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●My Favorite Things
ふしぎな夢をみました。
たくさんの人と一緒にお茶会をする夢です。
「あなたの好きなものは?」
顔のみえない誰かが言いました。
わたしの好きなものはお花と猫とカチューシャ、それと誰かに頭を撫でてもらうことです。
「それだけ?」
エラー、味覚情報が不足しています。
エラー、視覚情報が不足しています。
エラー、聴覚情報が不足しています。
エラー、0085VITG62TECには趣味嗜好を判断する経験が蓄積されていません。外部情報の入力を推奨します。
●
両脇を石の一角獣で守護された巨大な扉。
この百貨店のことを芸術的な城砦と初めに例えたのは誰であったか。
かつて『惑星一の百貨店』と呼ばれた場所は七百年ぶりの客を迎えた。
内装は練乳色の大理石。タイムマシンのような黒檻のエレベーターは金の計器で飾られ、遥か遠くに見える天井はこの建物の途方もない巨大さを物語っていた。
中央のオアシスは休憩所となっているのか、涼しげな噴水の音と共に紅茶の香りが漂ってくる。
香水におもちゃにケーキ。
革靴、宝石、ドレスにスーツ。
文具に地図、時計に民芸品。
望めば何でも手に入る魔法の百貨店に人の気配はない。滑らかな陶器の肌を持つロボットが各店先に佇むだけだ。
『いらっしゃいませお客様』
『この世界最後の店舗です。破産した瞬間に当惑星は霧散しますので、お金を国家予算級に湯水のごとくジャンジャカ使ってきてください』
買い物が控えめだと惑星が霧散するらしい。
思ったより責任重大な話であった。しかしいくら高級店が立ち並んでいるとは言え、買い物だけで国家予算を使いきれとはなかなか無理のある話である。
受付ロボットから渡されたブラックカードを手にフロアを歩く。過剰装飾のエレベーターが望んだ品がある売り場まで自動的に連れていってくれるそうだ。
「じー」
それにしても。
「じー」
先ほどから背中に突き刺さる視線。
百貨店の中を歩けばストーカー(素人)も後からついてきた。
境界案内人とのセット販売依頼なら最初に言ってくれたら良かったのに。
「特異運命座標さまの好きなものとは何でしょう?」
柱の影、知りたがり屋の瞳が好奇心で輝いていた。
- あなたのお気に入り完了
- NM名駒米
- 種別ラリー(LN)
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年10月08日 19時42分
- 章数1章
- 総採用数15人
- 参加費50RC
第1章
第1章 第1節
「そこにいるのはテック、あなたね」
薔薇蕾の杖と白銀の御人。『謡うナーサリーライム』のポシェティケト・フルートゥフルさまです。
不思議です、此処にいるとどうして分かったのでしょう?
「他のヒトの気配が全然ないからにおいですぐに分かっちゃうのね」
優しい鹿の魔女さまはウインクと一緒に答えをくれました。
「良ければ一緒にまわりましょうよ。ほら、クララもテックがいると、嬉しそう」
「ニュー!」
両手を挙げてご挨拶して下さるのは金色砂妖精のクララさま。今日は小さいお姿のようです。
私はお二人に甘えることにしました。
「お買い物って少し苦手だったけれど、今はね、平気。鹿はこれでもヒトの暮らしに随分と慣れたのよ」
びっくりです。ポシェティケトさまに苦手なものがあったなんて。
「あら? 魔法のカードはいくらでもお買い物できるの?」
「はい、必要経費ですから」
「しかもそれで惑星を守れるの?」
「肯定します」
「あらあら、あら。まあ! それってすごいことねぇ」
ポシェティケトさまの瞳に小さな星が生まれました。
「王様みたいなお買い物! それって、重要任務だわ」
シャンデリアよりきらきらで、とても綺麗な星です。
「いきましょう、クララ、テック。世界を、救わなくっちゃ。お洋服と布と、魔法に使う道具と、それから」
差し出された手は温かく、見上げた横顔はとっても素敵で。
ポシェティケトさまには好きなものがいっぱいあるんですね!
