PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<幻想蜂起>無かったことに

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●見せしめに
 現在、幻想国内では連鎖的に民衆が蜂起している。
 原因がサーカスの影響なのか『何らかの外的要因』があったのかは定かではないが、民衆が蜂起したところで貴族への勝ち目はない。
 貴族はこれらの暴挙に軍を派兵しようとした。それを『蒼剣』レオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002)が「ローレットを上手く使い、最悪訪れる『更に大きな反乱』に戦力温存すべきではないか」と交渉していたのだ。
「けれどさ、交渉に応じない貴族もいないわけじゃないんだよ」
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)が肩を竦めながらそう話す。まるで『仕方ないよね』とでも言いたげに。
「そんなわけで、今回の依頼は貴族から虐殺の依頼さ」
 その貴族の領地でも蜂起は起こっていた。
 とは言っても蜂起はまだまだ初動状態、しかもさして大きくない村1つのことだ。せいぜい鍬や鋤を持って向かってくるような、簡単に制圧できるもの。
 けれど、歯向かってくるというその姿勢が貴族のプライドを刺激した。
「村1つ、女子供も殺してくれ。村の人間は全員ってことだね。最後に火を放って、『あの村は大火事によりなくなってしまった』ということにしたいらしい」
 火を放つのはイレギュラーズがやらなくても構わないらしい。その場合は貴族の私兵が燃やすとのことだ。
「イレギュラーズの中には蜂起に関係のない人間も殺すなんて、と思う人もいるだろう。そういった場合はこの依頼に行くことは勧めない」
 どうして子供達も、などと言う声も聞くだろう。人によっては心を痛めるかもしれない。そういた可能性を考慮しろということだ。
 この依頼に参加するか否かは、イレギュラーズの自由である。

●村での一幕
「国の中が不穏なのも」
「ひでェ事件が終わらないのも」
「俺達が苦しい生活なのも」
「全部あいつらのせいだ」
「そうだ」
「そうだ」
「あいつらさえいなければ」

 敵わないのは誰もが分かっているはずだった。けれど、誰もが止まろうとはしない。
 一度爆発してしまった不満は止まらない。同じように、変えたいと思う想いも止まらない。
 自分達が命を散らすことで何かが変わるのではないかと、どこかで信じている。
 けれど、彼らは気づいていない。
 このままでは猟奇殺人事件以上に大きな被害になる、ということを。

GMコメント

●成功条件
 村1つの壊滅

●村
 全体として決して裕福ではない。貴族の搾取に元々不満は募っていたと思われる。
 規模は100人程度だが、老若男女様々であり、いずれも戦闘に関しては素人。
 また、村人の中には蜂起に関係のない人間もいる(特に子供)。
 家は全て木製。村は簡素な獣除けの柵で囲われており、村の中には畑や家畜小屋などもあるようだ。
 貴族の元へ押しかけに行く直前の為、余所者は警戒され追い返される。

●注意事項
 <幻想蜂起>の当依頼は、他の同タグが付いた依頼と重複参加ができません。
 他にも参加したい依頼がある場合、吟味して参加申請を行ってください。

 また、この依頼は『悪属性依頼』となります。
 成功以上の場合、幻想の名声値にマイナスが付与されますのでご注意ください。

●ご挨拶
 愁です。悪属性依頼です。燃やします。
 1人でも生き残りがいた場合は失敗です。気を付けてください。
 それではご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

  • <幻想蜂起>無かったことに完了
  • GM名
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年05月09日 21時50分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シェリー(p3p000008)
泡沫の夢
御幣島 戦神 奏(p3p000216)
黒陣白刃
グレイ=アッシュ(p3p000901)
灰燼
イース・ライブスシェード(p3p001388)
ニーマンズ
黒鉄 豪真(p3p004439)
ゴロツキ
松庭 和一(p3p004819)
破られた誓紙
コール・コーラー・コーリング(p3p004841)
真紅の解離
ヴェルフェゴア・リュネット・フルール(p3p004861)
《月(ムーン)》

