シナリオ詳細
<傾月の京>阿毘達磨倶舎論
オープニング
●ここが地獄の一丁目
曇華(たんか)という男はどーしようもない男だ。酒を飲ませれば馬鹿笑いし女とみればナンパをはじめ酒場で踊って小銭を稼ぎ酒と賭博とスッカラカンにして朝を迎えるループを毎日繰り返すようなロクデナシである。
今日も酒場で踊り狂って太鼓を叩くというので、二(p3p008693)はそろそろこいつにまともな仕事でも紹介しなければという謎の使命感をもって酒場を訪れ……て、面食らった。
「ニイ、いますぐ支度しろ。この国がぶっ壊れるかもしれねえ」
ビシッとした和服に身を包み、傘をかぶってひもをゆわえる。元々容姿端麗なこともあってか、その風貌と振る舞いに二はおもわず小脇に抱えた求人票の束を取り落としそうになった。
いつも同じテーブルで飲んだくれて『ようニイ! 今日もいいネタあるぜ! あと金貸してくんねえかい!?』とか陽気に笑うものだと思っていたのに。
「たんか。なに、あった?」
おそるおそる尋ねる二に。
曇華は念写術によって撮影された写真を懐からとりだした。
「こいつに見覚えはあるか」
そうして見せられた姿に。
二は今度こそ求人票の束を取り落とした。
ばさばさと音をたてて散る紙束。
記憶の奥底にかすむ不思議な霧。
写真に写った、恐ろしく凶悪な怪物に、二の心はひどくひどくざわついた。
その理由はまるで、わからないけれど。
●【等活地獄】一
「こいつは『イチ(一)』と呼ばれてる怪物だ。少し前にバグ召喚でこっちの国に現れてっきり、手当たり次第誰でもぶち殺してきた。
話もまるで通じない上にあまりに強いもんだから、八扇……あー、帝が眠る前の行政機関な? あそこの連中が封じ込め処置をとったんだわ」
要約するに、この怪物は都に封印されていたということらしい。
リヴァイアサンの例も然り、封印は問題の先送りにすぎない。
閉じた地獄の蓋は、いつか開くものなのだ。
「イチの封印が破られた。高天御所からとんでもない邪気が流れてきた影響だと思うが……今ヤシロの周りは滅茶苦茶だ。
兵部省の機動部隊肆伍玖『三途川』が再封印処理に失敗してほぼ壊滅状態らしい。
奴の殺意が近隣の住民にむくのも時間の問題だろう」
曇華は手早く地図をかき上げると、それを二へと押しつけた。
「今すぐ仲間をかき集めてその場所へ行け。帝派だの天香派だの言ってる場合じゃねえぞ。老若男女官民貧富区別なく皆殺しにされる」
押しつけられた資料をあらためて抱え、二はこくりと頷いた。
「わかった。いま、いく」
時は秋口。豊穣郷カムイグラ。
呪詛の蔓延によって混乱した都はひときわ強大な呪詛の起動を前にさらなる混乱にあった。
けがれの巫女つづりが感知したという大呪詛がいかなるものであるのかは分からないが、魔種である巫女姫のたくらみが国を滅ぼしかねないことは明らかである。
そうした理由から、清明たちからの依頼をうけ宮中への突入をはかったローレット・イレギュラーズ。
だが時を同じくして、また別口からの依頼が舞い込んでいた。
それは兵部省封印局のヤシロにて封印されていた魔種『イチ』の再活性。それによる被害の軽減と――『時間稼ぎ』である。
●殺意の顕現
「殺す殺す殺す男は殺す女は殺す餓鬼は殺す爺も婆も畜生も樹木も全て全て全て殺す皆腐れ落ちて死んじまえ!!!!!!!」
家屋がまるで爆破でもされたかのように吹き飛んでいく。
砕けた木材や瓦、その他様々な用途不明の道具類に混じって、バラバラにちぎれた人間の部位が飛んでいた。
「クソッ、再封印はまだ終わらんのか!」
「見ての通り命がけでやってますよ!」
様々な方法によって封印の術をおこなう僧たち。
話にでた兵部省の機動部隊『三途川』の隊員たちである。
錫杖を構え、炎の術を唱える。蛇のように炎が巻き付いた錫杖を振り回し、僧が巨大な怪物へと殴りかかった。
ギィン、と分厚い物理障壁によって阻まれる。距離にして50センチほどをはさみ、『イチ』は口角を引きつるように上げた。
「オマエも死ね」
空中へ大量に現れた骨のような剣が、僧の身体へ次々に突き刺さっていく。
直後、長い尻尾のような部位が僧を殴り飛ばした。
まるで落とした砂糖人形のように砕け、バラバラになって飛んでいく。
