PandoraPartyProject

シナリオ詳細

再現性歌舞伎町1980:ワールドシェイカーズ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●クソ女とクソ女
 歩くたびに花が咲くとはこのことだろうか。
 黒く清らかな尼僧服を纏った銀髪の女性が、ハンバーガーショップのフロアを横切り階段を上っていく。
 胸にさがったロザリオが規則正しく揺れ、トレーにのったフィッシュフライバーガーとオレンジジュースがわずかの揺れもなく優しく運ばれていく。
 たまたま居合わせた客はおろかオーダーを聞いていた店員やフライヤーから細切りのポテトを引き上げていた店員でさえ、思わず振り返って見送ってしまうほど、それは美しく整った姿だった。
 美しすぎて、整いすぎたと、言うべきかも知れないが。
 厳かな楽器のように階段をのぼりきり、窓際のカウンター席へと歩いて行く。
 運んできたものをトレーごとゴミ箱に放り込むと、ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)はカウンター席へとついた。ガラス越し、ショップのはす向かいには神社庁と玉串が重なったロゴマークの看板が見えた。
 一般的なテナントビルだが、その――。
「三階ですよほら。窓にも大きく書いてあるでしょ? あっ、玉神串道会になってる。窓が逆なんですよまったくもう」
 ぽん、ライのと肩に手が置かれた。
 聞き覚えのある声が、耳元で囁いている。
 振り向こうとしたが不思議な力でおさえつけられ、肩どころかくびすらも満足にまわせなくなっていた。
 スゥ、っとライの前にトレーが置かれる。先ほど捨てたはずのフィッシュフライバーガーとオレンジジュース。一緒に乗ったレシートのナンバーまで同じだった。
「だめじゃないですか、食べ物を粗末にしたら」
「あなたこそ」
 ガラスに映った姿に、ライは清らかに微笑んで見せた。
 赤いフレームの眼鏡をかけた、巫女服の女。現代日本ではとてもあり得ないような改造が施された、非常識な巫女服。
 ライはかろうじて動く右腕でオレンジジュースのカップを掴むと次の瞬間には手からカップが消えていた。
 二つ隣の席で漫画を読みながら飲食するサラリーマンが口からオレンジジュースを吐き出してテーブルに突っ伏す。どうやら深く眠っているようだ。
「だめじゃあないですか、食べ物におかしなものを混ぜたら」
「わ~! びっくり~! この人どうしたんですか~!?」
 あからさまな嘘をついて首をかしげてみせる。この巫女の名を、ココノ・ナインテイルという。

●ワールドシェイカー
 練達の一角に存在する旅人によって現代日本が再現された街。時代背景ごと無数の区域に分かれたそれを総称して、再現性東京という。
 ここはそんな中でも高度経済成長期の新宿を再現した街。人呼んで『再現性歌舞伎町1980』。
 ライはかつての依頼から怪しい行動をとっていた玉串神道会とその構成員であるココノ・ナインテイルを定期的に監視していたが、どうやら相手もまたこちらを監視していたらしい。
 すわ拉致や拷問がおこるかと身構えたライではあったが、ココノは監視したことを責めるどころか逆にオフィス内へと招き入れ、さらには仲間を集めてくることまで求めた。
 それが意味するところは、ひとつ。
「ローレット・イレギュラーズの皆さん。私からの依頼を引き受けてくれますよね?
 なんてったって正義の味方! この町にわる~い人達がいるんです。乗り込んでいってやっつけましょう! よろしくおねがいしま~すっ。きゃぴきゃぴ☆」
 目に星をうけべて両手を組んであからさますぎる態度で述べるココノ。
 自分で『きゃぴきゃぴ☆』とか言うやつがロクな女なわけがないが、ローレットとしは以前、彼女と一定の口約束を結んでもいた。
 彼女とその組織と敵対しそうになった際、ローレットが依頼を引き受けるからここは退いて、という要求である。無論今回のメンバー全員が全員当事者ではないのでいつでも反故にできるのだが、ココノはそれを承知で強引に押しつけてきたというわけである。
「で~、倒して欲しいワルモノさんっていうのが~」
 アヒル口を作ってくねくねとしながら喋っていたココノが、一瞬冷酷に目を細めた。
「幻薬密売組織です」

