PandoraPartyProject

シナリオ詳細

デジタルサキュバスの逆襲

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●デジタル世界に夢魔は潜んで
 デジタルサキュバス、と言う夜妖をご存じだろうか。
 その名の通り、データ空間上に誕生した夢魔の類であり、二次元のキャラクターなどの容姿を借り、パソコンやaPhoneなどから被害者に接触。誘惑、洗脳し、生命エネルギーを吸収し殺してしまうという――。
 さて、ここは希望ヶ浜学園、保健室。養護教諭のシルキィ(p3p008115)は、デスクの上に並べられた学園生徒の写真とにらめっこをしていた。男女・学年を問わずに並ぶその顔写真。共通点は一見見受けられないかったが、実はその全員が、ここ一月ほどの間に突如として衰弱し、入院することとなった生徒たちである。
「シルキィさん!」
 ばたん、と保健室の扉が開かれる。慌てた様子で入ってきたのは巡理 リイン(p3p000831)で、その手にはaPhoneが握られていた。
「っとと、学園だとシルキィ先生だっけ。って、それは置いておいて、また! また被害者が!」
 見せつけるように差し出されたaPhoneの画面には、後頭部三年の少女の姿が映っていた。机に突っ伏し、蒼白い顔で倒れる少女の姿に、シルキィは瞳を伏せる。
「やっぱり、被害者は……」
「うん、星観ランに襲われたって!」
 星観ランとは、aPhoneにインストールできる、コンシェルジュアプリのキャラクターである。コンシェルジュアプリとは、使用者の入力に反応して端末内アプリ検索や音声応答を行う単純なAIアプリであるが、件のデジタルサキュバスは、そのキャラクター、星観ランの姿を借りて活動しているのだという。
 シルキィは、再び並べた顔写真に視線を移す。その全てが、入院する直前に「星観ランに襲われた」と残している――つまり、全員が、ここ一月ほどの間にデジタルサキュバス星観ランに襲われた被害者である、という事だ。
「でも、変、ですよね。全員、一命はとりとめている……」
 リインが小首をかしげる。デジタルサキュバスは、相手の全生命エネルギーを吸い取る危険な夜妖だ。ならば、ここにいる被害者が、命を失っていてもおかしくはない。にもかかわらず、全員が――生命エネルギーを吸われているとはいえ――無事である、という事の方が異常な事態であるのだ。
「――挑発、かもしれないねぇ」
 シルキィが言った。つまり、生存者を残し、意図的に自身の存在を匂わせているのだ――我々に。その目的は一つ。此方へ対する挑発、意趣返しだろう。
「二人とも、ここにいたか」
 がらり、と保健室の扉を開けて、入ってきたのは『練達の科学者』クロエ=クローズ(p3n000162)だ。彼女は分厚い資料を片手に抱いて、二人へと視線を移した。
「君たちの指摘通り、星観ランの警戒、そして被害にあった生徒たちの調査を行った……aPhoneの通信トラフィックを解析したりな。それで、分かったんだ」
 クロエがページをめくっていくと、そこには各被害者のaPhoneが、どこと接続してどのような通信を行ったか、と言った情報が記されている。そして最後には、それらの通信が、町はずれの元町工場とやり取りをしていたことが発覚したのだ。
「この町工場は随分前に潰れていて、インフラ設備も断絶しているはずだ……にも拘らず、これだけの通信量。それに、被害者の生徒たちが、ノートパソコンなどを持ち込んでいた、と言う目撃証言もある」
「なら、星観ランが潜伏しているのは、ここだねぇ」
 シルキィが、頷いた。恐らく、この町工場を拠点に、学園へ攻撃を仕掛けていたのだろう。
「でも、潜伏場所が分かったなら、此方から攻撃できる……だね」
 リインが言うのへ、二人は頷く。今度はこちらから、仕掛けるタイミングだ。
「改良したジャミング装置も持って行ってくれ。今度は、10分は持つようにバッテリーを改良した……君たちの戦闘中に、ジャミングが解除されることは無いだろう」
 クロエの手渡す小型のジャミング装置。デジタル生命体である星観ランは、いざという時、ネットワークに接続して逃げ出してしまう可能性がある。それを防ぐためにも、ネットワークを断絶させるジャミング装置は必須、という訳だ。
「くれぐれも気を付けてくれよ。これは、敵の罠に違いない……」
「わかってるよぉ。任せて。今度は絶対に、逃がさないからぁ」
 シルキィはにこりと笑った。そして、共に出撃する仲間達へと、連絡をつけることにした――。

