シナリオ詳細
子供達を導く『聖女』
オープニング
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天義……聖教国ネメシスの首都フォン・ルーベルグより離れた海沿いに、『アドラステイア』と呼ばれる都市がある。
その場所は天義にあって高い円形の塀が建てられており、閉鎖的な印象を抱かせる。
内部は冠位魔種ベアトリーチェ・ラ・レーテによる『大いなる災い』を経て、信ずる神を違えた者達の拠り所となっている。
多くは戦争孤児や難民となった子供達であり、彼ら自身や一部の大人が新たな神を掲げる独立国家となっている。
――我らが新しき神が許に、致命者を送り届けん!
――我らが父と母の教育に感謝を!
子供達は口々にそう叫ぶ。
狂える大人によって染まりしその思想は過激さを増し、同じ子供達ですらも互いを蹴落とす抗争も発生しているという。
ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……。
ぼろぼろの衣服を纏った少女が必死に走る。
その表情には絶望しか感じさせない。つい数日前までは一緒に新たな神を信仰していたはずの同じ境遇の友達だったはず。
アイネも、エミリアも、ロイも、クスタヴィも皆、皆。
「そいつは神に背いた魔女だ!」
「魔女は張りつけ、火あぶりだ」
「断罪すべし、エルシは魔女だ!」
目の色を変えて追ってくるかつての友達。
だが、彼らはもう自分を友だと思わず、異端者として命を奪いつくすまで拷問を繰り返すのだろう。
なんとか物陰へと身を顰め、追ってくる子供達をやり過ごす少女エルシ。
だが、別方向から、集団の足音が聞こえてくる。
歩く度に金属の鎧が音を立てる。それは、『聖銃士』と呼ばれる子供達であることを少女はすぐ察する。
「も、もう、逃げられない……」
蹲る彼女はその身を震わせる。
仮に逃げたとしても……。「マザー」は私を許しはしないだろう。あの笑顔がどう変わるか、私は知っている。
異端となった者には例え慈愛を持って接していた子供でさえ、躊躇なく拷問にかけて廃人スレスレになるまで神の教えをその身に叩き込む。
中には発狂した子や、最悪命を絶ってしまった子もいたことを私は知っている。
――ダッテ、ワタシモヤッテイタコトナノダカラ。
眼から光が失われたエルシがナイフを見つめ、身を震わせる。
アドレステイアから外に出ても、寄り辺などない。
近づいてくる足音を聞きながら、ああ、今度は私の番なんだと、彼女は諦観するのだった。
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幻想ローレットに届けられた天義の近況の中に、アドラステイアという独立都市の話がある。
「どうも、この都市、きな臭くてね」
『海賊淑女』オリヴィア・ミラン(p3n000011)が情報屋から聞いた話をイレギュラーズ達へと伝える。
この都市では『新たな神』が創造され、多くの子供達がこの都市内で中央から届けられる配給物資によって暮らしているのだという。
「それを得るにはキシェフという『神様の為に奉仕した証』が必要なのだそうだ」
銅製のコイン状をしており、それを得る為に子供達は日々魔女裁判を行っているという情報もある。
多くのキシェフを得た子供は『聖銃士』と呼ばれ、称号と鎧を与えられるのだとか。
「アタシも探りを入れているんだが、かなり骨の折れる状況でね」
何せアドラステイアは高い塀に覆われている。潜入するだけでも大変なのだ。
オリヴィアはその一部に分かりづらい穴を開け、そこを通ることでしばらく潜入調査を行っていたのだが、その協力を願いたいという。
「アタシが調べていたのは、マザー・マリアンヌと呼ばれる女性のことさ」
アドラステイアの下層で、子供達を導いているという人間種女性。
血に濡れたシスター服を着用しており、手枷足枷をしているのが特徴的なのだとか。
アドラステイア内部の調査を進めつつ、この女性についても情報を増やすことができれば幸いだとオリヴィアは語る。
「現地まではアタシが案内する。どうかよろしく頼んだよ」
オリヴィアの依頼を受け、ローレットイレギュラーズ達は一路天義へ。
