シナリオ詳細
<幻想蜂起>籠の中の平和主義者
オープニング
●暴動下の街で
「考え直せ、こんな事をしても何もならんだろう」
老人の声だった。その服装から、教会に所属する神父である事が見て取れる。
老神父は、教会の礼拝堂で、椅子に縛り付けられていた。その周囲を数名の男が取り囲んでいる。
「いいや、俺達は、十分に耐えた。耐え続けた。神に祈りもささげてきたはずだ。だが、結果が出ない。となれば、やり方を変えるしかないだろう」
男の一人が答える。その言葉に、老神父は顔をしかめた。
「だからと言って……これは自殺行為だよ。確かに我らが領主は穏健な人間だ。だが、こうもなっては、実力で事態の鎮静化を図るしかあるまい。武力による衝突は、双方が意図せぬ血を流すぞ」
「傷を恐れていては改革はできないだろう」
「傷ですめばいい。だがお前達のやろうとしていることは、指先の痛みを止めるために腕を切り離すようなものだよ」
「神父様、もう我々は限界なんだ」
別の男が口を挟む。
「あんたの協力を得られなかったのは残念だが……ここで大人しくしていてくれ。俺達は、自由を勝ち取る」
その男の言葉に、老神父は項垂れた。こうもなっては、もはや彼らを止めることはできまい。
老神父に出来る事は、この事態が可能な限り穏やかに収まる事を、神に祈るのみだ。
●救出作戦
「はいはい、お仕事、お仕事ですよ!」
と、パタパタと飛びながら、『小さな守銭奴』ファーリナ(p3n000013)が言う。
「さてさてさーて。ここ最近の世間の状況はご存知ですか? ご存じでないならちょっとおさらいです!」
幻想楽団『シルク・ド・マントゥール』。その公園が終わりを告げ、なおレガド・イルシオンはある種の熱狂に包まれていた。
頻発する怪事件――狂的なまでの異常事件。
それは、ローレットのイレギュラーズ達が解決した大掛かりな物から、多く一般的に処理された小規模なものまで、かなりの数が発生していた。
繰り返される凶事に、募る住民たちの不安は、やがて不満へと変貌。その矛先を、本来なら自分達を庇護するべき国の支配者層……貴族へと向け始めていた。
「まぁ、そんなこんなで色々ギスギスしてたわけなんですがね? これがついに大爆発。一部の民衆が武装蜂起しだしちゃったのでサァ大変。貴族も貴族で大人げないですから、さぁ皆殺しだ! と怒り出しちゃってまぁ大変。血で血を洗う大事件か! となりそうな時に、ウチの親方、レオンさんが口出ししましてね」
と、ファーリナは声を妙に低くして、
「今はまだ反乱は小規模。これに貴族様のお手を煩わせる必要はありません。ウチに任せていただければ、最小限の損害で、今回の件、解決してみせやしょう」
どうやら、レオンの物まねのようだ。ファーリナは肩をすくめると、
「全部が全部の貴族様にOk貰ったわけではないですが、ある程度はウチで引き受けることができるようになったわけでして。まー、実際貴族連中に完全に任せていたら、ほんとにシャレにならない被害が出ますからねー。それに、今回の件で貴族連中に恩を売っておけば、国王陛下を動かすための、力添えになるはずですしね、ええ」
国王を動かす――つまり、シルク・ド・マントゥールへ直接メスを入れるためにも、今回の事態は、ある意味でチャンスでもあるのだ。
事態は最悪。だが、この最悪の状況において、人々が受ける傷を最小限にし、かつ敵へ切り込むための筋道を作る。
「さてさてさーて。では、今回、皆さんが担当するお仕事を説明いたしましょう」
と、ファーリナは、ある街の地図を、テーブルに、ばん、と広げた。
「ここは、良心的で知られる貴族様の領地にある、小さめの街でしてね。住民たちと領主の関係はなかなか良好ではあったのですが、今回の怒りの矛先は、どっちかと言えばいわゆるお貴族様や、お国の人々ですからね。ここの住民たちも武装蜂起してしまいまして。街ぐるみで武装して立てこもっているわけです」
