PandoraPartyProject

シナリオ詳細

虹色は虚しく海を漂う

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ニジムツの乱獲
「ああ、今年も馬鹿な魚の捕り方をしよる……国は彼奴らを取り締まってはくれんのか……」
 海洋の辺境サイーカ島。その沖に集まっている漁船を見て、老漁師は力なく項垂れた。
 漁船は鋼鉄製の巨大なもので、海洋の漁師達が乗る船とは素材も大きさも桁違いである。鋼鉄製の巨大漁船による船団がウィンチで海に入れていた網を引き上げると、その中には虹色に輝く魚が目一杯に入っていた。
 この虹色に輝く魚は、ニジムツと言ってムツとは名が付いているが、実はムツとは種を別にするアカムツに近い。味は高級魚のノドグロとして知られるアカムツに近く、白身でありながら脂ののった味わいは格別である。しかもその見た目からアカムツよりも珍重されており、最近一部の上流階層で人気の出始めた魚だ。
 そして、この船団は産卵のために集まっているニジムツを、底引き網で根こそぎ獲っていた。そればかりか、船に収まりきれないニジムツを、海に投棄していく。網の中でぎゅうぎゅうに圧し潰されたニジムツ達は弱り切っており、海中に潜ることは出来ずただただ海面を漂う。その虹色の輝きは、あまりにも哀しかった。
「このままこんなことをやらせておっては、ニジムツもいなくなってしまうし海の底も滅茶苦茶になってしまう。どうにかならんのか……」
「国が動かないなら、俺達でどうにかするしかないさ。ここは、金を出し合ってローレットに何とかしてもらおう」
「ローレット、か……」
 老漁師の嘆きに、壮年の漁師がギルド・ローレットに頼ることを提案する。そこに海洋の国家事業である『大号令』を成功させた立役者であるイレギュラーズ達が所属していることは、辺境の老人でも知っている。サイーカ島の漁師達は豊かではないが、それでも海を滅茶苦茶にされるわけにはいかないと金を出し合って、ローレットに依頼を出すことにした。
 なおこれは余談ではあるが、海洋の名誉のために言っておくと、海洋は国としてはこの事態を知らない。この辺境の役人達は船団を所有する商人に鼻薬を嗅がされており、サイーカ島の漁師達の訴えは握りつぶされていたのだ。

●沈めよ、海の底深く
「いやぁ、日本にいた時もクロマグロが酷いことになってましたが、まさか無辜なる混沌みたいなファンタジー世界で漁業資源の乱獲問題が発生するなんてねぇ……産卵期の魚を乱獲するとか、本当にアホの極みでしょうに」
『真昼のランタン』羽田羅 勘蔵(p3n000126)が、呆れたようにつぶやく。まさか故郷にいた時に見聞した問題に、混沌で直面することになろうとは流石に思っていなかったのだ。
「えー……さて。依頼内容ですが、サイーカ島で底引き網漁をやってるこの船団を、海の底に沈めて欲しいとのことです」
「え? でもそれ、問題にはならないのか?」
「さすがに、こんなことで問題になんかさせはしませんよ」
 イレギュラーズの一人の問いに、勘蔵は自信たっぷりに応える。事の合法違法はともかく、船団の所有者である商人には役人に鼻薬を嗅がせていると言う弱点がある。それに、かつての『大号令』で勘蔵は海洋の軍人と個人的に関係を持っており、いざとなればその筋で対応するつもりでいた。
「標的はあくまで船ですが、船員がそれを易々とさせてくれるとは思えません。また、護衛が乗り込んでいる可能性もあるでしょう。ですから、先に船員や護衛を殲滅して船を沈めるか、船員や護衛の妨害を耐えて船を沈めるか決めて下さい。
 方針をきっちり決めずに中途半端をやると、結果も中途半端に終わってしまうでしょう。そこの所に気をつけて、一つよろしくお願いします」
 イレギュラーズ達にそう告げると、勘蔵はぺこりと頭を軽く下げて送り出すのだった。

