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シナリオ詳細

幻の島“虚舟”。或いは、キャプテン・ティブロン、野望の1歩…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●キャプテン・ティブロン
『当方、船長。
 航海士、砲撃手、操舵手、船医、料理番、その他船員(戦闘員)、及び帆船、急募
 ※なお、当方は海賊である。そのため応募者の経歴は不問とする。奮ってご応募されたし』
 
 ある朝、突然港に立った木札にはそんな文句が綴られていた。
 木札の下段には荒い筆致で“キャプテン・ティブロン”と署名があった。
「おい。これぁ、なんだ? どこのどいつだ、こんなふざけた求人出した奴?」
「誰って、書いてるじゃねぇか。キャプテン・ティブロンだよ」
「あん? 誰だそいつ?」
「いや、しらねぇ。しらねぇけど……たぶん、アイツじゃねぇかな?」
 と、言葉を交わす2人の男。
 うち1人が指さし先には、立て札のすぐ後ろに座る背の高い女の姿があった。その傍らにはランスが立てかけられている。
 褐色の肌に、ウルフカットの金の髪。浅く被ったキャプテンハット。
 豊かな胸を隠すのは、黒いビキニの水着であった。その上からキャプテンコートを羽織っている。
 下半身にはパレオを巻いて……否、よく見ればそれはどうやら海賊旗のようだった。
 鋭い三白眼に、口元に覗く無数の牙。首から頬にかけて皮膚には裂け目……鰓裂が見える。
 おそらくは鮫のディープシーなのだろう。
 道行く人々を睨み付けるその様は、なるほど確かにカタギの者ではなさそうだった。

 そして、極めつけは……。
「あれ、あの女の後ろにいるのは、ありゃぁ」
「……鮫だな。3メートルはあるぞ」
 腕を組んで係船柱に座るティブロンのすぐ後ろ。
 海から出した上体を波止場の地面に投げ出した、1匹の鮫が上機嫌にヒレをバタバタさせている。
「……おい、どうするよ?」
「どうするって、俺ら漁師だぞ? 何でわざわざ海賊になんぞならなきゃなんねぇんだよ」
「だな。おまけに船もねぇと来た。関わらない方が良さそうだ」
 なんて、囁くように言葉を交わし2人は急ぎその場を去った。

 夕暮れ。
 赤に染まる海を背にしたティブロンは、ふぅと重いため息を1つ。
「アーロよ。なぜ、誰も来ないのだと思う?」
「シャァ?」
「……さぁ? と言ったのか? 生憎私は鮫の言葉が分からない。聞いておいてあれだが、その……すまない」 
 ついでに言うなら、実はこの女海賊、生まれつき泳げないでいる。
 彼女が海を行く時は、いつだって相棒、アーロの背に乗っているのはそのためだった。
 言葉は通じなくとも、なんとなく意思の疎通は出来て、ついでに気の合う1人と1匹なのである。
「まったく。どうしたものかな、アーロ。帆船募集は取り下げるか?」
 帆船募集と書いたけれど、実のところ彼女は一隻、キャラベル船を所有していた。
 もっともそれは、半ば壊れかけの船であり、本来なら3本あるマストもうち1本が折れて失われている有様なのだが。
 キャラベルは、小型の帆船であり操舵性も高い優秀な船だ。
 けれど、壊れかけでは今後の冒険に支障を来すし不安も大きい。ゆえの帆船募集であった。
「とはいえ、どちらにせよ私たちだけじゃ出航できないものな。困った、どうする? このままだと、みすみす目の前で“お宝”をかっ攫われてしまうぞ?」
 なんて、言って。
 ティブロンは再度、重いため息を零すのだった。

