PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ディープステージが呼んでいる

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●アイゼン・アンダーグラウンド
 金網で覆われたリングにスポットライトが降り注ぐ。
 すり鉢状の観客席にはとてもオモテを堂々と歩けなさそうな連中ばかり。
 彼らは掛け金の書かれたチケットを握りしめ、一様にリングを見つめていた。
 翼を広げ、リングの中央へと降り立つ男。特殊なヘッドセットとスピーカーボムスキルによって会場中へと呼びかけた。
「レディースエンジェントルメーン! 今日も興奮冷めやらぬクソ野郎ども。
 ステゴロ最強のばかげた称号を欲するアングラファイターたちがそんなに見たいか!」
 イエス! 観客達が巨大なひとつの生物になったかのように、一様に叫ぶ。
「そんなにレートのぶっ壊れた試合であぶく銭を掴みてえか!?」
 イエス! イエス! エキサイティング!
 この場に誰も止めるものなどいない。
 男は翼をはばたかせ、ゆっくりとリングの上へと上がっていく。
 金網には特殊なエネルギーが流れ、リングは円柱状の結界に覆われていった。
 外からの観察能力を高め、内側での殺傷行為を阻害するというこの場ならでわの結界である。
「オーケー、今日も楽しもうぜ! 紹介しよう、特別ゲストはーーーーーー!?」
 ステージ下からせり上がる形で現れる八人の男女。
 その姿に、チケットを握った男の一人が狂ったように歓声をあげた。
「ローレット・イレギュラーーーーーーーーーーーーーーズ!!」

 地下闘技場。
 ゼシュテル鉄帝国首都スチールグラードには黒歴史がある。
 それは文字通り地下に埋め込まれていた古代超兵器ギアバジリカの出現によってそれこそ文字通り掘り返されたいくつもの組織と施設、そして国が見て見ぬ振りをしてきたスラム街の存在である。
 モリブデンと呼ばれたその土地は再開発によって新闘技場を中心とした都市が形成され、経済的にも改善されたといっていい。
 しかし地下に潜っていた人々の想いが……もとい『欲望』が消えることはない。
 たとえ街もろとも掘り返してひっくり返そうが、ピカピカの新闘技場やハンバーガーチェーンやカフェテリアが建ち並ぼうが、彼らは……『彼らを突き動かすもの』は不変であり不滅なのだ。
「だから、こうして地下闘技場は生まれる」
 非常に長い刀身をもつ刀が、ざくりと床に突き刺さる。
 仰向けに寝かされた男の耳を、わずかにそれは切った。
 悲鳴もあがらず身じろぎもされないのは、口や手足を縄で拘束されているがゆえだ。
「より淀んだ、より熱い、より危険な金が巡り……そのすべてはここへ流れ込む。そうだろう?」
 刀の柄頭を優しくなで、鉄騎種らしき女は目を細めた。
 彼女の立つ特等席からは、金網で覆われた闘技場がよくみえる。
 そして闘技場の中へ現れたイレギュラーズたちも、また。
「だから、お前もそれを追って流れ着くんだ……『私の可愛い愛娘(ムーンパイ)』」

●そしてよどみは流れ着き
 日車・迅 (p3p007500)のまっすぐな正拳突きが狼獣種の顔面へとめり込み、流れるように繰り出された後ろ回し蹴りが首をはねるかのごとき勢いで側頭部を打ち抜いていく。
 そのすぐ後ろでは、背を合わせるかたちで構えていたエクスマリア=カリブルヌス (p3p000787)が複雑怪奇に展開した頭髪のすべてを拳の形に整え、腕が六本ある虫型ウォーカーのラッシュパンチを連続相殺。その間を突き抜けるかのように、本命の小さく細い掌底が胸を撃った。
 金網に激突し、激しくけいれんするファイターたち。

 ――イレギュラーズたちは、モリブデン復興担当である鉄帝役人よりある依頼を受けることになった。

 互いの両手を深く組み握り、頬を合わせてペロリと自らの唇を舐めるゼファー (p3p007625)とウィズィ ニャ ラァム (p3p007371)。
 メタリカ女学園の制服をパンクに改造した女学生二人組が空間ごと断裂させるような手刀を繰り出すも二人はぴったりと息を合わせて相手の手首と顎をつかみ取り、抱くようにくるりと回るとそれぞれの後頭部を叩きつけ、更にクロスラリアットでサンドした。

