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シナリオ詳細

信仰者達の山狩り

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 アドラステイア――天義東部で活発化している独立都市。
 かの地では天義中央とは異なり『ファルマコン』なる神を心棒している。それはかつて発生した『強欲』冠位、並びに高官と言える地位にあったアストリア枢機卿が魔種であったという事件に端を発した……天義中央への信頼が揺らいだ故に発生した新興宗教。
 彼らは新たなる神への供物を常に捧げるのだ。
 祈りを疑った者を告発し『信頼の証』を得て神の膝下へ――

「ふーん。で、これがその『信頼の証』ねぇ。フッツーのコインにしか見えないけどなぁ」

 青空の下。指の中で弄んでいたコインを上に弾いて視線を追わすは一人の女性。
 白い衣に身を包んだ人物だ――持っているソレは『キシェフのコイン』なるアドラステイアで流通している貨幣の様なモノである。あちらでは信仰の証とされているらしく、配給品との交換に使えたり、その他『上』からの覚えもよくなるのだとか。
「そんで今日はこれを求めて脱走者の山狩りねぇ……目を輝かせちゃっておーおーまぁ」
 落ちてきたコインを取りながら視線を巡らせる――その先に在ったのは山だ。
 多くの木々が生い茂っている地……ここには今、アドラステイアから脱走した子供達が迷い込んでいる。アドラステイアは先述した通り新しき宗教が流行っている地であるが、相次ぐ告発や粛清に目が覚める者達もいる。誰もが最後まで熱狂し続ける訳では無いのだ。
 しかしコインを求める者達にとっては絶好の機会でもあった。
 神の愛を見限って逃亡する者を粛清する事は、神に対する忠誠に他ならない。
 武器を持ち、裏切者の命を絶たんと追跡している真っ最中で。
「あっはっは。あんまり必死過ぎてわざと逃がしたんじゃないかと思うぐらいだよね――君はどう思う?」
「――さぁ。僕はボスの命令に従うだけだよ」
 山を駆けるアドラステイアの民を見据えながら――白い衣の女性は、もう一人に声を掛ける。
 翼を持つ彼女の名はルゥ・ノイール。
 アドラステイア内部に浸透している組織『新世界』が一員である。
「別に彼らが脱走者を狩ろうが失敗しようが、それはボクの関与する所じゃない。
 ――今日の本命は『彼ら』が来るか、だよ」
 新世界は――それぞれ事情は異なるが旅人を嫌悪している者達で構成されている組織だ。ルゥもまた過去に旅人から受けた被害により彼らを恨んでおり……そして、旅人が多く所属している組織であるローレットにもまた良い印象は抱いていない。
 そして今日は情報を得ていた。
 脱走者達からの依頼を受けて、この山の中に『彼ら』……ローレットが来ていると。
「彼らがやってくればそこからが本番だよ。ノコノコと出てきた彼らを……潰す」
「あっはっは。誘き寄せる為に子供達に狩りごっこさせるって?」
「別にあの子達は誰に命じられてやってる訳では無いよ。自分から武器を取って、自分から山に入っていったんだ」
 仮に狩りが始まらなくても予定通りローレットへ干渉するつもりだったのだ。
 旅人を積極的に受け入れ、団体として行動するローレット……国境を跨いでどこでも行動する彼らはいずれアドラステイアや新世界の行動に介入してくる事も想定されている――故にここでその戦力を削り取っておこう、と言う訳だ。
 天義中央は強欲の事件からまだ完全に立ち直れている訳では無い。高き壁に囲まれ、その内部の全容は未だ知れぬ地――天義中央は彼らを討伐したい所ではあるものの未知数の地へ迂闊に騎士団は派遣させられない。
 彼らの干渉がない今のうちに事を成しておく、その為には。
「で、協力してくれるんだよね?」
「あっはっは。どうかなー、私は暇つぶしに来ただけだからね」
 如何なる力も用いよう。槍を持っている、この女の力をも。
 彼女は――アルハンドラと名乗っている『レアンカルナシオン』という組織に所属しているらしい人物だ。レアンカルナシオンは新世界と直接関係はない組織だが……彼らもまた、外の世界より訪れし者達を敵対視している。
 とある機会に接触を得たルゥは彼女と協力――の様なものを取り付け、互いにローレットに対する力としてここで共同戦線と言う訳だ。尤も、先のアルハンドラの適当な言動からしても、正式に同盟を結んでいる訳ではないのだが……
「暇つぶし?」
「まぁね。ジョンのじっちゃんはエドガーのバッカ君とどっか行ってるらしいしさーそんな折に連絡きたから、ま、いっかなって」
「……随分適当。そっちはあんまり彼らを敵視していないの?」
「人によるね。私はさ、彼らと手合わせ出来ればなんでもいいだけだよ」
 だからアルハンドラはこの山狩りにも、アドラステイアの体制にも興味はない。
 彼女に在るのは。彼女の興味が向いているのは――武威の振るい合いのみ。
 ローレットの英雄諸君。現代の英雄達と戦えるのなら何でもよいのだと。
「まぁま。私は君みたいな可愛い子好きだからさ! それだけでも新世界の味方だよ!」
「……」
 頼りになるのかならないのか。
 まぁ所詮は所属する場所が違う者同士、結局はお互い様かと。
 ルゥは吐息一つ。現れるであろうローレットに対抗するための集中を重ねていた。