となると、この武装集団の排除か説得を? そう尋ねるイレギュラーズに、ファーリナは首を振った。
「それは領主の貴族様が行うそうです。もとより穏健な方ですから、武力衝突になっても、住民たちの安全は、可能な限り考量する、そうで。私達のお仕事は、ここ」
と、ファーリナは街の中心部に存在する、教会を指さした。
「ここには、領主様とも親交のあった、とある老神父が捕らわれているそうです。と言うのも、この老神父の方、最後まで蜂起に反対していまして。まぁ、いざ蜂起、と言う時に、領主とつながってる奴が居たら邪魔ですよね。それで捕まってしまったそうです」
これは、とファーリナは続けると、
「武力蜂起に参加せず、街から脱出してきた住民からもたらされた情報なので、確度はかなり高いと思われます。で、皆さんには、この老神父を救助してもらいたいわけです」
領主側に所属すると言っても過言ではない人物が人質になっている状態である。今後の交渉で利用されたり、領主側の制圧の過程で、追い詰められた住民たちによる暴力行為の対象になったりする可能性は捨てきれない。
領主としても、住民たちがそこまで残酷な真似をするとは思いたくはないが、昨今の猟奇的な事件を考えれば、いつどこに狂気の火種が転がっているか分からない状態であるのだ。憂いの種は排除しておきたい、と言うのが本音だろう。
「と言うわけです。皆さんには、この領地の反乱を穏便に制圧する、そのための第一歩をお願いしたいわけですね。潜入作戦になりますから、くれぐれもご注意を」
ぱんっ、とファーリナは手を叩くと、
「そんなわけで、皆さんの無事と、お仕事の成功を祈っていますよー! 以上、ファーリナさんでした!」
と、営業スマイルなんぞを浮かべつつ、そう言うのであった。
- <幻想蜂起>籠の中の平和主義者完了
- GM名洗井落雲
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年05月09日 21時50分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●夜闇の侵入
とある、中規模程度の街である。
夜、月も頂点に達そうという時刻。
深い夜闇の中、しかし辺りには煌々と明りがたかれ、多くの人々の存在を感じられる。
イレギュラーズ達は、街の外から、内部の様子をうかがっていた。これより、あの中に侵入し、目標を救出、脱出しなければならない。
それも、一切の死人なしで、だ。
「俺としては、暴れまわる方が楽なのだが――」
『潰えぬ闘志』プロミネンス・ガルヴァント(p3p000719)が言った。プロミネンスに限った事ではないが、その姿はまるで長距離を旅してきた旅人のよう。
変装である。仮に見つかった場合に、その方が相手の警戒を解きやすいだろう、と言う考えだ。
「いや、別に暴れまわろうというわけではない。依頼は理解している。ちょっとした愚痴のようなものだ」
「複雑な依頼、という意味では、その気持ちもわかるわ」
『ふわふわな嫉妬心』エンヴィ=グレノール(p3p000051)が答えた。ゆったりとした表情で、笑みを浮かべる。
「単純ではないのね……誰が悪い、と言うわけでもないもの。だから、難しい」
少なくとも、今回の事件に関係する、ほぼすべての登場人物は、被害者である、ともいえる。
故に、難しく、複雑な事件である、と、イレギュラーズ達も理解していた。
「だからこそ、私達に出来る第一歩を、ちゃんと成功させないといけないわね」
と、『希望を片手に』野々宮 奈那子(p3p000724)。少なくとも、今回の事件――この場所に限らず、今幻想で起きている多くの事件を、可能な限り穏便に解決できるのは、イレギュラーズ達だけだ。
「それじゃあ、行きましょう?」
『ペリドット・グリーンの決意』藤野 蛍(p3p003861)が言った。普段より生真面目そうな瞳が、今回はことさらにそのように見える。