GMコメント

 こんにちは、緑城雄山です。今回は海洋で産卵期のニジムツを乱獲する巨大漁船団の撃沈をお願いします。

●成功条件
 巨大漁船4隻の撃沈

●重要
 このシナリオでは、先に船員や護衛に対応するか、船員や護衛の妨害に耐えて巨大漁船を沈めるかの方針が成否を左右します。
 そこで、プレイングの一行目に【漁船】か【護衛】のいずれに優先して対応するかを記載して下さい。
 パーティー間でこれが別れていれば別れているほど、方針の意思統一が出来ていないと判断され、依頼失敗の確率が上昇します。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●サイーカ島沖合
 陸地を遠く離れた海の上です。水深はかなり深いです。天候は晴れで波は静か。
 仕掛ける時間帯はイレギュラーズ達の自由に任されますが、夜でも灯りを付けているため、夜闇に紛れた奇襲は出来ません。

●巨大漁船 ✕4
 鋼鉄製の漁船です。所有者の商人が、鉄帝や練達の技術をぶち込んで造らせました。
 部位ごとに固有HPを持っていますが、鋼鉄製であるため極めて硬く、基本的に物理攻撃においては鋼鉄以上の硬さの素材の白兵武器を以て物理攻撃力500以上の攻撃を繰り出さない限り無効となります。神秘攻撃においても、神秘攻撃力500以上の攻撃を繰り出さない限り無効となります。ただしこれは船外から船体の破壊を狙う場合であり、船内から攻撃する場合や攻撃の威力を補助するプレイングがある場合はこの条件が緩和される可能性があります。
 また、外から喫水線以下を狙う場合、物理神秘を問わず【火炎】【業炎】【炎獄】が付いていたり、火属性と判断される攻撃については無効となります。そして、【ショック】【痺れ】【感電】が付いていたり、雷属性と判断される攻撃については海中にいる者が巻き込まれる危険があります。

●船員&護衛 ✕?
 巨大漁船に乗り込んでいる船員や護衛達です。遠近ともに対応出来る武装で妨害してくると見られています。船員は雑魚ですが、護衛はそこそこ腕が立ちます。

●商人
 船団を所有する商人です。資金力が高く、その資金の大半を注ぎ込んで巨大漁船団を用意してニジムツを乱獲し、上流階層や富裕層に売りさばいています。巨大漁船団には乗っていません。

 それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

  • 虹色は虚しく海を漂う完了
  • GM名緑城雄山
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年09月23日 22時15分
  • 参加人数10/10人
  • 相談10日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
Lumière Stellaire
杠・修也(p3p000378)
壁を超えよ
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫
ボルカノ=マルゴット(p3p001688)
ぽやぽや竜人
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
メリッカ・ヘクセス(p3p006565)
大空の支配者
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海
クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
海淵の祭司