GMコメント

 皆さんはアドラステイアからの脱走者から脱走の支援を依頼されました――
 しかしバレていたのか今は追われている様です。
 脱走者達と接触して、救助してください!

■依頼達成条件
 脱走者の生存、救助。

■フィールド
 天義東部、独立都市アドラステイア――から少し離れた山間部です。
 時刻は昼。天候は快晴。周囲は木々が広がっています。
 ただ山である為か、足元は急な坂が在ったりと必ずしも安定しているとは言えません。飛行などが在った方が安定して進めるかもしれません。
 脱走者や追跡者たちは山の中を駆け巡っています。

■脱走者×2
 アドラステイアの苛烈な行いに耐え切れず脱走した者です。
 子供の姉妹で山の中を駆け抜けていますが――土地勘が無いのか迷っています。
 戦闘力はありません。追いつかれれば成す術もないでしょう。

■アドラステイアの子供達×複数
 脱走者達を追っている子供達です。
 神の愛を求め、皆包丁や鍬などを持って脱走者達を追いかけています。しかし子供の足である故か追跡はあまり素早くはないようです。数が多いので脱走者達をいずれは見つけるでしょうが、多少は猶予があるでしょう。
 武器は持っていますが――イレギュラーズである皆さんと比べれば戦闘力ほほぼ無いに等しいです。

■新世界のメンバー×6
 新世界とは旅人の悪行に対する抗議団体……が母体となって成長した暗殺ギルドです。
 アドラステイアの内部にも浸透しているそうですが、その辺りの詳細は不明です。
 彼らはアドラステイアの子供達と異なり明確な戦闘能力を持ちます。
 遠距離が2名。近接タイプが4名の様です。非戦の類は不明ですが、ルゥ・ノイールに従い潜みながら行動している様です。狙いは脱走者ではなく、イレギュラーズでしょう。

■ルゥ・ノイール
 新興組織【新世界】で【暗闇(オプスキュリテ)】の名を持つ者。
 過去、旅人により何もかもを失ったようで酷く彼らを恨んでいます。新世界の一員として、暗殺・証拠抹殺・仲間への連絡を担当しています。旅人への恨みから磨かれた技術は鋭く、その一刺しは急所に至れば甚大なダメージを与える事でしょう。
 ただし普段の役目から察するに、正面切っての戦闘は必ずしも得意ではないと推察されます。

 アドラステイアの粛清にはそこまで興味はありません。
 それよりも来るであろうローレットの皆さんを首を掻こうとどこからか様子を探っています。

■アルハンドラ・クリブルス
 上記、新世界とは異なる反旅人組織『レアンカルナシオン』のメンバーです。
 どこで接触を経たのか不明ですが、今の所ルゥ・ノイールと協力関係にあります。が、レアンカルナシオンは彼女一人しかいないのでその協力関係というのもどこまでの親密さがあるか……