「まずい……!」
僧のひとりが叫ぶや否や、イチはその上を大きく飛び越え、城下町へと飛び出していった。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね! 全員死んじまえ!!」
- <傾月の京>阿毘達磨倶舎論完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2020年10月06日 22時25分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
都はスイッチをいれたばかりのベジタブルミキサーみたいに、何もかもが荒れ狂い、誰も彼もが逃げ惑っていた。
轟音が近づいては家屋が吹き飛び、数え切れないほどの死体が積み上がっていく。
封印を解かれた魔種『イチ』の暴走により生じた、これはいわば二次被害である。
「老若男女、種も問わず、全てに殺意を、か。
反転した今が、それならば……今、考えることではない、な」
『神話殺しの御伽噺』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)はポーションの瓶を一気飲みすると、広がる崩壊した風景に目を細めた。
空瓶を放り投げ、破壊具合をいまいちど確かめる。
一度上空にあがった『幻耀双撃』ティスル ティル(p3p006151)からの報告によれば、『イチ』は都をいたずらに蛇行しながら人の声の多い方へと移動しているとのことだった。
移動の基準は分かっていないが、言動から察するに殺戮が目的であり、それゆえ人間の多い方向を目指していると推測されていた。
「ここで止めなきゃ大勢の人が死ぬ。一人でも……ううん、この都のみんなを守るために、止めなくちゃ!」
炎をあげはじめた民家の屋根に降り立ち、仲間に合図を出すティスル。
屋根から屋根へと飛びうつる形で移動していた『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)と『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)が、都の南側へと移動しつつある『イチ』を肉眼でとられた。
「倒せない化物ですか。何とも悍しいですね。無闇矢鱈に人を殺すなんて、看過できません。ここで何とか食い止めなければ。
それにしても問題山積で御座いますね。避難誘導に、三途川隊の無事に、怒りも呪縛も付与できない、無差別に人を襲う、助けを求める人の位置が分かる……。何という悪魔に持たせてはいけない能力のオンパレードで御座いましょうか。
それでも何とかしなければ、人がたくさん死んでしまいます。そんなのは僕には許せません。
何とか工夫をして、蛮行を止めてみせましょう」
「ああ、言うとおりだ。それに今回は民間人達を救出を最優先にするべきだろうな。
全ての民間人を助ける。それが出来なくて、何がローレットのイレギュラーズだ」
そこへ、ウィングシューズを使って飛んできた『数多異世界の冒険者』カイン・レジスト(p3p008357)が着地。割れかけた瓦屋根を踏んでバランスをとった。
「最善を尽くして被害を抑えないと……つまり、僕らが矢面に立って頑張るしかないって事だねっ。
『時間稼ぎ』――十分立派な仕事だ。さて、力を合わせて、果たさせて貰おうか!」
彼らは頷きあい、それぞれの役目を果たすべく走り、そして跳躍した。
『スノウ・ホワイト』アイシャ(p3p008698)はぶるりと肩をふるわせ、その肩を自らで抱いた。
「炎と、悲鳴と、血溜まり……地獄の様な、凄惨な世界……」
ルールに同じく、死なない人間などいない。
かの冠位魔種とて死ぬ世界だ。
自分など、きっと容易く……。
「アイシャ」
彼女の手に、『砲使い』三國・誠司(p3p008563)が手を重ねた。
肩を抱く自分の手ごしに熱が伝わり、アイシャの肩の震えは止まった。
「大丈夫、皆で帰れるさ」
「……はい」
誠司は『よし』といって笑って、彼女の肩と背中を撫でてやった。
(自分もそこまで強いわけじゃない。
けど強がらないとやってはいけない。
……ったく、寄り道ってやつはこれだから!)
