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シナリオ詳細

<傾月の京>うるとらたぬたん

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●たぬたん、おおきくなる
 悲鳴が聞こえる。
 悲鳴が聞こえる。
 その夜は、なんとも慌ただしかった。
 暦の上で夏を過ぎれば、陽の勢いも陰り、沈みきってしまえば、少々肌寒さを感じるようになってきた頃。
 夏の入りからこちら、神威神楽での活動を発としてきた特異運命座標であったが、今宵この日に、高天御所にて強大な呪詛が行われることが判明したのである。
 急ぎ、高天宮は宮中へと乗り込む必要が出たギルドであったが、こと、問題は宮中のみでは済まされなかった。
 高天京がその城下町。町民の住まうそこにまで魔の悪意は広がっていたのである。
 曰く、肉腫。
 それとなったものは例外なく凶暴となり、人々に害を成す。
『それ』も例外ではなかった。
 肉腫となった『それ』は巨大化し、いまや町民の住む家々を破壊しているのである。
「ねえ、早くしなよ! その槍は飾りじゃねえんだろう!?」
 誰かが怒号を上げている。しかし、それを向けられた男は立派な長槍を持ったまま、及び腰だ。
「だ、だけどよ。お前だって、わかってんだろう?」
「わかってるさ! だけどね、戻すにしてもまずは大人しくさせなきゃあいけないんだよ!!」
『それ』はふたりにとって、否、町民にとって親しい隣人のようなものだった。肉腫となる前は昼夕時にふらりと現れ、飯をねだったものだ。
 仕方がない、甘やかしてはならないと思いつつも、誰もがその人懐こい姿に絆され、餌の代わりに笑顔をもらったものだった。
 その、たぬきに。
「たーーーーーぬーーーーー」
 ずがーん。
 それはでかいたぬきであった。肉腫パワーで全長5mくらいに成長したずんぐりむっくりのたぬきであった。
「ああ、やめておくれたぬたん!!」
 たぬたんは皆の癒やしだった。つぶらな瞳で見上げられると、荒んだ心が晴れていくようだった。撫でて撫でてとすりよってくる姿を見れば、疲れなど吹き飛ぶようだった。
 しかし、今やでっかくなったたぬたんは皆のおうちを破壊している。
「たーーーーーぬーーーーー」
 ずがーん。
 肉腫になったものの、否、なったことでよりそれまでの特性が強化され、凶暴化しているのだ。
 その特性とは。
「いいから、追い払うこともできないのかい!?」
「無理だって! あのつぶらな瞳を見ろよ!! 槍を構えると『突くの?』『痛いのやあなの』って顔してくるんだぜ!?」
「そんなのわかってるけど―――」
 特性とは、『かわいい』であった。
 誰かが言った。『かわいいは正義』であるのだと。そして『力なき正義に意味はない』のだと。肉腫になったことでそのベクトルは家を破壊する『邪悪』となり、逆ベクトルのまま力となっているのである。
「たーーーーーぬーーーーー」
 ずがーん。
「こ、こうなったら―――」
「あんた、何かいい手があるのかい!?」
「ローレットだ! 彼らにお願いするしか無い! たぬたんを元に戻してもらおう!!」
 そういうことになった。

GMコメント

皆様如何お過ごしでしょう、yakigoteです。

肉腫が暴れています。
幸い、人的被害は出ていませんが、このままでは周辺の建造物が破壊されてしまいます。
この肉腫は戦闘不能にすることで元の生物に戻ることが判明しています。
これと戦い、事態を解決してください。

【エネミーデータ】
■たぬたん
・城下町に住んでいた野生のたぬきが肉腫になったもの。
・肉腫になった影響で非常に大きく、ずんぐりむっくりしている。もこもこふわっふわ。
・動きは遅いが、耐久性、攻撃性に富んでいる。大きいので、回避は極めて不得手。
・以下のスキルを持つ。

