シナリオ詳細
お茶会は冒険の香り!?
オープニング
●シェプと賑やかな旅一座
秋風に運ばれ、焼き立てパンの香ばしい香りが街の中を漂っていく。
まぁるい体をゆらゆら揺らし、『子供じゃないヨ!』シェプ(p3p008891)はご機嫌な様子でレンガの道を歩いていた。
「ワァ……! いい匂いだネ。ここが『食べ物通り』なんだっケ?」
「うん……。このまま真っすぐ行ったら、予約してるお店に着く……と思う……」
『異世界食べナビ2020 スイーツ100名店』とご機嫌なフォントで記された雑誌から、『甘くて、少ししょっぱいレモネードを』ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)が顔を上げる。
今日はシェプと旅一座【Leuchten】のお茶会だ。おいしいお茶とのんびり過ごせる時間があれば、誰だってきっと仲良くなれる。少なくとも、旅一座の団長であるヨタカはそう思っていた。
「それにしても、会場が旅一座のテントでも"サヨナキドリ"でもないのは珍しいな」
「申し訳ございません、ジェイク様。ご足労をかける形になってしまって」
「何で幻が謝るんだよ。別に……ライブノベルの世界の店を貸し切って、ってのが珍しいと思っただけだ」
ヨタカ達の後に続く形で歩いていた『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)と『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)がそんな会話をしていると、話題にあがった商人ギルド・サヨナキドリの店主――『闇之雲』武器商人は静かに笑った。
「アタシでもリクエストに異世界のお菓子を希望されたら、取り寄せには骨が折れるからねぇ」
「ボク、食べナビで紹介されてたチョコミントケーキ食べタ――ウワァ?!」
はしゃぐシェプがレンガの継ぎ目に足をつまづかせ、大きくバランスを崩す。危ない、と思われたその時に持ち上がる身体。
「前を見て歩かないと危ないよ、子羊ちゃん」
優雅という言葉は彼女のためにあると言っても過言ではない。
『貴方の為の王子様』ラクロス・サン・アントワーヌ(p3p009067)が柔らかな微笑と共にシェプをお姫様だっこで抱き上げる。
「あ、ありがト……」
「これくらいお安い御用さ。それより、ほら。もうすぐ着きそうだ」
ドアにぶら下がる『本日貸切』の札を見つけ、踏み入る店内。しかしそこに待っていたのは――。
「申し訳ございませんでしたァッ!!」
土下座スタイルでお客様を待っていた、冴えない店主の姿だった。
●お茶会は冒険の香り!?
「キッチンは使ってよかろ。飲み物は?」
「お好きなだけどうぞ!」
「待って紫月、ど……どういう事?」
まるで何もかも知っていたかのように動きはじめた武器商人へ、慌てた様子でヨタカが声をかける。
指し示された方へ視線をやると、そこにあるのは空っぽのショーウインドウ。
普段はケーキが飾られているであろうその場所には、白いお皿が並ぶばかりで主役がどこにも見当たらない。
「実は……材料を運搬していた馬車がトラブルにあったみたいで、お菓子が何も作れてないんだ」
「エーッ! じゃあ食べるものが何にもないノ!?」
「め……面目ない……」
Cafe&Bar『Intersection』の店主、神郷 蒼矢(しんごう あおや)は境界案内人でもある。二足の草鞋を履く以上、零れる事もあるという事だろう。
しょんぼりと項垂れるシェプを励ますように、幻がそっとしゃがんで頭に手をやる。
「ご安心を。あの様子だと武器商人様は最初からご存知だったようですし、きっと何か打開策があるのでしょう」
噂をすれば何とやら。早速ジェイクが武器商人に呼ばれ、ルーレットのような謎のパーツを出入口のドアにぺたりと貼らされる。
「設置したぞ。次はどうすればいい?」
「ダイヤルを『Intersection』から別の物にずらしてご覧」
「別って……この『お菓子の国』とやらでいいのか」
カチカチカチ……ガコン。
メモリが別の物に切り替わった瞬間、建物がほんの少しだけ揺れた。まさかとジェイクが扉を開けると、そこは先ほどまで6人が歩いてきたレンガの街並みとは全く別の場所――木々に実るキャンディとジャムの川。空にはこんぺいとうの星が瞬き、スコーンで出来た子鼠達がちょろちょろ野原を駆け回る――なんとも不思議な光景が広がっていた。
「異世界の別の場所に空間を繋げたのかい!? こんな荒業、境界案内人の僕にだってなかなか出来ないのに!」
「ヒヒヒ、小鳥の悲しそうな顔はなるべく独り占めしておきたいからねェ」
