PandoraPartyProject

シナリオ詳細

赦シ

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●女神の聲
 もと住んでいた多くの人は去ってしまい、そこを故郷として愛した人だけが残る小さな街があった。
 崩れて瓦礫となった建物たち、その隙間を縫うように建つのは、石膏でできた女神像。
 最後に縋るものは神だったのか。あるいは、もう頼ることすらせず、ただこの世界で共に果てる友として作り上げられたのか。その目的ですら定かではない。

 ひとり。何をも持たず、襤褸の服を着てふらりと現れる男がいた。
 友も恋人も消え、残されたのは自分だけ。その自分すらもいずれは死に失せる運命。
「……なあ。おれは、おれだけが生き残って、良かったのか? おれよりも長く生きた方が良いやつなんて、いっぱいいたのに……」
 美しく彫られた女神の目を見つめ、彼は尋ねた。答えを返してくれる人すらもう周りにいない。藁にも縋るような思いでそう呟いてはみたものの、返事が来るはずもないと内心では理解していた――。
 けれども、そのとき。
 ――いいの。あなたに、少しでも長く生きていてほしいの。だから、苦しまないで。
 耳元で囁くような声がした。それは今となってはもう懐かしい、自分が恋をしていた……いや、今でも愛している、恋人の声だった。
「……そっか。君が、そう望んでくれるなら……」
 ああ。自分は今、赦されている。欲しかった言葉を浴びて、乾いた心が肯定に満たされている。
 それが本物のあの子でないということは、本当は分かっているけれど、見ないふりをした。
 わかったよ、おれ、生きていくよ。最後まで。
 ……ふと手を伸ばす――と。その途端に石膏に罅が入る。そして、そこに宿っていた命が消えたように、ぼろ、ぼろ、と。女神像は崩れた。

●囁きのきこえる場所
「この世界は――すでに滅びかけているみたいだね。人の命も……次々と。安らかながらに、消えていくみたいだ」
 『境界案内人』カストル・ジェミニの右手が、手にした本の表紙を撫でる。
 そこは魔法と精霊に親しむ世界、だった。
 襲い来る闇の災厄に儚き命は打ち勝てず、猛き者達も敗れ、けれど最後に奇跡が起こった。この世界をかたちづくる膨大な魔力が悪しき魂をかき消して、平和な世界が蘇ったのだ。
 ……だがその代償に、この世界からは見る見るうちに魔力が失われはじめた。輪郭を保つための力が、果てて消えてゆけば――結局、すべては滅びゆく。
 生き延びた人々もやがて世界とともに息耐える。それは果たして救いだろうか。けれども彼らは、あの災厄によって死ぬよりはずっと良いと微笑む。

「世界の終わりを止めることはできない。君たちにはその様子を見てきてもらいたいんだけど――降り立ってもらう街には、ちょっと、不思議なものがあって」
 崩れてしまった街には、女神像が立っているのだという。それも一体でなく、幾つも――数えるのは難しいほどに。それでもその数は、徐々に減りつつあるのだと。
「願いや祈りを込めたり、苦しみを告白すると、赦しの声が聞こえるんだって。声は女神と思わしき女のものか、その人が望む……許してほしい相手の声になって聞こえてくる。でもね、その石膏に触れると、たちまち像は崩れてしまう」
 お節介な――自分勝手な女神もいたものだと感じるかもしれない。
 けれども、もしもその赦しに出会ったら。出会ってしまったら。君は何を思うのだろう。
「儚い世界だ。君たちの印象に残るかどうかはわからないけれど、もし良かったら赴いてみてほしい」
 カストルはそう締め括り、彼が持つ本の厚い表紙を開いた。

NMコメント

磐見(いわみ)と申します。よろしくお願いいたします。

▼世界
 脅威が訪れ、そして去り、間もなく崩壊を迎えようとしている世界です。
 様々なものが魔力によって保たれていたため、それが消滅しつつある今は、建物は崩れて街は廃墟のようになっています。
 生き残った人も衰弱しており、やがては消えてしまう(死ぬのと同義)運命にあります。