リプレイ

●怒声に始まり
 特に名産品があるわけでもない、辺鄙な村。突然の来訪者に気づいたのは2人の男だった。
「そこの子、ここに何か……」
 来訪者に声をかけた村人。しかし続けようとした言葉はその来訪者の凶器で途切れる。
 隣にいた男は一瞬呆然とし、キッと来訪者──否、襲撃者の『戦神』御幣島 戦神 奏(p3p000216)を睨みつけて鍬を握り締めた。
「こ……この野郎!!!」
 その声と共に振り上げられた鋤を奏は軽く避け、持っていた短剣を横に薙ぐ。奏の目の前にいた男は首元から血を流し、つい先ほど殺した1人目の体に折り重なるようにして倒れ込んだ。
 足元に広がる2つの血だまりから視線を外し、奏は周りを見渡した。
 2人の声によってこちらに気づいたらしい。周りで村人と思しき男達が農具を手に奏を睨みつけている。
「ガキ、何者だ!」
「盗賊ですぜ。手始めに邪魔な村人は殺していくぜがっはっはー!」
 殺しを宣言し、高らかに笑う奏。
 怒り、怯え……村人達の浮かべる様々な表情に、奏の中でふと疑問が生じた。
(あれ、こっちのほうが性に合うのかな?)
 それは正義の味方ではなく、非情なる悪役という立場が、ということで。
 まー気にすることもないか、と奏はその疑問を放り出した。
 そんなことを考える理性はどこかへ置いて来てしまった。
(正義の味方のごっこ遊びはもう飽きたし? 私は好きにやらせてもらうよ)
 奏の口元が歪な笑みを浮かべる。
「革命など、結局は殺されるしかないのさ……だろう?」
 所詮、大量殺人だ。刺激的にいくとしよう。
 呟いた奏は前方にいた若者へ素早く肉薄した。
 ああ、唖然とした表情のなんと滑稽なことか。その凶刃に若者が倒れ、男達の囲いが破られる。
 手に持つ農具を振りかざすも、奏にとって彼らの攻撃は躱すことなど容易だ。
 けれど、数の不利がある状態で完全に躱せるかと言われれば否である。
「こ……のっ」
 1人の男の振り下ろした鍬が奏の肩を打つ。それは浅くではあれど奏に傷をつけた。
 つけた、はずだった。
「ひっ……なんだ、こいつ」
 奏に攻撃をした男が徐に後ずさり、周りも気づいた者から距離をとり始める。奏はそれを見ながらニタニタと笑った。
「せっかくの倒すチャンスだったのに。でも残念。この程度、すぐ治っちゃうんだ。どう? 怖い?」
 破れた服の隙間から見える肩はすでに傷1つなく、綺麗な肌が見えている。
 奏が足を前に出す。男は鍬を取り落とし、怖気づいたように1歩下がった。
 前に出る。1歩下がる。前に出る。1歩下がろうとして──男の背中が家の壁に当たった。
 男が背後を見た瞬間に奏は力強く足を踏み出す。
「手間を掛けさせないでね、たった1人に……大勢待っているんだからさぁ」
 お祈りは、済ませたかい?
 問いに返る言葉はない。代わりに赤い水溜りが、また1つ増えただけ。
「ま、縋る神もいないけどね。さあ、次は誰にしようか」
 十字の瞳が、獲物を見定める如く男達へ向けられた。

