シナリオ詳細
偏愛なるもの
オープニング
●欠損
ダークブルーの空には星ばかりが散らばり、月光が辺りを蒼白く濡らしていく。痩躯の青年は眠たそうに目を擦り、大きな欠伸をする。その吐息はアルコールを含み、人のよさそうな顔は真っ赤に染まっている。痩躯の青年はゆらりゆらりと歩き、家路を辿る。青年の他に人の気配はない。飲み過ぎてしまったのかもしれない。
だが、青年の心は満たされていた。仲間と過ごすこの時間はかけがえの無いものだ。これがあるから酒はより美味くなる。
「……――」
ふと、しわがれた声に青年は動きを止める青年は小首を傾げた。ああ、ほら。また、聞こえる。老人のような呻声、青年は静かに振り返った。その刹那、青年の身体から血飛沫が舞い、その身体は呆気なく地面に吸い込まれていく。
倒れ込んだ青年の身体は痙攣しながらとろとろと真っ赤な血を流し始める。
それを見下ろす幾重の影が大きく揺れる。男達だ。彼等は両目を見開き、にやにやと青年を見つめ熱い息を吐き出している。
「た、助けて……」
青年は助けを乞おうと手を伸ばし、息を詰まらせる。彼等は青年の様子に手を叩き、嬉しそうに口元を歪ませている。彼等の手にはべっとりと血が付いた斧、地面には青年と切り落とされた両腕が転がっている。青年は獣のように吠え、霞んだ瞳に彼等を映している。
彼等は笑い続けている。
「――」
やがて、青年は目を見開き、命を止めたのだ。彼等は口笛を吹き、青年を一瞥する。
「……――」
しわがれた声が楽しそうに囁き合う。そして、切り落とした両腕をその場に残し彼等は大事そうに青年を抱え、深い闇に溶けるように消えていった。
●願い
ギルド『ローレット』で資料を手にした情報屋――ユリーカ・ユリカ(p3n00002)は目の前の男をじっと見つめている。
ユリーカの隣には特異運命座標(イレギュラーズ)達が神妙な面持ちで男の話に耳を傾けている。
「だから!! さっきからあいつらは此処にいるって言ってんだろ!? 俺達はな……あいつが死んでから必死にあいつらの居場所を探してたんだよ!」
ユリーカの視線に苛立ったのか男は突然、激昂し、机を両手で乱暴に叩く。
「あいつらはイカれてんだよ!! わざわざ、両腕を切り落としてあ、あいつの身体を持ち帰るなんて……! くそっ!!」
男は叫び、唾を撒き散らす。
「はわわ……」
ユリーカは男の勢いに押されながらイレギュラーズ達と情報を整理する。その間、男は真っ赤に腫らした目を乱暴に擦っている。今回の案件はこうだ。仲間を殺した賊の始末をこの男から依頼されたのだ。場所は首都メフ・メフィートの外れにある空き家。その空き家に賊は潜んでいる。
「場所は此処なのです! えいっ!」
ユリーカは地図を取出し、真っ赤なペンで丸印を描く。イレギュラーズ達が身を乗り出し、地図を眺めている。
「うーん、空き家の周りには何も無いようですね。隠れるような場所も逃げる為の馬も……あ、そうなのです! 賊を討つための秘策はあるのですか?」
ユリーカは男に問うた。男は頷き、すぐに口を開く。
「あいつらは夜に行動するらしく昼間は寝ている。そこが狙い目だ!」
「ふむふむ、情報が増えてきたのです! 皆さんは何か質問はありますか?」とユリーカは言った。すると、すぐに一人のイレギュラーズが手を上げる。
「敵は何人でどんな武器を使うのですか?」と――
男は頷き、「そうだった、忘れていた。敵は十人だ。全て、男で兄弟のようだ。皆、同じ顔をし武器は両手斧を使うようだ」と吐き捨てる。
「他にはありますか?」とユリーカはイレギュラーズ達を顔を見渡した。
「……ええと、ごめんなさい。どうして彼等は両腕を切断したのですか?」とイレギュラーズは聞きづらい質問をする。男は眉根を寄せ、唇を舌で舐め、「……噂ではあいつらは欠損物を愛しているようだ。まったく理解できないが……」と男は呻く。
「あ、他にはあるか?」と男は青白い顔でイレギュラーズ達を見た。イレギュラーズ達は口を噤んでいる。
「じゃあ、ボクから……ご友人の遺体は捜し出した方が良いのですか?」とユリーカは男に尋ねた。男は首を左右に振る。