海沿いの都市、アドラステイア内部へと潜入を行う。
●
その女性はかつて「聖女」と呼ばれていた。
彼女の纏う修道服は決して消えることのない赤い血がこびりついており、異端者狩りを行っていた過去を窺わせる。
ただ、『大いなる災い』が女性を大きく変えた。
「…………」
マザー・マリアンヌは自らに課した手枷に視線を落とす。脚にも同様の枷を掛けていたのは、今信じる神への信仰の証。
それを再確認しながらも、彼女は今日もファルマコンへと祈りを捧げる。
そんな彼女の耳に届いたのは、自分が面倒を見ている子供達の中から、魔女が見つかったという話。
「あらゆる手段を使い、魔女を捕えなさい」
彼女はそう聖銃士達へと指示を出し、自らも街へと繰り出して魔女の捜索へと当たる。
マザー・マリアンヌの指示を受けたアドラステアの騎士……『聖銃士』達は、街中を駆けて魔女とされた少女を探す。
「「いたぞ!!」」
「ひっ……!」
小さく悲鳴を上げた少女を、聖銃士達が追っていく。丁度、向こうからも少女の知人だった者達が彼女を追ってきていた。
丁度、路地にいた少女を聖銃士と子供達とて挟む形。
そこへと駆けつけたのは、ローレットイレギュラーズ達だ。
まだアドラステイアについて分からぬことの多いメンバー達であるが、この少女を救出することで都市内の実状が聞きだせるかもしれない。
そう考えながらも、一行はまず子供達の撃退へと当たり始めるのである。
- 子供達を導く『聖女』完了
- GM名なちゅい
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年10月21日 22時26分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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天義内にある高い壁に囲まれた独立都市『アドラステイア』。
オリヴィア・ミラン(p3n000011)の助けを得たイレギュラーズ達は、この都市の実状を調べるべく内部へと潜入する。
「『騎士』って呼ばれてるけど、ここにいるのはみんな子どもだ……」
ボロボロの服を纏った『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)が周囲を歩く住民達を見れば、皆ティーンにも至らぬ子供達ばかり。
「アドラステイアは間違っていると、僕は断言出来るっスよ」
以前、来たことがあるピンクの髪をサイドテールにした『天義の希望』ミリヤム・ドリーミング(p3p007247)が言うには、夢も希望もない地獄とのこと。
「子は宝ですのに、魔女狩りですか」
常に瞳を閉じ、笑みを浮かべる『ホワイトウィドウ』コロナ(p3p006487)だが、彼女もまたこの都市の状況を憂う。
「同じ子ども同士で追いかけたり、捕まえさせたり、殺したりするなんて……やっぱこの街はおかしいよ」
「――ええ、歪んでいますね。ここの在り方は」
話に聞く子供達同士の抗争の話にリュコスが表情を陰らせると、幼い女性の姿をした旅人、『緋い月の』アンジェリカ(p3p009116)もまた険しい表情で強い解決の意思を示す。
「取っ掛かりの依頼でココ来た時は、ハッキリ言って超油断した」
戦士風の見た目をした青年、『鬨の声』コラバポス 夏子(p3p000808)はすでにこの地の依頼へとすでに参加済み。
その際、根っこの方まで洗脳などバカな話はないだろうと彼は考えていたのだが……。
「己の浅慮甚だしい。迂闊も迂闊、逆だった」
子供だからこそハマってしまうと、夏子は語る。気を引き締めねば、やられるのはこちらの方だ。
天義出身のコロナは、現在の天義に全てを救う余力も、全てを見通す力もないことを認めてから続ける。
「それでも、この都市の状況は間違っていると思いますね……」
子供は笑顔であるべきで、手に刃、顔に憤怒を張りつけて動くのは正しいとは思えないと、コロナは確固たる信念を抱く。
そんな中、ミリヤムは何か予感めいたものを感じていて。
(それにしてもマザー・マリアンヌ……いや、まさかマリアパイセンだったりしませんよね?)