「『ワールドシェイカー』」
 ビニール小袋に入ったラムネタブレット状の物体を、ココノはテーブルの上に置いた。
「服用した者は五千兆円当たってモテまくりムカつくやつ全員土下座し靴を舐め全人類ひれふす――という幻覚をみるおくすりですよ☆」
 ニッコリ笑って『おひとついかがですか?』とか言ってくるココノ。
「もちろん中毒性はバッツグン。中毒者が全財産をなげうっちゃうなんてザラだそうで。
 こんなのあったら当然金儲けに使っちゃいますよね~?
 コアストックカルトっていう宗教団体がディスコクラブを隠れ蓑にしておくすりパーティー開いてカモを集めてるんです。ひどくないですか~?」
 やっつけちゃいたいですよね~! て言いながらシュッシュとシャドウボクシングのまねごとをしてみせる。
 ローレットが求められているのはシンプルに二つだけ。
 ひとつはディスコクラブへ乱入してVIP専用ルームへ強行突入し、そこに潜伏しているワールドシェイカーの売人や関係者をもろともぶち殺して『工場』と呼ばれる部屋から目的の品を持ち出すこと。
 もうひとつは、その品を無条件かつ絶対的にココノへ譲渡しこれの奪還もしくは追跡を行わないこと、である。
「私たちのこと信用できないですよね~? わかるわかる~! けど――」
 煙草をくわえ、フィンガースナップだけで火をつけ、煙をいっぱいに吸って……ため息のようにココノは吐いた。
「受けてもらいますよ。あなたの仲間の作った貸しを、たとえ関係なくても返して貰います。それが、フェアってやつでしょう」

GMコメント

■オーダー
 ディスコクラブ『ココアマス』へ乱入し、目的の品を奪取します。
 バリバリの営業時間中に乱入するので一般客も山ほどいますしコアストックカルトの警備員たちがエネミーサーチや何かで敏感にこちらの突入を察知して魔術加工された強力な銃やナイフを用いて迎撃をしかけてくるでしょう。
 これらを倒して強行突入を仕掛けるのが、今回の大枠の内容となります。

・シチュエーションデータと注意点
 表フロアには一般客が大勢おり、おそらくはパニック状態になるでしょう。
 そうした人々を巻き込みかねないことを承知で警備員たちは攻撃してくることになります。
 すごく端的にいうと、周りに一般客がいるなかで範囲攻撃をぶっ放したら十中八九人一般に死傷者が出ます。フロアもそう広い場所ではないですし思い切り入り乱れているので注意して使用してください。
 また、VIPフロアには幻薬を服用してトリップしている人達も大勢いるので表フロア以上に扱いが難しくなるでしょう。
(※今回に関しては【識別】を有していても完全に全員の動きを把握できていない場合は流れ弾があたるものとして判定します)

 この状況への対処、ないし一般客への対応についてココノは『好きにしていいですよ~! 自由☆』と述べていますがこちらの方針や性格をはかる意図がどうやらありそうです。

・エネミーデータ
 『コアストックカルト』はこの街を構成している魔術を悪用しようと考えている集団です。詳しい解説は後述します。
 彼らは魔術的に加工された拳銃やナイフといった武装を用いると思われますが、人数や個々人の強さやその配置や外見特徴に関して一切が『不明』です。
 それを踏まえて作戦をたてていってください。

・味方同行NPC
 このシナリオにはココノ・ナインテイルが同行します。
 ココノはフィジカルの強いファイターで強力な肉弾戦を行います。
 OP冒頭にもあるとおり嘘やハッタリに強い性格のようです。