●幻の島“虚舟”
「というわけで、みんなにはティブロンと一緒に海に出かけてほしいのです」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)はイレギュラーズを見回し告げる。
「ちなみに依頼人は港の住人たちなのです」
 ティブロンは、この港で何か悪さをしたわけでもない。
 見た目は怖いし、海賊を名乗ってはいるものの話してみれば人好きのする快活な性格であるという。
 その上、数日もの間、あぁして応募者を募っている彼女の姿に港の住人たちはすっかり同情的になってしまったのだった。
 ティブロンの排除ではなく“ティブロンへの協力”を頼むあたり、なかなか高いカリスマを有していることが見受けられる。
 依頼の経緯を軽く話した は、ティブロンの言う“お宝”についての話を始めた。
「その“お宝”は、数十年に1度現れる奇妙な島にあるらしいです。その島の名は“虚船”。なんでも近隣の海賊たちの間には、その島の出現予想日と位置の書かれた地図が伝わっているのだとか」
 その地図を手に入れたティブロンは、まさしくこれぞ運命と、血気はやって海賊団になることに決めたのだという。
 “虚船”のお宝を手に入れることで、海賊としての旗を掲げるつもりらしい。
「島が現れるのは夜明けと同時。今回はティブロンのほかに3組の海賊がお宝を狙ってやってくるのです」
 厳密に言うと、現在のティブロンは“自称”海賊ではあるが。
 彼女は船を持っているが、操船技術もなければ海図も読めないため、これまで1度も航海に出たことがないのである。
 もっぱら船は彼女の寝床として使われている。
「ティブロンの船に付いている武装は船首の大砲1問のみ。ちなみにティブロンが戦った方が強いのです」
 彼女は泳げはしないけれど、水中で呼吸は可能である。
 その特性を活かし、アーロの背にまたがり、水中からランスを構えて突撃を行うという戦法を取る。
「他の海賊たちですけど、巨大ガレオン船が1隻、パドル船が1隻、小型のジャンク船が3隻来ているのです」
 ガレオン船、パドル船にはには多数の大砲が積載されているという。
 また、ジャンク船には大砲が積まれていないが乗員たちが火矢を携えることで武装を補っているそうだ。
 大砲が直撃すれば【ブレイク】が、火矢に当たれば【火炎】を付与されることになる。
 それらと競合しながら、虚船にある“お宝”とやらを手に入れることが今回の目的となる。
「虚船は直径100メートルほどの円形の島なのです。とくに障害物などもなく、その中央にお宝が眠っているのです」
 まずは島にたどり着くこと。
 そして、島の中央へティブロンを送り込むこと。
「虚船が現れる時間はほんの数分ほどだと言うので、あまり時間に余裕はないのです」
 急ぐのです! と、そう言って。
 ユリーカは仲間たちを送り出す。

GMコメント

●ミッション
ティブロンに協力し“お宝”を手に入れる。


●ターゲット
・虚船
数十年に1度、数分だけ近海に現れる不思議な島。
普段は深海に沈んだ状態で移動し続けているらしい。
直径100メートルほど。中央に“お宝”が眠ると言われているが、あくまで伝説であるため詳細不明。
近隣の海賊たちの間には出現周期や場所の記載された海図が伝わっている模様。


・ガレオン船×1
巨大なガレオン船。
速度は遅いが頑丈。多くの乗員と砲台を備える。
砲弾に当たると大ダメージ、ブレイク


・パドル船×1
左右に外輪を備えた船。機関は蒸気。
艦尾にある広いスペースに、大型の移動式大砲を複数積載している。
砲弾に当たると大ダメージ、ブレイク

・ジャンク船×3
小型の木造帆船。走力に優れる。
大砲は装備していないが、各船に5名ずつ火矢を携えた狙撃兵が搭乗している。
3隻とも同一の海賊団であるようだ。
火矢に当たると小ダメージ、火炎

●チームメイト
・ティブロン(ディープシー)×1
長身の女性。鮫のディープシー。
褐色の肌に、ウルフカットの金の髪。
水着の上からキャプテンハットやキャプテンコートを纏っている。
武器は騎士が持つような巨大なランス。
生まれつき泳ぐのが苦手なため、相棒の鮫“アーロ”に騎乗し水中を駆ける。


