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シナリオ詳細

再現性歌舞伎町1980:愛と夢と、ホストクラブナイト

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ここは消えぬ泡の街。黄金色の歌舞伎町……
 ディスコでシャンパンを浴びる男達。ボディコンガールが舞い踊り、高級なスーツとショルダーフォンの男達がタクシー券をちり紙のごとく使い捨てるここは再現性歌舞伎町。
 練達のいちエリアにして『弾けないバブル』の街である。
 ある大魔術師によって膨大な対価とひきかえにもたらされた『バブルマジック』は、同様の世界からやってきたウォーカーやこの空気に酔い続けたい者たちを虜にした。
 形ばかりのサラリーマン仕事をこなすだけで莫大な枚数の『札束』を手に入れることができ、これをばらまくように毎夜毎夜高級なシャンパンや一枚十万円のステーキをむさぼるここは享楽の都である。
 だがもちろんこれには膨大な対価がいまも支払われている。それは彼らが扱う万札は実は1Gの価値もなく、シャンパンも時計も車もショルダーフォンもこの街の中だけで作用する幻術だというものである。
 ゆえにこの町で遊びながら暮らす人々は、永遠に弾けない泡の中で現実を忘れ、今宵も快楽に身を投じるのだ。

 だがそんな世界にも『ホンモノ』は存在する。
「たとえシャンパンの味が幻でも、シャンデリアの光が幻でも、いまこの瞬間(とき)は真実でございます」
 高級なシャンパンが並ぶ棚と高級なソファー。
 両サイドを見目麗しい男達が囲み、客とのトークを楽しませている。
「お前は夢を見に来たんだろう? 見せてやるぜ、ホンモノの夢を――な」
 眼鏡のブリッジを中指で几帳面そうに押す『ホストクラブシャーマイト店長』鵜来巣 冥夜。
 そして人気ホストの一条 流威。
 二人は煌めく幻の世界のなかで、ホンモノの幸福を生み出すプロフェッショナル……そう、『ホストクラブ』を営んでいた。

●ホストクラブ『シャーマナイト』
 紆余曲折あって再現性東京にホストクラブ店をもつことになった冥夜。
 彼は初期投資ゼロで店長に任命されると同時に、実質負債店舗の立て直しを押しつけられていた。
 しかしスタッフまでもが幻術だけで作られたクラブやキャバレーが多く大抵の者が労働意欲を持たないこの街で、きわめて珍しく『ホンモノ』のホストクラブを運営する彼らの人気は高かった。
 任命からちょうど三ヶ月ほど経った頃には負債額の大半を回収し、ケツモチについていた鮫島組を通じた交渉によって店舗を正式に買い取り、所有するに至ったのだった。
 雇われ店長が真店長にランクアップした日、である。
 だがそれは、新たな試練の幕開けでもあった。
「悪ぃ、油断したぜ……」
 所変わって再現性歌舞伎町の病院内。
 流威は脚と腕をギプスに包んで吊っていた。

 病院の個室には冥夜と彼にたまたま呼び出されたイレギュラーズたちが集まっていた。
「再現性大阪をバックにつけたクラブの連中だ。奴ら、すぐ近くに店をだして俺たちの客を奪うつもりだ」
 バブルマジックのこともあって金儲けに向かない土地と思われていた再現性歌舞伎町。しかしサービス業には一定の需要があると察した他地区の連中が入り込み、こちらへのツブシをしかけてきたのである。
 一条はその偵察に向かったがカッとなりやすい性格から暴力沙汰に発展してしまいこの始末。
 騒ぎは発展し、一条と同僚のホストたちが武器を手に殴り込みをかけるに至り、お互い激しい損傷を負って入院するに至ったのだった。
「おっと、俺らの敵討ちなんて考えるなよ? この件は鮫島さんがカタぁつけてくれた。これ以上の暴力沙汰はナシ。金で解決ってな。これを破ればケツモチの顔を潰すことになる。
 それにもし暴力沙汰が続けば客は怖がってどっちにも近寄らなくなる。それは俺たちの目指したホストクラブじゃねえ……」
「確かに」
 壁に寄りかかって一部始終を聞いていた冥夜は、眼鏡を外し、胸ポケットから出した白いクロスでレンズをゆっくりとぬぐった。
「私たちが提供するのは夢と愛。相応の対価を支払って得られるのが不安や恐怖では不当取引になってしまう。あくまで私たちは『ホスト』として戦わなくては……」
 幸い、相手の店舗は建て直しにいましばらく時間を要するだろう。
 その間に奪われかけた客を取り戻し、店の経営を軌道に乗せるのだ。
 後には大阪系ホストクラブとも平和に話し合いながら互いの方向性や個性を維持していけばいい。むしろ、競争相手があったほうが儲かるというメリットすらある。
「作法は私が、そしてスーツ一式は一条たちが用意します。一緒にやってくれますね?」
 冥夜は集まったイレギュラーズたちに振り返り、眼鏡をかけ直した。
「今から皆様は――ホストクラブ『シャーマナイト』のホストです」