ふと。アイシャが飛んできたカラスにファミリアーの術を施し、かざした手に止まらせる。
カラスと同期した視覚をテレパスの中継アンテナ代わりにすると、空高くへと飛び上がらせた。
通信アンテナなど真っ先に破壊されそうなものだが、イチは飛び上がるカラスにみじんの興味も示さなかった。イチが人間の殺戮に執着する性格でよかったという数少ない場面である。
『皆さん。聞こえますか。これから救助作戦を開始します。まずは所定の位置へ――』
通信が一通り整ったところで、二(p3p008693)は自分の額にぺたんと手を当てた。
巨大な義肢がまるで恐怖するように丸まり、ぷるぷると震えている。
(いち。いち。いち。
不明。しらない。わから、ない。……あたま、いたい。
あの、すがた。みる。すごく、ざわざわ、する。
あたま。むね。こころ? ざわざわ、して。ぎゅっ、て)
きっとこれが『恐怖』という感情なのだろう。
はるか古代に、想像もつかぬ方法で作られた機械の身体に宿る、心のかけら。
拾い上げて手の中で転がしてみれば、それがただの恐怖でないことに気づくだろう。
まるで張り付いた泥のように附随したそれは、『さみしさ』に思えた。
(否定。ちがう。ちがう。しらない。にい、しらない。しらない!)
拾い上げた小石が突然奇声を発したかのように、慌てて投げ捨てる。
みな、心の中のイメージだ。
実際は、ニイは、燃えさかる家々のそば。あがる悲鳴と家屋の倒壊する音のなか。
目を開き、第三腕を用いて無事な家屋へとよじ登る。
人々のあるほうへと移動し今まさに殺戮を再開しようとしているイチの姿が見えた。
こちらには目もくれていない。
「もしか、したら。いちが、なにか。しれば。わかる、かも。
……にいの、こと。なにか。なにか。
にいは、なにか……」
ふるふる、とニイは首を振った。
「……否定。いま、それする、とき。じゃない。
こまってる、ひと。たすけるべき、ひと。おおぜい。
ひとりでも、おおく。たすける、とき。
にい。ひと、たすける。そのための、もの。だから」
ぎゅっと義肢を握りしめる。
当たり前のようにつぶやいた言葉にズキズキと頭が痛んだ。
「にい。たすける、ための。もの……?
だれ、に。いわれた……?
いたい。いたい。あたま、いたい。
……いたい、よぅ」
うずくまって震えていたい。目を塞いで逃げてしまいたい。
ニイはそれでも。
震える足で走り出した。
きっとそれが、『使命』ってやつなんだとおもう。
●
殺戮ばかりが降り注ぐ。
封印を破ったイチの目的が殺戮であることから、その足止めは非常に困難であるとさた。
「例えば攻撃を与えて注意を引くというのはどうでしょう。誰でも顔を殴られれば注意をせざるを得ません」
「悪くないアイデアだな。だが、それが有効な相手にも見えん」
崩れた家々の間を走るジェイクと幻。
「仮に俺たちが強い目的や執着をもって移動した場合、横から多少攻撃をされたくらいで執着を変えないだろう。機動部隊『三途川』が全滅していないのがいい証拠だ。もし自分を害するものの排除を優先するなら、真っ先に連中が全滅して然るべきだからな」
「確かに……では、無視できないレベルで徹底的な攻撃を仕掛ける方向で考えてみましょう」
幻は『試練の香炉』を自らに浴びせ、ジェイクもまた『星の加護』を装着した。
これでイチの注意を比較的引きやすくなるだろう。
「死にたくない奴はこの街を出ろ! ここは戦場と化した!」
ジェイクはおびえる市民に大声で呼びかけると、大型拳銃を二丁突きつける形でイチへと猛烈な射撃を開始した。
幻と息のピッタリあった連射は、突き出したステッキから吹き出す変幻夢幻の蝶の群れと共にイチへと襲いかかっていく。
イチの側面から襲いかかった彼らの攻撃は見えない障壁によって防がれ、イチはちらりとだけ幻たちのほうを見た。
「――後ろへ!」
がしりとジェイクの腕を掴み、素早く大きく後退する幻とジェイク。
動かずに攻撃できる範囲から外れたからか、それとも幻たちを積極的に追いかけなくてはならない理由に乏しいからか、イチは興味をなくしたように前へ向き直りおびえて逃げ出そうとする子供へと目標を定めた。
