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シナリオ詳細

再現性東京2010:無ヶ丘の舞踏会

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――ねえねえ、知ってる?
 美術室のデッサン人形なんだけど、放課後になると舞踏会をするんだって!
 二人とも恥ずかしがり屋だから見られたら相手を殺しちゃうらしいの!――

 噂が飛び交っている。耳を欹て、椅子に座って待ちの姿勢。
 屹度、誰かが話しかけてくるはずだから。メモ帳とペンを片手にぴしりと背筋を伸ばす。
「なじみちゃん!」
 ほら、来た。
「ねえねえ、美術室のデッサン人形の噂知ってる?」
「ふっふっふーん。綾敷さんに聞いちゃうのだね?」
「聞いちゃうのだよ」
 それが綾敷・なじみの日常だった。希望ヶ浜地区の『普通』の高校、無ヶ丘(なしがおか)高校。
 一年B組。出席番号は勿論一番、常にベレー帽を被ったちょっぴりフシギな女の子。それこそが綾敷・なじみ、その人だ。
 たった一人だけのオカルト研究部。裏門には噂を募集するための投書箱――通称:怪談目安箱――を設置中。何時だって幽霊その他怪談には興味津々な幼心を忘れない女の子である。
「私が聞いたのはねえ。目安箱情報だけど、デッサン人形が人間サイズまで大きくなって美術室で踊っているけど、その姿を見たら学校の中を追いかけ回されちゃうんだって」
「ええ……なあにそれ」
「怖いでしょ? 怖いと行ってくれたまえ。まだ、なじみさんも調査段階なのだ」
 噂話に尾鰭を付ける誰かの言葉に常に皆飢えている。日常に浸りたいのにちょっとした非日常を探しているのだから――希望ヶ浜の住民は救えない。そういえば、始業のチャイムは鳴ったと言うのに教師は未だ姿を見せない。ざわめく教室に慌てて走り込んできた担任は「全校集会がある」とそう言った。

 ――校内で何者かに惨殺された美術部員の姿が見つかりました。


「――と、言うわけなのだよ」
 カフェローレットの片隅で、aPhoneを手にしている越智内 定(p3p009033)はこれでもかという程にげんなりした表情を見せた。

『ただしくん、今日は暇? カフェで待ってるよ!』

 そう、なじみからメッセージが来たときには心は躍っていた――が、どうせそういうことだと思っていたと溜息を吐く。此れも乗りかかった船だ。放置しておけば綾敷・なじみという少女は「じゃあ、一人で行ってくるね!」と行ってしまうのだ。
 偶然、たまたま、音呂木・ひよのにメールをしたついでに「そういえば高校の怪談とかは大丈夫?」と問うた定を思い出したのだろう。
「えーと、なじみさん……その、美術室の『デッサン人形の怪談』を解決したい、って事?」
「そう! なじみさん調べではデッサン人形は本当に大きくなってたし、目が合うと追いかけてくるのです」
「……どうして知ってるんだよ」
「……えへへ」
 ――さては、放課後に一人で行ったな、と定は思ったが口には出さなかった。

 聞けば、デッサン人形は二体。男と女が放課後はダンスを踊っているそうだ。
 彼等はデッサン人形だけ在って全裸である。それが恥ずかしくて自身を見た者を追いかけ回して絞め殺してしまうそうだ。
 動き回るデッサン人形の被害に遭ったのは美術部員が一人。ただ、真実味が増してきた噂話に面白がって『夜妖』を見に行く者が増えないとは限らない。
 こう言う時の希望ヶ浜の住民は精力的だ。自らが日常を望んだ割に、スリルを求めるようにちょっとした非日常に手を伸ばす。十代とはそう言う年齢なのかも知れないが……。
「これ以上、なじみさんの学校で被害が出るのも困るな。それに、なじみさんも『見てる』なら今後狙われる恐れはあるよね」
「モチです」
「じゃあ、討伐に向かうメンバーを案内してもらっても?」
「モチモチです」
「……全く、なじみさんはトラブルメーカーだぜ」
「けど、そういうなじみさんが可愛いぜって思う定くんなのであった」
 ……勝手なオチを付けるな!

