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シナリオ詳細

<FarbeReise>色咲く首輪と砂漠猫

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●遺跡の猫
 砂塵舞う地上の遥か底、陽光の恵みなき暗闇で眠るのは、岩と砂にまみれた遺跡だ。
 四辺からは落ちゆく砂の唄が聞こえ、地底に控えめな砂丘をつくりあげる。ひとりの男が足跡なき床から手で掬いあげれば、温もり知らぬ砂たちはさらりと流れゆく。茫漠たる地表の砂とは違い色彩の変化に乏しく、熱されも冷やされもしない空気は、地下深きもののはずなのに澄みきっていると感じる。
「にあ」
 突如響いた声に、遺跡は一種の沈静に入る。男たちは顔を見合わせた。
「みぃ」
 耳を傾ければまたしても囁きは届く。訪れし者は、かれらを刺激せぬよう慎重に進む。
 やがて彼らが出くわした、否、逢瀬を果たしたのは――砂に足をとられることなく歩む、猫。
「ひぅん」
 猫がひとつ鳴いてみせた。
「っ……ッ!」
「わかる。落ち着け。ニャンコが逃げる」
 声にならぬ悲鳴をあげかけた男を、別の男が宥める。
 灯りを掲げると、真っ赤な首輪をつけた猫が、遠くで目を細めていて。
「なんだアレ、毛並みボサボサじゃん。……ほーらほら猫ちゃん、綺麗にちまちょーねー」
「っと、そうだおもちゃ、おもちゃ何処しまった?」
 各々動き出して近寄るも、彼らの心境など知る由もない猫は、どこかへ走り出してしまう。
「ああぁあぁ!!」
 堪えきれなかった想いを叫ぶ男まで出始める。
「もふりてぇよぉぉ抱っこさせてくれよおおおッ!!!」
 悪人面の男たちは、揃いも揃って遺跡の住民に翻弄されていた。