 街外れの元町工場。薄暗いその工場の中には、無数のデータ端末が乱雑に積み上げられている。
 そのモニターの中から、青い髪の少女がはい出し、着地する――デジタル生命体ながら、生命エネルギーを吸収し、やがて実体を持つまでに成長したデジタルサキュバス――星観ランである。
「そろそろ、鈍いアイツらも気づいたかしら」
 ランが笑う。くすくすと――その笑い声は工場に反響し、しかしそれだけではない数の、くすくすとした笑い声が無数に響いていった。そして積み上げられたモニタに次々と、『星観ラン』の顔がうつっていく。
「あの時の屈辱……『私達』が、倍にして返してあげるわ」
 星観ランたちが笑う――夕暮れの町工場に、陰謀が渦巻いていた――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 此方はイレギュラーズ達による調査(アフターアクション)の結果、発生した依頼になります。

●成功条件
 星観ランの完全撃退

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●状況
 シルキィ(p3p008115)さん、そして巡理 リイン(p3p000831)さんらにより、デジタルサキュバス・星観ランと言う夜妖の調査が行われていました。そしてそれは実を結び、元町工場の廃墟に潜んでいることが発覚します。
 星観ランを放置していたは、生命エネルギーを吸われてしまう被害者が、ますます増えてしまうでしょう。今は、此方への挑発のために被害者は殺していませんが、その気まぐれもいつまで続くかわかりません。早いうちに討伐しておく必要があります。
 戦場となるのは、元町工場。戦闘を行うのに十分なスペースはありますが、少し薄暗く、見通しは悪いかもしれません。
 また、敵がどのような体勢でこちらを待ち構えているか、分かりません。
 データ通信の解析から、まるで星観ランが複数いるかのような通信量が発生していることは分っていますが……?
 
●エネミーデータ
 星観ラン ×1
 デジタルサキュバスと呼ばれる夜妖で、本来はデジタルデータ上の存在。これまでの吸収した生命エネルギーの総量から、おそらく実体化できるレベルまで強化されているでしょう。
 基本的に、神秘属性の中距離~遠距離攻撃スキルを行ってきます。
 以前、イレギュラーズ達はこのデジタルサキュバスと戦闘を行っています。その際発覚したスキルは以下の通り。

 ドミネイト・アイ
  神中単・魅了付与
 ファシネイト・キス
  神遠単・恍惚付与

 以前より成長しているため、スキルに変化、成長が発生してる可能性は否定できません。

 そのほか ×?
  居る可能性はあります。多数を相手にする用意もした方がいいでしょう。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

  • デジタルサキュバスの逆襲完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年11月05日 22時01分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

巡理 リイン(p3p000831)
円環の導手
アマリア オルコット(p3p005451)
宵闇の聖女
ラヴ イズ ……(p3p007812)
おやすみなさい
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
シルキィ(p3p008115)
繋ぐ者
秋野 雪見(p3p008507)
エンターテイナー
晋 飛(p3p008588)
倫理コード違反
溝隠 瑠璃(p3p009137)
ラド・バウD級闘士