「いや、それはいい。俺の目的は一つ。あいつらを殺してもらう、それだけなんだ」
ユリーカはイレギュラーズ達、一人一人を見つめる。
「皆さん、この話を聞いて改めて彼の依頼を受けてくれますか?」
イレギュラーズ達はユリーカの言葉に力強く頷いた。ユリーカは微笑み、「では、皆さん、頑張ってください! あ、でも、ぐれぐれも無理をしないようにお願いしますね!」
ユリーカはイレギュラーズ達にそう言い、目を細めたのだ。
- 偏愛なるもの完了
- GM名青砥文佳
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年01月23日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●白昼夢
男達は毛布に包まり、床で眠っている。時折、身体を大袈裟に揺らし男達は少量の涎を垂らす。室内は薄暗い。注がれるはずの光は分厚いカーテンに遮断されている。不意に奇妙な音が静かな空間に響いた。男の一人が乱暴に目を擦り、きょろきょろと辺りを見渡し、首を傾げた。誰かの寝言だろうか。男は寝惚け顔のまま、そう思った。男は欠伸をし薄い唇を毛布でごしごしと拭う。男は目をそっと閉じた。鼠色の毛布は温かく、男の意識を少しずつ飲み込んでいく。静かな時間が流れ続けている。寝息を立てる彼らの顔には確かな幸福が浮かんでいる。もしかしたら、夢を見ているのかもしれない。音が、ほんの僅かな、軋むような音が鳴る。
すぐさま、幸福は沫のように弾けていた。突風とともに戸口付近に座る男が静かな襲撃を知る。目を見開いた男の喉元にはナイフが突き刺さっている。気配は無かった。男はくぐもった声を吐き、血を流していく。毛布が真紅に染まっていった。男は痙攣し目玉を動かす。男の口元は塞がれ、この痛みは誰にも届かない。男はがくがくと震え、すりガラスのような視界に『紫陽花の逢香』ハイド・レイファール(p3p000089)を映す。口を塞ぐその手はハイドのものだった。オッドアイの美しい瞳が男を一瞥した。男は手を伸ばす。宝石のような眼球が欲しい、そう思った──
だが、男は仰け反った。ナイフが回転し首を裂くように振り上げられる。ハイドはナイフを逆手に持っていたのだ。男は血を滴らせ、倒れ込んだ。ハイドは男を見下ろし、ナイフに付いた血を振り落とした。
「……まずは一人目、でしょうか」
ハイドは顔を上げ、【ロリ宇宙警察忍者巡査下忍】 夢見 ルル家 (p3p000016)と【死霊使いの聖職者】 セルビア・ズィルバー (p3p001180)を見た。セルビアとルル家は気配を消し、眠ったままの男に駆けていく。セルビアは立ち止まり、青白い顔で男を見つめる。足元には両手斧が落ちていた。セルビアは斧を拾い上げた。ルル家がセルビアを越え、男に肉薄する。ルル家は男を見つめ、真横に回転する。ルル家の編み込んだ長髪が大きく揺れ、二本のナイフが銀の尾を引く。切っ先が毛布を裂き、瞬く間に男の首を切る。セルビアが息を吐き、ルル家が攻撃した男目掛けて魔力弾を撃ち込んだ。肉が弾ける音がした。
「セルビア殿、脱出であります!」
ルル家が後退しセルビアの手に触れ、ともに踵を返す。ハイドは扉の前に立ち、ルル家とセルビアを待つ。被弾した男は床を汚し、壁に衝突する。凄まじい音が静寂を殺した。男は動かない。ふと、しわがれた声がイレギュラーズ達の耳に届いた。男達が目を覚ましたのだ。男達は立ち上がり室内に転がる二つの死体を見つめ笑い合う。そして、男達は斧を拾い上げ、愉しげにルル家とセルビアを追う。獲物、獲物が来たのだ――機敏な動き、ふと、セルビアが振り向き斧を投擲する。途端に男達は目を見張った。斧は弧を描き、男達に襲い掛かる。襲撃から三十秒しか経っていない――
●咆吼
