PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<幻想蜂起>令嬢の御膝元

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●反乱の狼煙
 幻想国の北部に位置するアーベントロート領は、今、騒がしい事態を抱えていた。
 とある時期を境に頻発していた惨劇や悲劇は、もちろん無視出来ない事件ではあったが、今回はそれの比ではない。
「俺たちはもう、ただ黙って踏み殺されるだけの存在じゃあないぞ!」
 街の広場で声高に叫ぶ男の訴えは、ざわざわとした喧騒の中に響いていく。
「これまで俺たちは、貴族の私利私欲に振り回されてきた……でも、それでいいなんて思ったことは、一度だって無い筈だ!」
 遠巻きに眺めるだけの人々は、その言葉に静かに頷く。
 不平不満は、確かに彼らの胸に蓄積されているものだからだ。
「だったら変えなきゃいけない。俺たちが変わり、行動することで世界を変える」
 それは容易なことでは無い。むしろ、無謀と断ずる事が正しい事だ。
 そんなことは、男も、周りの人間も共通した認識のはず。
 だった。
「……そうだ」
「もう見ない振りなんて出来やしない!」
「このままダラダラと月日と死んでいくくらいなら……」
 憤りに投げ掛けられた小石は波紋となって広がり、賛同の声を得ていく。
「戦え!」
 戦え、戦え、戦え、戦え!
 圧政に腐っていく前に、命を掛けて、戦え!

●厄介なオーダー
「とまあ、無駄死に一直線なわけだ」
 イレギュラーズを集めた『黒猫の』ショウ(p3n000005)は、概要の後をそう締めくくった。
「ここ最近だけでも賑やかだったのに、ここに来てこれとはね。なにかしらの意図を感じずにはいられないよ、全く」
 やれやれだ。
「しかもこの蜂起は、よりによって『暗殺令嬢』の管轄内で起きている」
 レオンが言いくるめたとはいえ、反抗勢力に対して、クライアントであるリーゼロッテのご要望は、基本的に殲滅だ。
 ローレットを介さなければ、あのお茶目な銀髪の美少女は、アーベントロートジョークだ、などとは言わずに、総力を以て皆殺しにするだろう。
「基本的に、ってことは」
「そう。察しの通り、条件付きで譲歩を提案してきた」
「条件……?」
 そうだ、と頷いたショウは、机の上に名簿リストを乗せる。
 記載された名前は、4名。
「この説明の為にはまず、状況を伝えよう。
 そもそも現場であるアーベントロート領の街は、規模として大きいわけではない。蜂起軍だって、数百人住む中の一握りだ」
 精々が20~30の一般市民の群れ。戦う訓練を受けたわけでも無ければ、手に持つ武器は包丁やクワ等の日用品に近い。
「でも、そんなただの市民がよく纏まったな」
「そう、問題はそこで、だからこそ出てくるのがこのリストだ」
 つまり、扇動の主軸になっている人物である。
 彼ら4人が街中で人々の隠された不満を煽り、その気にさせ、武器を取らせたのだ。
「この集団は小さい」
 今は、未だ。
「俺達は、その芽を摘まなければならない」
 後の大量殺戮を防ぐために。
「大のため小を切り捨てる、それが今回の仕事というわけだ」
「……それで、条件って?」
 肝心なのはそこだ。と、イレギュラーズからの質問に頷きを入れたショウは、一息を挟む。
「条件は、殺し方の指定だ」
「殺し方?」
 リーゼロッテは享楽的、かつ、嗜虐的な性格だ。それでいて、彼女自身も優秀なアサシンでもある。
 だからだろう。
「4人を狙うのは、市民に対して演説をしている時を狙う事」
 そして、
「市民の視線や警戒を掻い潜り暗殺を決める。
 もしくは正面から襲撃して市民を振り払い、4人を始末する。
 そんな指定だ」
 要はイレギュラーズ達の手腕を見るということだ。もしかしたら余興程度のつもりなのかもしれない。
 どちらにせよそれは、見せしめの意味合いも強い。観衆の前で主要な人物が落ちれば、少なくともこの蜂起を続けよう等と思う市民はいなくなるだろう。
「彼らが演説をするのは正午過ぎ。人通りが最も多い時間帯の広場で、聖堂の前に立って毎日行われる」
 辺りは話を聞きに来た野次馬と、野次馬を近づけさせないように半円の人によるバリケードを作る蜂起軍。そして、10m程の空白を開けた中心に4人のメンバーが立つ。
 そんな構図だ。
 暗殺を狙うならば野次馬の目、民兵の警戒をクリアし、目標に近づかなければならず。
 正面から行くならば人混みを掻き分け、護衛を殺さないように倒し、目標と戦わなければならない。
「君たちにはまず周囲の状況や建物、人の配置を現地で確認してもらいたい。十分な調査と打ち合わせの上で、計画に臨んでくれ。
 わかっているとは思うが、必要な首は4つだ。それ以上は、無駄な犠牲になる。どんなに威勢が良くても、所詮は素人の集まりだからね」
 そう言葉を締めたショウは、リストと街の地図をイレギュラーズに手渡して、送り出すのだった。