■解説
・再現性歌舞伎町1980
 幻惑大魔術『バブルマジック』によって弾けないバブル経済が維持されている街です。住民はいつまでも覚めない夢のなかで毎夜泡に酔っています。

・泡の書
 今回ココノが奪取をもとめた品です。
 厳密には『泡の書 断章』。バブルマジックを構成する膨大な術式のなかのほんの一ページにあたります。
 この断章に書かれた術式を用いて幻薬は作られているようです。
 このことからもバブルマジックがどれほど巨大で強力なものかわかります。

●再現性東京(アデプト・トーキョー)とは
 練達には、再現性東京(アデプト・トーキョー)と呼ばれる地区がある。
 主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げた、練達内に存在する、日本の都市、『東京』を模した特殊地区。
 その内部は複数のエリアに分けられ、例えば古き良き昭和をモチーフとする『1970街』、高度成長とバブルの象徴たる『1980街』、次なる時代への道を模索し続ける『2000街』などが存在している。イレギュラーズは練達首脳からの要請で再現性東京内で起きるトラブル解決を請け負う事になった。

■■■アドリブ度■■■
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用ください。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • 再現性歌舞伎町1980:ワールドシェイカーズ完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年11月04日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

矢都花 リリー(p3p006541)
ゴールデンラバール
ステラ・グランディネ(p3p007220)
小夜啼鴴
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)
あいの為に
トキノエ(p3p009181)
恨み辛みも肴にかえて
リリィ・ローゼス(p3p009203)
聖女の烙印

リプレイ

●ブラックマンデーはもう来ない
 このあたりではもう着慣れてしまったパンツスーツに身を包み『恐怖とは?』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)はディスコクラブ『ココアマス』の前に立っていた。
 スチームパンクめいた世界からやってきたブレンダにとって『現代』と彼らが表現する世界はみな同じように見えたが、どうやら微細な違いがあるらしい。それは四桁の数字がほんの二桁程度変わっただけで、当人たちにとって住み心地がひどく悪くなってしまうとも。
 扉を開くと、爆音の80年代ディスコミュージックに混じってカラフルな光とそして倒錯的なほど身体のシルエットを出した女性達のダンスが目に入ってきた。
「さて、今回はよくわからんが泡の書とかいうやつを回収すればいいのだな。
 どこいあるかもわからず、誰が敵かもわからん面倒な状況だが……まあ」
 ぐるりと見回してみる。ブレンダの長身はこういうときに便利だ。ひどく目立つ代わりに、人混みの中でもものを見つけやすい。
 実際、クラブのあちこちでブレンダを注意深く観察人間がいるのがわかる。皆ラフな私服姿だが、半数ほどはここの警備員だろう。
 統一された制服を着ていないのはコストのためか、それともクラブの雰囲気を維持するためか。
「なんとかなるだろう」
「なあ、それのことなんだがよ」
 チェックのシャツに裾の広いパンツというこの時代背景にあった服装をした『特異運命座標』トキノエ(p3p009181)が、熱狂する人々を見回して顔をしかめた。
「関係ねえ客がわんさかいる時に突っ込むのかよ。営業時間外じゃあダメだったのか?」
「うん?」
 そんなこと考えもしなかった、という顔で振り返るブレンダ。
 トキノエは盗み聞きをされないように、もしくは店内の爆音にかき消されないように耳を近づけるようにジェスチャーした。
「あの女、一般客をわざと巻き込むつもりじゃねえか?」
「なんのために」
「さあな。例えば、俺たちを試すためとか……」
「仮にそうだとして、『一般人を一緒に殺せ』と言われていない以上個々の倫理観にあったことをすればいい。試されているとして、どう応えるかも自由だ」
 『聖女の烙印』リリィ・ローゼス(p3p009203)は魔術銃のグリップ部分に聖水を封入したタンクを差し込むと、いつでも撃てるようにセーフティーを外した。
「人の業とは、本当に。……でも、無力を嘆く暇は、有りはしない」

