PandoraPartyProject

シナリオ詳細

バブみを感じてオギャりに行きたい

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●バブみ
 バブみ――!
 主に年下女性に感じる母性の事である(たぶん)。
 ここは、幻想に存在する、そんなバブみを存分に味わうことができる、いわゆる夜のお店である!
 外見は年下女性だが、しかし実年齢はしっかり成人している類の種族やウォーカーたちがホスト・ホステスとなり、お客さんをしっかりオギャらせる(甘えさせる)お店であるのだ!
「おぎゃああ! おぎゃああ!」
「ママー! ママ―!」
 店内のあちこちから響き渡るオギャりの声! それは地獄のようであり、しかし桃源郷のようでもある。二律背反の綱渡り、当人が幸せならそれでよいわけであるが、世間的には、あんまり近寄りたくないお店なのかもしれない。
「おぎゃあ! ママ! ママ! 頭撫でて!」
 そのお店の一角に、彼はいた。その名をシュウくんと言う。いわゆる人外娘――ヒトならざる女性に異常に興奮する性質を持つ青年であるが、彼の今回の目標は、年下女性の外見をした姑獲鳥であった。
 姑獲鳥――「ウブメ」、あるいは「コカクチョウ」と読む。人の精気を吸い取る妖怪の類であるが、特筆すべきは、他人の子供を奪い、自身の子供とするという習性を持つことだ。
 もちろん、このお店に勤める旅人(ウォーカー)であるこの姑獲鳥、コハルちゃんはそんなことはしない。悪い事だと知っているからだ。とはいえ、コハルちゃんも姑獲鳥であり、姑獲鳥である以上溢れる母性を持っているわけだ。まだ若いのに。いや、ほんとに若いのかはわからないけれど、外見は年下女性である。
「おー、よちよち、シュウ君たらあまえんぼーでちゅねー」
「きゃっきゃっ」
 地獄のような、あるいは天国のような光景が繰り広げられる――温かな温泉につかっていたかのような表情をしていたシュウ君は、しかし突如として真顔に戻った。
「――物足りない」
「ものたりないの?」
 コハルちゃんが小首をかしげる。シュウ君はこくり、と頷くと、やたらダンディな顔でウイスキーを煽った。
「もっとさ……殺されるくらいのバブみを……味わいたいんだ。コハルちゃんは姑獲鳥だろう? もっと、憑り殺すくらいの気持ちで、ぼくをオギャらせて欲しいんだよ」
 何を言ってるかよくわからないと思うが、雑に翻訳すれば、精気を吸い取るくらいに正気を失わせてくれ、と言った所だろうか。いや、それが正しい翻訳なのかはわからない。分かってはいけない気もする。
「んー、でもね、シュウ君。そういの、メッ、だよ。ほんとにしんじゃったら、わたし、ないちゃうよ」
 コハルちゃんは優しい――いやまぁ、コハルちゃんはこう見えて大人なので、そう言うのはわきまえているし、そもそもそう言うお店で死人を出すわけにはいかないだけなのだが。
「やっぱり……野生の姑獲鳥にオギャらせてもらうしかないのかな」
「やせいのうぶめ」
「豊穣……カムイグラだっけ? いるらしいんだよね。ほら、ぼくもウォーカー……イレギュラーズのはしくれだからさ、ワープできるんだよね。カムイグラに。そうだよ、行けるじゃん! じゃあ行くしかないよね! そうだ、ローレットのイレギュラーズの人に護衛をつけてもらおう! またお金貯めたし! よし! そうと決まれば前祝だ! ママ―!!! バブ―!!!」
「うーん、やべーやつだ」
 コハルちゃんは真顔で、シュウ君の頭を撫でまわしたのであった。