リプレイ

●乱獲への憤り
 イレギュラーズ達がサイーカ島沖合に来たその日も、ニジムツ漁は行われていた。底引き網には虹色に輝く魚が無数に捕えられており、巨大漁船に載せきれない分は無惨にも打ち捨てられている。網の中でぎゅうぎゅうに圧し潰された魚達は海中に潜れないほどに弱り切っており、虚しく海面にその輝きを曝し続けるだけであった。
「……愚か者共めが!」
 海面を漂い続ける無数のニジムツを目の当たりにした『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)が、憤りに震える。海の守護者たる祭司の立場からも、正義感が強く他者の傷みを解する性格からも、クレマァダはこのようなことは許せないでいた。
「こんな鉄板で不細工に固めた船なぞ、何するものぞ。海で海種を敵に回すことの意味を、とくと知るが良い!」
 事実、この巨大漁船を沈める依頼に参加したクレマァダ以外の海種も、この有様には多少の差はあれど嫌悪は抱いていた。むしろ、この状況が許せないから依頼に参加したと言う面もあるだろう。
 その一人、『静謐の勇医』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)にとって、ニジムツは種は違えども共に海に生きる仲間である。
(魚を獲るのは生きるために已むをえない事なれど……)
 財貨に目を眩ませ、必要以上にニジムツを乱獲し、あまつさえ運びきれない分はその場で投棄する――それは同胞の命の尊厳を侵す事に他ならず、罪は重いとココロは考える。故に、ココロは巨大漁船を沈めた後の乗組員については救助することはせず、海に裁きを任せるとこの時点で決めていた。
(流石にこの状況はやりすぎ、っていう事でもあるのよね。
 厳密に法を適用しても違法ではないってなるような気もするけど。
 私の地元もそうだし、こういう所で海産資源が壊滅すると洒落にならないの知ってるし……)
 『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)も、やはりこの状況には眉を顰めざるを得ない。
 イリスの考えるとおり、巨大漁船の漁は合法違法で言えば、漁獲量の規制が敷かれていない以上は合法なのだ。ただその獲り方は明らかに限度を超しており、このサイーカ島沖合の海産資源を壊滅させかねないほどに至っている。そして、漁業を生業とする小さな島々にとって、海産物が獲れなくなると言うことは生活が困窮に陥ることを意味していた。
「産卵期を狙った底引き網。根こそぎ取り尽くし、船に乗らなければ投棄すると……実に、度し難い!」
「まったくだ。ふざけた真似をしてくれるよ。
 何て言えば良いのだろう、ニジムツのことは単に『食べておいしい虹色の貨幣』か何かとして見てるんだろうね。魚もまた生物だという概念が抜け落ちてるか、或いは敢えて無視しているんだ」
 飛行種である『絶海武闘』ジョージ・キングマン(p3p007332)と『ストームライダー』メリッカ・ヘクセス(p3p006565)も、この漁の有様に憤慨する。ニジムツが生命であると言うことを考えていないというメリッカの指摘に、ジョージは深く頷いた。そうでなければ、こんなに大量に獲った上で、必要ない分を投棄するなど出来るはずが無いのだ。
「ここはひとつ、ちと高い授業料というか罰則を支払わせよう。そんでもって、“反省”してもらおうじゃあないか……」
「そうだな。これだけ巨大な船だ。沈めれば、いい魚礁になる」
 メリッカの言う罰則が巨大漁船であることを、ジョージはすぐに察して賛同する。この巨大漁船が魚礁になれば、魚が乱獲されたこの海が再び豊かになるのに寄与することだろう。
(後先考えない手合であるかー。採れなくなったら次の獲物探しするのであるかな?)
 『ぽやぽや竜人』ボルカノ=マルゴット(p3p001688)は、巨大漁船の漁のやり方に憤慨するよりもむしろ呆れていた。こんな滅茶苦茶な漁をしていては、あっという間にニジムツが獲れなくなるのは目に見えている。もっとも、ボルカノ自身が言うようにここで魚が思うように獲れなくなれば、別の場所で同じ事を繰り返すだけであろう。
(まあ、そういう悪い事は早いうちに終わらせないとであるな!)
 そのためにも巨大漁船を沈めるべく、ボルカノは海中を進む他の仲間の後を追った。
 『戦気昂揚』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)は、海洋王国軍大佐と言う立場もあってか、他のイレギュラーズ達よりは冷静であった。
(……こりゃ、沈めて欲しいなんて依頼も出るはずだ)
 そのエイヴァンの視点からしても、巨大漁船の漁のやり方は常識的に許容される限度を明らかに超えている。サイーカ島の漁師達がこの巨大漁船を沈めて欲しいと依頼してくるのも、無理のない話であった。

 海中を進む七人とは別に、三人のイレギュラーズが空中を飛行しながら巨大漁船へと向かっている。巨大漁船の護衛や船員の目を水中から進む七人から逸らすための陽動を、三人は担っていた。
「女王陛下の海を荒らす奴は、許さない!」
 その一人、『浮草』秋宮・史之(p3p002233)は海洋王国女王イザベラに忠誠を誓っている。そんな史之にとって、辺境とは言えども海洋王国の領海はすべからく女王イザベラの海であり、いくら法で禁じられていないとは言え、その海を荒らす不届き者を許しておけるはずは無かった。無惨に漂う無数のニジムツを目の当たりにして、史之はますますその想いを強くする。
「需要に見合った供給をするのは商人の役割ではあるけど……」
 それでもこれはあんまりではないか、と『空歌う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)は言葉に詰まる。根こそぎ乱獲するこのような漁法が、いいはずがない。需要に応える供給を行うにしても、やりすぎである。これでは、瞬く間にニジムツは獲れなくなってしまうではないか!
(故郷とは違う世界のことだから何とも言えないが……)
 異世界より無辜なる混沌に召喚されてきた『壁を超えよ』杠・修也(p3p000378)は、それ故か一歩引いてこの事態を捉えているようだ。
(海の資源は一人の物でもないだろうし、やりすぎにはちょっとお灸ってやつ据えないとな。
 他の漁師さん達が困ってるし)
 だが、その修也の視点からしても、これは度が過ぎていると言わざるを得ない。少なくとも、他の漁師達を顧みず独り占め同然にしているのは放っておけないところだった。