 シナリオ『無名無銘のレーゾンデートル』(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/3318)などで登場した事はありますが、読んでいなくて特に問題はありません。その実力の程は未知数な所がありますが、手練れである雰囲気が伺えます。
 今回は槍を持っています。ただし、その辺りで適当に拾っただけの槍の様ですが……
 その武器からして近接タイプでしょう。
 またアドラステイアの粛清には特に興味はないようです。

  • 信仰者達の山狩り完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年10月31日 22時11分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
Tricky・Stars(p3p004734)
二人一役
ソア(p3p007025)
愛しき雷陣
物部・ねねこ(p3p007217)
ネクロフィリア
ミザリー・B・ツェールング(p3p007239)
本当はこわいおとぎ話
ハンス・キングスレー(p3p008418)
運命射手
浜地・庸介(p3p008438)
凡骨にして凡庸

リプレイ


 狂気の山狩りが始まっている。
 神に供物を捧げる事に幸福を見出している者達の狩りが――
「そうはさせない……これ以上子供達を犠牲にしてなるものか!」
「彼女達は評価を得る為の道具ではない。一人一人が尊い命だ……それを分からせてやらねば」
 しかしそうはさせじと『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)と『二人一役』Tricky・Stars(p3p004734)は急速に山の中を駆けていた。子供が子供を狩るなどその時点で地獄だが……しかしまだ間に合う。
 追いつければなんとかなる筈だ。固まって行動し、まずは脱走者を探さんとする。
 アドラステイアの――子供達ではなく、新世界の面々はこちらが来る事を予期している筈だが、まだどこにいるかまでは分かっていない筈だ。故に声を抑え、統率された集団として静かに確実に進んでいく――
「とにかく早く見つけないと……! 山の中ってのが不幸中の幸いかな!」
「多分あっち! あっちの方なのです! ミサはピーンときました! ピーン!」
 同時。山を巡るは得意どころか己が領域と言える『雷虎』ソア(p3p007025)は、優れた嗅覚と暗闇を見通す目を持つ『本当はこわいおとぎ話』ミザリー・B・ツェールング(p3p007239)と共に前の方に居る。快晴な天気ではあるが、森の中であれば暗き箇所が無いとも言えない。薄暗き場所にある足跡でも見つける事が出来れば幸いとミザリーは視線を落とし。
 森に住まう者であるならばソアは王が如く。鳥よ、植物よ、人を追えよ。
「――子どもをふたり探してるの、力を貸して」
 どうか慈悲を。人の子に。
 脱走者の手がかりを探らんとするのだ。更に野生の勘が彼女を導いて。
「しかし……アドラステイアの中に居ても、ちゃんとアドラステイアのシステムがおかしいって気が付ける子も居るんですね……偉いと思うのです!」
「はっ、そりゃ居るだろうさ。毎日毎日隣の奴を粛清していく様な環境がありゃあ……何もかも嫌になって脱走する奴はよぉ!」
 更に『ネクロフィリア』物部・ねねこ(p3p007217)と、アドラステイアそのものに憤慨する『勇者の使命』アラン・アークライト(p3p000365)もまた脱走者の位置を探るべく各々の手段を巡らせる。
 ねねこは往く先々に――自ららを嵌めるような罠が無いか探知を。
 新世界の面々が如何な備えをしているか分からない……用心しておかねば窮地に陥るやもしれぬと思考して。一方でアランは助けを求める声が周囲に無いか――探知する術をもって子供達を探していく。
 アドラステイアはふざけた所である。魔女狩りの様な粛清、そればかりか逃げ出した者も殺しにかかるとは……
「これ以上はさせねぇぞ……!」
 同時に放つのはファミリアーの鳥だ。別方向へと向かわせ、捜索の手を増やして。
 見つけるのが脱走者の姉妹であろうと敵だろうと――情報が必要だ。
 気のせいか、どこか遠くから狂気の声が聞こえてくる気がする。

 ――裏切りものを殺せ!
 ――ファルマコン様に血肉を捧げよ!
 ――姉も妹も殺せ! 肉を剥いで晒し者にしろ!