「子供の頃はこの辺りは治安が悪いから近付くな、とよく師匠とノーデンスに言われたものです。
 元の世界もこうならば、余程権力者も美味い汁を吸っていたのでしょう」
 『小夜啼鴴』ステラ・グランディネ(p3p007220)がやれやれといって様子で首を振る。
「そして今は、元の世界でない事とこの栄華が泡沫である事、両方の現実を直視したくないのでしょうね」
 ステラにとってこの町は嘘だらけだが、その嘘の中毒になっている者たちもいる。彼らから嘘をとりあげることは、残酷なことのよにも思えた。
「みんなすっごく賢いんですね~。頼もしいです~!」
 嘘偽りしかないような声色と振る舞い。ココノ・ナインテイルは信用や信頼といった言葉とは無縁のように見えた。
 そんな彼女に自己紹介をしてみせる『口達者な会長』楊枝 茄子子(p3p008356)。
「ココノくん! 『私』茄子子だよ! 今日はよろしくね! きゃぴきゃぴ!」
「わ~! よろしくお願いします茄子子『会長』! きゃぴきゃぴ!」
 露骨なくらい隠したにも関わらず、皮肉なくらい『知っているぞ』という態度を見せるココノ。
 練達国内でだいぶ堂々と活動しているので、隠すのは難しかったのだろうか。それとも玉串神道会によってはじめからマークされていたのか。『高等な嘘つき』である茄子子を看破するには、相応の背景があって然るべきである。
 折角服まで変えてきたのにと頬を膨らませる茄子子。
 そんなやりとりをいい意味で破壊して、『(((´・ω・`)))シ ミゞ』矢都花 リリー(p3p006541)がバールをヤドカリハンドで器用にクルクルとやりながら話しかけてきた。
「こんな時間からディスコでパーリナィとか、これだから陽キャはさぁ……。
 そんなだからドラッグとか流行るんだよねぇ……。
 こんなディスコ、トップから順にボコして総入れ替えの刑しかないっしょ……。
 ココノっちもなんかデビューミスった陰キャっぽいファッションと喋り方だし、きっとそういうことなんだよねぇ……?」
「そ~なんです~、ご明察~!」
 両手を組んでくねくねしてみせるココノ。こんなわかりやすい嘘もないが、この発言が嘘だからといってなんの情報もわからない。本当のことを混ぜているかもしれないし、本音をわざと嘘っぽく言ったのかも知れない。
 『嘘つき』とはイエスをノーと言い換えるだけの言葉遊びではないのだ。
 そのことを、『あいの為に』ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)はあまりにもよく知っていた。
 偽るということの難解さと、その意味と、その意図を。
(このクソ女の為に働くというのも苛立つ話ではありますが……前回に口約束した事もまた事実。
 約束一つ守れないと思われるのもそれはそれで業腹と言うもの。仕方ありません)
 実のところ、ココノ及び玉串神道会が前回接触時に自分たちから泡の書を強奪しなかったのは、ライたちが『次はそっちの依頼を受けてあげるからね』という約束を頭から信じたからではない……と、ライは考えていた。
 逆の立場なら、再現性歌舞伎町に介入してきた第三者的勢力の実際的スタンスを確かめようとするだろう。そのために泡の書をひとつ奪われる価値があったと、考えたのだ。
 しかも、それを露骨に突きつけて、さらには倫理的にやりづらい環境を押しつけることで『ノー』と言いづらくする。
「クソが……」
 聞こえないようにつぶやいたライに、まるでそれが聞こえていたかのようにココノがにっこりと笑いかけてきた。
 にっこりと笑いかえし、互いに手を出して深く握手をする。
「今日はよろしくお願いします~。一緒に働けてとっても嬉しいです~」
「ええ、ええ、私も同じ気持ちです。共に正しい行いをしましょうね」

