PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<幻想蜂起>一を奪るか四を捕るか

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 頻発するのはジョークのような本当の話。幻想楽団『シルク・ド・マントゥール』――華やかな公演が終了した後、幻想にくすぶっていた火種は、油を注がれた大火のごとく燃え広がりつつある。
 最初は何も関係がないと思っていた、はるか遠くでの盗賊の話。
 次いでは、ちょっとしたサーカス団のお話。そうして他の町での事件の噂。
 ちりちりと、小さく燻ぶった火種は燃え上がり、小さな町は誰もが望まぬ形で、ソレに巻き込まれた。
「私は……どうしたら良かったのでしょう」
 ぽつりと呟いたのは小さな小さな領地を持つ小さな貴族の、無力な公女。
 まだ、見るからに幼い。どれだけ大きく見積もっても外見からすれば17、8歳程度であろうか。牢につながれた己の細い腕を見つめ、小さくため息を吐く。
 その目は本の僅かな諦観と慈愛と悲愴に満ちていた。
 牢の小さな格子窓の向こうからは、大切な人達の怒号と悲鳴が今も聞こえていた。
 冷たい石畳の床に、石の壁。外から入ってきた声は反響して耳を撃つ。
「お願いします……どうか、多くの人が傷つかないで済みますように」
 少女は格子窓を見つめながら、そっと天に祈りを捧げる。


「むきぃぃぃぃ!! 本当にしやがったざますよ!! あの愚かな雑草風情が」
 甲高い声で叫ぶ女を、小太りの青年は隣で宥めすかす。
「ちょっとあんた達!! 分かってるんでしょうね!?」
 青年を無視して女は後ろにぎょろりと目を向ける。そこにいたのは剣をさした男と蠍のタトゥーを肩に刻んだ男。蠍のタトゥーを肩に刻んだ男が、頭を掻きながら女に答える。
「あぁ、そうわめくな。分かってる。あんな間抜けども、おたくのとこの傭兵でも勝てるだろうよ」
「そっちじゃないわよ!! あの小僧は殺せるんでしょうね!?」
「そっちも進めてる。二度言わせるな、喚くなと」
 隣で黙っていた、剣を腰にさす男が女に視線を向けると、その女は恐怖と苛立ちと、不快感の入り混じった複雑な表情を浮かべて舌打ちし、窓の方へと視線を向ける。
 視線の先、傭兵達に囲まれながら、人々に必死に声をかけ――無視され続けながら館を守ろうとしている青年を見て、それを嘲り笑った。
 その後ろで、より大きな邪悪が、浅慮な女を嘲笑していることなど、彼女には全く想像できていなかった。


「――罪のない人たちが巻き込まれて死んでしまうのを見たくないのです」
 幻想各地で勃発した未曽有の反乱――になるかもしれない火種の一つの話を、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)はイレギュラーズに向けて訴えかけた。
「その町では珍しく人々と距離が近いご領主の一族の方がおられたらしいのですが……」
 そう言って誰かの物真似をする様子を見せる。
「ある意味ではそれが失敗だったといえる。彼女は、民衆に近いのに、今の状況が来ることを分からなかった。本当にそうか? 知らないつもりでいただけじゃないのか――」
 そう詰めよった家族によって、その少女は拘束されたと、レオンが言っていたという。 
「皆さんにお願いしたい町は小さな町なのです。そのご領主の一族の方、公女様を領民全てが知っていて、公女様の方も民衆の顔一人一人が覚えきれるぐらい」
 パタパタと焦燥感を漂わせながらそう告げる。
「皆さんは領主邸に忍び込んで、町の人たちと仲良くしてたって人を助け出してほしいのです。どこにいるのかは分からないのですけど、小さな町の邸宅なので正直、王都の館とかよりは全然小さいのです!」
「それで止まるのか? その程度のことで」
 たまたま話を聞いていたイレギュラーズの一人が問いかけると、ユリーカは強くうなずいた。
「はい。より正確に言うと、助け出して領民の皆さんを説得してもらって欲しいのです。それから、出来ればこの町の反乱の引き金になった人を捕えるか討伐してほしいのです」
「引き金?」
 それについてユリーカはうなずいた。
「なんでも、ご領主さんに彼女が敢えて民衆の蜂起を黙って、民衆の蜂起に続いて自分も立ち上がって、ご領主さんたちを追放しようしてるって唆した人達がいるらしいのです」
 なんでそこまで、詳しいのだと、イレギュラーズ達が不思議に思っていると、ユリーカは最後の一言を告げる。
「この依頼をお願いしてきた、領主さんが雇ってる傭兵の皆さんと、どうしても戦いたくないと言って訴えてきた穏やかな人々のためにも」
 そういい終えたユリーカは最後に一つ、と付け加える。
「きっと、この戦いでは、速度が一番重要になると思うのです。皆さんの手引きは、傭兵団さんがしてくれるとのことなのです」
 その言葉を背に、イレギュラーズ達は町へと向かって歩みだした。