GMコメント

アフターアクションありがとうございます! なじみさんの高校に潜入!

●成功条件
 夜妖の討伐。

●失敗条件
 神秘の秘匿に失敗する。

●無ヶ丘(なしがおか)高校
 希望ヶ浜地区に存在する普通の高校です。夜妖も魔法も何も知らずに日常を過ごしています。
 なじみはこの高校に通いますが、耳も尾も完璧に隠して普通の人間(ちょっと変わり者で愛嬌のある女の子)を装っています。
 時刻は放課後~夜。学生達が居残りしている可能性もあるので注意して下さい。
「これは着ぐるみ!」「演劇の練習!」程度でなんとなく切り抜けられます。なじみが馴染んでる位なので。

●夜妖『デッサン人形』
 男と女。二体です。脚力がものすごく、衣服を纏わぬ姿を見たことに酷くお怒りになって追いかけてきます。
 どうやら恋人同士のようです。男は物理攻撃を、女は神秘攻撃を得意としています。
 男はブレイクやBSも豊富に使います。女は回復を使用してきます。
 とにかく連携が上手です。憎たらしいほどにフォーリンラブ。……あと、踊っています。

●美術室
 デッサン人形のダンスホール会場は此方。
 何もせずに姿を見たらものすごい勢いで追いかけてきます。

●綾敷・なじみ(p3n000168)
 お馴染み夜妖憑き少女。無ヶ丘高校1年B組。出席番号は1番。普通の女の子の振りをした怪しい女の子。
 馴染んでるよ! が口癖の情報屋。猫鬼という夜妖が憑いており情報の信憑性が薄いのがちょっぴり不安。味方です。天真爛漫。戦闘能力は有してないようですが生存能力は夜妖憑きで有るため、ピカいちです。誰とでも友達気分で気安く話しかけてきます。
 尚、今回はデッサン人形を見てその生存能力を生かして一度撤退してきたようです。いつでも猪突猛進、危ない橋はジャンプで渡れ!

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

 ソレでは行ってらっしゃい!

  • 再現性東京2010:無ヶ丘の舞踏会完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年10月28日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ワルツ・アストリア(p3p000042)
†死を穿つ†
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
桐神 きり(p3p007718)
イスナーン(p3p008498)
不可視の
小烏 ひばり(p3p008786)
笑顔の配達人
越智内 定(p3p009033)
約束