●シュウ君、カムイグラへ行く
「また君か。年一くらいで来るのか君は」
 【ぷるぷるぼでぃ】レライム・ミライム・スライマル(p3n000069)は、心底嫌そうな表情で、シュウ君へと告げた。
「はい! 大体年一くらいでお賃金がたまるので! それはさておき、今回は新天地、カムイグラでのお仕事です!」
 めっちゃ瞳をキラキラさせながら、シュウ君は言う。
 彼の話によれば。京の都より十数里。とある竹林の中に、姑獲鳥と呼ばれる妖が存在するのだという。
 人の女性の姿と鳥の翼――ちょうど飛行種(スカイウェザー)のような姿を持つその妖は、強烈なバブみ=母性を感じさせる能力をもち、近づいたものを強制的にオギャらせ=あまやかせ、子供はそのまま自分の子供にし、大人は適当に甘やかせた後精気を吸い取って殺すのだという。
「で?」
 心底嫌そうな顔で、水をストローですするレライム。で? とは聞いたものの、大体内容の予測はついている。
「いや、僕も最近鍛えたので、一対一ならバブみを感じてオギャっても対処はできます……しかし、姑獲鳥もたくさん生息しているわけですから、多勢に無勢オギャ……そこで、皆さんには、僕がバブみを感じてオギャっている最中に、周囲の姑獲鳥を排除してほしいのです!」
 詰まる所――いつもの護衛のお仕事である。
「皆さんにも悪い話じゃないと思いますよ! 皆さん、お金と経験値がもらえた上にバブみを感じてオギャれるわけですから! こんなにいい話はありませんッて!」
 死んだ魚みたいな目で、レライムはシュウ君を見た。しばらく見つめて――ため息をついた後、今度は君たちへと視線を移した。
「お仕事だよ。護衛の」
 それ以上は言わなくても理解してしまったよね? そう言う意思を視線にのせて、レライムはため息をついた――。

GMコメント

 お世話になっております。オギャア落雲です。
 バブみを感じてオギャリに行きましょう。

●成功条件
 5分間の間、周囲の姑獲鳥を狩り続ける。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●Danger!
 当シナリオには、キャラクターが敵や味方に無差別にバブみを感じてオギャる行動をとる可能性があり、パンドラ残量に拠らない社会的な死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●状況
 いわゆる人外娘大好きなシュウ君。彼の目的は、豊穣、カムイグラに存在する妖、姑獲鳥です。
 近寄る人間に、「バブみを感じてオギャるビーム」を放つ姑獲鳥。このビームにあたった人間は、まぁとにかく姑獲鳥本人や、周囲の人間に対してバブみを感じてオギャってしまいます。
 シュウ君は、この「バブみを感じてオギャるビーム」を受けて、満足するまで姑獲鳥にバブみを感じてオギャリたいわけです。
 皆さんは、シュウ君が満足するまでの五分の間、近寄ってくる姑獲鳥を掃討してください。
 作戦決行時刻は昼。周囲は竹林になっており、空から飛来する姑獲鳥は少し見えづらいかもしれません。

●エネミーデータ
 姑獲鳥 ×不明
 カムイグラの竹林に住む姑獲鳥(うぶめ・コカクチョウ)と呼ばれる妖です。
 飛行種(スカイウェザー)のような外見をしており、旅人から奪ったナマクラ刀などを、器用に振り回します。
 特筆すべきは『バブみを感じてオギャるビーム』。この攻撃を受けてしまった人物は、姑獲鳥自身や、周囲の仲間達にバブみ=強烈な母性を感じてしまい、オギャる=心底から甘える行動をとってしまいます。
 『体制不利』と『恍惚』がセットになったような状態です。BS回復スキルや、最悪ぶん殴れば正気に戻ります。

●味方NPC
 シュウ君 ×1
 護衛対象。と言っても、今回は適当に満足したら自力で帰って来るので、そんなに気にするほどの事ではありません。死なない程度に、たまに様子を見る位でいいと思います。
 彼に他の姑獲鳥を寄せ付けないように、周囲の姑獲鳥を掃討するのが皆さんのお仕事です。

 【ぷるぷるぼでぃ】レライム・ミライム・スライマル(p3n000069) ×1
 今回皆さんに同行します。
 物理耐久よりのバランスファイター。ローレット所属のイレギュラーズです。
 攻撃、回復一通り行えますが、すべて皆さんよりは一回り弱くなっています。
 特にご指示等なければ、シュウ君の様子を見てくれ、特に描写などもされません。


 以上となります。
 それでは、皆さんのご参加お待ちしております。

  • バブみを感じてオギャりに行きたい完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年09月30日 22時11分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

巡理 リイン(p3p000831)
円環の導手
コゼット(p3p002755)
ひだまりうさぎ
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
エルシア・クレンオータ(p3p008209)
自然を想う心
只野・黒子(p3p008597)
群鱗
豪徳寺・美鬼帝(p3p008725)
鬼子母神
朔・ニーティア(p3p008867)
言の葉に乗せて

サポートNPC一覧(1人)