成否
成功
第1章 第2節
「さてさて興味を引きそうなものは……っとその前に」
ぴたり、足音が止まります。
「おい、いつまでそうやって隠れてるんだ?」
そろり、柱の裏から顔を出します。
「確かテックって言ったか? 付いて来るって事は何か欲しい物でもあるんだろうし、買ってやるから一緒に歩こうぜ。そう背後にベッタリされてると居心地が悪いなんてもんじゃない」
『貧乏籤』回言 世界さまです。
ぶっきらぼうに聞こえますが困ったように微笑むお顔は優しくて、本当は心配して下さっていたのだと嬉しくなってしまいました。
「じゃあまずは腹ごなしからかな。百貨店なら上の階に食べるところ位あるだろうし、そこでパフェとかケーキとか頼んで茶会と洒落込もうか」
どうして上の階に飲食店がある事をご存知だったのでしょう? きっと世界さまは百貨店のプロなのですね。
「境界案内人の仕事には慣れたか」
「はい、皆さんとても親切です」
「そうか。辛いことがあったら直ぐに言うんだぞ」
テーブルの上にはケーキがずらり。丸いぶどうのパフェは惑星のよう。なんて素敵なお茶会でしょう!
世界さまは親身に話を聞いて下さいます。どうして私にここまでしてくださるのか、きっとご自身でも不思議に思っているかもしれません。
でも秘密です。
既視感は夢の残影。遺された欠片はあなたに届きました。
「世界さま」
「ん?」
「パフェ美味しいです」
私の好きなもの。
あなたと一緒の、幸せなお茶会。
成否
成功
第1章 第3節
「へええ、このカードで何でも買えちゃうんだ! 魔法みたい!」
そう言って『おもちゃのお医者さん』イーハトーヴ・アーケイディアンさまは、黒いカードを大切に胸のポケットへと仕舞いました。
「今日は、混沌での初めてのお友達、勇敢な彼への贈り物を探すんだ!」
どんなものが良いかな。
ドレス姿のオフィーリアさまも一緒になって考えています。
「そうだ、上質のボールペンなんてどうかな? 学校にも連れていけて、卒業しても大人になっても、ずっと使い続けられるような」
ずっと誰かの力になれる贈り物。とっても素敵です!
文房具売り場のケースには様々な筆記用具が宝石のように並んでいました。
「ボディは滑らかなディープブルー、力強くて頼もしくて優しい色」
柔らかいイーハトーヴさまのお声。きっと勇敢なお友達のことを思いながら探しているのですね。
「天冠やクリップ、ペン先は銀色がいいな。それでね、クリップには金色のお星さまみたいな宝石が填まってるの! 俺も、お揃いのを買っちゃおうかなぁ」
カスタムした夜職人製のボールペンを二本。お値段が高いのかオフィーリアさまは心配顔です。
けれどもイーハトーヴさまは胸元からカードをスマートに取り出しました。
「ふふふ! オフィーリア、今日ばかりはお買い物が世界を救うんだよ!」
二本の指に挟まれた黒いカードが得意げに輝いています。
「この世界のお土産話も、一緒に連れて帰らなくっちゃだね」
成否
成功
第1章 第4節
「エッ?! 好きなものが買えるって?!」
『ロリ愛づる姫』朔・ニーティアさまは言いました。
「他人のお金で?! 好きなものが?! 買える?!?!」
どうやら朔さまには欲しい物があるご様子、大変気になります。
『ご注文はお決まりでしょうか』
「そんな物決まってるだろう! 買うものは唯一つ」
それは!?
「……ロリだよ」
熱すぎる炎が静かな青色に変化するように。
突き抜けた情熱は一周回って平静に見えました。
「申し訳ございません。当店では命の取り扱いはございません」
ぴー。無情なエラー音が響きます。
「ならそれに準じたものを買う! 私は小さくて可愛い子だったら何でもいいんだ。サイズ不問!」
朔さま、ファイトです!