八人の男は賊を追いかけ、屋外に飛び出した。男の一人は肩から血を流している。斧の鋭い刃が男の皮膚を舐めたのだ。男達は一瞬、目を細めた。降り注ぐ光に男達は視界を奪われ、僅かな隙を生む。そのチャンスを活かす様に【堕つ星】 ルトラカルテ=ジーンバイヤー (p3p000039)が負傷した男に駆けていく。ルトラカルテは花の香を漂わせながら男の顎を蹴り上げた。脳が揺れる、揺れる。男は受け身すら取れずに倒れ込んだ。倒れた男の両鼻から鼻血が流れていく。あっという間の出来事――
男達は驚きルトラカルテを見た。両手で斧を強く握り締め、男達ははっとする。死角からアルテミア・フィルティス (p3p001981)が飛び込み、剣を素早く振るったのだ。男は真横に飛び退き、呻き声を上げる。致命傷は避けたが背中を深く切られていた。アルテミアは長い髪を揺らし、切っ先を男達に向ける。男達は吼え、連携を取ろうとする。だが、男達は呆気なく吹き飛ばされてしまう。被弾した者もいた。
男の一人は霞んだ瞳で【主無き侍従】 オフェリア (p3p000641)を見た。オフェリアは目立たない場所に佇み、男を遠くから見つめている。オフェリアの凛とした表情に男は惹きつけられていた。誰も何も発しなかった。ただ、糸を張ったような緊張感だけが漂う。男達は散らばっている。戸口付近で被弾した男は胴から血を流していた。男はかぶりを振る。倒れ込んだ衝撃によって頭を打ってしまったようだ。頭が痛んだ。それでも、男はいち早く立ち上がり右方向を見た。機敏な動きだ。男は目を細めた。そこには儚げな少女、ココロ=Bliss=Solitude (p3p000323)が立っていた。
「!!」
男は飛び退き、斧を構えた。奇妙な仮面を被った者が近づいて来たのだ。【異端審問官】 ジョセフ・ハイマン (p3p002258)だ。襲撃を行った者達は前衛と後衛に分かれ、男達を眺めている。男達はようやく、沢山の目を知る。賊は八人、それも手練れのようだ。尚且つ、その視線と表情には明確な殺意が見えた。男達は笑い、次々と立ち上がった。脳震盪を起こした男はその場で痙攣を繰り返している。七人の男は目を細め、倒れたままの男を置き去りにする。叫び声を上げながら男達は賊に襲い掛かった。
叫び声を合図に前衛のジョセフ、ルトラカルテ、ハイド、アルテミア、ルル家が男達を見据えた。後衛にはココロ、セルビア、オフェリアがいる。ジョセフが連携を取ろうとする男に気が付いた。男は比較的、無傷に近い。
「連携は遠慮してもらおうか!」
ジョセフは男に肉薄し、懐に滑り込んだ。ジョセフを見た前衛のイレギュラーズ達が各々、男に飛び込んでいく。
「ハイド様の元には行かせません」
後方のセルビアが呟いた。セルビアはハイドの方向に向おうとする男二人を死霊弓で狙い、引き離す。連携はさせない。男の一人は間一髪で攻撃を避け、ハイドに向かっていく。
「仕留めそこないましたね。ただ――」
セルビアは地面に転がる男を見た。男は真正面からセルビアの攻撃を浴びたのだ。地面に突っ伏し、男は自らの血に沈んでいる。
「殺人鬼が神に仕える私に敵うわけがない……」
ジョセフは呟き、男の動きをマークで制限する。男は不快な表情を浮かべ、ジョセフを見た。ジョセフは笑い、後退する男に手を伸ばす。目を丸くする男の腕を取り、握り締める。ジョセフは力を込めた。瞬く間に男の身体がふわりと浮く。ジョセフは豪快に男を投げ飛ばしたのだ。そして、見計らったように遠術でオフェリアが転がる男に攻撃を仕掛けた。男はオフェリアの攻撃を受け、息を呑んだ。突如、アルテミアが鋭い踏み込みから激しく肉薄してきたのだ。男は喉を鳴らした。それが男の最期だった。アルテミアは剣を振り下ろし男の首を裂く。オフェリアは敵が狙える位置に移動し、ジョセフは屋外をぐるりと見渡し、男達と仲間の位置を確認している。アルテミアは男を見下ろし、すぐに走り出した。イレギュラーズ達は互いに目配せをし、男を相手取る。イレギュラーズ達の行動に男達は苛立ち、血走った目で斧を大きく振るい続けている。精確さを欠いた攻撃は薄皮一枚すら裂けない。そう、男達の敏捷さなど存在しない――
「ほらほら、拙者は此処なのです!」