GMコメント


『マスターコメント』
 ユズキです。
 暴動の鎮圧をしましょうか。

●前提
 皆さんは蜂起が起きたアーベントロートの街に潜入できます。
 すぐさま行動を起こすのではなく、現場の状況を1日くらいは観察する猶予がある状況です。
 OPにあるような広場で、そこにあってもおかしくないというモノなら、「こういうのがあるからこう使う」というプレイングは有りです。(荒唐無稽なモノは無いです)
 また、『人だかりの外』から四人のターゲットまでは、超遠の間合いの外だと思ってください。

●依頼達成条件
・4人の人物の、指定方法による殺害。

●目標敵
 1:アルバン
 中年の男性。実質リーダー的立ち位置で、演説のメインは彼。腰に片手剣を下げており、物怖じしない蛮勇の持ち主。
 2:ドミニク
 初老の男性。落ち着いた雰囲気だが、貴族と接した時間が長いせいか、不満が他より多めで荒っぽい性格。かなり逞しい肉体を持つ。
 3:クロヴィス
 まだ成人前の男の子。圧政で親を亡くしており、自暴自棄に近い勢いで参加している。背中には槍を担いで武装している状態。
 4:アメーリエ
 メンバーの紅一点。ローブを着込んだ女性で、被ったフードにより、あまり顔を覗かせる事はない。
 5:民兵
 人だかりを押し止める30人程の市民。各々が適当な武器を持っています。
 6:野次馬
 完全な非戦闘のギャラリー。結構な人だかりです。


●ポイント
 戦闘そのものよりも、その前段階や方法、仕留めた後の行動の方が大事かもしれません。
 暗殺、襲撃、どちらを選んでも、4人さえ仕留めればOKです。
 逆にそれ以上の被害を出すというのは、依頼を受けた意味はあんまり無いかもしれません。
 度肝を抜く様な方法や、奇策を用いると、面白いかもしれません。
 考えて楽しい、そんな依頼になっていればいいと思いますので、自由な発想でどうぞ。

  • <幻想蜂起>令嬢の御膝元完了
  • GM名ユズキ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年05月09日 21時51分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

竜胆・シオン(p3p000103)
木の上の白烏
リュグナー(p3p000614)
虚言の境界
朱 毘 風蘭(p3p002166)
キョンシー仙姑
ガドル・ゴル・ガルドルバ(p3p002241)
本能を生きる漢
ニル=エルサリス(p3p002400)
レオンハルト(p3p004744)
導く剣
アンシア・パンテーラ(p3p004928)
静かなる牙
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に