ところでロリとは何でしょうか。小さくて可愛いものなら私も好きです。
「例えば、可愛い女の子型のロボット。私の言うことを聞くとかそういうのは関係ない。カワイイ時点で優勝。わかる? かわいい瞳に未発達の手足、イカ腹。すべすべしたいじゃない。すべすべ。一緒に添い寝したいじゃない? わかる? わからない?」
『??』
よく聞こえませんが凄い熱意です、息継ぎしていません。ロボットのAIも混乱しています。
「わからないならそうねロリの可愛さをアピールできるものを買うよ。これから布教してあげるから、ついでに可愛い服とかもセットで愛でるわ」
どうやら女の子のお洋服を見に行くようです。私も、ちょっと楽しみです。
成否
成功
第1章 第5節
「腹ごしらえも終わったな」
世界さまはそう言って、ゆっくり席をお立ちになりました。
残念です、もっとご一緒したかったのに。でもお仕事の邪魔はできません。
「それじゃあ2人で買い物に出かけるか」
「えっ?」
何だか自分に都合が良いような、信じられない言葉が聞こえたような気がしました。
「そういえばその服以外を着てる所を見たことが無いな。それだけ気に入ってるって事かもしれないが、今日は色々着飾ってみないか?」
これは夢でしょうか、でも。
「はい!」
まだご一緒できるなら夢でも構いません。
「これとか中々似合うんじゃないか?」
「ど、どうですか」
「うん、いいな。買おう」
クリーム色のカーディガンに空色のワンピース。
世界さまが見立てて下さったお洋服、初めての私服です。これで少しは当世に馴染めたでしょうか?
「では世界さまの番ですね」
「……えっ、俺? いや俺はこの服があれば十分って」
「しょぼん」
「い、一着だけなら」
「お任せください、はりきって選びました!」
「おい、そんな服を持って来ても俺は着ないぞ! いかにも今時みたいな服着てられるか!」
「しょぼん」
「う、ぐぅ……!」
ニットセーターは宇宙の黒。細身のジーンズに茶色の革靴。
世界さまは綺麗でかっこいいので何を着てもお似合いです。
「まあ、たまには悪くないな」
試着室から出た世界さまは、少し笑っていらっしゃいました。
「今日一日はこの服で歩き回るとしよう」
成否
成功
第1章 第6節
お花が咲きこぼれる森のワンピースは優雅に、たくさんの世界で呪文を覚えた賢者のシャツさまは理知的に、ときどきお星さまが降る天球儀の傘は貴婦人の嫋やかさでポシェティケトさまを彩ります。
「これはどうかしら」
「とってもお似合いです!」
黒い帽子とチョッキ、赤い燕尾服。サーカス団長の服をお召しになったポシェティケトさまは格好よくて見惚れてしまいます。
「あと、この頃だんだん寒くなってきたから魔女の師匠に暖かいガウンをあげたいの」
ポシェティケトさまのお師匠さま。一体どんな魔女さまなのでしょう。きっと素敵な方に違いありません。
「お花の精霊種だから寒いのは苦手みたいでね。夢見るひつじのふわふわガウンでたっぷり暖かなお昼寝をして、って、お届けするの」
「きっとお喜びになりますよ」
大好きな人への贈り物は選ぶ側も嬉しそう。白鹿の紋章に銀のリボンでラッピング。これならすぐに贈り主が分かりますね。
「ねえねえ、テックもなにか着てご覧になって」
びっくりして飛び上ってしまいました。
「あなたは髪の毛が葉の色をしているからお花が色々あるようにたくさんの色が似合いそうね。きっと、似合うものはたくさんあるわ。ああでも、幾何学のまっすぐの柄も、星空みたいなスパンコールもお似合いねえ」
「あの」
お洋服を選ぶポシェティケトさまは頼れる姉妹機みたいで。甘えたいという欲がつい出てしまったのです。
「お洋服、選んでほしい、です」
成否
成功
第1章 第7節
「贈り物も買えたし、次は何を見に行こうかな?」
「じー」
「あ、テック!」
ボールペンを受け取ったイーハトーヴさまとパッチリ目が合ってしまいました。
「こっ、こんにちは」
