シナリオ詳細
1人だけの演奏会
オープニング
●虹色楽器店
とある異世界、時々現れる不思議なものを迎える楽器店のお話。
店主である老人はこの楽器店でどれだけの月日を過ごしてきたか、覚えてはいない。
だが【客】のことはずっと、覚えている。
からんころん、入口の扉についているベルが鳴った。
「いらっしゃい…おや、小さなお客さんだね。こんにちは」
扉から入ってきたのは幼い少女だった。しかし白い服だったろう可愛らしい服は赤く汚れ、所々破れ裂かれている。
少女の顔は醜くも潰れている。生きているものの顔はしていなかった。
「…おとうさん、どこ?」
少女は老人に話しかけることは無く楽器店の中を見回す。
ヴァイオリンやトランペット、ティンパニや木琴、様々な楽器が並んでいるなか少女はピアノへと走り寄った。
置かれた椅子に座った少女は軽やかに鍵盤を叩く。きらきら――、光る――。
「…おとうさん…、まな、がんばって、れんしゅうしたよ」
少女、『まな』が覚えているのは、ピアノのコンテストに出場する朝までの記憶。
そこからぷっつりと、記憶は途切れている。コンテストはどうなったんだろう。
来てくれるって言ったおとうさんは?
「……おとうさん、…まな…、ここにいるよ、おとうさん…」
演奏は止まり、小さな指はピアノの鍵盤から落ちる。
それを見た店主はふむ、と小さく頷いたのだった。
●一人だけの――
「まぁ、コンテストに行く途中事故にあって、運悪く亡くなったんだ。『まな』って女の子」
境界図書館、机の上に乗りラビ・ミャウは尻尾を緩く振った。
「まなは、コンテストに来てくれるはずだった『おとうさん』を探している」
たまたまこの異世界、虹色楽器店を訪れたが探しにまた出ていくだろう。そして彷徨いぼろぼろになった精神がどうなるか――。
「悪いもんに、なってしまうんだよなぁ…」
そうなれば、おとうさんを見つけたとき、どうするか。連れていこうとするだろう。
それがおとうさんだけなら、まだいい。おとうさんの姿を求め、無差別に連れていこうとするかもしれない。まな自身の意志ではないが、そういう『悪霊』になってしまう。
「だーかーらー、イレギュラーズ。あんたたちにしてほしいことは、まなのおとうさんになって、彼女の演奏を聴いて誉めてやることだ」
おとうさんが演奏を聴くことはもうないだろう。その代わり、だ。イレギュラーズは問う、父親と似通ってなくてもいいのか、と。
「だいじょーぶだろ。まなはおとうさんの顔も、姿も覚えてない。自分に優しくしてくれるそれっぽい人をおとうさんだと認識する」
それが色んな種族であっても、或いは性別が違ったとしても。
おとうさんにたくさん演奏を聴いてもらい、誉めてもらったら満足して消えるだろう。
それが未練なのだから、当然のことだ。
「後は、まぁ…楽器店だし、好きに過ごせばいい。演奏するのも、楽器を買うのも」
そこらへんは自由。あんたたちに任せる、とラビは続ける。
「……少女に何を言ってもいーが、おとうさんじゃない、ってことを知らせるのはオススメしない」
裏切られた者が、どう反応を示すのか。そんなもの判り切っていることだ。
- 1人だけの演奏会完了
- NM名笹山ぱんだ
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年10月02日 22時35分
- 参加人数4/4人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(4人)
リプレイ
●楽器店
それはとある楽器店。その世界にあるただひとつの不思議なお店。
件の少女が訪れる前、R.R.は店主の老人に聞きトランペットを試奏させてもらうことにした。
顔を隠す包帯を解き、舌で唇を湿らせればマウスピースに口をつける。唇を震わせるように、音を奏でる。何年のブランクがあるのかルインは覚えていない。
かすれた音を重ねていくと、徐々に体が吹き方を思い出す。
(あぁ、懐かしい。遠い昔、こうして音を奏でるのを楽しんでいた時代が俺にもあったのだ)