リプレイ

●異議あり
「今、求められている!」
 青年は、そう声を上げる。
「それは力だ、圧政者を挫く、強い力だ!」
 語る言葉は夢を紡ぎ、乾いた空に響いていく。
「今まで何度諦めた? その度に何度苦汁を舐めた? 悔しさに、憎しみに、無力さに、どれほどの怒りを抱えた!? 仕方がないさと言い訳をして、それで何が残った!」
「なにも」「なにも!」「なにもない!!」
「いいや、いいや。それは違う。俺たちの胸には、ちゃあんと、残っていた。立ち上がるべき、叛逆の心が、残っていたんだ!」
 だから。と。
「だからその心、今一つに束ね、憎き敵を打ち砕く、力にーー!」
「そいつはどうかな」
 しかし、勢いに湧く扇動者達へ、異を唱える声が現れた。
 それは、民衆に紛れた赤い男から発せられたモノだ。燃える様な赤い瞳の、大柄な男だった。
 傍らに青い肌の女性を連れた彼は言う。
「今から、お前達の無謀を証明しよう」

●決行前日
 異様な熱気の広場を、『イツワリの咎人勇者』レオンハルト(p3p004744)は歩いていた。
 進む先にあるのは、人、人、人だ。
 そうして密集した人だかりは一様に、同じ方向に顔を向けてざわめいている。
 その中を、するり、するりと彼は行く。
 広場を一直線に、縦断する様にして歩くレオンハルトの右側から、声が聞こえてくる。緑の目をチラリと向けると、沢山の頭から抜き出る様に、四人の男女が見えた。
 大きな聖堂をバックに、戦意を煽る様な声を、彼らは上げている。
「……そんな士気と勢いだけで、容易く転覆する国じゃないだろうに」
 そう呟きながら、レオンハルトは人混みを掻き分けていく。と、
「おっ、と」
「……ごめん」
「いや、いい」
 ぶつかりそうになりながら、フードを被った影と入れ違う。
 素知らぬ顔で会釈する二人だが、レオンハルトの開けた隙間に滑りこんだフードの人影は、『紅の死神』天之空・ミーナ(p3p005003)だった。
 広場を抜けていく彼とは逆に、彼女は進む。
 小柄な体躯を利用して、不規則で乱雑な人の配置の間を通り抜けていく。そうして行く先は、演説場所から斜めに位置した人だかりの最前列だ。
 そして、ミーナは見る。
 適当な武装に身を包む民兵の後ろにいる、リストにあった標的の四人を、だ。
 演説の真っ最中であるアルバンは、他の三人よりも一歩前に出て、大袈裟な身振りと熱の入った言葉で語りかけている。
 生活への不満、怒り。改善への道を蜂起に絞り、これしかないと訴えかけているのだ。
「……力量差ってのがわかんねえのかなぁ」
 どれだけ勇猛で耳障りの言い台詞を並べたところで、ただの市民と戦闘のプロではお話にならない。そんなことは、誰でも解る話だったはずだ。
 そう思い、ミーナは半円を作る人の並みに沿って、聖堂方面へと歩みを進める。
 彼女が歩きながら見上げたその建造物は、おおよその高さが40mほどの、奥行きが広いタイプのものだ。
 アルバンら蜂起演説者達がいるのは、その聖堂の横手側、入り口からは離れた場所だった。
「聖堂自体には、警備は特にないようだ」
 ミーナが抜けた先。聖堂の壁を背もたれにして、腕を組んで立つアンシア・パンテーラ(p3p004928)がいる。
 同じように並んだミーナに、顔を向けずにそう伝えたアンシアは、視線だけを聖堂の壁に沿わせて上に向けていく。
「落ちたら、死ぬだろうな」
「ああ、屋根から落ちればね」
 ミーナの確認に、アンシアは頷く。イレギュラーズと言えど40mから地面に激突すれば、普通にお陀仏だ。
「けど、外周にある段のとこなら話は別だ」
 そう言って上げた視線の先は、ガラス掃除や点検用として造られた足場がある。地上から、およそ10mといったところだ。
 衆人環視という問題さえクリアすれば、上からの奇襲は可能、と思える。
「しかし、これは……私の認識している暗殺を行う状況ではないぞ……」