彼女が聖女であった時の先輩であり、最狂の「血塗れ聖女」。
「……ハァ……病む……」
もはや口癖になった言葉を吐きつつ、ミリヤムは仲間を追っていく。
都市内の実状を探る面々はさらに調査を続ける。
皆が気にしていたのは、通称「魔女狩り」と呼ばれる行為。
この都市で崇拝される「ファルマコン」への信仰が薄れた子供がターゲットとなり、昨日まで仲間だった者達から捕えられることとなる。
「これは……」
「誰かが助けを求めて……」
アンジェリカが上空に飛ばしたファミリアーの小鳥が視認し、コロナが人助けセンサーで助けを求める声を感知する。
一行がそちらへと急行すれば、子供達の集団から逃れる少女の姿を発見する。
「あの子も……はやく助けないと」
「友達を信じられない様な居場所も、信仰の為に弱い者を虐げる騎士も、間違ってる……見過ごしておけない……!」
リュコスの声に、小柄な騎士の少年、『 Cavaliere coraggioso』シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)が同意する。
目の色を変えて追ってくる子供達を、身体の大半を包帯で覆った『破滅を滅ぼす者』R.R.(p3p000021)が見つめる。
R.R.が見るに、子供達とて悪徳の子というわけではなく、今を生きる為にそうしているに過ぎない。
「それは俺の言う所の『破滅』ではありえないが……、俺達も目的の為に戦わねばならない」
この閉鎖された都市に生きる子供達から事情を聴くことは、イレギュラーズとして行う調査を大きく進めるのは間違いない。
「急いで、あの子の無事を確保するよ!」
「こんな場所で助けを待ってる子供を救わないなんて事ありえないっス」
毛先に向けて水色から黄緑へと変色した髪をポニーテールとした『夜を照らす光』ハルア・フィーン(p3p007983)が駆け出せば、ミリヤムが続く。
皆、少女の保護に動く中、あれこれと考えていた夏子も理不尽に奪われそうになっている命を守ろうと動き出す。
「何れにせよ関わると決めた以上、務めは果たしてみせましょう」
どんな事情があれど、子供達に手を上げることは避けられない。アンジェリカもまた割り切りながらも仲間達を追うのだった。
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追いかけられている少女を保護すべく、イレギュラーズ達は駆け出す。
「そぉ~らそらそら、奪還だぁ!」
夏子はボロボロの衣服を纏う下層の子供達を軽槍で吹き飛ばしつつ道を切り開き、少女の保護に当たる。
「退けよ……俺があんた達を滅ぼす前に!」
さらに、その子供達を少し後方に陣取るR.R.が集中して狙撃し、少女保護の為に突入する前衛メンバーを支援する。
そちらへと子供達の注意が向いている間に、リュコスは高く跳躍する。
ハルアも最も少女に近づいた子供へと空中殺法を叩き込んだが、向かい来るアドラステアの騎士に気付いたハルアは子供達の頭上を飛行して飛び越えた。
「助けにきたよ。話はあとで、急ごう」
地面へと降り立ったハルアが真っ先に声をかける。
続いて、彼女を護るべくやってきた夏子が追ってくる子供達の引き付けを行うことに。
「本物の魔女なら自力で解決してらぁな?」
「うるさい、よそ者は邪魔すんな!」
ナイフを振り上げ、銃を向けてくる子供達を再び、夏子は大きく振るった槍で吹き飛ばしていく。
その間を、後続のイレギュラーズ達が駆けてくる。
「幼気な少女を守ってこそのアイドル! 僕こそさいきょ-に可愛いアイドル、ミリヤム・ドリーミングっス! よろしく☆」
前衛に追いついたミリヤムがドヤ顔で言い放ち、皆とでエルシや仲間を庇えるように位置取る。そこに子供や騎士が群がり、ミリヤムへと攻撃を開始していた。
「あの……」
「もう大丈夫です、貴女の事は私達が必ず守ってみせますから」
アンジェリカもまた優しい言葉を少女へとかけてから、子供達へと向き直り、少女の庇いに当たって。
「――余計な怪我をしたくないのであれば退いて下さい」
さらに、コロナも子供達を纏めて撃退を行おうとする中で、ふと考える。
(もしかして、人助けセンサーで子供達の本当の意思もわかるのでは?)