ルル家は奇襲攻撃で男の脇腹をナイフで裂き、男を煽る。男は唸り、斧を振り上げる。その瞬間、男は顔を歪ませ、血塗れの背中を向ける。そう、男はオフェリアとルル家の攻撃を受け、重傷を負っているのだ。ルル家はのらりくらりと男の斧を避けながら後方のココロを意識する。ココロは前方のルル家の動きを見つめながら銃を構えている。狙うは男の脇腹だ。男をココロに近づかせないようルル家は男をマークする。男は眉根を寄せ、後退する。
「宇宙警察忍者の攻撃を受けてみるのです! ドォーン!」
ルル家は身を翻し、蹴戦で男の頭を蹴り飛ばす。男の身体がぐらりと揺れ、後方に倒れていく。ココロは目を細め、真っ赤に染まった男の脇腹に筒口を向けた。
「わたしが仕留めるよ……」
ココロは呟き、魔法の弾を撃ち込んだ。脇腹から血が流れていく。男は勢いよく倒れ込み、後頭部を強打する。男はぴくりともしない。死んだようだ。
「ココロ殿! ココロ殿! やったのです!」
ルル家は嬉しそうに八重歯を見せた。
「あともう少し……」
ココロは眩しそうに目を細め、そっと頷く。四人の男達は脂汗を流している。男達は焦り、めちゃくちゃに斧を振り回す。当たらない。男は舌を打ち鳴らした。ジョセフが駆け回り、男達をマークする。オフェリアはジョセフに勇壮のマーチを使う。ジョセフの反応速度が上昇していく。男達は忌々しげにジョセフを見た。連携の為に動くことすら出来ない。ジョセフによって他の者達に近づく事さえ禁じられていた。ジョセフは移動し、男に接近する。
「妨害させてもらおうか!」
目を見張る男をジョセフはブロックで制限する。男は悔しげに唇を噛んだ。寂しい、寂しい――男達は悲鳴を上げる。ルトラカルテ、ハイド、アルテミア、オフェリアが男と対峙し、後方ではセルビアが死霊弓で男達目掛けて死者の怨念を放つ。
「ねぇ? 逃げてないで私と戦ってよ~!!」
ルトラカルテは斧を振り回し、致命傷を必死で避ける男を追い掛けている。血、血、血、真っ赤に染まった男は泣き喚く。
「え~、どうして逃げるの~? ふふふ。ほら、すきだらけだよ~!」
ルトラカルテは男の背に斧を振り下ろし、可憐に微笑む。悲鳴を上げ、男は転倒する。
「へへ、私の勝ちだね~!」
ルトラカルテは斧を躊躇いなく男に振り下ろす。
「あああっ!!」
男は目を潤ませながらルトラカルテの斧を自らの斧で受け止める。重い衝撃、ルトラカルテは目を見開き、すぐに笑顔を浮かべた。楽しい、楽しいのだ。男は喉を鳴らし、斧を強引に弾く。男は微かにバランスを崩したルトラカルテに足払いを行った。
「あ~残念!」
ルトラカルテは男の攻撃をひょいと避け、名残惜しそうに男を眺めた。男はかぶりを振り、命乞いを始めた。
「ああ、だまって?」
ルトラカルテは斧の柄で男を殴りつけた。男は黙り、ルトラカルテを見上げた。ルトラカルテは満足げに微笑み、男を殺す。視界が赤に変わる。ハイドはスナイパーアイを駆使し、男の動きを注視する。男は息を荒げ、斧を真横に振るう。ハイドは真後ろに下がり、男の脇腹をナイフで刺し息を吐く。男は驚き、浅い息を吐いた。
「如何なものなのでしょうね、自らの愛した『物』に成り得る気分というのは」
ハイドの言葉を抹殺するように男が攻撃を仕掛けた。
「おやおや」
ハイドは男の攻撃を避け、ナイフを引き抜き男の腕を切る。男は仰け反り、斧を手放した。
「痛いですか? そうでしょうね。でも、私は痛くはありません」
ハイドは冷たく言い放ち、男の喉元を掻っ切った。男は目を剥き息絶えた。一方、アルテミアは男の攻撃を右に避け、男をねめつける。
「悪いけど私はやられないわ!」
アルテミアは男をマークし、一気に距離を詰めた。男は顔を強張らせた。アルテミアは剣を振るい、男の両手足を裂く。血が流れ、男は苦しげに呻きながら斧を口に咥え、アルテミアに襲い掛かる。アルテミアは男の攻撃を剣で受け流しながら攻撃の機会を待つ。男は血を滴らせながら果敢に攻めていく。ふと、アルテミアの視界に死者の怨念が映る。セルビアだ。男は死者の怨念を受け、その身を傾けた。アルテミアは目を細め、男を切り伏せる。男はもう死んでいた。オフェリアは近術を使い、男を攻撃していった。オフェリアは時折、仲間を意識しながら斧を盾で弾き、素早く身を翻す。