イーハトーヴさまはラナンキュラスのように微笑みます。
「ウチュウセンの時はありがとう。ふふ、御礼が言えてよかった。テックには、たくさん助けてもらったものね」
「いいえ、私の力不足で危険な目に合わせてしまって……」
「ねえ、テック」
イーハトーヴさまは屈んで視線を合わせて下さいました。
「良ければ、少しご一緒しない?」
「は、はい!」
隣を歩くイーハトーヴさまに尋ねます。
「あの、イーハトーヴさまのお好きなものは何ですか」
「うーん、好きなものっていっぱいあるけど」
楽し気な瞳に私の顔が映ります。
「とっておきはお友達とのおでかけかな! だから、テックともここを探検してみたいなぁって。あ、見て! お菓子屋さんがあるよ!」
視線の先には宝石より輝くチョコレート。世界を模したスノウドームの飴玉にユニコーン色のマシュマロ。それに焼きたてのクッキーまでありました。
「このクッキー、オフィーリアさまにそっくりです!」
「シマエナガもある!」
どれも素敵なお菓子ばかり、目移りしてしまいます。
「いっぱい買って、一緒に食べようよ! ああでも、持って帰る分も必要か」
二人でいるとワクワクも楽しさも二倍です。
「ふふ、大荷物になっちゃうねぇ」
「ですね!」
成否
成功
第1章 第8節
「次はどこに行く?」
「世界さまの欲しい物がある場所へ」
「今更なんだが、実は欲しい物なんて特にないんだよなぁ」
驚愕の事実がいま明らかになりました。
「そういえば確かゲーセンがあるみたいだったな。少し興味があるしテックさえ良ければ寄ってみようか」
室内を走る星間ジェットコースター、眩い電子音と薄暗い照明。旧式モニターや不思議な箱が迷路みたいに続いています。
「懐かしいな。いや俺の知ってるゲーセンとは当然違うところもあるが……」
「世界さま、あれは何ですか?」
「クレーンゲームだ。あのアームで人形を取る」
「これは?」
「メダルゲームとホッケーだな。両方やってみようか」
流れ星のパックを追いかけて、もうヘトヘトです。
「どうだった?」
「動くのって楽しいですね。そうだ」
先ほど出てきた銀のメダルを世界さまにお渡しします。
「これは、世界さまのお役に、たちますか?」
掌にのった一枚だけのそれを、世界さまはネジのように指で摘んでじっと眺めていました。
「世界さま」
「ん?」
「あの機械は何でしょうか」
「あれは撮った写真がシールになる機械だな。無駄に美化しすぎるのがどうにも好かないが、たまには悪くない。記念に一枚撮ってみるか?」
小さい枠の中に並んだ、お人形さんみたいな世界さまと私。
「見てください、世界さま。凄いです。私、一緒に写ってます!」
「そうか、……なあテック」
「はい」
「これでもう寂しく無いな」
「はい!」
成否
成功
第1章 第9節
「まあ。まあ! もちろん、任せてちょうだい」
ポシェティケトさまは両手を重ね、パンジーのように微笑みました。
「でもね、やっぱりいきなりひとつは決められないから。いろいろ着てみて、考えましょう。素敵なファッション・ショウに、しましょうね」
きらきら星のオールインワン。森の音楽家が着るタータンチェックの秋ワンピースと深緑のリボンタイ。サイバービビッドな緑とオレンジサインが入った元気なお洋服。どれも素敵なお洋服ばかりです。
「さあ、お次は髪のアレンジをしましょうね」
ポシェティケトさまの指が触れると、糸車で紡がれるように髪が編み込まれて形を変えていきます。
「今のは魔法ですか?」
「いいえ、違うわ。でも、人を幸せにするという意味では魔法みたいなものかも、しれないわね」
リボンを結ぶポシェティケトさまのお声は子守唄のよう。髪を梳く時間がゆるりゆるり、飴の小川みたいに流れていきます。
「ふふ。あなた、なんでも可愛くて、こまっちゃう」
「ポシェさまのお見立てのおかげです」
「あらあら」