「作戦通りに……しっかりやらないとね。頑張るわよ、皆」
その言葉に、イレギュラーズ達は頷いた。
かくして、潜入作戦が始まる。
●厳戒下の街:潜入
夜の街に、チラリチラリと炎が揺れる。
たいまつ、或いはランタンを持った男たちが、辺りをうろうろと歩き回っていた。
見張りである。
暴動により街の全てを制圧下に置いた住民たちであったが、いつどのような手段で、貴族側からの介入があるかはわからない。その為、このように多くの住民が、寝ずの番を続けていた。
さて、そんな街の住宅地を警戒していた男は、道の真ん中で、座り込んでいる女を発見した。
「おい、何をしている」
明りを照らしながら、声をかける。
見覚えのない女であった。肌は青く――体調不良の比喩表現ではない、本当に青いのだ――一目で、異世界よりの旅人、ウォーカーであることが分かる。
「ああ、すまない……少し気分が悪くなってしまって……」
女が言った。上目遣いに男を見つめるその瞳は、体調不良故か、少しうるんでいるようにも見えた。その様が実に色っぽくて、男は思わず息をのんだ。
「い、いや、そうじゃない。何者だ」
男は頭をふって、頭にかかるもやを振り払う。毅然とした態度を心がけ、詰問するのへ、
「余は旅の途中でこの街へ寄ったのだが……長旅のせいだろうな、疲れのせいで……すまないが、助けてはくれないか……?」
女は、はぁ、とあらめに息を吐いた。一呼吸ごとに肩が上下し、汗ばんだ肌が蠱惑的に光る。大きくはだけた胸が、男を誘っているようにも見えた。
「わ、わかった」
男が上ずった声をあげながら、近づいていった。邪な気持ちに支配されていたわけではないが、少なくとも、警戒心が最大に削がれていたのは事実である。
男が十分に近づいたのを確認して、女――『大罪七柱』ルクスリア・アスモデウス(p3p000518)は立ち上がった。そしてそのまま、バランスを崩したように、男にしなだれかかる。自らの武器――この場合は胸であったのだが――をぎゅう、と男の腕に押し付け、自らの顔を、男の頬に近づけた。吐息が男の頬をくすぐる。
「……ああ、すまぬな……良い夢を見せてやろう」
途端、男の頭部に衝撃が走った。男が昏倒する。
男の背後には、『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)が立っていた。男が倒れたのは、葵の一撃によるものだ。葵はすぐさま男の様子を確認する。
「よし、大丈夫っス。死んではいないッスよ」
ふう、と安どのため息をつく葵。
「良い夢が見れるかは、保証はないッスけど。まぁ、でも、良い思いはしたんじゃないッスかね」
肩をすくめる葵の言葉に、ルクスリアは得意げな表情で笑った。
「ふふん。余の大サービスであるぞ」
「流石は『色欲』を司る……と言う所かしら。妬ましいわね」
感心したようにエンヴィが言うのへ、
「うむ、それは誉め言葉であったな、『嫉妬』のエンヴィよ。有難く受け取っておくぞ」
と、ルクスリアが笑う。世界が違うとはいえ、『七罪』と言う同じような力を背景に持つ者同士である。ルクスリアは、エンヴィに対して興味を抱いているようであった。
と、足元で、猫が一匹、にゃあ、と鳴いた。『月下黒牛』黒杣・牛王(p3p001351)の飼う、『おはぎ』である。牛王により、ある程度の技を仕込まれているおはぎが鳴いたという事は、何らかの警告であろう。
近くに人の気配、或いは足音があったか。なんにせよ、長居をしている場合ではなさそうだ。
「後ろから来てるッスね……とりあえず、この人は路地裏に隠しておくッス」
言いながら、葵が倒れた男を、路地裏へと運んでいく。
旅人の格好をしている……とは言え、見つからないように動く事が最善の策であることは間違いない。
何せ、厳戒状態の街である。幾ら旅人であるとはいえ見逃してもらえる保証は全くないし、寧ろ拘束される可能性が高い、という事はイレギュラーズもわかっている。