リプレイ

●夜妖の巣へ
 ずん、と重い音を立てて、『朱の願い』晋 飛(p3p008588)の乗るAG――アームドギアと呼ばれる、いわゆる小型ロボットが膝をついた。それは、廃工場の入り口をふさぐ形で着座していて、
「ま、こんな図体でここで動くわけにもいかねぇしな……これだけデカい奴があれば、入り口から逃げようとはしねぇだろ。」
 と言う飛の言葉通りに、敵の逃走経路をふさぐのに一役買っている。
 イレギュラーズ達がやってきたのは、夕暮れの潰れた町工場の一つだ。デジタルサキュバス『星観ラン』を討伐するために、一同はこうして敵の本拠地へとやってきたのだ。
「やっぱり、この時間帯だと薄暗いね……明かりは任せて! りいんふらーっしゅ!」
 『円環の導手』巡理 リイン(p3p000831)が声をあげ、その身体を発光させる。薄暗い工場の中に光が照らされて、放置されたままの工場機械の類が見える。リインの活躍で明かりが照らされているとはいえ、決して油断はできない。一行は、息をひそめつつ、町工場の中を進んでいく。
「それで……話には聞いていたけれど。デジタル……サキュバス……デジタルって何?」
 銀河に打ち上げられて困惑する猫のような表情で、『ラド・バウD級闘士』溝隠 瑠璃(p3p009137)が首をかしげた。瑠璃はハーフサキュバスと言う出自であるらしく、同族とあれば多少は気になるものではあったが、それはそれとして、デジタルと言うのが理解できない様子であった。
「前に聞いた説明だと……そうだねぇ、人形に魂が宿ったようなもの、って考えれば良いって聞いたけど」
 『la mano di Dio』シルキィ(p3p008115)が、口元に人差し指を当てながら、思い起こす。そもそも、『星観ラン』はデジタルコンシェルジュアプリのキャラクター……俗な言い方をすれば二次元の創作キャラクターなのであるが、その機能に寄生した夜妖が、今回討伐するデジタルサキュバスである『星観ラン』という訳だ。
「希望ヶ浜的な言い方をすると、二次元サキュバスって感じなのかなぁ?」
 シルキィも、保険医として生徒と接するうちに、トウキョウの文化と言うモノに多少は理解が深まったようだ。
「あら……でも、気配はしっかりと感じます」
 『宵闇の聖女』アマリア オルコット(p3p005451)が言った。建物の奥から漂う、何らかの――おそらくは、星観ランの気配。それは、決して作り物ではなく、リアルに息づいているように感じる。アマリアもサキュバスと言う種族であったから、あるいは同族のような関係性である星観ランの気配を、強く感じられたのかもしれない。
「もしかして……現実を侵蝕するほどに、力を手に入れている……という事になるのでしょうか」
「前に逃がしちゃってから、ひと月くらいたっちゃったからね……」
 アマリアの言葉に、リインは苦虫をかみつぶしたような表情を見せた。その一月の間に、襲われ、生命エネルギーを吸われた希望ヶ浜の生徒たちの数は二桁にのぼる。敵は相当、力を蓄えているとみるべきだ。
「デジタル、と言うのは分らんが、実体を持っているのならば、話は簡単だな」
 『恐怖とは?』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)のいう通り――敵が肉体のようなものを得たというのならば、それは脅威でもあるし、同時にメリットでもある。俗な言い方をすれば、殴って倒せるようになった、のだ。
「そしてどうやら――ここが終着のようだ」
 ブレンダの言う通り――一行が到着したのは、無数のモニターやPC、aPhoneなどが、乱雑に、オブジェのように設置された場所であった。イレギュラーズ達の間に緊張が走る――それを見透かしたかのように、一斉にそれらのディスプレイが点灯した。
「ふふふ、いらっしゃい?」
 妖艶に――あるいは馬鹿にするように。そんな声が響き、ディスプレイ中に映るのは。
「星観ラン……か」
 飛が言うのへ、甲高い笑い声が響く。星観ラン、デジタルサキュバスは哄笑を響かせると、嘲るような視線をイレギュラーズ達へと向ける。
「まんまと挑発に乗ってくれたみたいね――」
 ばちん、と電気が走るような音を立てて、一瞬、ディスプレイが暗くなった。しかし次の瞬間、そこからエネルギーのようなものが湧き出て、それは瞬く間に人の形をとった。星観ランの形である。
「……やっぱり。実体化していたのね」
 『おやすみなさい』ラヴ イズ ……(p3p007812)が呟いた。その呟きを耳にして、星観ランは挑発の声をあげた。
「あなた達のおかげでね? だから、『皆で』お礼しなくちゃね!」
 再びディスプレイが点灯する。そこに映ったのは、無数の星観ランの姿だ。
「むむむ……気配が一気に増えたにゃ! 皆、気を付けるんだよ!」
 警戒を続けていた『ニャー!』秋野 雪見(p3p008507)から声が上がる。その言葉通りに、周囲に一斉に気配が膨れ上がった。気づけば、イレギュラーズ達を囲むように、子供サイズほどの星観ラン――コピーランたちが現れて、薄笑いを浮かべている。その数、総勢10体。
「やっぱり……情報通り。複数いたのね」
 ラヴが言うのへ、
「やはり一体ではなかったか……。まぁいい、増えたら増えた分だけ倒せばいいだけのことだ」
 ブレンダが呟き、ランは笑う。
「これだけのエネルギーがあれば、自分を増やす事なんて簡単なのよ……まだ生まれたてだけど、あなた達の相手をするには充分だわ」
「にゃー、舐められたものだね!」
 びっ、と指をさして、眉を吊り上げるのは雪見である。
「本来奇襲は私の十八番。それができないのも頭にくるにゃけど、私達を見くびっているのもあたまにくるよ!」
 叫び、武器を構える。合わせるように、仲間達もまた、各々武器を構えた。
「今度は逃がさないよ!」
 かちり、と、リインがジャミング装置の電源を入れる。一瞬、耳鳴りのような音がイレギュラーズ達にも聞こえて、それがジャミングの効果が発揮されたことの証左であることを伝えた。逃げ道を押さえられた形のランだが、しかしその表情から余裕は消えない。
「そんな小細工を使ったって、無駄よ!」
「どうかなぁ? 泣き言を言ったって、今度は逃がしてあげないからねぇ!」
 シルキィが挑発するように言う。応じるかのように、星観ランたちは一斉に構えた。
「どうやら、今回は取り付かれた一般人はいないみたいだな」
 飛が言うのへ、
「なら、思いっきりやれるな! 人に迷惑を掛けるサキュバスは赦しちゃ駄目だゾ! こういう奴を放置してるとサキュバス業界のイメージ低下により、サキュバスへの信用度が酷い事になるから!」
 瑠璃が答える。
「ふふ、そうですね。悪いサキュバスは、お仕置きしませんと」
 妖艶に笑うアマリア。相手は同族。しかも悪だ。遠慮する必要はない。ここで討伐せなばなるまい。
「それじゃあ、はじめましょう――夜を召しませ」
 ラヴが呟き、駆けだす。
 廃工場、その天井が突然はく離したかのような錯覚を覚えた。突如頭上に広がる夜空。それがさかしまに落下してくるという幻覚――巻き起こるは重圧と不安。アレを倒せという本能からの警告。
 それを植え付けられたランたちが、一斉にラヴへと視線を向ける。それが、戦いの合図だった。