音楽は好きだ。意外と言われるかもしれない。普段は破滅を滅ぼす、と言い殺伐とした日々を送っているからだ。
(でもな、俺は音楽を聴いている時、奏でている時は心が穏やかになれる。魂に語り掛けてくる言葉なんだよ、音楽というものは)
奏でられるトランペットの音を他のイレギュラーズ達も聞き少女の訪れを待つのだ。
「有難う、店主。やはり何も考えず心のままに奏でるのは楽しいな」
「いつでも吹きにおいで」
店主の老人は微笑みながらもルインに言うのだった。
カランカラン、と入口の扉の上の鈴が鳴る。イレギュラーズ達の目に映ったのは一人の少女だった。
白い服は真っ赤に染まり、片方の靴はどこかへ行ってしまって無い。顔は潰れているが瞳だけはキラキラと楽器店を見回していた。
「おとうさん!」
4人のイレギュラーズ達を見つめて少女、まなは微笑んだ。『おとうさん』が複数居ることは気にしていないようだ。
「まな…ごめんね、遅くなってしまったよ」
「ほんとーよ、おとうさん!ちこくしちゃだめなのよ」
母親の真似でもあるのだろうか。少女はむぅっとした。ヨタカ・アストラルノヴァは少女を見ると熱くなる目頭を押さえながらも微笑み宥める。
大切な人に自身の演奏を聞いてもらう前に亡くなってしまった。そんな話を聞いてしまえば音楽家として…居てもたってもいられなかった。
ヨタカ自身の幼い思い出が蘇る。大切な人に自身の演奏を聞いて貰いたかった。そんな昔の姿が少女と重なったのだ。
(おやまあ、そんなに小さい身で未練を引きずってカワイソウに)
自らの番とお喋りをしている少女の姿を見て武器商人は笑った。父と呼ばれることも初めてではない。母でも、兄でもそうだけれど。
(ーーキミが、それを望むなら)
「おとうさん、今日の発表会を楽しみにしていたよ。まなの演奏が聴けるんだもの、当然さ」
「ありがと!おとうさんっ、まながんばる!」
(まあ、よく言えばとても悲しい少女の話。悪く言えばありふれた現実の一コマだ)
回言 世界は少女の姿を見てそう思う。しかし悪い霊になってしまうのならば放置しておいていいわけがない。
誉めるのなら、難しくないだろう。
(なんとかしてみるか)
「おとうさん、ちゃんとまなのことみてる?がんばるね!」
少女は世界の方を見て大きく手を振る。顔が潰れていなければ、満面の笑みを見せていただろう。手を振りそれに応えるとメモリア・クリスタルを使い少女の姿を撮影始めた。
少女が弾くのはたった一曲。それを父親に聞かせる為に必死に練習したのだ。
喜んでくれるかな、楽しんでくれるかな。キラキラ光る、この星の曲みたいに、笑顔が見れたらいいな。
おとうさんはしずかに、まなの演奏を聞いている。コンテストの会場って、こんなところだっけ?
ううん、かんけいない。だっておとうさんが、わたしのピアノをきいてくれてる!
飛び跳ねる音、瞬く夜空の星の曲。それは技巧でも何でもない音楽。音も時々間違い、外れている。
(巧拙なんて些細なことだ)
ルインはそう思う。音色には心が通う、それさえ感じ取れればそれでいい。
(だって、彼女は練習してきたんだ。“お父さん”に聞かせるために、頑張って)
ここには、彼女のおとうさんは居ないけれど。
(大丈夫だ。落ち着いて、指先に心を集めて、その手の動くままに弾くんだ)
まなの音楽は彼女の心を雄弁に語る。あぁ、幼い親愛の心が、あふれてくる。
やがて音は少なくなり、演奏は止まる。
少女へと拍手が送られた。
「凄い、上手だったな。世界一だ」
誉めるとは、どうすればいいんだろう。世界はそう思った。うまい言葉が出てこない。だがちゃんと誉めてやれば大丈夫、だろう。たぶん。
「…おとうさん、それはいいすぎー」
まなはふふふと笑いながらも嬉しそうに肩を震わせた。
「いい演奏だった、父さんはまなの演奏が聴けて嬉しい……」
「でしょ!いっぱいがんばったの!」
ほめて、ほめて、と笑う少女の頭を、ルインはそっと撫でる。
嘘をつくのは心苦しい。だが少女を悪しきものにするのは忍びないと思った。
だから仮初であっても“お父さん”として、彼女の音楽に賞賛を送ろう。ルインは少女へ最大の賞賛を送ったのだ。
「いっぱい練習したんだね、頑張ったねぇ」