レライム・ミライム・スライマル(p3n000069)
ぷるぷるぼでぃ

リプレイ

●いざ背徳の竹林へ
 ざわざわと笹がなる。太く、長くそそり立つ無数の竹は、空までを覆いつくし、その日光を己が物としている。
 些か薄暗く、不気味な雰囲気を覚える竹林である。まぁ、そうだろう。此処は妖、姑獲鳥の巣である竹林だ。細心の注意と警戒を払って進まねばならぬような場所であったから、イレギュラーズ達は事実、そのように進んでいた――一名を除いて。
「わかる。わかるよシュウ君。人間、疲れるとバブみを求めるの。バブみを感じてオギャりたくなる――世間体とか、責任とか、そういう世俗の鎧を脱ぎ去ってただ赤ちゃんに戻りたくなるの。わっかるわー……あー……赤ちゃんになりたい……」
 しみじみと、心から実感を伴ったように呟くのは、『ロリ愛づる姫』朔・ニーティア(p3p008867)である。君十五歳だよね? そんな疲れたおっさんみたいな感慨抱くことある?
「分かってくれますか。そうです、人は時に赤ちゃんにならなければならないのです。世のしがらみとか、重圧、ストレス――すべてから解放してくれるのが、すなわち赤ちゃんになる事。そしてそのオギャリを、受け止めてくれるのはバブみある存在――」
 うんうん、と頷き返すのは、今回のお仕事の依頼人であるシュウ君である。年齢不詳であるが、まぁそこそこ大人なので、疲れているのは疲れているのかもしれない。だとしても、赤ちゃんになりたい、と言うのは些か突飛に過ぎるかもしれないが。
 今回の依頼は、このシュウ君のお願いにより、バブみを感じてオギャるビームを放つ姑獲鳥の巣に行き、シュウ君がバブみを感じてオギャっている間、護衛するというものだ。
「ウブメって……そんな妖だったかしら。前に討伐したことあるけれど、そんな変なビームは撃ってこなかったと思うけれど……」
 『鬼子母神』豪徳寺・美鬼帝(p3p008725)が言う。そうだろう、普通の姑獲鳥はそんな変なビームは撃たないだろう。だが、豊穣とて混沌の一部。混沌の一部という事は様々な生き物がいるという事であり、いろんな種類の姑獲鳥がいるという事である。だから、変なビームを撃ってくるタイプの姑獲鳥も実在するのである。
「バブみ……お母さんみたいに感じるって事?」
 小首をかしげるのは『ひだまりうさぎ』コゼット(p3p002755)である。純粋な少女にまた一つ要らない知識を植え付けてしまった気もするがさておき。
「あたし、ちっちゃい頃には母親もいなかったし、そう言うのはよくわかんない……そんなにいいものだったら、あたしも一度かんじてみたいな」
 ぴょこ、と耳を伏せながら、コゼットは言う。その言葉に喰いついたのはシュウ君である。
「ほんとですか? そうですね、今回一緒に……となるとちょっとハードル高いですから、いいお店を紹介しますよ! 今度行きましょう! 幻想にあるお店でですね、コハルちゃんってキャストがもう最高にバブみを感じられて」
「ウチ(ローレット)の子を特殊な世界に連れて行かないでくれ……」
 思わず声をあげる『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)である。仲間も想いを同じくするところだろう。一般人からしてみれば、濃い衆の沼に引き釣り込まれるのは勘弁願いたい所だろうし。
「こいつ……終わったらお仕置きね……」
 固い決意を抱く『Ende-r-Kindheit』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)である。冷静に考えてみれば、幾らお金をいただく立場とは言え、やっていることは性癖大爆発の現場の護衛である。性癖で他人に迷惑をかけてはいけない。
「所で……随分と奥に来ましたけれど、そろそろよろしいのではないでしょうか?」
