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シナリオ詳細

忘却の国のメモワール

完了

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オープニング

●忘却の国の
 其処は忘れ去られたモノの世界。
 其処では全てに記憶があり思い出があり、全てに記憶も思い出も無いのです。
 あなたに失くしものはありますか? 
 いつのまにか、どこに行ったか分からなくなったものはありませんか?
 其れは形有るものか、無いものか。それはあなたにしか分からないけれど。
 けれどそれは此処にあるかもしれません。
 だって此処は忘却の国。
 全てに忘れ去られたモノの世界。

●『メモワール』
「……はいはい、分かった分かった。順番に聞いてあげるから並んでくんない?ボクの耳はそんなにたくさんないよ」
 積み重なった瓦礫の山の上。腰掛けた少年は気怠げに息を吐く。
 ラフな服装にカーキのジャンパーを羽織った彼は目の前に整列する『モノ』達を見遣った。
 それはぬいぐるみだったり武器だったり、はたまた割れたカップや食器など、ガラクタのようでいて、共通性はないように思えるものたちばかり。
 けれど『聴き手』の少年ーーメモワールは知っている。それらは全部『誰かの忘れ物』であることを。
「キミらも難儀だね。キミらの方は沢山の記憶を持ったままなのに、持ち主からは忘れ去られていくんだから。」
 手を伸ばし、其処にあったウサギのぬいぐるみの頭を撫でた。

 此処、忘却の国にいる忘れ物たちはみな「話たがり」だ。忘れられていくことに抗うように、自分にまつわる話――自分だけの運命の”物語”を聴いてもらいたがっている。
 それはまるで、自分がそこにいた記憶を刻み込むように。
 けれど、その声は誰にでも聴こえるわけではない。
 『聴き手』であるメモワールの耳にだけ届くその”声”を聴いて、彼らの想いを満たすのが彼の仕事なのだ。
 けれど……。

「そろそろ、”許容量”もいっぱい、か」
 メモワールがぽそりと呟く。
 この国は、忘れものたちが居れる量……つまり”許容量”が決まっている。その許容量を超えては、古い忘れ物たちから消えてゆく定め。
 けれど、全てに忘れ去られたその果てで、ただ消えゆくのを待つのみとは、なんと忍びない命だろう。
 
 だから、メモワールは客を招くことにした。
 忘れ物たちをもう一度必要としてくれる誰かが、もしかしたらいるかもしれない。
 そんな人と巡り逢い『忘れ物たち』が新たないのちを歩めるならば、それはきっと幸せで。
 だから……。

「……お前たちが、新しい”ご主人様”を見つけられるといいね。あぁ、でも、どうせなら。お前たちを選んだお客人には、お前たちの物語を聴いて貰おう――。」

NMコメント

 始めまして、凍雨と申します。
 今回イレギュラーズの皆様には、忘れ去られたモノたちの住む世界……通称「忘却の国」に赴き、あなたの持ち帰りたい「忘れ物」を探して頂きます。
 それではどうぞ、良き出会いを。

●目的
 持ち帰りたい「忘れ物」を探し、そのモノにまつわる話……つまり、そのモノが辿ってきた運命の物語をメモワールに語って貰いましょう。

 まずはあなたが持ち帰りたいものを探して下さい。
 なんとなく運命を感じたから、実用的だから、色が気に入ったから。
 理由は何でも構いません。あなたが「これだ」と思った、その事実が大事なのです。

 メモワールのところに持っていき、あなたの選んだモノにまつわる物語を聞いてみましょう。あなたの創造もしなかった内容を語ってくれるかもしれません。
 ご希望の話の雰囲気などがあれば添えてお書きください。内容の指定などあればそれも。

●忘却の国
 何処までも続く空と「忘れ物」たちの世界です。
 忘却の国には”許容量”が決まっており、それを超えては古いものたちから消えてしまうようです。

●メモワール
 忘却の国唯一の『聴き手』の少年です。
 忘れ物たちの”声”を聴き、そのモノが辿ってきた運命の”物語”を聴き、あなたに語ってくれます。
 彼自身もまた、誰かに忘れ去られた存在なのかもしれません。


 以上となります。
 皆様のご参加をお待ちしています。

  • 忘却の国のメモワール完了
  • NM名凍雨
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年10月22日 19時42分
  • 章数1章
  • 総採用数5人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

歩峰 透夜(p3p008147)
うたたね

「許容量が一杯になると古いものから消えてしまう、か……。なんだかしのびないね」
 叶うことならすべて……と考えて、透夜は静かに首を横に振る。同情だけで大量に引き取れるわけじゃない。