▼方針
名目上は「この世界がどんな風なのか見てきてほしい」という感じですが、実際はこの女神像に出会ってみてほしい……というあれです。
PCさんが抱えるものに対して赦しを(勝手に)与えられることに何を思うか、というところを教えていただけると嬉しかったりします。

▽備考
・指定がない限り、描写は各PCさんが女神像を見つけるところから始まります。
・複数人で赴く合わせプレ等でなければ、ひとりずつの描写です。
・「女神の声」は、指定があればそちらを遵守します。聞こえる声は誰のものにでもなります。
(「シナリオに参加していない他のPCさんの声」などは公平性の観点的に難しいです)
 どんな声で何を言うか指定がなければこちらで描写しますが、とりあえず全肯定、全面的に何でも許容してくるものと思っていただけると嬉しいです。
・女神像には触れるも触れないも自由です。触れると必ず壊れます。
・しっとり、ややシリアス調ですが、「実は昨日お姉ちゃんのプリン黙って食べちゃったんだ……」的な方向もそれはそれで、ほのぼのするように頑張ります。


▼サンプルプレイング(参考程度に)
【例1】
これが女神像?なんだか胡散臭い話を聞いたけど……
そう思うものの、自然と脳裏に昔の記憶が過る
あの時、私がもっと強かったら守れたはずの命があったのに
悔いていたら、耳元で囁く声がした
これは、あの時出会った子の声……「あなたが生きているだけで充分」?
偽物が勝手なこと言わないでよ、私が守りたかったのは自分の命じゃない……

【例2】
僕があのとき、歯向かって家を出て行ったのは
本当は間違いだったんじゃないかって、心のどこかで思ってるんだ
でも、逃げ出してなきゃ今の僕はいなかった……
……そうだよね。ありがとう、許してくれて。
やっぱり僕は間違ってない。ずっとこのまま生きていくよ。

  • 赦シ完了
  • NM名磐見
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年10月30日 22時15分
  • 参加人数4/4人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

クィニー・ザルファー(p3p001779)
QZ
霧小町 まろう(p3p002709)
その声のままに
クロウディア・アリッサム(p3p002844)
スニークキラー
ソア(p3p007025)
無尽虎爪

リプレイ


 ――防ぎようもなく世界が滅び行く中とあっては、どれだけ気丈な人でも肯定が欲しくなるよね。
 世界すら輪郭を保てぬことがあるのなら、誰もが弱さを持ち得ることも自然の摂理。崩落した街の様相に、世界へ踏み入れた『QZ』クィニー・ザルファー(p3p001779)は思う。
 ふと目を遣れば視線の先に、思い詰めた表情を浮かべる恋人、『その声のままに』霧小町まろう(p3p002709)の姿があった。
 明るい彼女の笑顔が翳ることが気懸かりとなりつつも、その真剣な面持ちを理由ともしてか、QZは敢えて入れ違いに別の女神像を目指して歩く。
 彼女たちの抱える悩みは、ふたり等しく。まろうにまつわる過去のこと。

 過去を避けては通れない。だから会いに来た、けれど。
 静かに聳える女神像を見上げれば、どこからともなく聞こえる声が――まろうを、脅かした。
 それはまろうが離別を選んだ男。毒に侵され、理不尽と乱暴ばかりを叩きつける夫の声に、彼女の表情は抜け落ちる。
 嫁いだ先の男は元の性格に拍車をかけて横暴になり、座敷牢の中で怒りを撒ける日々。義弟夫婦からは夫の世話も家業も押し付けられ、奴隷のように働かされ――。
 そして突如この世界に招かれ、まろうはそんな日常から抜け出すこととなった。
 召喚は不可抗力、けれども戻らないと決めたのは自分の意志。だからこそ、心のどこかに後悔が潜むことを自覚する。
 義務感と、疎まれて世話を放棄された夫へのほんの少しの憐憫、同情。過去に募らせる思いは幾重にも連なって。
 いま聞こえるのは、怒鳴られるばかりだった日々からは想像もつかぬほどの優しい声。「俺のことはいいから幸せになれ」――救いであるはずの囁き。
 しかしそれは、あの暴虐への恐怖と憤りを覆すには至らない戯言。あんなにも自分を虐げたのにもかかわらずと、細い身体が震える。
 堪らなくなった翠玉のひとみが瞼の下へ伏せられると、今度は、耳元でなく頭の中に――違う声が届く。