 聖堂を用いた策を見つける一方で、『正直な嘘つき者』リュグナー(p3p000614)も現場の観察を行っていた。
 包帯で隠された双眸は、作戦当日に使えそうな物を探している。
「……ふむ」
 演説中の目標と民兵の間、その10m圏内は、見晴らしがいい。普通の方法では外から入る事も、中で待つことも不可能だろう。
 ……それなら。
 と、リュグナーは目標の背後へ目を移す。そこには直ぐ聖堂があり、長い壁となっていた。
「使える、か」
 リュグナーが目をつけたのは、装飾のなされた柱の影だ。等間隔に、複数立つ柱の足元には、乱雑に置かれた木箱やゴミ箱がある。誰も整理しない、誰も気にも止めない置物と化した物達だ。
「この、ガキ!なにちょろちょろしてやがる!」
 目星はついた。と、立ち去ろうとするリュグナーの耳に、罵声が届く。
 見れば、民兵の一人が子供を相手に武器を突き付けている所だった。
「ん……ちょっと、気になってー……」
 間延びした声でそう答えるのは、同じく現場を見に来ていた『木の上の白い烏』竜胆・シオン(p3p000103)だ。
 どうやら目標の四人と接触できないか試していた様で、短気な民兵に連れ出されたようだった。
「邪魔をして、ごめんなさいー……」
「次来たら承知しねぇからなクソガキ」
 上目遣いに謝るシオンに、民兵は見下した態度だ。どこかへ行け、という様に手を振って、言葉を吐き捨てて戻っていく。
「大丈夫かいボク、怪我はしていないかい?」
 と、民兵が完全に消えてから、野次馬をしていた市民の何人かがシオンに声をかけた。一部始終を見て心配になったようで、一様に体を気遣っている。
「全くアイツらと来たら、蜂起軍になった途端威張り散らして……いい迷惑だよ、こんな子供にまでさ」
「それって、みんな迷惑してるんだぬ?」
 ひょっこりと顔を覗かせた ニル=エルサリス(p3p002400)が、思わずという風に呟かれた言葉に疑問を投げ掛けた。
 急に聞こえた声に驚いた様な市民のおばさんは、純朴な出で立ちのニルを見て警戒を解いた様に、身を屈めて「そうなのよ」と肯定の言葉を入れる。
「全く、困ったもんさ。毎日毎日、広場も占領されるし」
 武器を持った事で気を大きくし、賛同者が増えた事で自信をつけ、一種の傲慢さを身につけてしまったらしい。
 皆の場である広場も、無許可で使用しているようだ。
 ……使えるかもしれないお。
 そう思ったのは、ニルだけではなかった。
「その話、俺にも聞かせてもらえるか」
 野次馬を外から見ていた『本能を生きる漢』ガドル・ゴル・ガルドルバ(p3p002241)が、話に加わっていった。