「素晴らしい依頼があると聞いて受けたのですが、1人も逃がすなとはなかなか大変ですわね」
 最大限貢献出来るようにしたいですわ、と呟きながら家を破壊していくのは『狂える崇拝者』ヴェルフェゴア・リュネット・フルール(p3p004861)。
 自らの崇拝する『イーゼラー様』に村1つ分の魂を捧げられるのだ。1人残らずという条件が課せられているが、それも神の為と思えば苦にならない。
 大人数が立てこもることのできないような小屋に遠術をぶつける。すると隠れていたのだろう、女性と子供がそこから逃げ出した。
 その背にも遠術を放って2人分の命を屠ると、ヴェルフェゴアは口元に美しい笑みを浮かべた。
「ああ、イーゼラー様……これからもっと魂を捧げますわ」
 次の破壊対象へ目隠し越しに視線を向けるヴェルフェゴア。その頭上を黒い影が2つ通り過ぎ去る。そのうちの1つはくるりと旋回し、奏から逃げまどっていた村人達へ声を発した。
「こいつらはお前達じゃ敵わない。建物に避難だ」
「なっ……カラスが、しゃべ……っ!?」
 空を見上げた男が目を剥く。その隣で奏の様子を伺っていた男がきっとそのカラスを──『Anemone』松庭 和一(p3p004819)を睨みつけた。
「んなこと言ったって、あいつが殺しに」
 その言葉は最後まで紡がれることなく、その命は奏の短剣によって屠られる。
 ニタリと笑みを浮かべながら近づいてくる奏に、もう1人の男は腰を抜かして座り込んだ。
 その視界に影が差し、振り上げられた短剣が鈍く煌めく。

 ガキン。

 思わず目を閉じた男に聞こえたのは硬質な音。
 痛くない。痛みなんて感じる前に死んでしまったのか。そもそもそんな音立てる程俺固かったっけ。
 恐る恐る目を開いた男は、立ちはだかる赤いボディに目を瞬かせる。
「あなたを守りました」
 過去形の物言いで、けれど現在進行形で『真紅の解離』コール・コーラー・コーリング(p3p004841)は奏という『襲撃者』から村人を守ろうとそこに立っていた。
 コールが攻撃を受け止めていた杖で相手を押し返し、奏は距離を取るように後ろへ跳び退る。
「避難場所へ行きます」
 コールの単眼が男へ向けられる。男はその目を見ながら素直に頷いた。
「おっと邪魔をするんじゃないぜ!」
 再び向かった奏の短剣がアンテナのような杖で受け止められ、拮抗した。
 その間に尚も座り込む男の服を和一が嘴でぐいぐいと引っ張る。
「こっちだ」
「ああ」
 和一は男を急かしながら空から飛んでいる際に見つけた大きな建物へ誘導する。
 そこには既にちらほらと避難を済ませた住民が集まっていた。
「この村での作戦が無事に終了し、安全が確認され次第お報せに参ります。くれぐれも外にはお出になりませんよう」
 『泡沫の夢』シェリー(p3p000008)が男の姿を認め、そう告げながら中へと促す。
 中には襲撃者の手から逃れた女子供や病人が固まって座り込んでいた。窓の付近はバリケードの目的か、家具が寄せられている。
「あまり生活感がありませんが、ここは集会所でしょうか。家具が足りないようですので、板などで補強したいのですが」
「そ、そうか。それなら奥に資材を置いている倉庫がある」
 男がシェリーを案内する。和一はそこそこ広い集会所の中を1周し、素早く視線を走らせた。
 まだ避難している者は少なく、いずれも女子供が多い。依頼内容はこういったか弱い者も残らず惨殺だ。
(悪いね、俺は善人じゃないんだ。……まぁダからといって悪人というわけでもないんだけどな)
 貴族の考える事は和一の思考の外にあり、ワケが分からないというのが正直なところ。
 けれど受けた以上は、依頼者である貴族の仰せのままに。

