シナリオ詳細
新生“ワイルド・ブッチ盗賊団”。或いは、悪党どもの悪だくみ…。
オープニング
●荒野に住まう盗賊たち
ラサ近郊。
とある荒野の洞窟で、たき火を囲む男女が数名。
「さて。面子も揃ったし、さっそく本題に取りかかろうか」
手にしたスキットルに口を付けつつ、痩身の男がそう言った。
一見して特徴の見当たらない男であり、たとえば街ですれ違ったとしてもきっと10人中10人は彼の顔を覚えきれないことだろう。
意図的なものか、服装や装飾さえ印象に残らないよう注意を払っているようだ。
「聞いただろう? カルミネ盗賊団が壊滅したという話だが、どうやら真実のようだ」
酒精の混じった吐息。それはため息だっただろうか。
「幸いなことに俺は孤独な悪党なんでな。しばらく身を潜めるか、他所と同盟を組むつもりだが……お前ら、どうする?」
痩身の男……名を“カルベラ”という……は、残る3名の男女へ視線を向けてそう問うた。
そのうち1人、毛皮のコートを纏った巨漢は顎に手を当てて、ふむ、と僅かに思案する。
「仲間の意見次第だが、うちは活動を続けるだろうぜ。“ワイルド・ブッチ”の機動力と戦力なら、そうそう捕まることもねぇしよ」
「まぁ、ブッチのところはそうかもな」
「おぉ。いざとなりゃ、俺が盾になってでも仲間たちは逃がしてみせるさ」
そう言って、ブッチと呼ばれた巨漢の男は自身の背後へ視線を向けた。
そこに置かれていたそれは、おそらく刀剣なのだろう。
全長は2メートルに届かないほどか。刀剣としては間違いなく規格外のサイズ。
外見もまるで鉄板のようだ。
「その図体と得物じゃぁね。こいつ連れたままだと、逃げ足も鈍くなるでしょうしね」
「えぇ、まったく。弾除けとしてはとても役に立ちそうですけど」
くすくすと笑うのは2人の女性だ。
肩まで伸ばした金の髪を持つ彼女たちの顔はうり二つ。それもそのはず“アン・バゼット”と“メアリー・バゼット”は双子の姉妹であった。
「まぁ、頭ぁ張るってのはそういうことよ。んで、お前らはどうすんだよ? たしか今は“荒地の旅団”に軒借りてんだろ?」
「それなんだけどね、頭たちは仕事で出てんのさ」
「私たちはお留守番中です。なので、今のうちに一切合切いただいて、どこかへ逃げてしまおうかな、と」
バゼット姉妹の言葉を聞いたカルベラは「性悪どもめ」と呟いた。
けれど彼とて姉妹の悪癖は十全に承知しているし、実際に手を組んで仕事をしたこともある仲だ。
要するに性格はともかくとして、その実力は確かなものと認めているのだ。
「って言うかよぉ」
と、短く刈った髪を掻きブッチは順にカルベラたちの顔を見回す。
「カルミネ盗賊団が壊滅したってんなら、この荒野で一番強ぇのはうちだろ? お前ら、うちに来たらどうだよ? うちの馬車なら、そこらの穴蔵で隠れ住むより安心して眠れるぜ?」
なんて、言って。
生来の親分気質が顔を覗かせたのだろう。
古くから馴染みの“悪友”たちを、ブッチは自身の団に誘った。
「何なら勢いに乗って荒野を支配しちまうか? あのガキ……プティとか言ったか? 実はよ、壊滅したカルミネのアジトから、そいつの描いた荒野の地図を手に入れたのさ」
広大かつ危険な荒野に、ほんの幾つかだけある安全ルート。
それさえあれば、たとえ荒野がいかに危険だとしても、まるで自分の庭のように駆け回ることが可能となる。
そうなってしまえば危険はもはや危険にあらず。
「ついでによ、そのガキも見つけて捕まえちまうか? カルミネにゃ過ぎたお宝だったが、俺らなら上手く使えるだろう?」
そう言ってブッチはプティの捕縛を提案した。
もしもそんなことになってしまえば、荒野そのものが、彼らにとっての天然の要塞と化すだろう。
●過酷な荒野の生存戦略
「あぁ、またしてもサンドベージュ……もっと鮮やかな色を楽しみたいものと、貴方もそうは思わない?」