 一方で、QZもまた別の女神像の前に立ち、ひとり思いを馳せていた。
 QZはイレギュラーズとなったまろうに出会って恋に落ち、やがてまろうもQZを受け容れ、ふたりは結ばれた――けれど。
 いつか、聞いたことがある。彼女には縁切らぬままの夫がいるのだと。そしてその男の一家は、愛すべきまろうに奴隷のような労働を強いて扱き使っていたのだと。
 強い憤りと共に、QZは生涯をかけてまろうを守ると決意した。彼女のために強くなる。彼女の帰る家になると、誓った。
 それでも。簡単には切れぬ縁があるように、簡単には切れぬ思いもある。
 まろうのQZへの愛は確かなものだと、QZ自身も信じて疑わない。だが、まろうが夫に抱く複雑な思いも悟ることができてしまうから――QZは、女神像を見上げる。
「でも、でも」
 ねえ、“かみさま”。私の恋は、私の愛は、間違ってないよね?
 ――彼女の耳元に、囁きは訪れる。

『つらいことは、全て、忘れておしまいなさい』
 まろう自身が繋ぐ神の声。彼女に道徳を教える、天の贈る声が、まろうの心を掬い上げる。
「……ええ、神様。わたしの、かみさま」
 その脳裏に響くものこそ、彼女が信じる神様だから。
 再びひらかれた目には淡い幸福のひかりが灯り――身勝手な懇願とも成り果てた、女神の齎す赦しには首を振って、微笑む。
「私の神様がお許しくださいます。だから、大丈夫ですよ」
 もしあなたが――嘗ての夫が許してくれなくても。
 されど決別を誓うのも、真面目で誠実なまろうだからこそ。
「……きちんと、さよならを言いましょう。……ずいぶんと、遅くなってしまいましたけれど」

「――まろうさん!」
 崩れ去る女神。その下に祈るが如く両手を組むまろうのもとへ、QZが足早に駆け寄った。手を振って、愛しいひとの名を呼んで。
「QZさま!」
 その姿を見て、まろうに柔らかな笑みと紅の頬が咲く。ほんとうにすきなひとを見るまなざしが、QZへと向けられる。
 QZは彼女の両手を引き寄せ、ぎゅっと握った。――大丈夫、崩れ落ちたりしない。
 まろうの持つ温度を確かめ、安堵に包まれた心のうちで、QZは先ほど受けた女神の囁きを反芻する。
 それは惜しみなき肯定。QZの信実な誓いを受けとめ、解し、背を押すもの。
 赦しは得た。ならば、あとは――。
 この手をずっと離さない。それだけだ。

「帰ろっか、まろうさん」
「ええ、QZさま」
 彼女の傍にあるかみさまと、彼女を守る愛しいひとが共にあれば、悪しき縁の記憶も遠い彼方。
 これからは幸せの一途を、ふたり、往く。


 ある意味で穏やかな世界だ、と。
 彼、あるいは彼女――『ナイトウォーカー』クロウディア・アリッサム(p3p002844)ことクロウは、宵闇にすら克つ黄金の瞳で街を見渡した。
 形あるもの、命あるものはどんなに足掻いてもいずれ朽ちていく。その終焉を静かに迎えるのだから、荒廃した世界なれども平和に思える。
 少なくとも、クロウが故郷とする世界に比べれば。
 戦争が終結しても終わることのない内紛、空腹に倒れる人々、助けを乞えども助けられることなく巻き込まれてゆく子どもたち――。
 誰しもが、いつ終わりが来てもおかしくない世界。それがクロウのいた世界。
 みんなが生きるために必死で、自分も当然、例外ではなく。盗みを働いて、人を傷つけて、生きて――生き抜いてきたのだ。
 生きるために縋った行為でも、罪と呼ぶべきものだと知っているから。それを背負うことを選ぶクロウが、法と倫理に赦しを乞うことはない。
 けれど。赦し、と言うのなら、ひとつ気に掛かることがある。
「……教官」
 呟きを零すとともに取り出したのは、肌身離さず持つドッグタグ。
 クロウのものではなく、あの世界でクロウを拾い、生きる術を教えてくれた「教官」のもの。
「……私が持っていてもいいのでしょうか」
 疑問。否、不安と呼ぶべきなのだろうか。問えども、答えを自分の裡から見出すことはできなかった思いが溢れ出す。
「何故あの時私は手を伸ばしてしまったのでしょうか」
 誰に頼ることもなく、独りで生きられると信じていた自分が、混沌にいざなわれた刹那、咄嗟に掴んで持ってきてしまったそれ。
 ――あの瞬間に宿った感情の名は、一体?
 その答えが見つからずとも、クロウの願いはすでに定まっていた。

