせないわ! かかっていらっしゃい!」
ノースポールと竜胆は、残る亡霊騎士達を手分けして引き付けにかかった。左右に分かれた二人の高らかな口上に、亡霊騎士達は余さず誘引される。これで、死霊術士への道は完全に拓かれた。
「一気に、畳みかけるわよぉ」
護る者がいなくなった死霊術士に対し、アーリアは琥珀色の雷撃の雨を降らせる。その雨はことごとく死霊術士に直撃し、全身を焦がして半死半生まで追い込んだ。
「く……お、おのれぇ。こうなったら、一人だけでも道連れに……!」
戦況を覆せないと悟った死霊術士は、満身創痍のルチアーノに向けて残りの魔力を全て注いだ禁術を放つ。漆黒の光線が、ルチアーノを貫かんとする。
「うっ……! だ、大丈夫だ……」
しかし、光線はルチアーノを押しのけたポテトに直撃した。かはっと口から血を吐いたポテトだが、倒れるには至らない。一方、死霊術士はこれで魔力を全て失い、後は倒されるのみとなった。
「闇の魔術? 笑わせないでくださいな。
誰かを傷付けるだけの魔法で術士を語るなど、傲慢に過ぎませんわ。
死者を愚弄するだけの貴方の正義は、もう終わりにしますわ!」
「……うぐうっ!」
コルクは左腕に漆黒の闇を纏わせ、死霊術士の鳩尾に全力でボディーブローを叩き込む。「ボディへのダメージは地獄の苦しみ」と言われるが、死霊術士も目を剥いて苦しげに鳩尾を押さえるしか出来なくなっていた。
「騎士達を弄んだ不正義を、神に代わり――ここに断罪する!」
亡霊騎士達を突破したリゲルが、死霊術士に一気に迫る。その手にある二振りの剣は、“星の庭”で瞬く星々の光を集めたかのように、眩く輝いて辺りを昼間のように照らし出す。
「――ごぼっ!」
亡父を想わせる質実剛健な太刀筋で、死霊術士は袈裟と逆袈裟に深く斬りつけられる。致命傷だ。
「どれだけ汚泥に塗れても! そんな時こそ光を忘れちゃいけないよ!
私達がこの国の闇を払う! 胸を張って誇れる天義を取り戻してみせる!
だから……貴方を止める!」
正しいだけじゃ進めない時がある。それでも、正しさを捨てたら行き止まりだとサクラは思う。
死霊術士のようにはならず、苦しくとも正しさと共に進み続けると言う意思を込め、亡霊騎士達に誓うように叫びながら、サクラは死霊術士の首を刎ねた。
同時に、残る亡霊騎士は身体を失い、鎧だけが音を立てて崩れ落ちた。
●それぞれの、願い事
イレギュラーズ達とエトワールの前には、二十人の騎士と、百人近いその家族達の霊がいた。その誰もが笑顔を浮かべており、死霊術士の支配から解き放たれた感謝に満ちているように見える。否、彼らの瞳は、明らかに何かを託していた。言葉こそないものの、それが何を意味するかはイレギュラーズ達も、エトワールも悟っていた。
やがて霊達の姿が消えると同時に、流れ星がいくつも流れ始める。その場にいる全員がまず霊達の安らかな眠りを願い、そして各々の願いを託していった。
「この国の未来が、明るいものでありますように……アドラステイアも、止めないとね」
「先の誓いを、きっと果たせますように……うん、そうだね」
祈りを終えたアーリアのつぶやきに、こちらも祈りを終えたサクラが静かに応じた。
「僕はいつでも、ポーの幸せを願ってるよ」
「ふふっ、ありがと! 私も、いつもルークの幸せを願ってるよ」
口に出したのはそれだけだったが、ルチアーノとポーは内心で皆の幸せも共に祈っていた。
(もう、こんな悲しい事件が繰り返されませんように)
(……いつか、彼らの無念が癒えますように)
コルクと竜胆は、言葉に出すことなく流れ星に祈る。
「共に幸せになろうな」
「あぁ、これからも一緒に幸せになろう」
祈りを終えたリゲルとポテトは、互いに手を握り微笑み合う。