GMコメント

お久しぶりになります。春野紅葉です。

この度は幻想蜂起の一端にて戦いを紡がせていただきたいと思います。

イレギュラーズの皆さんの目的は2つ。
1:幽閉されている少女(公女様)の救出し、暴動を鎮めるように説得してもらう。

2:出来ることならば屋敷の中にいるであろうこの町の暴動を扇動した大盗賊団『砂蠍』の残党らしき者達を捕縛、或いは討伐する。

また、今回の依頼は「いかに迅速に事が行えるか」が最重要視されます。救出が遅れれば遅れるほど、状況は悪くなっていきます。

館の構造は以下
2階建ての館をぐるりと低めの城壁が囲う。
正面の門ではこの家の現当主がなんやかんやで一度は契約を切った傭兵団を引き連れて防戦中。
現状は傭兵団側が殺傷力の低い棒等で押し返すだけですんでいる。
また、当主の近くには謎の男が控えている。

館は石造りの円柱状の別館と幻想風の立派な煉瓦上の2階建ての本館に分かれている。
別館には鍵がかけられているようで、看守らしきメイドが2人張り付いている。
一方、本館の防衛は何もなされていない。

敵(?)情報
肩に蠍のタトゥーの男:
武器は不明。体つきから近接戦闘系の模様。

剣をさす男:
武器は剣。その他は不明。

謎の男:
謎です。傭兵曰く、武器は短剣のように見えるとのことです。

敵となる男達は皆様が1対1で戦う場合はやや不利といったところになります

  • <幻想蜂起>一を奪るか四を捕るか完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年05月07日 21時55分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
鶫 四音(p3p000375)
カーマインの抱擁
シエラ・バレスティ(p3p000604)
バレスティ流剣士
シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)
死を齎す黒刃
ミア・レイフィールド(p3p001321)
しまっちゃう猫ちゃん
エスラ・イリエ(p3p002722)
牙付きの魔女
ロズウェル・ストライド(p3p004564)
蒼壁
城之崎・遼人(p3p004667)
自称・埋め立てゴミ
謎の スーパーヒーロー(p3p005029)
特異運命座標
志々宮・火雅美(p3p005091)
マッチ売りの魔女

リプレイ


 各地で勃発した民衆の蜂起。狂奔に駆られた人々の無謀な戦いの火の手は、小さな町を包み込んだ。
 十夜 縁(p3p000099)は切り身にされない程度には努力しようとゆらりと町に訪れた。他のメンバーたちとは町に入る時点で別れている。
 既に民衆は正門前に集まっていて、前の方からは公女様を出せだの、ここを開けろだのといった怒号が聞こえてくる。
 十夜はゆったりと、普段通りの仕草でその加熱する人々の中へと自分を溶け込ませていく。

 十夜を除いた面々は、正門の喧騒を遠巻きにしながら、館を覆う城壁の裏手に足を進めていた。
 死角になる位置を駆け抜けながら『カーマインの抱擁』鶫 四音(p3p000375)は今回の相手のことを思う。
 相手に会えることが楽しみで仕方ない。それは、超然としたある意味で人らしくはない思考。
 人という存在に対して比較的に好意的な彼女は故にこそ、敵であろうとも興味が尽きない。
 面々がある程度走った頃。不意に数メートル先でロープが垂れ下がっており、その横に一人の男の姿が見える。
 警戒し脚を緩めるイレギュラーズの中で、一人だけ『自称・埋め立てゴミ』城之崎・遼人(p3p004667) は前に出る。
「君が手引きしてくれるのかい?」
「ええ。まぁ」
「たしか副頭領なんじゃなかったかい、君。こんなところにいていいのかな?」
「力仕事は苦手な部類でして。皆様は館の中の事、あまり分からないでしょう? 私が着いて参ります」
「今は信じるよ」
 こくりとうなずいた遼人がまずロープをよじ登り、それに続くように他の面々も上がっていく。