●広場にて
「今から、お前達の無謀を証明しよう」
 と、ガドルがそう言って声を上げるのを、その斜め後ろに控えた『キョンシー仙姑』朱 毘 風蘭(p3p002166)は聞いていた。
 ……気持ち的にワタシ、向こうの味方をしてあげたいところアル。
 だが、この蜂起は失敗が確約された事象。長引けば被害は増すばかりだ。故に、最小限に留める為、彼女はここにいる。
「……ま、しゃーないネ」
 溜め息を一つ。
 吐き出して、吸い込んで、意識を切り替えて、言葉を待つ。
「いいだろうか」
 人差し指を立てたガドルは確認の一息を入れ、返事を待たずに続ける。
「ざっと見たところ、蜂起軍は30数名と予想する。これでは、戦う戦わない以前の問題のはずだ」
「だからこうして、仲間を集めている!今は少ない俺達弱者でも、皆でかかれば打倒することが可能だ!」
 どこから出てくるのだ、その自信は。
 胸を張り、声高に勝利を宣うアルバンの姿は、恐ろしい程の自信に満ちていた。万に一つも、しくじりなど無いと信じているような態度だ。
 だから、言う。
「聞くところ、この街は数百人の人口だそうだな。仮に、全員が武器を取り、蜂起をしたとしよう。どうなると思う?」
 その言葉はアルバン達蜂起軍に向けたと言うより、周りの市民へ告げる様な意思があった。
「……そんなの、領主様の軍に皆殺しされるにきまってるお!」
 だからだろう。野次馬の中から響く、最悪の未来を予想した声は、瞬く間に拡がっていく。
「下手をすれば街が地図から消えるぞ」
 わかるか?
「築いてきた営みも、痕跡も、跡形もなく消えるかもしれない。昨日今日初めて剣を握った者達が、常日頃から戦いに身を置く貴族の兵に挑めば、そうなるかもしれないということだ」
「そんな終わりはごめんだおー!」
 最悪の想像は、しかし、決して妄想ではない。現実味を帯びた予測だ。だから、煽る様な声に、賛同の声もあがっていく。
「しかもコイツら、勝手に広場を占領していい迷惑だお!」
 一つや二つではない。最悪の結末を良しとしない意思が、日頃迷惑を被る不満が、あちらこちらに乱立する。
「っ、おいお前、いい加減にーー」
 その状況は、蜂起軍にとってはマイナスでしかない。
 だから、囲いを形成していた兵がガドルに向かって詰め寄りに行く。
「おっと、おさわりは厳禁ネ」
 人を押し退け手を伸ばしてくる民兵の前に割って入った風蘭は、その手を外へと払う。そして即座に逆の手を、がら空きになった相手の鳩尾に当て、非殺傷性の術式を叩き込んだ。
「貴様……くそっ、取り押さえろ!!」
 元々が血気盛んが集まった連中だ。手を出した以上、起きる暴力は当然と言える。
 だからこそ、備えはできていた。
「マナーのなってない客だお」
 風蘭とは別の防衛として、ニルが行く。
 勇み足で進む兵の足を引っ掻けて転ばせ、続いて来る兵の顔に裏拳を打ち込む。
 そして、起き上がろうとする背中には風蘭の抱えていた棺が落とされた。
「そんな実力で蜂起なんて無駄だと思うんだお?」
「今はおとなしくしてるといいヨ」
「……ちっ、そんな女達になにやってんだお前ら!」
 一連の流れを、情けないとばかりに怒る者が居た。
 アルバン達の傍に控えていた、年頃の若いクロヴィスだ。イライラを隠そうともせず、持っていた槍を両手に構えて人ごみの方へ向かう。
 そうしてアルバン達から離れていくその動きと同時。
 勢いよく飛び出す影があった。