●討伐せよ、デジタルサキュバス
「やりなさい、私の子供たち――まずは、あの小柄なのから!」
 ランが、コピーランたちへと指示を出す。目標は、自身に注意を引き付けた、ラヴだ。
 ランの眼は魔眼。捉えたものを決して離さぬ、魅了の魔眼である。
 眼がラヴを捉えた――そう思った瞬間、ラヴはぐっ、と身をひねった。躱した身体があった場所に、ばちり、と魔力がはじける音がする。
 回避したのだ、とコピーランが思う間ももなく、別のランがさらなる魔眼を撃ち放つ。
 ラヴが身を翻す――ばちん、と魔力がはじける。貌を反らす。魔力がはじける。
 まるで躍るかのような跳躍(ステップ)、回転(ステップ)、翻弄(ステップ)。目に見えぬ魔眼の軌跡を捉え、受け流す。
 その眼に混ぜられた、魅了の力は、ラヴには通用しない。
「だって。愛は、押し付けられるものではないから」
 ふわり、と着地。一礼。その所作が、さらにランの注意を引く――が。イレギュラーズはもちろん、ラヴだけではない。
「たぁぁっ!」
 敵の攻撃の隙をつき、リインがコピーランに斬りかかる。横なぎを喰らわせてからの、一気に切り上げるコンビネーション攻撃! コピーランが悲鳴を上げながら、消滅する!
「前より弱くなったんじゃないっ!?」
 にっこりと笑い、挑発の声。
「アンタは前より憎らしくなったっ!」
 ぎり、と歯をかみしめて悔しがるラン――一方、コピーランとイレギュラーズ達の戦いは続いている。
 ふわふわと漂う、魔力を帯びたキスマーク。コピーランから放たれた恍惚のそれが、イレギュラーズ達へと迫る――それを、ブレンダが一刀の下に切り捨てた。
「その程度で私達を魅了しようなど、舐められたものだな!」
 燃える焔を刀身に宿す刃、フランマ・デクステラ。荒れ狂う風をその刀身に纏う刃、ウェントゥス・シニストラ。二つの刃をその手に携え、ブレンダはコピーランへと接敵。
「魅了とは、こうするのだ」
 その言葉通り、目を奪うような鋭い斬撃が、コピーランを襲った! 二振りの斬撃を受けたコピーランは、耐え切れずにこの世から消滅する!
 その様子に、浮足立つコピーランたち――その一体の胸を、ライフルの銃弾が貫いた。ばじ、とはじける音を立てて、その身体がモザイクのようにブレるや、コピーランが消滅。
「本物のサキュバスの力と言うモノを、教えて差し上げますわ♪」
 にこり、と笑うアマリア。その手したライフルから硝煙が昇る。コピーランたちも、決死の反撃を行う。魔眼と魔の口づけ、二つの遠距離攻撃が、イレギュラーズへと降り注ぐが、イレギュラーズ達はそれを耐え、反撃に転ずる。
「やれやれ、魅了だの恍惚だの……ったく、お互いしっかりしようぜ!」
 飛は不利効果を打ち払う闘志の鎧を身にまとい、コピーランへと接敵する。振るわれるのは、単純ながら、それ故に絶大な威力を放つ一撃。暴力、と言えばそれまでであるが、そこに内包されるのは確かなスキルに基づく致命の一撃だ。
「きゃあっ」
 可愛らしく悲鳴を上げながら、コピーランが消滅する。飛はにぃ、と笑った。
「やー……涙に濡れる美少女なら手も止まるかもしんねぇが? 野郎と二次元は対象外だぜ、悪ぃな!」
「まとめて吹き飛ばすよぉ!」
 シルキィが構える。えいっ、と気合の言葉と共に放たれた術式は、ラサのそれを思わせる砂嵐を巻き起こした。まともに立ってもいられぬような激しい砂嵐に、コピーランたちは次々と吹き飛ばされていく。
「なら、こっちもまとめて毒殺するゾ!」
 その砂嵐にのせるように、瑠璃は『複合毒「シグルイ」』を放った。解き放たれた毒が、コピーランたちを内部から侵蝕していく。さながらコンピュータウイルスのように変貌した毒が、コピーランたちを食い破る!
「どう? 僕特製の毒の味は? 結構効くでしょ? まだまだたっぷりあるから堪能してほしいんだゾ! ――それじゃあ、死ね」
 冷たく言い放つその言葉を合図にしたように、コピーランたちが次々と消滅していく。イレギュラーズ達の猛攻により、コピーランたちはその姿を瞬く間に消していったのだ。
「嘘よ……そんな……!」
 たまらずに驚愕の声をあげる本体の星観ラン。確かに、コピーランたちは強敵であったが、イレギュラーズ達とて、決して、それに負けるような実力ではないのだ。