そのアークライト夫妻の姿に視線をやったエトワールは、流れ星降る夜空に視線を移し、神妙な表情で願うのだった。
(……いつかリゲルに追いつき、リゲルを超えられますように)
成否
大成功
MVP
状態異常
あとがき
リクエストとシナリオへのご参加、ありがとうございました。かくして、死霊術士は討たれ、騎士とその家族達は天に昇りました。“星の庭”での願い、叶うといいですね。
MVPは迷いに迷いましたが、死霊術士の搦め手を完封し、またエトワールを庇うルチアーノさんを回復し続けて支えたポテトさんにお送りします。
GMコメント
こんにちは、緑城雄山です。シナリオのリクエスト、どうもありがとうございます。冤罪で処刑された騎士達やその一族の無念を利用し、彼らの魂をアンデッドとして利用する死霊術士を倒して下さい。
●成功条件
死霊術士の撃破(生死不問)
●失敗条件
エトワール・ド・ヴィルパンの死亡
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
死霊術士の魔法、特に搦め手に注意して下さい。
●ロケーション
天義、ナイ・トゥー領内“星の庭”。時間は深夜。地形は平坦。
星は瞬いているものの暗いため、周囲一帯を照らせる光源か暗視が無いと、死霊術士や死霊騎士の色も相まって命中・回避に大きなペナルティーが入ります。
初期配置は、イレギュラーズ側の前衛と亡霊騎士の前衛が50メートル離れていて、亡霊騎士の最前線から死霊術士までは30メートル弱の距離があります。
亡霊騎士は、範囲攻撃で一掃されないように散開しています。
●死霊術士 ✕1
漆黒のローブの男です。
冤罪で処刑された騎士達とその一族の骸が“星の庭”に眠っていることを知り、騎士達をアンデッドにして手駒としました。死霊術のベースとなる闇属性の魔法を高いレベルで使ってくると見られます。闇属性の魔法は夜の中では視認が困難であり、十分な光源か暗視が無ければ死霊術士の魔法に対してはロケーションで述べた分と重複して回避にペナルティーが入ります。
ステータスは命中、神秘攻撃、特殊抵抗が高め。一方、回避、生命力、防御技術が低めと言った、魔術師然としたものになっています。
●亡霊騎士 ✕20?
漆黒の鎧に身を包み、暗黒のオーラに覆われた骸骨の騎士です。冤罪を着せられた騎士達の魂であり、無念により昇天出来ず現世に残っていたところを、死霊術士の手駒とされました。
片手に剣、片手に大盾を持っています。生前は騎士として遜色ない実力を持っていました。アンデッド可による戦闘力の低下は、一族の亡霊が宿って強化されたことにより相殺されています。
ステータスは命中、物理攻撃、生命力、防御技術が高め。一方で回避は低めとなっています。
聖剣や神気閃光のような、聖性を持つと判断しうる武具やスキルは、死霊騎士に対して【防無】とダメージ増加の特効を持ちます。ただしそれは死霊術士も当然把握しており、何らかの対策をしている可能性はあります。
●『深碧の天秤』エトワール・ド・ヴィルパン
リゲル=アークライトの関係者です。
リゲルさんやローレットの活躍に嫉妬し、リゲルさんをライバル視していますが、リゲルさんにとっては大切な友人の一人です。
戦闘中にどう動くかは、皆さんの、特にリゲルさんの接し方次第で変わってきます。
実力は、このシナリオにおいては死霊騎士と一対一でやりあって辛うじて持ち堪えられる程度とします。また、戦闘不能に陥れば死亡する危険性は十分にあります。
それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。
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