もし、本心は助けを求めているなら……。
「……本当は皆さん、友達を殺したくはないのでは? 誰とは言いませんけど……」
点数稼ぎをせねば明日は我が身とはいえ、子供達とて元々は仲間だった者に手をかける罪悪感もあったようだ。
少しでも動揺を感じ取った相手に、コロナは神聖なる光を叩き込んで昏倒させようとする。
「あっ……」
少女も思わずそれに声を上げる。自分を殺そうと刃を向けてきた仲間達が倒れる姿に思うことがあったらしい。
「名前は?」
そこで、シャルティエが少女へと問いかけた。
「……エルシ」
「エルシちゃん、少し下がってて」
そうは言うが、シャルティエも向かい来る子供達に威圧感を覚えて僅かに身を震わせる。
(……怖がってなんて、いられないんだ……!)
シャルティエも前衛の1人として、しばらく子供達の引き付けに当たる。
「あなたにあったかい食べ物を届けようって来たの」
ハルアが改めて介入して助けに入った理由をそう告げ、子供達へとその身一つで向かっていく。
この場はハルアが主に少女エルシの傍について護る。
(うまく、保護と合流ができたのはいいのですが……)
アンジェリカも戦況を気にはかけていたが、さすがに通りの両サイドから攻め立てられる状況では、エルシをこの場から逃がすことは難しい。
そこで、夏子が子供達を抑えながらエルシを気にかけて。
「そのナイフは自分を守る為に握るんだ」
エルシは小さく頷き、ナイフをしっかりと握りしめるのだった。
●
さて、その夏子は主に下層の子供達の引き付けに当たっていて。
「我々が抵抗する理由? 悪魔の使いって事にする? ソレってどういう事か 解るよねぇ」
「うるさい!!」
子供達は夏子の言葉を払いのけるように、攻撃を行う。
夏子もまだ子供達が元気だと感じ、仲間達の範囲攻撃に巻き込めるようにと槍を叩きつけて大きく吹っ飛ばしていく。
その子供達を含め、シャルティエが名乗りを上げて引き付ける。
「こんな事は間違ってるって。あの子や君達は友達じゃないのか」
「もう、友達じゃない……!」
発砲してくる子供達へとシャルティエは影を残像の如く展開し、倒してしまう。
(安易に子供達を殺したら、今後アドラステイアの子供達を救うのに支障が出てしまう……)
事前にそう言っていたのは夏子だけでなく、皆も子供達を殺すのは嫌なはず。もちろん、シャルティエ自身だって……。
(……だから、多くを救える様に戦おう。僕にそんな事出来るかは……分からないけど)
シャルティエもまた気を失わせる程度に留め、向かい来る子供達だけを相手にし続ける。
「僕は……僕達は、君達を殺したくないんだ! だから、早く退いてよ……!」
しかしながら、子供達は武器を収める素振りはない。逆側で騎士となった子供達がいることも少なからず理由としてあるのだろう。
騎士となれば、それだけでこの都市では恩恵を得られる。その為には……、生きる為にはやむを得ないことなのだろう。
ドヤ顔のミリヤムもまた、騎士と子供達を纏めて引き付けていた。
そんな彼女に子供達も妙に苛立ちながらもナイフや長剣を握る手を強めて刃を振るってくる。
「気合い入れるっスよ!」
両サイドから襲われる形となっていた彼女は涙を浮かべていたが、ぐっと堪えていた。
「お怪我は大丈夫ですか?」
序盤、敵の攻撃を庇いにも当たっていたアンジェリカは後方へと下がり、前線の仲間のバックアップに移る。
いくら子供達とて、その手にある武器は殺傷力を十分持っており、前線の仲間達は相手にする子供達の数もあって、瞬く間に傷を深めていく。
そこで、アンジェリカも治癒魔術で個別に仲間を癒してから、改めて子供達を見据えて。
「向かってくると言うのであれば私もまた相応の対応を取らせていただきます」
アンジェリカは後方に位置取ったまま、絶望の海を子供達へと歌い聞かせていく。
敵対する相手は都市の子供達のみ。ならばこそ、アンジェリカも戦闘不能に留められるようにと配慮しながら戦いを進める。