「全く……幻聴である事を祈るばかりですよ」
 苦々しい表情を見せながら『アルドーのお墨付き』浜地・庸介(p3p008438)は天を仰ぐ。アドラステイアとは一体どれ程狂気の渦の中にあるのだろうか、と。
 敵意を探知する術は自身に敵意を向けた者がいた時点で『相手が此方に気付いている』と判別させる事が出来る術だ。それを張って周囲の警戒とし――同時、ファミリアーのカラスによってアランの様に周囲の探索を始める。
 どうか、どうか無事でいてくれ。折角の好機を掴み取った者達よ。
「――今日という日の花を摘め」
 そして願わくば明日の風を感じてくれと『虚刃流直弟』ハンス・キングスレー(p3p008418)は心より祈る。
 ここまで逃げられているのならあと少しだ。頑張れ、君達は生き残る事が出来る。
 低く飛行し、木の根などの障害物に掛からぬ様にしながら彼は飛翔する。
 まだ助かる命をこの手に掴む為に。
 きっと幸福な結末を――手にする為に。


 イレギュラーズ達の全力の捜索は非常に広大な範囲を探索する事が出来ていた。
 その中でもやはりソアの――森の王たる権能は有効だったと言えるだろう。
 多くの『森の者』を味方にし得る彼女の特性がいかんなく発揮されていて――そして。
「近くで反応があるぜ……この先だ!」
 アランの探知にも助けを求める声が引っかかった。
 近くに敵は――いるか? 敵の姿は近くでは見えない気がするが――
 いやとにかく合流さえ出来れば守る術はある!
 彼女らの逃げる前の方から現れ――咄嗟の人影に脱走者達は追手かと絶望の表情を見せて。
「大丈夫! ボクたちはイレギュラーズだよ!」
 しかし、穏やかな表情を携えたソアが二人を優しく抱擁し。
「――よく、頑張ったね」
 無事にいてくれた事に感謝を。頑張った事に――賞賛を。
 さすれば二人は落ち着いたのか顔を崩して泣き崩れる……精神的に限界が近かったのか。
「もう大丈夫、安心してね。君達は僕らが護るから」
「イレギュラーズだ。お前たちを助けに来た。……ここまで二人でよく頑張ったな」
 次いでハンスが青い翼を広げ二人を包み込む様に。安心を与える様に――言葉を授け。
 同時にアランも二人を落ち着かせるべく視線を合わせる。
 大丈夫、大丈夫と何度も心に響くように……
「――だが、残念だがゆっくりしてる暇はなさそうだ。ここを脱出するまでもう一息。まだ行けるか?」
「……うんっ! だいじょうぶ!」
 ――だがやはりと言うべきか、今度は多くの『気配』が近付いてきていた。
 追手の子供達か。狂気と殺意の渦が段々と此方へ、接触までそう猶予はなく。
 武器を構えるアラン。何処から来ても大丈夫なように注意しつつ、子供達の前に陣取っていれば。
「いた、いたぞ! 裏切り者達だ! ファルマコン様に捧げ……うわぁ!?」
 現れた一人――鍬の様なモノを掲げた少年が声を張り上げる、が。
 ほぼ同時に放たれたのはミザリーから。黒い粘液が――少年に纏わり付く。
 なんだこれ、と暴れるが粘液は少年の抵抗を嘲笑う様に、まるで生物の様に取り込む。恐怖の叫びが聞こえてくるが――ああ大丈夫。それは殺す為の一撃ではない。
「ここまでの事はきっと、悪い夢だったのです。おやすみなさい」
 優しい言葉を掛けるかのようにミザリーは呟いて、少年の意識を刈り取った。
 やはり追手の子供達は相応の身体能力しかない。少し脅かすだけでも戦意を奪う事は出来よう。幾人掛ってこようが子供達はイレギュラーズの敵ではない――そう。