●空と海より迫りて
「止まれ! 止まらんと撃つぞ!」
 飛来してくる史之、アクセル、修也を視認した巨大漁船側では、護衛と思しき傭兵達がクロスボウを構える。その数は一隻におよそ三名程で、総勢十名強。そのうちの一人が警告を発するが、それで三人が止まるはずもない。
「な、何だこいつらは! ええい、警告は発した! 構わん、撃て、撃てぇ!」
 警告に応じずさらに接近してくる三人に困惑した護衛達は、番えた矢を次々と放つ。だが、修也に射られた矢はひらりひらりと回避され、アクセルに射られた矢は盾となって割って入った史之の打刀『忠節』で次々と叩き落とされた。
「その程度の矢、女王陛下の臣として”絶望の蒼”を超えてきた俺には通じないよ。アクセルさん、修也さん、やって!」
「魚を獲りすぎた上に捨てるなんて、見逃せないよ」
「他人に迷惑をかけるような獲り方は、そこまでだ」
 史之の呼びかけに応じるように、アクセルが甲板上に異形の茨による結界を展開し、護衛や船員の動きを牽制して止める。その隙に修也は魔砲を放ち、砲弾と化した魔力の塊で、先頭にいる巨大漁船の後部の甲板を撃ち抜く。その衝撃に、巨大漁船の船体がぐらりと揺れた。

 巨大漁船の揺れから、空中の三人が仕掛けたことを海中の七人も察した。
「始まったようだな……俺達も行くか」
 海中から最初に仕掛けたのは、ジョージだ。全身で生み出した破壊力を、妖刀を鋳潰したガントレット『イサリビ』を纏った拳に乗せて、船底の一点に叩き付ける。ゴォン! と言う鈍い音と共に、船底の鉄板がぐにゃりと大きく歪んだ。
「そうね。誰もいないうちに、早く穴を開けよう」
 続いて、イリスが己の意志力を破壊力に換えながら、円盾『The Vestigmy』でジョージが歪ませた部分を強く殴りつける。ガスッ! と言う鈍い音と共に、鉄板は内部に向かってさらに大きく凹んでいく。
「おおおおおおっ!」
 さらにエイヴァンが咆哮と共に続き、斧砲『白狂濤』を大きく振りかぶってから船底へと斬りつける。エイヴァンの意志力が乗った斧の刃は、歪んだ鉄板に深々と食い込んで、微かながら細い線のような穴を開けた。
「いい感じであるな……我輩の拳で、拡げるであるよ」
 ボルカノは鉄をも穿つ拳を、エイヴァンが開いた穴を狙って突き立てる。その言葉どおりに、ボルカノの拳はエイヴァンの開けた穴を拳大の大きさまで拡げた。ボルカノが船底から腕を引き抜くと、海水が少しずつ船内に侵入していく。
「ボルカノ君、そこから避けて」
 メリッカは魔砲を放とうと掌に魔力を収束させていく。ボルカノがメリッカの言葉に従って退避したのを確認すると、メリッカは砲弾と化した魔力を放つ。船底の穴は、細身の者であれば通り抜けられそうな程にまで広がった。

「くっ、何だこれは……!」
「海の中にも、何かいやがる!?」
「おい、お前達! 海の中を見てこい! それと、船の底もだ!」
 船底に鉄板を大きく歪ませ、貫くほどの衝撃を受ければ、流石に巨大漁船に乗っている者達も海中で何かあったと気付く。
 こんなところで船が沈んでは、たまったものではない。傭兵の一人が船員達に対し矢継ぎ早に指示を出すと、船員達はそれに従って海中に飛び込んだり、船の中に入ったりしていった。