ティブロン・ラ・ランザ:物中貫に大ダメージ、ショック
 アーロの推進力とランスの破壊力、ティブロンの実行力を1つにした突撃。


・オンボロキャラベル船×1
ティブロンの所有するキャラベル船。
3本あるマストのうち1本は折れて使用不能。
大砲は船首に1門のみ設置。
相応の技術があれば、ある程度は修理できるかもしれない……。


●フィールド
海上。
オンボロキャラベル船上や虚船上がメインとなる。
泳げたり、別途手段を持つ場合は別。
また、接近できれば敵船に乗り込むことも可能。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 幻の島“虚舟”。或いは、キャプテン・ティブロン、野望の1歩…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年09月21日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)
騎兵隊一番翼
十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)
希うアザラシ
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
ガヴィ コレット(p3p006928)
旋律が覚えてる
ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)
生イカが好き
ドゥー・ウーヤー(p3p007913)
海を越えて

リプレイ

●ティブロン船長の船出
 暗夜の海に白波立てて、帆船『紅鷹丸』が海を行く。
舵を握るは鷹の飛行種『風読禽』カイト・シャルラハ(p3p000684)。彼の隣では褐色肌の海種、ティブロンが豊かな胸の前で腕を組み満足そうな顔をしていた。
「うむ。いいな! 速度も上々、船員たちの士気も高く、そして風向きも良し! ……いいのだよな? 海図が読めないから方向があっているかどうか分からないんだ」
「問題ねぇよ、心配すんなって! 風を味方に最速で行くぜ。風読禽の本気を見せてやらァ!」
「そうか。ならば良いのだ! いやはや、良い船員が見つかったな!」
 はははは! と夜の闇にティブロンの明るい笑い声が響く。

「しかし……島とは言うが動く島とはこれ如何に」
マストの上から海を見渡し『竜の力を求めて』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)は訝し気に顎を撫でる。出航前に港の漁師たちから聞いた話からは虚船の詳細な情報は得られなかったのだ。
 海賊たちの間にだけ伝わる海図にのみ、その存在が記されているというのは本当のことなのだろう。
「なんだか物語みたいな話だね。夢があって素敵だと思う」
潮風に踊る髪を抑えて『鏡の誓い』ドゥー・ウーヤー(p3p007913)はそう告げた。その口元には、隠し切れない喜悦の笑みが浮いている。
 さもありなん。伝説の島など、実にありがちな……そして何より胸躍らせる海洋浪漫の一角なのだ。
 
 一方そのころ、甲板の隅。
「ティブロンさんのような方には真っ当な道を選んで頂きたいですね。あなたもそう思いませんか?」
傍らに寝そべる鮫の頭を撫でながら『旋律が覚えてる』ガヴィ コレット(p3p006928)はそう問うた。ちなみに彼女、ティブロンからは『楽士』の役割を与えられていた。果たしてその職が航海に必要か否かは置いておくとして、ティブロン曰く「歌うのだ、海賊は! 荒波辛苦を乗り越えるため、どこまでも陽気に!」とのことである。
そんな彼女に頭を撫でられ、ティブロンの相棒である鮫“アーロ”は上機嫌に尾で甲板を叩いていた。
「でも、この手の財宝探索って誇張された話も多いから……」
ガヴィとアーロのやり取りを聞き『「Concordia」船長』ルチア・アフラニア(p3p006865)は僅かに顔を曇らせる。上手く事が進めば良いとはもちろん思うが、それにしたって懸念は尽きない。それが宝探しというものだ、と神話の時代から相場が決まったものである。
「ところで……鮫ってずっと陸に上がってていいものだっけ?」
 なんて、ルチアの問いにアーロは「シャァ?」と首を傾げた。
 おそらく「さぁ?」とそう言ったのだ。

