PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<濃々淡々>あわくもゆる

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●煌めく木漏れ日
「嗚呼、また来てくれたのかい?」
 飴屋――否。名を貰った彼は、最早唯の妖、化け物の類などではない。

 絢。

 やさしさを。柔らかなこえを。
 沢山の愛情を受けて、健やかに――未熟なままの、子供のような壊れやすいこころは、いつしかすくすくと。おとこ、と名乗るに相応しく、広い背中とおおきな掌を携えて、彼は、また飴を作っていた。
 以前と変わったのは、名前と、こころもち。それだけ。
 それでも。たったそれだけだとしても。
 うつくしいと思った心が、ひとと触れ、優しさを知り、そうして芽生えたひとつの生き方は。まさしく絢爛の如く。華やかで、あった。
「今日はね、ふふ。面白いところに行こうと思っているんだよ。
 ――ちかごろ、面白い植物が芽吹くようになったのだって。秋なのに、だよ。素敵じゃないかい?」
 からから、からから。手押しの屋台を引きながら、絢は目元を柔く歪め、語り掛ける。その頬は紅に染まり、その語り口は楽しみだ、と云いたげに、好奇心の色が滲んで。
「ね、ね。折角だから行ってみないかい?」
 おれが場所まで連れて行ってあげるから! と、屈託なく笑みを浮かべた絢は、ゆるりと此方へ手招いて。
 こうして。お出掛けの日程は、いとも容易く決まったのだった。

●ひかり
「ごきげんよう! 今日はねえ、飴の森へと行ってもらうつもりなのよ」
 星の片割れ、双子の乙女。ポルックスは片手に紅葉の飴を乗せて――其れを口に咥えると、ぱりっと割って見せて、今日の行先を示した。
「なんでもこの飴がね、自生しているんだって!」
「――其れから、銀杏もだよ、ポルックス」
「嗚呼、うっかりしていたわ!」
 銀の糸揺らし、ポルックスのうしろから、銀杏をひかりに透かしたカストルが顔を出す。ポルックスはきゃらきゃら笑うと頷いて見せて。
「秋の色に染まり始めた飴は、其れは其れは美味しいそうだよ」
「ええ! だって私たちが、たべたもの!」
「ふふ、そうだねポルックス」
 顔を見合わせてくすくす笑ったふたりは、こちらへと身体を向けると、秋の風をのせて、微笑んだ。

「いっておいでよ、イレギュラーズ!」

NMコメント

 心踊る物語を貴方に。どうも、染(そめ)です。
 最近は少し多忙でして、シナリオを出すのを忘れておりました。
 久々に和風世界――絢と、お出かけです。

 それでは、今回のシナリオの説明に入ります。

●依頼内容
 飴の森へと出掛ける

 そこは美しい飴の森。
 煌めく木漏れ日が降り注ぐ、不思議な森。
 飴の木の葉がなる木が生えた森へと、出掛けてみましょう。

●世界観
 和風世界『濃々淡々』。

 色彩やかで、四季折々の自然や街並みの美しい世界。またヒトと妖の住まう和の世界でもあります。
 軍隊がこの世界の統制を行っており、悪しきものは退治したり、困りごとを解決するのもその軍隊のようです。
 中心にそびえる大きな桜の木がシンボルであり神です。
 昔の日本のイメージで構いません。

●絢(けん)
 手押しの屋台を引く華奢な男。飴屋の主人です。
 屋台には飴細工やら瓶詰めの丸い飴やらがあります。
 その正体は化け猫。温厚で聞き上手です。

 呼び出されればご一緒致します。

●章構成
 このシナリオは一章で終了致します。

 以上となります。
 秋のお出かけはこんな世界も、如何でしょうか?
 皆様のお越しをお待ちしております。

  • <濃々淡々>あわくもゆる完了
  • NM名
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年10月10日 19時02分
  • 章数1章
  • 総採用数4人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜

 漂う甘い香りに蜻蛉は紅の傘を畳み、秋の空を見上げた。広がるのは、形容しがたい不思議な光景。
 木々の合間から落ちる秋の日の木漏れ日に柔らかく目を細め、視線を下ろしたその先には――喉迄出てきた『飴屋さんやないの、』の声を連れ戻し、小さく咳払い。
(お名前で呼ばんとね)
 名前を得たおとこは見違える程に、寂しさの色を覗かせることは無かった。

「絢くん、お久しゅう元気やった?」
 蜻蛉は絢の後ろから、その声を響かせた。
「お嬢さん! お久し振り。勿論、元気だよ。貴女は?」
「ふふ、うちもお陰さんで元気よ」
 野暮は語らず、今は只。此の穏やかな空気の中で、ひとときを味わいたい。
 微笑む蜻蛉に、頷く絢。此れが二人の信頼のかたち。
「あ、そや……おすすめの飴の木はあるやろか」
「おれの? そう、だなぁ……好みはあるかな?」
「そやねぇ…甘酸っぱいのがええわ。甘いのが好きやけど酸味も欲しいわ、我が儘やの」
「随分と可愛らしい我が儘、だね」
 『其れならあの木はどうかな、』と指し示されたのは、紅がかった飴を咲かせた桜の木。降り注ぐ花弁を手で受け止めて、食む。
「ん、美味し」
「其れは良かった」

 銀杏の葉が散る木々の間を、二人はゆっくりと、隣り合って歩いていく。
「これからも、人の心に残る飴を作っていってね。それがまた、縁をくれるはず」
「うん。其のときは……また、会えるかな」
 桜を拐う風が吹いた。其の答えは、二人だけの秘密。