空中に骨の剣を無数に生み出し、それを一斉に発射。
しかし割り込んだカインがそれを防御。
「あくまで弱い物いじめがしたいって? 性格悪いな!」
カインは『神気閃光』の魔術を行使すると、庇った少年と自分の周りに激しい光をまき散らした。
それを踏み越えて巨大な蠍めいた義尾を振り込んでくるイチ。
素早く動いた幻は少年たちを抱えてその場を高速で駆け抜けた。
尾が強烈に地面に突き刺さり、衝撃で軽いクレーターが形成される。
「完封できるほどラクじゃあない、か。ニイさん、いくよ!」
ティスルはあえて攻撃を行わず、注意を引くことに特化したアシカールパンツァーを鳴らしてぶつけながらイチ周辺を飛び回った。
「さあ、殺せるものなら殺してみなさい!」
「うう……」
一方で、額を押さえながら死角をとる二。
義肢が大きく振り回すことで呪術のこもった礫を作り出すと、それをイチめがけて豪快に投擲。それは障壁によって阻まれたが、イチはぎろりと二をにらみつけた。
「殺す。殺す殺す殺す殺す殺す――!」
他全員へむける殺意と同じ、しかし奇妙に歪んだ殺意が二へと浴びせられた。
びくりと身体を震わせ、そして咄嗟に防御行動をとった。
大量の骨の剣が浴びせられ、辺り一面が破壊されていく。
大きな破壊を横目に、ストライカーユニットを背負った誠司は高所から都の様子を観察していた。
崩れた瓦礫に埋まって動けなくなった人々や、道を塞がれて避難が遅れている人々がいないかを確かめるためである。
そんななかで超聴力は非常に役立った。あちこちでおこる火災のせいで物の判別が難しいなかで、助けを呼ぶ声を聞き逃さないというのは大きい。
さらには物質透過、瞬間記憶といった多様なスキルの複合によって大抵の要救助者は見逃さないレスキューマシーンとなっていたのである。
「待ってろ、今助ける!」
急降下着地をかけ、瓦礫を力一杯持ち上げて民間人を救助する誠司。
一通りの救助を終えると、空を飛ぶカラスに向けて大きくハンドサインを出した。
『民間人三名救出、でいいですか? 馬車は……わかりました、今連絡を入れます』
カラスを端末にして操作していたアイシャは、無線交換手のようにテレパスの送信先を切り替えると、エクスマリアへメッセージを送信した。
『馬車が空いてたらポイントD8まで。民間人3名救出。いけますか?』
「任せろ」
エクスマリアはイエスを身振りで返すと、練達上位式で作り上げたジェネリックマリア人形に馬車を移動させるように命令した。
「三人を回収したら、指定したポイントまで馬車を走らせろ。私は……」
返事もなく走って行く式神に振り返ること鳴く、エクスマリアは腕まくりをした。
「壊滅しかけている『三途川』を復旧する」
●
無数の骨の槍が空中に顕現し、そのすべてが銃弾のような速度で飛んでいく。
逃げ惑う人々は次々と虐殺され、呼びかけや抱えての退避も間に合っているようには思えなかった。
だが、それでも……。
「決して諦めません! ジェイク様、そちらを!」
「ああ、俺達の絆を見せてやる」
息ピッタリに動いた幻とジェイクは左右からイチを挟み込む形で急接近。
マークサンド状態をとって双方から一斉攻撃を仕掛けた。
至近距離に押しつけた拳銃を連射するジェイク。
奇術『昼想夜夢』を恐ろしいほどの連続技で繰り出していく幻。
高反応連鎖行動の素晴らしい活用方である。
さすがにここまで密着されれば無視することもできない……のか、それともただ手近にあったからという単純な理由だったのか。イチは義尾を大きく振り回して幻たちをなぎ払った。
「幻……!」
吹き飛ばされ石壁に激突しつつも、ジェイクは折れた左腕をそのままにして幻へと直行。
追撃にと繰り出された骨の剣を、自らの身体でとめた。
膝を突くジェイク。それを抱え、撤退を始める幻。
「私ね、諦めないって決めてるの!」
だがそれでイチがフリーになったわけではない。
高高度からの急降下突撃をしかけたティスルが腕輪を剣に変形させ、強烈に殴りかかった。
余りに犠牲が出すぎた。あまりに人が死にすぎた。
これ以上の犠牲を、出すわけにはいかないのだ。
障壁がティスルの剣を弾き、反対に無数の骨の剣が発射される。