 出航から数時間。
 東の空がほんの僅かに白み始めた頃のこと。
「そろそろ着くぞ! それに……敵船だ!」
 舵を握ったカイトが叫ぶ。
 その声にいち早く反応したのは『希うアザラシ』レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)だった。犬獣人“グリュック”に抱えられたアザラシといった容姿だが、歴とした混沌戦士の1員である。
「レーさんがマスコット系主砲を担うっきゅ!」
 その宣言と同時にレーゲンを抱えたグリュックが駆ける。
「うん。そのようだ。ガレオン船だな、あれは」
「でかい船だな。正直あの瀕死のキャラベル船じゃ相手どれる気はしねぇんで、カイトが船を出してくれて助かったぜ」
 ティブロンに並びガレオン船を眺めつつ、『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)は紫煙を燻らせそう告げた。ティブロンは目つきを鋭くし、縁をじろりと睨みつける。
「なんだ? 私の“グレート・オーシャン・ティブロン号”はそんなにダメか?」
「いや、アレで海戦をやる勇気はちっとねぇっつーか……そんな大仰な名前付いてたのかよ」
 と苦笑いを浮かべつつ縁は腰に刷いた刀へ手を伸ばす。
「のんびりはしてらんねーな! せんちょー! ここはアザラシ特急便の出番だぜ!」
巨砲を背負ったアザラシ『ガトリングだぜ!』ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)がティブロンを呼びに来たことで“グレート・オーシャン・ティブロン号”の安全性についての話題は、有耶無耶に終わることになり……。
 ズドン、と空気を震わす轟音が響く。
 ガレオン船の先生攻撃により、否応なしに開戦となった。

●帆に掲げしは髑髏の雄姿
 マストの上で杖を構えるドゥーは素早く、海の向こうへ視線を向けた。
 初めに見つけたガレオン船とは反対側に、交戦中のパドル船とジャンク船が現れたのだ。
「海図を読んだり船を操舵してもらうのは皆に任せて……」
 不可視の魔力に悪意を乗せて、ドゥーは静かに集中力を高めていく。彼の行使するスキルであれば場合によっては弓や砲の射程外からでも攻撃を加えられるだろう。
「撃つならまずはジャンク船かな……とにかく敵の数を減らしたい」

 ドゥーの放った悪意の波動は、ジャンク船の乗組員を1人海へと撃ち落とす。
 攻撃を放ったドゥーの姿を、どうやら捉えられていないらしくジャンク船の船員たちは混乱の最中にあるようだ。
 その隙をつき、パドル船の放った砲がジャンク船を1隻沈めた。
 もっとも、撃破されたジャンク船も大したもので沈む直前に放った火矢がパドル船の帆に火を着ける。
「おぉ、帆が燃えてるな……後は外輪を破損させればそれで充分、走行不能に追い込めるか」
 それを見ていたレイヴンは、甲板の上で大弓を構えた。番えた矢に充填された魔力の波動が、レイヴンの髪を激しくなびかせる。
 そんなレイヴンの隣にレーゲンとグリュックが並んだ。
 グリュックに抱えられたレーゲンは、自身の頭上にヒレを掲げて不敵に笑う。ヒレの間に集まる魔力と、周囲を渦巻く極寒の風。
「足止めっきゅね? なら、レーさんも手伝うっきゅ!」
「それは頼りになるな。さて……まずはどれだけ落とせるか」
「発射っきゅ!」

 魔力を纏ったレイヴンの矢と、レーゲンの放つ圧縮された冷気の弾がパドル船へと撃ち込まれた。レーゲンの魔弾がパドル船の外輪を凍結させる。
 外輪を凍らされ慌てふためく海賊たちの視線の先で、海面に明らかな異変が起こる。
海中へと撃ち込まれたレイヴンの矢を中心に魔法陣が浮かんだのだ。
「な、なんだこりゃ?」
「海流が変だぞ? 何か浮いてくる!!」
 慌てるばかりの海賊たち。何しろ外輪が凍り付いている以上、パドル船は満足に動くことができないのだ。
 そして、パドル船の前に現れたのは8つ首の巨大な海蛇である。
「リヴァイアサンとはいかないが、その子船では十分な脅威だろう!」
 海蛇の吐いた水弾が、パドル船の外輪と船体に大きな穴を穿った。