 ――いちどは壊滅した地下闘技場の勢力が再編され、また新たに非合法な賭け闘技場を運営しているという。

 鋼鉄のスーツを纏った男女が空を高速で飛び回る。
 イルミナ・ガードルーン (p3p001475)は開いた目を複雑に動かし敵機を視認すると、体内からコアの光を激しく漏れ出させ光の線は手足へと渡りクリアパーツが青白く光り始める。グンと屈むような姿勢を取った次の瞬間、イルミナは蒼い稲妻となってフィールド内をジグザグに駆け巡った。
 ほぼ同時に地面を蹴って走り出すフラーゴラ・トラモント (p3p008825)。
 フィンガースナップでバチンと小さな火花を起こすと、真っ赤な炎となって加速。更に真っ白な光となって超加速。円柱型リングの中を螺旋模様となって駆け上がっていく。

 ――組織の元締めとなっている人間にはあらゆる方法での接触が失敗。目的の推察が容易すぎる帝国軍人ではとても手が出せない対象になってしまった。

 メイド(騎士)の構えをとるエッダ・フロールリジ (p3p006270)に鋼の拳をもつボクサーが猛烈な速度で殴りかかる。
 鉄壁のガードが強引に開かれようとしたまさにその時、守りに入っていたエッダが憤怒のエネルギーを最大放射。相手の両手をガシリとつかみ、腕もろとも爆発させる。
 爆発の上を跳躍でもって越える夜式・十七号 (p3p008363)。
 革製の籠手から尾がなびき、宙返りをかけた十七号の蹴りがファイターのかざしたクロスアームを打ち付ける。

 ――イレギュラーズに託された依頼内容はこうだ。地下闘技場にゲストファイターとしてエントリーし、勝ち上がること。そして地下闘技場の『元締め』を特定するのだ。

GMコメント

 ご用命ありがとう御座います。黒筆墨汁です。
 OPのバトルシーンは店からのサービスです。ご注文をどうぞ。

■これまでのあらすじ
 鉄帝地下闘技場にて非合法な賭け試合を続けている組織を摘発すべく送り込まれたローレットイレギュラーズ。
 『元締め』にあたる人物を特定するにはファイターとして勝ち上がり、より深層にあるという『ディープステージ』での試合に挑戦しなければなりません。
 この試合のために、最深部への一時的立ち入りが可能になるためです。

 皆さんは何試合かを順調に勝ち上がり、残すはあと二試合となっています。
 試合内容はまさかのローレット対決。
 しかし狙いが調査であることを知られないようにするには、これが『本気のバトル』であると観客はもとより審判や『元締め』にも信じさせなくてはなりません。
 見事全員を騙しきり、最深部へと潜入。『元締め』を特定しましょう。

■パート構成
 このシナリオは『闘技場パート』と『潜入パート』の二つに分かれています。

●闘技場パート
 このパートではタッグマッチが行われます。
 対戦カードは以下の通り

『エクスマリア&迅』VS『十七号&エッダ』
『ゼファー&ウィズィ』VS『イルミナ&フラーゴラ』

 内容的にはどちらが勝っても構いません。
 重要視されるのは疑われる余地をなくすことです。
 より具体的に述べると『劇的な試合展開を演出すること』で観客たちを興奮させ疑われる余地をなくし、『本気で互いを破壊しあうこと』で主催者たちから疑われるリスクを軽減します。
 闘技場のフィールドは特殊な結界で包まれており、どれだけ殺しにかかっても必ず【不殺】攻撃扱いになる力が働いています。
 また、すさまじい速さで殴り合ったり常人には見極められないくらい鋭い攻撃が行われたとしても観客はそれを細かく認識できる力も働いています。
 メタに言うと「ハッタリはきかないのでガチでやれ。命の心配はするな」という意味です。

 また、一応このし合いは『ステゴロ勝負』を売りにしているので全員パンチとキックでの格闘戦になります。
 OPにあるようにエッダさんや十七号さんの籠手などのアクセサリー類はそのまま装着していて構いませんし、武器も装備したままで結構です。描写上の扱いとして、素手で戦っている描写になります。
 あと、余裕があったらチーム名とか決めておくとアガります。

■潜入パート
 実はここが本番です。プレイングを一番さく必要があるのは前半。成功条件に直接絡むのは後半という棲み分けになっているので文字数配分には注意しましょう。