「――ッ!?」
ぽふん、と湯気を上げて真っ赤になるヨタカ。惚気に沈んでしまった彼に代わり、アントワーヌが代弁する。
「自分達の手でお菓子が用意出来るなら、お茶会も再会できそうだね。皆の力を合わせれば、きっと素敵な会になるはずさ!」
- お茶会は冒険の香り!?完了
- NM名芳董
- 種別リクエスト(LN)
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年11月02日 22時10分
- 参加人数6/6人
- 相談8日
- 参加費---RC
参加者 : 6 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(6人)
リプレイ
●
ほこほこ、ふんわか。『お菓子の国』は晴天だ。草原は風が吹き抜け心地よく、うっかりめん棒ごと焼き立てバウムクーヘンを見つけた日には、抱き枕にせずにはいられない。
「おや、すっかり夢心地だね」
くぅくぅ眠るシェプを起こさないよう、アントワーヌは担いでいた麻袋をそっと降ろす。中にはぎっしり、黄金色のスコーンやマフィン。もぎたての香ばしい香りが辺りに漂う。
「…美味しそうだな…。」
「お茶会でも人気の王道のお菓子だからね、外すわけにはいかないだろ?」
なるほど、と感心するヨタカ。アントワーヌはこの後のお茶会をちゃんとイメージしながら収穫しているのだ。
(…俺も…頑張らないと…。)
実のところ、ヨタカはお菓子作りが得意ではない。あの手この手を尽くしても、どういう訳かすべて真っ黒に焦がしてしまう。だから材料集めは頑張ろうと心に決めて来たのだが。
(…皆が何を作るか知らなきゃ、何を集めたらいいか分からないよな…。)
「この調子でチョコレートなんかも採取したいね! お菓子を使うのに作れるし、ミルクに溶かして温めればホットチョコレートも作れそうだ!」
「…それだ!」
我、天啓を得たり。急いで手に入れようと探すうち、気付けばヨタカは板チョコの木の群生地に迷い込んでいた。どれを採ろうかと見回していると、木陰からゆらり、幽玄な影が躍る。
「おやァ、小鳥もチョコレートを採りに来たのかぃ?」
「…うん。でもこんなに沢山あると…違いが分からなくて……むぐっ。」
もぐり。口の中にチョコをひと欠片押し込められ、そのままむぐむぐ咀嚼する。舌の上に広がる甘さとほろ苦さは、チョコと言うより恋の味。
「こういうのは見てるより、食べた方が違いが分かりやすかろ?」
「…うん…。」
(…全然分からないよ…。だって…紫月が食べさせてくれたら、どんなチョコも…甘くなる、だろ…。)
「おはヨ! ……あレ?ボク何してたんだっケ」
寝ぼけ眼のままバウムクーヘンをはむっとつまみ食いするシェプに、後ろから大きな影が落ちる。ぬっ、と逞しい両腕が迫り――。
「目ぇ覚ましたか、シェプ」
「うン! よく眠れテ、元気いっぱイ!」
ジェイクに抱え上げられたシェプは、ぽすんと彼の肩の上に降ろされた。
広い背中、高い目線。肩車でご機嫌になったシェプにつられて、ジェイクも思わず破顔する。
「いい返事だ。それじゃあ有り余った体力で"アレ"に挑戦しようぜ」
●
こんな事をシェプに知られたら、子ども扱いするなと怒られるかもしれないが――俺は、子供が好きだ。近い将来、俺達夫婦の間にこんな素敵な子が授かれたらとさえ思う。
「チカラ入れたラ、牛サン痛がったりしなイ?」
「大丈夫だ。正しい絞り方さえすれば、痛くない。まずは根元を掴んでーー」
大きな乳牛を前に、シェプがおっかなびっくり手を伸ばす。その隣で助言を与えながら乳搾りをするジェイク。並ぶ二人は親子の様で。
「あッ! うまく絞れタ!」
「上手いぞシェプ! その調子だ!」
「混ざらなくていいのかぃ?」
鶏の体調管理を任されていた武器商人が作業の手を止めると、微笑む幻の姿が目に留まった。
「えぇ。つい見惚れてしまいまして」
「ヒヒッ。ジェイクの旦那、いい笑顔だよねェ。本当に子供が好きなようだ」
もしもこの先、夫婦として歩み続けたらーー期待せずにはいられない。あんな未来もあるのかと。
「いっぱい絞れタ! 手も洗ったヨ!」
「よし。こいつはご褒美だ」
「えッ、いいノー!?」
お菓子の国で採った飴は宝石のように美しいが、それ以上に価値ある物をジェイクはよく知っている。
(……やっぱ、子供の喜ぶ顔が一番の宝だ)
●
「なかなか帰って来ないなぁ」
店の掛け時計を見上げ、蒼矢は深く溜息をついた。彼が待ちくたびれて椅子に座り込んだ時――ギィ、と入り口の扉が開いて。
「ただいマー!」
帰ってきた六人の周りには……色とりどりの猫、猫、猫!