 紅鷹丸が激しく揺れる。ガレオン船から撃ち込まれた砲弾が、船体近くに着弾したのだ。
 その衝撃で、掲げた髑髏の旗が靡いた。マストに乗っていたドゥーと、小柄なグリュックの体が衝撃で宙へと投げ出される。
「う……ぐっ!」
「きゅっ!!」
 甲板に叩きつけられた2人が悲鳴を上げる。2人を救護するためにルチアが駆けた。
「カイトさんは回避優先! ガレオン船を引き付けましょう!」
 カイトへ指示を投げながら、ルチアは素早く指揮杖を宙に走らせた。旋律を刻む杖の動きに導かれ、淡い魔力の燐光がふわりひらりと漂った。
 それはゆっくり、静かにドゥーとレーゲンの元へ降り注ぐ。
「ふぅ……まだまだ海戦は続きますからね。ここで戦力を失うわけには」
 と、ルチアがそう呟いた、次の瞬間。
 トス、と軽い音。
「……え」
 遠方から放たれた矢が、ルチアの腹部に突き刺さる。口から零れる赤い血が、甲板に赤い染みを作った。
 視線をあげたルチアの視界に移ったそれは、こちらへ迫る2隻のジャンク船である。
 レイヴンの喚んだハイドロイドを振り払い、どうやら2隻は次の獲物を紅鷹丸と定めたらしい。
 
「ちっ、小型船は振り切れねぇか……だが、火矢程度で沈むほどにヤワな船じゃねぇぞ!」
 撃ち込まれた火矢は多数。甲板のあちこちで起こる小火騒ぎには、ルチアとドゥーが対応中だ。
 いつの間にか追ってきていたジャンク船は1隻進路を変えている。どうやら紅鷹丸とガレオン船を無視して虚船の出現地点へ向かったらしい。
「ヨーソロー! ってな! ティブロン船長の処女航海にケチ付けさせてたまるかっての!」
 舵を回して船首を曲げる。
 ガレオン船から撃ち込まれた砲弾を回避し、船体を斜めにしたまま紅鷹丸は加速した。
 広げた翼で風を受け、吹く突風を正しく感知したのだ。船乗りとして身に着けた操舵技術も併せれば、カイト相手に海戦で比肩し得る者はそう多くはないだろう。
 けれど、船の性能……とくに武装面での不利はそう簡単に覆せるものではない。
 次々と撃ち込まれる砲弾をすべて回避することはできない。
「この船は……やらせないっ!」
 帆へ向け撃たれた砲弾は、ルチアがその身を盾に防いだ。火炎に包まれ、甲板を転がるルチアの元へジャンク船から撃たれた火矢が降り注ぐ。
「ルチアっ!?」
「だ、大丈夫よ……それより、操舵を!」
 飛び立とうとしたカイトを制し、ルチアはよろりと立ち上がる。甲板を焼く火矢を素手で掴んで消火し自身の傷を癒しにかかる。

 紅鷹丸が激しく揺れて、誰かが海に投げ出された。
 否、彼らは投げ出されたのではなく、自らの意思で海へ飛び込んだのだろう。
「この距離にまで近づいたのなら……船を離れて足止めに集中した方がよさそうですね」
「おぅ、同感だな」
 示し合わせたわけでもないが、ガヴィと縁は海を泳いでガレオン船へと近づいていく。
 海中を進む2人の接近に、ガレオン船の船員たちは気が付かない。
「こういう時は海種で良かったと思いますね。水中でも問題なく動けますから」
 と、そう呟いて。
 水底からガレオン船の船底を見上げ、ガヴィは静かに歌を紡いだ。
 仄暗い海の底から響く、美しく、そして不吉な歌声。砲撃音の合間に聞こえるその歌声が海賊たちの耳朶を震わせ魅了する。
 歌声に乗って夜を舞う青い燐光を視認した時にはすでに手遅れ。魅了された数名が、自らの剣で甲板を切りつけたではないか。
 混乱の中、海面から跳び甲板に着地した影が1つ。刀を手にした縁の手により、大砲が1つ、切り捨てられた。
「よぉ、俺は宝とやらには興味ねぇんでな。時間潰しに付き合ってくれや」
 海賊たちの数は多い。多勢に無勢、或いは逆境という言葉がこれほど似合う場面もあるまい。けれど縁は飄々とした態度を崩さず、堂々とした足取りで適地の最中へ踏み込んでいく。
「船底は壊せなかったが、それなら船員を潰せばいいってだけの話だ」
 縁からすれば、この程度の修羅場など慣れ親しんだものなのだ。