武器商人は少女の頭をいいコ、いいコ、と撫でる。
彼にも少女の心は伝わっていた。
(チチオヤに聴かせるために頑張って練習したんだね)
菊の花を中心に季節の花をまとめた供花をまなへと渡す。まなは不思議そうに首を傾げながらも花を受け取った。
「おはなだ!かわいい、ありがとう、おとうさんっ」
その意味は解っていない。だが可愛らしい花は少女を嬉しくさせた。
(……本当は"連れて行って"しまおうかと思ったけど、優しい小鳥がいるからちゃんと送ろう)
ちらりとヨタカを見、武器商人は微笑んだ。ヨタカはその視線に気付いたが思考はまなに向けられていた。
「まな…聴かせてくれてありがとう…最高の演奏だったよ…」
「おとうさんがきいてくれたからがんばったよ!えっへん!」
胸を張りえへんと笑うまなの姿に微笑まし気にヨタカは笑う。
「ほぉら、あっちに真っ直ぐ進むんだよ。発表会が終わったらステージから退場だ、わかるね?」
そう言ったのは武器商人だ。はぁーい、と返事を伸ばして指差された方向へ少女は向かった。
「おとうさんはいかないの?」
「大丈夫、『おとうさん』もすぐ追いつくよ」
「…そっか。じゃあさきにいくね!」
ふしぎそうに首を傾げつつもまなは歩いていく。少女の未練は解消された。ならば行くべき場所は天国だ。
(ニンゲンの一生など、それこそ瞬く間に終わってしまうからね)
「ヒヒヒヒヒ……万が一、それで暇だったらあっちで次に聴かせる曲の練習をしていておくれ」
薄っすらと少女の姿が消えていく。偽物でも、おとうさんに聞いてもらった、という嬉しさを抱いて。
「おとうさん、またあとでね!」
消えていく直前、少女の傷が消え、服の汚れがなくなった。片足しか履けていなかった靴も戻っている。
未練が無くなったからだろうか。愛らしい表情の少女は父親たちに――イレギュラーズたちに大きく手を振った。
ほろり、ヨタカの頬を流れるのは涙だ。
「紫月…手を、握ってもらうことは…」
泣き虫の手をそっと握り、彼は隣へ寄り添うのだ。
●終わり
少女が居なくなった後、静かになった楽器店で各々は好きなように過ごすことにした。
「うわ、高っ」
世界は目の前にあるヴァイオリンの値段を見て驚愕した。何年働かずに暮らせるだろうか。
だがとても良いものなのだろう。きっと。良く分からないけれど。
ルインも同じく楽器店の中を歩く。様々な楽器、音楽に関するものはルインを穏やかな気持ちにさせた。
さっき吹いたトランペットにトロンボーン、ユーフォニウム。クラリネットにフルート…
小さな楽器から大きなものまで。鉄琴を鳴らせば高く可愛らしい音が響いた。
まなが弾いていたピアノはもうその痕跡は無い。現のものではなかったことを、如実に知らせていた。
ヨタカは鍵盤を指で押し音を零す。ぽろん、ぽろん、音が楽器店に転がる。
少女の演奏を思い出し、また零れる涙を大好きな人が、拭う。
こんな時にも傍に居てくれる。涙零れるまま微笑みを作った。ありがとう、そう伝えるために。
ここは虹色楽器店、とある異世界のひとつ。
不思議なひとが集う、不思議な楽器店。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
こんにちは、笹山ぱんだです。
今回は皆さんにおとうさんになってもらいます。
(種族性別問わず)
●今回すること
死んでしまった少女の演奏を聴き、誉めること。
楽器店でのんびり過ごす。
●少女(まな)
6歳。コンテスト会場に車で向かっている時に対向車が突っ込んできた。血をたくさん流して命を落とす。
可愛らしい白いワンピースは真っ赤に染まり、その布地は破れ穴が開いている。
顔は醜く潰れている。
おとうさんが大好きで、コンテストで練習した結果を見せることを楽しみにしていた。
老人
虹色楽器店の店主の老人。
話しかけられれば答えるが基本は空気。カウンターの所で本を読んでいる。
楽器のメンテナンスや修理等を行える。どこから来たのかは不明。
それでは、宜しくお願いします。
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