GMコメント

 ホストクラブのホストとなって夢と愛を語らおう。
 これはホストクラブ『シャーマナイト』を舞台としたワンナイトロマンスシナリオです。

・ホストになろう
 男性はスーツや化粧を、女性は男装をしてみな『ホスト』になります。
 『シャーマナイト』はあまり大きい店舗ではないので、三つのテーブルに1~2人ずつわかれて接客をするようなスタイルになるでしょう。
 割と落ち着いたタイプの店ですが、時には場の盛り上げも大切になります。

 というわけで、皆さんがホストになったらどんな格好をしてどんなしゃべり方をするかをプレイングに書いてみましょう。
 ※冥夜さんはホスト像が既に固まっているので、かわりにシャーマナイトの内装や接客方針なんか書いてみてください。

・ホストをやろう
 定義は諸説ありますが、ここでは『客と一緒に酒を飲みながら会話を楽しみ、相手の気持ちをよくしあげる仕事』と考えてください。
 ですので容姿や性格は問われません。たとえ全身ゲル状でも性格内気で寡黙も関係なく、『献身』と『交流』が鍵となります。
 といってもプレイングになにをどうするって書くのは非常に困難なので、
 『自分の得意な話題』『苦手じゃない相手。話しやすい相手』といったものをプレイングに書いておくとよいでしょう。きっと店長が良い具合に配置して戦わせてくれます。

 今回はとても人手不足なので完全裏方や客引きや料理を運ぶだけのスタッフといった役割はありません。全員ガチホストで挑んでください。

■オマケの解説
●再現性東京(アデプト・トーキョー)とは
 練達には、再現性東京(アデプト・トーキョー)と呼ばれる地区がある。
 主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げた、練達内に存在する、日本の都市、『東京』を模した特殊地区。
 その内部は複数のエリアに分けられ、例えば古き良き昭和をモチーフとする『1970街』、高度成長とバブルの象徴たる『1980街』、次なる時代への道を模索し続ける『2000街』などが存在している。イレギュラーズは練達首脳からの要請で再現性東京内で起きるトラブル解決を請け負う事になった。

●鮫島組とは
 再現性歌舞伎町を拠点とする極道組織。表向きには鮫島建設として再現性東京各所でのビルやら何やらを建設する仕事を行っている。
 組長はの鮫島五浪はバリバリの武闘派だが基本的に女子供を泣かせたくないタイプ。
 ホストクラブ『シャーマナイト』のケツモチとして他店舗や対抗組織との交渉を行うこともある。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/3654

  • 再現性歌舞伎町1980:愛と夢と、ホストクラブナイト完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年10月11日 22時20分
  • 参加人数6/6人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

リョウブ=イサ(p3p002495)
老兵は死せず
ヴォルペ(p3p007135)
満月の緋狐
ティエンシェ(p3p007879)
蠍追人
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
鵜来巣 冥夜(p3p008218)
無限ライダー2号
※参加確定済み※
グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)
孤独の雨