成否

成功


第1章 第2節

マギー・クレスト(p3p008373)
マジカルプリンス☆マギー

「えっと、飴が木になっているのでしょうか?」
 辺り一面を覆う木々に、マギーはきらきらとその翠の双眸を輝かせた。
「いらっしゃい。此処は初めて、かな?」
「あ、はい! 良ければそちらへ案内をお願いしても良いですか?」
「ふふ、うん。勿論さ」
 絢が手を差しのべる。マギーは其の手に恐る恐る、己の手を重ねた。

 まぁるい飴。大粒の飴。いじらしくころがる三角の飴。どれもがマギーに訴え掛ける。『わたしをたべて!』と。
 目移りしてしまいそうな自分を首を降って叱責し、マギーは絢に其のお目当てを話し始めた。
「ボクのお目当ては、一番星のように一際キラキラと
輝く飴さんです。
 ボクの目指す先を照らしてくれる、希望の光に
なってくれるかなって」
 気障だっただろうかと首を傾けたマギーに、そんなことないと首を横に振った絢。
「其れなら、あの銀木星の飴の木が良いかも」
「わあ……!」
 銀の星とは誰の比喩か、白銀のひかりを携えた飴を摘み、マギーは満足げに笑みを浮かべて。
「なんだか食べるのが勿体ないです……」
「ふふ、そうかもしれないね」
「で、でも……此の折角の飴さん。食べないのも申し訳ないですし……」
 むむむ、と首を更に傾けたマギー。ぽん、と手を叩き閃いた其の表情は晴れやかで。
「此れは、こんなボクについてきてくれた乳兄弟へのお土産にしますね!」
「はは。うん、其れは名案だね」
 袋いっぱいに詰め込んだ銀木星の飴は、優しい味をしていた。

成否

成功


第1章 第3節

ラクロス・サン・アントワーヌ(p3p009067)
ワルツと共に

「絢君、ご一緒しても構わないかい?」
「おれかい? 勿論さ、お嬢さん」
 お嬢さんの声に複雑そうに笑う『王子様』は、せめてもの余裕と云わんばかりに、屋台を引く絢のスピードにゆったりと歩幅を合わせ、ブーツをコツコツ鳴らし歩いて。
 そんなことは露知らず、絢は呑気にその歩幅に有難うと声を掛け、二人は飴の森へと進んだ。
「それにしても、綺麗な飴細工だなぁ……これ全部君が作ったのかい?」
「嗚呼……ふふ、そうだね。此の屋台のものはそうなる、かな」
「わあ……さぞ修業を重ねたんだろうね。素晴らしいや! あとでお土産に一つ買わせてくれないかな?」
「ふふ、光栄だよ」
 此処等で休憩にしようか、とはどちらから告げただろうか。
 椅子を出して、はらはらと散りゆく飴の葉を見れば、儚さが胸を打つ。
「ねぇ、なんで絢君は飴屋さんになろうと思ったんだい?」
「ん? ふふ……ひとつの飴から勇気を貰ったことがあってね。あの飴をもう一度食べたいと思って、始めたんだ」
 頷いたアントワーヌ。橙の木の葉から一つ飴玉を失敬し、口へと含む。舌先で転がして溶かせば――嗚呼、美味しい。
「甘酸っぱくておいしいね! オレンジ? ああ、でもこっちじゃ『ミカン』に近いのかな」
「おれんじ……? は、よくわからないけど、ふふ、正解。蜜柑の木だよ」
 綺麗な場所で、大切なひとと。いつかお姫様と歩いてみたい、と思うアントワーヌの表情は、蜜柑のように溌剌としていた。


成否

成功


第1章 第4節

イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って

「絢さーん!」
「――嗚呼! 久し振り、いーさん」
 溌剌と声をあげる絢の姿は友人に向けた笑みを浮かべ。発音が難しいのだ、と拗ねて見せたときに決めた『いーさん』の呼び名を、今でも覚えている。
「えへへ、飴の森のお話を聞いてね、絢さんに会えるんじゃないかなって思ったんだ。そしたら本当に貴方に会えちゃった! ふふ、嬉しいなあ」
「おれも、嬉しい」
 紡ぐ言の葉は少しずつ、確かに。声にならずとも、言葉に出来ずとも、此処に。二人を包む世界は、煌めいく。降り注ぐ日光を色付ける木々に、イーハトーヴは目を輝かせて。そんな姿に絢は頬を綻ばせて。
「ね、絢さんはどの飴が好き? あんまりわくわくだから、俺、どの子を食べるか迷っちゃって!」
 『いーさんには、あれ』と示されたのは、柔らかな萌木のクローバー。其の味は瑞々しい白桃の味。不思議だと語り合い、そうして時は過ぎて行く。

「…あのね、絢さん。えっと、俺…そう、ミルクの飴、帰りにまた分けて貰えないかな? 絢さんの飴があると、安心するから」
 遠き日の夜、何も言わずに飴を渡したおとこならば――けれども。忍び寄る影は未だ怖いから、笑顔で誤魔化して。
「……うん。其れなら、今度は一緒に作ろうか」
 其の言葉に頷いて。声は、でなかった。
「飴、美味しいねぇ……素敵な世界を見せてくれてありがとう、絢さん。その…また会いに来ても、いいかな?」
「そんなこと訊かないでおくれよ! 勿論さ」

成否

成功


第1章 第5節

 はらり、はらりと木の葉が舞う。
 ――ゆめ、うつつ。ひかりのつぶては、まだそこに。

「君達は、楽しんでくれたかい?」
 と、男はそう、微笑んだ。

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