「うわっ! 浸水しているぞ!」
「くそっ! 何者なんだ貴様ら!」
「貴様ら、神妙に致せい! コン=モスカ司祭長たる我が、裁定を下してくれるわ!!」
 船内に海水が流入し、侵入者がいるのを発見した船員達に対し、クレマァダは深淵に眠る神を言祝ぐ歌を歌う。人の精神では決して理解しえぬその歌は、耳にした船員達の精神を侵し、蝕んでいった。
「……これは、虚しく海を漂うニジムツ達の分!」
 クレマァダの歌に苛まれている船員達に、ココロは海中に帰ることも出来なくなった同胞達の姿を思い出しつつ、神聖なる光を浴びせかける。報復と断罪の光に灼かれた船員達は、バタバタとその場に倒れ伏した。

●一隻も残ることなく
 船底に穴こそすぐに開いたが、巨大漁船一隻が沈むまでには思いの外時間を要することになった。理由の一つは、船体の巨大さである。船体が大きい分、沈むのに必要な浸水の量はそれだけ多くなる。
「水密区画で区切ってあるとは、面倒ね。そこまでじゃない、と思ってたんだけどなぁ……」
 もう一つの理由は、イリスが溜息交じりにつぶやいた水密区画――船体をブロックごとに仕切り、浸水をそのブロック内に留める構造の存在であった。この巨大漁船には鉄帝やら練達やらの技術がふんだんに用いられていたが、おそらくその一つとして採用されたと思われた。
 ただ、イレギュラーズ達にとって幸いだったのは、コスト面を考慮してなのかブロック数は多くないことである。故に、確かに手間がかかって面倒ではあるのだが、船体片側の前部、中部、後部と穴を開けて浸水させていけば、巨大漁船を沈没させるには十分だった。
 一隻を沈めるのに数カ所穴を開けねばならないとなれば、護衛や船員達の攻撃や妨害をより長く受けることになる。だが、それらはイレギュラーズ達にとって大した脅威とはならなかった。
 まず、空中の三人。護衛と船員によるクロスボウは厄介ではあったものの、飛来した矢の大半は史之が『忠節』で払い落とし、その間にアクセルと修也が次々と魔砲を甲板に叩き込み、内部まで穿っていく。放たれた矢の本数が多い故に史之は無傷とは行かなかったものの、時折アクセルが回復に回って史之の傷を癒やしたため、史之の受けているダメージは軽微なものに留まった。
 一方、海中の七人。こちらには海種の船員達が銛を持って向かってきたものの、元々船員達は荒事に向いているというわけではなく、必死になっているとは言えイレギュラーズ達からすれば取るに足りない相手だった。クレマァダが人の精神では受け止められぬ歌を歌い、何人かの足を止める。それで止まらなかった船員はエイヴァンが大半を引き付けた。残る者の攻撃には、イリスが割って入って『The Vestigm』で受け止める。ココロはエイヴァンやイリスが傷ついた時に回復出来るよう備えていたが、そちらの出番はほとんど無く、他の者が消耗した気力を回復していくのが主となった。
 その間に、ジョージとボルカノの拳が、ヘリッカの魔砲が、巨大漁船の船体の一点に集中して次々と浴びせられる。立て続けに響く巨大漁船の船底は次第に凹み、最終的には貫かれ、その部分から船体内部に海水が流入していく。そうして、二隻、三隻と巨大漁船は沈没を避け得ぬ所まで追い込まれた。

「くそっ! こっちに来やがったぞ!」
 史之、アクセル、修也の三人は、既に傾きつつある三隻目の巨大漁船から、最後尾の巨大漁船に移ろうとしていた。最後尾の巨大漁船に乗っている護衛は、それを見て撃ち落とそうとクロスボウを構える。だが、矢を放つことは出来なかった。
「大人しくしていれば、命まで取る気は無い!」
 修也がクロスボウを目標に、術式を発動したからだ。術式は衝撃波となってクロスボウを護衛の手から弾き飛ばし、甲板の上を滑らせていく。
「おのれぇ!」
「させないよ!」
 背中から翼を生やしている飛行種の護衛が、空中のアクセルに斬りかかろうとする。だが、これには史之が割って入り、ギィン! と刃同士がぶつかり合う鋭い音と共に鍔迫り合いに持ち込んで食い止めた。
「この船で、ラストだね」
 史之が盾になっている間に、アクセルは魔砲を甲板に放って、魔力の砲弾を巨大漁船の内部へと貫通させた。ズゥン! と言う衝撃が漁船全体に響き渡る。このままこの船も沈められてしまうのではないかと言う恐怖に、護衛や船員達は顔色を曇らせた。