旅人の格好は、あくまで保険のようなものだ。侵入者然、冒険者然、とした格好よりは、相手も警戒心が少々下がるだろう。
「おりこうさんね、おはぎちゃん」
奈那子がおはぎの頭を軽く撫でると、おはぎは嬉し気にひと声、鳴いた。
警戒と、時には実力行使を駆使し、イレギュラーズ達は少しずつ、街の中心へと向かって行った。町全体に動揺が広がっていないことは、なんとなくではあったが感じることができたので、こちらの潜入が気づかれていない事は理解できていた。
潜入からほどなくして、イレギュラーズ達は街の中央、教会へと到達することができた。入り口のあたりに見張りが二名ほど。イレギュラーズ達は、これを速やかに無力化した。そのまま、教会の内部の様子をうかがう。
教会の入口より入ってすぐ、礼拝堂に、目標の神父はいた。椅子に拘束されていたが、周囲に見張りの影はない。イレギュラーズ達は突入を決意した。
奈那子が扉を解錠した。ゆっくりと扉を開けて、イレギュラーズ達は内部へと突入。念のため周囲を警戒しつつ、一気に神父へと接近する。
「キミたちは……?」
神父が声をあげる。プロミネンスが神父を縛り上げていた縄を斬り、解放すると、奈那子が神父の両手を優しく握った。
「いきなり握手してごめんなさい。あなたに幸運が訪れますように、と言うおまじないなの」
そう言って、奈那子は微笑むと、
「領主様からの依頼です。あなたを救出する様に、と」
奈那子の言葉に、神父は目を丸くした。
「なんと……」
その言葉に、喜びと言うより、後悔と口惜しさがにじんでいる。
わざわざ領主が、自分を助けによこすという事は、大規模な武力制圧を起こすことになった、と言う事を察したのだろう。イレギュラーズ達も、老神父のそう言った思いは感じ取れた。
「……確かに、武力による制圧は、避けられないわ」
蛍が目を伏せながら、言った。
「でも、領主様は、決して無茶な行動や、犠牲を大きくするようなことはしない、って約束してくれたの。神父様を助けるのも、無駄な犠牲を出さないため、と言っていたわ」
蛍の言葉に、老神父は頷いた。
「分かっておるよ。優しい子だな、お嬢さんは」
「そんな……」
蛍が頭をふった。
「私のことなど放っておいても構わなかったのだが……いや、確かに立場上、私がここにいてはまずい事もあるのだろう。それに、危険を冒してまでここに助けに来てくれた君達の苦労を無駄にするわけにもいかんし、な」
老神父は立ち上がり、蛍に、そしてイレギュラーズ達に頭を下げた。
「よろしく頼みます、皆様方」
「……まかせて。神父様、貴方を必ず、ここから連れて帰るわ」
少しだけ微笑んで、蛍が言った。
「それで……私はどうすればよいのかな? そちらの立派な牛……こちらに乗せてもらえるのだろうか」
老神父の言葉に、雄牛は一声、鳴き声をあげる。そのまま礼拝堂の奥、小部屋へと姿を消した。少しの後、その小部屋からは一人の男が現れた。牛王である。牛王は牛へと変化して潜入していたのである。
「申し訳ございません。信じていただけるかはわかりませんが、先ほどの雄牛で御座います」
片膝を突き、牛王。老神父は驚いた表情をしながらも、深く頷いた。
「いえ、信じますとも。確かにその穏やかな瞳は先ほどの雄牛と同じ……大変な失礼を」
老神父が頭を下げる。それを見て、牛王は苦笑した。
「いいえ、良いのです。元々は牛である事は事実なのですから」
「お前さんは俺が担いでいく。乗り心地は良くないが、勘弁してくれ」
プロミネンスの言葉に、老神父は頷いた。
「そう言えば……例えば、この教会には秘密の脱出通路のようなものはないのか?」
プロミネンスの問いに、老神父は首を振った。
「残念だが、そのような物は……」
プロミネンスは、ふむ、と頷き、
「いや、あればよかった、程度の事だ。予定に変わりはない。無事、お前さんを連れて帰る。そこは信じてくれ」
その言葉に、老神父は力強く頷いた。
「では、行こうか……!」
プロミネンスの言葉に、イレギュラーズ達は頷いた。