「これを……私が持つを事を赦してください。お願いします」
 これを私から奪わないでください。
 ――請うた赦しは、望むとおりに齎される。女神の囁きはクロウのよく知る、懐かしい男の声で。

「それに……いいですか? 教官」
 紛い物なれど。「教官」を感じたクロウの声音が、ふと。少しだけ幼さを帯びた。
「これを返して欲しかったら貴方も私の居る世界に来るのです。それまで返してあげないのです」
 分かりましたか? 聞こえてますか? 教官!
 畳み掛けるようなその問い掛けに、女神が応えるようにして――クロウの傍で、微笑う吐息が聞こえた、気がした。


 本当に、無くなってしまうんだね。
 終わる世界に立って、静かな街を眺めていれば、彼女の心の中にも省みる過去が浮かび上がってくるようで。こういうの、柄でもないのになと『雷虎』ソア(p3p007025)は苦く笑う。
 ――妖精郷に起きた事件にて、ソアは彼女自身から零れ落ちて生まれたアルベドに出会った。
 白く染まった虎の子は自分に瓜二つながらも、怯えて泣くすがたはまるで幼子。
 はじめて出会った時には拒んでしまった。やがては彼女を助けると誓い、そのために力を揮って戦った。
 だが再会は叶っても、望みは叶わず。それでも最後まで歯を食いしばって、涙を流して。
 アルベドの子は、決して彼女を見放さないと心に決めたソアに母の顔を見出し、最期にはその可能性をソアに注いで――果てた。

「おかァ……さン」

 はっと、目を瞠る。追想に共鳴してか、ソアの獣耳に、記憶と同じあの子の声が囁かれる。
「……そうか。これが女神像、なんだね」
 視線の先には石膏からなる、白い女神。
 本当のあの子の声じゃないことも頭では分かっているけれど、あたたかい、と零す幼い笑顔が目に浮かぶようで。
 書物の頁が風で捲られてゆくように、息も吐かせぬ勢いで蘇る、あの戦いの日。
 助けると約束したいのちに助けられたあの時を思い出すと、――気付けば嗚咽が漏れていた。
 はじめに手を差し伸べられなくて、ごめんなさい。助けてあげられなくて、ごめんなさい。
 咽び泣くソアは年端行かぬ少女のようで、けれど慈悲に満ちた母親のようでもあり。

 言葉にならない言葉で幾度も謝ると、女神の作り出す「あの子」はたどたどしくもソアを肯定して、赦す。
 これは本物じゃない。けれどソアの中にあの子が残したものが、この声をかたちづくっている。
 あの子がソアに注いだいのちが、今もソアの中に流れているのだから。そう思えば、愛おしい声。

「ボクは、もう大丈夫だから」

 もう一度声を聞かせてくれてありがとう。おやすみなさい、と像を撫でれば、彼女は脆くも崩れ去る。
 輪郭を失い、瓦礫と還るその姿を切ないと思うけれど――慰めに似た感覚を手にして、不思議だとソアは眉を下げた。
 それもきっとあの子を看取ることができたから。

 ありがとうね、この世界の女神さま。
 泣き跡はまだ消えなくても、ソアは優しく柔らかく笑んで、崩落の世界をあとにする。


 いつか消えゆく世界のように、永遠などどこにもないのだと思い知らされようと。救いの声が紛い物であろうと。
 それが、誰かを救おうとしたがゆえの声であることに変わりはなく。
 けれどもイレギュラーズたちはその囁きを受け容れ、あるいは振り切って、歩み出す。
 やがて――誰もいなくなった街を、また、静寂が支配した。

成否

成功

状態異常

なし

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