 柔らかに小首をかしげつつ、尋ねるのは『忘却の咎人』エルシア・クレンオータ(p3p008209)である。その言葉通り、竹林のかなり奥まで、イレギュラーズ達は移動していた。すでに周囲から、此方を見定めるような視線を感じる――おそらく。すでにここは、姑獲鳥たちの捕食の領域内なのだろう。イレギュラーズ達の間に、さすがに緊張が走る。此処は敵地だ。のんきに喜んでいるのは、
「いやぁ、良いですね! この獲物として見られるような空気! マジで殺す気のバブみを感じさせてくれるんだろうなぁ!」
 シュウ君位である。
「シュウさん。あなたもくれぐれも、無理をなさらないでくださいね。もしかしたら、死んでも本望……と思っているかもしれませんが、それはいけません」
 エルシアの言葉に、シュウ君はめっちゃいい笑顔で答えた。
「はい! ぼくも、殺されたいけど、死にたいわけではないので!」
 業が深いなこの人、と、エルシアは一瞬思って、こほん、と咳払い。
「それで、この後はどうするのですか?」
「はい! ぼくがちょっと離れて、姑獲鳥の一人に近づきます! そのままバブオギャビームをもらってオギャリますので、その間、念のための護衛と確認をお願いします」
「護衛は、任せて。安全確認は、レライムさんに、見ててもらうから」
 コゼットのその言葉に、普段ぼんやりとしているレライムの表情が目に見えて驚愕に歪んだ。え、自分が見るの? コイツの痴態を? そう言いたげな表情をコゼットに向けたが、すぐに諦めて、絶望の表情で頷き、「まかせて」と、ため息をついた。
「じゃあ行ってきます! 護衛よろしくお願いしますね!」
 意気揚々と竹林へと消えていく、シュウ君。意気消沈と竹林へと消えていく、レライム。三者三様ならぬ二者二様、二つの表情を見せながら。
 やがて、竹林の奥がぱあぁ、と輝くと、すぐにシュウ君の、
「オギャーっ! ママーッ!!!!!」
 歓喜の声が聞こえてきたので、イレギュラーズ達は思わず目を伏せてしまった。
「バブみとかオギャるとか、耳にした事はあるけど……実際目にすると、すごいね……いや、本人は凄い幸せそうなんだけど……なんか……すごいね……」
 『円環の導手』巡理 リイン(p3p000831)覚えた感情を上手く言葉にできない。仕方あるまい、それほど衝撃的だったのだ。
「シュウ君が満足するまで、五分だったよね。短い様で長いから、気を付けて戦わないと」
 リインの言葉に、頷いたのは『群鱗』只野・黒子(p3p008597)である。
「ええ。正直、あの痴態を晒すのは、勘弁願いたいものなのです……」
 思わず眉間に手をやった。想像してしまったが、本当に、これは社会的には死ぬような依頼であったのだ。迂闊にバブオギャビームを食らえば、「バブみを感じてオギャった」とかいう烙印(しょうごう)を押されかねない。恐ろしい依頼である。
 すでに周囲には、姑獲鳥たちの息遣いを感じられる。向こうも久しぶりの獲物と、舌なめずりしている所だろう。
「すでに何匹か、こっちを補足しているな。すぐに飛び出してきそうだぜ」
 世界が言うのへ、コゼットは頷いて、
「リインさん、お手伝い、おねがいします」
 そう言うのへ、「まかせて!」とリインは手にした白い大鎌を、ぐるり、と振るった。そのまま跳躍し、竹を三メートルほどから一気にカット。
「――ていっ」
 倒れ込んできた竹の先端を、コゼットが次々と蹴り飛ばしていく。果たして、イレギュラーズ達の周囲の竹は切り払われ、空がそっくり見えるような状況になった。
「御見事、これで見通しが良くなったな」
 世界が言う。正直、鬱蒼と生い茂る竹林は、姑獲鳥たちからすれば格好の隠れ場所だ。となれば、それを排除することで、此方に有利が傾くというモノ。
 戦う前に、まずは戦場を整える、という訳だ。実際、切り払われた空には、既に幾人かの姑獲鳥が待機していて、突如開けた視界に驚いている。
「では、さっそく仕事を始めるとしましょう」
 黒子の言葉に、イレギュラーズ達は一斉に武器を構え、姑獲鳥たちを迎え撃った――。