かくして、彼らの脱出行が始まる。
●厳戒下の街:脱出
イレギュラーズ達は脱出を開始した。潜入時とは逆、囮と本命に別れ、それぞれ別の方向に脱出することになった。
イレギュラーズ達が教会を出発して少しの後に、辺りが騒がしくなったのを感じた。どうやら、教会がもぬけの殻となっていることに、住民たちが気づいたようだ。
「おやおや、気づかれたようですねぇ~」
『万物読みし繙く英知』セレスタイト・シェリルクーン(p3p003642)が言った。その身をマントで隠し、神父のふりをしているセレスタイトは、牛王に担がれたまま、背後を覗き見る。二人は、囮を担当している。
「気をつけてください、舌を噛みますよ」
牛王が注意の声をあげつつ、走った。
「わわっと……運んでもらえるのは役得ですねぇ~、走るのとかも得意じゃないんです……」
のんびりと言うセレスタイトではあったが、運ばれつつも辺りを見渡していた。脱出中に敵と遭遇しないとも限らない。そうなった場合の援護攻撃は、セレスタイトの役割だ。
「できれば、このまま脱出できればいいんですけどぉ~……難しいですかねぇ~……」
「騒がしくなってしますからね……さて」
そう言う二人の前に、一人の男が現れる。男はこちらの様子を見て面食らっているようだ。どうやら、教会から老神父が逃げた、と言う情報が伝わっていない見張りの様子。
「おやおやぁ~……えいっ、と」
セレスタイトはマジックロープを放った。男が縛り上げられる。完全に無力化したとは言い難いが、少々の時間稼ぎくらいにはなるだろう。
「人が来るのも時間の問題ですね……急ぎましょう」
牛王の言葉に、セレスタイトは頷いた。
イレギュラーズ達の逃走劇は続く。いよいよ本格的に老神父逃走の情報は伝達され、イレギュラーズ達を探す者たちで、街はあふれかえっていた。
「いたぞ!」
と、男が一人、屋根の上を指さした。
そこには、人のような形をした袋を担いで逃走する、エンヴィ、そしてそれを守る様に奔る蛍の姿がある。
「良い具合に釣れてるみたいね……」
蛍の言葉に、エンヴィが頷いた。
「このまま、離脱しましょう?」
エンヴィと蛍は、屋根の上を走り、逃走を続けた。眼下には、いくつもの明りと人影が、2人を追う。
「……! 蛍さん……!」
エンヴィが声をあげた。回り込んできたのか、男が一人、待ち構えている。
「任せて!」
蛍が先行して走った。勢いを殺さず、男を蹴り上げる。男はぐえっ、と声をあげて意識を手放した。
「よいしょ、っと……」
後から追いついたエンヴィが、倒れた男を、比較的平らな所に寝かせる。落っこちでもされたらたまったものではない。
「ありがとう、グレノールさん」
蛍が言うのへ、エンヴィが微笑む。そんな二人を、人々の怒号が追いかけてきた。
「ゆっくりしてられないみたいね」
エンヴィが言うのへ、蛍が頷いた。
「もう少しよ。頑張りましょう、グレノールさん」
エンヴィが頷いて、2人は再び走り出した。
一方、老神父を連れた本命のチームも、今まさに脱出の最中である。囮の2チームによってある程度追手の分散はなされたものの、全ての住民たちがそちらに釣られたわけではない。
「そっちが仕掛けるからこっちは守ってるだけっス、何がどうとかじゃなくて、これはただの正当防衛っスよ!」
葵が男の一人を蹴り上げ、
「ごめんなさい……!」
奈那子は別の男を組み伏せた。
男は2人とも倒れ、動かなくなる。倒すたびに、ひやりとする。これは、不殺の依頼であるのだ。勿論、それ以前に、あくまで一般市民である彼らを殺害するというのも、あらゆる意味でよろしくはない。
「戦場であれば、勝つ事を第一に考えられるのだが……やはり、やりにくいな」
プロミネンスが言う。その言葉に、老神父は、
「あまり物騒な事は勘弁して欲しいな」
と、冗談交じりに言い、
「ああ、すまない、わかっている」
プロミネンスも、苦笑いで返した。
「もうすぐ街を出るぞ!」