 地下闘技場の最深部は秘密裏に建造された地下施設です。
 とても広大で軽く街一つ分の機能が集まっていると言われていますが、闘技場で勝ち上がった人間しか立ち入ることができないので詳細は分かっていません。
 皆さんの最終目的は『元締め』にあたる人物を特定することです。
 なんだかもうOPでネタバレされきっていますが、適当にうろつくだけでも特定は可能だったりするので深く考えずに潜入プレイをお楽しみください。

  • ディープステージが呼んでいる完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年09月26日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
イルミナ・ガードルーン(p3p001475)
まずは、お話から。
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
日車・迅(p3p007500)
疾風迅狼
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
夜式・十七号(p3p008363)
蒼き燕
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと

リプレイ

●鋼の治外法権
「鉄帝の裏事情はある程度把握していたと思っていたが、いつの間にかこのような場所が出来ていたとは……」
 モリブデン地下闘技場第二階層。
 ちょっとダーティーな試合を提供する表向きの第一階層で勝ち進むことで招待されるという、ここはルール無用の殺人バトル会場だ。
 表の刺激では満足できなくなったバトルマニアたちが戦うため、もしくはそれを眺めるために闇のルートをたどって集まってくる。
 『倶利伽羅剣』夜式・十七号(p3p008363)は控え室のパイプ椅子に腰掛けて、両腕に装備した手甲と籠手を確かめるように撫でた。
「鉄帝の上層部が問題視するのも頷ける」
「メイド(騎士)じゃなくて騎士(メイド)でありますからなテメー聞いてるでありますかアナウンサーこらー!」
 横では『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)が両腕を振り上げてぴょんぴょん跳んでいた。試合の様子をつたえる伝声管にむけて叫んでいるのだが、如何せん向こうからの返事はない。
 スルーされてるのか音が一方通行なのかはわからないが……。
 しばらくぴょんぴょんしたことでストレスが発散できたのか、エッダはだらんと両腕をたらした。
「どんなものにも闇と地下はあるものであります。地下闘技場、地下アイドル、地下労働施設」
「同列に並べてよいものだろうか、それは?」
「法は所詮国のためにありますから。アウトローはアウトローなりにルールを作って集まるのであります。それは決まって地下の闇」
「それが、ここ……か」
 伝声管ごしに伝わる熱狂。
 なぜだか覚えのある感覚に、十七号は深く目を閉じた。

 一方こちらは別の控え室。
「小難しい戦術は、不要。重要なのは、適切な間合い、的確なタイミング。
 そして、相手もそれらを備えていた場合に、それごと叩き潰せるだけの破壊力、だ。
 今回はタッグマッチ故、チームワーク、呼吸を合わせることも、怠ってはなるまい、が」
 『神話殺しの御伽噺』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は並んだパイプ椅子におとなしく座り、声がかかるのをただ待っていた。
 常在戦場、かはわからないが。エクスマリアに戦闘準備というものはない。
 それはある意味『狼拳連覇』日車・迅(p3p007500)も同じなようで、横でずっとスクワット運動をしていた。
「何と心躍る戦い……!
 これまでの相手も素晴らしい猛者達でしたが、それでもやはりこれから戦う方々程ではありません。
 お相手してくださる方も、相方を務めてくださる方も同じイレギュラーズ!
 どこを見ても不足どころか大満足です! この身に流れる血もますます沸き立つというもの!!」
 こっくりと頷くエクスマリア。
「マリアのダンスパートナーを務める以上、勝利あるのみ、だ」

 これが潜入任務であるということを差し置いても、日頃しのぎを削り合ってきたローレット・イレギュラーズ同士で行う本気のバトルには胸が躍るらしい。
「対・イレギュラーズ……闘技大会等で戦うことはありますが、あくまで大会。今回は本気で殴り合う事になりますね。
 ……ふふ。正直な話、胸がドキドキして……心躍りますね!
 さぁ、ガンガンバトルして、地下闘技場へ潜り込みますよー!」
 おー! と叫んで拳を振り上げる『機心模索』イルミナ・ガードルーン(p3p001475)。
 『恋の炎に身を焦がし』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)も同じように『おー』と言って拳を突き上げてみた。
「会場、すごい歓声だった……耳がキンキンする……。
 ここで本気の戦いをしないといけないんだね……。
 ワタシ……こういうとこ初めてで、ちょっと、怖いな……」
「大丈夫大丈夫。いざとなったらパンドラでワンチャンいけますから」
 地下闘技場でイレギュラーズが重宝される理由のひとつが、このパンドラを用いで死や戦闘不能を回避するという特性である。運命力とでもいおうか。
 どれだけ本気で殺し合っても、ある一線を越えなければ命が保証されるという安心があるのだ。
「けど……」
 それでも怖いな。と、フラーゴラは小さく息をついた。
「まあ、相手があの二人ッスからねえ……」