●瞬殺
 レオンハルトとミーナの行動は同時だった。
 クロヴィスが離れ、三人となった好機を逃さないためだ。
 民も、兵も、アルバンら首謀者達も。全員の意識が、ガドル達を発端とする騒ぎに向いている。
 故に、二人は行く。
 およそ10mの距離、アルバンの死角を利用して走った。
 行く。
 気配に気付いたアルバン達ターゲットの、驚愕に変わる表情と視線を受けながら、そこへ一番にたどり着いたのはレオンハルトだった。
 腰の剣を抜き、そのまま一閃させる動きを見せるアルバンを、彼はそのまま利用した。
 中段に振り抜かれる剣を、走る速度をそのままに体を屈ませて避けるレオンハルトは、アルバンの横に並ぶ様にして止まる。
 そして足を払い、数瞬の浮遊を相手に与えた彼は、そのまま服を掴んで投げ飛ばした。
「ーー!」
 そうして、頭を地面に向ける逆さまの体勢で飛ぶアルバンの前には、ミーナがいる。
 左右の手にダガーを握った彼女は、ぶつかるようにしてそれを思い切り突き立てた。
 喉と胸。急所となり得るその箇所へと、深く、深く。
「かっ、ひゅ」
 しかし、即死ではない。地面に落ちてなお残る命は、苦しむようにもがく余韻を残して消えていく。
「……お、主ら……よくもぉおお!!」
 溢れ出た鮮血が水溜まりになっていく。
 それを見たドミニクの激昂が、広場に轟いた。
 ガドルに向いていた注意は、怒りに吠えるドミニクへと向かい、そして、民衆は見る。
「なん」
 今まさに叫んでいたドミニクの顔を、横合いから鷲掴むリュグナーの姿だ。
 そして、
「ぎゃっ」
 ひしゃげる様な悲鳴を上げて、上から落ちてきた者に潰される、アメーリエの姿を、だ。
 フードに隠れた顔から黒毛に包まれたマズルが覗き、マントから出た獣の腕はアメーリエの首筋にめり込んでいる。まさしく獲物を仕留めたと言う様に、頭上からの奇襲を敢行したアンシアは硬直していた。
「きさ、ま……!」
 顔を掴んだ手を引き剥がそうと、ドミニクがもがく。
「無理はするな。もう老い先の短い身だろう?」
 だが、触れられた箇所から徐々に、砕ける様に肌が割れていく。
「!!おい、おまえ……やめろぉ!?」
 気づいたら仲間が死んでいた。そんな状況のクロヴィスが、今、ドミニクを死へと誘うリュグナーへ、叫ぶ。
「己の無謀さの証明だ。その命、少し早めてしまっても、文句は言うな」
 だか、その甲斐は無い。
 引き剥がそうともがいていた腕はダラリと垂れ、脱力して膝を折る体は、リュグナーが手を離した途端に地面に寝転がった。
「あ、あ……」
 その現実に、クロヴィスは理解が出来ない。いや、拒んでいるといってもいい。
 ただ、目の前の存在は敵だ、と。それだけを頭に、
「ああァァアアア!!」
 槍の穂先を前に突き出して、突撃の構えを取った。
 殺す……!
 強い殺意を抱え、自暴自棄の行動を取る。その時だ。
「ーー?」
 彼は、背後から聞こえた音に動きを止めた。
 その音はまるで、風を打つような、そう。羽ばたきの様で。
「……ッ」
 なにかが来る。その予感と共に振り返ったクロヴィスの前へ、抜き身の大太刀を持ったシオンが迫っていた。
 身を隠していた木の枝を踏み台に跳躍し、先頭で立っていた民兵の頭を加速の足場としたシオンは、背中の黒い翼で強く空気を打つ。
「く、来るな、来るな!」
 迎撃するように突き出された槍を、シオンは翼の角度を立て、空気の抵抗を受けることで軌道を上に修正して回避する。
「これが報い……」
 そして、大きく振り上げた太刀を、クロヴィスの脳天から股へ抜ける様に、打ち下ろした。


 殺人の現場となった広場は騒然としていた。
「反乱には、殺す覚悟と、殺される覚悟がいるんだよ……」
 フックを聖堂の屋根にかけ、乗り越えていくアンシアに続きながら、大太刀の血払いをしたシオンは呆然とする民兵へ言って、空へと去る。
 それでも、反抗するべきだ、と言う意思は感じられた。
 だから、
「これ以上の抵抗なんて無駄だぜ。第一、こいつらを倒した私達に、お前達が敵うと思うか?」
「それに、お前達の本来の相手は俺達じゃない。この程度でやられるようなら、暗殺令嬢への反乱なんて成功なんてしない」
 ミーナとレオンハルトが釘を刺す。
 混乱はしているが、現実として受け入れるだけの認識は残っている様で、手にしていた武器は音を立てて地面を転がる。
「これ以上の流血は誰も望まん!さあ、皆、解散だ!」
 蹴られたり、殴られたり、叩かれたりで倒れていた民兵を起こしながら、ガドルは号令を出した。
 役目は果たしたのだ。あとは、領主の仕事だろう、と。
「はーーー。後味良くねぇアル……」
 撤収進む中、風蘭のやさぐれた呟きが、やけに響いていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

ユズキです。
お疲れ様でした。
あっさり成功したように見えて、準備とか不十分だったらもっと苦戦してたはずです。

それではまた、別の依頼で。

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