●情報屋
「おしごと」
 イシコ=ロボウ(p3n000130) の言葉は砂の街においても静かだった。
「地下遺跡でお宝探し。色宝、猫の首輪についてる」
「猫?」
「猫」
 思わず聞き返したイレギュラーズのひとりに、イシコは同じ響きで答える。
「色宝をもった猫、連れてきて。彼女のところに」
 言いながら少女が視線を逸らした先、ひとりの女性が微笑み会釈をした。
「アメナ=サレハよ。私の代わりに『秘宝』である色宝を確保して頂きたいの」
 『願いを叶える』伝承が残る秘宝――イレギュラーズにも通達は届いている。わかっているのは、傷が治る程度の微々たる効果しか与えないこと。しかし、ひとつひとつは弱くとも、集めた分だけ効力を発揮するとも示唆されていた。
 そんな色宝の在り処としてアメナが依頼した目的地は、地下深くに眠る、砂と岩だらけの遺跡だ。
「砂漠に住む猫たちの住み処なのよ。どうしてかみんな首輪をしてて」
 陽の届かぬ地下ではあまり意味を為さないはずの、色つきの石と首輪。灯りがないと判りにくいが、そんな首輪をつけた猫たちの中に一匹だけ――色宝の首輪をつけた猫がいるという。秘宝について、ラサ傭兵商会連合から周知されるよりも前に、彼女の雇った冒険者が件の猫を目撃していたそうだ。
 その冒険者の話だと、遺跡内部は猫たちの楽園と化している。複雑に入り組んだ構造は駆け回って遊ぶのに事欠かず、サソリやヘビといった他の生き物たちが迷い込むことも珍しくない。広い空間では綺麗な水が溜まっていて神秘的。人の手が入っていないがゆえの、楽園だろう。
 しかし冒険者によると、天井近くまで砂に埋もれた区画もあった。戸のない部屋にまで流れ込んでいた砂は、各部屋に何があるのかも簡単には見せてくれない。冒険者はそこで探索を断念し、地上へ戻ってきたらしい。
「だいぶ前のことだから、冒険者の居所はわからなくて」
 その点は諦め、イレギュラーズを頼ることに決めたとアメナは言う。
「色宝を狙ってる冒険者や賊と争うことになったら、私では太刀打ちできないもの」
 ふふ、と吐息だけで笑った彼女の傍ら、イシコは淡々と説明を紡ぐ。
「改めて話す。秘宝はネフェルストで管理。これ、ラサ傭兵商会連合の決定」
 開かれた遺跡が多いとなれば、盗賊なり悪巧みを考える一味なりが『秘宝』を求めに来てもおかしくない。行き来する商人や冒険者、そして傭兵たちにラサ傭兵商会連合が周知したのは、持ち逃げの可能性を少しでも防ぐためでもある。
 しかも秘宝を届けた者には金一封。金目当ての者ならば悪い話ではない。
「今回、アメナさんに秘宝、渡して。彼女から、ネフェルストへ届けてもらう」
 イシコが続けると、アメナはにっこりと笑う。
「そうだわ。色宝を持った猫のご機嫌は損ねないように、お願いね」
 人間に対する不信が増しては、ネフェルストへ連れていくのも少々大変だ。何より穏便に連れていきたい、街に着くまで猫と仲良くしておきたい、とアメナは話す。
 弾む彼女の声があれば、隣では落ち着いた声もあって。
「首輪、首輪の石……どっちも、外そうとすると、猫、命失う」
 イシコの情報によると、盗掘者が先日、猫の首輪を無理に引っ張ったそうだ。直後、猫は突然ぐったりと動かなくなり、首輪や石は砂と化してしまったという。
 同じく、宝石だと思って首輪の石を奪おうとした者もいた。取り外そうとした途端に猫が倒れ、やはり首輪も石も砂になり果てたとのことだ。
「……砂になるの、色宝じゃない。ただの石がついた、不思議な首輪」
 俗に言う偽物だったようだが、いずれにしても猫が死ぬのは居た堪れない。
「猫の接し方、私、アドバイスできない。皆に任せる」
 石ころの精霊である少女に、助言できるものはなかった。
 こうしてイシコが説明を終えると、アメナは恭しく一礼して。
「他の方に持ち去られないうちに、お願いね」
 そう微笑んだ。

GMコメント

 砂漠に猫。猫にお宝。お世話になります。棟方ろかです。

●目標
・色宝の首輪付き猫を、依頼人の元へ連れてくる
・色宝を持つ猫の機嫌を良くしておく or 人に慣れさせておく

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。想定外の事態は絶対に起こりません。

●ロケーション
 砂と岩だらけの地下遺跡。以下のような雰囲気です。
 どこへ行くのも『この遺跡に住んでいる猫は慣れている』ので楽々移動します。

・キャットタワーのような複雑な構造
 人の大きさだと通れない(または通りにくい)穴や足場もアリ。
 その場合、遠回りにはなるものの、他に道が通じていたりします。
 他、衝撃で崩れやすい箇所があったり、震動により砂の雨が降ってきたり。
・地下神殿のような空間
 綺麗な水が床一面に広がっています。あと、声がすごく響く。
・砂に沈んだ区画
 通路も各部屋も天井付近まで砂に埋もれていて、普通に通行するのは難しそう。

●猫と色宝について
 スナネコのような外見ですが、よくいる猫の認識で大丈夫です。
 赤なら赤、青なら青と、石と同じ色の首輪を、それぞれ付けています。
 間近でよく見れば、色宝は他の石と質が違うのでわかります。

●敵対存在
・盗賊×10体(チーム白猫5体、チーム黒猫5体)
 お宝をつけた猫がいると聞いてやってきた、猫好きで徒党を組んだ盗賊たち。
 二手に別れて行動しており、彼らとは遺跡内で遭遇します。
 猫への愛情表現の仕方は様々なので、猫系のPCさんはご注意ください。
 遠くから眺めるだけの人、ちょっかいを出して反応を楽しみたい人、もふもふ目当ての人、顔を埋めてにおいを嗅ぎたい人、衣装や頭飾りを付けたい人、洗ってトリミングしたい人……いろんな人がいます。
 全員が短剣、投擲用ナイフ、クロスボウ所持。
 倒してもいいし、利用してもいいです。

●依頼人
 名前はアメナ=サレハ。20代前半の女性。
 近くの町で吉報を待っているので、遺跡に同行はしません。
 
 それでは、猫と戯れてらっしゃいませ!