 あの二人。
 控え室で完全シンメトリーポーズをとっている『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)と『never miss you』ゼファー(p3p007625)である。
「ねえ、これ必要?」
「『チームつよレズ』のファンが待ってると思わない?」
「思わない」
 ふうと息をついてポーズをとくと同時に、伝声管から出番を知らせるコールが届いた。
「さあ、Step on it!! 準備はいいかゼファー!」
「いつでもオーケーに決まってるじゃない。
 目にもの見せてやりましょ?」
 拳をゴッとぶつけあい、たがいを指さし合う二人。
「「チームつよレズ」」
 勢いよくハイタッチをかわすと、控え室を飛び出した。
「本気で行くわよ!」

 ――『私たちがつよレズよ、永遠のね!』『1+1は2じゃないぞ、私らは1+1で200だ。10倍だぞ10倍』と叫ぶ二人の写真をアイキャッチとしてお楽しみください



●つよレズVS機心と狼
 金網に覆われたステージに、四人のファイターが登場した。
 屈強なボディを惜しげも無く披露したウィズィニャラァムとゼファーの二人チーム『つよレズ』。
 同時に上着を脱ぎ捨てた二人の威勢に、会場がワッと湧き上がった。
 対するはバリバリにサイバーな格好をしたイルミナと、白い狼のような耳とふさふさの長髪を流したフラーゴラ。チーム『機心と狼』。
 フラーゴラの軍服や全身コレ兵器といった具合のイルミナ。
 飾ることのないナチュラルかつラフなフォームで並ぶウィズィニャラァムとゼファー。
 しかしフラーゴラたちのほうが圧倒的に小柄であるために、どちらが強いのか見た目にはわからない、賭けをする観客たちにとっては興奮する組み合わせであった。
「ゼファーと組まされた理由が分かってきたかも」
 そう小声でいいながら、観客へと呼びかけた。
「私達が勝ったらァー! もっと脱ぎますよ! ……こいつが!」
 無茶ぶりをされたにも関わらず、ゼファーは堂々と顎を上げてみせる。
「上等。勝ったらトップレスだろうがなんだろうが見せてやるわ!」
 ヤベえ奴と同じ時代に生まれちまったぜとつぶやく観客をよそに、フラーゴラとイルミナはそれぞれ戦闘の構えを取った。
「猛者二人が相手ですが。怯むイルミナではありません!
 やってやれない事はない、勝ちますよフラーゴラさん!!」
「うん――」
 鳴り響くゴング。
 耐久性の問題からかウィズィニャラァムとゼファーが全く同時にフラーゴラへと狙いをつけた。
 二人の目が光り一瞬のうちに距離をつめにかかる――かにみえた、が。
「イルミナさんごめん!」
 フラーゴラはあろうことか回れ右。ゼファーたちから一目散に逃げ始めた。
 限りあるフィールドとはいえそれなりの広さ。本気で逃げられると簡単にとらえられないものである。
 彼女が猛スピードで突っ込んでくると想定していたゼファーたちはある意味出鼻をくじかれた。
「まさかそんな奇策を、この子達――」
「えええええええ!? フラーゴラさんええええええええ!?」
 そしてそれにイルミナが一番驚いてた。
「えぇ!?」
 こうなるとウィズィニャラァムたちも困惑するしかない。百戦錬磨の闘技場ファイターだが……いやだからこそ、こんな常識破りの手に対応するすべを考えていなかったのである。
 そうこうしている間に今度はイルミナがゼファーめがけて突撃。
「Ready,テネムラス・トライキェン!」
「っつう!」
 威力を極端に引き上げた超高速パンチラッシュ。ゼファーは彼女を引きつけて押さえ込もうと考えたが、イルミナはおもいのほか挑発にひっかからなかった。
「戦略じゃんけんに負けたかぁ?」
 ウィズィニャラァムは燃え上がるオーラを巨大テーブルナイフの形に整えると、フラーゴラへのターゲットをイルミナへとシフト。ゼファーと共に攻撃を集中――した途端。
「狼は嘘を吐くんだよ……」
 金網を蹴って跳躍したフラーゴラが、まさかのゼファーめがけて全力全開のソニックエッジをたたき込んできた。
 完全確定で先手をとれるがゆえのフェイントである。
 攻勢にでていたゼファーへ思い切り突き刺さるフラーゴラの蹴り。
 そこへ畳みかけるイルミナの超高速連打。
 これは決まったか――と思いきや。
「型破りも楽しいモンよね」
 パチンとウィンクし、飛び退くゼファー。
 追撃のために距離をつめようとしたイルミナたちが、無数の透明なガラス玉とクリアプラスチックによるマキビシによって激しく転倒した。
 上着を脱ぎ捨てるアピールに伴ってこっそりと仕掛けていたのだ。
 型破りはお互い様。攻撃優先順序や攻防の選択ではイルミナたちが勝ったが、フィニッシュをもっていったのは――。
「私もたいがい嘘つきだけど――今日は有言実行としとくわ」
 胸のボタンをぱちんと外し、ゼファーは跳躍。
 同時にウィズィニャラァムも跳躍し、二人同時のキックがフラーゴラたちへと浴びせられた。