●社会的な死
 オギャー! オギャア―! ママ―! ボクね、ここまで歩いてきたんでちゅよー! 褒めて―! きゃっきゃっ!
 地獄のような音声をBGMに、イレギュラーズ達の戦いは始まった。とはいえ、姑獲鳥たちの戦闘能力はさほど高くはない。イレギュラーズ達も、冷静に、かつ五分と言う戦闘時間を考慮した動きを組んで迎撃行動を行っていて、それは危なげのない戦線構築に成功していた。
 終始安定した戦いを見せていたイレギュラーズ達であるが、それでも厄介なのはバブみを感じてオギャるビーム、通称バブビームである。とにかくこの攻撃を受けてしまえば社会的な死。それがここの掟である。無粋なことを承知でシステム的な発言をしてしまえば、単に一時的なBSが付くだけの上に解除も容易なこともあるため、本来であれば食らった所で大した事の無いものなのであるが、如何せんそれに付随する効果がひどすぎた。
 何せ、無差別に、バブみ=強烈な母性を感じてオギャる=甘えてしまう訳である。これが凶悪な効果でなくて何を凶悪と呼ぶべきか――。
「ママ―! 私ね、26年も頑張ったの! 褒めて褒めて!」
「あらあら、あなた15歳じゃなかったかしら。でもいいのよ、我慢しないで。誰かに甘える事は悪い事じゃないわ」
「キャッキャッ」
 朔と美鬼帝の会話である――甘えている方が朔で、あやしている方が美鬼帝である!
「ママー! ママ―!」
「あらあら、何かしら、朔ちゃん」
「よんだだけー! ばぶー!」
「もう、朔ちゃんたら!」
 ある種妙なバカップルのような世界――しかし、そこには確かに無性の愛と、無邪気な愛の交感があった。と言うか、朔は心の底からオギャリを楽しんでいた。もう何も考えていない。
「っあー……ありがと。次はコゼットちゃんに……いや、ミルヴィさんも捨てがたいな……」
 ふと正気に戻された朔が、心底満足した表情で声をあげる。「はい、お疲れ様」と、美鬼帝は笑った。
「いや、戦えよ! って言うか朔さん! あんた何回かワザとバブビーム受けてただろ!」
「当たり前でしょ! 私ここにオギャリに来たんだからね!?」
「いや、戦えよ! それ本末転倒だよ!!!」
「世界……!」
 ばさり、と、世界に何かが覆いかぶさった。慌てて世界がそれを確認してみれば、それは瞳を潤ませたミルヴィの姿だったのだ。
「み、ミルヴィ? まさかお前までバブビームを」
「独りは嫌……」
 潤んだ瞳から、涙が一滴、零れ落ちた。それは悲し気で、しかし外から見れば、心から守ってあげたくなるような、どこか危うさを含んだ愛しさを感じさせる表情だった。
「もうだれもおいていかないで……」
「ミルヴィ、大丈夫、だ、ダイジョブだから」
 わたわたと慌てる世界――ミルヴィは涙を流しながら、でも微笑んだ。
「ふふっ、だーいすき♪」
 そのままぎゅう、と世界を抱きしめる――わかっている、これはバブビームのせいだ。でなければ、ミルヴィがこんな姿を見せることは無いだろう。世界の心の中に、何かが生まれるのを感じた。そうか、これが無償の愛――これが父性か。ミルヴィを世界は強く抱きしめ――。
「いや、君も戦うのですよ」
 黒子のツッコミに、思いっきり正気に戻った。
 バブビームは避けることももちろんできるが、それでもどうしても、何度か当たってしまう。こればっかりはどうしようもない。世界のように感情封印で(システム的な事を言えば、BSを食らってしまうのはともかく)オギャる事自体は回避したりもしているが、それでもオギャリは止められない。
「ば、ばぶー! コゼットママ―!」
 リインがコゼットへと抱き着いた。コゼットはぽふ、と抱き着いていくるリインを拒絶せずに、そのまま柔らかく抱き留めた。
「よしよし」
「うわーん、ママー! 大好きー!」
「よしよし」
 てしてし、と頭を撫でてやる――そのままぺし、とチョップを一撃。はっ、とリインは正気に戻り、
「い、今オギャってましたか」
「オギャってた、よ」
「ぎゃーっ!」
 頭を抱え、座り込むリインである。正直、正気に戻ると滅茶苦茶恥ずかしい。それはそうだろう、恥も外聞もなく、自分の最も柔らかな部分をさらけ出したのだ……とにもかくにも、気恥ずかしさが何よりも勝る。
「わ、忘れて! 忘れて!」
「ん……」
 こくり、とコゼットが頷く――瞬間! 飛来したバブビームが、コゼットの身体を直撃した!
「コゼットさーん!」
 たまらず叫ぶリイン。コゼットはと言えば、どこかとろんとした瞳で、リインを見つめている。目のたまたまいた、そんな少女に感じる母性――それを強烈に高めてしまうのがバブビームだ。これに捕らわれてしまえば、後はオギャるだけである。
「これがバブみ………おぎゃあ」
 こてん、とコゼットは、座り込んでいたリインのひざに、その頭を埋めた。膝枕の格好である。
「ママー、撫でて撫でてー」
「こ、コゼットさん!」
「おぎゃあ、おぎゃあ」
「コゼットさーん!!!!」
 リインはなんか叫んでしまった。
「いけない、これは地獄絵図なのです……」
 黒子が思わず声をあげる。戦線が崩壊するほどではないのであったが、その戦線を維持するための(社会的な)傷が深すぎる。もしかして、ここの姑獲鳥は滅茶苦茶恐ろしい敵なのではないだろうか。人里離れた竹林に住んでいてくれてよかった。これで街内に普通に登場するようであったら目も当てられない。
「お母様――」
 す、と声が上がった。すがるようなその声は、エルシアから発せられたものだ。その眼は、既に目の前をみてはいない。どこか遠く、追憶の彼方を覗いている眼である。
「どうして、反転の誘いを断った私を、赦しては下さらなかったのでしょう? ――どうして、一度は救った私を、殺そうとなさったのでしょう?」
 歌うように、問いかけるように、エルシアは少しずつ、姑獲鳥へと近づいていく。そのまま、姑獲鳥の放漫な胸へと顔を埋めた。
「まずい……!」
 黒子が声をあげる。エルシアは無防備だ。このままでは、手痛い一撃を受ける可能性がある――助けなければ。
「お母様……私はお母様を、今も敬愛し、お慕い申し上げています……ですから」
 紅潮する頬のまま、エルシアはその両手を掲げて――。
「私のために、殺(あまえ)させて下さい……貴女の呪詛(あい)を振り払って命を奪うのが、私のできるせめてもの甘え方なのですから……」
 姑獲鳥の首を、力強く締め上げた。殺す(あまえる)という事が、エルシアの、母への愛の発露であったのなら、彼女にとってオギャるとは――甘えるとは、つまりこういう事なのだ。
 助けなければ――と、黒子は思った。いや、この場合、オギャってるエルシアを助けるのか、死にかけてる姑獲鳥を助けるのか、どっちを助ければいいのだ。わずかな間、黒子は混乱した。