  • <FarbeReise>色咲く首輪と砂漠猫完了
  • GM名棟方ろか
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年10月09日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

レスト・リゾート(p3p003959)
にゃんこツアーコンダクター
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
バルガル・ミフィスト(p3p007978)
シャドウウォーカー
一条 夢心地(p3p008344)
殿
黎 冰星(p3p008546)
誰が何と言おうと赤ちゃん
ランデルブルク・クルーガー(p3p008748)
遍歴の
フィリーネ・デュルファー(p3p009108)
マジックセイバー

リプレイ


「盗賊の方々は、首輪のことを理解なさっているのでしょうか」
 パウダー・アクアの拳』黎 冰星(p3p008546)が、彩り失せた砂や岩だらけの遺跡を見回した。
 冰星の不安はもっともだった。何せ今回の賊は、生粋の猫好きの集まり。絶好のチャンスが巡れば抱え上げ、その拍子に首輪を強く引っ張ってしまったら。考えるだけで冰星の毛がぞわっと立った。
「たぶん知らないんじゃないかしら~」
 『遠足ガイドさん』レスト・リゾート(p3p003959)が答えると、冰星はふるりと身を震わせる。
「私がダンジョンの歩き方になるから、ついてきて?」
 冒険のいろはを知る『never miss you』ゼファー(p3p007625)が先行する。
「はい! 先輩、よろしくね!」
 そんな彼女を頼もしそうに見つめて、『マジックセイバー』フィリーネ・デュルファー(p3p009108)がハキハキと言葉を発した。砂の下で眠る遺跡など、イレギュラーズになる前は訪れる機会もなかった。フィリーネの胸は弾み、足取りも軽やかになる一方で。
「なんだかワクワクするね!」
「わかるわ~、まっくら遺跡でねこちゃん探し。ちょっとした冒険よね~」
 言いながらレストがランタンを掲げる。カラン、と灯りを揺らした際の音さえも響く、静かな地の下。柔い砂をレストがひとたび蹴れば、ふわりと彼女の身は浮遊し、悪い足場も難無く超える。
 そしてフィリーネは、姿勢を低くしてすんすんと匂いを辿っていく。
「うう、あっちこっちから臭う……」
 反射的に鼻をつまむ。ここは猫たちの楽園。つまり、そういうことだ。
 猫軍団もすぐに発見できた。首輪に関しては近づかないとわからないため、各々工夫を懲らす。
 まずレストは、猫たちの気を惹く絶好の餌――カリカリで誘う。
「怖くないわよ、いい子ね~」
 レストが餌に夢中な猫の首輪を確かめていく後ろで、あった、と声をあげたのはフィリーネだ。
 砂岩に隠されていたレバーを下げると、猫しか通れなかった穴が大きくなった。
(よかった、これぐらいの仕掛けなら猫さんも平気そう)
 怪我に繋がる罠でなくて良かったとホッとした直後、フィリーネは一匹の黒猫と目があう。薄闇から浮かぶ双眸は爛々としているが、灯りを向ければ毛並みの表面が煌めく。嬉しくなって近寄ろうとしたフィリーネは、はたと立ち止まる。猫は気まぐれだというのを思い出したのだ。
 猫さん、猫さんと呼びかけながらそろりと近寄れば、黒猫は窺うようにフィリーネを凝視して。
「あのね猫さん、僕は君の味方だよ。……お腹、空いてない?」
 彼女もペットフードを手に距離を縮めていく。するとごはんの匂いとフィリーネの柔和な態度に、黒猫も徐々に近づいてきて。
 その頃ゼファーは、数匹の子猫を膝で遊ばせていた。眉間や顎といったポイントを攻めて攻めて攻め立てる。けれど力加減を知らない子猫たちはゼファーに思い切り爪を立てていく。そこへ。
「いち、にい、さん、はい~」
「いー」
「にゃあ」
「みう」
 マタタビの枝を指揮棒のように動かすレストに合わせて、猫が次々声をあげる。いつのまにか仲良しの猫を増やしていたらしい。
 よって、今からごきげんにゃんにゃんパレードの時間となる。みゃーにょーと連なる鳴き声は、短いものから長いものまで個性豊か。パレードに加わったゼファーも、肩や頭に乗った子猫たちに悉く引っ張られながら、うっそりと息を吐く。
「自分が恋しい時は近付いて来たりするんですから……」
 無邪気な子猫たちのおもちゃと化したゼファーだが、微笑みを微塵も損なわない。
「ほんと猫って可愛いわよねえ。ええ、ええ。猫は大好きですわ」
「ゼファーさんなんだか傷だらけだね!?」
 黒猫を頭に乗せたフィリーネがぎょっとするも、ゼファーは吐息で笑うのみで。
「多少の生傷は通過儀礼って奴ですわ?」
「通過儀礼?? 大丈夫、こういうときのための回復だから!」
 フィリーネの心遣いと治癒術の温かみが、地下深くでもじんわり沁み入る。
 そのときだ。イレギュラーズの元へ、何かが飛び込んできたのは。