◇たぬたんは大きくなった
・自身の行動による『単』を『範』、『範』を『域』として扱う。また、マーク、ブロックに2名以上が必要となる。2名をマーク、ブロック出来る者は2人分としてカウントされる。

◇とっても純粋でつぶらな瞳をしている
・たぬたんに向けてスキルを使用する場合、半数の確率でためらわれる。ためらわれた場合、行動はキャンセルされる。気持ちを強く持って痛む心を抑えつつ自分や仲間を激励したりすると、確率が変動する。

【シチュエーションデータ】
■高天京、城下町の一角
・町民の住む町。
・夜間。満月が出ている。


●Danger! 捕虜判定について
 このシナリオでは、結果によって敵味方が捕虜になることがあります。
 PCが捕虜になる場合は『巫女姫一派に拉致』される形で【不明】状態となり、味方NPCが捕虜になる場合は同様の状態となります。
 敵側を捕虜にとった場合は『中務省預かり』として処理されます。

  • <傾月の京>うるとらたぬたん完了
  • GM名yakigote
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年10月05日 22時50分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (10人)

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
戦気昂揚
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
空歌う翼
八田 悠(p3p000687)
祖なる現身
巡理 リイン(p3p000831)
円環の導手
伏見 行人(p3p000858)
精霊の旅人
海音寺 潮(p3p001498)
揺蕩う老魚
ブーケ ガルニ(p3p002361)
兎身創痍
陰陽丸(p3p007356)
じゃいあんとねこ
ボディ・ダクレ(p3p008384)
痛みを背負って
ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)
深緑の狩人

リプレイ

●たぬたん、みえる
 ある日、八百屋の親父が荷降ろしをしていると、じっとこっちを見てくるそれと目があった。小汚いたぬきだった。適当に足で追い払おうとしたが、たぬきは動こうとしない。流石に暴力を振るうのは気が引けて、互いに見つめ合いになってしまった。それを終わらせたのは音だ。たぬきの腹から聞こえた。ぐきゅるるるるるるるる。