「もし。いと賢くしなやかな神の民、我(アタシ)達はお茶会の材料を集めに来たんだ。よければ此処の魅力を教えてくれないかぃ?」
そんな武器商人の挨拶から始まった『実りの谷』での交流は、谷暮らしの猫達を強く惹き付けるに至った。最初は草陰から様子を伺っていた彼らも、今ではこの通りだ。
別れを名残惜しむようににゃごにゃご、なごなご。鳴きながら去っていく猫達を見送ってから、さてとお料理担当達が各々気合を入れ始める。
「ここに置けばいいか?」
「申し訳ございません、ジェイク様。重い物を持たせてばかりで……」
「気にするな。代わりにとびきり美味いやつを頼む」
果実のぎっしり詰まった籠をカウンター奥へ運んでもらい、幻は服の袖を捲り上げる。
ミカンにバナナ、キウイにマンゴー。もいで来たフルーツをひとつひとつ丁寧に飾り切りし、作業の時に溢れた果実はシロップと混ぜてケーキの生地へ。材料を無駄にしない作り方は実に家庭的だ。すぐ隣では、武器商人がオーブンを温めている。
「林檎のいい香りがするね。アップルパイでも作るのかな?」
「ご名答。パイは焼成が命だからねェ。……さて、そろそろアレもどうにかしようか」
エプロン姿のアントワーヌと他愛のない会話をしている最中、武器商人が指した先では、すっかり落ち込んだ店主の姿。任せてとばかりに綺麗なウィンクをして、アントワーヌが手招きする。
「蒼矢君、泡立て器と鍋とマグカップを貸してくれるかい?」
「……! あ、うん。任せて!」
包丁でチョコレートを細かく刻んで、鍋に牛乳へ。優しく泡立て器で混ぜながらフツフツと沸騰させるのを待つ。
「これくらい温まったら丁度いいかな。火を止めて……。泡立て器で混ぜるから、少しずつチョコレートを入れていってくれるかい?」
言葉巧みに蒼矢を料理に巻き込み気を逸らすアントワーヌに、やるねぇと武器商人が笑う。憂いも無事に解決すれば、足元へ近づいてきたシェプの方へ手にした林檎を差し向けた。
「武器商人サン、あのネ――」
「たんと持ってお行き。あの谷で採れた林檎は実に美味しそうだ。入荷したいくらいだね」
「? ありがとウ」
まだ何も伝えていないのに望みの物を差し出され、シェプは狐に摘ままれたような表情で真っ赤な林檎を抱えて歩く。背の高い椅子によじ登り、踏み台にしてキッチンへと向き合えば、ここからが腕の見せ所だ。
「よーシ、どんどん頑張るノ! フルーツタルトにとろけるプリン、後は……」
「パンケーキを頼めるか?」
「任せテ! ふわふわなパンケーキのヒミツはあわあわのメレンゲ。農園でもらった卵で作るヨ!」
ジェイクのリクエストに快く応じた後は、パティシエ顔負けの手際の良さで複数のデザートを同時に作る。漂ってくるあまーい香りに、紅茶をブレンドしていたヨタカの頬が緩んだ。
「…お菓子が出来上がり始めてるね…楽しみだな…。」
どんなお菓子にも合う紅茶があるようにと、あれこれ想像が膨らんでいく。
クッキーやバターを使った焼き菓子には、ドライフルーツを使ったフレーバーティ。甘みが強めであれば濃厚な茶葉にミルクをふんだんに入れたミルクティーが良さそうだ。食料棚からコーンフレークを取り出そうと傍を通った幻が、不思議そうに首を傾げる。
「ティーパックを切ってしまうのですか?」
「…うん。ミルクティーは…お湯を使わずにミルクで抽出したくて…。散らして煮出した方が、紅茶のいい香りがする…から…。」
ハーブティーも用意しておこう。そう思って集められた食材からハーブを幾つか手に取って、ヨタカはある事に気付く。
「…なんか…ミントが多すぎる…ような?」
●
「さあ、シェプ。俺達の気持ちだ。沢山食べてくれ」
「わァーー! 頑張って作ったらとってもおなかすいちゃってたんダ! いただきまス!」