「あ? あぁ……いや、どうだろうな。俺ぁ別に荒野だろうが砂漠だろうが気になんねぇが」
独特の感性を遺憾なく発揮する『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)。その問いに、グドルフ・ボイデル(p3p000694)は曖昧な言葉を返す。
片や美貌の情報屋。片や粗野な山賊と、あまりにも不似合いな組み合わせ。
とはいえ仕事柄顔を合わせる機会も多く、至って平然と2人は言葉を交わすのだった。
「蛇の道は蛇、とも言うでしょう? 件の荒野はとても危険なところなの。安全なルートを知らない者が立ち入れば、二度と生きては出られない、なんて噂される程度には」
それゆえ荒野は盗賊たちにとって絶好の隠れ場所となっている。
いかに無数の追っ手を放たれたとしても、ひとたび荒野へ逃げ込めばまず捕まることはなくなるのだから。
なにしろ追っ手たちの多くは、件の噂に恐れをなして盗賊たちを深追いすることがないのだ。
「まぁ、危険だわな、そりゃ。荒野ってくらいだ、荒れてんのさ。生物が禄に暮らせないほどにな」
グドルフは眉間に皺を寄せ、うんざりしたようにため息を零す。
それから、指を1つ2つと折りながら名前の挙がった盗賊たちについて語った。
「カルベラにブッチ、バゼット姉妹……どいつもこいつも聞いた名だな。人数こそ大したことはねぇが、揃いも揃ってすこぶる付きの大悪党だぜ」
「えぇ、そのようね。それらが一同に介し、手を組んだとなれば……」
「厄介ごとの芽は早い内に摘んでおこうってか? ま、悪くねぇ考えだわな」
そこで召集されたのがグドルフというわけだ。
山賊である彼ならば、件の悪党たちについて知っていてもおかしくはない。
「カルベラって野郎はキレ者さ。裏切りを恐れて滅多に他人とつるむことはねぇが、その凡庸な外見を活かしてあっちこっちで仕事をしてやがる」
「そのようね。偽名に変装、だまし討ち、詐欺もやっているのね。あぁ、それに【猛毒】を使った暗殺も?」
「そりゃ初耳だが、まぁやっててもおかしくはねぇやな。楽して奪えるなら、それが一番だと思ってんのさ。んで、次だが……」
次にグドルフはバゼット姉妹の名をあげる。
双子の姉妹であり、両者とも拳銃を武器として扱うという。
「後方支援と言えば聞こえはいいが、要するに安全圏から出たがらねぇってことだ」
「大規模な盗賊団に加入することで身の安全を保っているのね」
「つっても、そいつら自身の銃の腕も大したもんだって聞くぜ? 求めてんのは、肉の盾になってくれる人員さ」
そんな彼女たちが、今回のヤサとしたのがブッチ率いる“ワイルド・ブッチ盗賊団”だ。ブッチを含めて6名と人数こそ少ないが、戦闘力は大規模な盗賊団に引けを取らないという話だ。
「鋼鉄装甲の大型馬車にガトリング。馬車を引く馬は疲れ知らずのゴーレム……ブッチの怪力とタフネスにも要注意でしょうね」
ブッチの武器は鉄板のような大剣だ。
彼はそれを軽々と振り回すのだと言う。付与される効果としては【防無】【飛】【ブレイク】といったところだろうか。
「"ワイルド・ブッチ盗賊団"は荒野を移動中よ。目的地は"荒地の旅団"のアジトね。それと、荒野は見晴らしが良いため、移動中にしかけるのなら不意打ちなどは難しいと考えてちょうだい」
それから、とプルーは懐から1枚の紙を取り出した。
そこには荒野近くの街の地図と「譲:荷馬車1台」の文字が記されている。
「今回の任務にあたって廃棄予定の荷馬車が1台用意されているわ。それと荷馬車を引く老馬が1頭。この老馬、元々は"荒地の旅団"の馬だったのですって」
- 新生“ワイルド・ブッチ盗賊団”。或いは、悪党どもの悪だくみ…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年10月30日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●荒野を駆けろ