 月が変わると途端に気温も下がり、日の差さない夜に至っては肌寒ささえ覚えるようになってきた。
 月が丸く、光り輝いていて美しい。こんな夜には、団子の一つでも頬張りながら、天に浮かぶうさぎを見上げていたいものだが。
「たーーーーーぬーーーーー」
 ずがーん。
 今見上げているのはたぬきである。
「町のためにも、たぬたんのためにも、とっとと眠ってもらった方が良いな」
 その巨体を見上げながら、『戦気昂揚』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)は嘆息する。
 暴れるたぬき。災害に近いが、今回は被害者ら自身がそれを祓うことを望んでいない。
「余程でなければ大丈夫だろうが、死なせないよう留意はしておこう」
「かわいい……かわいいよ! 大きいのもあってとってもかわいいよ!」
 ビッグになってもたぬたんはとってもキュート。いや、『空歌う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)の目には大きくなったことでキュートさも合わせてビッグになったと見て取れた。
「でもたぬたん自身だってきっと苦しいんだよ! オイラたちが止めてあげないといけないんだよ!」
「こういうのを見ると、攻撃をされない振る舞いが一番の護身なのかなって思うよね」
 やっていることは大変なことだが、たしかにその見た目は、『祖なる現身』八田 悠(p3p000687)から見ても攻撃を躊躇うものだ。傷つけねばならぬと思うと、気が引ける。
「まあ、やることはやるとも。幸いなことに元に戻せるみたいだし」
「たぬたぁぁぁん、おきてえぇぇ!!!」
『円環の導手』巡理 リイン(p3p000831)の声は残念なことに、たぬたんまで届いてはいないようだった。
 近くに武装した集団がいるというのに、でっかいたぬきはまるで気づいていない。
「力ずくでもうるとらを引っぺがして、たぬたんと町の人達に笑顔を取り戻そうね!」
「可愛さ、という一点を意図していないとは言え武器にしてくる手合は初めてだなあ」
 その見てくれこそが最大の鎧なのだと気づいていても、成程と『精霊の旅人』伏見 行人(p3p000858)は思う。これは確かに、攻撃がためらわれる。何かが精神にストップをかけている。
「たぬたん……ここの人々には愛されていると聞いたから、どうにかしたい気持ちはあるが」
「戦いづらい相手を狙って取りつくとは、肉腫とやらは何とも卑劣な存在じゃのう」
『揺蕩う老魚』海音寺 潮(p3p001498)の意見も尤もだ。住民に愛される可愛いたぬき。その愛らしさを利用しようというのだから、肉腫に変えた何某かの本性も伺える。
「可愛さならわしのポチの方も負けてはないと思うが」
 …………サメやろ?
「まあまあ、よくもこんなにまんまるに肥え太って。可愛くてもタヌキやろぉ……?」
『兎身創痍』ブーケ ガルニ(p3p002361)はどこか本能的な恐怖をたぬたんに感じていた。うさぎから見たたぬき。それもウルトラビッグサイズ。現実は童話のようには行かず、やはりやつはイヌ科である。脳で何かが警鐘の十六ビートを刻んでいた。
「はよ、萎んでもらわなね」
「なぁーん……」
『じゃいあんとねこ』陰陽丸(p3p007356)は暴れるたぬたんに同情の視線を向けていた。今宵は満月。いつもならたぬたんも誰かの膝の上で丸まってなでなでもふもふされながらお団子を頬ばっていた、はずなのだ。
 それが今や大災害。人々は月見で一杯どころではない。陰陽丸の細い瞳孔に決意が宿った。
「んみゃーぉ!!」
「なんという事でしょう。見た目は愛嬌がある類いですが与えている被害は可愛くないと判断されます」
『痛みを知っている』ボディ・ダクレ(p3p008384)は状況に冷静な感想を述べる。痛みを与えるのはしのびないが、このままではたぬたんも住民も苦しむばかりだろう。
「全霊で依頼を遂行します。うるとらたぬたん、是非とも戻しましょう」
「たぬきって何が好みなんだろう……」
『聖獣ハンター』ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)はたぬたんの好物を住民たちに訪ねていった。皆口々に、だいたいなんでも食べるけど、これが好きだよと言って芋を渡してくれた。
 たぬたんはお芋さんが好きらしい。
 季節的にもさつまいもで良いだろうか。こちらに気づかず暴れているたぬたんだが、焼いたいい匂いがしたら振り向くかもしれないし。

●たぬたん、きづく
 形が悪くて売れない野菜なんかをやると、たぬきは次の日も来るようになった。味をしめたかと思ったら違うようで、たぬきも荷降ろしの真似事を始めたのだ。おそらく、お礼のつもりなのだろう。試しに木箱をひとつ乗っけてやったが。重くて動けなくなった。じたばたしていた。じたばたじたばたしていた。その頃にはもう、たぬきに情が湧いていた。

 くんくん、くんくん。
「たーーーーーぬーーーー?」
 ふと動きをとめたたぬたん。鼻をひくひくさせると、漂ってきたそれが焼き芋のそれだと気づく。
 時刻は夜。凶暴になって暴れることを強いられていたたぬたんも、お腹が空いてきた頃合いである。
 そこに好物の焼き芋スメル。振り向かないはずがなかった。
「たーーーーーぬーーーーー」
 しかし急速に遠ざかっていくお芋さんの匂い。
 それを追いかけるべく、たぬたんは駆け出した。
「たーーーーーぬーーーーー」
 ずがーんずがーん。

●たぬたん、うごく
 ある日、たぬきがぼろぼろに怪我をして現れたことがあった。慌てて治療をしたものだが、どうやら隣町の連中が飲みに来ていて、寄った勢いを目についたたぬきにぶつけたようだった。激怒した。商店街一同で徒党を組んで隣町のやつらと戦いになった。これを第一次たぬたん戦争という。