「リン!」
 母親に呼ばれた少女は滲む涙を拭ってゆっくりと起き上がる。転んだ時に擦った膝は赤くなり、血が滲んでいた。
「リン、早く!」
 声の方を向けば母親が必死の形相で呼んでいる。
 ああ、痛いけど早く行かなきゃ。じゃないと家を壊した人に殺されちゃう。
 ぐっと目を擦って走り出そうとした矢先、背後で何かが光った気がした。
「え……?」
 思わず振り返ると、少女に向かって光が飛んでくる。否、攻撃の術式だ。
 魅入られたように立ち止まり、それを凝視する少女。当たるまで数秒もない中、少女は突然何かに抱き寄せられた。
 抱き寄せたそれが一瞬影になり、その間に光が霧散する。
「大丈夫かい?」
「……おにーちゃん! そのうでっ」
「いいから行きなさい。僕の仲間が避難誘導をしてくれてるからね」
 『灰燼』グレイ=アッシュ(p3p000901)は少女を母親の方へ促す。駆け寄ってきた母親は少女をぎゅっと抱きしめた。
「ありがとう、ありがとうございます」
「もし他にも避難できてない人がいたら、一緒に避難してくれると嬉しいな」
「はい……っ」
 母子が背を向けて走っていく。その先に黒いカラス姿の和一を見て、グレイはヴェルフェゴアに視線を向けた。
 先ほど攻撃を受け止めた腕は、多少の怪我ではあるものの自動防護術式のおかげでさして酷くはない。あの少女の反応は普段こんな怪我を見ないが故。
 今の親子も、貴族に対して立ち上がった男達も。恐らくグレイ自身より真っ当な人間なのだろう。その不平不満に立ち上がることだって悪い事ではない。
(ただ……運が悪かったのさ)
 この領地を治めるのが依頼人となった貴族であったことも、依頼を遂行するのが自分達であったことも、きっとすべて。
 グレイの身を挺した行動が母子から逃げる村人達へ徐々に広がり、突然現れた彼らに対する戸惑いから明確な信頼へと変わっていく。それは避難するスピードが上がる要因であった。
「よし、こんなもんだナ」
 手近な草でトラップを仕掛けた『ゴロツキ』黒鉄 豪真(p3p004439)は傍でその様子を見ていた男へ振り向いた。
「なア。武器が欲しいんだが、農具を貰って言ってもいいカ?」
「ああ。……頼む、こんなところで殺されるわけにはいかないんだ」
 農具を受け取りながら──実際のところは回収しながら、豪真は頷いた。勿論自らの武器はちゃんと隠し持っている。
「そういえば、大きな農具なんてのはあるのカ?」
「大きな農具? あったら楽だろうが、そこまでの資金はなくてね」
 それもあいつのせいだ、と男が小さく呟いた。豪真はそれを聞きながら男を避難場所へ促す。
(俺達はその『あいつ』に村の壊滅を任されたんだけどナ)
 気取られてはいないようだ、と豪真は小さく笑みを浮かべた。
 惨殺、なんて実に血の滾る依頼だ。きっちりと依頼をこなし──楽しむとしよう。
 一方、避難誘導を行っていた『ニーマンズ』イース・ライブスシェード(p3p001388)は家屋の裏で震える少年を発見した。
「君」
 声をかけるとビクリと肩を揺らし、少年が恐る恐る顔を上げる。
「……こ、ころさ、ないで」
「私は君達を助けに来た。皆と一緒に避難してくれ」
 助けに来た、という言葉に少年がほっと安堵の表情を浮かべる。それを見ながらイースはここで殺しておくべきか、とも考えたが。
(……まだ人がいるか。避難させておこう)
 近くを逃げていく村人の気配に、少年の寿命は十数分ほど長くなったのであった。