 くるりと辺りを見渡した赤い瞳が古びたアンティークキーに眼を留める。
 赤褐色の華奢な体に、繊細な白百合の頭飾り。
「君はどこの鍵なんだろうね」
 世界の何処かに運命の相手(ぴたりと合う鍵穴)が在るのだろうか。それとも……。
 思考に耽る透夜の元に気怠い声が降ってくる。

「そいつは古書の鍵だよ」

 メモワールだ。
 「古書?」と瞳を瞬かせて聞き返した透夜に頷いて。
「そ。そいつの相棒は古ーい植物図鑑に掛かった鍵らしい。装飾がそりゃあ綺麗な本だったみたいだね」
 メモワールは薄曇りの空を仰ぐ。遠い過去に想い馳せるように。
「持ち主は植物好きの紳士でさ。彼に沢山植物の話を聞かせてもらったんだって」
 その彼もいつしか命尽きたその後に、本と鍵は離れ離れになり。誰も彼もに忘れ去られた。
「だからそいつは植物の匂いに惹かれるのさ」

 メモワールは尋ねる。「それ、どうするの?」と。
「ボクの部屋の机の引き出しで眠ってもらうよ。今日の日を思いだす縁としてボクの傍にいてほしい」
 退屈かなと問うた透夜にメモワールが微笑む。
「いーんじゃない。そいつ寂しがりだからさ。時々は磨いてあげてよ」

 
 『植物図鑑の骨董鍵(アンティーク・キー)』の新主人――歩峰透夜。

成否

成功


第1章 第2節

シェリオ・アデラ(p3p007986)
癒やしの魔法人形

 ここにあるものは全て誰かの『忘れ物』だという。
「……うーん? おれも色々わすれてるから、もしかしたらおれの『忘れ物』もあったりする?」
 何忘れてるかわかんないけどな! とシェリオは無邪気に紺の瞳を輝かせた。

 変なモノ、綺麗なモノ、古いモノ。姿形も様々なそれら。シェリオは好奇心の赴くままに眺めていき。
 ふと、ひとつのぬいぐるみと目が合った。
 シェリオがひょいっと抱き上げたのは、煤けたオレンジ色の猫のぬいぐるみだ。
「……うん、これにしよ」
 ぽんぽんと埃を払うと、「へへーっ」とぬいぐるみをたかいたかいして眺める。

「ぬいぐるみ好きなの?」

 降ってきた気怠げな声。メモワールである。
「あんたがメモワールか! 好きってわけじゃないけど、なんか見てると懐かしい!」
 理由はわからないけれど何故だかとても懐かしいから、だから。
「こいつ連れてっていい?」
 目を細めたメモワールは、肯定するように微笑む。

「そいつはどっかの男の子の友達なんだ」
 彼の誕生日に両親から贈られたのが、少年とぬいぐるみの出会いだった。それからずっとその子の友達として傍にいたけれど。
「ある日を境にぱったりとさ。その子は帰ってこなかったんだって」
 メモワールが、次にシェリオに目を向けた時。その瞳はとても優しかった。
「そいつ、君に会えて嬉しいって。だからさ、よければ友達になってやってよ」


 『少年のともだち』の新主人――シェリオ・アデラ。

成否

成功


第1章 第3節

ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣

「忘れ物、か。剣の身としては無視はできない話だね」
 本来の姿が実用剣であるヴェルグリーズにとって、『忘れ物』たちの危機は他人事にできるものではない。
 とはいえ忘却の国の『忘れ物』の数は膨大である。
「そうだな。ここで一番古い忘れ物ってどれかな?」
 ふむ、と顎に手を添えてメモワールに尋ねる。
 真っ先に消えゆくのは古いもの。ならばそれを引き取りたいという考えだ。
 考えるように視線をやったメモワールは「ああ思い出した」と頷く。

「……これ」

 しゃら、と鎖の音を立ててメモワールの手の中に現れたもの。
「これは……懐中時計か」
 それは古めかしい銀時計。未だチクタク時を刻んでおり、蓋には印章が刻まれている。
「働き者の時計でね。今は失きお屋敷の執事に代々受け継がれていたらしい」
 銀細工は曇り、嵌りガラスは汚れ。それでもなお誇りを失わない輝き。
 きっと毎晩のように磨かれて大切にされてきた。それが懐中時計の誉れなのだろう。
「そいつ、元の主人以外認めないものだからずっと残っちまって。でも、あんたなら大丈夫かな」
 ほら、使われるもの同士じゃん? と根拠もなくメモワールは言うけれど。