 ところ変わって、砂塵舞う地上の底をゆく別の部隊。
 なるほど、と神妙な面持ちで頷くのは『夜に這う』バルガル・ミフィスト(p3p007978)だ。
(本当、その手の方には天国なのかもしれませんね)
 共感できるかと言えば否だが、理解はできる。
 だからこそバルガルは現在の状況をしみじみと感じつつ、猫の軌跡を追う。
「あいたっ! まったく、引っ掻かないでくださいよ」
 眠たげな目許で、じいっと猫を凝視すると。
「フシャーッ!」
 牙を剥いて威嚇された。やれやれ本能的に何かを察しているんでしょうか、などと思いつつも仕事は仕事。背嚢の重みをしかと感じながら彼は先へ進んでいく。
 後ろでは『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)がぐったりした様子で、壁に片手をつけて項垂れていた。
「もう少し休憩するか? 歩けそう?」
 『遍歴の』ランデルブルク・クルーガー(p3p008748)が尋ねるも、ウィズィは頷くので精一杯だった。
 ――彼女に何があったのか。
 はじまりは鼠をファミリアーに用いたことにある。この一文から察した諸氏もいるだろうが、説明すると、小さい穴や路の探索に五感を共有した鼠を用いた彼女は、気配か音に感づいた細路の向こうの猫たちに――全速力で追い回された。
 実際に彼女が走ったわけではないが、鼠にとっては迫り来る巨躯。狩りをする爛々たる眼光。容赦ない猫パンチや噛み付きと、それはもう地獄のような状況に置かれたわけで。
「窮鼠猫を噛むって言いますけど、本当に猫を噛むのでしょうか鼠は」
 ほとほと弱った様子でウィズィが鼠を一瞥するも、猫を噛まなかった元・窮鼠はちうちう鳴くだけだ。
 しかし鼠とウィズィの命懸けとも言える努力により、仕掛けた罠への誘導は叶った。
 鼠に夢中だった猫も、今では捕獲機の中でウーウー威嚇するのみ。
 他の目撃猫たちは、罠がいかに危険な存在かを認識したらしく、仲間が捕まった途端に散開したのだが。
「ほれほれ、此処にもおったぞ」
 えいや、と一声あげてのよじ登り。穴を覗き込み、高所へよじ登って堅実に猫を探していた『殿』一条 夢心地(p3p008344)が仲間を手招く。猫関係も想定しているため、いわば縄張りや定位置があると彼は読んでいた。そして、読みは見事に的中する。
 ウィズィたちも、示された穴ぐらをのぞき見、器のような足場を登って確かめた。ただ歩くだけでは見えてこない猫の姿が、そこかしこにある。眠たいのか疲れているのか、逃げ出さない猫も多く、首輪の確認は思いのほかスムーズに進んだ。
 一方ランデルブルクは、光源確保の名目で仲間の働きを一望していた。
「オジサン登ったり走ったりしたくないしな、疲れるから」
「疲れる……と言いました?」
 たまたま猫を抱えて下りてきたウィズィが首を傾げると、咄嗟にランデルブルクはこうべを振る。
「違うぞ、猫がびっくりするかもしれないからな? ほら、ニーズの一致ってやつだ」
 言い募るランデルブルクに、はあ、とウィズィは不思議そうに瞬いた。
 猫に集中していた仲間へ、そこでバルガルから声がかかる。盗賊の足跡を発見したのだ。
「ここから追跡しましょう」