●転換点
「コールくん、助かったよ」
「これで大丈夫です」
 緑の光が収まる。癒された腕をさすり、グレイは辺りを見回した。
「あらかた避難は済んだようだ。……そろそろ、だね」
「わかりました。処分開始ですね。新たに沢山見れそうで私らは少し嬉しいです」
 精神の記録の為の実験。この依頼もその一環だ。
 中でもこういった集団の少なく、貴重。嬉しくないわけがないのである。
「た、助けてくれ! 殺人鬼が……っ」
 青年が1人、2人の方へ駆けてくる。必死の形相で、もはやこちらを疑うなんてこれっぽっちも考えていない。
 コールと青年の視線が交錯したその瞬間、青年は表情を一変させて立ち止まった。
「実験を始めましょう」
 その言葉と共に、1人の命がまた奪われた。
 けれど、集会所の中にその様子は伝わらない。人間種の姿へ変わった和一の声が室内に響いた。
「この中に、腕に覚えのある奴は手を上げろ」
 ぽつぽつと手が上がる。和一はそれを見て更に声を上げた。
「人手が必要だ。共に襲撃者へ立ち向かわないか」
 和一の言葉に顔を見合わせる男達。しかしやがて決意の瞳を持って立ち上がった。
「ここは俺達の村だ。他の奴らに任せてばっかりじゃいけねぇ」
「ああそうだ、やってやろう」
「……よし、行くか」
 和一が踵を返し、それに男達が続く。
 外へ出ていく男達を横目に見ていたシェリーは、「あの」と女性に声をかけられ視線を向けた。 
「どうされました?」
「ほ、本当にここで固まっていて大丈夫なの? 散らばって逃げた方が……」
 女性の表情には不安が滲んでいる。視線を落とせば、その足に小さな子供がしがみついていた。
 成程、子供を庇いながら逃げるなら早く動くべきと考えたか。
「散らばるよりも1つの場所に集まった方が安全かと。それに、もう少し先の地域でも同様の事件が起きて居る為、私達と同様の作戦が行われております」
「そんな……」
 シェリーの言葉に項垂れる女性。その肩にそっと触れ、シェリーは中へ促した。
「近隣地域から作戦終了の報せが届かぬ限り安全とは申し上げられませんので、もう暫しお待ちください」
 沈んだ表情で頷く女性を見て、けれどシェリーの心が揺れ動くことはない。興味がない、といった方が正しいだろうか。
(彼らも覚悟あってのことでしょう)
 殺す覚悟があるのなら、殺される覚悟もあって然るべきだ。
 バサリ。シェリーの頭上を、グレイが使役する鳥が通り過ぎていった。
 
「これで30人ほど死んだ。まだまだ先は長いぜ」
 今しがた殺した少年の死体を見ながら、奏がニィ、と瞳を細める。
 その瞳が次に捕らえたのは和一と数人の村人達。新たな獲物に思わず鼻歌を歌ってしまいそうだ。
 奏の楽し気なその様子は、村人にとって幻想国内で聞き及ぶ猟奇的事件の犯罪者を思わせただろう。
「俺らの村を、これ以上好きにはさせねぇ!!」
 男が鍬を振り上げる。──だが。
「……がっ!?」
 攻撃が奏に届く、その直前。横っ腹に掌底をくらった男は脇へふっ飛ばされた。
 その痛みに顔を顰めながら視線を上げ、男は目を見開く。
「な、なんで、あんたが……」
「悪いね。依頼人の要求(オーダー)に応える事しか俺らは出来ないのさ」
 男の前に立った和一が手を横に薙ぐ。その軌跡に鋼線が煌めいて、男の首を刎ねていった。