ラサ近郊。
とある荒野を駆け抜ける、鋼鉄の馬車が1台あった。
馬車に乗るは、集った数名の悪党たち。
巨漢の盗賊・ブッチを頭目とする"ワイルド・ブッチ盗賊団"である。
そして、その後方。
2台の馬車が、ワイルド・ブッチ盗賊団を追っていた。
老いた馬が加速する。
手綱を握る『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)は荷台に乗った仲間たちへ向け、声を視線を送った。
「接敵するぞ。長くは持たないが、重量だけならこちらが軽い」
「うん。私の馬車が盾になるわね」
そう言葉を返し『おやすみなさい』ラヴ イズ ……(p3p007812)が自前の馬車の進路を変える。
「いやあ、こりゃハーレムたあ気分がいいね。おれさま張り切っちまうぜえ? ゲハハハハハ!!」
吹き付ける乾いた風を一身に浴びる『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)は、高らかな笑い声を荒野に響かせた。
遮るものの無い荒野。
2台の馬車の接近は、既に盗賊たちに補足されていることだろう。
鋼鉄の馬車の荷台から、拳銃を構えた2人の女性が顔を覗かせた。
彼女たちの名はアン・バゼットとメアリー・バゼット。拳銃使いの盗賊姉妹だ。
「このような輩を放置しても百害あって一利なし。斬り捨ててやりましょう」
「名の知れた盗賊が4人に団員が数名っと……結構な稼ぎになりそうだね~」
馬車の荷台で『放浪の剣士?』蓮杖 綾姫(p3p008658)が剣を構える。一方『流離人』ラムダ・アイリス(p3p008609)はバイク“ファブニール”のスロットを開けエンジンの回転を速くした。
鋼鉄の馬車から撃ち込まれた銃弾を、ラムダの操る蛇腹剣が弾く。
ラヴの操る馬車が射線を塞いだ隙に、ラダは老馬に鞭を打ち馬車の進路を大きく変えた。
「それじゃ、今日もお仕事頑張りましょう」
桐神 きり(p3p007718)がそう告げて、腰に下げた刀を抜く。
直後、激しい音と衝撃。
馬車と馬車が接触し、絡んだ車輪が砕け散る。
老馬の牽くボロ馬車と、ゴーレムの牽く鋼鉄馬車では、当然ながら強度が天と地ほども違う。ボロ馬車の車輪が砕け散ったのに対し、鋼鉄馬車は車体が幾らか跳ねて終わった。
その拍子に、荷台から投げ出されたバゼット姉妹が地面に落ちる。
脱落した仲間を救出するため、鋼鉄馬車が急停車したのはイレギュラーズにとって僥倖であった。
「へぇ……銃が得意なんだ? 奇遇だね!」
バゼット姉妹の目の前に『清楚にして不埒』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)が降り立った。悪戯っぽい笑みを浮かべて、両手の剣をくるりと回す。
「やるよ……メアリー!」
「分かってますわ!」
地面に倒れた体制のまま、バゼット姉妹は拳銃の引き金を引く。火薬の爆ぜる音が響いて、発射された弾丸は、けれどミルヴィを射貫くことなく地面に落ちた。
「アタシも銃の相手は得意なのサ!」
くるり、と。
踊るように体を捻る動作に乗せた斬撃が、2発の弾丸を斬り捨てたのだ。
ミルヴィとバゼット姉妹が交戦を開始したころ、鋼鉄馬車の荷台ではカルベラとブッチが言い争いを始めていた。
「ブッチ! バゼットたちはダメだ! 馬車を発進させろ!」
「そうはいかん。仲間を捨てて逃げるってのか?」
「連中、なかなか“使う”ぞ! 万が一ってこともある。この場は逃げるべきだろうが!」
どうやら、カルベラとブッチの意見が対立しているようだ。
「このっ……話にならねぇ。おい、御者を変われ!」