 一足遅れて、ジャパニーズ・プレッピーファッションに身を包んだ『never miss you』ゼファー(p3p007625)が店内へと入り、サングラスをあげた。
「タチの悪い薬にタチの悪い女に、タチの悪い依頼。
 此れはろくでなし共の夢の競演ってヤツかしら」
 それでもやらねばならない。これ以上に酷い依頼がどれだけあるだろうかと考えながら、ゼファーはとりあえずバーカウンターへと歩いて行く。

●ずっと夜なんか明けなければいい
 下見を終え、店内へと入っていくライ。
 彼女の聖職者然とした格好はディスコクラブにおいてひどく目立ったし、彼女をこの場にふさわしくない者として排除しようとする動きもあった。
 いや、あえて『そうさせた』のである。
「おいシスターさんよ、懺悔ごっこならよそでやれよ。それとも俺と――」
 下卑た笑みを浮かべて肩を掴む男。そのこめかみに拳銃が当てられた。
 目を見開き飛び退こうとするが、逆に首を掴んだライが不自然すぎる笑顔で『ハレルヤ』と囁いた。
 彼女の祈りが9ミリパラベラム弾の形をとって男の欲望だらけの脳を『きよらか』にした。
 響く銃声。飛び散る肉片。ボディコンにはねた赤黒い物体を見下ろした女が金切り声をあげる。
 それを押しのけてフードパーカーを着た警備員二人組が近づいてきた。
 周囲の客達が逃げようと、しかし人混みのせいで満足に動けずぐちゃぐちゃと蠢く様子を背景に、ライは雑草と一般客の区別がついていないかのように警備員たちへと連続発砲。
 リリィはあらかじめ女子トイレに仕込んでおいた発煙筒が通路から煙を吹き出すのを指さし、『火事だ』と叫んで歩き出した。
 客達は突然の発砲と偽装火災にパニックを起こし、入り口に近い者は我先にと店から逃げだそうとした。
 狭い通路である。すぐにぎっちりとはさまって彼らは発狂したように叫びだしたが、リリィはそれ以上の干渉をしなかった。一般客に背を向け、反対側からバタフライナイフを展開しながら走ってくる警備員へ魔術銃を向けた。
 戦うに足るスペースがあればそれでいいのだ。
「死を恐れる必要は無い。主の慈悲は此処に。汝らの魂はどこへ行こうと、主の愛の下に」
 祈りを込めてトリガーをひくと、仕込まれたアリア魔術式のキンという圧縮詠唱音と共にチャンバーに流し込まれた聖水が赤く結晶化。複雑な効果をはらんだ弾丸となって警備員の身体に打ち込まれていく。一発二発で効果が出ずとも何発も撃ち続ければ肉体に蓄積した聖水との相乗効果によって身体が重くなり、最後にはその場に顔から倒れるのだ。
 銃を水平に構え直し、スッと壁際へ向ける。回り込もうとしてきた警備員が彼女の射撃から咄嗟に飛び退き、そうして出来た隙へ飛び込んだトキノエの貫手が警備員の首筋へと打ち込まれた。
 トキノエの爪が首から内側へ食い込み、その途端血管が青黒く膨れたように肉体表面が膨張。ぐぶと声を発したきり、警備員は膨らんだ首を押さえてのたうち回った。
 その事態に悲鳴をあげる女へ、怒鳴りつけて遠のかせる。
「怪我したくねえならどいてろ!」
 毒、ないし病のもととして信仰対象にあった八百万トキノエ。毒は薬にもなり薬や病を産むともいう。確かに望めばこうして毒を流し込み苦しめることができるが、彼自身がそれを好き好んで行うわけではない。むしろ……。
(あーあ……下衆相手だっつっても殺るとなると気分悪いな)