「子供達は、ね」

 瞬間。聞こえた声は幼き子供達の者ではない。
 森の奥から跳び出してきたは白き人影――
「させるかッ!」
 が、止めたのはリゲルだ。素早く反応し、剣を割り込ませ障害と成す。
「あっはっは――さっすが、やるねぇ」
 弾いた武器は槍だった。見据えた先に居たのは、白き衣に身を包んだ『大人』
「この子達の未来を失わせてなるものか! 追って来るなら……相手になるぞ!」
「うんうんそれでいいんだ。子供の命に興味はないけれど、君達たの戦いには興味がある」
 あれがアルハンドラを名乗る者か。
 となれば――どこかに新世界の者達も既に潜んでいる筈だ。
 追手の子供達は……脅威ではないが、しかしイレギュラーズ達が隙を見せれば脱走者達の命を狙ってくることは十分にあり得る。隙を見せる訳にはいかない。
「――子供達の脱出を優先すべきだな。急ごう、保護の協力を頼んでいる者も近くに来ている筈だ」
「ええ。私にできることがあるのならそれを全霊で尽くさせていただきましょう。
 ……タイ捨流浜地庸介、いざや参る!」
 故にイレギュラーズ達は迅速に動いた。Trickyは連絡を取っていた知り合いのKyrie(カイリ)の下まで子供達を運ぶべく護衛を担当。更に刀を構えた庸介はTrickyの道を開くべく、斬撃一つに先陣を切る――
 そうここまでは一塊として行動してきたが、ここからは別行動だ。
 二つの班に別れ、足止めと護衛を担う。
「逃がすな! 追え――!!」
「目的の為なら、自分の心を満たす為なら、他はどうなっても構わないというのか。それは間違った考えだぞ――気付け少年たちよ」
「うるさい外の穢れた大人達め! 僕達はお前らなんかに騙されないぞ!!」
 護衛の数が少なくなって再び勢いを取り戻した子供達が迫って来る――

 あらら~、マジ偏見の塊じゃん。

 思うはTrickyの……『虚』の方だ。彼らの魂は偏見に満ちており、救いようがない。
 まぁ命までは奪うまいと――放つ光が彼らを押しのけ気絶させんとして。
「さぁ、戦いたいというのなら私達と戦いましょうか。それとも不足で?」
「ん~いやいや良いよ。私はあっちには興味ないから、さ」
 そしてねねこはアルハンドラの足止め側、だ。
 幸いと言うべきかなんというか――彼女は相手をする者がいるのなら、と護衛グループを追うつもりはないらしい。身代わりたるねねこ人形を用意しながら、奴の動きに注意して。
(――しかし、なんでしょうか?)
 だがねねこはなんとなく『嫌な予感』を感じていた。
 この戦いと言うよりも自ら個人に対する何か嫌な予感。
 殺意を纏った黄金の瞳が此方を眺めているような――そんな感覚が常に纏わり付いていたのだ。


 二つに別れた内、護衛の側を担ったのはリゲル、ハンス、庸介だった。アルハンドラと周囲にいるであろう新世界の足止めを担うはそれ以外のアラン、ねねこ、Tricky、ミザリーにソア。
 アドラステイアの子供達は当然というべきか脱走者の方を追う。
 一時はイレギュラーズ達の闘志に怯えた者もいたようだが、今や勢いを取り戻して。
「しっかり捕まっててね。大丈夫、必ず護ってみせるから……!」
 しかしそんな二人に手は出させまいと、姉妹の二人を抱えて運ぶのはハンスだ。
 流石に人二人となればスムーズに運べる、とはいかないがそれでも此処まで至って疲れている二人が引き続き走るよりは早く。とにもかくにも避難場所に急ぐのみ、だ。或いは振り切れれば子供達とて諦めるだろう。
「全くなんとしつこい事か……やはり力的には大したことは在りません、が」
「ええ――周囲に潜んでいる者達に乗じて命を未だ狙ってくるのは、些か厄介ですね!」
 庸介とリゲルは子供達をあしらいながら――しかし一番の警戒は『大人』の方へ。
 敵の足止めは行ってもらっているが、それでも此方へと来ている『大人』が周囲にいる様だ。姿は木々の中に潜ませているのか見えないが、確かに殺意を感じていて。
 瞬間、放たれた魔術がハンスを狙う。
 翼を狙い機動力を奪うつもりか――させじとリゲルが魔術を剣で斬り払い。
「正々堂々戦え卑怯者! そんなに俺達が怖いのか!」
 優れた嗅覚で位置を探ろうと試みるが、逃げながらでは風下が取り辛い。
 今一人正確な位置が分からない所だ。と言っても、追ってきている数はそう多くは無さそうだが。
「人手が足りなくなれば子供達の刃が迫ります。今は捌きながら移動する他ありませんね……!」
「ハンスさんは移動に専念を。奴らは――俺達で!」
 ハンスへ至ろうとする攻撃を捌き続ける庸介とリゲル。
 絶対に近付けさせはしない。投げられる包丁があれば弾き、或いは庇ってでも。
「追わせはしない! 進みたければ、俺を倒していくがいい――いくらでも相手をしてやるぞ!」
 吠える様に声を張り上げ、己が剣を暴風の様に。
 安全地帯へと運べばまた向こうの方へとも戻れる。それまで、どうか――!