お店一番の特等席――ジェイクの膝の上に乗って、テーブルから零れんばかりに用意されたお菓子と飲み物にシェプはとっても幸せそうだ。まず目に留まったのは幻が作ったフルーツパフェ。フルーツジェルやケーキのスポンジ、コーンフレークで構成された層だけでなく、飾り切りされたフルーツまでもが美しい。もぐ、とてっぺんの苺を食べて咀嚼する姿を、アントワーヌが二度見する。
「……そういえばシェプ君、可愛い瞳しか見えないけど…口はどこなんだろうね?」
「ボクの口? ボク、目以外のところの顔ならどこからでも食べられるヨ」
交流が深まるほど不思議深まる食事情。
それはさておき、シェプが作ったお菓子も絶品だ。おまけに見た目も愛らしく。
「おや。この砂糖菓子の鳥は小鳥かぃ? ヒヒッ。愛らしいじゃあないか」
「うン! 皆の分を考えて作ったヨ!ジェイクサンには狼サン、幻サンなら蝶々サンでショ?ラクロスサンはバラの花デ、ボクはもちろん羊にしたヨ! それから――」
「もしかして、この鎌っぽいのは武器商人で……緑のカップは僕?」
己の分まで作って貰えるとは。これには蒼矢も感激だ!
「私達もいただきましょうか。アントワーヌ様のホットチョコレート、マシュマロも入って落ち着く甘さで御座いますね」
「紅茶もいい香りだヨ〜! 働いたあとの一杯は最高ダっておうちの周り(領地)の人が言ってたけど本当だネッ」
「…それは紅茶じゃない飲み物…のような、気が…。」
ぽつりとツッコミを口にしながら、ヨタカは目の前のアップルケーキを切り分けた。馴染みのある半月状の焼き林檎。口に入れればほろほろと、パイ生地が崩れて溶ける。
「んん…紫月の作ったタルトタタンはやはり…絶品だ…。」
「実はねェ、今日は新作もあるんだよ」
新作、と聞いて皆の視線が集まれば、テーブルに新しく並べられたのは――。
「……ア!」
"ボク、食べナビで紹介されてたチョコミントケーキ食べたイ!"
「あまり凝った物は作れないけど、味の雰囲気を楽しむ事はできよう」
優しさと甘みに包まれて、楽しい時間はまだまだ続くーー。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
ご指名ありがとうございました! ノベルマスターの芳董(ほうとう)です。
秋といえば食欲の秋、という訳でいろんなスイーツが楽しめそうな感じにしてみました。
●目標
お茶会を楽しむ
不思議なドアと化したカフェの扉から色んな場所でお菓子とその材料を手に入れ、お茶の時間を楽しみましょう。
集めた材料はカフェのキッチンを借りて自由に調理する事ができます。
●場所
現在、皆さんがいるのは異世界のCafe&Bar『Intersection』。ここが拠点となります。出入口の扉から、同じ世界の中の色々な国に飛べるようです。
Cafe&Bar『Intersection』
交差点がモチーフの飲食店。キッチンには一通り調理道具が並んでおり、飲み物なら種類はいろんな物があります。
『お菓子の国』
オープニングで紹介があったように、お菓子で出来た不思議な国です。クッキーやキャンディなど、気軽につまめるお菓子が沢山あります。
『ひだまり農園』
あたたかで肥沃な土地にある大きな農園です。人手不足で農夫が困っている様子。牛や鶏のお世話をすると、バターや卵、小麦など農園の収穫物を分けてもらえそうです。
『実りの谷』
いろいろなフルーツが実り、ハーブが生えた不思議な谷です。猫の獣種が住み着いており、仲良くなればその場でジュースも作ってくれます。
『その他』
行きたい所、手に入れたいものがあれば是非プレイングに書いてみてください。
●NPC
『境界案内人』神郷 蒼矢(しんごう あおや)
案内人としての仕事をする傍ら、Cafe&Bar『Intersection』のオーナーとしても活躍しています。粗忽者なのが玉にキズ。備品の用意や簡単な作業など、サポートに呼ばれれば手伝ってくれるようです。
説明は以上となります。それでは、よいお茶会を!
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