 岩と砂だらけの地下遺跡は、いつもの静寂から程遠い一日を刻む。
 宝を狙うライバルの存在に気づいた盗賊たちが、レストたちへ襲撃をかけていた。
 咄嗟にレストが微笑みの威嚇を向けて、賊を怯ませ、そこへ。
「キーック!」
 掛け声とフィリーネの蹴りがめりこんだ。
「ちゃんと人の話は聞かないとダメだよ!」
 齢十六の少女に真っ当に注意されるも、男が苦痛で転がったまま頷くこともままならない。
「オーケーオーケー、皆さんこの肉球が目に入らないかしら」
 ゼファーは冰星をむんずと掴み、あろうことか賊にとって弱点となる肉球を見せ付けた。
 嗚呼ともギャアとも言いがたい悲鳴が、賊一味からあがる。中には何もしていないのにうずくまる者までいて。
「愛らしいふわぷにが傷付くのは、貴方達とて望むところではないでしょう?」
「ふわぷにが!」
「俺たちのふわぷにが!」
 彼らのではない。
 こんにちは、と冰星が挨拶を向けた。直後、男たちがゴシゴシと目を擦り、肉球ではなく冰星の姿を確かめ出す。彼らの戸惑いを知らず、冰星はさりげない話題を添えた。
「彼らの首輪は、引っ張ってはならないものです」
 視線を釘付けにしているのは猫でなく冰星なのだが、それはさておき。
「罪なき命のため、どうか首輪はそのままにしてあげて下さい」
「「ははぁーっ!」」
 冰星が続ければ、賊が突然平伏し始めた。冰星は、事態が理解できずきょとんとするばかり。
 そこへレストがそうっと助け舟を出す。
「おばさんの両親はね、旅行会社の運営をしているのよ~」
 唐突な話題に盗賊がびっくりする間も、レストの話は続く。
「皆さんもどうかしら~。幻想ふれあい猫歩きツアー」
「幻想?」
「ふれあい……」
「猫歩き!?」
 俄にざわつき始めた。
「猫まみれの街へご招待してあげるわ~。金一封なんかより、素敵な思い出を作っちゃいましょ~?」
 ――だって、遺跡を出る時には、皆幸せな感じにしたいから。
 想いの赴くがまま救いの手を差し伸べたレストに、賊の男たちは姿勢を正して並ぶ。
「だが、ここのにゃんこにも逃げられ……」
「だよな。猫ちゃん怖がっちまってよ」
 彼らの切実な悩みを耳にしたフィリーネが、ふっふっふ、と不敵な笑みを浮かべた。
「こんなこともあろうかと! 神器を持ってきたよ!」
「そ、それは!」
 盗賊の群れが騒然となる。無理もない。彼女の手にあるのは――猫じゃらし。
 ゼファーも勢いの波に乗り、懐から取り出したるは正しく。
「奥の手よ。最終兵器マタタビ!」
「やった、やったぞ!」
「俺たちも勝てる!」
 歓声が重なった。地下だというのに明瞭な輝きを宿した賊の表情を背に、ゼファーが先頭をゆく。
「さあレッツお猫様!」
「「レッツお猫様!」」
「猫ちゃんの平和の為にいざゆかん!」
「「いざゆかん!」」
 にゃんにゃんパレードとは別の行進が、遥かな地の底で響き渡った。