リプレイ


「メッセージに喜び勇んで飛び付いたら依頼の話だった僕の気持ちが分かるかい?」
 デートのお誘いをされても困ってしまうけれど女の子に『時間ある?』なんて聞かれ方をすれば期待するもんだろと『綾敷さんのお友達』越智内 定(p3p009033)はがっくりと項垂れた。
 それでも定くんが居たと選択肢に自分が上がって、更に言えば連絡をくれた事には悪い気はしないし、まんざらでもない。そんなことを気取られたら何を言われるか分かったものじゃないと今日は「やれやれ、なじみさんも人使いが荒いぜ」と言っておくのだ。
「この前大変な目にあったのにまた、なじみさんは一人で調査してまったく仕方ないですね」
 肩を竦めて溜息を吐いたイスナーン(p3p008498)に綾敷・なじみは「じゃあ、イスナーンさんも今度手伝ってよ」と拗ねたように声を掛けている。イスナーンは「じゃあ、今回のお話を聞かせて貰えますか?」と今から駄々をこねるだろうなじみにストップをかけた。
「――ふーむ、動く人形ですか……この手の話だとよくある人体模型じゃ無くて良かったですよ、あれグロいですし」
 生物室や理科室に飾られている人体模型がひとりでに動き出して臓物を投げてくることがある。そんなうわさ話が存在する以上、今回は其方では無くて良かったと桐神 きり(p3p007718)はほっと一息吐いた。
「人体模型が動いて云々のデッサン人形版か。何というか、最近の夜妖はレパートリーが豊富だな?」
 何だって夜妖として顕現してくることがあるのだからおもしろいと言えばおもしろいのかと『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)はそう呟いた。それにしてもデッサン人形は男女セットでワルツを踊っているらしい。それも、室内で、だ。
 狙撃手である『紅擁』ワルツ・アストリア(p3p000042)にとって『室内戦』は中々慣れないものだ。しかも、今回はローレットでの初陣なのだから緊張もする。
「美術室が広ければいいんだけど……!」
「あ、広かったよー!」
「あ、見てきたのよね。そう……なら腕の見せ所って奴なのかしら?」
 ワルツににんまり微笑んだなじみ。此れはやる気の見せ所、とグラオ・クローネのチョコレートをコーティングした菓子を齧って集中力を高め続ける。
「デッサン人形さんは脚力が凄いとお聞きしました!」
 追いかけっこもしてみたかったです、と眸をきらりと輝かせたのは『想い出渡り鳥』小烏 ひばり(p3p008786)。
「脚力も凄いらしいですけど、見ただけで殺しにくるらしいですよ。放置は出来ませんね。
 ……それに何より、連中リア充みたいですから、斬り捨てられるのには十分な理由でしょう、うん」
 頷くきりにひばりは首を傾げる。リア充と呟いた『策士』リアナル・マギサ・メーヴィン(p3p002906)は「……こいつらクリスマス近くじゃなくて良かったな。無残な姿にされてたのでは?」と『夜妖より怖そうな恨み嫉み』を思いぶるりと震えた。
「……まぁいいか。こいつらがどうなっても。全裸でイチャイチャするのが悪いのでは」
 そんなリア充なら倒されても致し方なしという判断が横行する中で、『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)は少し悩ましげであった。
 聞けばラブラブカップルが夜な夜な二人で『秘密のダンスパーティー』を行っているそうなのだ。そんな放課後の秘密だなんて、とても良い。
「ラブラブカップルかー、倒すの偲びないですが……なんて言ってられないですね、人的被害が出てる以上」
 ラブラブカップルを肯定してくれるウィズィの事を、きっとデッサン人形達はとても好ましく思っただろう。……多分。


 見つかったならば演劇の練習中。其れこそが『普通の高校』へと潜入するときのお約束だ。
「うんうん、どこからどう見ても白き正義の魔砲使いだしね! ふふん」
 ドヤっと笑顔を見せたワルツ。猫の耳と尻尾を隠した汰磨羈はファミリアーの猫と自身のギフトで召喚された小さな黒猫を連れ歩く。ウィズィのファミリアーの烏と連携すれば前準備は万端だ。
 事前になじみへと『お願い』しておいた美術室のスペース確保にカーテン閉めはきっちりと完遂できたようで、彼女はウィズィに「褒めてー!」とにんまりと微笑んだ。
「有難うございます。さて! 放課後の状況は?」
「そうですね……。なじみさんに着いていって職員室の状況なども確認しましたが、今日は美術室は貸し切り状態に出来てるみたいです。とりあえずは、なじみさんのお手柄と言うことで」
 きりの褒める言葉に「やったー」と両手を挙げて万歳するなじみ。此れから『戦闘が行われる』とは思えない様子だ。放課後の戦闘中の見張り役もお願いしたいと告げるきりは「大役ですよ」となじみを励ました。
「さて、今回はと言えば見られると襲ってくるデッサン人形ですか……。
 彼らは見られるのが仕事みたいなものだと思いますが全身タイツでも着せてあげればデッサン人形としての機能を損なずに隠せるので大人しくなるでしょうか?」
「そもそも全裸でダンスしてる時点で見てくれと言っているような物では」
 イスナーンへとリアナルがげんなりした様子で告げた。リア充はクリスマスには淘汰されるのだから爆発しろと叫ぶ面々が来なかっただけマシだと思って欲しいと、どこか遠い目をしている。
「美術室近辺に生徒指導の先生が張り込みを行っていると言う話や、希望ヶ浜の市街にアイドルが来ているとう『噂話』を流しておいたんですが……正解みたいですね?」
 希望ヶ浜地区の人間は噂話が大好きだ。それ故に、夜妖の情報収集がなじみでも容易に行えるのかも知れないが……。
「美術室とは正反対の位置にあった家庭科室の都市伝説を話しておきました!
 言いくるめられたと思いますし、必要か分かりませんが被服室から大きめの布を2枚と安全ピンをゲットしてきました!」
 ひばりがにんまりと微笑む。デッサン人形への肝試し、目的の人間には既に部屋に居ないと告げれば良い。それだけでも『恐ろしい事が起っている』と認識させることが出来るはずだ。美術室の大掃除を行うための貸し切りをより理解して貰えるためにと定は『取り込み中』の看板を立てておいた。
「あ、そうだ。部屋が壊れないようにしないとな……。
 うおおお来たれ! 保護結界! ……これ効いてる? 大丈夫?」
 定が『ぎぎぎ』と音が立ちそうな程に小っ恥ずかしそうに仲間を振り返る。
「おっちーさんの保護結界、ばっちりですよ!」とウィズィが微笑んだその表情に「あ、うん」と小さく呟いた。