リプレイ

●夢のような夜を、あなたに
 弾けない泡の街にして、眠らない夜の街。
 その名も再現性歌舞伎町1980。
 夢をみて入り込んだ人々が夢から覚めたくないがために留まり続けるここは泡沫の街。
 そんな街の一角に店を構えているのが鵜来巣 冥夜(p3p008218)の経営するホストクラブ『シャーマナイト』である。
 深いウッドドアを開けば、落ち着いたピアノジャズが出迎えてくれる。
 黒い大理石タイルの床からはじまり、黒の基調と金の差し色によって上品でどこかミステリアスに彩られた空間はまさに別世界。店名の由来となった『シャーマナイト』をイメージしたインテリアである。
 元々シャーマナイトがシャーマンの石という意味の言葉であり、夢をみすぎて疲れ果てた人々を癒やし前向きにする意味をもっていた。冥夜の目指すホスト像に通じるものといえるだろう。
「ようこそ、シャーマナイトへ。おや、初めてのお客様ですね?」
 冥夜が高級なブラックスーツを纏い、客の前へと現れる。
 彼の美麗な顔つきにうっとりと見とれるものも多かろう。
 だがそれを当然のものともせず、冥夜はどこか謙虚にメニューブックやブラウン管モニターを指し示した。
「本日は特別なスタッフを取りそろえております。きっと夢のような夜をおくれるでしょう」
 顔がよくどこか危険な雰囲気をにおわせる『満月の緋狐』ヴォルペ(p3p007135)。
 森にそびえる大樹のごとく老熟した余裕をみせる『老いたる鯨鯢(カー・オン)』リョウブ=イサ(p3p002495)。
 ヤンチャそうな見た目の中にどこか人なつっこそうな雰囲気をもつ『蠍追人』ティエンシェ(p3p007879)。
 ダークなフレーバーの中に真面目で素朴な優しさを見せる『誰かの為の墓守』グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)。
 煌びやかでハンサムな魅力を率直に見せつける『ミス・トワイライト』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)。
 どれも個性豊かで目移りするような『ご馳走』ばかりだ。
 冥夜はパチンとウィンクをして、優しく甘く囁いた。
「ご指名は?」

●ヴォルペ、その愛と罪
「や、来てくれてありがと。おにーさんはヴォルペというよ」
 ちゃらちゃらとした雰囲気を隠そうともせず、ヴォルペは若年女性客の横に座ってにっこりと笑った。
「君のような素敵な宝石(レディ)に出会えるなんて、今日はとても素敵な日だね」
 シャーマナイトはホストの個性と経験を尊重している。
 冥夜の作成したマニュアルは客に無礼とならないように、そして最低限の楽しさを保証するために用いられ、この街では一般的な流行に乗ったサービスやテンプレートなムーブの殆どは廃されていた。
 『どうぞ自由に』と優しく微笑む冥夜の顔を思い出し、ヴォルペはヴォルペらしさを……もとい世界各地でかまし続けた伊達男ムーブを全力で出していった。
「疲れた顔してる。お仕事大変なの? 頑張ってて偉いなあ」
 ヴォルペは落ち込んだ女性や引っ込み思案な女性に強かった。
 過剰なくらい気持ちに寄り添うのにボディランゲージは控えめというバランスももちろんだが、女性を繊細な飴細工を扱うかのように優しく接しようとするのである。
「君みたいな可愛い子が笑ったら、おにーさん嬉しくてしょうがなくなっちゃうよ」
 それゆえ、心に闇を抱えた女性やひどい環境にさいなまれている女性はヴォルペの柔らかな優しさに甘え、ついつい他愛もない話に華を咲かせてしまうのだ。
「君に合うお酒をオススメしてもいいかな? ああ、おにーさんは君の傍にいるけれどね」
 ボーイスタッフを呼んでメニューを開かせると、ヴォルペは相手に似合ったカクテルを注文しようとすることがある。
 これがある意味ヴォルペの必殺技のようで、『女性がつついて欲しい心のツボを遠回しにつつく』というすべに長けていた。
「歌って踊ってもたまにはいいけどね。今日は君に会えた特別な日だから大切にしたいんだ」
 だから、だろうか。
 客の中にはヴォルペに本気で恋心を抱いてしまう女性も少なくはない。
 ホストの宿命とも言うべきだろう。
 ある女性客が目を潤ませ、ヴォルペに縋るように囁いた。
「ねえ、一生のお願い。好き、って言って。私を一番だって言って。嘘でもいいから……」
 そんな女性に、ヴォルペはきまって。
「またお店に来てね。君が望めば、おにーさんはいつだってお相手するよ」

●優しき大樹のリョウブ
(夢と愛を提供する職業とは、素敵だね。たとえ一夜の幻でも、時にそれは現を生き続けるための力になりうるから)
 店に飾られた黒い薔薇の花。その花弁を優しく指先で撫でると、リョウブは深く落ち着いたパープルカラーのスーツの襟を直した。
(それを与えるというのは、難しくも有意義で楽しそうだ。
 それに、信念を貫き、あくまでこういう戦い方を選ぶ様は魅力的だからね。
 老耄なりにこの戦、尽力しよう)
 彼を呼ぶボーイの声がする。どうやら指名が入ったようだ。
 振り返ってみると、熟年の女性がこちらに手を振っている。
 リョウブは小さく手を振り替えし、彼女をソファーへと案内した。