 城壁を登り、敷地内に降りたイレギュラーズ達は手筈通りに二手に分かれる。
 一方は敷地内でも目立つ石造りの塔。もう一方は本館へ。襲撃と公女の救出を同時進行で行なうのが今回の作戦だ。
「ミア社長! ご武運をー!」
 別れ際、 『輝きのシリウス・グリーン』シエラ バレスティ(p3p000604)は状況的にあまり声を出さないようにしつつ、『しまっちゃう猫ちゃん』ミア・レイフィールド(p3p001321) にそう言って手を振った。
 ミアもそれに対して小さく手を振って返し、変化を解く準備に入る。
「後手に回るのはもう仕舞いだ。さっさと公女サマを助け出すぞ」
  『黒影』シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)はすっと目を周囲に向ける。発動させた透視を石壁の塔に向ける。
「えぇ……彼女はまだ、失わずに済む。背中の一つも押してあげましょうか」
  『マッチ売りの魔女』志々宮・火雅美(p3p005091)が続くように探索の準備を始めた。
 遼人は感情探知を開始する。
「……いた」
「いたぞ」
 遼人とシュバルツがそう呟いたのはほぼ同時だった。視線の先はやはり別館だという石の塔。
 それを聞いたミアが完全に白い猫の姿をとり、跳ねるような軽やかさで石壁の塔へと駆けていく。
 遼人、シュバルツ、火雅美の三人はそれに導かれるようにその後を続いていく。
 人々の怒号と悲鳴に徐々に近づきながら、石造りの塔に到着すると、先に辿り着いていたミアが看守のように突っ立っているメイドの方へ近づいていく。
「にゃぁ~」
 甘い猫の声とつぶらな瞳でメイドを見上げるミアに対して、二人のメイドはちらりとそちらを向く。
 その風貌はお世辞にもあまり美しいとは言えず、そして何よりそこには何の感情も浮かんでいなかった。
 ミアはもう一つ愛らしく声を上げると、ぴょんと跳んでメイドの一方にそのふわふわな身体を押し付ける。
 しかし、メイドはさすがに驚いたのか、表情こそ崩さないままに猫を引き離そうとミアに触れようとして――その背後に現れた遼人とシュバルツがメイドを二人とも捕獲する。
 ばたりと大地へ倒れ、もがき始めたメイドに対して、シュバルツは耳元に顔を近づける。
「公女に用がある。死にたくなかったら鍵を渡しな」
「渡さない。奪いたくば奪うがいい」
 ドスのきいたシュバルツの声にも動揺することもなく、一人が素早くそういう。シュバルツは舌打ちし、女の給仕服の中から鍵を奪い取った。
 シュバルツはそのまま鍵を開けて中に入り込む。
「もう私を殺す時間ですか。以外に速いのですね……」
 音に気づいたのか、そんな声が奥から聞こえてくる。もう陽が入らない位置に格子戸があるためか、やや暗がりの小さな部屋。
 その奥で少女が一人、格子戸に身体を向けて祈るようなポーズのままで座っている。
「覚えてるかな。前にも君を助けに来た、ローレットの者だよ」
 中に入りながら遼人が言うと、それに反応したのか、少女が少しだけこちらに振り替える。
「あぁ……なるほど。そうでしたか……看守はどうしました? メイドがいたと思うのですけれど」
「外で倒れてるぞ。殺しちゃいねえ」
「そうですか。えぇ、それでよかったと思います。あの子達の雇い主はお継母様ですから……鍵を渡せとか言っても、多分、渡してくれなかったでしょう?」
 公女を幽閉した者が雇い主なのであれば、公女を助けたいから、などという理由で鍵を要求されてもはいそうですかと渡すわけにはいかないだろう。
 渡してもらえそうにないなら奪い取る。イレギュラーズ達の判断は正しかったといえよう。
 ミアがメイドからいつの間にか盗み取っていた鍵を使ってシュバルツが公女の手にはめられた手枷を解こうとしている間、他の二人は公女の説得にあたっていた。
「君に頼みがあってきた。……皆を止めて欲しい」
 ガチャガチャと動く手枷を見つめていた少女に遼人が話しかけると、少女は顔を上げて彼の方を見る。
「初めましてね。志々宮・火雅美よ。少し良い?」
 少女が返答をするよりも前、火雅美はそう声に出した。
「初めまして。なんでしょう」
「ちょっと、このマッチを見てくれる?」
 言うと、火雅美は静かにマッチを取り出して、自らに与えられたギフトを発動する。
 映し出される光景は、幸せそうな家族の団欒風景。そして――それをいともたやすくぶち壊し、煌々と照らす紅蓮の焔。
「私のギフトはマッチ棒を使い記憶を幻影として映し出す物。公女様の同意さえあれば、君の記憶も映し出せるのよ」
「それは……素晴らしいですね。でも、なぜ今それを……?」
「経験者は断言してあげるわ。失いたくないなら、貴方が立つしかない。道は用意する、どんなことも手伝う、だから行ってあげて、彼らの前に。彼らが罪人になり傷付け合う前に…さ、時は金より命より重いわ、急いだ急いだ」」
「そういうことですか……」
「もしも諦めているなら、あの時皆が君にかけた言葉、そしてここへ戻る事を決意した君自身の気持ちを思い出せ。大切な人達を守るために、君だけが出来る事だよ」
 遼人が続けると、少女は小さく顔を下げて、やや魔を開け。小さく笑う。
「あぁ、ごめんなさい。ええでも、最初からそのつもりでしたから。大丈夫ですよ」
「おら、鍵は開いたぞ」
 がちゃりと音を立てて外れた手枷をぽいっと放り投げる。少女は感謝の言葉をシュバルツに告げ、立ち上がろうとして、ふらりと身体を倒しかける。
「あぁ、ごめんなさい……えっと……」
 ふらついて倒れそうになった公女を支えるようにミアがすっと現れ、公女を支えると、目を潤ませながら見上げて。
「ミア……なの。公女様……このままだと……あの男の人死んじゃうかも……なの。皆を止めて……なの」
「男の人……? 傭兵団の皆さんですか?」
 心底不思議そうにきょとんと告げる。
「恐らくは貴女のお兄さんとかじゃないの?」
「お兄様が……!? あの人もお継母様と手を組んだのだとばかり……」
 身体を支えられながらも立ち上がると、そのまま外へと歩き出す。それを囲うようにしてイレギュラーズ達も外へと出ていく。
 真っすぐに正門へ向けて進む中、ミアはその途中でほら貝を取り出し、ぶぉぉぉと吹き奏でる。それは、救出成功を告げるための事前に決めていた合図だった。