言い争う時間も無駄と、ブッチを無視しカルベラは御者席へと駆ける。
ここまで御者を務めていたブッチの部下を押しのけて、カルベラは馬の手綱を握った。
そんな彼の頭上に影が降りかかる。
「は?」
カルベラの眼前、馬車の前に立つそれは、筋骨隆々とした巨躯の女だ。
赤く燃えるような髪に、長く伸びた2本の牛角。
「よぉ、出てきたな。覚悟はいいか? 盗賊団なんてやってる奴らはキレイサッパリ掃除して、ラサのゴミを減らしてやるぜ」
バッファローの特徴を備えた獣種の戦士……名を『暴風』ルウ・ジャガーノート(p3p000937)と言う。
●悪党たちの抵抗
カルベラの頭上を飛び越えて、毛皮を纏った巨漢が跳んだ。
その手に握る巨大な剣を大上段に振り上げて、ルウに目掛けて斬りかかる。
ブッチの大剣がルウの頭部を割る直前……。
「っと、待ちな! てめぇの相手はおれさまよ!」
間に割り込んだグドルフが、大剣を受け止めてみせた。
頭上に構えた斧と山賊刀が、ミシと軋んだ音を鳴らす。
「ハッ……名だたる悪党どもっても、どいつもこいつもおれさま以下。所詮、カスが群れてもカスってことを教えてやるぜぇ!」
「そう簡単に捕まるような柔な団じゃねぇのよ、うちはよ!」
叫び返すなりブッチは大剣を再度頭上へ振り上げる。
がら空きになった巨漢の胴へグドルフは山賊刀を叩きつける。しかし、それより早くグフドルフの腹部にブッチの蹴りが叩き込まれた。
数歩よろめくグドルフへ向け、ブッチは大剣を叩きつける。その切っ先がグドルフの胸部を深く抉った。
「おい、カルベラ! 部下どもを纏めて、連中に逃げる準備を整えときな!」
御者台に座るカルベラへ向けブッチが叫ぶ。
「ハッ! 逃がしゃしねぇよ!」
胸部の傷を【ライトヒール】で治療して、グドルフは地面を蹴って駆けだした。
ブッチの大剣とグドルフの斧が衝突。轟音と火花を散らした、その直後……にやりと笑ったグドルフは、ブッチに向けて酒臭い息を吹き付けた。
ブッチとグドルフの激闘を他所に、指揮を任されたカルベラは5名の盗賊へ向け矢継ぎ早に指示を出す。
カルベラの指示に従い1人が御者台へ。2人が荷台の屋根上にガトリングを出し、さらに2人がその両脇を護衛する。
「たらふく喰らわせてやるぜ。ワイルド・ブッチのガトリングをよ!」
ブッチの指示の元、改造を繰り返し威力をあげたガトリング砲だ。鋼鉄の装甲馬車でもなければ、射撃の反動で車体が砕けかねないほどだと盗賊たちはその威力を評価している。
ガトリングの銃口が向いた先は、ゴーレム馬を抑えるルウであった。
まずは走行を阻む彼女から始末しようという心算なのだろう。
けれど、しかし……。
「ひとつ、ふたつ……」
静かな声と、鳴る銃声。
ガトリングのトリガーに指を駆けた盗賊が、悲鳴を上げて仰け反った。見ればその肩からは赤い血が溢れだしている。
「あ? 何……が」
果たして、彼女はいつからそこに居たのだろうか。
ガトリング砲を構えた盗賊たちのすぐ背後、金の髪の少女が立っているではないか。
盗賊のうち2人が少女……ラヴへ向けて剣や斧を突き付ける。
眼前に迫る刃を前に、ラヴは淡々と表情ひとつも変えずに告げた。
静かに、まるで歌うかのようにきれいな声で。
「――夜を召しませ」
その一言が盗賊たちの耳に届いた瞬間、彼らの視界に異変が起きた。
晴れていた青空は、夜の闇に包まれた。
厚い雲に覆われた夜空。今にも落ちてきそうなほどに……それは黒く、不気味な気配を漂わせる。
「てめぇ、何をしやがった!」
盗賊の剣がラヴの胸を抉る……その直前。
カキン、と。
金属のぶつかつ音がして、剣の先がへし折れた。
「諦めなって。ほら、大人しく縛につくか……それとも野に屍さらすか選んでいいよ?」
そう告げたのはラムダであった。
その手に握った蛇腹の剣が、意思を持つかのように地面をのたうつ。