 リョウブを求める客層は大きく三つに分かれていた。
 極端に若く、それゆえに大きく年の離れたリョウブに安心感を覚えるという層。
 同年代を求めリョウブと並ぼうとする層。
 だが最も多いのが四十~五十台の働く女性層であった。
 この街の時代的常識から、多くの場合キャリアウーマンは一定の年齢まで達すると仕事をやめてしまう。
 必然的に自分が最も年長の女性となってしまうため、常にそうであることを求められるのだ。
 ゆえに――。
「あなたといると、とても落ち着くわ。リョウブ」
「そう言ってもらえるとうれしいね」
 ウィスキーのグラスを掲げ、小さく乾杯をする熟年女性客とリョウブ。
 こうした女性の話は日頃ため込んだ仕事の愚痴から始まり、親戚関係の愚痴へ繋がり、それをリョウブがうんうんと静かに、時折合いの手を入れながら喋らせているうち、『若いうちに恋がしたかった』といった夢を語るようになり、しだいに今からでも希望は沢山あるといった前向きな話へとシフトしていく。
 これはきっとリョウブの特技か、もしくは人徳のなせるわざなのだろう。
 彼と話しているだけでどこか前向きな気持ちになれるのだ。
 お酒も回り充分に喋り尽くし、活力を取り戻した客は『また来るわね』と手を振り、店を出て行くのである。

●ミッドナイトゴールドタイム
(さて、ラサと違って酒飲んで適当にごろつきの相手してれば終わるような仕事じゃあない、か。まあいいさ、その分上等なモンでも飲み食いさせて貰おうかね)
 スタッフルームでリンゴをかじっていたティエンシェに、ボーイからのコールがはいる。
「おっと、出番か」
 食べかけのリンゴをサイドデスクに置いて、ティエンシェは立ち上がった。
 少し着崩した感じのカジュアルスーツに、ちょっぴり遊んだ柄のネクタイをしめなおす。
 高級な腕時計や靴、さりげないアクセサリーは忘れない。この街でホストをやるには必須のアイテムらしいと、マニュアルにあったからだ。
 そうした中でティエンシェは金ベースで清潔感のある、できるだけラフな素材を選ぶようにしていた。
 できることならシャツもアロハ柄にしたかったくらいだ。
「と、こんなもんかな。接客なんてガラじゃあないが、引き受けた以上は、やるだけやらせてもらうさ」
 身なりを整え、フロアへと出て行くティエンシェ。
 彼を目にとめて、奥のソファに座った女性がぱたぱたと手を振った。
 二十台の半ばといったところだろうか。毎日が楽しくてしょうが無いといった風情の女である。
 ティエンシェは歯を見せて爽やかに笑うと、あえて軽い調子で歩み寄った。
「いえー。今日も来てくれたの? ありがとうね」
 相手にあわせる形でハイタッチをすると、隣に座って酒を造り始める。
 やるべきことはやるが相手への注意をそらさない、というのはマニュアルと初期研修で徹底的に教わったことだ。
 相手が語りかけてくる日常の些細な話に相づちをうち、ティエンシェはにこやかにフードやドリンクを誘導していった。
 元々彼女には才能があったようで、ボーイッシュな顔つきも相まって女子受けがとてもよかった。
 化物の群れに命がけで飛び込むよりはずっと楽かも、なんて思うほどである。