 時はやや遡り、本館襲撃班の五人は裏口らしき場所にたどり着いていた。
「どうにもキナ臭い事件だな」
 『特異運命座標』謎の スーパーヒーロー(p3p005029) は丸々と太った卵体型の身体から筋骨隆々とした肉体に変じて呟いた。
「たしかに、謎の狂気に『砂蠍』の残党…きな臭いったらないわね」
 そう返したのは 『牙付きの魔女』エスラ・イリエ(p3p002722)だ。
「まずは、敵性因子の排除。公女様の救出を邪魔して来ないとも限らないわ」
「うむ。実にヒーローらしい仕事だな」
「確かに、これは急がないと厄介な事になりそうだ」
 スーパーヒーローの言葉に頷いて 『蒼壁』ロズウェル・ストライド(p3p004564)は剣を構える。
 前を行く副頭領だという男が裏口を開けたのに続いて中に入ると、館の中はやけに静かだった。
「ここからは皆様にお任せします。館の主はおそらく、二階に上がって廊下をまっすぐ行った所にございます彼女の自室でしょう」
 傭兵は中に入らずに告げる。
「あなたはどうするの?」
「私は先にうちの団長に皆様が来られた事を告げに参ります。それでは」
 シエラの問いにそれだけ返し、男はそのまま身を翻して去っていく。
「それじゃあ、行きましょうか」
 探索用にファミリアで使い魔を呼び出したエスラに続き、五人は潜入を開始する。
 人気のない館の中を駆け抜け、二階に上がったところで彼らは一瞬、足を止めた。
「……おうおう、賊が五人もまぁ、雁首そろえてよく来たな?」
 我が物顔で館を闊歩していたその男は、イレギュラーズを見つけてもなんら動揺した様子を見せず、むしろ楽しそうに笑う。
「あなた達の思い通りにはさせませんよ。公女様もこの街の皆さんにも手出しはさせません」
「はっ。言うねえ。あんさんのその姿、どこぞの騎士かなんかか?」
 タトゥーを身に刻んだ男は、剣を抜いて構えるロズウェルに対して、意気揚々と笑う。
「賊なんて、どの口がいうのかって感じね」
「ははっ。然り然り。で? わざわざ得物構えて来てくれたんだ、まさか、このまま素通りさせてくれるわけじゃねえよなぁ?」
「蒼璧、ロズウェル・ストライド――お相手しましょう」
「あぁ、そうだよなぁ!! そうじゃねえとなぁ!!」
 剣を構えたロズウェルに相対するように凄絶に笑んだ。
 男がすぐに駆け出し、ぶんと大振りに足を振るい、反応したロズウェルの剣と激しくぶつかり合う。
「へぇ。やるねぇ伊達男」
「相手は一人ではないぞ!」
 割って入るように肉薄したスーパーヒーローの拳がタトゥー男の懐を撃つ。
「ぐっ、くく、あはは、いてぇ、いてぇなぁ。そうなんだよ、こうじゃなきゃよぉ……陳腐な謀なんて柄じゃねえ。もっと楽しもうや!!」
 体勢を崩しながらも、男は愉悦からかその笑みを深くする。
「皆さんは先に行ってください」
「私達がこの男を預かろう」
 ロズウェルとスーパーヒーローの言葉を聞き、三人は更にその横を通り抜ける。
「そういうことなので、最後まで付き合って頂きますよ」
「迅速に片付けさせてもらおう」
「はっ、上等!」
 三人の激しい戦いの音が、閑散とさえしている館の中に響いていく。