仲間達が耐えている間にリュコスは子供達へと斬り込み、乱戦状態の戦場で下層の子供も騎士の子供も問わずチェーンソーで乱撃を浴びせかけていく。
(相手も同じ子どもたちだ……)
リュコスもまた命を奪わぬようにと急所を外し、武器を狙って無力化をはかる。
ハルアもまた、同じく多くの子供を巻き込み、自らの格闘術「月晶風舞」で乱舞を叩き込んでいく。
「正しさで誰かを責めるのは気持ちいい。でも、自分の心はそんな自分をなにより見てる」
この都市の異様さに心を縛られた子供達に、ハルアは一粒涙を零す。
彼女は近場にいるエルシを護りながらも、軽やかに宙を飛んで子供達を翻弄しつつ、心まっすぐ動揺を感じさせぬよう果敢に攻め立てる。
R.R.のみ、前方の戦場から大きく距離を維持したまま、魔弾を叩き込む。
「辛いか、苦しいか。なら寝ていろ、命までも奪うつもりはない」
魔弾に苦しむ子供達の無力化に努め、R.R.は手足を撃ち抜いて気絶させていく。
「天義の扉は開かれています。信仰に迷ったならこちらに戻りなさいな」
仲間達の攻撃で傷つく子供達へとコロナが優しく呼びかけるが、抵抗は止まらない。
「しかし今は、眠りなさい」
神気を七星剣へと集めたコロナは周囲へと放ち、戦う子供らを倒していくのである。
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本気で相手にするイレギュラーズに対し、武装しただけの子供達が相手になるはずもない。
「誰の助けも来ないトコで ゆっくり始末するのが好きでよぉ……?」
ただ、夏子がハッタリを交えて子供達を叩き飛ばすが、撤退する素振りは見せない。
アンジェリカは回復と攻撃が半々。下層の子供達の多くが倒れてきており、そちらへと魔力を放出して無力化をはかる。
「さあ、行きますよ。偽りの楽園よさらば」
残る騎士達も含め、コロナは煽り文句を残してさらに神気を放つ。
味方はもちろんのこと、子供達をも誰一人として命を奪うことなく切り抜けようとする。
残りがほぼ騎士のみとなり、リュコスは機動させずにチェーンソーのグリップ部分を叩き込んで1人を気絶させてから、泣きそうになりながら訴えかける。
「君たちの中で一番強い子でも倒せてしまうから……お願い。これ以上痛い思いをする前にやめて」
だが、そんなリュコスの訴えもむなしく、子供達は最後まで立ち向かってくる。
R.R.も少し近づいて支援攻撃をと狙撃を続け、続けてシャルティエが液状金属を棒状にして慈悲を帯びた一撃を叩き込み、気絶させる。
夏子はできるだけ情報を得るべく、一番近くまで接近した子供達へとこう囁きかけていて。
「マザーの密命に背く心算か?」
「僕達がマザーにさからうものか!」
怒りに身を任せ、騎士が長剣で切りかかってくる。
そこで、タンク役となっていたミリヤムが絶望の青を歌って追撃し、その子の意識を奪ってしまう。
「あなた達を殺したくない。でも、命のやりとりに手加減はできない」
自身と変わらないような子供達。教えられたことを護る真摯な子供達。
心に血が流れそうに苦しくても、ハルアは残り少なくなった騎士へと凛然と言い放つ。
「ボク達を退かせず戦う限り、あなた達に立ち向かう」
それでも向かい来る最後の騎士へ、ハルアは首元に手刀を叩き込んで卒倒させてしまう。
全ての子供達を倒したところで、この場を離れようとする一行だったが……。
「……こちらに誰かが来ます」
ファミリアーの小鳥で監視していたアンジェリカが仲間達へと警戒を促すと、通りの向こうから手足に枷をかけた修道服姿の女性がゆっくりと歩いてくる。
そして、その修道服はあちらこちらに血がこびりついていて……。
「なんか怖いよ!」
思わずリュコスが叫んだことで下層の子供達数人が目を覚まし、マザーがいらしたと微笑む。
「げぇ! マリアパイセン!?」
「ミリヤム、貴方でしたか」
優しく、そしてどこか冷たい声の女性に、珍しく真顔になったミリヤムが問いかける。