「おいでなすったな……オイ! 狙うなら俺を狙えやクソ野郎! 俺は旅人、太陽の勇者。アラン・アークライトだ。こう言っちゃなんだが――結構な有名人なんだぜ? もしかしたら、ここで殺しといた方がお前らにとって有益かもなァ!?」

 そしてアルハンドラと新世界の面々を足止めるべく残った面々は激戦を繰り広げていた。
 敵の数の方が多い故に全て食い止める、とはいかなかったが……しかしそれでも大半異常の『大人』は留めている。向こうの負担は少ない筈だ――後は、追わせぬ様に此処で戦うのみ!
 アランは注目を集めるかのように大きく踏み込んで、極限の集中が彼に力を与える。
 その手に顕現せしは――太陽の聖剣《ヘリオス》と対になる月輪の聖剣《セレネ》
 彼が所有せしかつての残影。今こそ一時、かつての『勇者』の姿を――剣撃巡らせ。
「あはは――! 凄いねいいよいいよ君みたいなタイプ、私は好きさ!」
「余裕そうな顔出来るのは今の内ですよ! その遊び半分の気持ちで来ている事……後悔させてやるのです!」
 アルハンドラと幾つもの金属音を生じさせる――剣が交差し、激しく弾く音だ。
 そこへミザリーの粘液が到来。しかし今度は、先の子供達に放ったような殺意なきモノではない。敵へ位付き、噛み千切らんとする食欲の権化。
 ――食(ころ)す気である。容赦も何も不要と全力で投じ。
「おっとぉ! あっぶなあぶな、魔術かな? こっわいねホントに!」
「――どうしてそんなに旅人を嫌うの! 旅人が何をしたって言うの!」
 更に逃さない。ソアの一撃が右寄り炸裂。
 雷だ――ソラの身体に纏う様に生じていた雷撃の欠片が放たれ、蛇の様に地を這う。
「んーまぁウチの組織の信条的には、そのーんーと。『旅人は外の世界から訪れた、この世の輪廻に反する穢れた魂』だからとかなんとか……まぁ私にはなんでもいいけどね!」
 アルハンドラが槍を一閃――纏わりつく雷を払うように粉砕して。
 更に素早く槍を振るう。 
 雷撃を粉砕する防御を見せたかと思えば、すぐさま転じる攻撃の二閃。アランの勢いを削ぐ目的であるかのように撃ち込み続ける――
 早い。防御に優れ、なおかつ幾度も行動するその仕草、やはり只人ではない。
「私は強い奴を戦えればなんでもいいからさ!」
「なんて勝手な……ッ! そこ! 子供達の所には――行かせないよ!」
 同時。ソアが感じたのは潜む新世界の『大人』達である――
 回り込もうとしていたか、或いは少数となったイレギュラーズ達を狙いに行こうとしたか。いずれにせよ動きの気配が見えた者を撃ち落とすかのような形で雷撃を放って。
「やっぱり居ましたか。何か変なのが混じってると思ってたのです」
 更にミザリーもそちらに続く。誰もここを突破させはしない。
 そもそも子供を利用するやり方に、ミザリーは静かな怒りを灯しているのだ。
「ミサはちょっと怒ってるのですよ」
 子供達の想像こそが御伽噺の拠り所。子供達こそこの世の宝である。
 それを利用する輩は――何人たりとも許しはしない、と。
「しっかしこの感じ……しっかりと誘い込まれてたのですか……目の敵にされてますね!」
 アルハンドラは闘争心の塊の様だが――新世界の方はもっとより明確に殺意を抱いているようだ。そんなに旅人って嫌なものなのだろうか。確か新世界は元々悪行を重ねているイレギュラーズの抗議団体だったらしいが……
 いずれにせよ彼らの好きに殺されてやる訳にはいかない。
 身代わりのねねこ人形をねねこは設置しつつ防御を固め、傷付いた者がいれば治癒を施して。
「――んっ?」
 その時だ。森の奥に、何かが見えたような気がした。
 小さな影。ほんの一瞬だが、見えたのは――
「……うん? あの姿、どこかで見たような覚えが……」
 気のせいだっただろうかとねねこは思案して……途端。