●ママにすべてを
「いやぁ、終わりました! 満足しました! ローレットのみなさん!」
 五分後、滅茶苦茶つやっつやした顔で現れたのシュウ君である。その横には、死んだような顔をしたレライムがいたので、大体どういった痴態が繰り広げられていたのかは、皆にも容易に想像ができた。
「なるほど……では、撤退と行くのですよ」
 まだ息のある姑獲鳥に可能な限りの応急手当てを施し、地面に横にさせていてた黒子が、声をあげた。何も姑獲鳥の命を奪う事もあるまい、彼女らも被害者なのである。今回は本当に。
「了解です! さすがにこっちもへとへとだよ!」
 リインが言う。いくらさほどの強敵でないとはいえ、連戦となるとさすがに疲れが勝る。一行は速やかに安全地帯へと撤退を行う事にした。林を抜けて、入り口へ。竹林の入り口で、一行は一息つく。
「バブみ……恐ろしい、相手だった」
 むむ、とコゼットが言う。少し頬を赤らめているのは、思いっきりオギャってしまったのを、覚えているからだろう。そんな気持ちを察したのは、美鬼帝である。
「大丈夫よ、あれは強制されたことだって、みんなわかってるから。それに、私も甘えて欲しかったんだもの、皆は悪くないわ」
 ママ……。
「お母様……いえ、もう依存することはありません。さようなら……もう一度……」
 エルシアは静かに瞳を閉じて、そう呟いた。その心に折り合いがつくのは、まだなのかもしれない。
「しかし……こういうのはホント、程々にしといたほうがいいと思うぞ?」
 世界が言う。まったくその通りである。正論すぎて、誰も言い返せない。
「でも、ほら、我慢して生きてくより我儘に生きていけ、って誰かが言ってましたし!」
 シュウ君言い返しやがった。
「あー、でもさっきも言ったけど、気持ちわかる……思いっきりオギャるの気持ちよかったし。本音を言えばね、バブオギャさせてくれる姑獲鳥系ロリとかいて欲しかったんだけど! ロリ! よくない!?」
 朔が欲にまみれた声をあげるのへ、シュウ君は頷いた。
「ああ、いいですね! もっと巣に近づいたら、生まれたての姑獲鳥とかいたかもしれませんね! 行きますか!? 巣の中心へ!」
「いいね!」
 ぐっと親指を立てる朔!
「よくないっ!」
 両手を腰に当て、一喝したのはミルヴィである。
「二人ともそこに座んなさいっ! 性癖で迷惑かけるんじゃないよ! このド変態!」
 ぐりぐり、と座りこんだシュウ君を踏みつけるミルヴィである。ヤバいのは、こいつはこのまま新しい性癖に目覚めそうなところであるが。
 かくしてミルヴィのお説教とお仕置きはしばらく続いた――。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがオギャァァッ! ママーッ! またよろしくお願いバブ―!!!

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