「私が貴方を倒します」
オフェリアの凛とした声に男ははっとしながらちらちらと後方を見た。男の双眸にセルビアが映る。男はにやりと笑い、突然、走り出す。
「……逃がしません」
オフェリアは目を細め、男をブロックする。男の行く手を阻んだオフェリアは男の懐目掛けて近術を発動させる。男は避けようとしたが、呆気なく吹き飛ばされた。オフェリアは男を追い掛けようとしたがすぐに立ち止まった。
「ジョセフさん……」
オフェリアは呟いた。
「この男は私がやろう!」
転がっていく男の先にジョセフが待ち構えていたのだ。ジョセフは自らの斧を男に振り下ろした。
●調査
九人の男が死んだ。イレギュラーズ達は息を吐き、安堵の表情を浮かべる。イレギュラーズ達は赤い。アルテミアは脳震盪を起こしている男に近づき、蒐集していた遺体と依頼主の友人の遺体の所在を問うた。男は嬉しそうにアルテミアを見上げ、にたにたと笑う。ココロはアルテミアと男の様子を不思議そうに、興味深げに眺めている。
「困ったものだわ」
アルテミアは嘆息し、男の脚に剣を何度も突き刺した。たちまち、男の表情が崩れた。疲れて座り込んでいるルトラカルテが男の悲鳴に顔を上げた。ルトラカルテはアルテミアを見つめている。
「……立場は理解できたわね?」
アルテミアの言葉に男は顔色を変え、平屋を指差した。
「や、焼いてび、瓶の中に……」
男は声を震わせ、左右に首を振る。その顔は蒼ざめている。
「そう、あそこに――」
アルテミアは呟き、男の心臓に剣を刺した。男の身体が跳ね、どくどくと血を流す。男は目を見開き、すぐに死んでいった。
「では、オフェリア殿と行ってきますです!」とルル家が元気よく叫び、「いってらっしゃい~!」とルトラカルテが手を振る。ルル家はオフェリアとともに平屋に向かう。屋外ではジョセフが男達の遺体を調べている。その様子をココロ、アルテミア、ルトラカルテ、ハイド、セルビアが覗き込んでいる。ジョセフは医療知識を使いながら首を捻った。
「何も解らんな」
ジョセフは息を吐く。
「……霊魂疎通も出来ないようです」
セルビアが言い、ハイドが「単なる異常者、なのでは?」と言った。アルテミアは黙っている。
「私は賊たちより瓶の在り処が気になるかもー。ルル家さんとオフェリアさん、まだかな~」とルトラカルテがのんびりとした口調で言った。ジョセフは同じ顔の男達を見下ろし、その顔に触れる。
「整形の痕はないか……」
「指が欠けてるわ。ほら、そこ……」
アルテミアが指を指す。ジョセフが男の手を持ち上げた。
「何だ、これは……最近の傷ではないようだが」
「気味が悪いですね」とハイド、「皆、同じ指に欠損が見えます」とセルビアが目を細めた。
「うわ~、中に残った男の遺体もそうなのかな」とルトラカルテは首を傾げた。ココロは熱心に討論を重ねるイレギュラーズ達の様子をじっと見つめている。依頼は終えた。それなのにイレギュラーズ達は男達を調べ、遺体の行方を捜している。ココロにはそれが解らない、解らないのだ――
ココロは全てを記録するようにイレギュラーズ達を眺めた。一方、ルル家とオフェリアは分厚いカーテンを開け、すぐさま、窓を開けた。血の臭いが充満していたのだ。
「ルル家さん、ちょっと待ってください」
「うぐ?」
オフェリアが死体を跨ごうとしたルル家に声を掛けた。オフェリアは屈み、男の欠けた指を見た。
「指先が欠けています」
「なんと! ということはあっちの男も欠けているかもです! シュバ!」
ルル家は壁際の男に駆けていく。
「どうでしたか?」
「こっちも欠けています! お、恐ろしい兄弟なのです」
ルル家は震え上がった。オフェリアは頷き、「外の男達についても確認が必要ですね」と目を細めた。そして、オフェリアは引き出しを開け、眉を寄せる。
「これは……」
中には手入れされた切断器具と無線機器があった。オフェリアは息を吐く。
「……記憶を辿ってみましょう」