 海面を並んで進む鮫とアザラシ。
 その上に乗るティブロンは、ランスを振り上げ上機嫌に高笑う。
「うぁっはははは! 速い、速いなワモンにアーロよ! 爽快だ!」
「おうヨ、せんちょー! このままかっとばしていくぜー!」
「シャッ!」
 虚船の出現地点へ向かうティブロンたちへ向け、次々と火矢が撃ち込まれるがワモンとアーロは巧みにそれを回避する。
「どうするせんちょー! このままだと虚船まで着いてくるぜー?」
「そうだな。では船員ワモンよ、ここらで後顧の憂いを断つとしようじゃないか!」
 視線を交わし、数瞬後。
 ティブロンはアーロに跨り、海中へ潜る。
 一方ワモンは、その場でくるりと急展開し背負った砲をジャンク船へと差し向けた。
「こっから先にゃあいかせねーぜ! うなれ、オイラのガトリング!」
 左右に首を振りながらワモンはガトリングを乱射。
 降り注ぐ火球の礫が火矢を宙で打ち砕く。
 ジャンク船には無数の穴が穿たれて、船員たちの1人2人と傷つき倒れた。中には海に飛び込んで、弾から逃れる者もいる。
 けれど、次の瞬間……。
「後悔しろ、そして沈め! キャプテン・ティブロンの一撃を!」
 怒号と共に海を割り、ジャンク船の中央に巨大な穴が穿たれる。
 果たしてそれは海中からアーロに跨り浮上した、ティブロンによる突進だった。
 砕けた木っ端が宙に舞う。
 東の空から登る朝日に照らされ宙を舞う、ティブロンの雄姿をワモンは確かにその両の目に焼き付けた。
 
●宝を得るは海賊の誉れ
 海が割れ、高波と共にそれは姿を現した。亀の甲羅にも似たそれは、どうやら人工物のようにも見える。
「ふ、ふふ。本当に島が浮かんできたわ……この目で見ても、信じられない」
 腹部に刺さった矢を引き抜いて、ルチアはゆっくり身を起こす。口から零れた血を拭い【パンドラ】を消費彼女は立った。
 ティブロンがその手で宝を手にする瞬間を、目にするためにはここで倒れるわけにはいかない。

 走るティブロンを見送って、ワモンは視線を海へと向けた。
 海から上がるジャンク船の船員たちに、後を追わせないためだ。どうやらジャンク船が転覆した後、泳いで追い付いてきたらしい。
「せんちょー! ここはオイラが食い止めるぜ! あんたは宝を手に入れるんだー!」
「あぁ、任せろ! 宝を手にして、宴を開くぞ!」
「楽しみにしてるぜー!」
 そう応えつつ、ワモンの背負った砲塔がゆっくりと回転を開始した。
 直後、火薬の爆ぜる轟音。
熱い弾雨が海賊たちに降り注ぐ。