「ほれ、こっちじゃ、こっちじゃ」
 大量の焼き芋を腕に抱えた潮がそう声を出して駆けていく、その後ろを。
「たーーーーーぬーーーーー」
 どだどだどだどだ。
 でっかいたぬきが追いかけていた。本能に従い、大好物のお芋さんを追いかけているのだ。
 どだどだどだどずでっどーん。
「……なんじゃ?」
 変な音がしたので振り向くと、たぬたんがコケていた。追いかけているうちに躓いたらしい。
「たーーーーーぬーーーーー」
 しかしたぬたんは諦めない。頑張って立ち上がると、また潮を追いかけ始めた。
 逃げる逃げる。見つけやすいように光りながら、焼き芋の良い匂いを漂わせながら。
「たーーーーーぬーーーーー」
 どだどだどだどだ。
 そして建物のない広間に出た時、思い切り焼き芋をばらまいてやる。
 飛びつくたぬたん。その仕草に攻撃を仕掛けるのは悩ましいが、今は心を鬼にする時だ。
「わしらが心を強く持ち倒さねばいかんのじゃよ」

 弦を引き、たぬたんを射程に収めるミヅハ。
 こう大きいと外す心配はまるでないが、しかしなんていうか。
「たーーーーーぬーーーーー」
 でかい。
「たぬきは小さいと可愛いんだけど、このデカさだと、なんか逆に怖ぇな。あの目、俺達を人間だと思ってんのか、食い物だと思ってんのか……」
 一心不乱にお芋をもっきゅもっきゅしているたぬたんだが、たしかにイヌ科の瞳というのは感情を察知し辛い。この大きさで、雑食の生物。お芋さんの次は自分かもしれないと、嫌な想像をしてミヅハは思わずぶるりと総毛立った。
「逆の意味で攻撃を躊躇いそうだ……しっかりしろ俺!」
 住民の顔を思い出せ。彼らは皆、被害よりも、これからよりも、たぬたんの安否だけを気にしていた。自分たちでは助けてやれないのだと、涙ながらに懇願された。
 その相手を思う気持ちが、ミヅハの胸を強く打ったことは否めない。
「町の人に愛されたたぬたんを助ける、そのためにも覚悟を決めて弓をひくぜ!」

「―――せーのっ」
 仲間とともに掛け声をひとつ、エイヴァンはたぬたんに思い切り体重をかけてその進行を押し留めた。
 好物の芋を使って被害の出にくい場所まで誘導したはいいが、また戻られては意味がない。
 全力で抑えつけ、あくまで戦場をこの場に固定する必要があったのだ。
 巨体からくるパワーで押し返されそうになり、かといってもっと力を込めるともっこもこの毛皮が気持ちよく、力んでいたものが解れそうになる。思いの外やっかいな相手であった。
 視線は合わせない。この戦いは住民はもとより、たぬたんの為でもある。今戦意を削がれるわけにはいかなかった。
「ここで躊躇ってたら、全員が不幸になるんだ」
 そうだ、これは守りたいものを取り戻すための戦いだ。一時の情に流されていては、助からない命がある。
「救いたいものがあるのなら、拳を振るうことを迷うな」
 心を鬼にして、そのふわふわもこもこの足へと得物を奮った。

 アクセルが邪を祓う光を放つ。
 巨体ではその閃光から身を隠すことなど叶わず、全身に浴びてしまうたぬたん。
「たーーーーーぬーーーーー」
 眩しいよーって感じでお目々を覆うたぬたんに、アクセルの良心がズキリと痛んだ。
「……い、痛いのはちょっとだけ我慢だよたぬたん!」
 思わず気遣う声が出てしまう。それは何より、ともすれば戦うことを拒否してしまいそうな自分の罪悪感を押し込めるものでもあった。
 しかし攻撃は成功である。たぬたんは眩しいせいでもうちょっとの間、動かない。
「たーーーーーぬーーーーー」
 両目をくしくしして、視界を取り戻そうとしている。
「お目々を掻いちゃダメだよたぬたん!!」
 その行動に術式が乱れ、霧散する。だめだ、このままではたぬたんも苦しいままだ。病気を治すためには注射も手術も必要なように、一見残酷でも適切な処置であればやらねばならぬのだ。
「元の大きさに戻ったら普通の量の食べ物でもお腹いっぱいになれるからね!」