ルクスリアが叫ぶ。その通り、街のはずれが見えてきた。イレギュラーズ達は最後の力を振り絞り、駆けだす。街を出た、と言っても、すぐには安心はできない。住民たちがどこまで追ってくるかはわからないし、何より、囮をかって出てくれた仲間たちとも合流しなければならない。
「悪いが、もうしばらく付き合ってもらうぞ?」
プロミネンスが老神父に声をかける。老神父は頷いた。イレギュラーズは街を脱出し、しばらくは逃走を続けた。やがて追手が来ないことを確認して、プロミネンスは背負っていた老神父を下ろした。
「無事か?」
と言うプロミネンスの言葉に、
「おお、中々楽しい乗り物だったよ」
と、冗談交じりで老神父が応えた。プロミネンスは苦笑しつつ、肩をすくめた。
「ひとまず、ここまでくれば安心、ッスね」
葵の言葉に、
「ええ……皆も無事でいてくれるとよいのだけれど……」
奈那子が言う。
「うむ……神父よ、すまないが、少し休んだらまた移動させてもらうぞ?」
ルクスリアの言葉に、老神父は頷いた。
「分かっているよ。彼らと合流するのだろう? 私も心配だからな」
「そう言っていただけると助かる」
ルクスリアは微笑んで頷いた。
少々の休憩の後に、イレギュラーズ達は合流地点へと急いだ。
そこでは、囮班のメンバーたちが、イレギュラーズ達を待っていた。
「おお、『嫉妬』の。無事だったか」
ルクスリアの言葉に、エンヴィは笑った。
「ええ。そちらも無事のようね。妬ましいわ」
「幸い、こちらも誰一人かけることなく脱出できたわ」
蛍が言う。
「いやぁ~、ちょっと大変だったけどねぇ~。まぁ、私は運んでもらっていたので楽でしたけどぉ~」
にこにことセレスタイトが言い、
「神父殿がご無事で何よりです」
牛王が穏やかに笑った。
誰一人かけることなく、イレギュラーズ達は脱出に成功したのである。
老神父は、イレギュラーズ一人一人に、頭を下げ、
「ありがとうございます、皆様。私も改めて、この騒動に決着をつけるため尽力する事を誓いましょう」
そう誓うのであった。
夜闇に、大きく月が輝いている。
それは、この事件の前途を明るく照らすように、イレギュラーズ達を優しく包み込んでいた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
ほどなくして、領主の手による武力制圧が発生しましたが、
老神父が同行し、説得と投降を促した事もあり、
当初の約束通り、被害もなく、街は解放されました。
住民たちに対する罰も、諸々の事情を鑑み、軽いものになるようです。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
暴徒たちの目をかいくぐり、1人の老神父を救出する任務です。
●成功条件
一切の死人を出さず老神父を救出し、街から脱出する事
●情報確度
A。老神父が教会に囚われているのは確実です。
●潜入タイミングについて
潜入するタイミングは、夜となっています。昼に比べて住民たちの活動は落ち着いていますが、それでも多くの見張りや住民たちが、辺りを見回っているはずです。
●敵について
住民 × 不明(恐らく100名近い住民が武装し、町中に点在)
強さは、イレギュラーズよりはるかに格下(一般人です)。
農具などの近接武器で武装しています。基本的に物理の近距離攻撃(バステなし)を行います。
また、くれぐれも死人は出さないように、とクライアントから厳命されています。
●その他
街の地図は存在し、皆さんは所持しているものとします。
街はおおざっぱに言えば円形で、外周から中心に向かって民家などが配置され、中央に教会や店などが密集している作りになっています。
教会には、内外に見張りが存在すると思われます。
以上となります。
それでは、皆様のご参加お待ちしております。
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