「いや……マリアンヌ・サリエルさん……誰よりも神の狂信者だった人が何故こんな所に居るんスか?」
「アドラステイアには、新たな救いがあります。私はそれにかけたのです」
こちらへと歩み寄るマザーは自分達を逃すまいと察したR.R.が悪意の一撃を銃より放つと、相手は少し横に身を反らして躱してみせる。
「あんたからは狂気を感じる。周囲を破滅に巻き込むような狂気を」
イレギュラーズ達には直感で解る。彼女がすでに魔種へと身を堕としていたことを。
「無益な戦闘はお互い望むところではないのでは?」
コロナもまた絶対的冷気を行使する魔術の詠唱をしつつ、マザーを牽制する。
楽な労働で子供達にキシェフを与える立場にあるということは、間違いなくマザーがこの都市でも上層にいる存在に違いないとコロナは推し量っていた。
「関わらない方がいいよ。分が悪い」
ハルアが仲間達へと促すが、コロナはさらにマザーへと会話を求める。
「信仰は自由であるべきです。疑問があるのは当然でしょう」
ギフトを解除し、コロナは普段開かぬ目でマザー・マリアンヌを見つめ返す。
「ただ……唯一、正しさがあるとすれば、子どもたちが笑顔であることが正しい世界と言えるのでは?」
「それを判断するのは神のみです」
「何より、アンタ子供が大好きだった癖に……何でこんな事してるんだよ! ふざけんな!」
コロナの問いに応えたマザーに、ミリヤムが怒りをぶちまける。
「アンタが教えてくれた聖女は……自らが穢れてでも子供達の未来を守る為に、天義の民を救う為にだったんじゃないスか!」
ミリヤムの中でマザー・マリアンヌは偉大な先輩であったが、この魔女狩りを行う子供達の状況を認めすらする相手を、彼女は許すことができずにいた。
現に、傍にいたエルシはマザーの姿に身を震わせている。
「さあ、その背徳者を渡していただきましょう」
枷を縛る鎖を鳴らして歩み寄る彼女へ、R.R.が再び発砲する。
「マザー・マリアンヌ……何時か再び相まみえるとき、あんたに破滅を呉れてやる」
今度は避けることなく頬に血を迸らせた彼女へ、R.R.が言い放つ。
すでにメンバー達は離脱の準備を整える。この場でエルシを奪われてしまえば元も子もないのだ。
そこで、ミリヤムが前に出て囮を買って出ようとしたが、アンジェリカが彼女の手を引いて離脱を促す。
「貴女は、何を目指すのですか? キシェフを自由にして、子どもたちから慕われて、どこに導くのですか?」
最後にコロナがそう問いかけると、彼女は一言。
「神の……御心のままに」
そう告げたマザーから背を向け、一行は彼女を牽制しつつこの場を離脱していく。
「……御免なさい、貴方達に手を差し伸べられなくて。いつか必ず貴方達も――……」
その際、アンジェリカはマザーが近づく子供達を救済できなかったことを悔やみ、謝罪しつつ急いで安全圏まで移動していくのだった。
●
都市の外へと脱出したイレギュラーズ一行。
離れていくアドラステイアに、少女エルシは思うことがあったようだが、お腹が鳴いたことで我に返って顔を赤くする。
「それじゃ 皆とご飯 食べよっか?」
そう夏子が促せば、馬車の中はメンバーの用意した食べ物で溢れていて。
「よく頑張ったっスね、大丈夫、もう安心していいッス。僕達が必ず守るっスから」
マザーと少なからず因縁のあるミリヤムが最初にホットの「ガッツ一発!」を差し出す。
「あ、ありがと」
彼女はそれを丁寧に飲み干す。
「安心して、もう怖がらなくていいんだよ」
「よければこれもどうぞ」
リュコスがクッキーを差し出せば、アンジェリカもミックスサンドを差し出す。
「キシェフなんて無くても、外では温かいメシなんていくらでも食えるんだ」
都市の外に不安を抱く少女へ、R.R.も豚汁セットを分け与える。
「後でいろいろ話を聞かせてほしい。だがまずは、腹を温めろ」
こくりと頷くエルシだが、たくさんの飲食物に目移りしてしまっていたようだ。
(エルシちゃん、大分衰弱してるみたいだ……)
シャルティエもまた残していた釜飯を差し出しつつ、彼女の反応を見る。