 くるり、くるりとダンスを踊っている。リズミカルに踊る其れを照準へ――
「のっぺらのデッサン人形が襲い掛かってくるだなんて、夢でも御免な光景だけど!」
 のっぺら坊が踊っていると思えばこれ程怖いことは無い。ワルツは後方より愛銃、Cauterizeの引き金を引いた。魔力駆動、大口径スナイパーライフルの中で魔力が赫々たる色を灯す。
「灼け――! カータライズ!」
 ダンスでその身を『逸らした』その場所へと、マジックミサイルが飛び込んだ。弾丸の形をして、飛び込んでいく。
 汰磨羈は靱やかに美術室の中を掛けた。幾重にも重ねる刃は太極の魔力を伴い女のデッサン人形へと叩き込まれる。まるで、愛しい人を護るようにぐるりと交差した男が手を伸ばす。
 たん、と地を踏締めて扇を大きく揺らしたリアナルは小さな溜息を吐く。改造巫女服は踊るに適す。戦いの教本たるその戦闘の極意を授けるように――リアナルの頭上に昇るのは闇の月。まるで貪り蝕む闇の色に飲まれるようにデッサン人形がぎこちなく其の躯を固まらす。
「さ、私の領域内だ。容易い戦闘をできると思うなよ?」
 リアナルのサポートを得て、ウィズィは地を蹴った。マギウス・シオン・ジャナフ――それは愛しい人の魔力を火種にして全身へと爆発的に駆け巡る『力』。それが在れば、何処へだっていけるのだと翼を広げるように飛び込んだ。
「さあ、Step on it!! 二人仲良く眠りなさい!」
 声を張る。そして、二体を受け止めて、ウィズィの爪先がキュッと音を立てる。教室の床を滑った靴裏が地を蹴ったと同時にハーロヴィット・トゥユーは淡く魔力を灯した。
「私の必殺技――つまりは、通常攻撃! これまで紡いだ縁がこれからを照らす光となり、振るうべき最善の一刀を教えてくれる……カップルを倒すには皮肉な技ですが、それはそれ」
 寧ろカップルだかこんな眼にあるんだろうという認識のきりは血桜の切っ先をデッサン人形へと向ける。妖気を纏った肉体が強固な力に僅かに軋む。
「やることは単純明快。ぼこぼこにするだけですからねー。まあ、連中はリア充です。殴りましょう」
「二体の間を引き裂く僕たちの方が悪者の様な気がしてくるけれど、今後なじみさんが狙われても困るから不可抗力!」
 定に「そうですね」と頷くきり。どうしてリア充が狙われるんだろうとぱちりと瞬いたひばりは鬼ごっこも楽しそうだけれどと、攻撃重ね――