「たーーーーーぬーーーーー」
 ずがーん。
 たぬたんの力任せな一撃を受けて、仲間が吹き飛んだ。
 白兵距離での攻撃を行おうとしたところを、つぶらな瞳で見つめられて手が止まってしまったのである。
 悠は急いでかけより、傷を癒やしていく。責めるようなことはしない。大きくても仕草の殆どは仔狸なのだ。ついつい攻撃の手が鈍るのはこの世に存在する者の本能である。
 それでも、それでもだ。
「罪悪感が無い訳ではないけど、やらなきゃいけないからねえ」
 傷が癒えたことを確認し、立ち上がった仲間の背を軽く叩く。言わなくてもわかってはいるだろうが、言葉にしなければいけないこともあるだろう。
 思いだけでは、決心が鈍ることもあるのだから。
「たーーーーーぬーーーーー」
 さあ、まだたぬたんが暴れている。したいわけでもない破壊を、植え付けられた偽物の本能で行使している。
 助けるためには武器を振るうしか無いのだ。
「皆、気を強く持ってね」

 傷の癒えたリインは、決意も新たにたぬたんのもとへと戻っていく。
 罪悪感に苛まれないわけではない。自分の得物を見て思わずドン引きしたものだ。この鎌を、刺すの? あのもこもこたぬきに? 鬼なの? 鬼の所業なの?
「でもこのままじゃ、たぬたんも町の人も私達も、全員不幸になっちゃう!」
 やらねばならないのだ。誰も彼もがたぬたんを諦めていない。家を壊された住民すら、たぬたんが元に戻ることを願っている。
「私はこれまで、まだ死にたくない人達だって沢山輪廻の輪へと還してきたんだ! 今回はこのうるとらぼでぃさえ引っぺがせば、誰一人の犠牲もなくみーんなで幸せになれるんだよ!!」
 振りかぶれ大刃。それは首を命を刈り取る宿業。しかし今宵ばかりは、誰かを生かすための死神だ。
「こんな分のいい賭け、挑まない訳ないよねっー!!」
 また目があった。それでも今度は、迷いはない。
「たぬたん、戻ってきてーーっ!!!」

「たーーーーーぬーーーーー」
「ぐぉっ……!!」
 たぬたんのでっかいパワーにより、ズズリと交代させられる行人。しかし腰を深く落とし、持ちこたえてみせた。
 それはさながら異世界の童話。クマとかち合うゴールデンジャック。
 常に力んでいるため、呼吸もままならない。しかし苦しくても顔を上げることは出来なかった。今あの瞳を見てしまったら、力が抜けてしまうだろう。
 声をかける。せめてたぬたんの注意が自分に向けばと願い。
「不本意だろう。俺もそう思うよ―――狸は臭みが強いから調理の手間が、なあ」
「たーーーーーぬーーーーー!?」
 なんか、たぬたんがびくーんってした気がした。力がさっきよりちょっと緩んでもいる。よっしゃ今や、押したれ押したれ。
 押され気味の雰囲気は脱したが、同時にチクリとしたものが行人の心に刺さった。どうしよう、たぬたんを怖がらせてしまったぞ。
「…………本当に食う気は無いからね?」