 戦いを念頭に置いていたランデルブルクが、待ち伏せしていた賊に逸早く反応した。
「とんだご挨拶だな、よっと」
 ランデルブルクの放つ雷光が遺跡内を一瞬だけ明るくする。目映さに眩む男へ贈るのはしかし、断ち切るための刃ではなく慈悲。死なない程度に加減するのはランデルブルクにとって朝飯前だ。
 迫るナイフを躱して、ランデルブルクは投擲者の男を柱へ押し付けた。
「オジサンも猫は好きだよ。無心で遊んでると心が癒される気がする」
「ぐ、な、何……!?」
「つっても、そっちには負けるからなあ」
 前触れのない話に戸惑ったのか、賊の手が緩んだ。すかさずランデルブルクが得物を叩き落とし、届かぬ所まで蹴る。
 別の一人と対峙したウィズィは、美しい刃で一太刀を受け止めていた。
「出会い頭に物騒ですね」
「本当、乱暴はよくありませんよ」
 彼女の背からバルガルが槍を突き出し、石突で賊の喉を叩く。むせた盗賊は次なる一手へ出るのも叶わない。何故ならバルガルの背嚢から顔を出した存在に気づき、足を止めたからで。
「ネコチャンを背負ってる……だと……?」
「みぁ」
「みぁ……だと……!?」
 連れてきた猫は、愛らしい見目と鳴き声で賊を虜にした。
 今なら大丈夫と判断したバルガルは、両手をあげ攻撃の意思がないことを示し、連ねてウィズィも対話に挑んだ。
「聞いてください、ここの猫たちは……」

 ウィズィが丁寧に説明した現実は、猫好きの盗賊たちへ多大なるショックをもたらした。
「お分かり頂けるでしょう? 証拠を見せようにも実演できる訳……ありません」
 伏し目がちに話したウィズィの深刻そうな面持ちに、えっマジなの、嘘だろ、と賊に動揺が走る。
「あ、当たり前だ! 猫ちゃんがし、死ぬなんてことになったら!」
 盗賊が青褪めた顔で震える。
 焦りも動揺も一切刷くことのない顔で、夢心地も賊と向き合った。
 彼が見るのを促したのは、来訪者にも素知らぬ様子で眠る猫団子で。
「あすこで眠っておる猫の幸せそうな顔ときたらどうじゃ」
「と、尊い……」
「そう、あれこそが宝よ」
 夢心地の言の葉は説得力があった。猫好きで徒党を組んだ彼らには、これ以上ない程に。
(猫を好く者に悪者はおらぬ。話せばわかってくれようぞ)
 はなから賊の人となりを信じた夢心地の言動には、飾り気がない。だからこそ賊にも真っ直ぐ響いたのかもしれない。
 そこで徐にバルガルが見せたのは、懐へ忍ばせていた小切手だ。
 表面が見えやすいよう、ランデルブルクがランタンで照らす。
「貴方方も得る物が無ければ……とは思いますので」
「な、なんだってんだ?」
「こちらは報酬とします。必要分をお渡しするので、是非ご協力を」
 先立つものが欲しいからこそ、盗みに走ったのだろうと踏んでの交渉は――あっさり成立した。
 こうしてイレギュラーズと盗賊は、共に色宝をつけた猫を探すため、探索を始める。
 発見した猫は多くとも、首輪を認めるも肝心の色宝はなかなか見当たらずに。
「ほーらほら、うにゃにゃにゃ」
「うにゃぅぅにゃ」
 ウィズィの差し出したマタタビに、一匹の猫がじゃれついていると。
「おお、おったぞ」
 そこへ響く夢心地の鮮やかな声音。猫は隠れられる場所を見つけるのが上手く、狭く人目につかない安全地帯を好む。だから夢心地は重点的に、条件に相応しい箇所を探して回った。
「これが……色宝?」
 首輪の石が異彩を放っていた。あらゆる視線を吸い込み、心を奪いそうになる美しさで。
 目的の猫を見つけて、賑わいに咲く声も言葉も色彩豊かになった。
 そんな情景に眸を細めたランデルブルクは、片隅で猫と戯れていた賊へ話しかける。
「……知らないで取っちまう前でよかったな」
「全くだ」
 明らかにほっとする様が見て取れて、ランデルブルクは顎を引く。
 失ってから気付く。そんな悲劇が他者に降りかかるのは、彼もあまり拝みたいものではない。
「首輪取ったら死んじまうなんて難儀な猫だ。いや、難儀なのは首輪か、この場合」
 傍観するランデルブルクが、カンテラが切れぬよう注意しつつ言葉を紡ぐと、賊が溜息をついた。
「……この猫ちゃんたち、人と一緒にいない方がいいんだろなぁ」
 がっくりした男の肩を叩いて、ランデルブルクは形ばかりの慰めを施した。