見上げた先には逆さまのお顔。少し前に読んだ、赤いルビーの靴と北の良い魔女さまのお話を思い出します。
「かんじんかなめよ、テック。お気に入りは、あった?」
試着した服を並べて呻きます。起動して早一年、こんなに迷ったことはありません。
「ワタシ達、いまは王様だから、遠慮なさらず、教えてね」
王様たいへんです。お洋服、全部好きです。
成否
成功
第1章 第10節
「……そうだテック、むりにひとつに決めることはないのかも」
救いの手はいつも突然現れるもの。お顔を輝かせたポシェティケトさまが音も無くお立ちになりました。
「これは、星を救う手助けなのだもの。ワタシも、あなたも。すべていただく準備はよくて?」
「まさか!」
揺れる銀の髪は天の河のよう。迷いなく戦場へと、間違えました、カウンターへと向かうポシェティケトさまの指には黒いジョーカーが一枚。
「ぜんぶ、連れて帰りましょう」
『あざーっしたー』
『お運びしまーす』
「ほわ〜」
帽子や靴が丸や四角の箱に仕舞われて、積み木のように重なっていきます。てっぺんにご機嫌なクララさまが座れば、まるで大きなウェディングケーキです。いっぱいのお洋服はアイスクリーム色のトランクと一緒にポーターロボットが宇宙駅へと運んでいきました。
「ふふ。お買い物はまだまだ、これからよ、テック。次はあそこへ行きましょう」
夢見心地のまま手を引かれて入ったお店は、すっと甘い薬草の香りで満ちていました。
くつくつ夕陽を煮込んだお鍋に、ぼんやり光るおばけのローブ。あ、クララさまにぴったりのサイズです!
「光っているのは全部魔法のお品物みたいだわ」
嬉しそうにポシェティケトさまが言うと、薄暗いお店の中で何かが光りました。小さいですが、これも魔法のお品物なのでしょうか?
夕月の光を宿した可愛い蝶のチャーム。ポシェティケトさま、気に入ってくださるかな?
成否
成功
第1章 第11節
「よし、そろそろちゃんと仕事をしておくか」
目ぼしい所はあらかた回ったと世界さまは案内パンフレットを畳みました。
次に向かうのは美術品フロアです。鎧型の警備ロボットが並んだ廊下を通り抜けると物々しい扉が音を立てて開きました。
夢鰐の骨格標本、パルナスムの泪、ティポプロー哀歌の原本。
防星硝子のケースの中にあるのはどれも貴重な品ばかり。薄暗い照明と合わせて博物館のようです。
「宝石、絵画、俺にはよくわからんがなんかいい壺」
「怪神テュポエウスが封印された海青磁の壺です」
「壺、キャンセルで。値段が張りそうなら何でもいい」
無造作に、けれども的確に高額商品をお買い上げになっていきます。これだけあれば回言美術館が開けるでしょう。
「欲しいものでは無いのですか」
「そりゃまあ本当ならば自分の欲しい物だけを買うべきなんだろうが……国家予算級の買い物だぞ? 貧乏な俺がそんな湯水の如くお金を使えるわけないじゃないか!」
やや投げやりに世界さまはカートを示します。
「テックも欲しい物があれば遠慮なく入れてくれ。今なら何でも買ってやれるぞ!」
「お買い物ハイですね世界さま!」
「それに」
穏やかな夜の瞳が硝子に映りこみます。
「全ての生き物が眠りついた世界に、未来があるのかどうかなんて分からないが、一手間掛ければ救えるというのなら、手を差し伸べない理由はないだろう?」
優しいひとはそう言って、花のように笑いました。
成否
成功
第1章 第12節
「いやぁ、ただ買うだけなのに意外ときつかったな」
両手をぐぅっと伸ばして、そのまま腰をトントンと叩いた世界さまは息を吐きました。
「やっぱり金持ちなんてのは性に合わんらしい。だがこれで崩壊も防げるだろうし、俺の仕事もここまでかな。何だかんだで結構楽しませてもらった」
「おつかれさまでした」
そう、今ので美術館一つ分をお買い上げになった為、遂に惑星崩壊を阻止するための目標額を上回ってしまったのです。いえ「しまった」だなんて言い方はいけませんね。素早く依頼を達成する世界さま、さすがです!