盗賊の剣をへし折ったのも、彼女であろう。
「ちっ。そいつらを先に片付けろ!」
馬車の中からカルベラが叫ぶ。
彼の指示に従って、盗賊のうち3名がラヴへ向かって斬りかかる。
残る1人はガトリングをラムダへと向け、躊躇なくそのトリガーを引いた。
轟音と地響き。
熱された薬莢が宙を舞う。
降り注ぐ鉛玉の雨を掻い潜り、ラムダは自身のバイクへ走った。
飛び乗ると同時にスロットを開け急発進。その後方を鉛の雨が追いすがる。
ガトリングの狙いはラムダにだけ向いていた。
つまり……。
「任せたよ」
ちら、とラムダは視線を遠くへと向ける。
そこに居たのは、担ぐように剣を構えた綾姫であった。
「私は単独で幹部に相対するには向きませんが……」
そう呟いて綾姫は、剣に魔力を纏わせる。
景色が歪んで見えるほどに濃密かつ、膨大な量の魔力であった。凝縮され、剣に纏わりつくそれは、解き放たれるその瞬間を今か今かと待ちわびているのだ。
「一刀のもとにぶった斬りましょう」
綾姫が刀を振り下ろすとともに、纏った魔力が解き放たれた。
深く地面を切り裂きながら、放たれた魔力は馬車へ向けて疾駆する。
綾姫の放った魔砲が馬車に命中。鋼の車体に深く鋭い傷を刻んだ。
しかし馬車は壊れない。鋼の装甲は予想以上に分厚いようだ。
「ならば」
1撃でダメなら、2撃、3撃と叩き込んでやればいい。
そう考えて刀を担いだ綾姫は、けれどそこで手を止める。
トス、と。
彼女の胸に、ナイフが1本突き刺さった。
「か……は」
唇の端から血が零れる。
背後を見やった綾姫に向け彼は……カルベラは「やぁ」と軽く手を挙げてみせた。
「たんと味わってくれ。俺がブレンドした猛毒をな……そいつを喰らえば、貴族も戦士も、皆コロッと逝っちまうんだぜ?」
なんて、言って。
2本のナイフを両手に構え、カルベラはくっくと笑ってみせた。
バゼット姉妹の放った弾がきりの腹部を撃ち抜いた。
地面に倒れたきりを庇って、ミルヴィが剣を一閃させる。
弾かれた弾丸が地面を抉った。立ち昇る土埃にむせながら、きりはよろりと身を起こす。
そんなきりの視界に映るは、幾分離れた位置でカルベラと斬り合う綾姫の姿。
「あいつは確か……」
カルベラ。
今回のターゲットたちの中で、彼だけは単独行動を旨とすると聞いていた。
これまで多くの盗賊団に所属し、そして裏切ってきたという経歴を持つ男である。
「あいつ……絶対逃げると思うんですよねー、下手したら前で戦ってる人たちを捨て駒にしてでも」
「そう思うなら行って来たら?」
きりの呟きに、ミルヴィは笑ってそう返す。
「うん。そうします」
自身に【AKA】を付与したきりは、刀を構えて駆けだした。
あっという間にカルベラたちの元へと迫り、抜刀の要領で飛ぶ斬撃を解き放つ。
地面を切り裂き駆ける斬撃を回避するため、カルベラは宙にその痩身を躍らせた。
下半身を馬に変え、ラダが荒野を疾駆する。
「くっ、メアリー! もっと狙って!」
「アンこそ、1発も当たっていないわよ!」
距離が離れていることもあり、2人の銃弾はなかなかラダに当たらない。
距離を詰めるべく移動をしようと駆けだせば、すぐさまその眼前にミルヴィが駆けこむ。
「なるべく殺したくはないからサっ」
振り上げられた2本の剣を、バゼット姉妹は咄嗟に回避。
反撃とばかりにミルヴィの眉間目掛けて銃弾を撃ち込む。地面を転がるようにして、ミルヴィは姉妹の銃撃を回避。
その肩と脇を2発の弾丸が掠めた。
血の雫を散らしながら、ミルヴィは跳ねるように立ち上がる。地面を蹴って、姉妹の懐へと潜り込む。
「メアリー、ばらけるよ!」
「えぇ」
アンの指示に従い、2人は左右へと展開。振り抜かれたミルヴィの剣が、アンの背を浅く切り裂いた。
姿勢を崩しながらも、アンは拳銃の銃口をミルヴィへと向ける。