「ほれ、もろときや」
 ブーケがたぬたんに触れると、その巨体がすっ転んだ。
「たーーーーーぬーーーーー」
 どでどでん。
 傷つけず、吹き飛ばすだけの術式であったのだが、急に視界がぐるんとなったことに驚いたのだろう。ころんだ体勢のまま、四肢をばたつかせてなんだかわたわたしている。
 それを人は可愛いとおもうだろうか。今は大きすぎてゲイザーもかくやな瞳を見ることで。今は肉も骨もひとかじりにできそうな牙を前にして。
「暴れるにしても人じゃなくてあくまで建物を選んで攻撃してるんやから、もしかしたらこの子も内心で戦ってるんかもしれへんね」
 そう、止めようとして戦っているイレギュラーズは別として。住民たちは誰一人、たぬたんによる人的被害を受けてはいないのだ。
「痛いの、嫌やんな。かわいそうにねえ。でも恩を仇で返すようなタヌキに対して、ウサギは火をつけてやるんがお仕事なんよ、堪忍ね」
 もう一度術式を解放する。早く小さくなっておくれ。

「うなぁーん」
「たーーーーーぬーーーーー」
「なーぉ、にゃん」
「たーーーーーぬーーーーー」
「にゃーぉ、みゃっみゃう!」
「たーーーーーぬーーーーー」
 ……待って、ちゃうねん。別に手抜きのつもりはないねん。
 3mのにゃんこと5mのたぬたんがぶつかり合ってるねん。
「にゃぅ、んみゃー!」
「たーーーーーぬーーーーー」
 陰陽丸はたぬたんの攻撃に巻き込まれないよう、押しては引き、刺しては舞うようなヒットアンドアウェイの戦術をとっていた。
 そのため、でっかいにゃんこが広間を狭しと駆け回り、でっかいたぬきにねこぱんちしているように見えるのだ。
 怪獣大決戦。
 なんだろう。なんか幸せな戦いだ。
「たーーーーーぬーーーーー」
 つぶらな瞳が陰陽丸の良心を抉る。しかしこのままではたぬたんが不幸になる。今が心をボスねこにしてパンチするときなのだ。
 その先に、皆がまた笑いあえる世界がある。
「みゃーぉ、にゃぅ!」

 ボディの一撃が、たぬたんの脇腹を直撃した。
 血が吹き出たり、骨が折れたりするようなことはない。そういう描写は今回はないのだ。
 痛みに苦しむたぬたん。しかしボディはだからこそ拳を止めてはならぬと判断する。確かにあの瞳を前にすると攻撃を躊躇するというロジカルとは言えない効果が存在している。
 実際に、何度も拳を止めざるを得なかった。これが同情というものなのだろうか。
 しかし、やはり、なればこそ、たぬたんを一刻も早く元に戻してやることが最も救いになるのだとボディは冷静に判断していた。
「半端に傷をつけてから躊躇って、そしてたぬたんが痛みに苦しむ状態が続く方が可哀そうだと判断します。私にあまり可哀そうという感情は分かりませんが」
 だから戦場を駆ける。戦いを決するべく。守るための一矢となるべく。
「なので命を奪わない範囲で全力で拳を振るいましょう。たぬたんを案じるなら躊躇は不要。半端な憐憫は百害あって一利無しです」

●たぬたん、もどる
 お昼前になるとやってくる。こちらの絆創膏姿に驚いたようで、周りをくるくる回っていた。なんでもねえよと撫でてやったら、ぐきゅるるるるるるるるるる。腹の底から笑って、また形の悪い芋ををくれてやったんだ。

 どがーん。
 ついにたぬたんは倒れた。
 肉腫としてのパワーが底をついたのだろう。みるみる内にしぼんでいって、元の仔狸に戻っていた。
 動かないたぬたん。まさか生命力まで底をついてやしないかと、皆がハラハラし始めた時。
「たぬーっ!」
 たぬたんは勢いよく起き上がり、皆の周りをくるくると走り始めた。
 元気いっぱいだ。これならもう心配ないだろう。
 ほっとして胸をなでおろすその周囲。たぬたんはお礼を言いたいのか何度も何度も回り続けた。
「たぬっ、たあぬっ、たぬーっ!!」
 了。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

たぬたん、イレギュラーズはすごいと覚える。

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