 バーカウンターに二人の美女。
 ある意味対照的な格好をしたブレンダとゼファーはカクテルグラスを手に左右から声をかけられていた。
 サラリーマンたちが金ぴかの腕時計や難しい名前のブランドネクタイを露骨にチラ見せしながら彼女たちに欲望だらけの目を向ける。
 それをそよ風のように受け流していると、男達を押しのけ大男が二人の後ろに立った。
 スキンヘッドにサングラス、こきりと首をならし大きな手を振りかざす。
「マスター、シャンパン頂戴?」
 ウィンクするゼファー。バーテンは彼女と大男を見比べ、慌てた様子で瓶ごとテーブルに置いた。それを優しく掴み、ブレンダと自分のグラスに直接注ぐ。
「ありがとう」
 二人は乾杯し、グラスの中身を一気飲み干し――振り向きざまにシャンパンの瓶と握りこぶしを大男の顔面と腹に叩きつけた。
 吹き飛び、ステージへと転がる大男。割れた瓶を振りかざしてゼファーはステージへと這い上がった。
「おらおら、こちとら見境なくぶっ殺すのも厭わない、こわ~い一味よ!
 ママより先に墓に入りたくなきゃ、尻尾巻いて逃げなさいな」
 うめく大男の喉に革靴のつま先を押し当て、垂れる髪をおさえて見下ろすブレンダ。
「私たちはVIPフロアに用がある。案内を頼めるか?」

 ブレンダたちがステージ上から示した先へ、仲間達が急行する。
「焦らないでくださーい! みなさんには被害が行かないようになってるし怪我しても私が治しまーす!!」
 その一方で茄子子は一般客に対する避難誘導をしながらクェーサーアナライズや天使の歌を行使していた。
「VIPエリアへは皆で行って。私はここで避難誘導を続けるから」
 そんな彼女も例外なく襲いかかる警備員達。
 ステラは間に割り込み、幻夢ノーデンスを呼び出した。精霊は白い大型犬の姿をとると警備員の喉笛へと噛みついていく。
「では、ここは任せます。ココノさんもこちらへ」
 ステラに案内され、ココノは余裕そうにVIPルームへの下り階段へと歩いて行った。
 途中それを止めようと組み付いてきた相手を肘で相手の顎を打つという動作だけでねじきり、撃退する。
「あ、もしかして避難誘導とかしない方が良かった? ごめんね、私“良い子”だからね!!」
 その背に茄子子が声をかけるが、ココノは別になんともないという風に手を振るだけで応えていた。
「おい、お前ら! そこへは入るな!」
 拳銃を構えて叫ぶ男がいる。
 ココノが隣を歩いていたリリーに『あれをやれ』というジェスチャーをすると、リリーはバールを持って振り返った。
「ギルティ……」
 持っていたバールを思い切り投げつけ、男を物理的に沈黙させる。
「やっぱりパリピは五月蝿いよねぇ……ココノっち?」
「フウ」
 ココノは取り出した煙草をくわえて火をつけると、けだるそうに煙を吐きながら階段を下り始める。
「本当。五月蝿いんですよ」