その指が引き金を絞る、その直前……。
アンの肘を、1発の弾丸が撃ち抜いた。
「いい腕だ。胆力もある。安全圏から撃つのは射手の基本だからな」
そう呟いてラダはライフルの狙いをメアリーへと移す。
浅い呼吸を繰り返し……狙いを定めるとともに、ピタリと息を止めた。
1秒。
沈黙の後、そっと引かれた引き金が薬莢を叩く。
火薬の爆ぜる音が響いて、射出された弾丸がメアリーの脚を撃ち抜いた。
「性格は別として、姉妹の立ち回りを卑怯とは言わないよ」
高速の射撃と、正確な狙いは確かに厄介だっただろう。
けれど、ミルヴィに注目している今この瞬間であるのなら。
姉妹の命を奪わず手足を撃ち抜く程度、ラダにとってはひどく容易い行為であった。
グドルフとブッチの額が激しくぶつかる。
肉薄した状態での殴り合い。目つぶし、金的、頭突きにタックル。何でもありの泥仕合。
潰れた鼻から血を噴きながら、ブッチは御者台の部下に叫んだ。
「おい! 俺は鎌わねぇからよ、他の奴を拾って逃げろ!」
「んなこと言ったって、頭……この女、かなりの怪力ですぜ!」
ゴーレム馬に鞭を打ち、御者台の乗る盗賊は悲鳴のような叫びをあげた。
地面を削り、駆けようとするゴーレム馬の頭部を掴み、ルウは呵々と笑って見せる。
「おぉ! なかなかの馬力だが、俺のパワーには及ばねぇな!」
腰を落とし、ゴーレム馬の額に角を突き付ける。
ルウの身体が一回りほど大きくなったと、御者の盗賊はそう錯覚した。
否、それは錯覚などではない……。
パンプアップした背筋が、ルウの身体をより巨大に見せたのだ。
そして……。
「おぉおおお!!」
怒号と共にルウが駆けだす。
肉薄状態から行使された猛牛の突進は、ゴーレム馬の額を割った。
蹄が砕け、脚が折れ。
そしてついに、ゴーレム馬は砕け散る。
●悪には悪の
横転した装甲馬車。
その周囲に倒れる4人の盗賊たちに向け、ラムダはにこりと笑みを向けた。
「全員生け捕りに成功だね。お財布が潤ってラッキー」
蛇腹の剣を鞘に閉まって、ラムダはくっくと肩を揺らす。
そんなラムダを一瞥し、ラヴは静かに「おやすみなさい」と呟いた。
乾いた風が、彼女の長い髪を揺らした。
揺れる髪の間から、ミルヴィの相棒……ネズミのカットがそっと顔を覗かせる。
アンの喉元に剣を突き付ける。
そうしてミルヴィは、地面に倒れたメアリーへと視線を向けた。
「できれば殺したくはないし、アンタみたいのでも姉妹同士は大切に想い合ってるならさ……やっぱり大切な人を失う痛みは味わって欲しくはないのよね」
冷たい眼差しを向けられて、メアリーは僅かに逡巡した。
けれど、すぐに溜め息を零して拳銃を遠くへと投げる。
「うん。それでいいよ」
アンの喉から剣を離して、ミルヴィはにこりと笑って見せる。
姉妹の降伏を確認し、ラダは静かにライフルを下した。
そして彼女は、視線を背後へと向ける。
「残すはブッチとカルベラだけか……身内であれば頼もしいが、敵だと厄介でしかないな」
ラダの見つめるその先では、ブットとグドルフが激しく殴り合っていた。
グドルフの拳がブッチの頬に突き刺さる。
ブッチの拳が、グドルフの顎を打ち抜いた。
全身を刻まれたカルベラは、血だまりの中に倒れ伏す。
その様子を見下ろすきりと綾姫を無視し、カルベラは地面に爪を突き立てた。
「この状況から、まだ逃げるつもりですか?」
頬を流れる血を拭いつつ、きりはカルベラへとそう問うた。
「その怪我では無理でしょう。馬車も横転していますし……重さ的に復帰も難しいのでは?」
万が一に備え、綾姫は剣に手を添える。
2人の問いに応えないまま、カルベラはただ地面を這った。
血の跡を地面に残しながら、土に塗れて。
「ぐ……」
呻き声を一つあげ。
カルベラの伸ばした腕が地に落ちた。
意識を失うカルベラの視線の先には、ルウを相手に暴れ回るブッチの姿。