「あら? こんな所で何をなさっていらっしゃるんですの? 早く還らなくてはなりませんわ?」
 ヴェルフェゴアは戸棚に隠れていた小さな子供達を見つけ、優しく声をかけた。
 子供達は怯えた瞳をヴェルフェゴアへ向ける。
「……かえるの?」
「おかあさんたちのとこ?」
「いいえ、還るのはイーゼラー様の元ですよ」
 戸棚から外へ2人の子供を促し、ヴェルフェゴアは徐に術式を片方へぶつける。
「……え」
 血を撒き散らして倒れた子供に、もう1人が目を瞬かせる。そして緩慢にヴェルフェゴアへ。その様子は現実を許容しきれていない、まさに呆然としたもの。
「ふふふっ……魂が捧げられることは変わらなくともやはりわたくし自身の手を下す方が素晴らしいですわ……」
 うっとりと地面に広がる血を眺めていたヴェルフェゴアは、もう1人の子供を見て美しく微笑んだ。
「さあ、イーゼラー様の元へ還りましょう?」
 その言葉が引き金か。
 ぱっと弾かれたように子供が逃げ出す。その背に遠術を放ったが、当たる直前に子供の姿が消えた。
「あら」
 転んだ子供が身を起こし、再び走る。転んだことで九死に一生を得たようだ。
 だが。
「ぎゃっ」
 別方向からの術式に子供が倒れる。その術者──イースは子供に近寄り、その息の根が止まっていることを確認した。
「やられる側に非はないのだが、うむ。済まないね?」
 これは仕事だ。特に心を痛めることもなく、こなすのみである。

●悲鳴に終わる
 幸か、不幸か。グレイの使役する鳥とシェリーの見張り兼監視の元、外へ出ていくような村人はいなかった。
 不気味なほどの静寂。窓も塞いでしまった今中を覗き見る事はできないが、中は緊迫した雰囲気に包まれていることだろう。
「さぁ村に火を放ちましょう!! 1人も残さずにみな平等にイーゼラー様の元へと還しましょう!!」
 ヴェルフェゴアの歓喜に満ちた声と共に、和一のカンテラから火が放たれた。

「ねえ、焦げ臭くない?」
「……嘘、火が上がってる!!」
「扉が……扉が開かないの!!」
「うええぇぇぇおかあさぁぁあん」
「助けて、助けてよ! ここ開けて!!」

 ガタガタと引き戸を開けようとする音。悲鳴。泣き声。様々な音を火が包んでいく。
 扉は豪真の拾ってきた木の突っ張り棒で開けることができなくなっている。けれど扉を開けられたとしても火から逃げる事は困難だろう。シェリーの提案により火は建物を取り囲むように放たれていた。
 しかし。
「……右だ! 逃げ出そうとしてるぞ!」
 少し離れた家の屋根に上っていたイースがいち早く逃亡者の存在に気づいた。窓の板が燃えて落ちたか、奇跡的に抜け出せたらしい。建物から出てきた背中にすかさずヴェルフェゴアの術式が放たれる。
 胴に風穴を開けられた村人は鈍い動きでイレギュラーズを振り返った。
『な、ぜ』
 そう、口が動いた。それを一同は見た。
 直後村人は倒れ、動かなくなる。
「実験は終了しました」
 淡々としたコールの言葉が零れ落ちた。
「村の諸々も焼こうか」
「そーだねー。全て焼き払ったらとっとと帰ろうね」
 グレイと奏の言葉によって、無人の民家にも次々と火が灯される。
「……豪真くん、あそこの影に誰かいるようだ。あちらにもいるようだから、僕はそっちへ行くよ」
 どうやら数人、上手くヴェルフェゴアの透視をかいくぐったらしい。
 グレイの耳にしたごく小さな音。それを伝えると豪真は1つ頷いて小屋の影へ回り込む。
 こそこそ逃げようとする少女を捕まえ、口を塞ぐ。少女は恐怖に彩られた瞳を上へ──豪真へ向けた。
「……逃がしはしねぇヨ。今日でこの村は無くなるんだからヨ」
 パンッ。
 乾いた音が、木の燃える音に混じった。

成否

成功

MVP

グレイ=アッシュ(p3p000901)
灰燼

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした。
 この村が人々の記憶から抹消されるのも、そう遠い先の話ではないしょう。

 身を挺して守るという行為は、突然現れたあなた方を信用に値すると思わせる十分な要因だったと思います。そんな貴方へMVPをお贈りします。

 それではご縁がございましたら、またよろしくお願い致します。

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