『た、たすけてーきりちゃーん』
 パーティチャットを通じてなじみからの謎のSOSが入る。きりは「越智内さん、なじみさんからの呼び出しです」と声を掛けた。因みに、何が起っているかと言えば、生活指導の先生が「綾敷は何をしているんだ」と近寄ってきたのである。
「こっちは任せて、おっちーさんは行って下さい!」
 ウィズィに定が大きく頷く。ぐりん、ぐりんと音を立ててダンスを行い続けるデッサン人形へと速力を活かして飛び込んだイスナーンは「出来る限り此方は静かに戦います」と頷く。
「猫の可愛さに掛かれば、この位はお茶の子さいさいよ」
 足下に纏わり付いた猫を相手にする生徒指導の先生。その様子を確認しながらも、汰磨羈は教師が来るかどうかは中々に止められない物だと呟いた。
「美術室の大掃除! 騒音でごめんなさい、とお伝え下さい!」
 夜妖がうろうろと徘徊せぬようにと幾重にも渡って攻撃を重ねるひばりに大きく頷いて定は廊下へと飛び出した。生活指導の教員に「大掃除なのだよ! 本当です!」と慌てたように告げるなじみの下へと定は飛び込んだ。
「なじみさん!?」
 慌てたように定が飛び出した――が、その姿を見てなじみと生徒指導の教員・橘は目を丸くする。
「先生、僕の恰好を見て分かりませんか」
 ――ホットパンツのバニースーツですよ。
 なじみがそう言って定を指さした。橘先生は「は、はあ」と拍子抜けしたように呟く。
「ホットパンツのバニースーツですよ!!」
 此処まで会えて触れなかったこの姿。橘先生はなじみへと「友達か」と問い掛ける。途轍もなくぎこちなく頷くなじみに定は影を背負って囁いた。
「先生……今芸術活動で仕方なくこの格好なんです。芸術は爆発なんです。
 爆発とは即ち衝動、多少の物音は仕方ないと思いませんか?」
「あ、ああ……そうだな……それじゃあ、もう少し、静かにな。うん、あと、綾敷、友達に風邪を引かせないようにな」
「分かって貰えて良かったです、それでは」
 そそくさと去って行く橘先生の背中を見送ってから定は傍らのなじみを見遣る。
「何だよなじみさん。言いたい事が有っても言うんじゃないぜ。じゃ、僕は人形を倒してくるからさ」


 ――きりちゃん! どうしよう、定くん、セクシーになってる!