●スピークイージー
 茄子子を上階に残し、ブレンダたちはVIPルームへ続く階段を下りていった。
 途中邪魔する男が現れたが、それを階段から蹴り落とすことでダイナミックにエントリーする。
 すると、入ってすぐのフロアでは『ワールドシェイカー』の過剰摂取でトリップした者たちが幸せそうにしていた。
 場を監視する役目のドレッドヘアの巨漢がブレンダたちに振り返り、メリケンサックを手にはめ込む。
 殴りかかるそれを片手で受け止め、ブレンダは男をテーブルめがけて蹴り飛ばした。
 倒れるテーブル。まき散らされるワールドシェイカーの錠剤。錯乱した中毒者がブレンダの脚にしがみついて止めようとしたが、それを強引に払いのけた。
「薬に溺れた者を救ってやるほど善人ではないのだ。加減はできん」
「こうすれば、だいたい物理的に黙るっしょ……」
 あとからやってきたリリーが地面めがけてヤドカリハンドを叩きつけ、波紋のように広がった衝撃が中毒者たちを一斉に吹き飛ばす。
 一方でゼファーたちはフロアの奥をめざし、ナイフを手に襲いかかる警備員の手首を掴み、強引に壁に押しつけ首の付け根に親指をついた。
「畜生には暴力が一番、命乞いには素直が一番。
 で、プラントはどのお部屋?」
「うるせえ」
 抵抗する男が逃れようとすると、リリィがその額に銃をゴリッと音が鳴るほどに突きつけた。
「サプライズ! チャンバラショーだ! 観客はお席へどうぞ!」
 周囲の客や他の警備員へ振り返りながら叫ぶと、ゼファーに顎を動かして『続きをどうぞ』のジェスチャーをした。
「ヒーローインタビュー。今のお気持ちは?」
 ゼファーは相手から奪ったバタフライナイフを片手で器用に開閉してみせると、握力で強引に開いた相手の口にスッと差し込んだ。

 ステラはゼファーたちが絞り出したルートをもとにスチール製のドアを蹴破った。
 けしかけたノーデンスが白衣姿の男の腕に食らいつき、その場へ強引に組みふせる。
「このしょうもない薬はどちらで作っているかご存じ?」
 尋ねはしたが、周囲の機材を見れば一目瞭然。どうやこの四畳半のスペースが『薬品生産工場』であるらしい。
 あくまで抵抗しようとする男を見下ろし、首を振る。
「治療を望むなら患者として扱いますが、そうでなければ依頼の障害です」

 混沌世界の医療技術に詳しいステラの話によると、ワールドシェイカーは魔術性の幻覚剤であり脳機能を破壊する副作用を持つという。
 かなりの長期間この手の薬に触れさせず健康的に過ごさせれば症状の自然回復が見込まれるが、高い中毒性のせいで多くが酷い錯乱状態を引き起こすという。
 特効薬が無いというのが、この薬品の厄介な所であり、同時に金になる所だった。

 そして一方、金庫室。
 多くの金が納められた大型金庫とスチールデスク。
 そのデスクに、上等なスーツを着た男がトキノエによって組み伏せられていた。
「入った途端撃ちやがって、痛えだろうが! あ!?」
 肩からは血を流していたが、どうやら怒りのほうが勝っているらしい。
「金庫の番号は」
「くたばれ」
 中指を立てる男。ココノはその指を握って『えいっ☆』と言いながら逆向きに力を入れた。
 あがる悲鳴。
 やがてか細くつぶやいた番号をライに告げると、ライは金庫を開いて『泡の書』の断片を取り出した。
 差し出したそれをココノが掴もうとした寸前でスイッと高く上げてかわし、ライはいつもの清らかな笑顔を作った。
「で、この薬と魔術書、このあとどうするんです?」
「『世の中の平和の為に、麻薬なんて根絶するに決まってるじゃないですか~☆ きゃぴきゃぴ☆』」
 煙草をくわえたまま、ひどい棒読みで応えるココノ。
「『ええ、ええ、それはとても素晴らしい行いですね』」
 目を大きく見開いて返すライ。
 差し出したココノの手に『泡の書』を置くと、ごく小さく舌打ちした。
 呪いの如く強固な彼女の仮面を、どうやらココノは剥がせるらしい。
 逆にココノの嘘でできた仮面を、ライは剥がすことができるらしかった。
「これからも仲良くしましょうね~☆」
「ええ、もちろん」
 二人は笑い合い、背中の後ろで中指を立て合った。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――『泡の書』断片が玉串神道会へ渡りました

 現在の断片所有数
 玉串神道会:2
 鮫島組:2
 コアストックカルト:4
 その他:2

PAGETOPPAGEBOTTOM