 チームつよレズは勝利し、そしてゼファーはシャツを豪快に脱ぎ捨てた。

●ガラデレオンVSアイゼンファウスト
「私の戦いは鋼より堅く、金より靭やかで、水より自由、だ。その真髄、披露しよう」
 ステージへと現れたエクスマリアは、自らの長い髪を手足へぐるぐると巻き付け格闘のポーズをとってみせた。
 隣では帽子を脱ぎ、自らの頬をバチンと叩いて気合いを入れる迅。
「エッダ殿にかなぎ殿。どちらも質実剛健の勇士ですね!
 それに対する我らの答えは簡潔明瞭。すなわち、やられる前に殴り倒せばよろしい!解決ですね!!」
「そういうことだな」
 これまでも二人は圧倒的な破壊と根性で敵チームを粉砕してきた非常に攻撃的なチームだ。
 それに対するは十七号とエッダ。これまでの戦いでは堅実な防御と迫る壁のごとき圧力によって敵チームをすりつぶしてきた二人。
 この試合はローレット対決であると同時に矛と盾によるドリームマッチでもあるのだ。
「折角でありますので……がっつり行くでありますかね」
 鋼の拳をガツンと胸の前で打ち合わせてみせるエッダ。
 十七号もそれを真似るようにガツンと鋼の義手と革の籠手を胸の前で打ち合わせる。
「迅、エクスマリア。お前達を前に小細工は無用。エッダ共々、正々堂々正面突破だ!
 さあ、掛かって来い。そう簡単には倒れてやらんぞ!」
 鳴り響くゴングと同時に四つの弾丸が発射された。
 そうとしか表現できないほど愚直かつ一直線に、彼彼女たちは殴りかかり、たがいの顔面へと拳をたたき込み合っていた。
 クロス・クロスカウンター。
 エクスマリアは伸ばした頭髪を十七号の手首に搦めてチェーンデスマッチの格好をとろうとするも、十七号はこれを手刀によって切断。ギラリと光る鋼の手刀がエクスマリアの胸めがけて突き込まれる。
 また一方では迅による猛烈なパンチラッシュをエッダは屈強なガード姿勢によって防御。
 防御一辺倒かと思われたその時、エッダはズンと大きく一歩迅へと距離を詰めた。
 拳よりも近い間合い。元々徒手空拳で銃や刀と渡り合う訓練を続けていた迅はこのあまりに近すぎる距離に戸惑い反射的に飛び退こう――とした矢先にエッダはさらなる接近。
 自らの額を迅の鼻っ面に叩きつけた。
 鼻血は出るが、倒れはしない。
 迅は獣のように歯を食いしばると、先ほどよりも更に猛烈な勢いでラッシュをたたき込んだ。
 一方のエクスマリアも頭髪でつくったパンチグローブを獅子の顎にかえて十七号へと食らいつく。
 全員全く離れることのない超至近距離での壮絶などつきあいである。
 そして決着は――。
「早々に落ちてはもったいない。もっと目立ってもらわねば」
 タイマン×2の状態に没頭したかに見えた絶妙なタイミングでエッダが突如迅とエクスマリアの拳をキャッチものすごい握力でひねりあげると、彼女の肩を踏み台にして跳躍した十七号これまでのダメージをかえさんばかりにダブル手刀を繰り出した。
 からの二人の首をむんずと掴んで今度は十七号がエッダの盾となり、エッダは側面から回り込んでのブローをエクスマリアたちへとたたき込んでいった。
 ギリギリのところで削りきれず、チームガラデレオンは打ち崩されることとなった。
 チームアイゼンファウストの二人は勝利の拳を掲げたが、しかし相手同様にボロボロであった。