エルシとて、自身を追っていた子供達と同じことをしていたはずだ。
それは、あまりにも辛すぎる。それだけに、この連鎖を早く断ち切りたいとシャルティエは強く感じていたのだ。
「友達はそんなものじゃない。助け合って支え合って、一緒に笑う関係の筈なのに……」
黙ってはおれず、人心掌握術を働かせたシャルティエは彼女へと語りかけると、エルシは口にしていた豚汁セットからスプーンを離す。
そこで、ハルアが温かい蜂蜜ミルクをカップに注ぎ、エルシへと差し出す。
「話したいこと、なんでも大丈夫だよ」
――どんなあなたも責めないよ。
彼女は優しくエルシを諭し、ギフトで出した飴玉も合わせて差し出してその心を温めようとする。
それでも、そんな彼女にミリヤムが一つだけ聞きたいと問いかけて。
「『ファルマコン』信仰って、具体的にはどういう信仰何スか?」
イレギュラーズ達の視線を集めるエルシは、ゆっくりと口を開く。
「ファルマコンなんて、存在しないの」
アドラステイアにおける架空の『新たな神』。
彼女はゆっくりとイレギュラーズ達へと街の状況を語り始めたのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
リプレイ、公開です。
MVPは仲間からも連携の為に名前が挙がり、少女の保護、引き付け、子供達にカマをかけるなど戦闘中でも情報収集に暇なかったあなたへ。
エルシの口から語られる情報は続編のOPにて明らかにさせていただきます。ご了承くださいませ。
今回はご参加、ありがとうございました!
GMコメント
イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
●概要
少女エルシの保護。
アドラステイアの子供達の撃退。
●概要
アドラステイアの内部へと潜入を願います。
内部では、自分達の神への信仰を口にしながら、子供達が『ファルマコン』への信仰を失った子供を魔女裁判し、排除しようとしております。
アドラステイア内部の情報を聞く為にもこの子供を保護しつつ、襲い来る騎士、子供達を撃退し、離脱していただければと思います。
●敵
〇アドラステアの騎士×7人。
別名『聖銃士』。白銀の鎧を纏う子供達です。
敵対する者には白銀のライフル銃をメインに長剣や槍も合わせて使い、全力で排除に当たります。
〇子供達×15人
アドラステイアの下層に住まう7~12歳くらいの子供達。
数日前までは少女エルシと移住食を共にしていた者達です。
自分達もまた聖銃士とならんとすべく少女エルシを糾弾し、信仰の為と称して手にするナイフや銃でその命を奪わんとしています。
〇マザー・マリアンヌ
20代女性。人間種と思われる血に濡れた修道服を纏う女性です。
依頼内、何処かのタイミングで出くわすことになります。
神への愛を説き、慈善活動奉仕など比較的優しい条件でキシェフを与えてくれるなど、下層でも人気のシスターとして知られているそうですが……。
●NPC
〇エルシ
アドラステイアに身を寄せる9歳、人間種の戦災孤児の少女です。
僅かでもファルマコンへの信仰に疑問を抱いてしまったが為に、魔女裁判に掛けられる羽目になっています。
都市内下層の路地をなんとか逃れようと逃げている彼女を救出し、アドラステイア内部の情報について聞きたいところです。
数日前まで仲間だったはずの子供達からも糾弾される立場となり、ロクに食事もとっていないようですので、温かい食べ物を用意してあげてください。
〇オリヴィア(p3n000011)
都市突入の案内のみ。リプレイには登場せず、別行動してマザー・マリアンヌについて探りを入れるようです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
それでは、よろしくお願いいたします。
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