「はーい、集合場所はこちらですよ」
 ウィズィが大きく片手を振り、別チームを出迎えたまでは良いのだが。
「なんだあれ」
 思わず丁寧な口調を取っ払ってウィズィが呟く。
 彼女の目線の先には、むさい男たちに囲まれる冰星の姿があった。
「毛並みどうやって手入れしてんだ? 猫専用シャンプーじゃないのか?」
「あの……」
「もふりてぇぇよぉお」
「し! 静かに! 猫様がしゃべるところだぞ!」
 猫様と彼らに呼ばれた冰星がおずおずと口を開けば、盗賊たちは耳をそばだてた。
 これ程までに四囲をガードされ、好意の集中砲火を浴びる機会が今までもこれからもあろうか。いや無い。
 それに冰星は母から教わっていた。自分が正しいと思うことをしなさいと。だから。
「私でお役に立てるならと思いますので! どうぞ、もふもふを!」
「「うおおおぉぉ!!」」
 十にもなる雄叫びが遺跡や砂を震わせる。もふりたい盗賊たちにぎゅうぎゅうにされた冰星はしかし、これも修業と自らへ言い聞かせて耐えていた。
 遭遇時から一変し、盗賊たちの表情はいずれも晴々としている。それでも得物から手を離さずにいたランデルブルクだが、猫争奪戦を賊と繰り広げずに済むとは思わず、頭を掻く。
(ま、一度か二度斬り合ったわけだが)
 それだけで済んだのは、銘々選んだ交渉のすべや材料によるものだろうと考え、彼は口角をあげる。
 直後こだましてきたのは、冰星を労る賊の低い声。
「猫様、お疲れでしょうから町まで御運びします!」
「え!? いえ、自分の足で歩けますのでお構いなく」
「ですが猫様!」
「……なんでしょうね、あれは」
 バルガルも言い難い光景を生暖かく見守る。
「それに私は猫ではなく……ってゼファーさん?」
 忍び寄ったゼファーが再び冰星の腕を取り、肉球を見せ付ける。
「「ははぁーっ!!」」
 紋所に平伏すがごとく、盗賊たちは一様に砂へ額を擦り付けた。
 砂漠では異様としか言えない光景を眺め、悠然と笑うのは一人の殿様だ。
「善き哉、善き哉。おおよしよし。麿の懐がぬくいか、ん?」
 夢心地に呼応したのか、猫が一鳴きしてみせる。
 絵巻物のような場面でひとり、澄んだ青をキラキラと輝かせたフィリーネは。
(すごいや……ラド・バウでの腕試しとは違うんだね、依頼って!)
 デビューを果たす身としては、この上なく刺激的な一日となったようだ。

 こうして色宝をつけた猫を巡る攻防は、実に天晴れ、実に平和なまま幕を閉じた。

成否

成功

MVP

一条 夢心地(p3p008344)
殿

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした! 他の猫さんたちも、元気いっぱい遊んでもらえて満足そうです。
 そして盗賊たちはこのあと、すっっっごく良い笑顔で猫の街へ向かったことでしょう。

 ご参加いただき、誠にありがとうございました。
 またご縁がつながりましたら、よろしくお願いいたします。

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