 紅鷹丸の甲板に、腰を下ろしたレイヴンは視線を遠くへ向けている。
「さて、お宝一番乗り……と、行くかな?」
 視線の先には虚船、そして沈みゆくガレオン船がある。縁やガヴィの対応に、船員たちが注力している隙をつき、ハイドロイドをけし掛けたのだ。
「っと……戻ってきたか。息災なようで何よりだ」
 レイヴンの見やる先には、ガヴィに肩を支えられながらこちらへ泳いでくる縁の姿。海水に洗い流されてはいるが、縁は無数に切傷や銃創を負っているようだ。
「まぁ、生きちゃいるわな……それより、嬢ちゃんの方はどうなんだ?  文字通り“乗りかかった船”ってやつだ。手伝いがいるってんなら、最後まで付き合ってやるが」
 レイヴンの下ろした縄梯子を伝い、縁とガヴィが甲板へ上がる。
「どうやら、私たちが虚船に乗り込む必要はなさそうですが……」
 と、虚船の様子を見つつガヴィが言った。
「もし運ぶのに人手が必要なら手伝った方がいいかな?」
 残敵の有無を確認していたドゥーが呟く。
 ちら、とその視線がレーゲンへと向いた。もっとも、彼の場合は前髪に隠れて、目元は確認できないのだが……。
 ドゥーの視線を受けたレーゲンは、薄く目を閉じ考える。レーゲンを抱えたグリュックも同じ動作をしているのはどういうわけか……。
「運ぶのに人手はいらなさそうっきゅ。でも、虚船がそろそろ沈みそうっきゅ!」
 虚船が現れて、どれほど時間が経っただろうか。
 なるほど確かに、よくよく見れば島のサイズが先ほどまでより一回りほど小さくなっているようにも見える。
「よぉ? 嬢ちゃんは泳げねぇんじゃなかったか?」
「そのはずっきゅ! でも、今から行って間にあうっきゅ?」
 縁とレーゲンは顔を見合わせ言葉を交わす。ガヴィやドゥーは不安そうな表情で、船と島とを交互に見ていた。
「それなら、飛んで助けに行くべきでは?」
 と、そう告げたのはルチアだ。
「そういうことなら、俺の出番か?  いいぜ、子供の頃から宝探しは憧れてたしな!」
「ワモンも回収しないとな。ワタシも行こう」
 翼を広げ、カイトとレイヴンが飛び立った。

 沈みゆく島を中心に、海流が渦を巻いている。海流に流されないよう、必死で地面にしがみつきワモンとアーロは吠えていた。
 2匹の見つめるその先には、宝箱を抱えて駆けるティブロンがいた。
 褐色の肌に汗を浮かべ、金の髪を振り乱しティブロンは走る、走る。
 けれど、しかし、悲しいかなその足取りは運動が苦手な者特有のドタドタとしたものだった。どうやら彼女、泳げないだけでなく走るのも苦手のようである。
「こ、このままじゃ島ごと沈んじまうぜー!?」
「そんなことを言ってもだな! 私は走るのは苦手なんだ! ランスも重いしな!」
 それでも彼女はランスを手放す気はないらしい。
 そうこうしているうちにワモンとアーロは渦に飲まれ……。
「危ないところだったな」
 水底へ引きずり込まれる寸前に、レイヴンによって救われた。

 紅鷹丸の甲板で、一行はティブロンを中心に円を描く。
 正確にはティブロンの抱えた宝箱を中心に、だが。
「ティブロン、手に入れるときこそ一番警戒するんだぞ!」
「船長と呼べ、船長と。だが、まぁそうだな……警戒しつつ開け……警戒? どうやるんだ、それは?」
 うん? と小首をかしげつつ、ティブロンは宝箱の蓋を開いた。
 果たしてそこにあったのは古びた1つのコンパスだ。
 そして、その針の指し示す先はどうやら北ではないらしい。
「ほう? これは、次の目的地が決まったな!」
 と、満足そうに頷いてティブロンは笑う。

「では、世話になったな! 席はあけておくから、気が変わったら是非ともうちに来るがいい!」
 そう言い残し、ティブロンとアーロはオンボロキャラベル“グレート・オーシャン・ティブロン号”に乗り込んだ。
 ゆっくりと海を進むその船影は、遥か水平線へと消えていく。
 彼女が『七つの海の覇者、ティブロン』とそう呼ばれるようになるのは、まだまだ先の話であった。

成否

成功

MVP

カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽

状態異常

十夜 縁(p3p000099)[重傷]
幻蒼海龍

あとがき

お疲れさまでした。
虚船の宝は無事ティブロンの手にわたり、彼女は新たな冒険へと出かけて行きました。
ほんの一時ですが、皆さんは紛れもなく“ティブロン海賊団”の1員でした。
依頼は成功です。

この度はご参加ありがとうございました。
また機会があれば別の依頼でお会いしましょう。

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