「死んで」

 超速度。いや、まるで突如と言っていいかの様に右後方側からいきなり『声』がした。
 それは新世界が一角、ルゥの声。
 陰に潜む彼女は――あらゆる死角を素早く移動し対象の命を刈り取る――
「う、わぁ! と!! あービックリした……あ、あ、あー!
 どっかで見たと思ったら貴方、あの時の――」
「死ね」
「ひゃ――!!」
 狙われた首筋。致命傷になる前になんとかギリギリ回避出来たねねこだったが、ルゥの殺意は止まらない。ねねことルゥには些かの因縁があるのだ。詳細は省くが――ルゥはねねこの命に固執してる。
 その刃は鋭く、そして急所を狙ってくる。
 確実に殺すという意志を感じる動きだ――マトモに当たれば必殺となろう。
 しかし当初の予定である時間稼ぎに関してはかなり進んでいると言えた。恐らく二人か三人かはハンス達を追っているだろうが……しかしそれだけの数であるならばリゲルや庸介の護衛を突破できるとは思えない。
 ここで多くの敵戦力を止める事が出来れば少なくとも脱走者の命は助かるだろう。
「だが逆に――こちらは厳しい戦いになりそうだが、な!」
 背後より迫る新世界の凶刃を躱しつつTrickyは周囲に治癒と活力を満たす術を飛ばす。
 自らは守護の力で備えている故にまだ倒れる事は無いが、しかし実力者であると見受けられるアルハンドラや、一撃必殺を狙ってくるルゥがこちらにいるのだ。負担が大きいのは足止め側である。
 幸いにしてねねこの支援やアランの奮戦、ソアの攻防に渡る柔軟な動きや、ミザリーとTrickyの魔術が上手く作用し戦線崩壊には至っていない。このまま時間を稼げばリゲル達も戻って来る筈だ、が。
「――しゃらくせぇ! 消えろ!!」
 子供を利用するような連中に調子づかせてなるものか、と。
 アランの一撃が――地を踏み砕く勢いで放たれた。
 咄嗟に槍を割り込ませるアルハンドラだが、重い。思わず両手で支えその攻撃を受けて――
「あー! 槍が折れる折れる――! もうやりにくいなホントに――!」
 見れば武器を軋ませていた。全盛も伴う姿による攻撃が想像以上に激しかったが故か。
 そこへ。
「今だ……! 薙ぎ払うよ!!」
 ソアの雷撃が――敵を舐める様に呑み込んだ。
 森の王たる力が潜む敵をも察知し、故に――
「……ルゥ様! 連絡が来ました……脱走者は圏外へ脱出。イレギュラーズの援軍が……」
「…………チッ」
 執拗にねねこを狙うルゥであったが、新世界の者の声に反応し、一気に後方へ跳躍。
「撤退。これ以上は意味がない」
「え、退くの!? マジで!? こっからが面白……あ、駄目だわ折れた」
 戻ってきている庸介たちが迫っているのを察したのか、新世界と……後はアルハンドラも渋々撤退しようとする。その先にあるのは……アドラステイア本拠方面だ。追えば今度はイレギュラーズが不利になる、か?

「逃げるならどうぞ――でも、ミサはこれからも貴方達を許しはしないのですよ」

 声を放つミザリー。彼らが子供を利用する限り、怒りが収まる事はない。
 アドラステイア。壁の中にある、子供達の独立都市。
 その闇を暴くのはいつになる事か――
 しかし今は救えた命がある事で良しとしよう。

成否

成功

MVP

ソア(p3p007025)
愛しき雷陣

状態異常

物部・ねねこ(p3p007217)[重傷]
ネクロフィリア

あとがき

 依頼、お疲れさまでした。

 アドラステイア……いつかその中枢に迫る事もあるのでしょう。

 ありがとうございました!

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