 海面下では、最後の巨大漁船だけは何とか守り抜こうと、海種の船員のほぼ全員が海中に入ってきていた。その数は既に海中にいる者のうちまだ動ける者と合わせて、二十近く。
「貴様らは無惨に打ち捨てられたニジムツに、何も思わんのか!」
「そうよ! 種こそ違うけど、同じ海に生きる同胞じゃない!」
 クレマァダの一喝と、ココロの叫びに船員達はビクッとして一瞬動きを止める。海種である故か、船員達は船員達で、この漁のやり方に思うところはあるようだ。だが、少しの間の後に、銛を構えてイレギュラーズ達に迫らんとする。
「愚か共どもめ!」
 深淵の神を言祝ぐ歌を、これまで以上に朗々とクレマァダは歌い上げる。その歌声に、何人かの船員がその場で頭を抱えて悶え苦しんだ。さらに近付いてくる船員達を、ココロは憤りを込めて神聖なる光で灼いて、次々と昏倒させていく。
 残る十名ほどのうち、半数がメリッカへ、もう半数がジョージとボルカノへと迫る。だが。
「ははは! そんなへっぴり腰じゃ、この『アドミラルブルー』に傷一つ付けられないぜ」
「ジョージさんやボルカノさんに、手出しはさせないよ」
 エイヴァンがその身に纏った重鎧で、イリスが手にしている円盾で、船員達の銛を次々と受け止めた。数で押し、残る力の全てを振り絞ったにもかかわらず、まともに傷一つ負わせられない。その結果に、船員達は愕然とし、がっくりと肩を落とした。
「……アンタらの漁は、業腹この上ないってもんだ。海の藻屑に変えられたくなければ、大人しくしてろ」
「こんなデタラメな漁は、もうさせないのであるよ!」
 マフィアらしい冷酷さを醸し出して船員達に告げながら、ジョージは腕を真っ直ぐに振り抜き、全身で生み出した破壊力を拳に集中させて叩き付けた。ガンッ! と鈍く大きい音が響き、船底の鉄板をぐにゃりと大きく歪ませる。そこに重ねてボルカノの拳が叩き付けられ、再度の鈍い音と共に、鉄板はさらに内側へと凹まされていく。
 ジョージの威圧的な態度に加え、続けて放たれた二人の拳の威力に、船員達はすっかりと萎縮して銛を手放し、イレギュラーズ達の妨害を諦めた。
「もうすぐこの船も沈むよ。中に残っている人に、逃げるよう促したら?」
 ただ力なく佇む船員達に促しながら、メリッカは掌に魔力を集中させていく。砲弾として放たれた魔力は、既に歪んでいる鉄板に衝突すると深く食い込んで、ますます内側に食い込むように歪んでいった。メリッカの言葉と魔砲の衝撃にハッとした船員達は、慌てて海面へと上っていった。

 こうなると四隻目が沈むのも時間の問題で、やがて巨大漁船は全て海中に没した。沈みゆく巨大漁船から海に逃れた護衛や船員については救出するかしないかでイレギュラーズ達の対応が別れたが、少なくとも積極的に殺めるとした者はいないこと、また、積極的に救出する側しない側、互いに逆の対応をする心情は理解出来るところであったため、揉めることはなかった。
 「海に裁きを任せる」ことにして、救出しなかったのは、ジョージ、クレマァダ、ココロの三人。一方、メリッカ、イリス、ボルカノ、アクセル、修也、エイヴァン、史之の七人は護衛や船員を救出してはエイヴァンが用意していた船に移乗させていたが、特にエイヴァンと史之が救出する側に回ったのは単なる人命救助ではなく、事件の顛末を国に報せるため、巨大漁船について知る者をより多く確保する目的があったからだった。

 目に付く限りの護衛や船員を回収したところで、イレギュラーズ達はこの海域を後にした。もう、こんな滅茶苦茶な漁が繰り返されることのないように願いながら――。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 シナリオへのご参加、ありがとうございました。皆様のおかげで、ニジムツの乱獲を行う巨大漁船は全て海の底へと沈んでいきました。少なくともまたこんな漁を繰り返す者が現れさえしなければ、この海からニジムツがいなくなることはないでしょう。

PAGETOPPAGEBOTTOM