「シエラさん、どうかしら」
「ここで合ってるみたいだよ」
 扉を透視し、その向こう側を見つめていたシエラが言う。
「それでは。いよいよ物語の結末に近づいてきたようですね」
 四音が穏やかな声で返す。
「それじゃあ、ご対面と行きましょうか」
 エスラが答えるのと同時、三人は一気に扉を蹴散らした。
「なっ、なんざます!?」
 驚きびくつきながら振り返る女性が振り返るのより先に、女性の前に小太りの青年が出る。しかし、それよりもシエラの行動のほうが速い。
 全力移動により女性にたどり着いたシエラが女性の足を払う。
「いるとわかってれば奇襲も簡単!」
 手早く持っていたロープとスカーフで口と両手足を縛り上げ、一仕事を終えたシエラはふぅと一息。
 一方、剣の男は入ってきたイレギュラーズを見ると静かに剣を抜き、シエラへと駆け出し――その進行方向に向けてエスラの魔力が放たれる。
「ちっ……やってくれる」
 振り返り、エスラへと仕掛けようとする男に向け、走り出そうとしたところで放たれた四音の遠距離術式が男をしたたかに打ち据える。
「それでは――物語を始めましょう」
 そこについでとばかりに小太りの青年を縛り上げたシエラが舞い戻り、三人は男と相対する。
「ご苦労なことだな、ローレット、だったか」
「知ってたんだ」
「当然。忙しく這い回ってくれるだろうと思ったが……ふむ」
 じとり、男はやや不躾な視線を三人に向け、剣を構えなおす。
「うちの喧嘩馬鹿は他のやつとやりあってるな? 貴様らはどう見ても無傷だ」
「そうですよ。まさか三人相手に勝てるとでも思っているのかしら?」
「さぁて、どうだろう、な」
「くっ!! 盗賊らしく、油断も隙もないね」
 全力移動からの、上段からの振り下ろし。ギンッという鋭い金属音を奏でそれをシエラはソードブレイカーで押さえ込む。
 油断はしていないのと、元々の超絶たる反射神経がその奇襲ともいえる一撃を振り払う。
「してもないことをよく言うものだな」
「こっちもいるわよ」
「ふふ、面白いですね」
 お返しといわんばかりに放たれたエスラと四音の砲撃を、男は後ろに飛んでかわすが、それを追うようにシエラが男の懐に向けて捨て身のごとき攻撃をかける。
「お返し!」
 アッパーでもするように斬り上げる。小さな血しぶきが舞い、床を濡らす。

 それから数度の応酬の末、三人は男を縛り上げた頃だった。窓の外からぶぉぉぉと音が響く。
「公女様の解放が成功したようですね。私たちも参りましょうか」
 その音を聞いて四音が顔を上げる。三人は縛り上げた全員をそれぞれ持って部屋を後にした。