私も、今日はとても楽しい時間を過ごしました。お名残惜しいですが帰るというなら最後まで笑顔でお見送りしなくては。
「……じゃあまた適当に閉店時間まで買い物を続けるか。帰ってもどうせやる事なんて大して無いし、閉店時間まで王様気分でいるのも悪く無い」
視線が合います。泣きそうな顔、ちゃんと隠せているでしょうか。
「とはいえ一人で歩くのは少し寂しいな。何処かにこんな暇人に付き合ってくれる可愛い女の子がいないかなー」
「今日のお天気だと空から可愛い女の子が降ってくる確率は0.03%未満です」
「いや、そう言う意味で言ったわけじゃ、えっ待って。ここ降ってきた前例あるの?」
「代理案として今なら暇人2号であるテックの随行継続を強くオススメします」
世界さまは可笑しそうに笑ってくれました。
「じゃあ次の店に行くとするか」
「はいっ!」
成否
成功
第1章 第13節
「あらあ。テック、素敵な蝶ねえ」
チャームを見ると、ポシェティケトさまは花曇り色の瞳で優々と微笑まれました。
お渡しすると少し驚いたご様子でしたが、直ぐに花のような笑顔を咲かせて下さいました。差し出がましいかもしれませんが、お洋服を選んでくれたお礼にどうしてもお渡ししたかったのです。
「薔薇と仲良しの蝶々って、好きよ。とっても」
ポシェティケトさまが薔薇蕾に蝶を近づけると薄氷に似た音が幽かに響きました。いつの間にか藤色に染まるプラチナ鎖と一緒に夕月翅が振り子のように揺れています。
「次はクララさまのお洋服ですね」
「とりあえず全部着てみましょう」
ててーん!
「まあ、クララ。素敵よ。とっても素敵」
じゃじゃーん!
「お似合いです、クララさま!」
ちいさなおばけローブに虹色の魚のローブ、星のピカピカマフラーを着て一回転。
「全部可愛いです」
「テック」
「はい」
ポシェティケトさまと顔を合わせ力強く頷きます。
「一括で」
黒いカードって凄いですね!
「荷物を詰める旅行鞄も探さなきゃ。あら、ねえテック。見てちょうだい」
歩く大きなトランクを探しているとポシェティケトさまが何かを見つけました
「この緑色の子。テックのコアみたいじゃない? あなた、連れ帰ってあげるのは、どうかしら」
戸棚の隅に隠れていた卵型のボンボニエールを私はそっと持ち上げます。
「こんにちは、小さな私。よければ一緒に来ませんか?」
成否
成功
第1章 第14節
ほう、ほわ。
可愛い緑卵は蛍みたいに輝きました。
「お返事みたい。この子、テックのこと、待っていたのかしら。こんなに可愛い子、一等たいせつな宝物をしまいたくなるわねえ」
「はい」
私と一緒でかくれんぼが大好きな寂しがり屋のボンボニエールさん。これからはずっと一緒です。
「ポシェティケトさま、お鞄は……」
「鹿も、見つけたわよ。歩き方がかわいくて、上にも座らせてくれる、魔法の旅行鞄」
貴婦人がメリーゴーラウンドの白馬に跨がるように、ライラックのトランクに座ってにっこり。
「森も街も、行き来が楽しくなりそうだわ。ワタシはこの子を連れて帰ります」
百貨店の中には素敵なものばかり。
金色に輝くアーミラリ天球儀の劇場でシャボン玉や稲光の弾ける神話のお芝居を見たら、ちょっぴり怖いおばけの喫茶店で一休み。悪戯好きのクララさまは先程買ったローブを着て、店員さんにまぎれこんでいます。
「……そうだ、テック。お店って、閉まる時間が決まっているのよね。まだゆっくりしていて、平気?」
亡霊屋敷のクモの巣ティーセットや血塗れソファ、コウモリランタンが浮かんでキッチンの中へ戻っていきます。
中央に据えられた柱時計の黒針がチクタクと閉店を知らせる鐘の音を鳴らそうとしていました。