オフェリアは無線機器に触れ、ギフト(記録回路)を発動させた。流れ込む記憶の欠片――
月の無い夜、甘く囁き合う声、悲鳴、喘ぎ声が混沌のように混ざり、すぐに消えていった。オフェリアはああと呻いた。何も解らない。ただ、死だけが感じられたのだ。
「オフェリア殿!」
オフェリアははっとする。見れば、ルル家が沢山の瓶を抱え、走ってくる。瓶の中には焼骨の一部が閉じ込められていた。
ローレットでは任務を終えたイレギュラーズ達が依頼人の男と向かい合っている。イレギュラーズ達は男に十人の賊を討ったこと、ただ、賊の正体は不明であることを告げた。男は黙って聞いていたが突然、イレギュラーズ達を血走った目で睨みつけた。イレギュラーズ達は口を噤み、震える男を見た。
「言っただろ。俺が願うのはあいつらの死だけ。他の事はどうだっていい……」
男はイレギュラーズ達に背を向け歩き出す。だが、イレギュラーズ達は男を呼び止め、瓶を手渡した。そう、焼骨の一部がそこに納められていたのだ。
「あ? 何だよ、これ――」
男は怪訝な顔で瓶とイレギュラーズ達を交互に見つめ、息を呑む。
「この日付は……あの日――」
瓶に貼られたラベルを見たまま、男は顔を歪ませる。
「バルド――」
男は青年の名を呼び、途端に崩れ落ちていく。
「!?」
イレギュラーズ達は慌てて男を支える。男は瓶を抱き締め、青年の名を叫び続けている。
「バルド、バルドォ……!」
男は咽び泣き、ローレットは男の声だけが虚しく響く。イレギュラーズ達は男の様子に唖然としながらぼんやりと思った。もしかしたら男は青年を愛していたのかもしれない――
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
皆様、ご参加いただきましてありがとうございました。青砥です。
わたくし、皆様のプレイングを拝見するまでは『男達は連携を取り、時折、にたにたと笑いながら斧を振り回す。イレギュラーズ達は男達の攻撃を必死に防ぎ、攻撃を仕掛けながら一進一退を繰り返す。そして、どちらが死んでもおかしくないそんな状況の中、イレギュラーズ達は最後の男をようやく殺し、息を大きく吐き出したのだ。完』というような雰囲気になるのかしらと勝手に思っておりました。ですが、実際は皆様の作戦・素晴らしき連携によって悪い事は何一つ起きませんでした。パンドラ復活や重傷者が出なかったのは殺人鬼とイレギュラーズの違いという事ではなく、皆様のプレイングによるものだと思います。本当にありがとうございました!
では、少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。また、皆様とお会いできますことを。
GMコメント
初めまして、わたくし、青砥文佳(あおとふみか)と申します。ご閲覧いただきましてありがとうございます。
今回の依頼はシンプルに賊を討つ、ですので宜しくお願い致します!!
●依頼達成条件
シンプルに十人の賊の殺害です。
●情報確度
Aです。つまり、想定外の事態(オープニングとこの補足情報に記されていない事)は絶対に起きません。
●賊
全て男で十人居ます。両手斧を振り回します。連携を行ったりしますがそこまで強くはありません。
ただ、基本的に逃げたりせず向かってきますが夜型の為に昼間は眠っています。
昼間は夜より動きが鈍いのですがそれでも動きは速いです。
●空き家
窓のある木造平屋です。広くも狭くも無く、隠し部屋などはありません。
空き家周辺は隠れる場所も無く、人気もありません。所謂、平地です。
●天候
昼間で晴れております。天候が崩れる事はございません。
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戦闘中は会話をしない描写を好みますので言葉は少なめになるかと思います(予定)
ただ、思い切り戦闘を愉しんでいただければと。では、皆様のプレイングを楽しみにしております!!
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