 盛大に吹き鳴らされる法螺貝の音をバックに、公女は支えられながらもしずしずと進んでいく。
 ふらふらしながらたどり着いた公女は、静かに声を上げる。
「皆さん、少しだけ、道をあけてください」
 隣で聞いていた火雅美はその声が無理やり作られた物だと分かった。
 振り向いた傭兵の一人が目を見開き、前の傭兵に繋げる。それが伝播し、やがて傭兵達の波がぱかりと割れ、門の向こうにいる民衆のほうまで切り開かれる。
「お願い、できますか。さきほどのあれ」
「あぁ、ギフトね?」
 人々の前に出る前に、公女から言われた火雅美は頷いてマッチを差し出す。
「ありがとうございます。皆さん。お久しぶりです。ごめんなさい。こんなにも集めてしまって……私は、元気です。多少は元気ないように見えますけど、これはその……お腹がすいてるのです」
 ちょうどそのとき、きゅるるるると可愛らしい音が鳴る。
「どうか、お願いします。皆さん。必ずや皆にも説明します。だから、今は一度だけ、お下がりください。きっと、これ以上は怪我人が増えます。わたしはもう、家族の争いなどうんざりなんです」
 それは、悲鳴にも似た心地の声だった。
 シュッとマッチをする。
 映し出されたのは、火雅美が想像していたものとは少し……いや、だいぶ違った。人々との暖かい日常ではない。かといって、幻想貴族らしい腹立たしい光景でもない。とはいえ、ある意味では貴族らしいか。
 罵倒を浴びせあい、踊りあい、睦みあうようにしながらその裏でさも平然と相手を貶めようとする。これは――権力闘争だ。
 逃げるように、人々との触れ合いの光景が映し出され、不意に情景が変わり、倒れる一人の壮年を見ている。少女の年齢を考えると、この男は父親だろう。
「――――、――――」
「――――! ――――!!」
 沈みそうな男性に声をかける様子が、やがて終わる。
  それとともに、フッと火が消える。
「お願いします。私は、本当にもう、家族は傷つくところを見たくないのです。本当の家族だけじゃなくて、皆さんも私の家族だって、思ってます。だから、お願いします」
 今にも泣きそうな声でそう続けた少女は、そのまま頭を下げる。その声に、多くの人々が止まった。
「姫様……」
 門の向こうから、一人声がした。
「これ以上は止めるか……姫様もこんなに頭下げてるしよ」
 そんな声がした。
 それらの声はやがて伝播していき、人々の波が後ろへとずるずると去っていく。
「ふむ……帰したか。だが」
 声。その直後、ナイフが公女に向けて放たれた。
「はっ」
 割って入ったシュバルツがナイフを弾き飛ばす。
 視線の先、ローブを着た男がオロオロしている当主の身柄を奪おうと動く。
「っと、危ねぇ。んなおっかねぇモン振り回すんじゃねぇよ、旦那」
 いつの間にか、するりと現れた十夜が当主にナイフを突きたてようとした男の腕を握り、上へ上げる。
「そらよっと」
 そのまま、柳風崩しに移行して男を打ち落とす。
「ぐぅ……」
 そのまま縛り上げ、やれやれと一息をつけ煙草を燻らせた。

 その後、他の面々も合流し、イレギュラーズの面々は一度、本館に向けて足を向けた。

「この度はありがとうございました。……皆さんのおかげで、我々は小さな犠牲のみに抑えることができたのです。ええ、本当に助かりました」
 少女は言うや、穏やかに笑う。その声は、のほほんとした少女のものではなく、どちらかというと凛とした指導者のそれだ。
「あぁ、そういえば、自己紹介はまだでしたね。テレーゼ・フォン・ブラウベルクと申します」
 スカートを摘み、恭しく礼をして、小さく欠伸をひとつ。
「んんっ……えっと、きっとこれから皆さんにお仕事をたくさんお願いすると思いますので、よろしくお願いしますね?」
 一瞬にして崩れた指導者としての顔を取り繕いながら、少女――テレーゼは柔らかく笑った。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

おかえりなさいませ、イレギュラーズの皆様。

皆様のご活躍により、今回の蜂起は傷が少ない形で鎮圧することに成功できたと思われます。

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