 一方こちらはブレンダを指名したテーブル。
「ようこそ、レディ。今夜の私は君のものだ」
 大げさなくらい仰々しく頭を垂れると、ブレンダは一輪の薔薇を手に女性客へと跪いた。
 黒のパンツスーツにルージュカラーのワイシャツ。ネクタイは締めずに小さくあけたことで、ブレンダの引き締まった肉体や肌の張りがよくでていた。
 当然というべきか、ブレンダにつく客の殆どはこの空間にファンタジーを求めていた。
 シャーマナイトが元々シックな方針を打ち出していたこともあって、案外隙になりがちなポジションである。
 そういった客は舞い上がって色々分からなくなってしまうこともあるが……。
「お転婆が過ぎるよお姫様。ほら、座って話そうじゃないか」
 わざと相手の肩や顎に触れて優しくささやきかけると、女性達はうっとりとした顔でソファに沈むのである。
 『いい子だ』とささやいて髪を手ぐしでとかしてやるブレンダ。
「さぁ、今日はどんな話がしたいのかな?」
 接し方は王子様とお姫様だが、やはりここはホストクラブ。
 相手が深層心理で望むことをくみとって叶えてみせるという高度なサービスが求められる。
 特にブレンダはミーハーな客の好みや要求を察する能力に優れていたようで、他のホストでは踏み込まないボディを用いたコミュニケーションを頻繁にとるようにしていた。
 相手はきゃいきゃいとはしゃいでたまには『やだー』と声を上げるが、その声に喜色が多分に混じっているのは誰の目にも明らかである。
 酒にはそこそこ強い方であるらしく、男装したミュージカル舞台役者さながらの強い目力と身体を鍛えたからこその体幹からくるどっしりとした優しいヴォイスが夢の空間で酒に酔いたい女子達に人気を博した。
「今宵は楽しかったかい? お姫様」
 最後はウィンクをして、薔薇の一輪を手渡して手を振るのだ。

●グリムと静かな宵口へ
 フロアの一角。バーカウンターにかけて静かにグラスを傾けるグリムの姿があった。
(ホストとは人に夢を魅せる仕事だと聞いた。とても素敵な仕事だと思う。自分はこういうことは初めてだし……)
 黒いスーツにまとめ髪。彼の長くしっとりとした髪は魅力だが、今は蝶のバレッタで後ろにまとめていた。そこへペチュニアの花を模したネックレスをつければグリムホストバージョンのできあがりである。
 冥夜たちからの研修に際して、グリムは口調を柔らかくしたり一人称を一般的なものに変えたりといったことを提案したが、彼らは『そのままで構いません』とグリムに教えた。
 ここがシャーマナイトが『高級な夢を与える』という個性をもったポイントといってもいいだろう。
 店のホストは個性が豊かで、臨時ホストに至っても様々なタイプが並んでいる。
 店の紹介映像では、グリムのもつどこかダークでしっとりと優しい側面がよく強調されていた。
 そういうことならば……と。
「来てくれてありがとう。ああ、なんて褒めていいか……」
 不器用そうに小さくはにかむグリム。表情の薄い彼の、けれどどこか誠実な雰囲気はホストクラブへ日常的に通う女性客の一部層に好かれた。
 誰もがホストクラブに軽薄さや派手さを求めているわけでは無いのだ。
「さ、今日も案内して。グリムくん」
「ああ」
 微笑み、差し出された手をとって引いていくグリム。
 彼の元々持っていたセクシーな身体のラインや、納骨堂のごとく静かでひんやりとした雰囲気は、時として人々の心を安らがせる。
 彼のトークテクニックは少し独特だ。
 相手の話に『ああ』『それはいいな』『おもしろい』といった小さな単語を挟むことで深く興味を示す雰囲気をみせ、時には黙って肩を叩くといったなぐさめも交えるようにしていた。
 話すことが苦手そうな雰囲気を纏いつつ、けれどしっかりと客に向き合っているという絶妙な接客術である。
「君と話すのは、とても楽しかった」
 また来てくれると嬉しい。そういって、グリムは去る客へ名残惜しそうに手を振るのだ。
 すぐにまた会いに来よう。そんな気持ちを抱かせながら。

●夢をいつまでも
「今夜も、お楽しみいただけたようでなによりです」
 冥夜は店を出て行く女性客に頭を垂れ、ハンサムに微笑んでみせる。
 彼の店シャーマナイトは再現性歌舞伎町の中でも特に高級志向とされ、多くの固定客を獲得できていた。
 元々経営破綻によって解散しかけていたホストクラブのスタッフを取り込んだばかりでなく大幅な改装と経営方針の転換を打ち出した冥夜の手腕は正解だったと、実勢によって証明できたといえるだろう。
 うつつの夢にどっぷりと浸からせて、心ゆくまで楽しませる。
 そして閉まる扉も名残惜しいほどの満足を与えて客を夜の街へと帰していく。
 そんな毎夜が、このホストクラブでは繰り返されている。
 ここは弾けない泡の街にして、眠らない夜の街。
 その名も再現性歌舞伎町1980。
 夢をみて入り込んだ人々が夢から覚めたくないがために留まり続けるここは泡沫の街。
 そんななかにあって、もしかしたらこの店の夢こそが……真実なのかもしれない。
「またのおこしを、お待ちしております」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 それでは、次の夜でお会いしましょう

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