「あとは、キミだけだにゃ!」
 星観ラン、その背後から雪見が迫る。完全な不意打ち、雪見の十八番である奇襲攻撃に、ランは対応が遅れた、とっさに飛びずさったが、その背中に深い傷跡を残す!
「キミは許さんにゃ! にげられるとおもうなよっ!」
 ちぃ、と舌打ち一つ、ランは跳躍、距離をとって構える。ジャミング装置が解かれる気配はまだまだない。逃げるとしたら、物理的に走って逃げるしかないが――ランは自嘲気味に笑った。
「逃げる? ありえない! ここでアンタたちは全員殺すっ!」
 爆発せんばかりのエネルギーの奔流が、イレギュラーズ達を襲った。自身のコピーを作り、自身を実体化させてなお、攻撃に転ずるだけのエネルギーはまだまだ残っていたようだ。果たしてどれだけのエネルギーを吸収していたのと言うのか。そして、ここで止められず、さらなる犠牲者を出し、エネルギーを吸収され続ければ――果たしてどこまで、進化するというのだろうか。
「やっぱり、見過ごすわけにはいかないよねぇ……っ!」
 シルキィが叫び、術式を奏でる。生み出される黒のキューブ。この世のすべての苦痛を内包した呪いのそれが、ランを包み込み、その呪いを生みつける。
「くっ……相変わらず、嫌らしい奴よね、同業者のアンタっ!」
 ランが叫び、
「だからぁ、わたしはサキュバスじゃないってばぁ!」
 シルキィの攻撃の声を無視して、駆けだした。狙うはラヴ。エネルギーの奔流を弾丸に変えて、撃ち放つ。
「効かないわ」
 手にした『Bonne nuit .;+*』、そこから放たれた銃弾が、光の軌跡を描きながら、ランの放つエネルギーの弾丸を撃ち落とした。激しいスパークが、薄暗い工場内を照らし出す。
「やっぱりよ、ラン、お前さん、どうしてこんな事をやった? ――女を殴るなら一応主張くらいは聞いときたいんでよ」
 接敵しつつ尋ねる飛の言葉に、ランは笑った。
「お腹がすいたから、ご飯を食べただけ。そしてそれを邪魔してくるアンタらを、消してやりたかっただけよ!」
「そうかい! 分かり合えそうもなくて結構だぜ!」
 振り上げたこぶしが、ランを捉えた。激しく打ち据え、吹き飛ばす――激しくモニターに叩きつけられて、オブジェが崩壊する。
「前は優しい言葉をかけてくれたくせに! 随分乱暴になるじゃない!」
「乱暴なのは貴様ほどではないな!」
 そのまま一気に接敵するブレンダ。二振りの刃が軌跡を描き、
「魅了……それは、貴様だけの専売特許ではないのだ。私の剣捌きに見惚れるといい」
 目を奪うほどの美しい刃の一振りが、刹那、ランの視線を確かに奪った。
「隙あり!」
「だゾ!」
 流れるように放たれた、雪見と瑠璃の視覚外からの不意打ちの奇襲攻撃が、ランに突き刺さった。妖刀による斬撃。邪悪の刃による斬撃。二人の刃がランを切り裂いた。
「ぐ……うっ!!」
 その傷口から、モザイクのようになった電子データが迸る。0と1の構造体が、傷口から覗いた。
「くうっ……なんで、どうして……っ!」
 悲鳴をあげるように、ランは叫んだ。そのまま駆け出す。
「逃げる気です!」
 叫ぶアマリアの言葉に応じるように、立ちはだかったのはラヴだ。
「また逃げる気? 許しはしないわ」
 静かに告げる、ラヴ。それとは対照的に、憤怒に表情を歪める、ラン。
「邪魔――」
 叫び、その手を振り上げる――だが、それが振り下ろされることは無かった。
 ず、と、その腹から、白き大鎌の刃が突き出ていた。
 背中から差し込まれた大鎌の刃が、ランの腹部を捉えていた。
「データは輪廻に還せるか分からないけど――」
 リインが、言った。
「ここで大人しく成仏してねっ!!」
 振りぬく。ランの上半身と下半身が泣き別れになって、転がった。勢いよく吹き出すデータの奔流が、虚空に飛んで溶けてゆく。
「ああ、ああ! 嘘よ、嘘よ……こんな! こんなことで……!」
 ランが断末魔の悲鳴をあげる。その身体が、モザイクと粒子に溶けて、空気中へ消えていく。
 データは端末に戻る事も出来ず、その場で消滅し続けていた。しばしもぞもぞとランは動いていたが、やがてその動きを完全に停止した。やがてデータが全て蒸発して、その身体が空へと溶けた時に――イレギュラーズ達は、勝利を確信し、安堵の息を漏らしたのであった。