ティスルは華麗なバク転とスピン飛行によって剣の数本を回避――するが、翼を剣の一本が貫いていった。
「ンッ……!」
衝撃で回転し、民家の屋根をバウンド。そのまま地面へ墜落するティスル。
「死ね、死ね、死ね……死ね死ね死ね死ね死ね!!!!」
イチが義尾を高く振り上げ、ティスルごと大地を粉砕しよう――としたその時。後方から激しい砲撃がおそった。
ストライカーによって飛行し、武装を一斉発射した誠司である。
「逃げろ、ティスル! 南に馬車がとめてある!」
広がった爆発とその煙の中から、ほぼ無傷のイチが振り返る。
「今更だけどさ、こいつ物理障壁もってない? この強さで無効化スキルとかズルすぎでしょ」
誠司は苦笑し、そしてさらなる砲撃を浴びせながらリーディングスキルを行使。
「僕のキャノンはあんたからしたら小石かもしれない。けどその小石を目一杯ぶつけられて、心の中にまで砂利を詰められればどうだ? さすがに無視できないだろ!」
「――――――――――!!」
イチの反応はこれまで以上に苛烈なものだった。
他者への怒り。溢れすぎた殺意。そしてある特定の、形のはっきりしない『誰か』への羨望と嫉妬。それがイチの心から誠司へと流れ込んできた。
「覗くな、見るな! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死んじまええええええ!!」
大量の剣が誠司へとたたき込まれる。
高所から狙っていただけに誠司の全身に何本もの剣が突き刺さり、誠司は意識を失って自由落下した。
「誠司さん……!」
アイシャが落下地点へと駆け込みキャッチすることでギリギリのところで地面との激突を防いだ。
避難用の第二馬車へ向かう民間人へ励ましのテレパスを送信しつつ、自分も誠司を抱えて馬車へと走った。
「アイ、シャ……」
うっすらと目を開ける誠司。
彼の悲しい目は、イチの心の中にうずまく闇と苦しみを察するに充分だった。
「あなたは地獄に囚われ苦しんでいるの……?」
アイシャはちらりと振り返りながらも、避難馬車へと走り続けた。
とどめを刺そうと動き出したイチに対して、カインと二が攻撃を開始した。
「少しでも、削って、消耗させないとね……!」
カインはイチめがけて魔法を乱射しながら瓦礫の間を走り抜け、イチの円周軌道上をまわっていた。
「元はレガシーゼロだったのかもしれないけど、今や魔種。規格外のモンスターだ。
それも人間を殺してないと気が狂うってタイプのね。
だったら攻撃可能範囲を走り回って、できるだけ長く耐え続けるのがベターだ」
「うん。けど……」
二は瓦礫の間から顔を出し、義肢でさらなる投石をしかけた。
仲間達の殆どがイチによって倒された今、残る戦力で稼げる時間はわずかだ。
それでも、やらないわけにはいかない。
「たすける。みんな。にい、たすける、ための……」
ずきずきと痛む頭を抑えながら、しかし二はイチへの攻撃を続行した。
「……にい」
ぎろり、と振り返るイチ。
隠れた片目から赤黒い何かが伝って落ち、それまでだらんと下がっていた両手両足が震え始めた。
「にい、おまえ、だけ! お前だけ……!」
「なに。わから、ない」
ぶつけられた不明な憎悪に、二は首を振りながら後じさりする。
「死――!」
イチが襲いかかろうとしたまさにそのタイミング。
まとめて放たれた無数の砲撃がイチへとぶつかった。
「待たせたな」
エクスマリアによって統率が復活した機動部隊『三途川』。そして彼女と連携状態に入ったカインである。
「奴の障壁、ブレイクによって剥ぎ取ることが可能な筈だ。ダメージを与えるならそこしかないよね」
「マリアたちが攻撃している間に再封印を開始しろ。少しばかり命懸けになるが、勤めは、果たす。必ず、だ」
エクスマリアは三途川の攻撃担当者たちと共だって突撃。
味方の回復を連打しながら注意を引きつけた。
三途川の部隊員はひとりまたひとりと命を落としたが、イチとて芝刈り機で雑草をかるがごとく人を殺せるわけではない。目の前の人間を突き刺し潰し引きちぎるのに夢中になっている間――。
「完成した、離れろマリアさん!」
「「急急如律令!!」」