「もしお時間が迫っているならあそこへ、行こうかな」
ポシェティケトさまが見上げた天井には輝く蔓模様の飾り文字。
《↑素敵なお家と家具のフロア》
成否
成功
第1章 第15節
お店の中は森のよう。沢山並んだ素朴なお家。
百貨店は購入者の望む物を出しますから、これがポシェティケトさまの求めるお家なのですね。
「おうちがたくさん、すごいわねえ」
ブッシュドノエルみたいな丸太小屋。白壁に藤が伝うカントリーハウス。苔屋根のお城に星を丸ごと使った秘密の地下室。お屋敷より大きい建物はドールハウスを使ったホログラムで中が見られるようです。
「ワタシね、街のおうちに住んでみたこともあるのよ。でも、すぐそばにいつも他の人のにおいや音がたくさんで、鹿には少し、落ち着かなかった」
謡うように、ポシェティケトさまは聞かせてくれました。
――森でも街でも、立派にひとりで暮らせるって魔女のおうちを出たから、戻るのも恥ずかしくてねえ。いつでも戻っておいでって言ってくれるのは、想像がつくけれど。だから、ワタシ、鹿でもヒトでも立派に暮らせるように、ワタシだけのおうちが欲しかったの。ああ。
それは空果ての瞳を輝かせて歩む、鹿さんの内緒話。
読んだ事があります。旅の物語には戻る場所が必要だと。
「ワタシのねぐら、すみかを連れて帰ります」
卵の殻に包まれたドールハウスを優しく持ち上げました。
「これで。安心がひとつ増えた」
心の戻り場所。好きと安心がいっぱいつまった宝箱。ポシェティケトさまが選んだのはお菓子の家みたいな優しいツリーハウス。
「施工さーびすも、お願いね」
閉店を告げる鐘が、鳴りました。
成否
成功
第1章 第16節
●
眠った惑星は人知れず救われた。
それから数百年後、目を覚ました住民は驚愕する。
機械の不具合により予定より千年近く長く眠っていたのだから当然だ。眠っている間に金銭の力は尽き、惑星ごと彼らは消滅している……筈であった。
「なんっじゃこりゃあーーーー!?!?!?」
科学者たちは眠っている間のログを見て、さらに驚いた。
正体不明の何者かが買い物を行い、星を救っていたのだ。
或るログでは段階的に買い物の桁が跳ね上がり
或るログではゲームセンターに謎の使用履歴があり
或るログでは的確に職人の作品を購入、
或るログでは愛(ロリ)に生きていた。
売り上げ総額は周辺の星と同じ数、ざっと五正円。惑星が数百年稼働するには充分な金額だ。
「ゼロがゲシュタルト崩壊」
「段々五千円に見えてきた」
「しっかりしろ」
●
「今日はやけにご機嫌ね」
「好きな物をたくさん見つけられたんです」
「あら、良かったじゃない」
時計を見上げたポルックスは微笑む。
「ここの時間は正確じゃないけれど、今日はあなたの誕生日だもんね。良い日になった?」
「はい、とても!」
弾けるような笑顔を少女は浮かべた。
NMコメント
こんにちは、駒米と申します!
こちらは自分の好きなものを掘り下げていく依頼です、語ってください。
魔法の黒いカード(上限なし)で石油王の買い物が出来ます。生命を除いた大抵のものは売っていますがアドリブが多めになります事をご了承ください。
境界案内人に声をかけて一緒に百貨店をまわることも可能です。
・目標
買い物をする。
自分の好きなものについて語る。
情け容赦なく金を使い惑星の消滅を防ぐ。
・世界観
科学が発展し過ぎた象牙色の世界。
物の売買活動が存在や力に直結する希有な惑星。
知的生命体は休眠しており現在はロボットのみが動いている。
・境界案内人テック
メイド服の女の子。みんなが何を買うのか興味津々。
Tweet