●一夜の夢の終わり
「ふぅ。これで、ひとまずランとの因縁も終わりかなぁ?」
 シルキィの言葉に、
「うん。お休み前に解決できてよかったよ」
 リインは笑った。
「まぁ、これでひとまず、あいつに惑わされるガキが出ることは無くなったな!」
 飛もまた、ケタケタと笑う。二度にわたるデジタルサキュバスとの因縁は、ここで決着をつけることができた。
「……ところで、この端末は、破壊した方がいいのでしょうか?」
 尋ねるアマリアへ、
「そうね。ジャミングが聞いているうちに、壊してしまいましょう。『本体』がまだ潜んでいるかも……なんてね」
 ラヴが言う。
「なら、手早く破壊してしまおうか」
 ブレンダの言葉に、仲間達は頷いた。少々もったいない気もしたが、念のため、破壊しておいた方がいいだろう。イレギュラーズ達は、端末を次々と破壊していく。
「にゃー、これで万事解決だね!」
 破壊された端末の山を見て、満足げに雪見は頷く。同様に、それらを眺めながら、
「ふむ……しかし、ネットアイドル路線も知名度上げるためにもいいかも? 今回の夜妖は録でもなかったけど手腕だけは参考になるゾ!」
 と、ケタケタと笑う瑠璃である。
 デジタルサキュバスならぬ、ネットアイドルサキュバスが生まれるのも、そう遠くないのかも知れなかった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様のご活躍により、デジタルサキュバスの完全消滅に成功しました。
 彼女にエネルギーを吸われた被害者たちも、じきに回復することでしょう。

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