素早く展開した三途川の面々がイチを中心に地面へ五芒星の結界を発動。
それから逃れようと暴れるイチへ、エクスマリアは巨大なこぶしを頭髪で形成して殴りつけた。
「――――――――――――!!」
結界に阻まれ声は聞こえないが、イチが二に向けて何か叫んだように……見えた。
●
泥の沼に沈むかのように、一(イチ)は再封印された。
「被害はあまりに多いが……それでも、生き残った人々はいる。死傷者の数も四割ほどに抑えられた……と言うべきだろう」
三途川のひとり『妙高』という僧がイレギュラーズに頭を下げた。
「再封印が成功したのも君たちのおかげだ。感謝する」
それぞれの反応を返すイレギュラーズたち。
だがそんな中で、誠司が声を上げた。
「なあ、ティスルの姿が見えないんだ。他の馬車で逃げたのか? そうでないなら……」
成否
失敗
MVP
状態異常
あとがき
狂乱の魔種『一』の再封印に成功しました。
封印された土地には社が建てられ、今後も機動部隊『三途川』によって封印が継続される予定です。
――民間人に四割の死傷者がでたため、成功条件を満たせませんでした……。
――残った民間人の避難を完了させました!
――魔種『イチ(一)』にダメージを与えることができました!
――ティスル ティル(p3p006151)の行方がわかりません。撤退中何者かによって捕虜にとられたようです……。
=====
捕虜:ティスル ティル(p3p006151)
GMコメント
■オーダー
・正常条件:民間人の死傷者を3割以下に抑えること
・オプションA:民間人の避難を完了させること(難易度上昇)
・オプションB:魔種『イチ(一)』に多少なりともダメージを与えること(難易度上昇)
・オプションC:魔種『イチ(一)』を倒すこと(ほぼ不可能)
・オプションD:民間人から一切の死傷者を出さない(困難)
■シチュエーション
大呪詛の影響か、はたまた帝派閥への妨害工作か、魔種『イチ』の再活性によって城下町が危機にさらされています。
イチは巨大な殺意に満たされており、対象を無差別に殺戮することにのみ執着しています。
民間人の避難を助けながら、イチの足止めを行い、再封印処理が完了するまでの間時間を稼ぎ続けることが皆さんに与えられた依頼内容です。
再封印までの時間は『不明』です。
・再封印までの時間
これが実質的な依頼成功までのタイムリミットです。
機動部隊『三途川』の隊員が生き残っていればいるほど時間が短くなりますが、逆に全員殺されると再封印不可能として依頼は失敗扱いになります。
■エネミーデータ
・魔種『イチ(一)』
ニイ(二)と似たパーツを備えたレガシーゼロ系の魔種です。
肉体は巨大化しており、非常に高い戦闘能力をもちます。
今回のメンバー全員で力を合わせて全力で戦っても敗亡しそうなほどです。
戦闘スペックは未知数。最初は僧たちが【怒り】や【呪縛】の付与によって行動を封殺する作戦をとりましたが悉く失敗し、もれなく死亡したという事実だけはわかっています。
一応、イチの殺人衝動に優先順位がないため身体をはって耐えまくることで時間稼ぎが可能だと言われています。
ただし戦闘力の高さから『耐え続ける』ことはほぼ不可能とみたほうがいいでしょう。
■フィールドデータ
盛大に家屋が破壊されまくり火災も発生していることから、民間人がかなり逃げ遅れています。
イチはどうやら助けを求める人々の位置がわかるようで、かるく周辺の地面や建物ごと破壊し尽くしてしまうでしょう。
あたりは瓦礫だらけですが、まだ壊されていない建物もそれなりに残っています。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●Danger! 捕虜判定について
このシナリオでは、結果によって敵味方が捕虜になることがあります。
PCが捕虜になる場合は『巫女姫一派に拉致』される形で【不明】状態となり、味方NPCが捕虜になる場合は同様の状態となります。
敵側を捕虜にとった場合は『中務省預かり』として処理されます。
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