●勝利の余韻はあしたまで
 地下闘技場の賭け試合は勝てば勝つほど深層へと立ち入ることができる。
 十七号たちは決勝戦に挑むため、その補欠要員として動員した4人と共に第三階層への立ち入りが許可された。
「よく我々を入れるつもりになったものだな?」
「まあ、ローレットって別に『正義の味方』ってわけじゃないッスからね。悪事も普通に請け負いますし。こういう任務にはもってこいッスよ」
「なるほど、言われてみればたしかに……な」
 エクスマリアとイルミナはそれぞれ聞き込み調査や盗み聞きといった方法を用いて地下闘技場を運営する組織について調べていた。
「これだけの規模、だ。何かしらの援助、取引がなくては、運営維持は、難しい、はず」
「イルミナもそう思って、お金の出所を調べてたッス。ヴィーザル地方あたりから流れ込んでるっぽいッスけど……」
「なるほど、彼らにとっては利がある、か」
 ヴィーザルといえば鉄帝国の侵略にたいし連合国を名乗り抵抗しているノーザンキングス勢力がある地域である。鉄帝の社会的核ともいうべき闘技場ビジネスを浸食するのは彼らにとって都合がいいのだろう。
「まあ、お金をだいぶ着服してる人達もいるから調べるのだいぶ面倒ッスけど……もうちょい追ってみますか」

 組織は金で動くというが、それは『金は力』という原則によるものである。
 あくまで力が人を動かすのだ。
 故に。迅は本能的に嗅ぎ慣れた『血なまぐささ』をたどることで組織のボスを目指そうとした。
 彼の嗅覚や、獣的本能、そうした諸々の果てにトレーニングルームへとたどり着いたが……。
「そこにいるんは、誰や?」
「――!?」
 隠れていたはずの迅を、『彼』は容易に察知した。
 『彼』の周りには切り刻まれた死体が無数に転がり、血で部屋ごと赤く染まっている。『彼』も例外ではなく、被った覆面のせいで素性もわからなかったが……。
「その構え、鳳圏の兵隊やなあ? こないなところで珍しいこともあるもんや。どれ、どれ……」
 本能的に構えてしまった迅に対して刀を鳴らし、振り返る。
(バケモノだ……勝てるわけが……)
 迅はそれこそ本能から、彼我の絶望的戦力差を悟って一目散にその場から撤退した。

 迅ではないが、『力でたどる』のは短期間で成果を出すには悪くない手だった。
 実際――
「ここで一番強いのは誰でありますか?」
 エッダは手当たり次第に殴りつけ、答えない人間の後頭部を壁に叩きつけるという鉄帝式尋問法でより強い奴強い奴へと繋いでいった。
 それで分かったことがある。
「頽廃。享楽。というか、自治。ここは国の力の入り込めない、何者かの帝国でありますな」
「何者か……いや」
 振り返る十七号。
 何度目かの『尋問』を終えたところで、十七号たちを取り囲むファイターの群れに遭遇した。
 それぞれ完璧に武装した屈強な男女。その間を割るように――。
「きっとここへ流れ着くと思っていたよ、『    』」
 軍服めいた上着をきた、若々しい女だった。片目や片手に奇妙な違和感こそあるが……。
「この、顔」
 エッダはすぐに察した。隣に立ち構える十七号と同じ血の通った顔だということに。
「抵抗はしないことだ。あの日の続きができればそれでいい。残りの仲間は地上に帰してやろう。どうだ?」
 『だから良い子に、いうことを聞け』。そう手招きする女に十七号は――。
「やめろ。私は『    』じゃない……」
「?」
「私は――『夜式・十七号』だ!」
 十七号が叫ぶと同時に天井のパネルを突き破って飛び降りてくるウィズィニャラァムとゼファー。
「ピンチそうだから助けに来ましたけど……」
「あー……まさか、お知り合いか何か?」
 そこへ更に駆け込んでくるフラーゴラの犬。
 猛烈なスピードでファイターたちの間を抜けると、フラーゴラは十七号たちの手をつかんで走り出した。
「逃げ道は、見つけておいた。一緒に、逃げるよ……」
 こうして正規とは異なる抜け穴を使って地上へと逃れたイレギュラーズたち。
 地下闘技場という『帝国』を築いた人間の素性が明らかとなり、その情報は鉄帝軍部へと提出された。
 この情報がどのように用いられるかは……まだ、わからない。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――いつかのどこかへ、つづく。

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