「連れてってくれる?」
 ああ、と迷いなくヴェルグリーズは頷く。
「必要とされてる……とは少し違うけれど、縁というのはこういうものだと思っていてね」
 だから大切にするよと、微笑んで見せた。


 『誉れの懐中時計』の引取手――ヴェルグリーズ。

成否

成功


第1章 第4節

マギー・クレスト(p3p008373)
マジカルプリンス☆マギー

「忘却の国……ですか?」
 『小さな決意』マギー・クレスト(p3p008373)は大きな瞳を瞬かせた。
 自分もたくさんの子達を忘れていて、その子たちも忘却の国の何処かで思い出と共に在るのだろうか?
(……それは、とても、淋しいような気がします)
 ぎゅっと抱きしめたのは腕の中のウサギのぬいぐるみ。
 マギーは意を決したように頷くと「お願いがあります」とメモワールを見つめた。
「この子……ヴァイオレットのお友達を探して貰えませんか……?」
 運命の相手を探すのなら、それはきっとヴィーが気に入った子であるはずだ。
 メモワールは眉をひそめると、記憶を手繰るように目を伏せた。
「ぬいぐるみね。……ああ。あいつならいーんじゃない」
 おいで、とマギーを促したのは、黄色いティディベアのところだ。

「こいつは恋するティディベアさ」

 といってもぬいぐるみが恋をしていたのではない。とある男の子が恋した女の子への贈り物にしたものだったらしい。
「ま、恋物語の結末を語るのは無粋だってこいつは言うけどな」
「そうなんですか……。えっと、ティディベアさん。ボクが家を開けている間、ヴィーの傍にいて貰えませんか?」
 マギーはおずおずとぬいぐるみに語り掛ける。
 その様子にふわっと笑んだメモワールが「ミモザだよ」と呟く。
「いいよ、って。こいつは今も昔も、誰かと一緒にいるのが好きなんだ」


 『ミモザ』の友達――マギーとヴァイオレット。

成否

成功


第1章 第5節

星影 向日葵(p3p008750)
遠い約束

「忘却の国、ですか……なんだか悲しい響きの国ですね」
「そうかもね。朝顔は、忘れられていくのは怖い?」
 メモワールが遠くを見るような瞳で言う。
「どうでしょう。『誰からも忘れられた時、人は二度目の死を迎えるのだ』とか、聞いた事ありますし」
「だとしたらこの忘却の国の忘れ物たちは、俺が死んだらみんな死んじゃうわけだよね」
 ぽつりと呟いたメモワールに天色の瞳を向ける朝顔。

 たくさん持ち帰れたらいいけれど、全部を大切にできるかわからない。
 だからたったひとつだけ。
 きっと、ずっと大事にできるものを。
「じゃあ、私はこの髪飾りを」
 それは鮮やかな向日葵とそこから揺れ下がる飾りが星屑のようで綺麗な髪飾りだった。
 そっと揺らせば、飾りがしゃらしゃらと音を立てる。
「綺麗だね。向日葵好きなの?」
「向日葵は私にとって大事な物ですから。私に似合わぬ名だけれど、その花も嫌いじゃないんですよ?」
 朝顔にメモワールは微かに微笑む。
「それ、とある女の子の持ち物だったのさ。恋人からの贈り物でね。彼女にずうっと大事にされたみたいだね」
 彼女が老いてあの世へ旅立ち、誰も彼もに忘れ去られても。
 『私は貴女だけを見つめる。太陽の下でも、星空の下でも』
 それは今も、とある男の子と女の子の約束の証に違いない。
「そいつ、もう一度恋する女の子に寄り添えて嬉しいって。だから大事にしてやってよ」


 「星見の向日葵」の新主人――隠岐奈 朝顔。

成否

成功


第1章 第6節

 メモワールは空を見上げた。薄曇りの、決して青くはない空を。
 今日一日で、忘却の国にはたくさんの客人が訪れた。
 彼らが忘れ物たちを持ち帰ってくれたおかげで、此度許容量オーバーで消えてしまうものはないみたいだ。
 よかった、とひとり呟いて瞳を伏せる。願うことなら、何一つ消えてほしくはないのだ。
 彼らはそれぞれに、運命の出会いを果たせただろうか。

「ま、そうであればいいと願うだけだよね」

 その出会いに祝福を。
 そしてどうか今度は――思い出を抱えた”彼ら”が、新しい主人と、またたくさんの記憶を積み重ねていけますようにと。
「今度はこの国に来ないようにね。せいぜい大切にしてもらいなよ」
 そうひとりごちたメモワールの瞳は優しかった。

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