 なんて、ギフトを通じて声を掛けられれば笑うしか無い。ふ、と思わず笑みを漏らしたきりの様子を伺ってひばりが首を傾げる。
「あれっ、凄くセクシーな格好ですね!」
 なじみと同じく、ひばりも定を見てそう言った。ホットパンツのバニースーツを着用している定が風邪などを引かぬように心配をしている。
「もう触れないで」と定は言った。リアナルは「似合っているよ」と明後日を見ながらそう言う。
「イスナーンさんや定さんが突飛な格好をしたら確かに先生も逃げますよね」
「……まあ、そうだろうな」
 きりの疑問にイスナーンも確かに、と頷く。何が何だか分からないが突然バニースーツを着用した男子生徒(名前も分からない!)が出てきたら混乱するというものだ。インパクトが強い。ここで、汰磨羈が出てきてもセクシーなお店が美術室で開店していると更なる混乱を与えたかも知れない……と其処まで会話しながら、リアナルははっとしたようにデッサン人形を見遣る。
「というか、恥ずかしいなら服を着るなり隠すなりなんなりすれば良いのでは? 踊ってる場合じゃなくね?!」
 どうしてみた側に責任を感じさせるんだ、とリアナルは解せぬと叫んだ。その言葉にワルツは「確かにー!?」と大きく頷く。魔力の弾丸を放つ彼女の傍より飛び込んだのはイスナーン。
 速力は何よりも素晴らしい武器となる。女のデッサン人形の躯を受け止めていたウィズィがその身を僅かに逸らせば、大げさなほどにデッサン人形が『ごろり』と転ぶ。
 その隙を見逃すこと無く
 汰磨羈は地を蹴った。例え、どれだけ『面白おかしく』感じられても人の命を脅かした存在だ。陰陽二極の力を込めた太極霊刃は雲耀の速さを伴いでっさ人形を吹き飛ばす。
「殺しをした以上、御主等は厄だ。ならば、厄狩として御主等を屠るのみ!」
 幾重にも重なる斬撃にデッサン人形がぴたり、と動かなくなる。次は男の方だ、と単純な戦闘であれど気を抜くこと無くきりがすう、と息を吸った。
 剣の切っ先は狂うことが無い。飛び込む彼女に続き、ワルツの魔力弾が重ねられていく。
「それにしても、デッサン人形も夜半に踊れば良いものの……」
 呟く汰磨羈に「我慢できなくなったんでしょうね」とウィズィは小さく笑った。放課後までお預けされたから、楽しいダンスパーティーを行いたかったのだろうと『カップルを引き裂くこと』を謝罪する彼女の隣で、リアナルは「まあ……一度くらい非リアの爆発具合を感じて貰っても良いだろう」と呟いた。無論、きりも其れには頷く。クリスマスじゃ無くて、本当に良かったと二人は重ねた。
「まあ、そうだね。うん。その通りだ。この仕事があったからなじみさんから連絡が来たけど、彼女のさっきの目を見た?」
「おっちーさん、ドンマイ」
「ううん……」
 呻いた定にウィズィは小さく笑う。楽しい会話もそろそろ終盤だ。男のデッサン人形も其の動きが鈍くなる。無数に攻撃を重ね――ついでに、生活指導の先生も退避を完了した――終幕を与えなくてはならない。
「それじゃ、覚悟しなさい!」
 堂々と、そう叫んだのはワルツ。其の弾丸が飛び込むのを追いかけて、ウィズィの『必殺技』、そしてひばりの一撃がデッサン人形へと飛び込んだ。


「人形でも恥ずかしがるものなのね。気持ちは分かるけど。
 ……あー疲れた、甘い物摂らなきゃ。みんなも食べる?」
 欲しいです、とひばりは挙手をする。小さく息を吐き、掃除の準備を整えるきりの傍で「美味しそうですね」とウィズィが微笑んだ。
「そうなの。これは、練達で売ってるお菓子なんだけど……本当にオススメで……アッ、ほら、集中力を高めるには甘い物が良いでしょう?」
 つん、とした態度を取ったワルツは良ければどうぞ、と自身の愛好品を差し出した。
 散らかった美術室を片付けてデッサン人形を先程までのダンスの形へと作り替えたイスナーンは音楽を流し絵を描こうとして――ふと、ひばりが「良いですか?」と挙手をする。
「ええっと、デッサン人形さんにお願いがあるのですが!」
 夜妖でなくなったとしても――きっと『恥ずかしい気持ち』は消えないのだ。美術室の掃除を行っていたひばりは布と安全ピンでギリシャのトーガ風に着せ替えた。ついでに、布の巻き方を説明した手順書も準備し置いておく。
「これで恥ずかしくないですね!」
 にんまりと微笑んだひばりに「良い服じゃん」と定は笑った。踊っているのを見られたって屹度恥ずかしい思いをしない。けれど――今回一番踊っていたのは自分で、踊っていた場所はなじみの掌だけど、と定は小さく呟いた。

成否

成功

MVP

小烏 ひばり(p3p008786)
笑顔の配達人

状態異常

なし

あとがき

 お洋服有難う御座いました!(MVPです!)

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