果たして、彼は逃げるために地面を這っていたのか、それとも……。
仲間たちは全員捕まってしまったようだ。
自慢の馬車も横転し、ゴーレム馬は砕かれた。
振り下ろした大剣が、ルウの胸部を深く抉る。
衝撃でルウの手から剣が落ちた。
追撃を放つべく、血塗れの手で剣を頭上へと掲げ……。
バキ、と激しい音を鳴らしてブッチの大剣はへし折れた。
「げははは……ついに剣も折れちまったな。よぉ、どうだい。グドルフ山賊団の傘下になるなら命だけは許してやってもいいぜ?」
そういって笑うグドルフの顔は血塗れだった。
見れば腹部にも深い裂傷を負っている。
「ざけんな。俺がお前ら全員ぶっ飛ばして、仲間ぁ助けりゃいいだけだ。それに剣がなくとも、拳があらぁな」
折れた剣を放り投げ、ブッチは拳を構えてみせる。
「そうかよ。じゃあ死ね。ここで死ね。てめえらみてえなカスども、使えもしねえや。砂に埋もれて死にやがれ」
ブッチとグドルフの視線が交差し、どちらともなく笑い始める。
ブッチの覚悟に思うところがあったのだろう。
「引導は俺が渡してやるよ。パワー比べとしゃれこもうじゃねえか!」
腰を落とし、地面に拳を押し付けながらルウは叫んだ。
地面を蹴って駆ける彼女を迎え撃つべく、ブッチは構えた拳を放つ。
ブッチの拳がルウのこめかみを打ち抜いて。
ルウの角が、ブッチの胸部に突き刺さる。
「あぁ……ちくしょう」
脳を揺らされたのだろう。
地面に膝を突くルウを見下ろしながら、ブッチは血を吐きそう呟いた。
その瞳には既に命の光はない。
最後まで倒れることなく、ブッチは静かに息絶えた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様です。
ブッチ、カルベラは死亡。
バゼット姉妹、及び5名の盗賊たちは捕縛されました。
依頼は成功となります。
この度はご参加ありがとうございました。
皆さまの活躍により、ラサ近郊がほんの少しだけ平和になりました。
それでは、また、機会があれば別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
こちらは「フフとプティと盗賊団。或いは、広い荒野を馬車に揺られて…。」のアフターアクションシナリオとなります。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/3965
●ミッション
"ワイルド・ブッチ盗賊団"の壊滅
●ターゲット
・カルベラ
特徴のない黒服の男性。
存在感が薄く、また頭が良くキレる模様。
武器としてナイフを使用する。
暗殺者の刃:物近範に中ダメージ、猛毒
・アン・バゼット&メアリー・バゼット
双子の姉妹。
姉妹揃ってあまり良い性格はしていない模様。
武器として拳銃を使用する。
援護射撃:神遠貫に中ダメージ
・ブッチ
毛皮のコートをまとった巨漢。
気性は荒いが生来の性格か面倒見が良い。
鉄板のような大剣を武器として使用する。
獣染みた一撃:物至単に大ダメージ、防無、飛、ブレイク
・"ワイルド・ブッチ盗賊団"団員×5
ブッチの部下たち。
各々剣や斧を所持しているが、もっぱらの役目は馬車やガトリングの操縦となる。
ガトリング掃射:物中範に中ダメージ
●フィールド
天気は快晴。
雲ひとつない荒野。
ターゲットは馬車で"荒地の旅団"のアジトへ向け移動中。
荒野に遮蔽物などはなく見晴らしは良い。
また""のアジトの詳細は不明。
おそらく岸壁をくりぬいて作った洞窟か、半分ほどが地下に埋もれる形状の家屋と思われる。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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